タイトル:要塞砲台を撃破せよマスター:神木 まこと

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/25 05:44

●オープニング本文


 それは要塞だった。
 元は地方の一都市に過ぎなかった場所は、防壁がめぐらされ、砲台で武装され、れっきとした武装拠点となっていた。
 さほど大きいわけではない。それほど強大な兵力を蓄えているわけでもない。
 しかしそこにいるバグアの存在は近隣の大きな脅威となっていた。
 UPC軍はその要塞の攻略を決定した。
 地上戦力を主力とする第一次攻撃は、要塞からの対地砲撃の猛火の前に敗退した。
 敵要塞は地上からの攻撃の対抗手段として複数の対地砲台を設置し、進撃中の部隊を砲撃した。
 味方部隊も応戦するも、正面からでは十分に防御を固めた砲台は破壊できずに、攻撃を断念せざるを得なかった。
 航空戦力による対地砲台への攻撃も試みられたが、現れた三機のヘルメットワームと要塞からの嵐のような対空砲火によって接近できずに逆に撃破された。
 そして第二次攻撃の計画が立てられる。
「対空攻撃による砲台の破壊‥‥対空砲火の中へ突っ込めと? いやはやカミカゼ戦法だねぇ」
 ロバート大尉は作戦概要を眺めてそう笑った。
 そんな先輩の態度にエドウィンは顔をしかめた。
 執務室にやってきた後輩のもってきた作戦命令書は実に簡単だった。
 いかなる困難も実力で排除して対地砲台を撃破せよ。それだけだ。
 つまり迎撃にあがってくる敵機と対空砲火の嵐に飛び込み、対地砲台をつぶせということだろう。
 まず死ぬ。
 ナイトフォーゲルはアニメのロボットのようにいかなる攻撃もかわし、被弾しても死なない無敵のスーパーロボットではないのだ。
「他人事みたいにいわないでくださいよ。先輩のところから人をだすんですから」
「君のところだけでなんとかならないのか?」
「ならないからこうして応援を頼んだんです」
 いっこうにやる気の見えない先輩にエドウィンはため息をついた。
 なんでも課などと呼ばれて、便利屋みたいに使われている先輩だがやる気になってくれさえすれば頼りになる男なのだ。
「僕だって無茶な作戦であると理解しています。けれどこれは上からの命令なんです。僕にどうこうできる話じゃない」
「やり方次第ではそう無茶でもないがね」
 ロバート大尉は目を光らせた。
「まず第一にヘルメットワームの排除、第二に対空砲台への対処、第三に対地砲台の破壊。順序立てればそう無理でもないさ」
 楽しそうに説明をはじめたロバート大尉。
「要は頭を使えばいい。敵の防御能力を一つずつつぶしていけば、本命をたたけるさ」
「そううまくいきますか?」
「うまくいかせるために私のところに来たのだろうが、頭と腕のいいパイロットを探しにきたのだろう?」
「協力してくれますか?」
「協力するのは前線に立つ能力者だ。私は彼らを紹介するだけだよ」
 そんなロバート大尉にエドウィン中尉はぴしりと敬礼して見せた。
「よろしくお願いします」

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
九条・運(ga4694
18歳・♂・BM
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
黒江 開裡(ga8341
19歳・♂・DF

●リプレイ本文

 空は青く澄んでいる。
 すがすがしいほどの晴天だ。
 こちらも視認しやすいが、向こうからも丸見えということになる。
 条件は同じということだと榊兵衛(ga0388)は考えた。
 雨天に紛れて強襲というのもおもしろそうだとは思うが、作戦決行日に晴れてしまったものはしかたがない。
「時間をかけすぎれば、敵はさらなる増援を呼び寄せるかもしれない。なるべく短時間で敵要塞を片付けるべく、皆の協力を期待したい」
 その呼びかけにそれぞれの期待から了解という明快な返答があった。
「ではいこう。作戦の最終目的は敵要塞、対地砲台の無力化だ」
「オペレーション・オニオンピーラー、いくぞ。タマネギの皮をはいで丸裸にしてやれ!」
 榊のF−104を先頭に八機のナイトフォーゲルが空を駆けていく。
 作戦が始まった。

