●リプレイ本文
●戦線維持を
目の前に、道に対して横向きに配置された装甲車。それを盾に数名の軍人が重火器を持ちながら、腰をかがめていた。何百発もの銃声とメトロニウムに当たる衝撃音の中でも、
「援護に来たぞ」
という須佐 武流(
ga1461)の声が聞き取れたのは、現場になれているためだろうか。
「あれか‥‥不気味、と言うほどでもないな。では、勇猛なるキメラたちに、それ相応の礼をしなくては」
レフィクル・ヘヴネス(
gc5117) がそれを率直に口にする。
「‥‥よろしく頼む」
紅馬は、仮装を思わせる姿の面々にちょっと引く。と、その時、
「伍長、きます!」
部下の掛け声で気づけば、キメラが二頭、肉のバリケードを乗り越え、自分達に向かってくる。
「話す隙さえ与えない気か」
秋月 愁矢(
gc1971)が小銃「ブラッディローズ」の引き金を引いて、その山羊の頭を粉砕する。倒れてもその勢いは残したまま、アスファルトの上を滑る。そして、さらに秋月は24発を、倒れた仲間の左側を通るキメラへ全弾打ち込む。皮膚を消失し、中身をさらけ出す。そして、ジョシュア・キルストン(
gc4215)が、いまだ活動するその肉へ小銃「フリージア」を放ち、キメラの脊髄と内臓を粉砕させる。
「キメラ退治と言うよりゾンビ征伐‥‥ああ、服が汚れる」
まだ敵が近接してもいないが、目に入る『あれ』が連想させる。
「‥‥眠りにつけなくなりそうな光景だな」
装填している秋月の側で、シクル・ハーツ(
gc1986)も『あれ』を見て呆気にとられている。たしかに閉じている瞳に『あれ』が一瞬でもみえたら飛び起きることだろう。そう、『あれ』とはキメラのバリケード。
「全員配置が出来たようですね。それでは、一気に進みます」
正面へと突進するシクル、須佐、レフィクル。それを待っていたとばかりに、文字通りの肉の壁から頭を出す山羊型キメラと対峙するべく、突進。それを好機と感じたキメラも、数十頭、飛び出していく。
「大丈夫なのか」
一等兵の不安そうな声に答えるように、バリケードから発射される猛烈な銃弾。向かってくる能力者たちを倒そうとそれらは放たれた。援護射撃とも取れるその攻撃を、しかし、空中に止まるストラスを支えにするようにアクロバットに回避する須佐、エンジェルールドで完全に防ぐシクル。唯一傷を負ったレフィクルはレオタードに一筋の線を走らせる程度。それでは、
「フフフ‥‥ハハハハ」
笑う余裕を奪うことはない。山羊キメラを 大剣「アウゲイアス」の餌食となっていく。彼ら3人が横一列になって進んだのは正しかった。相手はどれほど巨大になろうとも所詮、小物のキメラ。能のないものが集まっても、判断能力は変わらない。放たれる弾はバラバラ。
「コアがあるかと思ったが、もしかしたら見当違いだったかもな」
その後ろでは、兵士達と連帯ととるべく、ジョシュアが説明をしていた。
「と言うわけで、私、そして秋月は、彼ら3人から漏れた‥‥って、早速ですか」
もれた数頭にジョシュア、秋月が一斉射撃。それによって赤く染まって転がったキメラへと、UPCの兵士達が重火器を浴びせる。そのキメラも、悪あがきとばかりにフォースフィールドの赤い輝きを発して、威力を弱めようとする。が、破損した体に幾つも弾丸が食い込む。
「よし、本来の任務のためにも、一緒にがんばりましょう」
秋月は兵士達の空気を読みながら、一致団結できるよう、戦闘中声をかけ続けた。
●運河を渡り
「寒い」
ガーネット=クロウ(
gb1717)漏らすが、口の動きは小さい。なぜなら、うっかり開けてしまえば、冷たい水が流れ込むから。
