タイトル:落せ! 有翼の纏鎧女マスター:鴨山 賢次

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/05/21 23:55

●オープニング本文


 長閑な山道だった。
 斜面を覆う針葉樹林が晴れれば、地平線が顔を出す。野原は春風を受け、陽光を運ぶ波を描いている。
 遠くに赤い屋根が見える。あの家までどれくらい離れているのだろう。届きそうな気がして、ゆっくりと手を伸ばした。

 カタ、と鳴る。
 窓に立て掛けたライフルが倒れ、ジル・ヴィレールを現実へと引き戻した。
「お目覚めかな?」
 ドライバーの声に、警戒を怠っていることに気づく。
 今は仕事中。コンテナを積んだ10tトラックの助手席で、いつ襲い来るか分からないキメラに備えるのが、ジルの役割だ。
「寝てなんか‥‥いました。ごめんなさい」
「良いってこった。若旦那も毎日大変だろ、昼も夜も働き詰めでよ」
 ジルが正直に白状すると、ドライバーは笑って許してくれる。
 若旦那。
 ジルが乗っているのは、ヴィレール運送‥‥一昨年まで彼の父が社長を務めていた運送会社のトラックだ。今は別の女性が社長を代行しているが、いずれはジルが社長業を継ぐのだろう。
 少なくとも、社員であるドライバーはそう思っているらしい。実際にどうするべきなのか、ジルは判断できないでいた。
「遅くまで働いているのは姉さんですよ。僕はお茶を淹れているだけです」
 窓から体を乗り出し、周囲を見渡す。
 トラックは再び斜面に囲まれていた。木々の揺れは穏やかで、稜線に見える影は鷹のもの。聞こえてくるのは風の音、エンジンの音。タイアの弾いた小石が爆ぜ、ラジオからはノイズ混じりのクラシック。不審な点は無かった。
 その時は、まだ。


 3枚取り付けられたサイドミラーに影が差す。うたた寝していては見落としてしまいそうな、桃色の影。
「おじさん」
「来なすったか。一月ぶりの当たりだなぁ、オイ」
 毒づきながら、ドライバーがクラッチを踏み込む。ギアを上げ、アクセルを踏む。
 ライフルを掴み、ジルは窓から体を乗り出す。スピードを上げるトラックの屋根に上ると、コンテナへと飛び移る。
「鳥‥‥? 速いな」
 後方に見える姿は、2枚の翼を羽ばたかせているように見えた。桃色の両腕が上下する度に、その姿が大きくなる。ぼやけていた輪郭が次第に鮮明になっていった。
 深紅の髪は逆立ち、瞳の無い眼がジルを捉えている。大きな鳥類の足の先、3股の鉤爪が鈍く光る。
「ハーピィ、か。初めて見た」
 膝をつき、ライフルの銃口をハーピィへと向ける。
 コンテナごと揺られる身体、身体ごと揺られる銃身、直観と経験則で照準を合わせ、気付いた。
 ハーピィの胴体を包む、深緑の衣。体毛かと思っていた其れに、ジルは見覚えがあった。
(傭兵用の‥‥ジャケット)
 ハーピィの羽ばたきに合わせ、フロントが開いたままのジャケットがはためく。ラスト・ホープへ買出しに出た時、傭兵たちと共に仕事をした時、何度も見てきた装備品だった。
 チッ。
 舌打ちしながらライフルのサイトを覗く。ジャケットに目を奪われている間に、有効射程に入られてしまった。
 狙撃眼の練力を惜しみながら、胴体に照準を合わせ、引き金を引く。普段なら羽根を狙う飛行系のキメラでも、速射では精度に欠ける。
 弾丸はフォースフィールドを突き破るも、ジャケットに阻まれた。
 急降下してくるハーピィの反撃を横っ跳びで避わす。コンテナに予め取り付けておいた命綱を掴み、落下を防ぐ。
「今度‥‥こそ!」
 コンテナの側面に足をかけ、片手でライフルを構える。羽根に狙いを定め、撃った。
 命中。落下するハーピィに向け、もう一射。命中。それで静かになった。