 新居・やすかず(ga1891)とシェスチ(ga7729)が事前にUPC軍と交渉し情報の提供を求めたところ前回の攻撃に失敗した軍はしぶったものの必要な情報を渡してくれた。しかしその情報はあまりあてになりそうなものではなかった。
 対地砲台は要塞を囲む三角形の頂点にそれぞれ三カ所。
 三つの砲台により死角なく周囲をにらみ据えている。
 砲台の防御は固く、少なくとも地上からの砲撃ではびくともしなかった。
 また連射が可能であり、第一射後の隙を突こうとした部隊は続けざまの第二射でかなりの被害を受けたらしい。
 肝心の対空砲台の情報が、数は無数であり要塞内の各所にあること、射程に関しては正確なところはわからないというありさまだった。
 前回の航空攻撃はヘルメットワームに阻まれ、また対空放火の射程内に追い込まれ、ろくな情報を集めるまもなく壊滅したらしい。
 ヘルメットワームは対空放火の援護を確実に受ける戦い方をしていたらしく。堅実な運用をしているものと思われた。
 が、少なくとも敵の対空砲の火力が強力なことと、ヘルメットワームが防御を重視し地の利を生かした戦い方をすることはわかった。
 しかし今回はそうはいかないと二人はその情報を持ち帰った。

 敵要塞の姿は目視した限りではそれほど強力な存在には思えなかった。
 規模も小さいし、どこか古ぼけていて軽く攻撃すれば即座に陥落してしまいそうな頼りなさを感じられた。
 この雰囲気に第一次攻撃軍はだまされたのだ。
 作戦通りなら地上部隊もかなり近くまで接近しているはずだった。こちらが対地砲を無力化すれば即座に進撃するはずだ。その場合は即座に離脱するようにと命令されている。
 完全なお使い仕事であり、用が済めばとっとと消えろといいたげな扱いだった。
 黒江 開裡(ga8341)にしてみれば「いかにも傭兵らしい仕事」と愚痴りたくなる扱いだ。
「それでも仕事だからな。さぁ、行こうか」
 黒江のF−108が加速する。
 そのすぐ後ろに夜十字・信人(ga8235)のS−01がつく。
 二機は対空砲の射程外と思われる低空を疾走した。
 要塞の姿がぐんぐん近づいてくる。
 黒江はその要塞の一部が動いたような気配を感じた。
 ただの直感だが、いま俺たちは要塞の迎撃ラインに入ったのだと感じた。
 敵要塞からの砲撃が開始された。
 六百メートル。
 おおよその距離だが、そのくらいだ。
「出てきてくれよ‥」
「リヒター、お客さんがきたぞ」
 不意に夜十字の声が届き、はっと見ると要塞内からヘルメットワームが三機飛び立ったところだった。
 うち二機がこちらへ向かってくる。もう一機は上空へ飛んでいった。おそらくそちらで誘いをかけている九条・運(ga4694)の方へ向かったのだろう。
「よし、トマト。お客さんをご招待する!」
「了解した」
 トマトというのはキラートマトというコードネームをもつ夜十字のことだ。黒江はリヒターという名を持っている。
 対空砲火をかいくぐって、二機は射程内から遠ざかりつつ高度をあげていく、ヘルメットワームは二機をしっかり追尾してきた。
 追尾してきたヘルメットワームから砲撃を回避し、仲間と合流する。
 仲間は二手に分かれたようだった。
 九条の誘い出した一機にシェスチ、新井、榊の三機が襲いかかった。
 九条のEF−006は追撃する敵機から被弾したようだが、すぐさま合流し迎撃態勢を整えた。
 こちらには鈴葉・シロウ(ga4772)のFG−106と須佐 武流(ga1461)のXA−08Bが合流してきた。
「逃がすな。対空砲の射程外で仕留めろ」
 榊からの指示が飛ぶ、九条の誘い出した敵機は四機に包囲され、乱戦となった。
 こちらは二機、なんとか押さえておけばすぐに敵機を仕留めた榊たちがやってくるだろう。
 鈴葉が敵機に突っ込んでいった。
「自分が引きつけて囮になります。支援してください」
 敵機の砲撃を見事にかわしながら続ける。
「こいつらを逃がしてはいけない!」
「わかった!」
 黒江は承知し、UK−10AAMを発射した。
 ミサイルが空を裂き、鈴葉機に注意を向けていたヘルメットワームに突き刺さる。
 さらに夜十字が試作型リニア砲で追撃する。
 さらに被弾する敵機を見て、にやりと黒江は笑った。
「こっちが本命だ。遠慮はいらん、受け取れ!」
 アグレッシブ・フォースを使用した第二撃を敵機に炸裂させる。
 強力な連続攻撃に被弾したヘルメットワームはふらふらと挙動が怪しくなってきた。
 さらに須佐と鈴葉が波状攻撃をかけ、一機目のヘルメットワームを撃破した。