ここは、橋の下。凍ってはいないもの、冷水がとうとうと流れている。もう冬と言う季節なのに、ガーネットがするのは、敵の陣の裏側に向かうため。同じく、大神 直人(
gb1865) も、
「任務とはいえ寒中水泳をする羽目になるなんて‥‥」
と独り言を言いながら、上陸場所を探している。長年の動乱で放置されている。うっかり泥にはまって上がれないこともあるだろうし、それ以上に、
「ち、キメラがいる」
2頭の山羊が、上陸予定の近くでフラフラとしている。橋からある程度離れたところだというのに。気づかれたら、銃声を上げるだろう。そうしたら、他のキメラたちを呼ばれる羽目になるかもしれない。
「‥‥なら私が倒しておくね」
覚醒したことによって赤い瞳になっている和泉譜琶(
gc1967)が、すいすい泳いで対岸に上る。挑戦的な性格になっている彼女は、隠密潜行を発動している。そのお陰で、淡々と使用したタンクを音を最小限にして隠す。そして、そそくさと、キメラたちに向かう。その光景を、放し飼いにされている山羊へと忍び足で近づく子供に見えてしまう。が、その片手には身の丈を超えた和弓。キメラたちとの間が70mまで近寄ると、
「それでは寝てくださいね」
妖怪変化を撃ち落した弓の名を誇示するように、二つの矢がキメラの急所を射抜く。どさりと静かに落ちたのを聞いたガーネットと大神は、陸に上がる。
「全身ずぶぬれ、くそぉ。この恨み、償わせてやるから‥‥な」
大神はこんな作戦を行う原因になったキメラたちに怒りを燃やす。が、その側で、急ぎながらビニールから乾いた軍用歩兵外套を取り出すガーネットの姿。ガーネットは、どうしたの、とう表情をするのみ。
「くそ、くそ、くそぉ、すべてキメラの性だ!!」
声のボリュームは非常に小さいが、嘆きは充分に表している。
「それより、襲撃の合図の準備をしませんと」
ガーネットの指摘で、大神は素早く、密封された無線機を取り出しながら、橋とその周辺を確認する。競り市から逃げ出したのか、大量の山羊キメラが橋の入り口付近に密集している。その場所へと、数頭の群れが引き寄せられるように集まっている。
「向かっているキメラが大方橋に集結したときだな、ん」
大神は無線機を握りながら、ガーネットと和泉に伝える。
●「突撃開始」
1頭のキメラが橋に集まる山羊の団子に、ぴったりとくっ付く。大人しく順番待ちをしているそれに弓矢が刺さり、ばたりと倒れる。変異を察したキメラたちが、頭と胴から伸びている銃身を一緒に、後方へと向けば、
「眠ってください」
ガーネットがエーデルワイスと言う名の爪で2体のキメラを引き裂く。
「さて、俺の恨みを受けてくれ」
大神が握る月詠が一体を斬る。背骨を中心に二つに割れた前半身から大量の血液が周囲のキメラをぬらし、彼らを興奮させる。が、バリケード側からの音が、興奮を伝える唸り声を黙らせる。
「待っていた!!」
須佐がキメラのバリケードを飛び越え、無傷の山羊キメラの頭を踏みつける。それに続いて、
「癒着させるか!」
冷気をまとうシクルが、バリケードを飛び越えたついでに切ったキメラを、蹴り上げる。そして、黒いオーラを纏うレフィクルも、突入を終える。金色の角が、太陽の光で強く輝く。それに何かを感じるかのように、一斉に山羊の唸り声。だが、キメラ達は過密の状態。キメラの足や腹、そして攻撃の要である銃身が、お互いにぶつかり合って、動けない。バリケードを越えてきた者達に、発砲で応戦しようとするが、方向は出鱈目で、同士討ちが見られるほど。
