タイトル:超兵器開発・その一マスター:神威七瀬

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/24 15:16

●オープニング本文


「諸君等能力者の登場により我々人類は再度バグアに対抗する力を手にした訳だ」

再生された映像、モニターの向うでくたびれた白衣を身に纏った30代かそこそこの男性が、いかにも不衛生で伸びたいように伸びきった頭髪で覆われた頭を掻きながら言葉を続ける。

「だがそれだけでは駄目だ、現在能力者の数はバグアの勢力に対して少数過ぎると言わざる負えない。戦争と言う物の大局を決するのはやはり数だ。1000分の1と言う狭い門ではいかんのだよ、SESは」

男はそこまで言った段階で一旦息を吐き、傍に置かれていたコーヒーを口に含む。

「だから我々は君達の事をもっと良く知らなければならない。1000分の1と言う門を潜り抜けた、原因は何であったのかと言う事をだ。無論椅子に座っての身体検査だけをすると等という事は無い。運動時のデータ、戦闘時のデータ等も必要だ。運動時のデータに関してはヒマラヤ山脈の方でのクロスカントリー的な物での計測を予定している。戦闘データに関しては、実際にバグア辺りと戦うのが一番だろうが計画性もなく突っ込ませる訳にも行くまい、実戦同様の組み手なり何なりで測らせてもらおう。データが取れなくても困るが君達に死なれては元も子もないからな」

その言葉の後に残っていたコーヒーを飲み干し最後の言葉を紡ぐ。

「これは我々の、人類の勝利の為だ。そしてそのためには諸君等能力者の協力がどうしても必要だ。多くの能力者が私の元に集ってくれる事を願う、以上だ」

その言葉の後に映像は終わり、静寂が訪れるのだった‥‥

●参加者一覧

瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
ダイゴ・イザナミ(ga9016
59歳・♂・SF
結城玖沙久(ga9646
14歳・♀・EP
楓姫(gb0349
16歳・♀・AA
刀魔 桜火(gb0728
23歳・♂・GP

●リプレイ本文

「わざわざ来てもらって済まないな、一応この未来科学研究所印度分室を預かっている、と言う名目でここに飛ばされた天田ゲオルグだ」

 依頼の映像の中で出てきた時よりかは幾分か小奇麗になってはいる、それでもなお無精髭とくたびれた白衣は変わっては居ない、男は自らの境遇を交えた、何とも微妙な挨拶をする。

