タイトル:命尽きるその前にマスター:

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2011/06/11 11:15

●オープニング本文


ゴオオオオォォォォォ‥‥
‥‥ドドオォォン!!
 突如、周辺に爆音が響き渡る!親バグアの航空機が、病院屋上ヘリポートへと強行着陸したのだ。しかも、その衝撃により、航空機は黒煙をあげていた。
「な、なんです?なにが‥」
看護士が、落ちた帽子を拾い上げながら、周囲を見回すが、煙と粉塵によりまったく視界がなかった。慌てふためく看護士や、患者達がわれ先にと病院の外へと流れ出ていく。その際にけが人もかなりでてしまっていた。

 この事件の少し前、親バグア領から飛び立った一機の貨物ヘリ。しかし、その外見は貨物ヘリであったが、至る所に武装が隠れており、その積荷に至っては危険極まりない物だった。
「こいつを‥」
 一人の男が、真っ暗な貨物室で、その積荷を見つめながらそうつぶやいていた。その声の弱々しさは男の異常さを際立たせており、まるで生きる屍の如く生気のない顔をしていた。
「ゴフッ‥‥」
 咳き込み、口に手を当てる。大量の吐血に混じり、黒い血まで吐いている。男は、その血で血文字を書き始める。積荷に書いたその文字は‥‥‥‥

「ヘリらしき機影確認! 現状の航路を進めば、人類側市街地です! すでに、バグア領から逸脱している為、危険航空機です」
 監視レーダーオペレーターが、情報をメインモニターへと流す。その予測航路と、航路の先にある市街地を見て、UPC軍の将校が直ちに迎撃のためにKVの発進命令を出す。相手がヘルメットワームなどでなく、貨物ヘリではあったが、その目的が不明であったため、迎撃にKVを出したのだ。しかし、それでも判断が甘かったことを悔やむことになる。

 UPC軍KVによる威嚇射撃
 それに動じない偽装貨物ヘリ

 迎撃すべくKVは偽装貨物ヘリをロックオン
 しかしそれより早く、偽装貨物ヘリが対KV用弾頭パンツァーファウストを発射

 KVパイロットから、反撃を受け被弾したとの報告が入る。この時点では、偽装貨物ヘリであることは予測していたが、対KV用の武装であったのは誤算であった。ただ、その武装は、歩兵などが使う兵器を流用したものであったため、威力・精度は脅威とまではいかなかった。被弾したとはいえ、KVは追撃を続けていた。いくら武装しているとはいえ、貨物ヘリである、KVに敵うわけもなく次々と被弾していく。

「ここまで来れれば、重畳」
 貨物ヘリパイロットの男は、操作パネルのボタンを押す。その瞬間、照明弾による目くらましと、煙幕が放たれる。すでに、長距離の飛行など出来ないほどの被弾をしていたが、すぐ目の前は市街地であった。そして、その眼前にたまたま見えた建物へと、ヘリを向ける。彼の目的、それは余命のない命をかけた強行突撃であった。

「くっ! なんということだ! すぐに現地に火災鎮火と負傷者救助のための」
 UPC軍将校の言葉は最後まで続けることは出来なかった。激突した貨物ヘリの貨物室から、何かが這い出してきた。
「キ、キメラ‥」
 大型貨物ヘリを見失い、遅れてきたKVからの連絡が入る。その受信を担当したオペレーターより、さらに事態を深刻化させる言葉が伝えられる。
「迎撃に向かったKVより映像が送られてきます。貨物室内部を望遠カメラで撮影したものです」
 モニターに写った映像には、貨物ヘリの貨物室より這い出てくる、10体の小型人型キメラと、さらに貨物室に残された物体であった。すでに強行着陸の衝撃により、貨物室ハッチは大きく歪み、開いている。そのため、貨物室の中を見ることは容易であり、その物体が何か判明した。
「小型キメラプラントか。あれが動き出せば‥‥まずいな。流れから見て、人型キメラはプラント発動までの時間稼ぎ役。ならば、産まれてくるキメラはかなりやっかいな物と思っていいだろう」
 UPC将校が、少々説明的なセリフなのは、誰も気にしていなかった。

●参加者一覧

ORT(gb2988
25歳・♂・DF
ジン・レイカー(gb5813
19歳・♂・AA
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
火霧里 星威(gc3597
10歳・♂・HA
三日科 優子(gc4996
17歳・♀・HG
常木 明(gc6409
21歳・♀・JG
住吉(gc6879
15歳・♀・ER