 同じ頃、榊たちは四機がかりで連携してヘルメットワームと戦った。
 包囲されたことを知った敵機が離脱を試みたがシェスチに進路を阻まれ、新井の砲撃を受けて離脱を断念した。
 正面の機体が敵の砲撃を回避し、死角からほかの機体が襲いかかる。
 一方的な戦場となった。
 わずかに榊機に傷を負わせただけでヘルメットワームは力尽きた。
 無防備な横合いからシェスチが襲いかかる。
「その脇腹‥‥噛み千切る」
 放たれたミサイルを回避する余力はもう敵機にはなかった。
 宣言通りヘルメットワームの横っ腹にミサイルが突き刺さり、ヘルメットワームは爆砕した。
「よし、もう一機を始末する。続け!」
 榊の指揮で戦いすんだ四機はすぐさま新たな戦場へと飛んだ。
 最後の一機となったヘルメットワームは彼らの脅威にはならなかった。
 後は数がものをいった。
 第一次攻撃軍が苦戦したヘルメットワームは能力者たちの乗るナイトフォーゲルにわずかな傷を負わせただけで全機撃破された。
「第一段階終了だ。次へ行く」
 榊からの指示が飛ぶ。
「対空砲の防御に穴を開ける。行くぞ」
 全機が後に続き、迎撃機を失った要塞へ挑んでいく。
 要塞から嵐のような対空放火が開始された。
 いったい何機砲台があるのかと目を疑うような火力だった。
 一斉に要塞の一カ所。低空を迎撃するための砲台箇所に狙いを定めて全機突撃する。
「うわっと!」
 シェスチが数の多い敵弾をかわしきれずに被弾した。
「大丈夫か?」
「だいじょうぶですよ。まだまだ元気です」
 榊からの通信にシェスチは笑い返した。
 まだ機体はもつ。なるほど数は多い。威力もかなりのものだ。
 だがいかんせん命中率はよくない。
 とにかく数を撃ち、迎撃するという防衛思想なのだろう。数をそろえて撃つことで威力を発揮する防衛兵器であるようだ。
 いくら一発一発の命中精度が低くても、下手な鉄砲でも数撃たれれば脅威になるのだ。
「油断大敵かな、まぁ二度とは食らわないけど」
 シェスチはそのように考えつつ、そううそぶいた。
 敵の砲撃をかいくぐり要塞へ接近する。
 要塞間近まで迫ると敵の火力の層がさらに厚くなった。このまま突破を試みたらかなりの被害をだしたことだろう。
「全機、撃て!」
 榊の指示で全機が対空放火の一点にそれぞれもっとも射程距離の高い火器を撃ちかける。
「離脱!」
 要塞の一角が爆砕した瞬間にさらに榊の指示が飛ぶ。
 全機対空放火の範囲外へ向かって全速力で離脱した。
 離脱する味方に敵の対空放火が襲いかかるが、全機見事に回避行動を決めて離脱した。
 敵対空砲火の一角をもぎ取った。
 これで敵の迎撃能力はかなり減少したはずだ。
 目標である敵対地砲台へ至る道は開かれた。
 後は突入するのみだった。

