タイトル:突破された防衛線マスター:鴨山 賢次

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/17 02:23

●オープニング本文


 元は綺麗に舗装された車道だったはずだ。なんでこんなに尻が痛いのだろう。
「なぁ、何でだと思う?」
 ボサボサの頭を片手で掻きながらツァートが問い掛ける。1年間、大自然の猛攻から頭皮と毛根を守ってくれた帽子は、3時間ほど前に飛んでいった。
 荷台でへばっていたロウドが、身体を起こす。
「知るか‥‥。俺じゃなくて後ろの連中に聞いてくれ」

 発端はロウドの軽はずみな発言だった。給料でジーザリオを買った。羨ましいだろ、と。
 軍のエンジニアに無理を言い、後部座席と屋根を取り外した新車を、あろうことか駐留地にまで持ってきやがった。念のための検査帰還じゃなかったのかよ。
「ん。そうする」
 助手席に置いた箱から手榴弾を取り出すと、バックミラーで後ろを確認する。
 ピンを引き抜き、放り投げる。
「俺、休暇が出たらル・マンに行くんだ」
「走るのか?」
「いや、寝転がってバゲット齧る。トマトとチーズ挟んで」
 背後で爆発が起きる。そうだ、背後確認を怠ったのだ。
 まさか上官が聞き耳を立てているとは思わなかった。ロウドの新車が没収されたのは目出度いが、何故俺までオプション扱いなのか。
「詰まってきたぜ。弾幕頼む」
 バックミラーに赤い光が映る。
 フォース・フィールド。俺たち一般兵の天敵だ。

 耐久鬼ごっこを始めて、どれくらい経ったのだろうか。
 逃げるのは容易いのだが、後ろの鬼さんを振り切っても、待っているのは鬼上官。キメラと大差ない。
 いや、まだ現状の方がマシか。粘れば助けが来るのだから。
「ほーれ。ちゃんと着いてこいよー」
 ロウドがSMGに装弾し、背後のキメラに向けて発砲する。当然、フォース・フィールドに阻まれてダメージはない。
 ま、倒すのは俺たちの役目じゃない。上官は言った。ドライブに行ってこないか? と。


 明け方、山頂の防衛ラインが数体のキメラによって突破された。
 サイを模したキメラで、時速80km近いスピードでバリケードその他もろもろを突破した。
 能力者も待機していたそうなのだが、速度差がありすぎて攻撃できなかったらしい。
 報告を受けた上官が本部に応援を要請し、傭兵が到着するまでの時間稼ぎを命じられたそうだ。
 数匹のキメラ相手の追撃に、貴重な軍属能力者を向かわせるわけには行かない、とか。
 どうしたものかと、窓から外を見た上官様の目に入ったのが、雄大な自然とロウドの新車だった。
「弾、切れたぞ」
「手榴弾も残ってないな。燃料はまだ持つが‥‥」
 つかず離れず。通行の少ない道路を選び、キメラを引き付ける。それも限界だ。
 俺達が攻撃しなければ、キメラは標的を変えるだろう。そうなれば、LHから飛んできた傭兵には暴走するキメラの捜索から始めてもらうことになる。
「半日近く連れ添ったんだ、愛を信じようぜ、愛を」
 ロウドが艶っぽく言う。ハンドガンには弾が残ってたよな‥‥?

「お、ようやくお出ましだぜ」
 無線機に反応だ。どうやら間に合ったらしい。
「こちらツァート一等兵。現在‥‥」

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
魔神・瑛(ga8407
19歳・♂・DF
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
都倉サナ(gb0786
18歳・♀・SN

●リプレイ本文

「ダークファイターの魔神・瑛(マガミ・エイ)だ。宜しくな!!」
 駐留地の車庫に大声が響く。魔神・瑛(ga8407)が地図を片手に挨拶していた。
「宜しく」
 アズメリア・カンス(ga8233)が淡白に応え、白鐘剣一郎(ga0184)に声を掛ける。
 今回の任務にナビは居ない。乗車しているメンバーを攻撃に集中させるためにも、ドライバーが道を覚えていなければならない。
 三人は地図にペンを走らせながら、戦闘可能なルートを探し始めた。

