タイトル:タイツ使用人の会マスター:火灰

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/03 12:14

●オープニング本文


 アスファルトが所々剥がれた道を無骨な車で走ると、鹿に皮を食われたのか、立ち枯れた木々ばかりの森が目の前に迫っていく。その中へと入ると、道はとうとう無舗装のみならず、雨水の流れ道と思われる深い切れ込みやら、大きな水溜りが待ち構える状態となる。轟く雷。何の事前情報を知らないものがいたら、雷雨で立ち往生するのでは、と言う不安がよぎるだろう。
 それに耐えながら先に進むと、ツタが絡み、高価な模様ガラスがひび割れている、なんとも残念な洋館が見え始める。その館の背景は雲ばかり。絶壁の上に立っているからだ。
「ごめんください」
 そういうこと何度目か。獅子の頭に模したノッカーを叩いた回数は三桁に達しそうだ。
黒と白の正しいメイド姿の女性は、それでもなお、顔色一つ変えずに、頑健なクヌギ製の巨大な扉を見つめていた。
「緊急事態に備えましょう」
 後部のトランクから機関銃を取り出し、自分の背中に背負って、再び、扉を叩く。応答はない。ドアノブに手を当てて開こうとする。動く。鍵がされていないようだ。ずるずると開くと、いや、布が引きずる音が混じっている!
「え」
 扉の裏側をみたメイドがみたものは、ドアノブに引っかかっているタイツ。いや、タイツに流体入っているのか、膨らみがある。どうやら、雑用係として用いていたキメラのようだ。が、気力か、消費期限が切れたように、垂れている。
「これ、もしかして」
「おお、そこにいらっしゃるのは、ご連絡のあった‥‥」
 メイドが驚き思考を口にするのを遮断する声。この館へと勝手に住み着き、研究していたキメラ研究者が地下に通じる階段からあがってきた。
「あ、ええと、その」
「ご注文のスライムは用意できました。いやぁ、これで成果がより誇示できる」
「はぁ、あ、いやですが、そのこれ‥‥」
 勝手な妄想一歩手前を吐き出す博士は、女性の問いかけなど聞くこともなく、手際よく4つのアタッシュケースを担いで、外に置かれている車へと運ぼうとする。
「ああ、それと、私の強化スライムの使用方法を書いた説明書も、おっと、こちらのケースに入っているので、クライアントへの説明時にはご説明お願いします。そうそう、クライアントが話を聞いてくれない場合は、黒い球をスーツに入れて水につけてくだい。水でスライムが元の形状に戻り、動くようになりますから」
「は、はぁ」
 白衣姿の人物はトランクにあった工具や自賠責保険の保証書を地面に置いて、入れ替えるように銀色の幾つものケースを空いた空間へと投入し、また地下に降りて新しいケースをもって出てくる、と言う動作を繰り返した。
「それでは次に提出しなければいけないことがございますので、研究に戻ります。それでは」
積み終えるなり、一言言って、また地下室へと消える博士。静まり返る玄関。垂れているタイツスライムの手がドアノブから離れ、地面に水平な状態で横たわっている。その扉の外側では、保証書が風に吹かれて踊っていた。ぼーん、ぼーんと、かつての館の栄光を放つ柱時計が正午を報せる。
「いら、急がないと予定の時刻に間に合いません。あの奇人にキメラを手渡さないと」

 数週間後。
 ラストホープのとある会議室。そこに特徴がないのが特徴のような中年男性の説明者が口を開いた。
「今回の任務はとある邸宅の制圧です」
 要約すると、どこかがおかしな資産家が、キメラを手に入れて、雑用等の使役しているという。その話を聞いて、傭兵達は首をかしげる。あれ、バグアのキメラって、そんなに器用だったっけ、と。
「実際には、郵便が届いたら、郵便受けからそれを取り出すとか、合図があったら塩漬け肉を倉庫から持ち出す、または芝刈り機を一日中適当に引き回すといった、犬猫が出来る程度の『お手伝い』なのですが‥‥。当の資産家の本当の目的はそれではなく、その‥‥」

