タイトル:【Woi】猟犬と狩人マスター:鴨山 賢次

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/15 00:42

●オープニング本文


 北米大陸の西海岸に多く見られるマリンレイヤーが、サンタ・カタリナ島を包む。鼠色をした薄い雲が海岸沿いの空を覆っていた。
 急斜面を海風が撫ぜると、エボルブルスの花が揺れた。人一人いない、寂しい風景。カタリナ島が観光客に溢れていた頃ですら、ハイキングコースを外れた南西部を訪れる者は少ない。
 潮風は植物の氾濫を阻む。見渡す風景は土と低木の斑模様だった。その斑に身を隠し、ヴァージニア・グリーン(gz0151)は双眼鏡を覗いていた。
「軍曹、どう見る」
 ヴァージは同じ木の影に伏せた部下、ロウドに問い掛ける。手渡された双眼鏡を覗き、ロウドは指差された方角を見た。レンズの向こう側、木の少ない山の斜面に、一匹のコヨーテが居た。体長2メートル、無論キメラだ。周囲を見渡すわけでもなく、地面の臭いを嗅ぎながら円を描いて歩いている。
「コヨーテ型が単独行動してるとは思えませんね。無防備に姿を晒してますし、獲物を探している様子も無い。餌役でしょう」
 双眼鏡の倍率を上げ、コヨーテの足元を注視する。コヨーテが何度も同じ場所を歩き回ったのだろう、山肌には足跡がいくつも残されていた。ロウドはゆっくりと双眼鏡を動かす。
「付近にサイズの違う足跡が残ってます。体長を5〜6フィートだと仮定すれば、仲間は最低4匹ってトコでしょう」
 双眼鏡をヴァージに差出し、自信に満ちた表情でロウドが言う。だが、ヴァージは双眼鏡を受け取らず、冷やかな視線をロウドへと浴びせる。
「コヨーテ型についてはそれで良い。が、50点だ。軍曹、もっと倍率を下げてみろ」
 ロウドは再び双眼鏡を覗く。言われたとおりに倍率を下げていくと、コヨーテの周囲の違和感に気がついた。
 立ち並ぶ潅木が風に揺れる。揺れる。揺れない。
「あ‥‥」
 注視すれば気付く、些細な動き。潅木に擬態した、バインディングアイビーと呼ばれる植物型のキメラだ。
 更に倍率を落として視野を広げる。潅木の違和感は斜面の至る所から感じられる。
「二重の罠ですか。周到な事ですね」
「東側にも植物型が紛れているのだろうな。高所の風下から近づけば、トラップと別働隊で一網打尽にできる。流石は猟犬、と言ったところかな」
 姿勢を低くしたまま、ヴァージは踵を返す。討伐対象を発見した以上、スカウトである彼女達の仕事は第1段階を終えている。コヨーテ型の総数が確認できていないのは気掛かりではあるが、罠さえ見破っておけば、後は傭兵達の危険も少ないだろう。
「帰還する。猟犬を狩るのは、狩人の仕事だ」
「了解」

 数分後、空港で待機していた傭兵達に、出撃命令が下された。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
ギィ・ダランベール(ga7600
28歳・♂・GP
優(ga8480
23歳・♀・DF
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD

