タイトル:墓所で見た円盤マスター:鴨山 賢次

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/04 19:01

●オープニング本文


 僕、トマ・マズリエがドアを開けると、肌を切り裂くような冷たい外気が吹き込んできた。
 10分程乗っていただけなのに、タクシーのエアコンが恋しくなる。病院で貰ったコートが無ければ風邪を引いていたかもしれない。
「やっと、着いた‥‥」
 樹木の殆ど無い山肌に、ぽっつりとロッジが建っている。ツンドラ地帯のこの島では、一階建ての建築物でも良く目立つ。
 ヨーロッパ最北端、マーゲロイ島。ブルガリアから始まったこの長旅も、ようやく目的地に辿り着いた。
 ヴァージニア・E・グリーン。UPCから聞いた話では、ここに一人の女性が住んでいるはずだ。


 ロッジへ近づく度に、背負った鞄の中でカチカチと音が鳴った。
 胸が苦しくなる。鳴っているは壊れたガントレットだ。一緒の依頼を受けた傭兵から借り受けていた、形見の品。
 持ち主のレオさんが死んでからもうじき2ヶ月にもなる。家族に遺品を届ける事に、どれだけ意味があるのだろう。忘れかけた息子の死を思い出させるだけかもしれない。
 玄関の前に立ち、ドアのノッカーに手を伸ばす。でも、ライオンが咥えている鉄の輪の直前で、僕の腕は動かなくなった。
「――――――っ」
 なんて言えばいいんだろう。今更な疑問が浮かぶ。
 僕だけ生き残りました。有難う御座いました。レオさんのおかげです。お悔やみ申し上げます。
 冗談じゃない。そもそも、僕にそんな資格があるんだろうか。
 空を彷徨っていた腕を下ろす。背後の気配に気付いたのは、その瞬間だった。

 覚醒は一瞬で。不意打ちに慣れてしまったのは微妙な気分だけど、焦りは無かった。
 衣擦れの音で『何か』が投擲された事を察する。振り向く時間も惜しい、僕は横っ飛びに『何か』を避わす。
 土の上に転がりながら、片手でロッジの壁を叩いて反転する。同時にドアに何かが突き刺さった。
(刃物っ!)
 体勢を整えながら、投擲主を視認する。僕は武器を持っていない。素手で対処するし‥‥。って2投目!?
 小振りのナイフが回転しながら飛んでくる。軌道を読み取りながら、右方向へ半歩ステップ。
 真横に突き刺さったナイフを引き抜く。柄を握る瞬間、盾と獅子と一角獣が目に入った。
(セブン&ジーズ社のエンブレム?)
 イギリスの銀食器メーカーが、こんなロゴを使っていた気がする。という事は、相手は一般人なのだろうか。
 ナイフを逆手に構えながら、投擲主の様子を窺う。3投目が行われる様子はない。
 不敵に立つ投擲主が、肩に掛かった長い白髪を指で弾く。UPCの軍服に身を包んだ女性が、大きな声で僕に話し掛けてきた。
「人の家の前でコソコソと、なんのようだ? 少年」


 海風が髪を揺らす。レオさんのお墓はロッジから少し離れた海岸沿いにあった。
 壊れたガントレットを墓石の上に置いて、ありがとうございました、と心の中で呟く。
「漸く右手が帰ってきた、か。良かったな、馬鹿息子」
 後ろから声がする。ナイフの投擲主は、僕の探し人だった。ヴァージニアさんにとって、ナイフを投げるのは挨拶代わりだそうだ。
 僕が名乗ると、軽い謝罪のあと、このお墓まで案内してくれた。UPCから連絡が入っていて、僕の名前は知っていたそうだ。
 尤も、一月以上前の話なので忘れていたそうだが。
「わざわざすまなかったな。礼を言うよ」
 息子と呼んでいるが、彼女は独身らしい。レオさんは拾い子だったそうだ。
 黙祷を終えた僕の肩に、ヴァージニアさんが手を置いた。その表情は優しくて、少し悲しげだった。
「僕に力がなかったから‥‥」
 つい、自分の後悔を口に出してしまう。喪失感と無力感が、堰を切ったように湧き上がる。
 細かい震えを抑えられない。ヴァージニアさんの顔を見ていられない。
「付いて来なさい、お茶を淹れよう」
 ヴァージニアさんは、僕の手を取ると、ロッジへの道を歩き出した。

