タイトル:ヒーローショー参戦!マスター:神木 まこと

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/10 01:26

●オープニング本文


「‥呪われてでもいるんじゃないのか?」
 初日、酔っぱらった観客がヒーロー役の俳優のツラが気にくわないと殴りかかり乱闘騒ぎが起こる。公演中止。
 翌日、何とか代役を立てて開催するも、今度はヒロイン役の女性俳優が乱入してきた子供たちにセクハラものの仕打ちを受け、その俳優は泣きながら帰ってしまいその日の公演は当然中止。
 後日、そろそろ関係者一同が不吉な予感を抱き始めた頃、脚本担当者が突然夜逃げする。なんだか昔の恋人に追われていたらしい。
 なんとかいまある脚本で公演しようとした矢先、乱闘騒ぎから復帰した俳優が女性スキャンダルを起こし仕事どころではなくなる。
 それでもなんとか体勢を立て直し、公演に踏み切るも、ヒロイン役の俳優の昔の男が会場に乱入し、泣きながら別れないでくれ捨てないでくれと愁嘆場を演じる。公演よりよほど人目を引いてしまい。公演どころではなくなる。
「不幸な事故ばっかりだったわねぇ」
 ただのジャパニメーション系のヒーローショーなのに、これだけケチがつくのはなぜだろう。
 監督たるミスター浜田はいいかげんすべてを忘れて逃げ出したい心境になっていた。
 細身で髪を長く伸ばし、ファッショングラスで飾った妙に色っぽい仕草の男だった。
 オカマか? と問われて。
「いやねぇ、ワタシの心はレディーよ?」
 と笑っていた。
「さて、どうしましょ? 代役もそろそろ引き受けてくれる人がいなくなってきたわね」
「なんだかいわくつきのショー呼ばわりされてますからね」
 脚本の書き手もいないため、素人のアルバイトがせっせと書いている状態だ。スタッフの数も半減している。
「ヒーロー役のかわいい男の子がいるでしょ、あとヒロイン役のかわいい女の子も絶対必要だし、あと悪役やってくれる人もいるし‥」
 つまりまったく役者がいない。ほぼ全員に逃げられた。
 いるのはバイトの戦闘員ぐらいだ。これではショーにならない。
「どっかにヒマそうで、そこそこ人目ひきそうなかわいい子でもいないかしら?」
「この際町でスカウトでもしますか?」
「そうねぇ、どっかからさらってきたいぐらいね。どこかまだ手のつけてない事務所はないかしら?」
「おおかたはもう交渉して蹴られましたよ」
 トラブル続きのマイナーなヒーローショーにそうそう人はもらえない。
「この際だから贅沢はいわないわ。こうなったら素人だろうと学生のサークルだろうとかまいはしないのだけど」
「ボランティアにでも声をかけますか‥」
 ついにここまで落ちたのかとスタッフの声に苦渋がにじみ出ていた。
 ふとミスター浜田はなにかを思い出したように手を打った。
「そうだ。いっそ本物を呼びましょうか」
「はい?」
「これってもともとバグアと能力者がモチーフになったお話なんだし、敵さんはそのまんまバグットなんていうふざけた名前なんだし、いっそ本物の能力者に公演をしてもらえれば客も来るんじゃないかしら?」
 それは、本物の能力者がみられるとなれば客の反応もいいかもしれないが、いくらなんでも無茶では?
 そう言いたげなスタッフを置き去りにしてミスター浜田は快調にエンジンを回し始めた。
「そうよ! 能力者対バグット! ヒーローのピンチに能力者たちが駆けつけて一緒に戦うのよ! 燃えてくる展開ね」
「ですが、能力者って演技できますかね?」
「やればできるでしょ。たいした問題ではないわ。演技なんて恥を捨てればとりあえずなんとかなるものよ。技術なんていらないのよ。だってしょせん遊園地のヒーローショーよ? 映画撮るわけじゃないんだから」
 ついに居直ったか。
 スタッフはやけっぱちになりかけているような監督を眺めてこっそりため息をついた。
「それに能力者ならトラブルにも慣れているはずよ。観客が殴りかかろうと、胸を揉もうと、スカートめくられようとなんとかしてくれるはずよ!」
 いや、それはなんともならないのでは?
 スタッフはそう思ったが、口には出さなかった。
 この監督はやる気だ。
「燃えてきたわ〜、これでかわいい男の子とかかわいい女の子がきてくれれば成功間違いなしよ! 脚本なんてとりあえず悪党が現れて仲間の一人もさらわれて、それを助け出すために一大決戦を挑む! そんな感じでいいわ。後はアドリブよ!」
 つまりすべて能力者任せらしい。
「でも引き受けてもらえますかね?」
 そう素朴な疑問を口にしたスタッフにミスター浜田は薄笑いを浮かべて答えた。
「なんでも課って知っている? そこは頼めば草むしりでも恋愛相談でも受けてくれるらしいわよ?」

