タイトル:【Gr】皆で! 戦う覚悟マスター:鴨山 賢次

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/19 00:20

●オープニング本文


 ニュース番組で、ゾディアックの演説が再放送されている。
 フランスの運送会社、ヴィレール運送のオフィスでは、ニネット・ブローリがその演説をBGMに書類を整理していた。
『‥‥った彼らの余命は如何ほどかね? 彼らは子孫を残‥‥』
 かつての彼女なら、心を揺らされたのだろう。しかし。
「人間よ。何も変わったり‥‥しない」


「姉さん!」
 ジル・ヴィレールが事務所の扉を開けたのは、私が遅い昼食を取り始めた時だった。
 ジルに押し付けられたお弁当カバーを開くと、お酢の匂いが部屋に広がる。
「ポルトガルまでの物資輸送って‥‥正気なの!?」
 今日は昼食は鯖の押寿司だ。名前は、えーっと‥‥バットレ、バレット、バレッタ、何だったっけ。
 生姜の酢漬けと、お米を区切っている葉っぱも可愛いと思う。これは確かバランって名前。
「姉さん、聞いてます?」
 ジルの声には気付かない振りをしていたが、流石に無理だ。
「何?」
「受注した仕事の話です! 軍事基地への輸送なんて、襲って下さい、って言ってるようなもんじゃないか!」
 それはその通り。でも、もう受けちゃったのよね‥‥。

 ジルが抗議してきたのは、UPCから依頼された補給物資の輸送だった。
 ピレネーを迂回し、スペインのレオン基地を経由、ポルトガルのポルトを目指す。
 人類の勢力圏内を通るとは言え、危険である事は間違いない。迎撃前のヘルメットワームに発見されれば、全滅の可能性だってある。
「でも、社員の皆は賛成してくれたわよ」
「な‥‥」
 輸送には運転手が要る。社のドライバー達に話を持ちかけたら、簡単に了解してもらえた。
「俺達に出来る事があるんなら、やってやる! ‥‥ってさ。その気持ちは、ジルだって同じでしょ?」
 戦っている人たちが居る。戦える人たちが居る。
 戦えない自分達にも、出来る事がある。
「少し多めに傭兵さん達を雇うわ。ジルはどうする?」
 ポルトガルには家族が居るんだ‥‥。そう言った運転手の顔が浮かぶ。

 能力者だって、軍人だって、一般人だって同じだ。
 覚悟は皆で、人類みんなでするものだって、今の私なら思えるから。

 ジルが頷く。
 私も、失う覚悟と、失わない努力をしよう。

●参加者一覧

時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
OZ(ga4015
28歳・♂・JG
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
レイヴァー(gb0805
22歳・♂・ST
鬼道・麗那(gb1939
16歳・♀・HD
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
フェリックス(gb3577
16歳・♀・DG

●リプレイ本文

 リヨンにあるヴィレール運送の倉庫。運転手達が保存食や雑貨の入った段ボールを運んでいる。
「物資の手配、礼を言う」
 アルヴァイム(ga5051)が、傍らのニネット・ブローリ(gz0117)に目礼する。
「今回は手配しましたけど‥‥。特別、ですからね」
 ビトリアへ差し入れをしたい。アルヴァイムの申し出にニネットは頭を悩ませた。
 依頼とは無関係な行動だが、ドライバー達の賛同が決定打となり、報酬からの天引きという形で物資の手配が行われた。
 軍のコンテナを無断で開ける訳にも行かず、荷物はトレーラーの仮眠スペースに積み込まれている。
 そんなコンテナも、外装への工夫をする事は問題ない。
 クレーン用のフックを利用して、熊谷真帆(ga3826)がロープをコンテナに結び付けている。真帆が持ち込んだテント用のロープは勿体無いため、社の備品が提供された。
「時任さん、そちらはどうですか?」
 別のコンテナの上で、時任 絃也(ga0983)がロープの強度を確認している。覚醒してロープを引くが、手応えに不安は感じない。
「完了だ。これなら戦闘にも耐えられるだろう」
 真帆に答えながら、覚醒を解く。練力は少しでも温存しておきたかった。

「始めまして、カンパネラ学生の鬼道と申します。若輩者ですがどうぞ宜しくお願いいたします」
 鬼道・麗那(gb1939)が頭を下げる。その優雅なお辞儀は南雲 莞爾(ga4272)に向けられていた。
「宜しく頼む‥‥」
 莞爾は動作確認を終えた無線のスイッチを切り、麗那に手渡す。ヴィレール社が用意した、長距離通信が可能な無線機だ。
「何か有れば駆けつけます。お気をつけて」
 無線を受け取り、麗那が莞爾を見つめる。その新緑の瞳に軽く笑みを返し、莞爾はパートナーの下へと歩いていった。