●リプレイ本文

悲鳴があちらこちらで上がっており、病院の周囲には野次馬も集まり始めており、収集がつかなくなってきている。

「取り敢えず、何が起こったか見に行くんがええよな」

 事件現場付近に居た、三日科 優子(gc4996)は、ヘリが病院の屋上へと強行着陸するのを目撃し、現場に急行した。三日科が目にしたのは、今にも落ちそうになっているヘリだった。そしてすぐ隣に居た女性が少々嬉しそうに、同じく病院の屋上を見上げている。

「ただの事故‥‥? いーや違うよね?」

 彼女の名前は、常木 明(gc6409)。興味本位で現場に駆けつけた、傭兵である。常木は、あたりを見回し、顔見知りの傭兵でも居ないかと探してみる。ふと、三日科と目が合う。

「自分も傭兵なん? 一緒に登る?」

 三日科が、目が合うのとほぼ同時に問いかける。最初は、何故わかったのか不思議だった常木だったが、SES武器で武装しているのだから、判って当然か、と納得し、三日科の提案を受け、二人で屋上へと向かうことにした。

 三日科と、常木が屋上を目指そうとする同じ時、そこから少し離れた場所に、パニック気味の火霧里 星威(gc3597)が屋上を見上げていた。

「あ‥‥あ‥‥、アレっ! あんなの落ちたらタイヘンだよぉ!」

 過去のトラウマで動揺する星威は、もう泣きそうな状態で右往左往している。そこへ、周囲の医者達から情報を聞きだしていた赤槻 空也(gc2336)が戻ってきた。

「星威! チッ‥‥ビってる場合か! しゃんとしろ能力者!」

 すぐさま、動揺する星威を励ますと、集めて来た情報を伝え始めた。院内には、重病、重傷などの患者が取り残されており、病院の機能もヘリの着陸の衝撃で、一部停止しているとのことだった。赤槻は、取り残された人の救助に向かう事を星威に告げ、星威には屋上のヘリに向かうように告げた。すぐに行動に移った赤槻とは対照的に、星威は行動出来ずに、またもや右往左往していた。そこへ、病院の屋上へと瞬天速で駆け上がる、三日科と常木の姿が目に入る。星威もまた、グラップラーであり、瞬天速も使える為、それに続けと追いかける事にした。

 病院の周りでは、続々と野次馬が集まり、いつ2次災害が起きてもおかしくない危機的状況になっていた。そんな状況を見かねた、ラサ・ジェネシス(gc2273)が、近くにあった病院の門を豪力発現を乗せた一撃で、派手に粉砕する。

「少し‥‥頭冷やそうカ」

 笑顔で脅すその迫力に、周囲の喧騒が一気に静まりかえる。外見とやり方のギャップによるものだろう、誰にでも出来ることではない。この後も同じやり方で、病院の周りを鎮めてまわったが、その度に、標識や壁や電柱などが被害にあっていた。人的被害はなくとも、これもまた2次災害と言えなくもない‥‥

―――ボシュ! ボボボ‥‥
 屋上に到着し、ヘリのパイロットの生存確認に向かう三日科と常木だったが、落下する危険のあるヘリに近寄りがたく、困惑していた。そもそも、パイロットが敵か見方かも判らず、最悪「人間」でない可能性もあるからだ。そこへ、一足遅れて到着した星威が合流した。

「あのままじゃオチちゃう! なんとかしないとー!」

 と言っても、屋上にその補強に使えそうなものは見当たらないが、ヘリの中にはあるかもしれない。そもそも、ヘリが落ちそうなのは、誰の目から見ても明らかだったため、すでにヘリの下の地上には誰も居らず、時間的余裕はありそうである。
 
「そやな。なら補強するとええよ。その間に‥‥」

 落下するならば、パイロットの身も助けに行く自分も危ない。遅まきながら、そのことに気付いた三日科が、改めて星威とヘリへ向かう。常木は、敵である可能性のあるパイロットへの警戒をしながら、ヘリへ向かう二人の背後を守る。二人がヘリの側面ハッチに手を掛けた音で、一瞬そちらへと視線を移すと

チュイィーン! ドゴッ!

 二人に、ミサイルが直撃する!