ある所にある豪華な館の前。
「‥‥」
 裏口を経由して、地下倉庫へと食材を入れていく宅配業者達。先代から世話になっているので、横領しようという思いはないものの、引きこもりの現当主には困惑している。自分達の作業は監視カメラで見られており、主人が不信に思うとすぐにスピーカーから罵声が飛んでくる。業者は人間不信なんだろうか、と彼について感じていた。が、一週間前、怪しい人物が茂みの辺りで匍匐前進しているのを見たのを、主人に伝えたら、気にするな、という返答。普通じゃないという思いが彼らに沸いてきた。警察に通報したものの、いつも通り業務を続けてほしい、と警察から頼まれた。どうしたら良いのかな、と、そんなことを思い出したり、考えたりしながらも、空いた棚へと生ハムをおいていく。
 その、彼らの仕事場の上、屋敷内には、館の1階の中央に配置された2階に通じる巨大階段が構えている。そこに黒タイツが数名、体育座りをしている。その階段を登って、大きな扉を開けると‥‥。
「がんばれ、がんばれ、そうだ、そこを右に」
 主人が一人、大広間の一番奥に座っている。かつてそこは歴代の主人達が社交の中心として用いた重要な部屋だったが、今、その格子模様の床の上をブリッジの格好で疾走するタイツ人間達が占領している。その数20。その滅茶苦茶に走る間を、両腕を用いてシャンパンを抱いているタイツ人間が一人、進む。しかし、その足はO脚、いや、それ以上に膝が外へと向いていて、立つ姿勢を維持できるのかどうか怪しい状態。なのに、一歩一歩、頭部を左右に振り子運動させながら、前へ前へと進んでいく。
「すごいぞ、すごいぞ」
 20分後、体を右左に振りながらも、何とか、ビクーニャ製の茶色のガウン姿の初老の老人に、シャンパンのビンを手渡すタイツ人間。
「良くがんばった、良くがんばった」
 その、凹凸のない黒い顔を撫で回すのは飼い主の手。

「‥‥愛玩動物、またはからくり人形みたいな感覚で、夜な夜な、いろんな行動を行わせて楽しんでいるらしいです。バグア側の本当の狙いについては、屋敷に詰めるだけ詰め込んだキメラを一気に近隣の市街地へと襲撃させるためではないか、という見方がありますが、いまだ不明。ただ、今の状態が取り締まりどころか、軍の出動の対象なのは明らかです。しかし、確認できているキメラが30といえど、実際はそれ以上の可能性があります。そう考えると、軍で対応するよりは皆様にお願いするのが合理的、と言うことになって、要請にいたりました」

 ですから、と、説明者は続ける。

「早急にタイツ姿のあれの殲滅、お願いいたします」

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
ネイ・ジュピター(gc4209
17歳・♀・GP
エシック・ランカスター(gc4778
27歳・♂・AA
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG

●リプレイ本文

●初めからごめんなさい、主が。
 配達を終えた業者が勝手口である裏門から出て、ぐるっと半周して表門を横切ると、幾名かの訪問者の姿を見た。
「あれ、オラたちが配達する時にもいたよな」
 訪問者の一人、沖田 護(gc0208)は、顔から汗を流してトラックを見返す。明るい表情を見せるが揺れる頬。
『本当に、あの仮装ライダー霧丸は脚本家が途中で入れ替わったけど、それは配下達の造詣に全く理解を示さなかったスポンサーによる嫌がらせなのは、明確だ!』
 ミリハナク(gc4008)は、目の前のスピーカーを見ながら口から空気を吸って、しまった、ため息をついたら相手が嫌がる、作り笑いをする。彼女の脳裏に、事前に電話で連絡をした時のことが蘇る。受話器がとられてから、話が出来る人間と繋がるまで20分以上待たされた。嫌な予感が自分を包むのを感じていたのは確かだけど、それがこんなこととは。

「まだ準備できてないから」
 着いて早々、主が返答。その上、待機している間、延々と一方的に主が語りかけてくる、特撮ドラマの敵兵士の話。山も谷もない説明なので、体中がだるくなる。
「早くお遭いしたいですわ‥‥あれ、沖田様、どうなされました」
 リズレット・ベイヤール(gc4816)が使用人の方々に思いをはせ呟く。が、そのついでに目を動かしていると、沖田が時々、歯を食いしばっている。沖田は見られていることを感じたのか、ゆっくりとリズレットに近寄って、その左耳につぶやいた。
「いや、その‥‥潜入組の様子が」
 そんな彼の耳に潜り込んでいるイヤホンから
「タイツ最高!」
「何度言わせるレオタード」
 怒声が混ざった奇声がもれて、リズレットは利き手で口から漏れる驚きを抑える。