 ヴァージニアさんの足が止まる。いつのまにか、彼女の手を強く握り締めていたようだ。
 俯いていた顔を上げると、ヴァージニアさんは険しい表情で海を睨んでいた。
「すまない少年、先に戻る」
 僕の手を振り解き、ヴァージニアさんが走り出す。彼女の視線を追いかけた僕が見たのは‥‥。
「ヘルメット・ワーム!?」
 海面すれすれを、入り組んだノルウェーの海岸線に沿って飛行する、3機の円盤だった。




〜UPC欧州軍アルタ基地〜
 ヴァージニアからの報告に、司令部は混乱していた。
「正規パイロットの不在時に侵入されるとはな‥‥」
 連絡を受けた佐官が呟く。激戦地から遥かに離れた後方基地のこと、軍所属の能力者は別任務で不在であり、対応できるパイロットが居なかった。
「キメラ捜索に来ていた傭兵部隊が戻っていたな‥‥。止むを得んか」
 幸い、軍のKVや武装はある。一仕事を終えたばかりの傭兵達には悪いが、彼らに頼むしかないようだった。

●参加者一覧

エクセレント秋那(ga0027
23歳・♀・GP
ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
天・明星(ga2984
13歳・♂・PN
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN

●リプレイ本文

 冬季のための除雪設備も、もうじき出番を迎えるだろう。
 前線から遠く離れたアルタ基地の滑走路に、誘導灯が光っている。
「本当に心当たりはないのかい?」
 整備兵が慌しく走り回る中、エクセレント秋那(ga0027)が隣を歩く指揮官を問いただしている。
「解らん。油田への攻撃も考えられるが、あれは半島の南側だ。わざわざ北周りに、3機のみで来るなど‥‥」
 当惑した指揮官の表情を見て、秋那は本当らしいと感じる。しかし、疑問は晴れきっていない。
「何か隠してるんなら後でどうなっても知らないよ」
「無論だ。その時は好きにしてくれて構わんよ」
 指揮官が苦笑する。秋那も苦笑いを返す。信じよう、と指揮官の肩を叩き、S−01に乗り込んだ。

「ひと仕事終えたあとに飛べとは人使いの丁寧なことで。ま、その分報酬は弾んで貰いましょ?」
 赤崎羽矢子(gb2140)はR−01のシートに座り、同じくR−01を選択したヒューイ・焔(ga8434)との通信回線を開いていた。
「悪くねぇな。後で基地のおっさん連中に言っとこーぜ!」
 ニシッ、と笑うヒューイに釣られ、羽矢子の口元も自然と緩んでいる。
「そう言えば、焔は? って、流石に一緒にいるとややこしいね‥‥」
 羽矢子が周囲を見渡すと、R−01の操縦席で、真剣な表情で考えにふける紅月・焔(gb1386)が目に入った。
「‥‥なあ、同志夜十字よ。追加依頼の報酬に、基地の女性士官の方との、栄誉デート引き換え券とか、請求したら怒られるかな?」
 返事は無い。誰からも。
 当たり前である。
「‥‥‥‥はぁ」
 羽矢子が顔をしかめていると、回線を越えてヒューイのため息が聞こえてきた。

「親愛なる整備兵の皆様へゲシュペンストより、オーダー通りの機体を感謝」
 夜十字・信人(ga8235)はラブコールには気付かずに‥‥或いはスルーして‥‥オープン回線で整備兵へ感謝を述べていた。
「兄ちゃん! 落とされんじゃねーぞ!」
 整備兵の一人が、ガッツポーズをしながら信人に向って叫ぶ。
 同時に、滑走路に白い旗がはためいた。出撃の合図だ。
「時間か‥‥出撃する。何、ちゃんと機体は持って帰るさ」
 7機のKVが、順に大空へと飛び立っていく。ラップランドの空に、ジェット雲の帯が連なった。


