タイトル:砂漠のサイカイマスター:

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/27 21:55

●オープニング本文


 大きな地図を広げて、二人の女性が話し合っている。その地図には川や町などの記載はなく、一面が同様の地図であった。

「この先にあなたの旦那さんが居るの?」

 地図の上をツツっと指を動かしていく。その指先には、小さなオアシスがあった。その指先を見つめながら、もう一人の女性が唇を噛み締め頷いている。

「夫を見かけたという人の話ですと、この辺りに用があると言っていたそうです。でも‥‥その直後、その人が加わっていたキャラバン隊は‥‥」

 悔しそうな表情を浮かべながら話す女性は、『マリア・ケミカー』、そして地図で場所を確認し、周囲からの距離や現状を調べて書き込んでいるのは、『マリア・16』
 マリア・16は、無くした記憶を取り戻そうし、一部取り戻したものの、その影響で精神錯乱状態に陥り、入院を余儀なくされていた。しかし、2日前に退院し今は普通の傭兵として活動を始めた。退院直後に向かったULTで、マリア・ケミカーと出会ったのだ。最初こそは、名前が同じという単純な理由ではあったが、自分と同じように『無くした大切な物』を探しているという事で、協力を申し出たのだ。

「わかったわ。砂漠を進むには、キメラの邪魔がありそうね。だけど、航空機じゃ着陸も難しいわ‥‥ヘリも捨てがたいけれど、砂嵐があったら問題なのね‥‥」
「私を連れ戻しに来てくれた方達は、車で来てましたよ?」
「車‥‥もっと、スピードが欲しい所ね。私のバイクじゃ砂地を走るには適してないものね〜」

 二人は悩みに悩んでいたが、とりあえずは二人が依頼主という形にして、ULTに申請することにした。
 ULTで二人の申請を受けたオペレーターが思いもよらぬ提案を持ちかけてきた。

「お? この目的地。自分が先ほど受け付けた依頼と同じ目的地だ。もしかしたら、一緒にやってもいいかも知れないぞ。依頼主にはこっちから打診しておくから、後で行って見るといい。この店に行けば会えるはずだ」

 オペレーターは直ぐに電話を掛け始め、略地図と店名のかかれた名刺を二人に手渡した。その名刺の表には「ロバート・夏」と名前が書かれていた。

―――
 
 カランコロン

 店の玄関扉を開けると、古風なベルの音が鳴る。店の中は明るく、ロマ音楽が店の雰囲気を強調している。

「お、来たか。お二人さん、こっちだ!」

 二人のマリアが店に入ると、男性が一人声を掛けてきて手招きをしている。
 彼は自己紹介をしながら、すぐに本題に入った。

「聞いてるはずだが、俺がロバート・夏だ。ボブとでも呼んでくれ。俺たちの依頼っていうのは、あんた達が向かおうとしているオアシス。そこに『ある物』を探しに行く。それの護衛を傭兵達に頼んだわけだが」
「私達‥‥いえ、私の目的は『人探し』です。この人は私の夫なんです」

 一枚に写真を差し出すと、ロバートの顔が曇る。

「こいつは‥‥キャラバン隊を殺戮したって奴じゃないか‥‥あんたの夫だったのか」
「はい‥‥でも、もちろん私の知っている夫は」

 ロバートが続く言葉を手で遮るような仕草をして

「わかってる。ただ残念ながら、あんたの夫はもう人間じゃない。実はな、あのキャラバン隊には俺の部下が混ざっていてな。それなりに腕の立つヤツだったからか、生き延びたよ。それで、帰還はしたんだが‥‥そいつの話じゃ、そいつはフォースフィールドを持ってたって事だ」

 その言葉の意味を理解し、二人のマリアは暗く落ち込んでいた。さすがに、場都が悪く感じたロバートは、頭をカリカリとかきながら黙っていた。それまで黙っていたマリア・16が口を開く