「ふぅ‥‥」
 コンテナによじ登り、一息つく。まだ早い。吐いた息をすぐに吸い戻して、ライフルをリロードする。
 すぐに射撃体勢に戻り、後方を見た。
「げ」
 射撃の音に気付いたのだろう。遠く、山林から飛び出てくる、鎧を纏う翼女達。
「おじさん、全速力!」
 叫ぶ。あんな数‥10体は居る‥勝てるわけがない。
 来るな、来るな、来るな! ひたすら願いながら、銃を構える。
 トラックのスピードが法定速度を軽く超え、ハーピィ達の姿が遠ざかる。

 コンテナの上に落ちたドックタグに気がついたのは、彼女達が完全に見えなくなってからだった。

●参加者一覧

夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
イーリス(ga8252
17歳・♀・DF
蛇穴・シュウ(ga8426
20歳・♀・DF
レイヴァー(gb0805
22歳・♂・ST
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG
崔 美鈴(gb3983
17歳・♀・PN
皓祇(gb4143
24歳・♂・DG

●リプレイ本文

 一陣の風が樹木を撫でる。葉々が擦れ、木漏れ日が揺れる。
 靡く純白の長髪を押えながら、リリィ・スノー(gb2996)が頭を下げた。
「ジルさん、宜しくお願いしますね」
「こちらこそ。宜しくお願いします」
 妖精に語りかけられた。そんな錯覚に陥りながら、ジル・ヴィレールが返事をする。
(傭兵には綺麗な人が多いな)
 自分より小さなリリィに気圧されるジルに、背後から声がかかる。
「失礼します。ジルさん‥‥ですね。この度はよろしくお願い致します」
 振り返って、驚く。そこには桜色の着物に身を包んだ白雪(gb2228)が立っていた。
「宜しく‥‥お願いしま‥‥す」
 瞳を閉じ、ゆっくりと礼をする白雪もまた、ジルが目にした事の無い程の美女だった。中高年の男性とばかり仕事をしているジルは、義姉以外の女性に免疫が無い。思わず声が上擦る。
 リリィと白雪に挟まれ、助けを求めるように周りを見渡すと、見知った顔がコインを弾いていた。
「レイヴァーさん!」
 助かったと、駆け寄る。ジルに気付くと、レイヴァー(gb0805)は受け止めたコインを確かめ、内ポケットへと仕舞いこんだ。
「どうも、久しぶりですね。随分と逞しくなったようで」
 ジルの姿を見て、レイヴァーが微笑む。
 生傷の残るジルの体は、始めてみた9ヶ月前に比べれば、格段に大きくなっている。しかし、レイヴァーはジルの体格ではなく、瞳の奥に宿り始めた、小さな意思に満足を感じていた。

「ハーピーな、何でも中々色っぽいキメラのようだが‥‥」
 瓶詰めの酔い止め薬をガリガリと齧り、夜十字・信人(ga8235)は空を見上げていた。
「やってみるか」
 ライフルを持ったまま、瓶の蓋を閉める。ちょうと通りかかった崔 美鈴(gb3983)に向けて、薬瓶を投げ渡した。
「何これ‥‥ホントに効くんですかー?」
 受け止めた瓶を掲げ、美鈴が問う。瓶を振ると、ジャラジャラと錠剤が鳴り、美鈴のツインテールも揺れる。
「コレなら私特製のお薬の方が効きそうっ☆ 飲みます?」
「次の機会に頼む。薬の併用は危険だからな」
 普段なら受け取るであろう信人も、バッグを漁りだした美鈴から不吉なモノを感じ取る。何しろ、美鈴の手には抜き身の出刃包丁が握られている。
「冗談だよ! 私の手作りはあの人に食べてもらう為にあるんだから」
 頬を染めながら言い、美鈴はトラックへと乗り込んだ。
「10tトラックって、けっこう大きいんだね☆ 横転注意?」
 ダッシュボードに包丁を仕舞う美鈴を見て、信人はもう一度空を振り仰いだ。