「もうなんでもありなかんじだな」
 通称なんでも課のオフィスでロバートは手元の書類を眺めて、首を振った。
 ヒーローショーに出演依頼。目的は一般市民と能力者の親睦。
 注意書きにトラブル続きの公演のため、くれぐれも間違いを起こさないようにと書き添えてある。
「まぁ、荒事ばかりで疲れているだろうし。息抜きがてらに遊んできてもらうのもいいか」
 そうとでも思っていなければ、やってられない依頼だ。
 場所はいつぞや研究所の依頼で使った、ラスト・ホープのショッピングモール内にある遊技施設。
 ミニ遊園地あり、小動物達と触れ合えるミニ動物園ありの、ちょっとしたアミューズメントパークだ。
 ヒーローの名前はスカイナイト。敵の名前はバグット。
 この二つの中身と、敵さんにさらわれるヒロイン役、あとスカイナイトに味方して立ち上がる能力者役数名。あとできれば司会役もほしいらしい。
 なんというか少しは自分のところで人数用意しろよとぼやきたくなる。
「要するにこっち主催でヒーローショーをやれってことか。もし閑古鳥だったらウチのせいかね。これは?」
 まぁ、命のやりとりよりかは楽な仕事だろう。そうだろうと思いたい。かなり苦労しそうな気もするが、まぁなんとかなるだろう。
「まともな演技ができて、面倒ごとを起こさない愛想のいいやつがいいかな?」
 そんな人材いるかなぁ。

●参加者一覧

鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
鉄 迅(ga6843
23歳・♂・EL
火茄神・渉(ga8569
10歳・♂・HD
虎牙 こうき(ga8763
20歳・♂・HA
ジェイ・ガーランド(ga9899
24歳・♂・JG
アガヤ=チェヴンドラ(ga9952
15歳・♂・GP
篠ノ頭 すず(gb0337
23歳・♀・SN

●リプレイ本文

 純白のヒーローがそこにいた。
 白いプロテクトアーマーに身を包み、その魂から正義の力を燃え上がらせて彼は叫んだ。
「空を覆う悪を倒す正義の英雄! 大空の騎士! スカイナイト参上!」
 そう、いまここに正義のヒーローが現れた。
 世界の平穏が脅かされた現代に、颯爽と現れた純白の騎士。
 彼の名はスカイナイト。
 ただ一人、人々を守るべく立ち上がった孤高の戦士である。
 たとえその声があきらかに子供のものであったとしても、たとえその姿が見るからに頼りなさそうなほど小さな体格であろうとも、
 彼はいま、まさにヒーローなのだ!
 照れるな。恥じるな。物怖じするな。
「おいらはヒーロー、おいらはヒーロー、恥なんて知らない。っていうかそんな言葉辞書にのってたっけ? あったとしても多分昨日あたりに破って捨てた。そうさ、背が足りなくてもおいらはヒーロー」
 仮面の中で火茄神・渉(ga8569)はミスター浜田の助言通りに自らに深く暗示をかけつつ胸を張った。
 舞台には煙幕がたかれ、観客席に混じったスタッフが大声で声援を送る。お小遣いを渡された子供たちも精一杯の声援を送る。盛り上げるためならサクラだって使えるものは使うわよと、監督ミスター浜田の力強い方針は徹底されていた。
 舞台の上に、いや自らの戦場に向かって渉は力強く飛んだ。
 そして戦いははじまる。

