●オープニング本文
前回のリプレイを見る「どうやら、さほど被害はなさそうだな」
アウルは安堵のため息をつく。ハリーの企みは、思いの他効果は上がらず、エシュロンの活動に影響する程ではなかった。
「‥‥これ以上人間に好きにさせてはまずくはないか?」
スリーセブンが神妙な面持ちでつぶやく。それは、エシュロンだけに限った言葉ではない。人間のバグアに対する勢いそのものについても含んでいる。
「あの‥‥、ボスやNo3は‥‥いえ、ボスとNo2は人間じゃな」
人間じゃないですか? そう問いかけようとしたオペレーターの女性の言葉は、そこで途絶える。彼女の座っていた場所が、突如彼女を飲み込んだのだ。それは、完全に女性を包みこみ、無機物な機械の塊の姿を横たえていた。
「人間の数は十分ではないかも知れぬが‥‥群体キメラ『エシュロン』を動かずぞ」
――アウルの宣言と同時刻、エシュロンの変革が始まる。エシュロンの終焉である。
「うわぁぁぁ!」
「なんだ!?」
「たす‥‥て‥‥」
エシュロンに残った人達が、次々と機械に飲み込まれていく。しかし、それには規則性があった。通信担当だった者は、通信機器の塊に飲まれ、他の担当者は完全に無視されてしまう。
『エシュロンに残ってくれた人間よ、感謝する。そして、我等バグアの為の糧となってくれる事も、心から感謝する』
冷たくも高揚感のあるアウルの声が、エシュロンに響き渡る。
●現れた『エシュロン』
ゴゴゴゴゴゴゴォォ‥‥
地響きが大気をも揺るがす。『人類のエシュロン』から『バグアのエシュロン』が産声をあげたのだ。
「おいおい‥‥なんだ、あれは?」
ロバート・夏が唖然とする。確かにそれは機械に見えた‥‥それも、巨大な機械だ。しかし、そのシルエットは生物そのものだった。
「巨大なフクロウ‥‥?」
丸みを帯びた輪郭から、大きく伸びた翼。フクロウの形をした機械の塊だ。
「おい、ハリーさんよ。あれが何か解るか?」
『‥‥わからん。全然』
ロバートはハリーの応答で、為す術がないだろう事を直感する。もはや、人間風情に何かが出来るなどとは到底思えない。この先は、人間を超えた存在『能力者』でなければ太刀打ち出来ないだろう。
●フクロウを照らし出せ
ロバートはすぐさまULTに協力を頼んだ。それに対し、ハリーもまた有用かどうかを考慮しながら、様々な情報を追加報告していく。
「‥‥いや〜、さすがは諜報組織か。しかも、性質の違う二つの組織からの情報だ。面白い情報の宝庫だな」
オペレーターのフリーマンは、意気揚々と情報の入出力をこなしている。けれど、その作業が進めば進む程に、目標が『何』であるかが解らなくなっていく。
「生物ではなし‥‥機械であるものの、FFを持っている、か」
現地に集結しているエトセトラが、様々な方法で情報を引き出そうと試みているのだ。遠距離砲撃、徒歩による接近、エシュロンから脱退した元組織員からの聞き込みなど‥‥。そもそも、フクロウの周囲数十キロには近寄る事も出来なかった。近寄ろうとすると、先に気付かれてしまうのだ。それも、電子機器のほとんどが気付かれた時点から狂っていく。こうなってくると、不用意に近づく事も危険であると同時に、電子機器を使用する銃器・兵器の使用が困難となってくる。
「まず、情報収集って事か。しかし、あれの足止めも必要か」
●リプレイ本文
突如姿を現した、巨大なフクロウの姿をしたバグア兵器(?)の対策班として、能力者達が集められた。しかし、彼らが到着するまでの間も、エトセトラの面々による様々な作戦が行なわれ、周囲はいつのまにか荒野の様相を呈していた。
「お? やっと来たか」
「お仕事ご苦労様です」
ロバート・夏(gz0451)とリナ(gz0440)が出迎えてくれる。その表情からは、何故か爽快感が見られる。‥‥たぶん、ここら周辺を荒野にしたのは、大半はエトセトラである様な気がしてならない。
「まったく、情報が少なすぎてな」
「情報が少ないのはいつものことだと思うがね〜‥‥」
ロバートのボヤキに対し、呆れた感じでドクター・ウェスト(
ga0241)が軽くつっこみを入れる。
「まずは情報ですか」
遥か遠くに見えるフクロウを見ながら、ジョー・マロウ(
ga8570)がその距離を測っている。
「ここからだと、アレまでの距離は1kmって所だ。ここは安全地帯だな」
ロバートが言うには、ここからしばらく進むと、フクロウが行動を起こす場合があるそうだ。
「とりあえず、反応を示す距離を調べようか」
ヴァナシェ(
gc8002)が装備を整え、フクロウへ向けて前進を始める。その様子を見ながら、観測が開始される。
900m‥‥。まだ変化は見られない。800mに差し掛かった所で、フクロウの体表面に変化が見られる。羽が膨らみ、ヴァナシェが近寄る方向に対し、羽が起き上がる。そこから、近寄れば近寄るほど、その羽の形が歪み始める。500mと近寄った付近で大きな変化が起きた。
「あれ? なんだか、私達の時より反応早いですね」
リナが双眼鏡を覗きながら、膨れ上がり始めた羽に疑問を感じる。
300m直前という所で、ヴァナシェに向けその羽が射出される。そして、着弾する頃には、背中に3つの砲門が突き出たダチョウへと変貌していた。
「‥‥オレたちのときは代わり映えのしないキメラだとか、戦闘機だとかだったんだがな。やはり、相手が能力者だと変わるのか?」
ロバートは疑問ではなく、能力者と自分達で大きな対応の差に不満を抱いているようだった。もちろん、その違いがあったからこそ、大きな被害は免れたのだ。
ポンッ!