「肩を並べて戦えるのは、先生冥利に尽きますね♪」
 2台のトラックと1台のバイクが、長い山道を北上している。
 コンテナの上に座り、蛇穴・シュウ(ga8426)は嬉しそうにジルと話していた。片手で風防を作り、タバコの火を護っている。
「でも残念です。ニネットさんにもお会いしたかったなー」
 唸りながら、風下を向いて両手を組む。大げさなアクションを懐かしみ、ジルは笑みを零す。
「姉も顔を出したがっていたんですが、トラックの持ち主へ、挨拶に行かなきゃいけませんから」
 ジルがコンテナを叩くと、スイッチを入れたままの無線機からレイヴァーの声が聞こえてきた。
『そう言えば、2台で型が違いますね。この車はヴィレール運送の物では?』
 シュウも煙を吐きながら、ジルを見つめる。会話が聞こえたのか、索敵中の白雪も顔を向けていた。
「それが‥‥」
 もともと貸し出し予定だったヴィレールの10tトラックは、遠距離運送用‥‥つまり、高速道路での走行を前提に作られたオンロード車だった。能力者達の作戦が、平原での射場戦闘だと聞いたニネット・ブローリ(gz0117)は、大慌てで交流のある建設会社に連絡をとった。
 ヴィレール社のトラックで平原を走れば、サスペンションや各駆動部分が耐えられない。平原と言っても、整地された”平らな土地”ではないのだ。
「それは、ご迷惑をお掛けしてしまいましたね」
 申し訳無さそうな表情を浮かべる白雪に、いいんですよ、とジルが言う。非は、説明不足だったニネットにある。
『これは、益々慎重に行かないと‥‥ね』
 レイヴァーの声に、コンテナ上の3人が頷いた。

「戦場荒らしですか‥‥」
 もう1つのコンテナの上、外套と金髪を靡かせたイーリス(ga8252)が呟いた。
「戦死した能力者の装備を利用するなんて‥‥厄介ですし、許しません」
 自分と同じ大きさのライフルを持ったまま、リリィが宣言する。
「取り戻して、ご遺族に返してあげたいですね」
 足元からの声に、イーリスが道路を見下ろすと、リンドヴルムに跨った皓祇(gb4143)がイーリスを見上げていた。独白のつもりだったが、どうやら聞こえたらしい。
「そうですね」
 イーリスが頷く。脳裏に浮かんでいた”横流し”の3文字が、顔に出る事は無い。ポーカーフェイスはメイドの嗜みである。
「キメラが能力者の装備を流用する。余り聞いた事の無いケースだ。気を引き締めて行くぞ」
 双眼鏡を覗きながら、信人が言う。
 長かった山道が晴れた。見渡した平原は、穏やかな風に揺られていた。



 トラックに先行し、平原に乗り込んだのは皓祇のリンドヴルムだった。
「問題ありませんね」
 雑草を散らせ、リンドヴルムが徐々に加速を始める。車体を左右に振り、蛇行させた。
 タイヤが芝ですべりそうに成るが、問題は無い。皓祇の技量と経験があれば、急な旋回でも転倒する事はなさそうだった。
 皓祇がミラーを覗くと、2台のトラックが続いていた。皓祇はリンドヴルムの速度を落し、トラックと並走する。3台が北側の樹林に近づくと、エンジン音に混じり、羽音が聞こえてきた。
「来ましたか」
 1つ、2つ、3つ。皓祇が見上げると、針葉樹の上に桃色の影が躍っている。
「あはははははは!! 狩りの時間って感じ!?」
 美鈴がアクセルを踏み込み、レイヴァーと皓祇がそのスピードに合わせる。
 コンテナの上では、6人の能力者達が狙撃体勢を取り始めた。


「く‥‥結構大変だな」
 暴れるハンドルを押さえ込み、覚醒したレイヴァーがうめく。
 野草に隠れた凹凸を見切り、進路を修正する。多少の岩石であればトラックの重量で踏み砕けるが、泥濘に落ちるのは致命傷だ。タイヤを取られれば、そのまま横転してしまう。
 能力者であれば、時速100kmで放り出されても死ぬ事は無い。だが、野原に飛ばされた3人はハーピィの格好の的となるだろう。決して、運転を誤るわけにはいかない。
 勿論、路面の相手だけをすれば良い訳ではない。ハーピィとの距離、美鈴のトラックとの距離を目測し、常に調整しなければならない。
「こちらレイヴァー。リクエストはありませんか?」
 苦心を仲間に悟られないように、無線機で問い掛ける。
『大丈夫ですよ。快適とは言えませんが。‥‥そろそろ交戦射程に入ります』
 返答は数秒後、苦笑交じりのシュウの声に続き、2発の銃声が響き渡った。

