タイトル:【DAEB】北京偵察・北東マスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/21 13:22

●オープニング本文



 大陸。そこは、親バグアと反バグアが、まるで政権交代のような安易さで受け入れられている土地である。
 しかし、西安や瀋陽が落ちたというのは、バグア本星にしてみれば、いささか疑問の残る結果でもあった。未だ、北京が落ちていない事も、賛否両論が戦わされている。
 アジア総司令ジャッキー・ウォン。彼は高位のバグアであり、今までは彼の手腕にさしたる不満の声は上がらなかったのだが、北アフリカの敗戦の報があがった事により流れが変わった。
 本星はひとつの決断を下したのだ。

 ウォンの元に星間通信が開かれた。
「補佐官として拝命されました。北京近郊へと降下致します」
「歓迎するよ、ドレアドル君」
 口の上に髭を蓄えた、浅黒い精悍な顔立ち。
 彼の着ているものはUPC軍の将官の軍服だ。
 綺麗な敬礼を見せると、その通信は切れた。
「補佐官か‥‥まあ、それも楽しくて良いでしょうね。さて、降下の歓迎準備をしなくては」
 ウォンは何時ものように、笑みを浮かべた。

「バークレー‥‥見ているが良い。貴様の仇は必ずとってやる」
 通信が切れたモニターを見て、ドレアドルは眼光鋭く呟いた。すっと伸びた背筋のまま、踵を返すと、本星ワームへと向かう。
(「ウォン司令は尊敬に値する。しかし、あの様では、致し方ないと言うものだ」)
 頭の中に浮かぶのは、ヨリシロが持っていた知識である大陸の地図。
 降下地点を示せば、ドレアドルの副官が眉を寄せた。
 それを見て、ドレアドルは、口の上に蓄えた髭を僅かに震わせて笑みを作る。
「いきなり北京を落とすのは乱暴だろう。ならば、降下ついでに、西安と北京の間を強化し、勢いいかんでは西安を再び落とす。ウォン司令に手土産だ。俺も一度、人類と手合わせしてみたいしな」
 制止するならば、本星の懸念が膨れ上がるだけなのだから。
 ドレアドルは、良く通る声で、アジアへの降下開始を告げるのだった。
 

「バグア本星から、アジアに増援だと?」
 東アジア軍中将 椿・治三郎(gz0196)は、もたらされた一報に声を荒げた。
 あくまでも概算だが、北京包囲網周辺には100万とも言われるワームが配備されているはずだった。それに、さらに新鋭機が増援と来るという。
 何よりも、今、アジア軍旗下の中国軍が西安周辺の掃討作戦をはじめようとしている。
 ここから駆けつけるには、日が足らない。
 なんとしてでも、その降下、防がなくてはならなかった。
「‥‥降下‥‥このどさくさに紛れて、北京環状包囲網の現状を知りたいものだな」
 治三郎は、少し考えると、指示を矢継ぎ早に出す。
 バグアの降下、逆手に取れはしないかと。


「北京環状包囲網の、偵察依頼です」
 オペレータの舌足らずな声が響いた。
「とても、範囲が広く、分散してもらわないといけないみたいです」
 指し示されたのは、4箇所。
 GDABから出撃し、現状を確認してきてもらいたいとの事だった。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
荒神 桜花(gb6569
24歳・♀・AA
アローン(gc0432
16歳・♂・HG
ユステズ(gc3154
24歳・♀・DF

●リプレイ本文


 北京環状包囲網。
 それは、大地に線が引かれているわけでも、外周に壁が作られているわけでも無い。
 ただ、下手に進入しようものなら、いつの間にか北京へと追い込まれ、捕獲されてしまうのだと言う。
 