「それでも、一回会って確かめないとね。ヨリシロか強化人間かわからないけど、このままじゃいけないし」
「‥‥そうね。夫の姿で罪を重ねさせたくもありませんし」
「ボブさん、私達の目的は『マリアと夫の再会』です。その形には拘りませんので、よろしくお願いします」
(やれやれ、この二人はかなりの強さだな。気迫負けしちまうな)
「わかったよ。だが、問題はこっちだな。そっちは目的地に行くだけだろうし」

 ロバートが二人に写真を見せる。その写真には、軽自動車ほどの大きさのコンテナとが映っており、コンテナ側面には『牛鬼』と書かれていた。

「探し物はこれだ。中身は様々な武器とそれを使用するための装甲服。砂漠上空で輸送機が攻撃され、積荷が落下してしまってな。それをキャラバン隊に回収してもらったわけだが。またまた運悪く‥‥ってな所だ」

 そこまで聞いて、疑問が浮かぶ。キャラバン隊が襲われた場所と、オアシスは別な場所なのに、何故目的地がオアシスなのか。

「なぜ、オアシスにその積荷があるのですか?」

 マリア・ケミカーが問う。

「回収に向かうのはこれで二度目なんだが、一度目は発見出来なかった。しかし、コンテナに備え付けてあった発信機の信号を現地で察知したんだが、それがオアシスの地点からだったんだ。誰かが持ち去った‥‥そう考えるしかないが、今の時点では誰かと断定は出来ない」

 断定はしない‥‥だが、誰もが予測すること。キャラバン隊を襲ったマリアの夫が、方法は不明だがその場から持ち去った。そう推測するのが当然という物だろう。

「とにかく、まずは現地に向かうのがいいだろう。その為の手段は準備はしてあるから、安心はしてくれ。楽しいドライブにもなるはずだ」

 ロバートは最後に、どうしても確認したい事を二人に尋ねた。

「‥‥マリアが二人じゃ面倒なんだが、どう呼び分ければいい?」

 二人のマリアは、顔を見合わせてクスクス笑い、マリア・ケミカーが応える。

「お互いはマリアって呼び合ってるんですよ。だけど、他の人からするとややこしいですよね。それじゃ、私の事はマリアCでお願いします」

 その提案には、マリア・16の名前を配慮しての優しさも含まれていた。マリア・16にとって、その優しさはとても嬉しく、その目は潤んでさえもいた。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
獅堂 梓(gc2346
18歳・♀・PN
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
蕾霧(gc7044
24歳・♀・HG
紅苑(gc7057
25歳・♀・CA

●リプレイ本文

 広大な砂漠へ向かうには、それなりの準備などが必要である。それは、能力者にとっても同じである。ましてや、それに同行する者の中には一般人が加わっているのだから、慎重な準備が必要だった。
 ここは、目的地のオアシスから遠く離れた砂漠の民が住む村。ロバート・夏(gz0451)は、村の外で「ようこそ! 傭兵諸君」と書かれた看板を持って立っていた。依頼を受けてくれた傭兵達とは、ここで待ち合わせをしているのだ。

「さて、今回はどんな奴等がくるんだかな」

 それほど間を空けずに、遠く地平線から砂煙をあげて向かってくる車両が見えた。

―――

 村の中に一軒しかない宿屋に、傭兵達は招かれた。

「すまんが、ちょっと待っててくれ。依頼主の二人がそろそろ戻ってくるはずなんだが」

 ロバートは宿屋のロビーで傭兵達を待たせると、自分は宿屋から出て行った。そして、戻ってきた彼は女性二人と一緒だった。

「悪い、悪い、待たせた様だな。彼女らが今回の依頼主だ」
「お待たせして申し訳ありません。私の名前はマリア・ケミカーです」

 もう一人の女性が自己紹介をしようと前に出ると、傭兵の中に居たトゥリム(gc6022)に気が付いた。

「あら? トゥリムさん。お久しぶりね。また会えて嬉しいわ」

 マリアは、ついつい自己紹介を忘れて愛想を振りまいてしまう。それをマリアCが肘を小突いて、注意する。

「あ‥‥ごめんなさい。私はマリア。貴方方と同じ能力者よ。ところで、私は依頼主ではないわよ? ボブさんの方じゃないかしら」

バタン!