「カーチェイスで戦闘なんて映画の中だけだと思ってたんだけどな」
「確かに。他の人たちには失礼かもしれないけど」
 誰ともなしにカルマ・シュタット(ga6302)が呟くと、近くに居たサルファ(ga9419)が同意した。
 二人が苦笑していると、石動 小夜子(ga0121)が近づいてくる。
「いけません。能力者でない人達が頑張っているのですから。早く助けてあげないと」
 窘められ、肩をすくめるカルマとサルファ。石動は二人を誘うと、整備の手伝いに向かった。

 整備士の作業を眺めていたのは斑鳩・八雲(ga8672)と都倉サナ(gb0786)だ。
「荒野でのカーチェイス‥‥いえ、車とキメラですから‥‥何でしょうね」
「ハンティング、でしょうか。狩られる側にならないよう、頑張ると致しましょう」
 斑鳩が問い、少し考えた後に都倉が答える。石動達が整備士の手伝いを始めると、二人も作業に加わった。
 三台のジーザリオから屋根代わりの幌が取り外され、換わりに手すりが取り付けられていく。
「うーん、依頼に使うのであれば、やはりジーザリオも用意するべきですか‥‥。財布事情は厳しいのですが」
 取り外された幌を受け取りながら、斑鳩が一人言ちた。


 車の準備が終わると、傭兵達は駐留地を後にした。
 ツァート達の周回ルートに近づくと、石動が無線機で通信を試みる。幾度目かの呼びかけに、無線機が反応した。
「ツァートさん、ご無事ですか?」
 石動が再度呼びかけると、無線機からツァート達の声が聞こえてきた。
「近いな、そろそろ準備するように他の連中にも伝えてやってくれ」
 現在位置を聞くと、魔神がアクセルを踏み込む。石動が従うと、無線機を準備していた斑鳩と都倉から返答があった。
 やや間を置いて、他の二台が加速する。あっさりと置いていかれる魔神達。
「懐に余裕があるヤツは流石にいじってる度合いが違うぜ‥‥」
 魔神が思わず本音を漏らす。
「仕方ないさ。俺たちは俺たちに出来ることを、だ」
 サルファがマガジン内の装弾数を確認する。違いない。魔神は笑うと、更にアクセルを踏み込んだ。

 白鐘、アズメリア、魔神の操るジーザリオがキメラの左後方に並ぶ。
 土煙をたてて走るキメラに追いつくと、傭兵達の攻撃が始まった。
 口火を切るのは都倉だ。射程に優れたクルメタルP−38を構え、引き金を引く。弾丸が命中し、キメラの後ろ足から血が噴出す。
 しかし、その速度は衰えない。恐ろしくタフなキメラだ。
 更に銃声が鳴り響く。石動、カルマ、サルファが、手すりやロールバーを掴み、揺れる体を抑えながらS−01を発砲する。
「さて、暫くはこちらを向いてもらいます!」
 三連射の真デヴァステイターを構え、斑鳩が叫ぶ。手前のキメラに二射すると、すぐにリロードする。
「よし、ツァート。交代だ」
 片手で無線機を持ち、白鐘が連絡する。
『了解です。後はお任せします』
 キメラの前方を走っていたジーザリオが離れていく。後部座席では、ロウドが傭兵達に向けてガッツポーズを送っていた。
 ブーストを吹かせ、白鐘のジーザリオが急激に加速する。一気にキメラの前方に回り込むと、そのまま緩やかに減速した。
 三体のキメラに対し、装填を終えた斑鳩が均等に弾を撒いていく。漸く、自分達にとっての脅威を認識したのか、キメラ達の目が赤く輝いた。
 雄叫びをあげ、キメラが白鐘の車に向かい加速する。額の角を振るい突撃してくるキメラ達。三重の攻撃を、白鐘は車体を左右に移動させて回避する。
「こういうのは中々加減が難しい‥‥振り落とされないでくれよ」
 バック・サイドのミラーで、キメラの位置を把握しながら白鐘が言う。
「いやはや、洒落たドライブになってしまいましたねぇ」
 笑いながら、斑鳩は接近してきたキメラの頭に弾丸を打ち込んだ。