「うわ!」 「きゃっ!」

 ヘリ側からの攻撃を想定していなかった二人はそのまま、地上へと落ちていく。ミサイルは、爆発しないまま一緒に落ちていく。

「‥‥くっ! 不発か‥‥運のいいやつ等め‥‥」

 炎上するヘリのコクピットから、パイロットが這い出してくる。しかし、目立った外傷はそれほどないにもかかわらず、すでに虫の息であった

「‥‥くっ!」
 
 不意を突かれた常木が、咄嗟に抜刀する。しかし、常木が見たのは、吐血し苦しむパイロットの姿であった。

「あんた、病持ちか」

 すでに、戦う力などないと判断した常木は、刀を納める。それを見たパイロットは悔しげに睨みつけ

「みちづ‥‥」

 その言葉の続きは続けられることはなかった。

 傭兵達からかなり遅れて到着したUPCの救助部隊だったが、人垣が妨げになり、なかなか病院の近くにたどり着けないで居た。そこへ、たまたまツーリングに来ていたメルセス・アン(gc6380)が、先ほど3人が屋上へ行き、常木以外の2人が落ちてきた事を伝え、ヘリについての詳細を聞き出そうと詰め寄っていた。詰め寄られた兵からの報告を受けたUPC将校が、事態の深刻さ考慮し、すぐに詳細な情報を無線を通して傭兵達へと伝え始めた。

「病院内に居る者は応答しろ、こちらはUPC軍だ。それと屋上に居る常木 明は無事か?」

 突然、持っていた無線から自分の名前を呼ばれた常木は、驚いたが、すぐに応答しようと無線機を取ると、先に別の者がその呼びかけに応じていた。

「こちら、ジン・レイカー。病院内で救助にあたっている」

 すでに、病院内へと救助に入っていた者が居たようで、ジン・レイカー(gb5813
もまたその一人である。今は5階での救助に専念していた。

「こちらの情報によれば、他にも数名居るようだが、重要な情報があるので、そのまま聞いてもらいたい。今、君達が居る病院の屋上にあるヘリは、バグア領から飛び立った物であり、目的は不明だが、危険な荷物を積んでいる」

 UPC将校が口早ではあるが、しっかりとした口調で説明していく。しかし、それを遮り通信が入る。

「病院内にキメラがいます!」

 悲鳴にも近い声で、単身7階で救助にあたっていた住吉(gc6879)が叫ぶ。住吉は、重傷患者の救助中であったが、突如部屋の扉を引き裂いて、人型キメラが姿を現した。一旦、通信を終え、飛びかかってきたキメラの攻撃を避けると、手にしていた超機械「天狗ノ団扇」でキメラを吹き飛ばす。その隙に、患者を背負い部屋から逃げ出すことに成功。

「病院内には10体の人型キメラが侵入している。君たち傭兵には、これの排除を頼みたい」

 自分達UPCの不手際が招いたとも言えるこの状況を、傭兵達に押し付ける形にしか出来なかった事を、UPC将校は悔やまれて仕方なかった。しかし、まだ伝えなければならないことがある

「屋上に居る、常木 明は無事か?」

 再度の呼びかけに、常木が即座に応答し、ヘリの積荷――『キメラプラント』についての事実を知らされる事になった。

「プラント‥‥? なるほど、ね」

 ヘリに近づき、貨物室を調べた常木は、報告にあった通りにプラントを発見した。そして、そこに書かれた血文字が目に入る。

(『我が命、尽きる前に道連れを』か、)

 その自分勝手すぎる言葉に、常木は怒りを覚えるが、すでに書いた本人らしき人物はこの世にいない。やり場のない怒りを、プラントに向けると、無線機に向かって叫ぶ

「プラントはあちきが引き受けるよ」

 UPCからの情報と、常木の報告で、病院内の傭兵達が一斉に上層階へと向かっていた。互いに連絡を取り合い、ジンと住吉が6階で合流、ラサと赤槻は4階で合流を果たした。しかし、それらとはまったく別に、すでにキメラとの戦闘を行っていた傭兵がいた。

「見敵、必殺」

 小銃「シエルクライン」をキメラに目掛け打ち込んでいるのは、ORT(gb2988)。現場に一番に駆けつけた傭兵ではあった。ORTはUPCの通信を傍受し、キメラの存在を知り、その討伐のためだけに来たのだ。その為、途中に居た要救助者達を無視して最上階へとたどり着いていた。ORTの後ろには、すでに2体のキメラがすでに倒されており、今3体目を倒したところである。しかし、無傷で済むほどの相手ではなかったのか、いたる所を傷を負っていた。

