●リプレイ本文
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人が街から居なくなると、それだけで瞬く間にゴーストタウンと化すのはどうしてだろうか。
「こうなってしまっても、生き残りがいるのは不幸中の幸いだな‥‥」
シクル・ハーツ(
gc1986)は、サイファー・Diamond Dustの中から街の有様を見て僅かに顔をしかめる。
「収容所からの難民救出作戦か‥‥必ず成功させなくちゃならないよな」
シラヌイ・アルタイルを進ませるのはAnbar(
ga9009)。幾つもの収容所に集められた民間人。
「収容所にいるのは、この町の人達かな?」
阿修羅・マックスが、尾を振り、その四足が大地を蹴る。山下・美千子(
gb7775)は、果たしてどんな、どこの人達が集められているのだろうかと思う。
バグア支配のこの土地で、どれほど劣悪な環境に居るのか。
(「俺達の戦いで‥‥多くの人々の運命が変わるんですよね」)
シラヌイ・アルバレストの動きが逸る。いけない。そう思い、紫電(
gb9545)は深く息を吸い込み、吐き出す。もう何度目になるだろうか。言葉は覚醒の為、空に掻き消える。この先の多くの未来は、この手にかかっている。だからこそ意識をクリアに持ち、平常心で戦わなくてはならないと思いが引き結ぶ口元にあらわれる。
「まだ、やれることが残っているんなら‥‥!」
(「どんな小さい事だってやってやる!」)
ディアブロ・轟天で移動する佐治 容(
gc1456)は、己に気合を入れる。一気呵成に攻め落とせる相手ではない。けれども、小さな戦いの積み重ねが、いつかバグアをこの星から一掃する貴重な一手ともなるのだ。
「‥‥この茨道の先に‥‥希望があらん事を」
ロビン・Schwalbeを操る奏歌 アルブレヒト(
gb9003)は、戦いの帰趨を思ってか言葉を零した。
「バリウス中将や、この大地で亡くなった方々の想いを無駄にしない為にも‥‥」
ウーフー・雛祇鎖で大地を踏みしめる佐々木 絵馬(
gb8089)。
「もう、悲しみを得るのだけは嫌なんです」
中将の一報。それは、大きな衝撃をもたらした。
吹く風が、廃墟となった街の看板を吹き飛ばすのが、目の端に入る。
(「確かに私達はバリウス中将を助けられなかった。だけど‥‥まだ助けを求めている人がいる!」)
雷電・ヘルヴォル【Hervor】の重厚な影が大地に落ちる。御崎 緋音(
ga8646)は強い眼差しを目的の方角へと向ける。
収容所があるというその方角。
まだ、助けられる命がある。それならば、それがこの灼熱の大地で戦う意味となる。
「‥‥道を切り開いてみせるっ!」
「アフリカでの戦いはまだまだ続いているんだね‥‥私も皆と、そして、フォトンと一緒に頑張らなきゃだね」
月明里 光輝(
gb8936)は、愛機、ミカガミ、R・G−フォトンへと語りかけながらも、モニターから視線を外さない。
周辺の空も、大地も戦いの音が鳴り止まない。
爆炎が上がり、空にはちらちらと無数の戦闘の光点が瞬く。
「お前の名は、酒呑童子からお借りしたものだ。酒を呑ましたんだ。さぁ暴れに行くぞ!」
笑みを深くするのは空間 明衣(
ga0220)。出撃前に、お神酒として口に含んだ酒をオウガ・朱天へと霧のように吹きかけてきた。酒の清めはこの大地にいかほどの祝福を残すのか。
「お披露目だ処刑人、奴等は断頭台の上だからよ‥‥お前の腕前を見せ付けてやれ」