 宿屋の扉が大きな音を立てて開かれ、一人の男性が息を切らせて入ってきた。

「遅参失礼致します‥‥」

 諸事情で遅れてやってきた終夜・無月(ga3084)だった。彼は、息を整えると、二人のマリアに歩み寄り、

「やぁ‥‥また会えて嬉しいですよ‥‥」

 微笑みながら、二人のマリアに挨拶を済ませると、他の傭兵達と同じテーブルの席に着く。このどさくさで、ロバートが依頼主である事が軽く流されていた。結局、女性二人が依頼主である様な雰囲気のまま、一行は砂漠へと出発した。

●暑くとも熱く 赤兎馬流ドッキリ

 砂漠を200km進むと、そこにはポツンと大きなコンテナ車が待っていた。

「ここから先は、普通の車じゃ無理だ。別の方法で進むぞ、みんな降りてくれ」

 ロバートが傭兵達に指示して、準備を始める。コンテナ車から四人の男が降りてきて、彼らも準備を始める。砂漠に並び始めた物を見て、不審に思った紅苑(gc7057)が思い切って一人の男に尋ねた。

「あの、どうやって砂漠を進むのですか?」
「あ、説明受けてないの? ボブの旦那もまったく‥‥。そこにあるのは、スノーモービルを改造した『デザートモービル』って乗り物だ。これが四台あるんで、ボク達が君達を引っ張っていってあげるよ。君達のはコンテナに立掛けてあるから、好きなの使って」

 そのやり取りを見ていた蕾霧(gc7044)が、コンテナの側面に立掛けてある道具を手に取り、悩みはじめる。

「スキー板に、スノーボード‥‥?」

 それを見て、慌ててロバートが駆け寄ってくる。

「すまん! 言ってなかった! この四人は、『エトセトラ』の『赤兎馬』ってチームのメンバーだ。あっちから‥‥劉、姫、司馬、黄だ。こいつらの得意分野は『操縦』だ」

 今更ではあったが、ロバートからの説明がなされた。

 デザートモービルで、スキー板やスノボーを付けた傭兵を牽引して、砂漠を進む予定。防塵装備として、ゴーグルとマスクを支給し、各自しっかり装着。そして、振り分けメンバーは、

劉班   大型デザートモービル使用 後部座席 マリアC 牽引 ロバート、マリア・16
姫班   牽引 紅苑、蕾霧
司馬班  牽引 トゥリム、終夜
黄班   牽引 シクル・ハーツ(gc1986)、獅堂 梓(gc2346

 それを聞いた面々は、色々聞きたい事もあったものの‥‥何しろ暑い砂漠‥‥とにかく先に早く進みたいという思いで、流されるように準備を整えた。

「準備できましたよ」

 獅堂が全員の準備を完了したことを報告する。と‥‥黄が問題発言を発する。

「ここからオアシスまで、約200kmで、一時間くらいで到着予定です。しっかり掴まってくださいね」
「‥‥? 一時間で200km!!」

 シクルの言葉が聞こえたはずだが、聞こえないフリの如きタイミングで強制発進!

 その後、時速200kmを超える絶叫マシン宛らのスピードレースが続いていた。たぶん、文句を言っている者も居たようだが、マスクと猛スピードの中、その声は砂漠の砂にしか届いていなかった‥‥

●心の安らぎ無きオアシス

 オアシスから少し離れた場所。そこからオアシスを監視する影が見え隠れする。元々危険と考えられている場所であった為、即座には踏み込まず十分な周辺調査をしているのだ。

「蕾霧、何か収穫はあります?」

 タクティカルゴーグルの望遠機能を使って、紅苑がオアシスの周囲を偵察している。そこから距離を空けた場所で、蕾霧も監視をしていた。

「特にはないな」

 蕾霧はオアシス周辺及び気象条件の調査もしており、砂嵐の危険性が無い事も含めての報告だ。

「砂漠の表面ちょっとおかしくないですか?」

 シクルが指摘したのは、オアシスの周辺に点在していた『砂の窪み』であった。大きさは大した大きさでもないが、自然に出来た物でもなさそうである。
しかし、このまま距離を保ったまま監視をしても、何も進展できないと判断し、オアシスへと向かう事になった。