「うわぁああ、遅くなりました‥‥」
「本当に遅ぇぞ! さっさと乗ってくれ!」
 汗だくの天・明星(ga2984)が滑走路に現れる。
「装備は‥‥」
「ブリーフィングでブツクサ言ってたのを、他の傭兵が聞いてたってよ。変更はきかねぇぞ?」
 年輩の整備兵がS−01を指差す。
「ありがとう御座います!」
 大慌てで明星が乗り込む。7機の後を追い、最後の1機が飛び立った。



「‥‥しかし、この地域にワームが三機。何が狙いだ」
 ヘルメットワームの予想進路を飛行しながら、ファファル(ga0729)が呟く。
 見下ろす海岸線は入り組んでおり、ヘルメットワームが隠密行動を取っていた場合、発見は難しそうだ。
 幸いハンメルフェストが攻撃された、という連絡は入っていない。指揮官の言葉が正しいなら、指示されたルートを辿れば鉢合わせるはずだった。
「何処から来たのか‥‥も不明だ。気の抜けん仕事だな‥‥」
「機数的に、戦闘目的じゃなさそうですよね‥‥。まぁ、わかっててもやる事は同じですが」
 視界下を睨みながらも、平坂 桃香(ga1831)はリラックスしていた。答えの出ない問いには、振り回されない。そのスタイルはある意味では正解と言える。
 初めて乗り込むS−01だったが、操縦に問題は無かった。むしろ、改造されていない機体に懐かしさすら感じていた。
 近頃の傭兵達は恵まれている。かつてあった岩竜のみの偵察任務など、高級機が矢継ぎ早にリリースされる今日では考えられないだろう。
「ん‥‥あれかな? 皆さん、11時の方角です」
 機影が視界に入る。桃香が回線を開くと、それぞれから応答が返ってきた。
「こちらファファル。敵影確認、さて‥‥御もてなししなくてはな」
 正面に発見したヘルメットワーム。恐らく、相手もこちらを認識しているだろう。
 火蓋が、落ちる。


「有効射程まで後5秒! ‥‥2‥‥1‥‥発射!」
 羽矢子がヘルメットワームとの距離に合わせ、合図を出す。ファファル、桃香、明星が、それに合わせホーミングミサイルを発射する。
「一気に畳むとするかね!」
 秋那が機体を加速させ、ヘルメットワームとの距離を詰める。信人、ヒューイ、紅月がそれに続いた。
 短距離用AAMとスナイパーライフルの追撃。さらに2発目のホーミングミサイルが放たれる。
 合計12発の攻撃が、編隊の中央を飛行していたヘルメットワームへと集中する。ヘルメットワームが回避行動を取るが、半数以上が命中した。
「ぃよっし! って、まだかっ‥‥」
 ヒューイの歓声を嘲笑うかのように、煙を裂いてヘルメットワームが飛翔する。かなりのダメージを与えてはいるものの、撃墜には到らなかったようだ。
「流石に硬いですね。いえ‥‥」
 武器性能か、と。喉元まで上がった言葉を桃香が飲み込む。口にしたところで、意味は無いからだ。
「散開したか、すべて喰らい尽くすぞ!」
 ファファルが負傷したヘルメットワームを追う。
 敵を分断させるという、傭兵達の狙いは成功した。この時点で勝利は確定した、と言えるだろう。
 残された問題は、2つだった。


