●リプレイ本文
と言うわけで、ネタ出しを引き受けた4人は、総合メディア研究部‥‥略して総メ部に集まり、打ち合わせをする事になった。
「ええと、確かこの辺り‥‥」
熊谷真帆(
ga3826)が貰った部室案内図を手に、棟の入り口で、現在地を確かめていると、後ろから「どうしました?」と、聞き覚えのある声がかかった。
「えっと、部室を探してて‥‥って、会長!? どうしてここに‥‥」
なんと、聖那である。校内の見回りをやっていたらしい。学園の皆が求めるものを自らの目で確かめるのも、重要な仕事と言うわけだ。
「何かお困りごとでも?」
「ええ、実は‥‥」
そう言って、真帆は依頼の事を話す。特に秘密にして欲しいとは描いていなかったような気がするが、会長だし、依頼には目を通している事だろう。
「人数が少ないようなら、私もお手伝いしてよいかしら」
「構わないですけど、その‥‥見回りの仕事は?」
興味を惹かれたらしい会長に、彼女は首をかしげる。だが、何かあれば執行部の面々が知らせに来るらしい。それを聞いて安堵した真帆は、『まぁいいか』と、部室まで案内して貰う事にする。
「ん、どうかしたのかね? 一人多いが‥‥」
既に、部室には依頼を受けたメンバーがいた。そう問うてくるミハイル・チーグルスキ(
ga4629)に、真帆は「飛び入り参加だそうです」と経緯を説明する。
「ふむ、まぁいい。女性が1人増えるのは大歓迎だ。VDなのだしね」
独身貴族で、女性と煙草とお酒は大好物の彼、夜の蝶々とはだいぶ趣が違うが、魅力的なお嬢さんである事には違いない。
「OK。さってと。面白いモンが出来るように手伝うとすっか!」
そう言って、早速作業に取り掛かるヤナギ・エリューナク(
gb5107)。聖那の「えぇと、作業手順はどうなりますの?」と言う問いに、「んーと、こんな感じかな」と、工程表を見せてくれる。
「なるほど、では打ち合わせには飲み物とお茶菓子がいりますわね」
「あー、手伝うぜ」
そう言って、お茶と茶菓子を用意する聖那。ヤナギがそう言って、お茶を注いで回っていた。
「わぁい、いっただきまーす」
「確かに絵は苦手なんだがな、話を考えるのだったら興味がある」
で、そのスナック菓子等々をつつきながら、そう答えるラガーナ・クロツ(
ga8909)。
「私も絵よりも文章の方が得意でね?」
「要は読み手が次のページをめくりたくなるような画面構成が必要なわけだ。頑張ってみるよ」
ミハエルは元々プロの脚本家だ。これなら、経験を生かして、面白そうな話がかけるかもしれない。
「まずはキャラ紹介からですね」
と真帆。
「もう少しロマン分を‥‥」
そこはこだわるミハイル
「BGMつけようぜ。バンドやってたから、ベースは得意なんだ」
味気ないから、色々おまけにもこだわりたいヤナギ。
「サンプルは演劇部の奴に頼めば良いと思いますわ」
「そのお兄さんの話、もう少し詳しく!」
聖那がモデルにぴったりそうな生徒を上げる中、担当生徒はラガーナをモデルにデッサン開始。
こうして、皆で意見を出し合い、それを総メ部の面々がイラストをつけていくのだった。
まぁせっかくだからと言う事で、電子化され‥‥試写会と言う事で、視聴覚室のプロジェクターを借り、出来上がりを見てみる事になった。あまり時間がないので、一般告知はされていないが、それでも『別クラスの友達』程度の人間が集まっていた。
幕が上がる先に待っていたのは、こんなお話である。
【第一話:出会い】
スクリーンにタイトルが表示される。原案の場所には、ヤナギの名前が書かれ、どこか和風なベースの響きが流れてくる。それもその筈、切り替わった画面には、日本の町並み。レンガ造りの洋風な建物と、古来の木造建築がごっちゃまぜになっている、そんな下町の風景。その片隅に、小さな花屋があった。
「あれ? マンガじゃなかったでしたっけ?」
「花が面倒だから写真になったらしいですよ。それに、こっちの方がヤナギのベースには合うんだそうです」
聖那そう答える真帆。こそこそと席でそんな解説が聞こえた。どうやら、第一話は写真を使った、プロモーションビデオっぽい感じだ。
