●リプレイ本文
●十字架に楽曲を
「格好悪いのに、更に気持ちの悪い姿にされるとは」
山崎・恵太郎(
gb1902) が哀れみの言葉と共に、弓を力強く握りながら走る。その後ろでは、新居・やすかず(
ga1891)が、身の丈よりも長いエネルギーキャノンを持ちながら移動する。その動きのよさは、装備している筒がプラスチック製の張りぼてと勘違いしそうなほどだ。その隣の、番場論子(
gb4628)は、
「意外と足場が散らかっていますから気をつけてくださいね」
と、新居に注意しつつ、二つ名に恥じない白雪のような動きで場所を確保する。そして、睨む巨大な『瓦礫』。同じくそれを見つめる虹色の宝石が煌く篭手をはめている銀髪の者は鋭い目。
「何でかねぇ。やるせないねぇ。人間を弄り倒すバグアの醜態をこう、無理やり見せられるのは。‥‥芸術性がない!」
天野 天魔(
gc4365) は、こっそりバグアが製作した動画を見たためだろうか、愚痴をはいている。ただひたすら中傷することのみに特化したプロモーションビデオ。技術を省けば幼稚以外の何者でもないそれは苦痛。それとは対照的にフローラ・シュトリエ(
gb6204)、明るい表情のまま、
「なら早いところ潰してしまいましょ」
と、返答しつつ、エネルギーガンを構える。その彼らの前には、守剣 京助(
gc0920)、エメルト・ヴェンツェル(
gc4185)、リー・武路(
gc5245)が、走っている。
彼らが狙うのは、這いずっている敵の左側面。エメルトと共に、そのわき腹に向けての攻撃する。
「必ず当てます」
新居のエネルギーキャノンから放たれた4発。すべてレーザー砲にあたり、黒い煙を上げさせる。振動は、元搭乗員の上半身を揺さぶるほどの衝撃。続いて、守剣のトルマリンソードが、2回、鋼鉄の外装同士の隙間に沿って降られる剣。
「ち、属性がないのか」
思ったような効果がなく、残念な表情をして、敵に視線を向けたまま後退。
「穴の一発ぐらい開いてくれよ」
そういって両腕をスパークさせて山崎が放った弾頭矢が2発、キメラの灰色の表面に当たる。ドンと音を立てて炸裂。さらに、番場は身につけているアスタロトを発光させて、超機械を動かす。山崎が攻撃した箇所が電磁波に晒されて、ヒビが生じる。続いてフローラが
「頑健すぎるから、これ」
練成弱体と練成増幅を行ったうえでの2回の砲撃。大きな衝撃をキメラに与える。そこへエメルトが、
「被害者のためにも、抹消します」
そういって、新居の援護射撃の音と共にコンユンクシオを2振り。続く、天野のターミネーターの弾丸とミスティックTの電磁波が、交互に放たれ、キメラに癒着している岩龍を揺する。そんな、一斉に振り注ぐ弓矢と弾丸に、キメラに接続された元搭乗員の無表情のまま。
「作品様は知覚が苦手のようですね」
天馬の感想が言い終わる前に、リーが1回、爆煙に包まれている敵にデビルズクローを引っかく。威力を示すように、刃にへばり付く肉片。しかし、
「あの巨体では、キメラにとってはかすり傷でしょうか」
粘液に封じられないように、10mまで後退するリー。横に、エメルトと守剣という陣形で、彼らは目の前の敵をにらむ。巨体は待っていたとばかりに、地面に伸びるヒダを伸縮させながら動き出す。
●協奏曲は続く
爆煙から覗くのは、前のめりになっている搭乗員の姿勢。その体は妙に輝いている。その下半身代わりの巨大な肉の塊は、左へと体の向きを動かす。ずるり、ずるりと、不気味な音。動きを止めると、顔を斜め上に向ける。
「きぁぁぁぁぁあ」
瞳はうつろのままに、発する渾身の絶叫。10mの距離にいる守剣、エメルト、リーの耳と体を揺さぶる。古傷が開かせるような感覚。それから、大理石の上に置かれた氷が押されて進むように、体を滑らし、前まであと20cmというところで、ぴたりと止まる。
「はやり、ナメクジだけあって遅いですね」
その動きの緩慢さを実感するエメルト。痛みに耐えながら、守剣と共に攻撃。しかし、リーは、まだ実戦経験が少ないためだろうか、先に後退して治癒を試みる。その彼らの後ろでは、新居が同じ後衛達へ後退の指令を発する。
「巻き込まれては大変」
番場が白髪を揺らしながら、後方へと10m移動し、構える超機械が3発。それにあわせるように、後衛4人も後方へと移動してから、攻撃を開始する。
「もう少しで、レーザー砲が破壊できる」
新居がエネルギーキャノンを起動させて2発。しかし最後の一発は岩龍のアームで阻まれる。だが、守られた肝心のレーザー砲は、ぎぃぎぃと稼動の不良を伝える音、おまけにその音にあわせて、砲台が大きく揺れる。それに続いて、フローラがエネルギーガンから2発、発射。
「鬼さんこちら!」
大きな声を上げながら、天野が超機械である篭手を操り、電磁波を巨大なナメクジへとに浴びせる。が、キメラの様子に損傷以上の変化はない。これに負けじと、山崎が1発、弾頭付きの矢を放って大きな爆音を立てる。爆音に揺れる、キメラ化された搭乗員。が、すぐに姿勢を直して、目の前の小さな人々を見つめる。そして、一人を凝視し、レーザー砲を、何時取れてもおかしくない音を立てながら、起動させる。