「残念ながら、全力を出させません」
レフィクルが言い放つ。その隣にいる、シクルは不意に振り向く。それは肉の壁。そこには自分達を狙っていた銃身は殆どない。
「先に、動くキメラたちを征伐しよう」
当初はバリケードを攻撃する予定だった。が、バリケード自体からの射撃は、今いる軍人達には脅威ではなかった。それより、いつ突撃しようか待ち構えているキメラたちを潰したほうが、自分達の負傷や逃走される危険が少なく済む。そう判断すると、握る筒から薄桃色のレーザーを出現させる。
「一気にぶっ潰す!」
言葉通り、須佐は機械脚甲「スコル」を装着している足で次々キメラを蹴り倒す。宙を舞う山羊の首とライフル、そして血。橋の中央部側のキメラは混乱のきわみだった。その熱気に押されるように、橋の出口側のキメラたちは、飛び出そうとする。それを抑えようと、大神は2頭を斬り、ガーネットが4頭のキメラに巨大な切り傷を作って、異形たちを倒れさせる。
「これ、すべては無理かも」
弱気な言葉と裏腹に和泉は弓矢を淡々と脱出しようとするキメラへ放っていく。そんな中、1頭のキメラが大神に体当たりを行う。大神は巧みに避ける。が、それに釣られるように数頭のキメラ。
「しまった」
ガーネットはうっかり声を漏らす。その混乱に乗じて橋から脱出する山羊数頭。仲間からもらった弾痕から血を垂れ流しながら、疾走する。‥‥が、逃げ切れたのはそれだけだった。皮肉にも、倒れた仲間の体が障害となったのだ。それに、こうして数分後には、血の色で染まった肉の絨毯が橋の上に形成されつつあった。倒れているキメラ同士、癒着しようとするが、シクルや大神が蹴り飛ばしたり、投げ飛ばしたりして川へと放り込んでいくので、逆襲の狙撃が出来ない。
「あとは、動かぬバリケードのみ‥‥」
振り返ったシクルは機械剣「フェアリーテール」を、動かぬ巨大キメラへと振るい、破壊する。
●戦闘は終わり
川の水とキメラの血肉の臭いが橋の周囲を包んでいた。大神は背後から人の気配を察する。振り向けば、軍人一人。
「自分は、王二等兵でございます。倒れた衝撃で気絶していて申し訳ございません」
敬礼をしながら、そういうのは、戦闘前に襲撃されたバイクの運転手の姿。どうやら敵の攻撃の対象から逃れたようだ。
「それだったら早く、隊長に会いに行くとよいですよ。キメラの集中砲火を受けていたから」
それを聞いて、兵士の顔はこわばり、走っていく。その横で、ジョシュアたちの様子見を終えた和泉が、キメラの死骸の除去中。
「そこ気をつけてって、あちゃぁ」
柔らかい何かを踏んで、転ぶ二等兵と、それを注意しようとして口を開いている和泉。溜まっている血液を排除しているガーネットは、それを見て、笑みを漏らす。
橋を占領していたキメラの残骸が大方の取り除かれた頃、遠くからトラックが走ってくる音が聞こえ出した。
「部下の無事が確認できたので、早々に物資の運搬を再開したいのだが‥‥できれば、手伝ってほしい。金がないので、ボランティアと言う形だが‥‥」
紅馬がそう、傭兵達に語る。秋月と和泉は同意を示す。が、その一方でジョシュアは、
「仕事には入っていませんよね、それは」
といって、移動し、弾痕だらけの装甲車に入ろうとする。
「ジョシュアさん、昼寝しようとするの。サボっちゃだめ」
和泉が注意をする。それに対して、紅馬が、強制はよくない、といって慌てて言う姿に、部下や須佐達の顔が自然と笑顔になっていく。その中で、シクルは川を見る。河に浮かぶキメラの目が、視界に入る。
「‥‥当分、山羊の群れと出会いたくないな‥‥」