 挨拶がすんだ直後、舞台に上がる心得としてミスター浜田の要求はただ一つ。
 恥を捨てよ。
 だったが、その内容は激烈だった。
「恥ずかしいと思ったら負けよ。恥をかこうが笑われようが舞台の上では目立ったものが勝つのよ!」
 まともな舞台役者が聞いたらひんしゅくものだろうが、素人に役者のまねごとをさせるにはそれしかなかった。
 恥と思ったら負けだ!
「もうノリノリにノリなさい! 脚本なんてぶちこわしたってたいしたことはないわ。台詞を忘れてもどうとでもできる。けれど舞台の上で恥ずかしがったりしたらすべてが終わるのよ!」
 もし役者が舞台の上で恥ずかしがったり照れたりしたら? 観客は一気にさめる。失笑ものだ。ため息も出る。ついでに興味も失せて昼寝をするかさっさと帰るかと考えだす。
 そうなったらおしまいだ!
「舞台の上だけがあなたたちの現実よ。リアリティなんて気にしたら負けるわ。常識なんて忘れなさい。常識? 恥? そんなものはいまのうちに燃えないゴミに出すのよ!」
 ミスター浜田はそう熱烈な演説をぶち上げた。
 もはや彼の舞台を成功させることのできるのは目の前にいる八人の勇者たちだけなのだ。たとえそれがシロートでも、演技の経験がなくても、熱意と勢いで乗り切るしか、このレベル0勇者パーティに勝利の栄冠はない。
「そう、我々に必要なのは技術でも正義の心でもないわ。ノリと勢いと非常識さよ!」
 ミスター浜田は絶叫した。
「みんな、ワタシたちはいまひとつなのよ! 運命共同体なのよ! もし舞台の上で小娘みたいな恥じらいを見せてご覧なさい‥きっちり責任とって海に沈めるぞゴラァ!」
 ‥たまに思うがどうしてオカマ言葉を操る男は怒ると異様に迫力があるのだろうか?
 監督の檄が飛び、スタッフたちは応援に駆けつけた能力者たちの寸法を測り、意見を取り入れて衣装の制作にかかった。
 脚本も能力者たちの意見を取り入れて、多少書き換えた。
「いいんですか? 内容変わっちゃいますよ?」
 スタッフがそう問うと、ミスター浜田は先ほどの迫力などかけらもないしとやかな笑みでこういった。
「ちょっとわがまま聞いてあげるだけでやる気になってくれるなら、わがままを聞いてあげるのが大人ってものよ」
 能力者たちは意外なほどの熱心さで役割を決め、練習に励んだ。
 その様子を眺めてミスター浜田は上機嫌だ。
「いい子たちでたすかるわぁ。見かけもまぁまぁだし、これなら期待できるかもね」
 あとは面倒ごとさえなかったら‥。
 不運の種はもう尽きたと思いたい。
 けれど不安はこうむくむくと。
「全員に徹底してちょうだい」
 ミスター浜田は圧倒的敵陣に少数切り込みを決意した武将のように決意をみなぎらせた。
「本番中はなにが起こっても舞台が優先。他のあらゆる障害は無視してただ舞台を成功させるのよ。いざとなったら邪魔者は全員でフクロにしたあと悪の手先としてそこらに埋めてかまわないわ!」
 大将首を狙え! 雑魚にかまうなと吠える決死隊隊長のような壮絶な決意だった。
 スタッフたちももう後がないことはわかっている。今度失敗すればもう失地回復はあり得ないだろう。
 全員一丸となって敵大将首をあげるほどの気迫をもって、ミスター浜田率いるヒーローショースタッフと応援に駆けつけた八人の能力者は決戦の日を迎えた。

 そうこれは戦いの日だ!