「上手くいってますね」
 路面とキメラを交互に確認しながら、アズメリアが呟く。
 元道路、とも言えるその荒れ道には、所々手榴弾らしき爆発の跡や、キメラが踏み抜いたコンクリートの破片が散らばっている。
 白鐘達がキメラを引き付けている間も、側面からの攻撃は続いている。流石に斑鳩の攻撃だけで、全てのキメラを相手にはできない。
「‥‥体当たりしてくるみたいだな。ぎりぎりまでひきつけてもらっていいかな?」
「了解です」
 カルマの要望に応え、アズメリアが車体をキメラに近づける。
 集中攻撃を受けていたそのキメラは、アズメリアのジーザリオに標的を変更するとその巨体をぶつけてきた。
「待ってましたよ」
 ショットガン20に持ち変えたカルマが、近づいてくるキメラの急所を狙い、散弾を叩き込む。キメラの顔面の左半分が弾け飛ぶが、突撃は止まらない。
 アズメリアがブレーキを踏み込んで、キメラの攻撃をやり過ごす。車を再加速させると、今度は右サイドに回りこんだ。
「行きます!」
 都倉がブラッディローズを構える。強弾撃によって威力を増幅させ、散弾を放つ。
 一匹目のキメラが地面に倒れたのは、空になったカートリッジが車内に転がるのと同時だった。

 
 アズメリア達が一匹目を倒したとき、魔神達も別のキメラから攻撃を受けていた。
 ダメージが少ないキメラの移動は素早く、避けきれなかったジーザリオが吹き飛ばされる。
「っちぃぃ!」
 魔神がハンドルを捌き、車体を持ち直すが、更にキメラの攻撃は続く。
 サルファと石動が反撃し、前方の斑鳩からも援護射撃が届くが、キメラを止めるには威力が足りない。
 三度目の衝撃がジーザリオを襲う。車の耐久度は限界に近い。
「おい! 後ろ!! 振り落とされるんじゃねぇぞ!!!」
「俺は平気だが‥‥。くそ、助手席に乗ってるんだったぜ」
 左ハンドルのジーザリオ。運転席の後ろに乗っていたサルファがS−01を発砲しながら愚痴る。石動の位置を確認しながら攻撃しているが、後部座席は狭い。
 攻撃役がキメラの側面に回りこむのならば、後部座席に二人乗るのは失策である。もちろん、助手席に座ったまま突撃を食らえば、只では済まなかったのだが‥‥。
 そして、再度加速したキメラがジーザリオに近づいてくる。
「仕方ありませんね‥‥」
 マガジンを取り替え、覚悟を決めた石動が、後部座席から飛び出した。
 近づいてくるキメラに飛び移り、その背中に菖蒲を突き刺す。それを握り締めながら、石動がキメラに発砲する。
「無茶しやがって!」
 突撃は止まったものの、石動を引き剥がそうと、キメラが飛び幅を大きくする。懸命に堪え、石動は射ち続ける。
 大きく跳ねる石動の身体に当てないよう、照準を下げて射撃するサルファだったが、当らない。
「くっ、これだから射撃は苦手なんだ‥‥」
 不得手な拳銃を座席に置き、サルファは意を決する。
 床に置いた血桜を拾い、後部座席の上に立つ。刀を鞘に収めたまま構え、腰を落す。乱発はできない。精神を集中させ、錬力を注ぎ込む。
 カチッ。
 石動のS−01が乾いた音を立てる。弾切れだ。リロードしようにも、片手は菖蒲を掴んでいる。
 背中からの衝撃が収まったため、キメラが一際大きく暴れだした。堪えきれず、石動の身体がキメラの前方に放り上げられる。
(しまっ‥‥)
 落ちてくる石動を突き刺そうと、キメラが角を低く構え‥‥、その首が大地に転がった。
 両断剣を重ねた、ソニックブーム。居合いの型から放たれた一撃が、キメラを左肩から断ち切っていた。
「間に合ったか‥‥っておぉい!」
 賭けのような一撃を成功させ、一瞬安堵したサルファだったが、石動が助かったわけではない。
「ちぃっ!」
 魔神が石動を受け止めようとハンドルを切るが、間に合わない。
 崩れ落ちるキメラの身体を蹴り、なんとか体勢を立て直す石動。しかし、投げ出された速度までは殺せない。受身を取るものの、荒れた路面に身体を刻まれる結果となった。