●リプレイ本文

「さて、敵の囮を囮にかけるとしましょうか」
 優(ga8480)はそう言って守原有希(ga8582)に声をかける。ちなみに優はすでに覚醒済みである。
「そうですの。では、血袋ば破るとしましょうか」
 有希はそう言って事前にラスト・ホープで調達してきた黒ソーセージ用の血が入った血袋を破いてその血を浴びる。血の臭いでコヨーテ型キメラを誘き出そうと言う作戦だった。
 南沿岸から風上に移動して敵囮に近づく。
 しばらくすると囮役のキメラがこちらに気がついたようだった。有希の血の臭いに過敏に反応したのか、興奮している様子が見受けられる。
「これは、チャンスですかね、有希さん?」
「そうですのう。敵の別働隊もこの血の臭いにつられてやってくると良いのじゃが」
 優が年上の女性と言うことで緊張している有希だが、仕事中なので我慢していた。
 敵の囮キメラはこちらに気がついたが、近づいてくる様子は見られない。動物としての本能より猟犬としての本能のほうが勝ったようだった。
「しかたがなかと。こちらから近づきましょう」
 二人は負傷したように見える有希を優が庇うふりをしながら囮のキメラへと近づいていった。やがてお互いに目視できる距離まで近づくと、コヨーテ型キメラは警戒するように唸り声を上げる。二人は怯えたように演技をする。決してこちらからは手を出さない。やがて焦れたのはコヨーテ型キメラだった。
 吠えてから二人に接近する。駆け出し、血まみれの有希に体当たりをする。
「うわっ!」
 受動防御に成功し二本の剣でキメラを受け止める。ダメージはない。
「なんじゃ、そげん強くもなさそうですの」
「油断しないで。とりあえず手加減して攻撃していきましょう」
 優の言葉に従い、有希は軽くキメラを攻撃する。
「ギャン!」
 キメラは悲鳴を上げ、二人から距離をとる。そして、東の方へと逃走を始めた。此処までは予定通り。敵の囮に囮が成功していると思い込ませるために、あえて追いかける。
 だがそこに灌木型キメラが蔦を伸ばして二人を絡めとろうとして来る。
「鬱陶しいね!」
 有希が無数に迫り来る蔦を二本の刀で切裂きながら灌木キメラの本体を断ち切る。大きな音を立てて倒れる灌木キメラ。
「有希さん、行きますよ!」
「はい!」
 そして東の森に近づいたころ、森の中から4匹のコヨーテが姿を現し、二人を包囲した。そして、かわるがわる攻撃してくる。優と有希は互いに背中を庇いあいながらその連携攻撃に耐える。幸い敵の攻撃力は低い。隙を突いて優がトランシーバーで本隊に連絡を入れる。
「こちらも双眼鏡で状況を把握しています。すぐ駆けつけますのでしばしのお待ちを」
 ギィ・ダランベール(ga7600)が双眼鏡を仕舞いこみながら優の通信に応える。そして瞬天速で一気に駆け抜けた。
 アレックス(gb3735)と月城 紗夜(gb6417)も竜の翼で接近する。
 藤田あやこ(ga0204)、リュドレイク(ga8720)、リリィ・スノー(gb2996)は全力疾走で援護に駆けつける。
 その間にコヨーテたちは包囲態勢から半包囲態勢にシフトし、優と有希を東の森に追い込もうとしていた。
「くっ‥‥しつこいですね」
 優が毒を吐きながらも防御に徹する。そこにギィとアレックス、紗夜がタイミングを合わせて登場した。
「お待たせしました!」
 ギィが、
「インテーク開放‥‥ランス「エクスプロード」、イグニッション!」
 アレックスが、
「すまぬ、遅れた!」
 紗夜が一斉にタイミングを合わせながら中央のコヨーテを攻撃する。
 爪で切り裂かれ、爆炎をあげる槍で突かれ、剣で切り裂かれ、コヨーテは一瞬で絶命する。
「おまたせ!」
 第二陣はあやこがまず到達し、不利を悟って逃走をしようとするコヨーテの足元にエナジーガンを撃ちこむ。
「追い込んだと思ったら追い込まれた、滑稽ですね」
 優がソニックブームを乱発しコヨーテの連携を乱すとともに逃走を防ぐ。