ダチョウがヴァナシェに向け、グレネードを撃ってくる。狙いは適当ではあるものの、爆風は思いの他強烈である。そして、それに耐えようと踏ん張れば、そこ目掛けてスナイパーライフルによる狙撃が来る。距離を詰めようともしたが、エシュロン自慢の対能力者用兵器で、逆に吹き飛ばされる。
「まったく近寄れない‥‥」
ヴァナシェの行動は完全に封殺され、撤退するしかなかった。敵の射程距離、機動力はまさに対ヴァナシェとしか言い様のない能力であった。
「追っては来ないのか」
撤退するヴァナシェに対して、ダチョウキメラは追ってくる様子はなかった。知能の低いはずのキメラが、追撃に躊躇するはずがなく、これは明らかに不自然な対応だ。
能力者やエトセトラが集まる場所から少し離れた場所では、エシュロンから命からがら逃げてきた人達の避難所が設けられていた。治療や誘導にあたって居るのは、エトセトラのメンバーと、レスティー(
gc7987)であった。
「大丈夫ですか?」
「あ‥‥ありがとう」
座り込み、うなだれたままの女性に、レスティーは声をかける。とくにこれと言った外傷などはない。
「よろしかったら、何があったか教えてくれませんか?」
「‥‥。突然、施設の装置が暴れだしたの。そして、次々に飲み込んでいったの‥‥人間を丸ごと。でも、不思議なの! 明らかに狙われてる人と、そうでない人がいたのよ」
彼女によれば、施設に居た人のほとんどが機械に飲み込まれたが、こうして逃げてこられた人には、共通性があるという。
「今ここに居るのは、元々サポートや事務などの諜報に直接関っていない人ばかりなの。‥‥私も、そう」
「他に何か気付いたことありましたか?」
レスティーの質問に、彼女は黙ったまま首を横に振るだけだった。しかし、一人の老人が近寄って来て、話を始めた。
「逃げ切れなかった奴らじゃが‥‥。わしの見た限りでは、通信技師は通信機器、情報処理のやつらはパソコン、という具合に、普段関りの深い機械に食われるておる者ばかりじゃった。整備士や電気技師などは、手当たり次第にという様にも見えたよ。わしは、新人教育を任されておったからか、一切狙われもせず、施設の奥の奥から逃げられたんじゃ」
「そうですか、ありがとうございます。あの中がどうなっているかなんて、解りませんよね?」
「すまんな。逃げるのに必死じゃったしな」
「あの、良ければこれを」
青年が、数枚の紙を差し出してきた。
「これは?」
「エシュロンの保有する装置などのメンテナンスリストです。これで全てではないけど、主だった物は載っていると思いますよ」
「ありがとうございます!」
レスティーが受け取ると、そこには確かに装置名などが記載はされていた。専門的かつ、商品名的で、略語まで使われた暗号の如き装置名がずらりと。
「名前‥‥」
「あははは‥‥」
紙に書かれた名前を指差すレスティーに対し、青年は目線を逸らして渇いた笑いでごまかした。どうやら、青年も理解してない様である。だから、ここに居るんだろうな〜っと、周囲の人達が結論付けるのに、時間はかからなかった。
「こっちで調べておきますよ」
エトセトラのメンバーらしき女性が、その紙をひょいとレスティー手から抜き取っていくとすぐにどこかに連絡を取り始めた。この後も、色々と聞いて回ったものの、やはり他の人達も似たような状況にしか出くわしておらず、情報は引き出せなかった。
――――
「やれやれ、これでも試してみようかね〜」
ドクター・ウェストが取り出したのは、無線機とラジコンの様な物を合体させた物だ。これを囮に使う作戦なのだろう。
キュルキュルキュルキュル‥‥
無限軌道は軽快な音を立てて突き進む、突き進む、突き‥‥進む‥‥
ガコン‥‥
「予想外の失敗だね〜」
予想に反して、何も起きなかった。順調に突き進み、結局フクロウまで到達してしまったのだった。
マロウは、何気なく通信機のスイッチを弾き、電源を入れた。
「もしかしてつながったりして、と思ってな」
最初はノイズだけが聞こえてきていたが、直にノイズに混じり声が聞こえ始める。次第にはっきりとしてきた『その声』は、エシュロンボス、アウルの物であった。
『‥‥これで聞こえるかな。何やら色々と探りを入れている様ではあるが、無駄な徒労に終わった様だな。そんな君達への労いも込めて、改めて自己紹介等をしておこう。私は、エシュロンのNo1『アウル』だ。いや、もはやエシュロンには私と『スリーセブン』の二人しかおらぬ』
「そんな‥‥中の人はもう‥‥」
レスティーが、生存者が居ないという事実を知り愕然とする。
『故に番号など不要だな。そして、この巨大兵器の名は『エシュロン』という名にでもしておこう。我々が欲するのは、『全知』!! 知識こそが、情報こそが力だ。それを教えてくれた人類には大いに感謝すると共に、大いなる絶望を与えよう』
突如、エシュロン(元フクロウ)がその巨大な両翼を広げる。その周囲に膨大な文字や数字、画像、波形などが浮かんでは消え、消えては浮かんでくる。それは徐々に輪郭を持ち、ある球体へと変わっていく。
「‥‥地球」
誰ともなく、それを見ていた者はそう呟く。地球の全ての情報を手にしようとするアウルとスリーセブン。その目的はわかったものの、彼らの駆るエシュロンは得体の知れないままである。