「レイヴァーさん、此方でしたか」
 綾野 断真(ga6621)が声を掛けたのは、レイヴァー(gb0805)がコインを弾き上げた瞬間だった。
「断真さん。お久しぶり」
 断真の視線がコインを追う。レイヴァーが受け止めるのを待ち、弁当箱を差し出した。
「ニネットさんからです。‥‥特製らしいですよ?」
 断真の言葉に、レイヴァーの頬を冷や汗が伝う。打ち合わせの際、気軽にした了解をレイヴァーは少し後悔する。
「ニネットさんのお弁当は、味は悪くないんですよね。食材さえ気にしなければ美味しく頂けるでしょう」
 もう一つの弁当箱、自分の昼食を見ながら断真が苦笑する。
 レイヴァーが右手を確認すると、白銀のコインが背中を向けていた。




「初日から襲われるなんて、明日は大丈夫なんでしょうか‥‥」
 ヴィレール運送、ボルドー支社の宿泊施設。安物のソファに座り、ドッグ・ラブラード(gb2486)が一日のレポートを纏めている。
 リヨンを出発した傭兵達は、道中でキメラの襲撃を受けていた。フランス国内での遭遇に驚きを感じつつも、接近される前に撃退している。
「ったく。何が治安はいい、だ。このヤマ、漏れてんじゃねぇだろうな‥‥」
 ドッグの向かい側で、OZ(ga4015)がその痩身をソファに沈め、ブツブツと呟いている。そんなOZの頭上から、鼻に掛かった声が聞こえてきた。
「嬉しそうにライフルを乱射していたと聞いたが。きみ 、キメラを歓迎してたんじゃないのかい?」
 フェリックス(gb3577)が手で仮面を押さえながらOZを見下ろしている。
 ドッグが交戦時のOZを思い返し、あぁ、と納得する。当のOZはニヤニヤと笑っていた。
「へへ、野郎ばっかりに囲まれてちゃ色々溜ま‥‥っと、そうだ。ジルを知らねぇか?」
 OZが思い出したように立ち上がる。回りを見渡すが、ジルの姿は見えない。
「ジルさんならUPCと本社に連絡しに行きましたけど。何か用が?」
「ジルに通訳させて、おねーさんでも引っ掛けようと思ってよ」
「仕事中だぞ‥‥。何を考えてるんだきみは」
 満面の笑顔で答えるOZに、フェリックスが大げさにため息をつく。
「いーじゃねーかよー。そだ、ナンならお前らも一緒に来ねぇ?」
「んな!?」
 OZの提案に、フェリックスが壁際まで後退る。
「すまないがわた‥‥僕は覚醒すると見るに堪えなくてね。き、きみの力には成れないと思う」
 ずれた仮面を直し、では、とフェリックスが歩み去る。残されたOZが呆然としながらドッグに向き直ると、既にソファには誰の姿も無かった。
「わわわわわ私もレポートがありますのでっ!」
 玄関からドッグの声だけが聞こえてくる。
「何なんだ、あいつ等‥‥」
 OZがテーブルに目をやると、書きかけのレポートが散乱していた。



 毎朝続けられるドッグの祈りが届いたのか、一行は何事も無くピレネー山脈を通過した。
「こちら鬼道、全車の渡河を確認しました。合流しますので、トレーラーを2列縦隊に戻してください」
 麗那は停止させたリンドヴルムの上で、左手に聳え立つ、純白の稜線を見上げる。
『了解した。速やかに合流してくれ』
 無線機から、絃也の声に混じって風の音が聞こえてくる。橋を渡る前に、コンテナの上に移動したからだ。
 山脈を迂回するルートを取ったとは言え、山には多数のキメラが潜んでいるだろう。強い海風を受けながら、絃也や真帆はコンテナ上での警備を続けるのだろう。
(出来れば観光で来たかったですが、平和を勝ち取るまでお預けです)
 真帆の言葉を思い出しながら、麗那はグローブを嵌めなおす。排気音を残し、リンドヴルムが橋を渡り始めた。


「少し先行しすぎたか?」
 双眼鏡を片手に莞爾が呟く。フェリックスと共に斥候に出た二人は、既にビトリアに到着していた。
 先行の目安として、フェリックスが提示したのは1時間。調査や警戒を行うため、トレーラーとの距離はまちまちだったが、平均して40km先を走行していた。
 キメラへの警戒としては些か遠すぎる。結果として、フランス領内での野良キメラの奇襲を許してしまった。
 しかし、車道の状態を確認するには十分で、キメラの大群やゴーレム・ヘルメットワームの行軍を回避するには、必要な距離と言えた。
「トレーラーが着くまで、20分ぐらいかな。念のため、折り返そう」
 フェリックスが速度を落とし、リンドヴルムを対向車線にターンさせる。周囲には崩壊した建物や、草原の焼け跡が広がっているが、道路は修復されており、トレーラーの走行には問題無さそうだった。
 そんな時、莞爾の腰に縛り付けられた無線機に通信が入る。
『こちらアルヴァイム。4体の獅子型キメラと遭遇し、応戦中だ』
「了解、急行する」
 莞爾が通信を終えると、リンドヴルムが加速する。斥候は、元来た道を引き返した。