口の端を引き上げて笑うと、秋月 九蔵(
gb1711)は、処刑人という意味の名を持つミカガミ・Executionerで大地を踏みしめる。
ブリュンヒルデから飛び出してきた傭兵達は、遠目に、最近ではいくらか見慣れた敵機タロスの姿を認めていた。
「相手はタロス多数か。油断は出来ないな」
ブロント・アルフォード(
gb5351)は、ディアブロ・紅蓮のコクピットで、タロスを認めて、同隊の仲間と軽く挨拶を交わした事を思い出す。
タロスは、廃墟の中、一直線に伸びた道路。その道を2列になり、ひたひたと進んでくる。
「縦長配列‥‥動き辛いのは向こうも同じか‥‥」
ミカガミ・土蜘蛛を操りながら、三間坂 京(
ga0094)が呟く。射線が限られる。そして、左右に分散した場合は、障害物が共に多くなる。ならば、戦い方はあるというもの。
「さて‥‥参りましょうか‥‥」
破曉・ルシフェル、天宮(
gb4665)が軽く微笑んだ。
●中央
一瞬、立ち止まると、砂埃を舞込み、淡紅の光りが2本伸びてくる。
「っ! プロトン砲っ!!」
中央道路の先頭を進んでいたが、緋音機がその攻撃をはじく。そして、はじいたままに、ライフルを撃ちまくる。
「むむっ!」
美智子機の頭上を、その光線は飛んで行く。スカイスクレイパー・バウンティストライカー【桜紋】に乗る布野 あすみ(
gc0588)へと、僅かに届いた。すかさず回避行動をとるが、鈍い振動を感じる。
「‥‥」
あすみは、唇を引き結ぶと、攻撃からの距離をとる。機体をさらに後方へと下がらせる。仲間達の攻撃を妨げる者があれば、それを少しでも緩和したい。その思いが強いのだ。ぎりぎりの距離を図りつつ、周囲を見回す。
タロスの合間から、蛇キメラ、サソリキメラが沸き上がるかのように躍り出てきていた。
そして、タロスがフェザー砲を撃ち、突進してくる。
「今のうちに後退を! 無理はしちゃダメよ?」
機盾でタロスの槍を受けた緋音が後方に位置するあすみへと声をかける。接近するタロスへとマシンガンを撃ち、タロスの足元へと踊り込んだ美千子機のサンダーテイルがタロスの武器を弾き飛ばす。タロスの手が、美千子機を上から押さえ込む。したたかに地面に打ち込まれるが、跳ねのけると再びバルカンを撃ち放つ。
「こう狭いと、一撃離脱が出来ないけど、たまには他の戦い方を試すのもいいよね」
美千子機がしなやかな動きで再びタロスへと突進をかける。
がっつりと突き刺さる緋音のディフェンダー。軋むタロスの腹。
「護りの戦乙女の名は伊達じゃないんだから」
ぎしぎしとタロスが軋む。
まだだ。
畳み掛けるように攻撃をしなくては。
すかさず機剣引き抜くと、タロスの槍を弾き返し、再び機剣を打ち込む。
●左翼
3機編成で1班を中心に、廃墟へと踏み込んだ他の仲間達も、敵と遭遇していた。
左右の廃墟の影にちらつくキメラの姿。
九蔵機はレーザーで現れたキメラを狙い撃ち、紫電はガトリングで掃射する。
「蠍に蛇か、どちらもアクセサリになる奴等だな。売って追加報酬‥‥とはいかないか」
何度も目の前に現れるキメラに、九蔵機は何度目かのレーザーを撃った。
周囲を警戒しつつ、路地を通る。路地と言っても、KV1機が通れるほどの広さだ。
もちろん、それだけでは目の前から迫るタロスへと辿り着かない。タロスは周囲をお構い無しに壊して進んできているのだから。
散会した能力者達を追うかのように、派手な破壊音を響かせて、タロスも散会している。手にする槍と長い腕で廃屋を粉々にしている。飛び交うフェザー砲の紫の光り。