「でもこれ、どこで撮ったの?」
「兵舎」
まぁ、あのあたりは、各傭兵の趣味趣向に応じて、様々な店と化している。花屋くらいあるだろう。個人経営らしく、小さなガラスケースの周囲に、埋もれるような花々が多数置いてある。だが、一つ一つをアップにしてみれば、それはどれもよく手入れされ、咲き誇るモノから、これから咲き頃を迎える蕾まで、種類豊富に揃っているのはわかる。そんな店には、一応と言う感じで、バレンタインデーのPOPが飾られ、鉢植えのいくつかには、赤いPOPが刺さっていた。
だが、それを手入れする金髪の店主‥‥よくみりゃ演劇部部長やってる金髪少年だ‥‥は、がっくりと肩を落としている。確かにカメラが回っても、誰もおらす、かえって日の光の暖かさだけが強調されていた。そして、『欧米では』と書かれたミニ知識のPOPが映る。どうやら、小春日和の中、花屋の店主は、この日本式バレンタインデーを歓迎していない様子。
そんな暇な本屋を訪れる女性。焦る店主。平静を取り繕うとするも何処かぎこちなくなる。そんな彼を、じっと見つめる女性。顔を上げ、持っていたかばんから、チョコレート菓子の包装紙で包まれた箱を取り出す。カメラがアップになったそれには、『好きです』と書かれたメッセージと‥‥花。
それを渡された店主は、しばし固まっていたが、ややあって、店の奥へと消えていく。戻ってきた彼の手には、白薔薇数本に赤薔薇が真ん中に1本だけ入った花束。メッセージカードの添えられたそれを、彼は女性へと差し出す。あっぷになったそこには『俺も、ずっと惹かれてた…』の文字。
「こんなもんじゃないか? 何か恥ずかしいのか?」
原作のヤナギ、不思議そうに首をかしげている。まぁ同じ事を自分がやる段になれば、こっ恥ずかしさで真っ赤になってしまうだろう。
画面のヒロインのように。
【第二話:当然】
休憩を挟み、2話目の上映となった。どうやら小説らしく、朗読スタイルになる。原案にラガーナの名前が書かれ、キャラクター紹介が行われた。まどかと言う女生徒に、茂と言う男子生徒らしい。イラストには、ラガーナによく似た姿が描かれていた。もっとも、彼女とは違って、黒髪の女性らしい姿だったりする。幼馴染と言う設定の男子生徒は、ラガーナ担当の生徒が、亡くなった兄の容姿を聞いてきたから、きっとそうなのだろう。
キッチンの音が視聴覚室に響く。ナレーションはこうだ。
『恋人の茂がいつも「君の好きにすれば」といって意見を真剣にきいているとは思えないまどか。「本当は私のこと、どうでもいいのでは?」「バレンタインにチョコ作ったってバカみたい…」「私可愛くないし、気も強いから、嫌になっちゃんたんだわ」と色々考えちゃったまどか、これが最後のチョコ。この気持ちが「どうでもいいよ、好きにすれば」と言われたら…その時の覚悟はある…』と。
「なんだ、甘いにおいがすると思ったら、チョコ作ってんのか」
「そ、そうよ。私が作りたいんだからつくってるの! ちょ、ちょっと!!なにすんのよ!!」
カツカツと響く足音。ボウルを取り合う音。調理室のサンプル音らしい。響いてくる音が立ち止まり、液体が揺れる音。
『また、好きにすればって言われるに決まってる…』
静かに、ナレーションがかかった。
「うぇ…なんだよこのチョコ。苦いじゃん…」
しばし、間。ヒロインの心の動きを表現するように。が、少年の声は、ややあってこう告げる。
「お前みたいな一癖あるチョコだぜ」
苦いと言いながら微笑む茂。自分を受け入れてくれての言葉。
君の好きにすれば、は無関心じゃなく許容。
「‥‥んもう! そんな事言うとあげないんだからねっ!」
それを知った彼女が、いつもの様に声を張り上げる。
『当たり前のことが当たり前にあるということが、本当は一番の幸せ。それに気づけたから、今とても幸せ』
どこか恥ずかしそうに。だがそれは、とても明るい声なのだった。
【第三話:非劇】
三話目は、満を辞してコミックだった。演出の欄に名前のあるミハイルは、戦場の脚本家を名乗るだけあって、編集も得意だ。そして、真帆が『すごい萌え絵コンテ☆』を考えてきたらしいので、それに則り、足りない部分はミハイルが演出を入れ原作を担当したらしい。