 前方の護衛班や、先頭の車両に乗った絃也によって、キメラの接近は阻止された。
「猛獣使いに喧嘩を売るとはいい度胸ですね!」
 減速しつつも、併走してくるキメラに向けて、コンテナ上の真帆がスコーピオンを乱射する。
 足元への射撃で牽制すると、キメラの接近が止まる。
 胴体を狙うと、ダメージの代わりに距離が縮まる。
 足止めに専念すべき。真帆がそう判断したとき、車道から飛び出した後方の護衛班の援護射撃が加わった。
「こういうケースだと、止まって貰うのが定石でしょう」
 断真のライフルが火を噴き、キメラの膝関節が弾け飛ぶ。
「‥‥‥‥」
 右手でハンドルを操り、左手に小銃を構え、レイヴァーがアクセルを踏む。キメラを射程に収めて発砲しながらも、彼は別の事を考えていた。
「ジルさん‥‥どうします?」
 レイヴァーが見据えるのは、遥か前方‥‥とは言えない程に近づいた、ビトリアの町並。ここでキメラを引き離せば、トレーラーの代わりに襲われるのは、町の復興に従事する人々だ。
 バッグミラー越しに見えるジルが、一瞬戸惑いの色を浮かべる。が、それは直ぐに決意へと変わる。レイヴァーが安心してキメラに視線を戻すと、無線機のスイッチを入れる音が聞こえてきた。
「私達が届けるのは荷物だけで十分です。キメラはここで倒しましょう。依頼主としての‥‥お願いです」
 ジルの言葉に頬を緩め、断真がライフルをリロードする。
「練力は温存したい所ですが、一般人が襲われては、美味しいお酒も飲めませんね。此処でご退場願いましょう」
 断真が、急接近してきたキメラの脚に鉛弾を打ち込み転倒させる。
「でしたら、私達もお供します」
 レイヴァーが横を向くと、麗那と、コンテナからリンドヴルムに飛び移った真帆が、ジーザリオに並んでいた。
『話は了解した。手早くな』
 絃也の通信を聞き、4つの銃口がキメラの脚へと向けられる。獅子の疾走を阻み、5人は想定外の殲滅戦を始めるのだった。




 薪が爆ぜ、炎が揺れる。
 都市基盤を破壊されたビトリアの夜は暗く、電灯が灯された家屋は少ない。
「我々の未来に幸有らんことを」
 星空を見上げながら、ドッグが呟く。毎朝の祈りの言葉、その『我々』は何を指しているのだろう。
 夕暮れ刻に、少しだけ言葉を交わした子供達の笑顔を思い出す。彼等の未来にドッグが贈れるのは、ささやかなプレゼントだけだ。
「交代だ」
 掛けられた声に振り向く。そこには、暗視スコープを片手に提げたアルヴァイムが立っていた。
「お疲れ様です!」
 ドッグが挨拶すると、アルヴァイムは頷きながら口元に指を当てる。夜更けには少し元気の良すぎる声だった。
「あの‥‥良かったですね。喜んでもらえて」
「あぁ。そうだな」
 ボリュームを下げたドッグに、アルヴァイムは苦笑を返す。彼の夕暮れ刻は、ドッグとは違う色をしていた。
 物資を受け取り、礼を述べる代表者の目には、二つの感情が浮かんでいた。支援を受けた喜びと感謝、そして大きな荷物を持ち込まれた不安である。
 バグアからすれば、攻撃対象に成り得る軍事物資。ヘルメットワームを呼び寄せかねない大荷物は、ビトリアの人々にとっては恐怖の対象でしかない。
 そんな感情を察し、アルヴァイムは郊外付近での宿泊と、能力者による夜警を提案した。人々への負担を和らげたかったからだ。
「ドッグさん、もう休んだ方がいいですよ」
 焚き火を背に沈黙する二人に向けて、レイヴァーが声をかける。彼もまた、ビトリアの街並を眺めるうちに、人々の視線に気付いていた。
「破壊なんて所詮、変わり続ける‥‥世に在り続ける輝きには敵うべくも無い」
 しかし、破壊の炎が落とした影は、今もこの町に染み付いている。
 再び薪が爆ぜる。歩哨へと向うアルヴァイムの影が、赤い炎に揺らされていた。