「止まって貰うよ!」
 ブーストで加速した羽矢子が、バルカンでヘルメットワームの頭を抑える。
 弾丸を装甲に食い込ませながらも、ヘルメットワームは機体を急角度で旋回させ、プロトン砲で反撃してくる。
「ちっ。流石に厳しいか‥‥」
 淡紅色の光線を回避しきれず、信人がぼやく。
 3対1の状況を作ったとしても、彼我の能力差が埋まったわけではない。たった一撃とは言え、機体への損傷は凄まじいものだった。
 しかし、個体の性能差は承知の上である。確実に攻撃を当てるため、信人が明星に呼びかける。
「そちらにタイミングは合わせる。コンビネーションで撃ちこむぞ‥‥!」
「了解!」
 明星が応え、ホーミングミサイルを放つ。ヘルメットワームの回避先を読み、信人がスナイパーライフルで追撃した。
「‥‥名づけて、俺とお前のコンビネーションアタック‥‥!」
「え?」
 一瞬呆然とする明星。羽矢子は無視して攻撃を続けている。
 アグレッシヴ・ファングを乗せたホーミングミサイルが命中するも、撃墜には遠く及ばない。
 攻撃力もさる事ながら、緊張感にも欠けた空域だった。

 S−01の積載量を活かしたセッティングで挑んだ秋那。
 その重装甲が無ければ、あるいは撃墜されていたかもしれない。
「体張るのが本職だからね!」
 積極的にドッグファイトを仕掛け、短距離AAMを打ち込む。至近距離まで詰めれば、如何なヘルメットワームと言えど、そう簡単には回避できない。
 ヒューイもまた、ヘルメットワームに肉薄し、バルカンでの攻撃を行っていた。
 急激な角度で曲がるヘルメットワームを、慣性に抗いながら追いかける。
「何も進歩してきているのは機体だけじゃねえんだ。
 俺達も同じくらい進歩してるんだぜ。
 やってやれねえ事はねえ‥‥いくぜ!!」
 反撃を恐れず、2人のKVがヘルメットワームを追う。その後方から、紅月が援護射撃を行っていた。
「‥‥後ろは任せろ‥‥他は全部任せたぜ!」
 堅実な選択であり、事実、紅月は一度も攻撃されていない。
 勿論、その分は接近した2人が受け持っていたのだが‥‥。

「私達の仕事は‥‥1秒でも速く貴様を片付ける事」
 損傷したヘルメットワームを追ったのは、ファファルと桃香だ。
 回避の高いR−01に、たった1枚のステルスフレームを加える絶妙なセッティング。
 腕の良さも加わり、ファファルはヘルメットワームの反撃を全て回避する。
「多少弄ってあるようですけど、問題無いレベルですね」
 淡々と、確実に。経験から相手の戦力を測りながら、桃香がホーミングミサイルを当てていく。
 ブーストは使わず、ブレス・ノウを常時機動させる事で、高い命中率を維持する。初めて乗ったKVとは思えない使いこなしだった。
 元々被弾していたヘルメットワームは、2人の攻撃によって数秒のうちに戦闘不能に追いやられる。
「しつこい奴は嫌いでね‥‥」
 ファファルが機体を翻す。もはや飛行すら覚束無いヘルメットワームの真上から、短距離AAMを放つ。
 ミサイルが甲羅のようなヘルメットワームのボディに食い込み、爆発する。
 炎と煙を巻き上げながら、1機目のヘルメットワームが墜落した。


 傭兵達に残された問題。1つは解明できなかった相手の意図。
 そしてもう1つは、決定的な防御力不足だった。
「そろそろ‥‥やばいかも‥‥」
 プロトン砲が命中する度に、明星の機体が大きく揺れる。損傷度は5割を超えつつあった。
「忌々しい‥‥っ!」
 信人が明星を援護しようと、ラージフレアの投下を試みる。
 しかし、ラージフレアは個人向けの兵装である。予め編隊を組み、固まった状態で使用したならば、或いは効果があったかもしれない。
 だが、ドッグファイト中の複雑なKVの機動に追いつく。それは神業と呼ばれる部類の行動だった。
 2度目のトライでも失敗し、信人は援護射撃に方針を切り替える。残された選択肢は、スナイパーライフルによる狙撃のみだった。
「ここまで梃子摺るとはね」
 1度だけプロトン砲を回避できたため、羽矢子は他の2人よりは軽傷だ。
 KV、ワーム共に命中精度が相手の回避能力を上回る。正に消耗戦だった。
 羽矢子がヘルメットワームの背後を取る。しかし、ヘルメットワームもまた、明星の背後を取っていた。
「まずいわね」
 攻撃を阻止しようと、羽矢子が弾数の限られたホーミングミサイルを発射し、信人も狙撃を行う。
 ミサイル、ライフルが共に命中する。しかしヘルメットワームの砲台は依然として明星に照準を合わせている。
 明星を撤退させるか? 羽矢子が逡巡したその時、予想外の方向からヘルメットワームにミサイルが放たれた。
「待たせた‥‥」
 ブーストを吹かせR−01が現れる。ファファルの応援が間に合ったのだ。