「いっくぜぇ!」
 須佐の叫びが響き。
 突入部隊である須佐、鈴葉、黒江、夜十字が突撃する。
 つぶした対空砲台によってあいた死角、超低空からの要塞進入コースを四機のナイトフォーゲルが駆ける。
 要塞からの砲撃。しかし先ほどよりあきらかに数が少ない。しかし侮れない火力だった。
「歓迎の花火が山盛り、スリル満点だな」
 しかし黒江などそんな軽口をたたく余裕があった。あきらかに先ほどより楽だった。
 しかし油断がたたったか、あるいは要塞側の執念の産物か鈴葉と須佐の両機が被弾した。
「たいしたことはありません!」
「おわっ、あぶね〜」
 二人は被弾しながらも、速度をまったく落とさずに突入する。
 そんな突入部隊の様子を見て支援部隊四機、榊、新井、九条、シェスチが行動を開始する。
 四機は敵対空砲台に対して攻撃を開始した。
 攻撃しては射程外へ逃げる一撃離脱の戦法で対空砲台の被害を増やしていく。
「おちおち見殺しにするわけには‥‥」
 対空放火の中を突き進む味方機をちらりと見てシェスチはそうつぶやいた。
 要塞へ接近して、砲台へと攻撃して素早く離脱する。
「実に盛大なおもてなしですね。でも、あまり派手なのって好みじゃないんですよね!」
 新井がそう文句をつけて複雑な回避運動をとりながら対空砲台を破壊してはやはり素早く離脱する。四機が一撃離脱を繰り返して要塞の防衛能力を削っていく。
 地味だが確実な援護を受けて突入部隊は要塞に肉薄、突入に成功した。
 対地砲台の一つに接近して鈴葉機は煙幕装置を使用した。対地砲台の周辺一角に煙幕がたかれる。
「一度言ってみたかったんですよね――全弾持ってけ、って!」
 装備しているミサイルを乱射して鈴葉は笑った。
 大量のミサイルが対地砲台へ降り注ぎ、煙の中で目標に命中した。
 変形して、人型状態になり着地する。
 さらにミサイルポッドを発射して、さらに対地砲台に打撃を与え、ヒートディフェンダーで斬り裂いた。
「あと二台!」
 四機は一斉に人型形態のまま敵要塞を疾走した。
 要塞内にはさすがに砲台はないのか敵からの攻撃はない。しかし時間をかければ反撃手段を講じるかもしれない。
 須佐が二台目の砲台へ突撃した。
 須佐の機体は人型ではなく四本足の獣型をしていた。
 ガトリング砲を乱射しつつ接近し、チタンファング、腕に装備された爪で対地砲台を引き裂きたたきつぶした。
「こんだけ近寄れば‥何もできないだろう!」
 無残に破壊された砲台を見下ろして須佐はそう勝ち誇った。
 獣型のナイトフォーゲルは獲物を仕留めた本物の獣のように砲台を足で踏みつけ、周囲を睥睨した。
「次で終わりだ!」
 須佐の操る獣型のナイトフォーゲルは再び走り出した。
 最後の砲台に向けて夜十字機が127mm2連装ロケット弾ランチャーを発射し、黒江機が空へ飛び上がる。両足がドリルに変形し、対地砲台へ落下する。
「必殺・ディアブロ踵落としー」
 黒江は大まじめな顔でそう言った。叫んだのではない。言ったのだ。大まじめな顔で、なおかつまったく気合いの入っていない棒読みで!
 必殺技を叫ぶのならもう少し気合いが入ってもいいはずなのになぜか棒読みだ。なぜなのだろう。なにか美学とこだわりがあるのかもしれない。
 まったく気合いの入らない台詞に相反してレッグドリルは強力な破棄力を見せて、対地砲台を粉砕した。
「よし、終わりだな。離脱するぞ!」
 対照的に気合いの入った声で須佐が指示する。今の黒江の台詞をみんな聞いていたはずなのになにも言わない。平然とスルーされた。突っ込みはなしだ。
 四機のナイトフォーゲルは飛行形態に変形し速やかに要塞を離脱した。
 対空放火が放たれるがそのかなりの部分を榊たちに破壊されており、四機は悠々と離脱に成功した。
「砲台破壊に成功したぜ」
 須佐が榊に報告し、榊が待機している味方に砲台破壊を報告する。
 すぐに榊の元に命令が届いた。
「全機速やかにこの空域を離脱する」
 シェスチが控えめに意見を述べた。
「どうせなら少し要塞をたたいておいた方がいいんじゃないかな‥味方の援護になると思うけど?」
「速やかに離脱せよと、その味方からの命令だ」
 榊が苦笑気味に答えた。
「つまり邪魔者はさっさと消えろ。要塞陥落の手柄は俺たちのものだからさっさと帰れ、ってことかな?」
「さあな、とにかく命令なのだからこれ以上働いてやる義理はないさ」
 黒江の言葉に榊は軽く受け答えた。
 任務は果たしたのだ。問題はなにもない。
「作戦終了だ。ようリヒター、帰りにパスタでも食って帰るか?」
 夜十字がそう声をかけると黒江はそうだなと気分を変えた。
「さっさと帰って、うまいものでも食おう」

 能力者たちのナイトフォーゲルが要塞上空から離脱した後、地上部隊による攻撃が開始された。
 第二次攻撃は、前回の敗戦が嘘のように快勝を納めた。
「その勝因は、能力者たちの功績によるところ大であると認めます」
 エドウィンはそのように報告した。
「能力者たちのナイトフォーゲルは戦力として非常に有用なものであり、今後も有効に活用していくべきだと考えます」
 そう上官に報告した後で、エドウィンは小さくため息をついた。
「能力者か、いいなぁ」
 エミタ適正に適合しなかった身としては彼らの活躍がうらやましく思える。
「今度会ってみたいものだ」
 戦場の難局をあっという間に覆した能力者たち、いつか彼らに会う日が来ることを願った。