 終夜は単独で探査の眼を使用しての周辺の捜索、獅堂とトゥリムは、共に隠密潜行でよりオアシスに近付いての捜索、シクル、蕾霧・紅苑ペアは、それぞれオアシスの中へと慎重に進んでいく。先に発見した『砂の窪み』は、何も反応はなく怪しい物としつつも、そのままにしおいた。マリアCの護衛はロバートとマリアが担当し、オアシスにはまだ近寄っていない。

「人影です」

 トゥリムが、通信で報告をあげる。彼女の覗く軍用双眼鏡には、一人オアシスに座り込む人影を捉えている。外套を纏い、顔まですっぽり覆っているため、顔までは確認できない。その通信を聞いて、マリアCが駆け出してしまう。

「マリア! 一人では危ないわ」
(やれやれ‥‥やっぱりこうなるのか)

 駆け出したマリアCを追って、マリアとロバートもオアシスへと向かう。

―――膠着状態が続いている

 トゥリムが発見した人影は、確かにマリアCの夫であった。そして、彼の足元には、様々な物が乱雑に埋められていた。宝石、自動車、航空機などの破片‥‥そして、真っ白なコンテナ。それは間違いなく、ロバートが探しているコンテナであった。

(うちのコンテナ使って誘き出された‥‥って事かね〜やっぱり)

 誰も一言も発しないまま、膠着状態は続いていた。マリアCやマリアもその場に居るが、マリアCが最初に一言を発しただけで、皆が黙ったままだ。

――「あなたに私がわかる?」――

 それがマリアCの言葉だ。相手から先に情報を引き出すという作戦の下、マリアと共に考えた質問だった。

「オマエは、このカラダのツマという存在」

 男は長い思考の末、やっと答えを出したという感じであった。マリアCの表情もかなり険しくなっている。それを見守るマリアもかなり神経を張り詰めている。マリアCが下手に動けば、それを制止するのは自分の役目と考えているからだ。同じマリアとして‥‥

「マリアさん‥‥大丈夫かなぁ」

 トゥリムが心配そうにマリアを見つめている。面識があるが故、トゥリムにとってはマリア・16の方が気に掛かるのだ。

「わざわざここにコンテナを移動させたのは何故?」

 シクルが、その雰囲気感じてなのか、話題をコンテナへと変える。コンテナの回収もまた目的のひとつである。

「これか? ここにあるモノはスベテ、エサをアツメルためのエサだ。オマエたちもエサだ」

 片言の様な喋りで淡々と応える。そして、男が足で地面を踏み鳴らす。それに応える様に‥‥

ゴゴゴゴゴ‥‥

 地響きが辺りの空気さえも振るわせる。

『こちら、黄です。オアシスの周辺に大きな擂鉢状の穴が複数出現』

 ロバートの通信器から、異常を知らせる声。それは、男にも聞こえる。

「ワタシのキメラだ。オマエたちをニガサナイための」
「砂の擂鉢状の穴‥‥アントライオンか?」

 ロバートが即座に推測する。アントラインとは、アリジゴクの事だ。

「地中に居る敵か、やっかいだな」

 終夜が覚醒状態で男を睨みつける。紅苑と蕾霧がマリアCの護衛へと回り、トゥリムはマリアの傍に陣取る。それに従い、獅堂も覚醒する。そして、一番前へと歩みでる。その背後には、九本の尻尾を持つ九尾の狐の幻影が現れ、男へとプレッシャーをかける。

「時間を稼いだら逃げるよ」

 獅堂が、小声で通信器を通してみんなにそうささやく。それに少し遅れ、シクルも前へと歩みでる。

「このカラダ、ロビン・ケミカーごとワタシをコロスというわけか」

 不敵な笑みを浮かべ、敵視してくる人間を舐めるように見回す。しかし、この時点で重要な情報は引き出せた。ロビン・ケミカーはヨリシロであり、マリアCの夫ではない。そして、コンテナがここに運ばれたのは、罠としてであり、この状況は罠にかかった状態である。

「流石にこの状況では分が悪いな」

 シクルが同じ前衛を務める獅堂へと耳打ちをすると、獅堂もそれに頷き返す。雰囲気は完全に撤退する雰囲気ではあるが、囲まれている状況をどうにかしないといけない。

ダン!