「石動さん! 無事ですか!?」
『なんとか‥‥。私よりも、任務を‥‥』
 斑鳩が無線機で呼びかけると、石動の声が返ってきた。
 安堵しながらも、銃を構えなおす。
「2頭目‥‥。しかし、予定通りとは言い難いな。よし、こちらも仕掛けるぞ」
「え?」
 攻撃しながら疑問符を浮かべる斑鳩に答えず、白鐘はジーザリオを限界までブーストさせた。
 一気にキメラを引き離し、前方を確認する。
 障害物なし。路面やや良好。速度十分。
「いくぞ、斑鳩。落ちるなよ!」
「まさか‥‥」
 白鐘が一気にハンドルを切る。斑鳩は咄嗟にロールバーを掴む。
 強烈な遠心力と共に、車体が90度を向く。クラッチを踏みこみ、サイドブレーキを引き上げる。後輪がロックされ、さらに車体が滑る。
 180度転身すると、白鐘はサイドブレーキを降ろした。
「こういう事は予め言って下さい‥‥」
 乾いた笑みを浮かべながら、後部座席に身体を沈めた斑鳩が言う。白鐘は微笑むと、再度ジーザリオを発進させた。

 石動からの連絡を受け、魔神達も最後のキメラに向かっていった。
「ラスト一頭! きっちり倒そうぜ」
 魔神の呼びかけに応えるように、サルファがソニックブームを放つ。
 血飛沫が舞い、怒り狂ったキメラが吼える。
「出し惜しみは不要ですからね」
 魔神の車に突撃するキメラに向け、カルマのショットガンが火を噴く。
 勢いを殺されたキメラに、クルメタルP−38に持ち直した都倉が発砲する。錬力の込められた弾丸が命中し、キメラの角に罅が入る。
 三人の集中攻撃を受け、一気にキメラの生命力が殺がれていく。
 アズメリアが更に車体を寄せる。暴れるキメラを誘い、体当りをかわす。
 都倉とカルマの追撃を喰らい、キメラの速度が落ちる。体力を振り絞って角を振るうが、アズメリアのジーザリオには届かない。
 チェック・メイトだ。勝利を確信したとき、前方から迫る影を見つけ、アズメリアと魔神が車体を離した。
 白鐘のジーザリオがやってきたのだ。

「止めに使うとは思ってませんでしたが‥‥」
 後部座席の端に立つ姿は、サルファのそれに似る。違うのは、その斬撃が空を飛ばぬ事か。
 右肩に寝かせた刃を当てる。峰は首筋に。右腕を畳み、左手は柄の先を。
 例えるならトンボか。しかし大きく捻った身体の狙いは、薙ぎ払うことにある。
 渾身の一撃を乗せ、ジーザリオは更に加速する。
 交錯しながら紙一重まで近づく運転技術と、その加速を乗せて振りぬいた剣技のどちらを称えるべきなのだろうか。
 それまで無傷だったキメラの右半身に、一文字の傷が疾る。
 斑鳩の一撃を身に受けて、最後のキメラが地に倒れた。


「皆さーん」
 キメラの死亡を確認し、道を引き返した傭兵達の目に、石動を乗せたジーザリオが見えてきた。ツァートが後ろを走っていたらしい。
 石動が助手席から身を乗り出し、手を振っている。傷だらけではあるが、まだまだ余力があるようだった。
『お疲れ様です。お蔭様で助かりました』
 無線機からツァートの声が聞こえてくる。
「戻ったら、ジーザリオを直してあげないといけませんね」
 後部座席に身を預けながら、都倉が無線で応える。
『それはうちの連中にお任せ下さい。新品同様にしておきますよ』
「そいつは有り難いな‥‥」
 歪んだ助手席のドアに目をやり、魔神が呟く。
 大きなカーブを曲がると駐留地のテントが見えてきた。
 傭兵達のカーチェイスは、こうして終了したのだっだ。