「策士は、ん達だけじゃなかろうもん? じゃ、こっから全力やけんな!」
 蛍火で敵の攻撃を受け止めながら、有希が二本の刀でコヨーテの足を切裂き逃走を防ぐと、返す刀でその首を断ち切る。
「お待たせしましたね!」
 リュドレイクは探査の眼を発動させ、灌木型キメラに注意しながらローム製SMGをコヨーテの群れに向かって撃ち放す。
「逃がしません。ここで狩らせてもらいます‥‥」
 リリィが強弾撃を使って、ドローム製SMGで逃げようとしているコヨーテの体を狙い、一度に十五発の弾丸を命中させる。コヨーテはそれで絶命した。
 残り二匹となったコヨーテは逃亡しようとするが、銃やソニックブームの乱射でそれもままならない。
「鬱陶しい。大人しく駆逐されろ」
 紗夜の二本の剣がコヨーテの胴を両断する。
「ラストワン! 灰燼と化せッ、極炎の一撃(フレイム・ストライク)ッ!」
 アレックスの爆炎の槍が最後のコヨーテを焼き尽くす。
「ふう‥‥これでコヨーテ型で確認されているのは全部ですね。あとは灌木型をサーチ&デストロイと参りましょうか」
 ギィがそう言うと、全員が頷いた。
「灌木型の邪魔が入らなかったのは幸いね。優さんと有希さんが頑張ってくれたおかげだわ。ありがとうね」
 あやこがそう言うと、優が「連中の攻撃力はたいしたことありませんでしたからね」と応えた。
「それじゃあ灌木型の探索に行きましょうよ。俺の探査の眼が効いているうちにね」
 そう言ってリュドレイクが森に近づこうとするが、あやこが静止をかけた。
「ちょっと待っててね。今ちょちょいとやっちゃうから」
 そういうと大口径ガトリングガンを取り出し、森に向かってそれを放つ。
 ただの潅木は銃撃で倒れ、灌木型キメラはフォース・フィールドが赤く光る。その数五本。
「ちょっと荒っぽいけど、これでOKよね♪」
 あやこはそう言って笑うと、武器を再びエナジーガンに持ち替えた。
 そして一行は倒れず残っている潅木、すなわちキメラに近づく。
 すると灌木型キメラから蔦が一斉に伸びてきた。狙われたのは有希一人。
「何でうちが!」
 それはともかく、五方から蔦が伸びてきて有希を絡めとろうとする。
「させません!」
 リリィがSMGを蔦に連射し有希を守ろうとする。だが銃弾では効果が薄いようだった。
「燃えちまいな!」
 アレックスがエクスプロードで蔦を焼き払う。
「させん!」
 紗夜が二本の刀で蔦を切裂く。
「させない!」
 リュドレイクも鬼蛍で蔦を切裂く。
「鬱陶しい‥‥誰の許可を得て生息しているのです? 消えなさい」
 ギィが爪で切裂く。
「少なくとも私は許可した覚えはない」
 優が月詠で蔦を切り裂く。
「ふう‥‥みなさん、ありがとうございます」
 有希が礼を言いながら、一本の灌木型キメラに近づきその刀で断ち切る。
「えい! 消えなさい!」
 あやこがエナジーガンで別の灌木型キメラを撃つ。そして方向を変え計4回。
 灌木型キメラはぷすぷすと火を放ちながら倒れた。
 雪は蛍火を小銃「S−01」に持ち替えると、森の奥の木々に向かってそれを撃った。
 フォース・フィールドの反応は三本。それ以外の木には銃弾をペイント弾に入れ替えて目印をつける。
 合金軍手をはめ小銃を懐中電灯に持ち帰ると、深い森の中へと入っていった。
 リュドレイクも合金軍手をはめ、鬼蛍で下草を刈りながら森に入っていく。
 襲い来る蔦をかわし、灌木型キメラを鬼蛍で切り倒す。
 リリィは小銃「フリージア」とアーミーナイフに武器を持ち替えて森に入る。
 リリィは蔦が襲ってくる前にペイント弾のついていない潅木に向かって駆け寄り、アーミーナイフで切りつける。
 灌木型キメラは耳障りな悲鳴を残して倒れていった。
 アレックスはエクスプロードで灌木型キメラを倒すと、持ってきた消火器で火を消して森林火災にならないようにする。
「いっそのこと全て燃やしてしまえばいいなどと我は思うのだがな‥‥」
 冗談なのか本気なのか紗夜はそんなことを言いながら森へ入っていく。