 ロビンが再び地面を踏み鳴らすと、突如ロビンの足元の地面が割れ何かが飛び出してくる。

「カコムだけではない。さぁカクゴしてもらおう」

 飛び出してきたのはアリジゴクだった。擂鉢状の巣を作らないタイプなのだろう。この状況に、傭兵達は焦りを感じ始める‥‥一名を除いて、

「ロビンは‥‥虫の事詳しくないわ。だからきっとアンタも詳しくないんでしょ?」

 突如、マリアCが挑戦的な口調で挑発を始める。さすがにロビンもそれには驚き、バカにされたと怒りを顕にする。

「アリジゴクはヨウチュウだ、オオきくなればクワガタになるんだろう。このオオきさのヨウチュウなら、さぞかしツヨイクワガタキメラになることだろう!」
「「「え?」」」

 辺りの空気は一変する‥‥

「ほぉ、シリアスな展開かと思ったら‥‥」

 ロバートの顔がひきつっている。マリアCの顔は呆れ顔である。

「アリジゴクは‥‥ウスバカゲロウの幼虫」

 トゥリムが冷静に突っ込みを入れる。

「薄馬鹿下郎なんて当て字もあったわね」

 マリアが追い討ちを掛ける。これが止めとなり、ロビンの顔は鬼の形相となる。

「キサマら! バカにするな! いけ! ワがシモベ!」

 二本の牙を向け、襲いかかろうと‥‥

ドドドドドド‥‥

 遠ざかっていく‥‥アリジゴクは前へは進めない。

「ナニ! どういうことだ?」

 混乱するロビンに対して、最早全員が戦意を喪失している。ここまで見事に罠を張ってみせた敵が、これほどバカであることに呆れてしまったからだ。

「油断するな。まだ助かったわけじゃないぞ」

 終夜が場の雰囲気を締め直すが、ロビンはそれを緩め直す。
 後退していくアリジゴクに飛び乗り、力尽くで止めようとして、背中を刺激してしまったのだ。アリジゴクの背中を押すと‥‥

ブン!

 大きな牙を豪快に後ろに反らせて、上に乗っている物を跳ね上げた。そう、ロビンを‥‥

「ギャァァァ‥‥」

 一同が呆然としている中、ロビンは砂漠の風となって消えた。

「時間は稼げた? なら‥‥逃げる><;」

 獅堂が我に返り、撤退の合図を出し、撤退を始める。

「コンテナはどうします?」

 紅苑が砂に埋もれたコンテナを指差す。

「回収する時間はなさそうだ‥‥仕方がない、このまま置いておけば、またエサにされちまうからな」

 ロバートはそう言うと、背負ってきた荷物から、真っ黒なシートを取り出しコンテナに付けていく。そして、スイッチを押すと大きな音と共に大きなバルーンへと変わる。

「本来なら、この状態で牽引してく予定だったが‥‥くそ」

 砂に埋もれたコンテナが少しずつ競りあがり、そのまま空へと飛んでいく。重量がある物体を出来るだけ軽くして運ぶためのバルーンだったが、それを複数つけて浮かべたのだ。

「これで、もう利用されることもないだろ、後は風向きの計算などで落下地点へまた回収しに行かないとな」
『ボブさん、アリジゴクの巣を一つ潰しました、今のうちに逃げましょう』

 劉からの通信も入り、全員が撤退することになった。しかし、これでは何も解決にはなっていないことは全員理解していた。しかし、マリアCの夫の捜索は果たした。最悪の結果ではあったが‥‥それでも、前には進めたはずである。

●次のへの一歩

 依頼を終え、暑い砂漠より帰還した面々。しかし、そこで思いもよらない決意を聞くことになる。

「‥‥私は、夫をヨリシロとしているバグアを‥‥この手で倒します。その為にも、能力者適性試験を受けようと思います‥‥」