 ヒューイの機体は限界だった。秋那と共に、1.5人分の攻撃を受けていたからだ。
 装甲の厚い秋那のS−01ですら、損傷率は4割を超えている。ヒューイの攻撃重視なセッティングと、追撃用に温存した錬力が祟っていた。
「ヒューイ! 一旦下がるんだ」
 一定の間合いを確保していた紅月が、ヒューイを守るため、一気に距離を詰める。
 秋那もまた、短距離AAMの残弾を使いきって離脱を援護する。
「弾切れか‥‥。苦しくなってきたね」
 スナイパーライフルは残弾を心配する必要が無い。その分、リロードという致命的な欠点がある。
 攻撃力の天秤がヘルメットワームに大きく傾く。
「お待たせしました!」
 そんな状況を振り払うかのように、桃香のホーミングミサイルがヘルメットワームに命中する。
「助かった‥‥か」
 ヒューイが、なんとか飛行しているR−01を戦闘空域から離脱させる。
 追撃のそぶりを見せるヘルメットワームを2発の銃弾が貫いた。


 大勢は決した。
 ファファルと桃香が合流し、傭兵達は2機のヘルメットワームを戦闘不能へ追い込んだ。
 温存していた弾薬を叩き込まれ、1機のヘルメットワームが墜落する。
 残された1機も煙を上げ、時折小爆発を起こしながら高度を落としていった。
 傭兵達が墜落を見守る中、信人がヘルメットワームに近づき、オープン回線で呼びかける。
「おい、そこのカブトガニ、無人機か? 有人機か? 後者ならば遺言くらいなら聞いてみるぞ」
 返答どころか、反応すらない。信人がスナイパーライフルの照準を合わせる。
「‥‥ほう、どうやらあちらにも黙秘権があるらしいな。つまらん」
 最後の銃弾がヘルメットワームに止めをさす。地面に激突したヘルメットワームが、大きな爆発を起こした。

「ん?」
 撃墜を見届けた信人の視界に、小さな毛皮が映る。
 更に高度を下げると、ヘルメットワームから這い出すキメラが見えた。
「こいつら‥‥輸送狙いかっ!」
 信人がヘルメットワームの目的に気付き、上空の味方に連絡を入れる。同時にスナイパーライフルの照準を合わせようとするが、航空形態では狙いが定まらない。
 数機のKVが降下してくるが、キメラ達は方々へと散った後だった。
「戻ったほうがいいんじゃないかい? これ以上動くのは危険さね」
 秋那の提案に、数名が同意する。
「ヘルメットワームが来た方を調べたかったんだけど、仕方ない‥‥か」
 羽矢子が悔しがる。偵察用の燃料が残ってはいたが、損傷した機体ではリスクが高すぎた。
 キメラが消えた山を見据えつつ、傭兵達はアルタ基地へと戻っていった。



 帰還した傭兵達の半数はそのまま救護室へ運ばれる。報告に向えたのはファファルと紅月、桃香だけだった。
「キメラの輸送‥‥か」
 報告を受け、指揮官が呟く。
「海上で戦えば良かったのだろうが‥‥」
 ファファルが咥えた煙草を揉み消す。その口調は悔しさを含んでいた。
 信人の話によれば、逃げ出したキメラは4足歩行の獣だったようだ。ヘルメットワームを海へと落としていれば、逃亡は防げただろう。
「そこまで要求はしないさ。不利な装備と機体で、情報まで持ち帰ってくれた。君たちの働きは十分だったよ」
 感謝する、と指揮官が右手を額に当てる。しかし、3人の気持ちは晴れないままだった‥‥。