「もう一回行くわよ」
 あやこはそういいながら再び大口径ガトリングガンに持ち替え、森の中に銃弾をばら撒く。それは的確にただの木とキメラの区別をつける。そして一同は先ほどと同じ要領で灌木型キメラを駆除していく。
 そして一時間程度で東の森の探索が終ると、今度は北部の探索となった。
「完全殲滅、それが任務だ」
 紗夜の言葉通り、それが任務だった。一同は若干消耗しているが、それでも北部の探索を行った。
 そして、全てのキメラを駆逐して南の海岸に戻ってくる。
「あーっ、つかれた。これで全部か? 任務完了、ってな」
 アレックスが肩を鳴らしながら解放された口調で言う。
「えっと、他には残ってませんか?」
 リリィが尋ねるとリュドレイクが
「駆除漏れのないのは確認していますよ。コヨーテ型もあの後見つかりませんでしたし、任務完了でしょうね」
 と言った。
「はー! 神経ば磨り減る任務だったー!」
 有希がそういいながら海岸に倒れこむ。
「まあ、無事任務を完了したことですし、海に入って血を洗い流されては?」
 そう、有希は最初に血袋を破って付けた血がいまだに残っていた。
「もう乾いてますから、あとで洗濯ですね」
 有希はそう言って雲が晴れてきた海岸で空を見上げる。
「観光地とはいえ、天候不順でしたが、どうやら晴れてきたようですね。先日深海まで潜ったばかりですし、浜でゆっくりさせて頂きましょうか。荷物番でしたら、お引き受け致しますよ」
 ギィがそういうと、あやこが、
「それじゃあ荷物番よろしく」
 と言うと服を脱いで下に着込んでいた黒の紐ビキニ姿になる。
「はわわわわ」
 有希が慌てる。刺激が強すぎたようだ。
 あやこはビーチに横になって甲羅干しすると、
「有希君、オイルぬってくれない?」
 と悪戯っぽく尋ねた。
「はわわわわ。え、遠慮しておきます!」
「そう、残念ねえ‥‥」
「俺がぬろうか?」
 アレックスがそう申し出ると、紗夜が「馬鹿者」と鉄拳制裁する。
 それを見て一行に笑いが溢れた。神経をすり減らす任務が終って、開放的になったようだった。
 こうして、南の島のキメラ討伐任務は終った。一行はしばらくビーチで遊んだあと、日が暮れるころになって空港に戻った。
「諸君、ご苦労だった」
 ヴァージニア・グリーン(gz0151)が一行を出迎える。
「お疲れ様です、ヴァージニア少尉」
 ヴァージニア少尉に会いたがっていたリリィは、出掛けに挨拶できなかった分も含めて、彼女に挨拶をする。
「ああ、ご苦労だったな、リリィ。そして傭兵諸君。任務の完了はこちらでも確認している。規定の報酬を渡そう。ついてきてくれ」
 一行はヴァージニア少尉についていって報酬を受け取ると、その場で解散となった。
「また何かの任務で一緒になることがあったらよろしくな」
 リュドレイクがそう言って空港を発つ。
「うちは一晩ここで泊まって洗濯せんと‥‥」
 有希は洗濯のために空港に一晩泊まることを選んだ。
「ヴァージニア少尉、よろしければ夕食ご一緒しませんか?」
 リリィがそう尋ねると、ヴァージニアは「喜んで」と答えた。
「さて、我も帰るか」
 紗夜はもう用はないとばかりにリュドレイクの後を追った。
「俺も帰るかな」
 アレックスもラスト・ホープ行きの最終便に乗り込む。
「私も帰りましょう」
 優もその後を追った。
「私は少し疲れをとってから帰りましょう」
 ギィはコーヒーを飲みながら空港に宿泊することを決めた。
 あやこは空港のロビーになぜか置いてあったったピアノで得意のジャズを弾きながら一行のそんな様子を眺めていた。そしてピアノを弾き終わると、いつの間にか集まっていた聴衆から拍手が沸き起こる。
「ありがとうございます」
 あやこは微笑むと一礼をしてアンコールにこたえてもう一曲弾き始めた。
 しっとりとしたピアノの音色が夜の空港を飾り立てる。こうして、罠を張ったキメラとの戦闘・討伐任務は静かに終ろうとしているのであった‥‥

(代筆:碧風凛音)