 敵にとらえられ洗脳されたヒロインは苦しみもがきながらその姿を変えた。
 銀色の髪に冷たい美貌。先ほどまでの穏やかな雰囲気はどこにもない。
 つりあがった唇がいかにも残忍にほころぶ。
 本当は洗脳ではなく覚醒だが、観客にはどうせわかりはしない。
 能力者の能力を最大限発揮する覚醒状態。
 実物を見たミスター浜田が使用を許可したのだ。まさに使えるものは使う監督だ。
 観客は大いに沸いた。
 一瞬でまるで別人のように変わればそれは驚く。
 そして敵に洗脳されたヒロイン役の神森 静(ga5165)は先ほどまでの味方に襲いかかる。
 覚醒すればその身体機能は常人とは比べものにならない。力加減を間違えて我らがヒーローであるスカイナイトがぶっ飛んでいったが、その迫力にますます観客は燃えた。
 ヒーローのピンチにショーは最高の盛り上がりを迎えようとしていた。
「スカイナイトのピンチだ! みんな、力の限り応援するんだ!」
 司会役のきれいなお兄さん。一部女性客の視線を一身に受ける男ジェイ・ガーランド(ga9899)がいかにも健康的で元気な声で観客席に訴えた。
「みんなの応援があれば、きっとスカイナイトは何度でも立ち上がるよ!」
 眼帯をした女性司会役篠ノ頭 すず(gb0337)が後押しする。
 ちなみにこの眼帯姿はミスター浜田にはたいそう好評で「あなた、いい趣味してるわ!」と絶賛され、舞台でも是非その姿でとお願いされていた。
 この二人、実はかなりがんばっている。
 とにかく声を張り上げて雰囲気を盛り上げているのだ。明日は声が出なくなるのではないかと心配になるほどだ。
 しかも時々舞台に闖入しようとする男性をジェイがガンを飛ばしてすごすご退散させ、子供というよりはエロ親父じみたヤジを送り舞台にちょっかいを出そうとするガキンチョどもをすずが笑顔で説得してなんとかあきらめてもらった。その代償として水鉄砲で撃たれ、服がびしょびしょだ。
 ジェイに司会を任せて服を着替えようとしたが、鬼の形相の監督に睨まれてあきらめた。
 あの監督、まるで敵前逃亡する部下を見つけた鬼軍曹のような目つきで手近な角材を手に取っていた。うかうか戻れば殴り殺されそうだ。
 たいそう監督に気に入られ「さわやかな服装と眼帯のミスマッチにギャップ萌え」などという理由でどこぞの清楚なお嬢様のようなワンピースを着せられていた。これが生地が薄い。
 遠慮なく水鉄砲の集中砲火を食らったためまず水に濡れて身体に張り付く感触が不快だ。それに透けていないかどうかも心配だ。ついでに必死に凝視すれば透けて見えるのではと期待する男性客の視線が痛い。というか怖い。もうなんだかいまにも襲いかかられそうだ。
 ジェイは身振りで着替えに戻れと指示したが、すずは力なく笑って舞台袖からにらみつけてくる監督をちょこっと指さした。それに気がついたジェイはあまりの鬼気迫る監督の姿にびくりと震えたあと、あきらめたような笑顔でうなずいた。
 我々には後退すべき陣地などないのだと悟ったのだ。前進あるのみ。退けば斬るといわんばかりの鬼の指揮官が目を光らせている。
 そしてついに声援に応えて、孤高のヒーローに助勢する新たなる戦士たちが現れた。
「燃え上がれ、くろがねの魂! エミレンジャーアイゼン!」
 漆黒の筋肉質な男がそう名乗った。鉄 迅(ga6843)だ。
 スカイナイトが純白の騎士ならば、彼は漆黒の闘士。たくましい身体を黒のボディーアーマーに身を包んでいる。
「真紅の爆炎、エミレンジャークリムゾンウルフ!」
 紅い男はそう叫ぶ。まるで伝説の狼男のような紅い毛皮をまとった男だった。体格では黒い男に劣るが見た目の猛々しさはこちらの方がはるかに勝っている。虎牙 こうき(ga8763)だ。
「天駆ける金狼!エミレンジャーウルフ!」
 今度は金色の男だ。紅い男に似ているが手や足には鋭い爪があり、色は金色だ。体格も小柄というか小さい。アガヤ=チェヴンドラ(ga9952)だ。
 三人はびしっとポーズを決め叫んだ。
「能力者戦隊エミレンジャー参上!!」
 スカイナイト登場時のように光と煙による演出が入り、観客の興奮は高まる。というか必死でスタッフやサクラが盛り上げていく。
 戦闘員は必死で戦い。次々とエミレンジャーたちに倒されていく。
 そしてスカイナイトの一撃が洗脳されていた女性、静をとらえる。
 力なく倒れる静香の姿が変わっていき、髪の色も茶色に、その表情も穏やかなものへと戻る。
 抱きかかえ安否を気遣うスカイナイトに、静は感謝の口づけをした。
 ごく自然にスカイナイトの首に腕を絡ませ、身体を密着させる。まるで愛の語らいのような仕草だった。
「ありがとう」
 その言葉の余韻も消えるまもなく観客が拍手が起こった。
 その勢いにサクラたちが戸惑ったくらいだ。間違いなくいまのシーンは劇として観客の心に響いた。それぐらいの存在感をあふれさせたシーンだったのだ。
「あらあら、もうちょっと頑張って欲しかったわぁ」
 その拍手のおさまらぬうちに、一人の人物が舞台に現れる。
 悪の手先バグット。
 紫のタイツに胸当てと肩当てといった鎧を着込み、マスクで顔を隠している。足下にまで届きそうな豊かな紫の髪はもちろんカツラだ。
 鳥飼夕貴(ga4123)、れっきとした男だが、衣装はまるで敵の女幹部のような色っぽい衣装だ。細身なので胸元と腰を隠せば女性にも見えないこともない。
 監督の注文は「中性的に、男にも女にも見えるようにした方がグッとくるものがある」だった。
「さぁ、決着をつけましょうか?」
「正義は‥‥正義の騎士は俺一人ではない。ついに志を同じくする仲間が立ち上がった。これからさらに多くのものが立ち上がるだろう」
 孤高のヒーロー、純白の騎士は胸を張り両手を広げて叫んだ。
「俺はもう一人ではない。仲間たちの存在が、正義の志を同じくする人々が、俺に力を分けてくれる!」
「さぁ、みんなの声援をスカイナイトに送るんだ!」
 司会役ジェイが会場中に響けと声を張り上げた。
「彼は孤高のヒーローだった。けれど彼はもう一人じゃない!」
 もう一人の司会役すずも大きな身振りで観客に訴えた。
 三人のエミレンジャーが再び現れ、観客席からスカイナイトを応援する。監督の指示だ。
 彼らはたった一人孤独な戦いに身を投じた戦士に続いた勇敢な仲間なのだ。
 正義の志をともにする仲間。
 スカイナイトがようやく得た仲間なのだ。
 その彼らがスカイナイトに声援を送る。
 純白の騎士に、力を送る。
 観客の中からスカイナイトの名が、呼ばれる。
 徐々に大きな声へ、たくさんの声へ。
 渉は心の中で念じた。
「おいらは、おいらはヒーローだ!」
 スカイナイトが歓声に右手を高々と上げて応える。
 そして彼は駆け出す。
 彼が空へ飛び上がったとき、勝負は決した。
「天空三段蹴り!」
 その跳び蹴りは並み居るアクション俳優にも負けないほど美しい軌跡を描いて、バグット役の夕貴を吹き飛ばした。
 爆発が起こり煙が舞台を覆う。
 煙が風で流れたとき、そこに立っているのは純白の騎士スカイナイトであった。
 スカイナイトは右手をかかげた。
 それはまごうことない勝利宣言だった。
 観客の拍手が鳴り響いた。
「見事ね。スカイナイト」
 スピーカーから声が流れ出した。バグット役夕貴のものだ。
「今回は準備不足だったわ。覚えてらっしゃい、次はこうはいかないわよ‥」
「正義の志を持つ仲間たちがいる限り、俺は、俺たちは負けない!」
 スカイナイト、渉の言葉に拍手が起こった。
 あのヤジを飛ばしていた子供たちまでもが拳を振り上げ歓声を上げている。
「これからも応援よろしく!」
 ショーは大成功だ。