「き、きけんを、はいじょ」
元搭乗員の口からそんな声。それにあわせるように、レーザーが発射。光は、前衛の一人にめがけて一直線に当たり、
「ち」
鈍い衝撃を受けた守剣。だが、相手の見かけに反してその威力が弱く、衣服と皮膚の損傷はかすり傷程度。体勢を直して、守剣は汚れのような焦げ後を叩く。ちょっと痛みがして、片方の眉毛が揺れる。他方、打ったキメラの砲台からは白煙が立ち上っている。
それから続く能力者たちの連続の攻撃。其れに対する報復のように繰り出される移動とレーザ、そして悲鳴。その中でエメルトは、キメラ化された人間を見つめる。肌の色は青白いが、生々しい肌を粘液で覆われた姿。死者とは明らかに違う不気味な生気に、一瞬、寒気が襲う。同じく、山崎も、
「明日はわが身と思うと、冷や汗しか出ませんね」
と、声を出す。その一方で、治癒を行うために、練成治療をリーに施していたフローラの表情が曇る。キメラの鈍足ながら滑らかな移動を助ける粘液からの匂い。さらに、繰り返される斬撃による出血と、電磁波や爆撃によって焦げた肉の臭気も合わさって、不快な匂いで充満していた。
「生臭い‥‥リー達大丈夫?」
「大丈夫です。あ、でも、今自分はリーではなく、オクオリスですけど」
そういわれて一瞬首をかしげるフローラの側にいる番場は、
「気をそらさない。早く後方へ」
といって、注意をする。それと共に、
「‥‥にしても、単純な攻撃のみの敵でよかった」
攻撃の予兆を読み取ろうと、常に敵の動きを見ていた番場は、それが無意味と判り、攻撃に専念する。リーが一振り斬って後ろに下がると、キメラの舌の様な足は、瓦礫を難なく飲み込み、大きな建物も、巨体を押し当てて崩してしまう。
●崩れ落ちる
「こ、こーげき、ぞ、ゾッコウ‥‥ぐぎゃぉあぁあ」
そう声を上げて、ずるりと直進するキメラ。再び、絶叫を上げる。歯を食いしばる3人の男。ダメージが溜まってきているが、しかし、慌てている表情はない。なぜなら、戦闘開始から数分、敵の姿は、甲殻である金属が大きく剥がれてしまったから。覗く肉から吹き出る体液が、敵の負傷を伝える。其れゆえだろうか、敵の悲鳴が破れかぶれを思わせる。つづいてレーザー砲が放たれる。
「好かれちゃったみたい」
狙われた苦笑い以外しようがない。その後ろで疲労で援護射撃が無理になった新居が、代わりとばかりにエネルギーキャノンを5発、撃つ。抉れた箇所がさらに吹き飛び、大きな穴が開くと、溢れかえる濁った体液。それをばかりに、全員が勢いよく追撃を開始する。
「リーが出る幕はなかったですね」
終始、オクオリスの人格のまま攻撃を続けていた中年男性は、デビルズクローを駆使して岩龍の装甲をはがす。その痛みに耐えかねたのか、人の部分のキメラの口から、
「ぐぎゃおう」
盛大なまでの悲鳴。守剣とエメルト、リーの3人は耳をふさぐ。それぞれの体に走る痛み。癒し手は精神力を使い果たし、これ以上の戦闘となれば、近接攻撃を行っている彼らのいずれかが倒れるかもしれない。そんな不安をエメルトは抱いていた。その彼に妙な感覚。べちゃりと自身のコートに粘性の何かが付着する感触。どろりと垂れるそれをみると、解けかけた黄色い肉片。不意に顔を上げてみると、そこには崩れつつあるキメラの姿であった。
「ふう」
ため息をついて、反転していた瞳の色を元に戻す天野。戦闘中絶え間なく流れた血の涙をぬぐう。番場の髪の色も茶色に戻る。これは勝利。だが、
「待ってろ。助けてやるかな」
大剣を握りながら一気に元搭乗員へと向かった守剣は、しかし、崩れる鋼鉄に足元を取られる。下を見ると、凹む足元と、そこからにじみ出る黄濁色の汁。被害者である人間を助けようにも、キメラの生体部分の崩壊は急激過ぎたのだ。元搭乗員の上半身も、腕からヒダが伸びるようにどんどん崩れて、根元のナメクジと混じっていく。
「くそぉ」
バグアの最後の悪意を感じている守剣を、猫背の男が担ぐ。それは、遺品を拾おうと同じく崩れるキメラに近づいていた山崎。
「無茶をしますね‥‥自分も同じですが」
そういって一気に降りる。その後ろでは、轟音を立てて、見せびらかしていたアームやコックピットが地面へと落ちていく。正に墓標をその場に作ろうというとするかのごとく。
「人のこといえるのか」
守剣はやり場のない怒りを示す。その着地点から数メートルはなれた所で、黙祷を捧げるエメルト。
「回収係みたいなものは、なかったみたい。ああ‥‥」
フローラは、安堵をこぼす。その手の甲からは銀の紋様がうっすら消えつつある。が、自分達に近寄る山崎たちの顔の暗さに言葉がとまる。
「さて、遺品の回収をしなくては。‥‥でも、これでは被害者の身元を確かめることは無理かも‥‥」
そう独り言をつぶやく山崎に、天野は、名前なら知っているよ、と答える。
「バグアの連中の送った例のプロモーション映像モドキ。‥‥関係者にも報せてあるらしいですから、早く遺品の回収をしましょう」
その言葉に、聞いていた山崎やエメルト、さらに言った本人も、苦い丸薬を口で噛み砕いたような、嫌な感覚を持ちながら、『金属の瓦礫』を見つめた。
日が暮れるまで、回収作業は続いた。