 二挺のアンチシペイターライフルが口火を切る。
 先頭を飛ぶ2匹に向け、銃弾が疾った。信人の第一射は回避される。狙われたハーピィが金切り声を上げ、信人に牙をむく。
「速い‥‥っ。だが、捉えられんわけでも無いか‥‥」
 出発前にジルから受けたアドバイスを思い出し、再び狙いを定める。呼気に合わせ、コンテナを強く踏む、即座に下肢の力を抜いた。
 コンテナのアトランダムな揺れに対応するのではなく、自分から銃身を揺らす。狙撃が成功するタイミングは刹那。それを読みぬき、引鉄を合わせる。命中。ハーピィの腹部を、纏ったジャケットごと、ライフル弾が貫いた。
 しかし、ハーピィは構わず迫り来る。そのハーピィの翼を、リリィの弾丸が射ち抜く。
「さすがに‥‥車上での狙撃は難しいですね‥‥」
 第一射から翼を狙い、かつ命中させていたリリィ。仲間との連携射撃を考えていた信人だったが、リリィに関してはその必要すらなかった。
 テレスコピックサイトを覗き込み、リリィの瞳が敵を捉える。徐々に間合いを詰めるハーピィに対して、一発も外さない。やがて、射たれた一匹が草原へと落ちていった。
「仕事ですね」
 バイクの車体を横倒し、スリップを利用して一気に減速する。リンドヴルムを身を覆った皓祇は、次の瞬間にはハーピィの落下地点へと移動していた。脚部のスパークが収まらぬ内に、皓祇は雲隠を抜き払う。
 遺品をこれ以上傷を付けたくない。剣閃は一文字に、ハーピィの首を跳ね飛ばした。
(返してもらいます)
 直ぐにリンドヴルムをバイクへと戻し、思い切りアクセルを回した。トラックに追いつき、皓祇は次の獲物へと備えた。

「難しいものですね」
 イーリスが加わり信人とリリィの3人で射撃を続けるが、ハーピィとの距離は徐々に縮まっていた。2匹目の撃墜に成功するも、3匹のハーピィに追いつかれてしまう。
 姿勢を沈めたまま銃撃を繰り返していたイーリスは、ベルニクスへと得物を切り替える。信人も、コンテナに突き刺していたクナイを一本引き抜く。
 急降下するハーピィをイーリスが迎え撃つ。3つの爪が交錯し、イーリスの肩が切り裂かれた。
「く‥‥」
 イーリスにも手応えがあったが、必殺のそれではない。回復する間を惜しんで振返ると、ハーピィは運転席の真上に飛び移ろうとしていた。
「させません!」
 イーリスの両腕が撓る。高速で交差したベルニクスから、真空の刃が放たれ、ハーピィを吹き飛ばした。追撃しようと、イーリスがライフルに手を伸ばす。それよりも早く、ハーピィの頭が弾け飛んだ。
 接近された一匹を撃ち落したリリィが、援護してくれたのだ。残りの一匹も、信人によって斬り倒される。
「最後だ‥‥。車上での白兵戦、いい経験だったよ」
 肩と横腹に裂傷を負いながら、信人がハーピィへと終わりを告げた。


 コンテナの端に、白い射手が立つ。
 覚醒によるものなのか、白銀に染まった髪が風に舞う。白雪、いや、真白は正面のハーピィへと矢を放った。牽制射撃のつもりではあったが、命中。
「馬鹿ね‥‥本当に」
 味方の流れ弾を利用するつもりだったが、その必要すらないのか。ため息を吐き、真白は次のハーピィへと矢先を向ける。
 次々に射掛けるが、矢番の間にハーピィの接近を許してしまう。射撃での対応を諦め、真白は二刀へと持ち替えた。
「頭も使わず猪突猛進。勇ましいと言いたい所だけど‥‥貴方達馬鹿ね」
 飛び掛ってくるハーピィへとソニックブームを放つ。衝撃破がハーピィを襲うが、倒しきれない。
 そのまま迫り来るハーピィを見て、真白は両目を細める。愚かだ。
「その羽。毟り取ったらどんな声を上げてくれるかしら?」
 減速したハーピィの攻撃を摺り足で避わす。側面を見せたハーピィへ、血桜と月詠が跳ねた。一瞬で両翼を失い、ハーピィが落下する。
「幾らでもいらっしゃい‥‥」
 弓を持ち直した真白の頬に、一滴の返り血が線を引いている。トラックの前方へ回り込んだハーピィへ、矢を射掛け。白い死神が微笑んだ。