 ことの原因は2時間前にさかのぼる。
「おっと」
 フロックコートに皺一つよせずに、放物線を描いて跳ぶUNKNOWN(ga4276)。渋さを演出する黒帽子を被ったまま壁を越える姿は、プロスポーツ選手が嫉妬するだろう。その彼の後方に頑丈な壁。
「それで、この格好であそこを越えるということは、どう見ても」
「その先を言わないのが賢明だと思います」
 ソウマ(gc0505) が黒のレオタード姿で自分達の容姿について冷静な顔で言うのを、エシック・ランカスター(gc4778) が抑えようとする。が、言われたソウマは横目でエシックを、上下に目を動かしながら睨む。全身タイツ姿の秋月 愁矢(gc1971)も冷たいまなざしを向ける。
「ん、どこかおかしいのですか」
 何故って、下半身がとっても肌色だから。先に移動した一人も加えて、黒で統一された潜入チームにあって、エシックの足から放つ明るい色彩がとっても目立つ。網タイツの目がちょっと大きかったようだ。
「ともかく行きましょう」
 ここでしゃべっていても仕方ない。助走とつけて一気に蹴って、3人一斉に壁を飛び越えた。
「あ」
 館を覆う壁は、能力者の視界を遮ることだけは充分に役立った。ソウマが着地した地点だけに、消費期限か電池切れかわからないが、大の字で寝そべっている黒タイツが一枚。足元がすべり、空が見えて、そのまま踏んだものへと落下する。ゲルが半量入ったそれは、衝撃を全く吸収しない。ソウマの背骨と後頭部が人型の袋を叩く。被害者の『キョウ運』を讃えるように小さく爆発。目の前が白く光ってぼやける。声だけが響く。
『‥‥目覚めよ』
 何を。ソウマはそう問いかける。良く見れば、光り輝く空間に浮かぶ、顔がモザイクの白タイツ爺さん。
『目覚めよ、ソウマ、汝、タイツの良さを世に知らしめよ』
 その声に起こされたかのように、ソウマは飛び起きる。その勢いはすごく、不安になって近寄った秋月の顎を狙う。が、背中を曲げて間一髪避ける。
「大丈夫かソウマ」
 改めて起き上がった人間を見ると、その目が上の空になっていて、
「ん〜絶・好・調! さぁ、無神論のバグア共、このタイツ姿で、改心させるぞ。いこう、エシックさん、秋月さん。あ、それとUNKNOWNさんには」
 勢い良くその場で這っていたキメラの首根っこを掴んだまま振り回す。
「タイツはいらん。というか、中身入っているだろう、それ」
 そして爆発。前より音が大きめ。

●せめてタイツを堪能してください。
 門の先に続く道を通りながら、沖田が無線から聞いた情報を話し出す。曰く、
「‥‥館全体が防音処理されているので、主人には気づかれないとか」
 しかし、聞きなれた奇声が入るので、沖田の冷や汗が止まらない。
「お外のキメラさんと戯れたいですわ」
 遠くに行き倒れのポーズをとるキメラを見ながら、リズレットが訴える。それに気品漂う黒いドレスの女性は、
「まずは主人に近づいて確実に束縛できるようにしてからにしましょう。にしても‥‥」
 よくよく見れば、ツツジに隠れて目立っていなかったのだが、キメラがうじゃうじゃと。
「種類が少ないですね」
 リズレットは前回遭遇した時と比べる。皆這いずり回っているだけで、組み体操やらブレイクダンスといった目立つものがないのでがっくり。

 その一方、裏口から入った潜入組は屋敷内を探索。エシックがコンタクトとばかりに、埃を叩くキメラに右手を額に当てて顔を左右に動かしたり、両手を頬に当てて背伸びをしたりして、ジェスチャーを披露している。しかし、相手は全く反応せず、彼を避けていく。
「掃除に特化したキメラ‥‥ですか」
 と、結論。もっとも、高価な油絵にヒビを入れる埃叩きや、それによって落ちた破片をふき取らずに、中央ばかりモップを持ちながら走っている行為を掃除に入るなら、の話だが。その側では、UNKNOWNが扉をじっと見ている。紳士らしくノックをするが、開くことも、声もしない。
「蹴倒したいが‥‥」
 目の前には、お仕置き部屋という札が付けられている。よくよく見れば、扉は内側から押されて曲がっている。扉の隙間を覗くと、みっちりとタイツ姿の人型が入り込んでおり、そのうちの一体が扉を閉めようと、ドアノブを握って引き寄せている。その隣の部屋を空けた秋月が見たのは、コタツで囲んでジッとしているキメラ4体。なぜか白黒テレビが延々と砂嵐を写している。
「何しているのですか、そこのイケテナイ皆さん」
 ハイテンションで騒ぐタイツ1体。両手に黒い布を持ちながら、近寄ってくる。
「3階で見つけた、このフィット感最高のタイツを着て、新世界の腰の切れを体験してください」
 体の中央部を盛んに振動させる何か。エシックとUNKNOWNの2人は壁に顔を向けて、口を閉じたまま階段へと向かう。