 レオン基地を発ち、ポルトを目指す途中。道路の脇で乗用車が横転し、周辺に被害者の身体が散らばっていた。
「どうやらこの道には何か潜んでるみたいだ。回避した方がいいと思う」
 まずトレーラーに連絡し、ルートの変更を提案しよう。新しいルートを選別し、その偵察を行う。
 スケジュールを組み始めたフェリックスを呼び止めたのは、路面を調べていた莞爾の声だった。
「戻るぞ。急いだ方がいい」
 道路に残された跡はキメラの爪でも、牙でもない。物体が高速で激突した陥没跡に、周囲に残された金属片。
 路面に足跡は無く。ただ、立去った狙撃主を物語っていた。

 絃也が取り乱さなかったのは、予め『自分には打つ手が無い』と覚悟していたからだ。
 絃也が誰よりも早くそれに気付いたのは、打つ手が無いからこそ、警戒に全力を注いでいたからだ。
 車道を挟む森の中から、一本の鉄柱が突き出されている。
 一流のスナイパーが扱うライフルの銃身とは違う、ヘルメットワームに取り付けられた砲身とも違う、歪な円柱。
「左方11時っ!」
 無線を手にとる時間すら惜しい。絃也はありったけの声量で、『打つ手を持っている奴ら』に敵襲を伝える。
 反応は一瞬だった。
 アルヴァイムがSMGを、OZがアサルトライフルを構える。
 銃身よりも素早く反応した眼球は、覚醒と同時にその精度を増し、森の中の敵を捉える。
「炙り出せッ!」
「心得た」
 OZの叫びと同時に、アルヴァイムが突き出された鉄柱の周辺に、弾を撒く。先制攻撃に驚いたキメラが、潜伏を諦めて木の間から飛び出した。
 飛び出したキメラの腹部を、OZの狙撃が打ち抜く。しかし、飛び出したのは1体だけではなかった。
 3体の巨大な狼を機械が侵食している。蒼い毛皮は、その背中から灰色の金属に変化し、そこから一本の銃身が生えている。
 異形の生命体の、更に1つ上の異形。バグアの技術と、邪道な知識の融合体だった。
 キメラの銃身を見て、アルヴァイムが胴体目掛けてSMGを乱射する。遠距離攻撃が可能な相手に、足止めは下策である。トレーラーを守りたければ、攻撃を自分達に向けさせるしかなかった。
「ドッグ」
「判ってます!」
 ドッグがハンドルを切る。車体を接近させると、キメラが砲身をジーザリオへと向けてきた。
 漆黒に染まったOZの眼球が細く絞られ、その肘から先が疾る。アサルトライフルを手放し、ベルトに挟んだ小銃を抜く。
 先手必勝。相手のモーションを読み、クイックドロウから放たれた弾丸が、キメラの砲身へと吸い込まれる。
「チョロいぜ」
 OZの嘲笑と同時に、キメラの背が爆発した。
 飛び散る仲間の胴体を避けたキメラに、アルヴァイムが銃弾を集中させる。額、頬、肩、前脚。身体中に風穴を通され、二体目のキメラが倒れる。
 そして、ガラスの割れる音が響いた。
「しまった!」
 ドッグが振返る。最後のキメラが、方向を転換してトレーラーを銃撃していた。
 食料を積んだ、先頭のトレーラーのボディが歪み、運転席前のガラスが砕け散る。
「野郎っ」
 OZが銃口を向ける。だが、S−01の銃声はトレーラーの運転席から聞こえてきた。
 運転席から伸びた太い腕の先、握られた小銃がキメラの眉間に狙いを合わせている。一番危険なポジションが運転席だと判断した絃也が、運転を交代していたのだ。
 引き金が絞られ、キメラの頭が爆ぜる。そこへ、真帆がコンテナの上から銃弾の雨を降らせた。
「時任さん! 大丈夫ですか?」
 命綱を握り締め、真帆が運転席を覗き込む。額から血を流した絃也が、ガラスの散らばったシートに背を預けていた。
「何とか」
 大きく息を吐き、絃也はハンドルを握り直した。




「危険な道中だったでしょう。皆さんの協力に感謝します」
 兵卒達が走り回る中、若い軍曹が傭兵達に向けて敬礼する。
 トレーラーの一部を破損させるも、傭兵達は8基のコンテナを、ポルトまで送り届ける事に成功した。
 ジルが納品書を手渡すと、軍曹は直ぐに踵を返した。
「慌しいですね。当然ですが‥‥」
 断真が周囲を見渡す。作戦中の軍事基地だ。暇を持て余す人間は一人も居ない。
「此処からは生きる意志を持つ者達の戦いだ。俺達も、な」
 莞爾の言葉に、傭兵達が頷いた。

 兵士達の声に混じり、海鳴りが聞こえてくる。
 この町の人々が、凱旋のワインを傾ける日はいつになるのだろう。