「ジル君が頼りですよ!」
「はい!」
 小銃を射ちながら、シュウが叫ぶ。ジルは応えながら発砲、一匹を撃ち落す。皓祇が止めに向うのを見て、二人は上空へと意識を戻した。
 右方から一匹、ジル目掛けて飛び掛ってくる。
 させない、とシュウが迎撃射撃を行う。が、当たらない。舌打ちしながら、シュウはハーピィとジルの直線上に立った。
 頭から突っ込んでくるハーピィを、蛍火で受け止める。凄まじい衝撃がシュウを襲うが、ダメージは無い!
 推進力を奪われハーピィがコンテナに足を突く。そこに、シュウが襲い掛かった。
「ぜっ!」
 シュウの声に反応し、ハーピィが再浮上しようと翼を広げる。が、遅い。左に一歩踏み込んだシュウが、刃を振るう。赤い残像を残し、蛍火はハーピィの翼を断ち切った。
 肩から血飛沫を吹き、絶叫を上げるハーピィへ、シュウが追撃する。大上段からの一撃が、ハーピィの頭を切り裂いた。


「鳥女って頭の中もトリなのかな? こんな広いとこじゃ不利だってわかんなかったの?」
 戦闘が終わり、美鈴は森の傍にトラックを止めた。
 レイヴァーからの報告も含め、倒したハーピィの数は10体。美鈴が確認できたものは、全て防具を身に纏っていた。
「怪我してた奴も居なかったし、やっぱり森に居るのかな」
 ジルが見たキメラは11体。少なくともあと1体が、森の中に残っている筈なのだ。
 美鈴はダッシュボードから包丁を取り出し、トラックを降りる。他の7人も、既にトラックを降りていた。
「巣や溜まり場があるのかもしれません。捜索する必要がありそうですね」
 皓祇がリンドヴルムを身に纏い、ライトで森を照らす。
「キメラの巣‥‥あんな人っぽいのが、森の中に巣?」
 唇に指を当て、美鈴が首を傾げる。想像し難い。
「一応確認しておきません? 残りの1匹も気になりますし、もしかしたらまだ居るかもしれません」
 リリィの提案に、皆が同意する。皓祇を先頭に、能力者達は森への一歩を踏み出した。

 ジルの記憶を頼りにハーピィの撃墜地点を探す。30分程森を歩くと、そこにはハーピーの死骸があった。
「これは‥‥」
 照らし出された光景を見て、皓祇は言葉を失う。
 体毛で覆われた胸には、深い爪痕。傍らに引き千切られた翼が転がっている。周囲には羽根が散らばっているが、纏っていたジャケットは見当たらなかった。
「血が広がってない。死んでから剥ぎ取られたんだ‥‥。自分の仲間に」
 美鈴が眼を細める。奪うものは、奪われる。そのハーピィの姿は、当然の報いでもあった。
「これで11匹ね」
 真白は呟くと、周囲を見渡す。ハーピィの死骸を除けば、特に異変は無い。
 皆が再び探索に戻ろうとした時、レイヴァーの無線機に呼びかけが入った。
「こちらレイヴァー。って、トリスか‥‥。わかった、あと30分程してから、そっちに向うよ」
 その後、能力者達は2組に分かれ森を調べたが、キメラの痕跡は発見できなかった。



 トラックに戻った能力者達は、ハーピィの死骸や、能力者の遺品を回収すると、道路を北へと向った。
 道路封鎖のポイントまで辿り着くと、挨拶回りを終えたニネットが顔を見せる。
「社ッ長ッ代理〜♪」
 シュウはコンテナから降りると、そのままニネットに飛びついた。
 ニネットをハグしながら、身体を揉みまくる。そんなシュウをよそに、ニネットに信人が歩み寄る。
「すみません、コンテナの天井、穴開いてます」
 唐突に謝罪する。クナイの件を説明すると、構いませんよ、とニネットは笑って許した。
 続いてイーリスと皓祇、そしてシュウが、遺品や死骸の運搬を依頼する。ニネットが了解すると、3人は胸を撫で下ろした。


 有翼の娘達に奪われた品々は、翌日ULTの支部へと届けられた。
 これらの品々が遺族の元に帰るのは、それから暫く後の事である。