 秋月も、見えないフリをして中央階段へ移動。そこにあったのは整然と並ぶ黒い人型。腰に手を当てて構えている。ん、何かの曲が。
「失礼いたしま」
 ミリハナクがノック後に扉を開けた。すると、そこには一斉に全身を動かして踊る黒タイツ集団。足や腕の関節が一つ多いのがいたりする。流れる往年の名ダンスミュージックと妙に合う。その印象的なメロディーに合わせて、中央で格好良さで抜きん出ているのがいた。
「秋‥‥月さん!」
 仲間の姿に言う言葉を失う沖田。その列から離れた所で、二枚の帯を綺麗な曲線を描いて振り回すソウマ。しかし、床の雑巾で転んだところで、ドンと音を立てて立派な栗材で出来た扉が開く。

「お待たせいました。さぁ、入ってください」
 額が広い小太りの小男が登場すると、一気にタイツ連中は左右に分かれ、道を作る。秋月も、タイツの踊り子達に紛れて移動。どうやら、その道をいくしかないようだ。先の大広間には‥‥。
「素晴らしい戦闘員達ですわ」
 声を出したリズレットは顔を引きつらせながら、色とりどりの仮面やベルト、輝く紙が張られたキメラを眺める。彼らは一分ごとに腕を伸ばしたり、腕を組んだり、跳んだりする。
「如何ですか、歴代戦闘員の決めポーズは」
「素晴らしいですわ。これほど性能のよいキメラはどなたが提供されたのでしょうか。私のなんて、奇声を上げてばかりで」
 主の話に合わせながら、ミリハナクはキメラ入手の情報を引き出そうとする。が、
「そんなことより、ほら、初代の造形は僕にとって」
 主人はキメラを見つめて目から星を放つ。話は日が暮れるまでならよいが‥‥。3人全員目を合わせ、首を縦に振る。深いため息と一緒にトランシーバーを握る沖田はしゃべる。
「皆さん、始まりの時間ですよ」
 
●処分だ、ヒャハ
「倒す倒す倒す」
 大規模作戦での鬱憤を晴らさんとばかりに、ネイ・ジュピター(gc4209) は変わらず這いずり続けるキメラに辻斬りを披露していく。顔に浮き出る蔦の刺青がとても怖い。ジグザグに移動しながら、館へ。小さな爆発を背景に、表の扉を蹴破る。そのまま、箒や叩きを握るキメラも月詠と天照で切り込んで進めば、目立つ扉が一つ。お仕置き部屋と書かれたそれも豪快に蹴る。響く大爆発音に吹き飛ぶネイ。その横で、バレエを演じながらソウマは超機械「グロウ」を振るう。その指揮棒に従うように、一体のキメラが蒸気を発しながら形が崩れ、破裂。飛び散り、ソウマにこびり付く布とゲル。
「ああん、カ・イ・カ・ン!」
 それに見て目が点になるネル。中央階段では、秋月がタイツ達の間を通っていく。その後を追うように爆発するキメラ。その衝撃に隣り合ったキメラも誘爆し、手すりが吹き飛ぶ。応戦しようと二人三脚で突撃するキメラを、秋月の壱式の刃が2体一緒に二つに割る。
「何故、攻撃しない」
 そんな彼の独り言を簡単に吹き消す激しい爆音は、開放された扉を経由して、大広間にいる小男に届く。
「な、ななんな」
「ご主人、ご決断の時ですわ。今すぐキメラに関することをUPCに引き渡すと約束してくだされば」
 慌てる男へ説得を行う淑女の声は言葉の一つ一つが明瞭。だが、男は答えとばかりに、握っている杖で床をたたくと共に、先端のボタンを強く押す。扉が多数吹き飛ぶ音。開いた部屋から汚物のように大量のタイツ男が溢れ出す。どうやらキメラ達の行動様式が変更されたようだ。3階を捜索していたUNKNOWNはすぐに、自分に向かってくる黒タイツへエネルギーガンを放つ。キメラの破壊を告げる爆煙。それが霞むと、さらけ出すのは、廊下の奥から押し寄せるキメラの群れ。その隣でエシックが首を伸ばして頭を振り回す掃除係の攻撃をかわしつつ、黒い水晶球から黒いエネルギーを放って3体倒す。爆風と共に軋む窓。喜びに満ちた顔でそれを見ると、黒い人影が張り付いている。
「本気になられたのですね。さぁ、いきましょう」
 その声に誘われるように、庭から弾丸のごとく飛んできたキメラが頭突きで窓を割る。