 その北京環状包囲網と、西安の間に、バグアが降下を始めていた。
 環状包囲網の敵も、降下を阻止せんとする傭兵達を迎え撃つ為、いくばくか割合を裂き、中原の戦場へと向かっていた。
 降下の地が戦場となり、バグア軍が僅かにざわついている今が、環状包囲網の実情を探る絶好のチャンスであった。
 GDABは、騒然としていた。
 大部隊が、出撃した後だからだ。
 何時でも補給を開始出来るようにと、整備員達が、格納庫や滑走路を行きかう。
 偵察に出る、傭兵達の機体が、滑走路近くへと、回される。
 南周りの偵察班が、次々と発進して行くのが見える。
「偵察のお仕事、大事だよね頑張って写真撮りましょう! あ、カメラはアクセサリスロットの1番にセットしてくれたー?」
 ふわりと微笑むと、依神 隼瀬(gb2747)は、急ぎ、ロビン・天鳥へと足をかける。時間との勝負でもある。
 ぐっと親指を上げる整備員に、ありがとうと、声をすと、隼瀬は身軽にコクピットへと入る。計器が出撃準備OKのオールグリーンを示す。涼やかな眼差しが滑走路から先の空を見る。コクピット内の空気が深と静かに冴えて行く。
「敵情探るというやんど、強行偵察に近いもんがあるねや」
 火気管制、ヘッドセットの点検や同調テスト、無線機の感度チェック、フラップの動作チェックや微調整は万全だった。瞳の奥に現れている五ぼう星が計器を眺める。荒神 桜花(gb6569)は雷電・雷電21型のコクピットで操縦桿を握った。ゴーサインが現れて、滑走路に指示点滅が現れた。
「やれやれ、息つく暇もねぇとはこのことだよなぁ、ホント。この仕事終わったら、しばらくのんびりするか‥‥なんてな、これも死亡フラグってのに何のかね?」
 竜牙に乗り込み、そこまで口にして、アローン(gc0432)は、おっといけないと苦笑する。
「情報もなく戦場に赴くなんぞ、目隠しして戦うみたいなものだしな。それだけに俺たちに課せられた任務は重要だ。必ず生きて情報を持ち帰らないとな」
 ハスキーヴォイスが響く。Anbar(ga9009)の僅かに現れた肌には、コーランの一節がアラビア語で光を放ち現れている。
 雷電・【 Inti 】を見上げ、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)はぽつりと呟いた。
「北京環状包囲網か‥‥」
 バグア、アジア総司令ジャッキー・ウォン。その噂は良いものでは無い。バグアなのだから、当たり前だが、その質が違った。どれほど狡猾で残忍な防衛策を講じているのだろうかとホアキンは思う。
 コクピットの風防が閉まる。
 次々と仲間達が、大陸の空へと発信して行く。発進時の風が吹き抜けた。
「‥‥何が起きても冷静に行こう」
 熱を持った左掌を握り締める。その掌には、磔刑の釘痕のような痣が赤く光って滲み出ていた。
 敵の増援で状況が動いている今、有用な情報を持ち帰えりたかった。
 