 6階で合流したジンと住吉は、病院内のタンカなどを利用して、次々と患者を下の階へと降ろしていった。

「とりあえず、焦らずに避難してな。だって、焦って怪我しましたってのもバカみたいだろ?」

 ジンの誘導に従い、歩ける者は自力で歩いて降りていく。

「今、治しますね」

 病室の中を見て回っている住吉は、怪我などで歩行困難な人を、練成治療によって治療して回っていた。効率良くとはいかないまでも、順調に救助は進んでいく。

「では、そろそろ上に参りましょうか?」

 住吉は、この階の誘導はこれで大丈夫と判断し、ジンに上へと上がろうと促す。しかし、ジンは上への階段付近で、険しい表情を浮かべていた。

「‥‥キメラ?何で此処に‥‥まぁ、良いや。あんた達は気にせず避難の続きを」

 ジンの言葉に、住吉も戦闘態勢に入る。降りてくるキメラは1体。だが、ここから先に通せば、避難中の患者達に被害が出ることは必至である。ここで止めるしかないのだ。

 4階の救助を済ませ、5階へと上がったラサと赤槻は、5階の救助がほぼ済んでいることを確認すると、すぐに7階へと向かう事にした。

「ラサさん、背中に乗りな! 瞬天速で一気に7階いくぜ!」

 ラサは急いで赤槻の背中にしがみつくと、赤槻は一気に7階へと跳躍する。

「キメラがいる模様デス、気をつけてネ」

 ラサが指す方向を見ると、キメラが一体こちらに走りこもうとしていた。そのキメラを見るや、赤槻はすぐにラサを降ろすと、武器を構える。

「テメェらバグアは何時もよォオ!」

 怒りを込めた赤槻の攻撃が、走りこんで来たキメラへと、カウンター気味に決まる。壁に激突したキメラへ向けて、今度はラサが小銃「AX−B4」で銃弾を浴びせる。

「ぐぎゃぁぁ!」

 キメラは奇声をあげ、最後の力を振り絞り、ラサと赤槻へと反撃をする。そして、その声を聞いたほかのキメラが2体現れ、一瞬で乱戦状態となる。

 7階最上階でのORT、ラサと赤槻による戦闘。6階と7階をつなぐ階段での、ジンと住吉による戦闘。この2つの戦闘が過熱する中、屋上に居る常木もまた、プラント破壊の最終段階へと進んでいた。

「これで最後ね」

 貨物室の壁などが邪魔であったため、衝撃を最小限に止めながら、超機械で部分的に破壊しながら、プラントへの攻撃を続けていたのだ。恐らくは次の一撃で、プラントの破壊は可能という時

――フォォォォン――

 プラントの内部から、小さいが動き出す音が聞こえ始めた。

「させない!」

 最後の一撃が決まり、プラントが沈黙する。炎上していたヘリも、プラントと一緒に崩れ落ちるように地上へと落ちていく。その落ちたヘリを見つめながら、常木は最後の報告をする

「プラントの破壊完了」

 無線で報告すると、次々と他の傭兵達からも報告が入り、侵入したキメラも掃討出来た様であった。しかし残念ながら、7階の患者の大半はすでにキメラによって殺害されており、救助されたのは数人であった。その数人においても、すでに重病である者ばかりで、この先も長くはないという事であった。屋上から地上へと落ちた星威と三日科の両名は、怪我はあったものの、命に別状もなく大丈夫であったようだ。

●報酬の価値
 事件から数日後、UPCの不手際があった事を認めた上で、傭兵たちには感謝として謝礼が送られることになった。正直な所、被害はかなりあったものの、傭兵達へは急遽『キメラの討伐』という依頼を行い、それを個々の判断で成し得たという点が評価された。

「諸君らは、キメラの討伐以外に人命救助までも同時に行なってくれた。我々としては予想を超える働きと言っていい」

 赤槻や住吉は救出を優先したものの、助けられなかった人や、助けたものの病によって、その後すぐに亡くなってしまった者がいたため、気が晴れないでいた。それを感じ取っての言葉なのか、UPC将校が力強く語りだした。

「君達の助けた命は、どれも大切な命であることに違いない。助けられなかった命であっても、大切な命ではあった。だが、君達が生きていれば、また誰かの命が救われるだろう。君達が生き抜いてこそ、多くの命を救うことが出来るということを忘れないでほしい。今回は本当にありがとう」