「んと、女性向けギャグですよね。相手はスナイパーAくんで良いですか?」
ヒロインの熊谷さん、年齢性別記入欄にしっかり『20歳男性・傭兵』と書かれている。百戦錬磨のファイターで、屠ったキメラも数知れないが、人間の女性だけは大の苦手とか言う、どこかの腐ったお姉さんの好きそうな設定だ。そんな熊谷は、毎年バレンタインを戦場で華麗にスルーしている。
「お世話になったお礼ということでどうかな?」
「こちらからもどうぞ」
が、同じ兵舎では、親子ほど都市の離れた二人が、『世話チョコ』と言う事で、チョコレートを交換していた。その片方が、最近気になっていて、熊谷にはそれが非常に気に食わない。先日も、彼と同じ依頼に予約したが、落選したばかり。
「貴方と話すのが楽しいの」
「それは光栄だね」
一方の相手は、依頼で知り合ったと言う、娘ほどの年頃の2人が、仲良さそうに離している。唯一、気分的に救いなのは、想い人が、女性と距離を置こうとしているらしいと言う事だ。
(ああ、俺はあの人を護ってあげられない)
そうこうしているうちに、依頼の出発日が来てしまった。そんな事を考えながら、祈る思いでKVを見送る熊谷。尊敬し、敬愛する人をその手で守りたいと言う、そんな思い。
だが、それをかなえる日がやってきた。数日後、追加の依頼が掲示されたのだ。
そこには、愛する人の名前が書かれていた。まさか‥‥と言う不安がよぎる。バグア支配地域での隠密作戦。墜落機の救助。生死は不明。
「俺が行きます!」
「現地には危険なキメラがいます。未知のバッドステータスに注意して下さい。止めるなら今のうちですよ」
オペレーターの注意事項が飛んできたが、真帆の耳には届いていない。そのまま高速艇に跳び乗り、現地へ向かってしまう。
「させるかっ!」
到着したのは、今まさにキメラが相手に向かって毒液を振り掛ける瞬間だった。だが、彼はそんなキメラなど意に介さない様に、その間に割り込む。盾になってくれた彼に答えるように、相手が懇親の一撃を放った。倒れるキメラ。
「君、大丈夫か?」
「情けないね。逆に助けられるなんて」
「構わんさ。君は俺の大切な人だ」
「はは‥‥。俺が女だったらチョコを渡せるんだがな」
「いいからもう喋るな。大切な人を失いたくない」
相手に抱きしめられた熊谷の意識が遠のいていく。だが、愛する人を守りきった安堵感に包まれ、幸せそうな表情だった。
そして、数日後。
「だから言ったでしょ! 俺は男だって!」
オペレーターに食って掛かる、変わり果てた姿の熊谷がいた。本部にある窓ガラスに映っているのは、腰まで届く長い髪と、豊かな胸。くびれた腰にドレスとか言う、もう非の打ち所のないカンペキな『女性』になった自分だ。
「ううっ…まさかこんな体になっちまうとは…。まいっか、チョコをあげる口実ができたわ」
気を取り直し、入院している彼の病室をノック。
ところが。
「はーい」
既に先約がいた。きょとんとしている前で、中の女性は、勘違いかと思ったのか、そのまま話を続けてしまう。
「私は貴方のことが好き‥‥もう、傷ついて欲しくない」
聞き間違いじゃない。中では、愛の告白が行われている。自分の気持ちを伝えている女性。手当てをしたのも彼女なようだ。
「ちょ、ちょっと待ったー!」
しかし、今の熊谷は、指をくわえて見ていなければならない立場ではない。少なくとも、見かけだけは負けない。思わず、踏み込んでしまう。
「え、えっと‥‥。ど、どちらさま?」
「熊谷よ! その人は私が助けたんだからねっ」
その後、彼らがどのようになったのかは、定かではない。
ページの片隅に『結論:愛は、年齢と性別を越える』と書き記されるのだった。
「なぁ‥‥名前同じだけど、もしかして‥‥そうなんか?」
「あははは、どうでしょうねー」
ヤナギの問いに目を逸らす熊谷。真偽のほどは定かではないが、配布許可の下りたその作品は、総メ部の手で、学園中に公開されるのだった。
(代筆:姫野里美)