 山脈の稜線に隠れつつ、山肌を縫うルートを選択、飛行する数機は、敵機に遭遇する事も無く、張家口市近辺まで東進してきていた。
 中心に骸龍のAnbar機と隼瀬機を据え、先頭を行くのは荒神機。
 後方を守るのはホアキン機。右をアローン機が守る。
 左が手薄なので、隼瀬機が中心でも左寄りに飛ぶ。
 空気がざわついているかのようだ。
 戦闘が始まっているからかもしれない。
「見えてきたみたいだなー」
 アローンが呟く。
「撮影チャンスは限られてるだろうね」
 敵機の状況を知る為もあり、Anbar機は特殊電子波長装置γを発動させる。
「なんか、いやな感じする」
 張家口市を見て、隼瀬は何だか得体の知れない感覚を受けた。
「稼動している敵機は、どうも向こうの戦場へと向かっているみたいだ。こちらは気づいているのかそうでないのかは判らないが、あまり動きはなさそうだ。撮影に入ろう」
 突入のタイミングを伝えるAnbarに、隼瀬が頷く。
「ん。何事も無く撮影が終わるといいね。Anbar君、後で映したものを照らし合わせよう?」
「そうだな。何か発見があると良い‥‥と。早速か。タートルワームに、レックスキャノンが市の四方を守ってそうだ。‥‥ゴーレム? の姿も見え隠れするが‥‥」
「おーこええなこりゃ‥‥こんな高いとこから敵見下ろすってのは悪い気はしねーけど」
 奇妙な建造物は無さそうだがと、アローンは眼下の敵機に軽く眉を顰める。
 市街地は閑散としている。
 動く人も少なくは無いが、多いともいえない。
 全てが親バグアなのか、それとも反バグアが混じっているのか。
 大陸は大勢が流れると、そちらに傾きがちだ。今この地に残っている人々は、親バグアなのかもしれない。
「くれぐれも気をつけて」
 ホアキンが後方から声をかける。
「ばっちり、護衛するけん、まかせといてや」
 仲間達と共に降下し、敵機を発見したとみるや、桜花はタートルワームへと試作型G放電装置を次々と投下を開始する。唸りを上げて落ちるミサイル。
「亀と暴君竜相手かいな、ほな 気張るでよ」
 かなり低空に降下した桜花は、機体に衝撃を受ける。対空砲が機体の腹を直撃したのだ。
「っ!」
 ゴーレムが8体おり、そのゴーレムが浮き上がる。
 四方から集まってくるレックスキャノン。赤も緑も居る。地響きが聞こえるかのようだ。
 3.2cm高分子レーザー砲で攻撃をするには、さらに高度を下げなくてはならない。地上すれすれといっても良い。タートルワームの攻撃が桜花を襲う。
 ホアキン機は超伝導アクチュエータを発動させ、84mm8連装ロケット弾ランチャーを、桜花の周囲のタートルワームへと打ち込む。 桜花が上昇出来るだけの間が空いた。
「このっ!」
 超伝導アクチュエータを発動させた桜花機は、レーザーをぶち当て、速度を上げ、機首を返して上空へと戻ろうとする。その時に、ゴーレムからの追突を食らい、タートルワームから、そして何処かからまた攻撃が桜花機を襲う。
 爆炎の中、逃げ惑う人の姿がちらりと目に入る。
「っ!?」
 援護するミサイルがホアキン機から飛び、ゴーレムが撃ち落とされる。
 その下から、サンドワームとアースクエイクが次々に顔を出し、その巨大な鎌首をもたげて襲いかかった。
「来るぞ」
 三方から飛んでくる飛行物体をAnbarは確認する。HWだと、すぐに目視が可能になる。
 その数、一方向から10機としても、30機は下らない。きらきらと光りを反射する小さなものはCWだ。その数は、HWと同じほどあるだろうか。
 増援は時間を食えば食うほど、増えるだろう。
「先に抜けろよ? ちったあ盾になるからさ」
 骸龍は攻撃を食らったら間違いなく落ちる。アローンが軽く笑って、撤退を促し、試作型超伝導DCを発動させ、M−122煙幕装置を撃ち込む。派手な煙が吹き上がる。その吹き上がった煙の中から、攻撃が上空へと飛び交い、ゴーレムの頭がぬっと現れた。さらに上昇するようだ。
 Anbarが軽く溜息を吐く。
「さして映像が撮れてはいないが、仕方ないか」
「ここで囲まれては戻るに戻れないよね。一応、あの場所は撮ったけど。ちょっと距離が足らなかったかもしれない」
 隼瀬が頷き、Anbarと共に、速度を上げて、山脈の方角へと撤退を開始する。
 だが、逃走する方角は知れているのか、HWが、止まるホアキン機へと向かうのとは別に隊を分けて2機を追う。
 浮き上がってきたゴーレムが数機、アローン機へと向かう。方向性のある動きは、エース機である事を知らしめる。ホアキン機から、K−02が打ち込まれる。複数機が、掴まるが、逃れたゴーレムがアローン機へと突進をかける。
 再び煙幕装置を撃ち込むアローン機が追撃に傾ぐ。
 淡紅色の光線が、幾筋も、その戦場へと撃ちこまれる。
「っち、やっぱKVは慣れないねぇどーも」
「必ず生きて戻ろう。殿は任せて」
(「‥‥やるしかない」)
 飛行する事がやっとの桜花を山脈方向へと逃がすと、ホアキン機が、迫ってきたHWとゴーレムめがけて、ミサイル攻撃をしかけ、CWへと95mm対空砲・エニセイを撃ち込んだ。
 敵攻撃の合間が出来る。
 その隙に、2機は機首を返して、仲間達を追う。

「しつこいなっ!」
 隼瀬機から、レーザーガン・オメガレイの光線が飛び、UK−10AAEMが発射される。
「アローンとホアキンが撤退してくる。挟み撃ちが出来そうだ」
 スナイパーライフルRで、Anbar機が援護する。CWが砕けて大地へと落ちて行く。
「ここが根性の入れ時や」
 桜花がレーザーを撃とうと前に出る。
 後方から、爆炎が上がる。
 ホアキンのミサイルがHWを打ち落としたのだ。
「このまま皆で脱出出来そうだな」
 Anbarが声をかける。
「煙幕、いくぜ?」
「了解。ラージフレアも同時に撃ち込むよ。上手く行けば振り切れる、かな?」
「振り切らないとね」
 煙幕装置が、アローン機とホアキン機から撃ち込まれる。同時に、高性能ラージフレアが隼瀬機から山へと打ち込まれた。
 その合間を縫って、5機は山間を飛行して、敵の追撃を辛くも振り切る事に成功した。
「ふぅ‥‥うまくいかへんかったな」
 とすんと、背もたれに埋もれると、桜花が溜息を吐けば、ホアキンが首を横に振る。
「皆無事に帰還出来るのが何よりだよ。残念だったけどね」
「ほんとなー。危うくフラグ踏み抜くかと思ったし」
 作戦に入る前に口走った事を思い出し、アローンはやれやれと肩を竦める。口に手をあて、隼瀬は張家口市近辺で感じた、虫の知らせのようなものを思い出す。
「嫌な予感、当たって欲しくは無かったです」
「随分と防空兵器の移動、攻撃がスムーズでしたが‥‥」
 Anbarは、突入した時点で食らった攻撃に思いをめぐらす。
 写真は、あまり鮮明には映ってはいなかった。
 状況だけを纏めて報告をする事になった。