「宜しくお願いします」

 天田の言葉に対して、礼儀正しく、それで居て何処か近寄りがたい雰囲気を纏わせながら瓜生 巴(ga5119)は挨拶を返す。

「ふむ、此度の一件、後進の為の道を作る思いで当たらせて貰おう」

 帽子を正しながら言葉を紡ぐのはダイゴ・イザナミ(ga9016)である。

「私もしっかり頑張らせていただきます」

 可愛らしい声を声を上げて挨拶をするのは結城玖沙久(ga9646)。

「HO、此処までは異常なしってな、まぁ本番はこっからだもんな」

 指を鳴らしながらご機嫌、と言った感じなのは刀魔 桜火(gb0728)である。

「今から検査‥‥という事で良いんでしょうか?」

 そして冷静に先を促すのは楓姫(gb0349)である。

「あぁ、そうしてもらう。我々も、そして君達も忙しい身だ。時間をかけ過ぎるのは互いの為にはならんからな。取敢えずは適当に奥にある検査室に行ってくれ」

 天田はそう言って奥の部屋に行く様に促し、自身もまたそのまま奥に引っ込んで行こうとする。

「男女別、という事で構いませぬな」

 その後姿に対してダイゴはそう声を掛ける。

「検査中に何らかの敵対勢力のアクションが起きないとも限りませんし、片方が見張りに付くという事で宜しいでしょう?」

 ダイゴの言葉に補足をするのは巴。振り返った天田は一瞬考える様な素振りを見せるが直ぐに答えを出したのか口を開く。

「プロである君達がそう言うのならそれで良いと思うぞ。我々は防衛に関しては最低限必要そうな物だけしかないからな。寧ろ歓迎する、と言っておこう」

 それを告げるとそのまま奥に引っ込む。

「ならば予定通りに先に我輩達が哨戒に付こう」
「OK、ならばさっさと行こうか」

 ダイゴと桜火は一旦顔を見合わせた後、力強く頷き、そのまま外への道を歩き出す。

「じゃぁ、私達も行きましょうか」
「そうですね」

 玖沙久と楓姫も互いに向き合って頷きあい天田が歩いて行った方向に歩いて行く。
 その後姿に少し遅れて付いていく巴は一人、静かであった。

***

 検査は採血やCTスキャン、それと幾つかの薬品を使った反応検査であった。
 体中に事故の傷痕がある玖沙久に配慮したのか、あまり地肌を露出する様な事はなかったが、天田自身の行動や発言を加味すると、単純にたまたまそうなっただけの様だ。

「ちょっと痛かったですね」

 採血の際に針を刺した辺りを見ながら、玖沙久は呟く。

「確かに、一回刺す所を間違えられそうになった時はどうか、と思ったけど」

 ちょっとした不満を述べる楓姫。
 そんな抗議の声も聞かずに幾つかの機材を用意したりと忙しなく動く天田。

 そしてもう一人、そんな様子を少し離れた所で自分の中の情報整理を行なう巴。
 曰く夢見がちな男、曰く理想主義者、目的の為になら手段を選ばない男。
 随分と我が強く余りに技術屋過ぎた為か、だがそれを差し置いても優秀だった為か、厄介払いと言った形でこの印度別室に飛ばされた男。
 それが巴が事前の調査で天田に付いて知る事の出来た基本情報であった。

「そう言えば天田さんは何について研究なさっているんですか?」

 先程まで気にしていた腕の痛みの事は何処に行ったのやら、少し興味があると言った感じで玖沙久は声をかける。
 玖沙久の言葉を聞き天田の動きは止まり、声の主に視線を向ける。
 それに合わせて言葉を紡ぐ巴。

「そうですね、わざわざこんな辺境で行なうなんて、よっぽど協調性が無いんでしょうか?」

 その言葉に対してはさしたる反応を返さずにゆっくりと、しかし強い意志を持って天田は言葉を紡ぐ。

「誕生の段階において能力者となる資質を持つ、新人類の創造、とでも言うべきか?」

 その言葉で場の空気は一瞬にして凍りつく。

「そんな事が‥‥可能なんですか?」

 楓姫は問う。天田は一瞬の思案の後に
「出来ると思っているから、そしてまた、必要な事態が訪れるかも知れんしな‥‥その為の研究であり、その為の今回のデータ収集だ」

 と返す。

「成程、そんなだからこんな辺境に飛ばされた訳ですね」

 一応、納得したと言う素振りで巴は言ってみせる。
 だが同時に、そういった物が必要になる程にこの戦いは長引くと思う者が未来科学研の中に居るという事だろう。
 そういった者が彼の研究を成就させる為に、退所ではなく分室に送る事で継続させる。

「でもそう言うのって‥‥」

 恐る恐る玖沙久は言葉を紡ぐ。倫理観、宗教観そう言った言葉が頭を過っただがそれを口にするより早く、天田は口を開く。

「我々は兵器を創っている、それ以上でもそれ以下でも無いよ。例えどんな手段であっても、後世において罵られようと、今を生きる我々は勝つための努力を忘れてはならん‥‥そして、勝たなければその非難を受ける事すら出来んのだからな」

***

 僅かな時間の後にダイゴと桜火も身体検査を終え何とも言えない曖昧な表情で出て来る。

「どう思うよ?」

 ふと桜火は隣で黙り込んでいるダイゴに問い掛ける。
 無論その言葉は天田から聞いた彼の研究、能力者となるべく生まれて来る命、に関して物だった。

「そう言う貴公はどう思うのだ?」

 一瞬質問に質問で返すような真似をするなと思ったが、それを表には出さず、一瞬だけ思考を巡らせて、答える。

「あんまり気分の良いもんじゃぁ無いな、戦場に出れば死ぬ事だってあるんだぜ。戦場に出ない事を選択出来無い命だなんてよ‥‥」
「ならば我輩達が、彼等が必要になる前にバグアとの戦いに終止符を打てば良いではないか、そのために我々は戦っているのだ。そしてそれが戦場に立つ戦士の役目であろう」