 所変わって2階の大広間。能力者3人を囲む、装飾品をつけたキメラ達。キメラは両腕を床に水平にさせて片足を上げたり、全身を波打たせるもの等、各々好き勝手な準備運動を披露。
「蹲ってくださいませ」
 ミリハナクが注意を宣言すると共に、黒化させている手であげたスカートから覗く無骨な靴。鋭利な爪が4体のキメラをなぎ倒して、主人の左右近くで爆発して悲鳴をあげさせ、リズレットの銃が能力者から距離が離れている3体を崩れさせて爆音。苦し紛れに1体のタイツ人間がしなったゴムの腕を沖田に当てようとするが、沖田が掲げるメトロニウムの盾を吹き飛ばすだけの威力は無く、輝くレーザーの切れ込みによって右肩から左足へと通じる一本を通され、爆発。そのまま、回転して隣接する2体も斬ると、爆発はさらに周囲のキメラの肉体を傷つけ、連鎖反応を示して椅子や床のタイルを割り、吹き飛ばす。そんな大広間に、援軍とばかりに5人6脚になって横一列で一斉に向かってくるキメラの軍勢。が、
「貴殿らに死を」
 ネイが彼らの背後にいた。二刀の刃が2体の背に傷つける。崩れて爆音を立てる列。それでも大広間にいるキメラだけでも30体は立っている。その煙の壁を突破して偽造潜入をしていた3人に合流するネイ。
「何十体いるんだ、このキメラ」
 一階にいる秋月のあきれ返った声が聞こえる。声の主はいまだ割れ続ける廊下の窓を見ていた。廊下に転がる弾丸代わりの1体に続く形で4つ足で入る込む何対ものキメラの光景にうんざりしていた。爆音の宴会はまだまだ続きそうだ。 
 
●で、何の会でしたっけ
 爆音がやんだのは、外が暗くなって、下界の街が明かりを点してハロウィンの配色になった頃。立派だった館は焦げ目だらけ。窓と言う窓は全部割られ、保温の効果を喪失していた。お陰でキメラたちの爆発で生じた煙が溜まることなく外へと流れ出る。ピーポーピーポー。遠くで監視していたUPCや警察の車が接近する。
「せ、正当防衛だから、許せるよね」
「逮捕です。言い訳は本部で」
 無傷の主の情けない言い訳に答える沖田。ネイは息を吐く以外に答える気力が無い。それに対してリズレットとミリハナクが、呆れ返りを抑えながら、バグアに関する知る限りの情報の提供こそ大事、と説明して目的のものを引き出そうとする。その最中、
「ひゃほー」
 全身穴だらけの黒タイツ1体、スキップしながら大広間に入る。顔に凹凸があるから仲間だろう。そのままテンポ良く進みながら、主の前まで来ると、
「ど・う・でしょうか? 僕の着こなし。ついでにプロモーションビデオ代わりに撮りましたから、後で見てね」
 ウィンクをして、主の手に強制的に何かを持たせた。沖田が立ち上がって無言で練成治療をそれに施す。大きな背面のタイツの穴から覗く焦げた黒い皮膚が剥がれ落ちて、綺麗な肌色を見せる。いまだハイテンションな何かを思いついたように、感謝の言葉も言わずに奇声を上げながら大広間から出る。
「‥‥どこに落としたかな」
 タバコの煙がUNKNOWNの顔を横切る。彼は白蝶貝のピンが落ちていないか、辺りを見渡す。奇声が響く。いやあれは風の音だろう。疲労で勘違いをしやすくなったのか、と彼は自分に言い聞かせる。歴戦の戦士の彼でも、密集した爆発キメラに立ち向かう状況を無傷で済ませられなかった。自身やエシック達の傷を治して、精神的にも疲労気味。後でくる軍や警察に捜索願を出しておかなくては。

 それからしばらくして、聞こえ出す車の音を確認しようと立ち上がった秋月の前に、スチール製のケースを両手に持っている、人。
「さぁ、依頼達成の祝いに、この中にあるタイツに着替えましょう」
「そうそう、あのケースだよ。メイド姿の女子が持ってきたのは。あの中に‥‥」
 ソウマの話の途中で声を上げる騒動の原因。このケースから真の犯人にたどり着くのは難しいだろうが、
「証拠ですから、開けないでくださいね、ソウマさん」
 ネイが念押し。彼の録画データと共にUPCへと提出する物品だから。