「あなたたちよかったらうちでずっと働かない?」
 公演が終わってみんなでくつろいでいるとミスター浜田が夕貴にそんなことを言った。
「スジがいいわよ。あなたたちならきっと人気間違いなしよ」
 迅はスタッフと一緒に会場の片付けをしている。
 こうきはみんなにお茶を配って歩いていた。
 アガヤと渉は今日のショーについて熱く語り合い。
 すずは適当な衣装に着替え、ついでに静も豊富な種類を誇る劇衣装からみつくろって着替えを楽しんでいた。ジェイはその衣装について感想を求められている。
 なんかみんななじんでいる。
「それでも俺たちは能力者なんだよ」
 そんな様子を眺めながらもそう答えていた。
「ならクビになったら来なさい。歓迎するわ。今度は役者の心得をきっちり教え込んであげる」
 そういってミスター浜田は笑った。

「大成功か‥意外だなぁ、才能あるんじゃないかね」
 観客席で様子を見ていたロバート・エイムズは予想外の大盛況に驚いていた。
 暇だったので念のために周辺の警備をしていたのだが、特に大きな問題はなかったので、ほとんどショーを見物しているだけだった。
 ショーの内容も、あれなら特に文句はないだろうと思う。
 親睦が深まったかどうかは疑問だが、悪感情を与えることはないだろう。
「ま、人死にがでるような仕事よりかは、こっちの方がましかなぁ」
 なんでも課も悪くはない。
 ひたすらがんばっている連中と、あの歓声を目にし耳にした後ではなおさら。
 ま、これからもほどほどにがんばるさ‥。
 ロバートは一人、ふらりと人並みの中に姿を消した。