 その言葉を聞き、桜火は笑う。

「そうだな、その通りだ。だったらさっさとこの仕事を終わらせないとな」

***

 特殊なアンダーウェアとセットで身に付けられたモニター装置と、スキー等と想像以上の重装備を手に一向は運動能力のテストに向かっていた。
 周囲を警戒しながら天田の提示したコースに従い、万年雪で覆われた山頂を目指しゆっくりと、しかし確実に歩を進めて行く一同。
 標高が上がって行くにつれて気温は下がり、息苦しくなって行く。

「少し、雪が柔らかい‥‥」

 楓姫は足元の雪が思っていたよりも柔らかい事に少し、驚きの表情を見せる。昇り始める前にダイゴが言ったなるべく大きな音を立てない様に、と言う警告を思い出す。反響によって雪が崩れ雪崩が起きればいかに能力者と言えど一たまりも無い。

「うん、そうだね‥‥体力作りとしては流石にいきなりハードルが高過ぎたかなぁ?」

 白い息を吐きながら後にいる玖沙久はそう呟く。
 クロスカントリー的な物と言われていたからもう少し平坦な場所で場所でやるのかと思っていたが、天田と言う男はクロスカントリーを登山と同時に行なうスポーツか何かと勘違いしているらしい。だがそれでも然したる問題もなく中間地点に到達したのは少し日も傾いてから。丁寧にロッジがあり其処で夜を過ごせ、と言う指示もあった事だし。
 しかし、何とも駈足な依頼である。

 そして夜間の見張り、と言う事になる。
 五人を上手く時間分けして、今はこの二人が見張りをしている。
 吹雪いていおらず、人工の光も殆ど見えないこの山中では星が綺麗だ、玖沙久は少し詩人かなと思いながら空を見上げる。

 交代の時間も近付いた頃に異質な気配と僅かな物音に気が付いたのは楓姫であった。
 彼女は即座に手にしていた刀を抜き放つと玖沙久に眠っている面子を起こす様にと促す。少し遅れてではあるが玖沙久も近付いて来る気配には気が付いており静かに頷くと眠っている面子を起こす為に動く。

 息を潜め、近付いて来る物に意識を集中させる。
 足音の数から迫ってきている物は単独であると考えられる。
 その頃に他の面子は起きて来て各人戦闘の準備を整える。

 隠れる様な場所は無い、故に闇の中に雪原と同じ白い姿は隠される事は無い。
 それは白熊の様なシルエットであったが、普通の白熊より二周り以上は大きいだろう、それ以前にこんな所に白熊がいよう筈も無い。

「キメラ‥‥」

 誰と無く、そう呟いた。
 煌々と輝く双眸は獲物を求めているのか、荒い息遣いが聞えてきそうだ。
 一同は素早く動き始める。
 此処では互いに奇襲はありえない、ならば先手を取って倒すまで。

 キメラの爪が空を裂き

 桜火のゼロが深々と急所を抉り

 スパークを纏った刃が煌き

 閃光と空を裂く超機械

 銀色の輝きが雪上を翔ける

 静かに雪上での死闘が繰り広げられた

 血が舞い、雪の白を覆い隠し、その血を隠すかの様にまた血が飛び散る

 それでもなお戦いは止まらない

 それは、人類のこれまでの歴史と、これからの歴史、血で血を洗うという事を現していたのではないだろうか?

***

「戦闘データの事に関しては問題ないだろう」

 戻って来て早々に、天田はそう言った。
 昨夜のキメラとの戦闘はしっかりとモニターされていたと言う事である。
 依頼の終了を告げ、彼は提示されていた多めの報酬を確認する様に促し、言葉を紡ぐ。

「完成させられる、とは思っているが、出来れば使う前に終わる事が望ましいな‥‥」

 それは昨日にダイゴと桜火が考えた事と同じであり、理想主義者でありながら冷徹な彼のほんの僅かな良心であったのかも知れない‥‥