気合を十分に乗せアクチュエータを発動すると、機剣で目の前の障害物を壊す。がらがらと崩れた建物の向こうに、人に似て非なるタロスの姿が現れる。
「俺たちの為にも‥‥これからを生きる人々の為にも‥‥この場は引いて貰うぞッ!」
幾分か擦れた紫電の声。ボイスレコーダーが紡ぎ出す音だ。
盾を持つシルクが、同班の先頭になるべく、前に出る。
「中央‥‥大丈夫そうか?」
一番接近しやすく、されやすいのが中央となる。もちろん、左右にもタロスは向かってきている。気にする間は無さそうだ。
「懐に入られないように牽制するか‥‥」
近付かれる前にと、シルクは、ぐっと接近してきたタロスを機槍ではじく。
レーザーで牽制しつつ、九蔵はマニューバを使う。軽い電子音と共に雪村が姿を現す。
シルクが足止めしてはいるが、すぐに次のタロスの姿が現れたからだ。
廃屋が盾代わりになってはいるが、何度もフェザー砲を食らえば、その盾も無くなる。
「クソ、まだKVには慣れんな。やっぱり生身とはスケールが違い過ぎる‥‥だが」
迫るタロスへと、雪村を向ける。
「必殺なんだ、防ぐなよ」
タロスの槍が九蔵機を撃ち抜く。鈍い衝撃が伝わる。
「このっ!」
最初にぶち当たったタロスが、がっくりと崩れ落ちる。
機槌をタロスの装甲の裂け目に紫電が打ち込んだのだ。
「皆様、早めに撃破してしまいましょう」
絵馬機がショルダーキャノンの音を響かせ、九蔵機の援護に入る。
タロスが射程内に入ると、Anbarは、迷わずスラスターライフルの引き金を引いていた。撃った衝撃で僅かに機体が揺れる。
複数の銃弾がタロスを襲った。その攻撃は、狙い違わず。
衝撃にタロスが揺らぐのを見る。しかし、その揺らぎは、次の瞬間にはまったく何も攻撃を受けなかったかのような姿へと戻ってしまっていた。
「撃つ傍から回復しやがって、本当にいやらしい敵だよな」
スラライを構えなおすと、Anbarは、再びタロスへと、その30発もの銃弾の塊を打ち込んだ。
「まあ、いい。貴様が倒れるまで、存分に鉛玉をぶち込んでやるだけの事だからな」
いくら回復機能を持つタロスといえども、回復する限界はあるものだ。
地を揺らす破壊音。
粉々になる廃屋から巻き上がる粉塵。
「くっ‥‥思ったより粉塵が気になるっスね」
視界がクリアにならない。容は忌々しそうにつぶやく。先行の班が壊した道を進むのだが、それは瓦礫の多い道とも言える。
「今何か気になる音が‥‥っ!」
不意に瓦礫の合間から現れるのはキメラ。
するりと伸びる蛇キメラへとガトリングで迎撃をする。
瓦礫に阻まれて、思うように進めないタロスを見て、軽く息を吐き出すと、ライフルを構えるが。
第3のタロスの襲撃を予告する淡紅の光線が衝撃を連れて来た。
●右翼
「‥‥確かに手ごわそうだな」
ブロントは滑空砲を撃ち放ち、顔を出したサソリを粉々に吹き飛ばすと、中央とぶつかったタロスを垣間見る。そのタロスは、こちらにも向かってきており、すぐに交戦が開始されそうだった。
光輝はバルカンでキメラを薙ぐと、新たに飛び出したキメラへとマニューバを乗せて手刀を叩きつける。
『ヘッ! ジェアッ!』
排気音のような音を光輝機が吐き出し、目の前のキメラは粉砕される。
「タロス‥‥初めて見たよ」
道、作られちゃいましたねと、小さく笑みを浮かべながらも、光輝機は、タロスの動向から目を離さず、足元に踊り込むキメラを再び薙ぐ。
『ヘッ!』
光輝機が呼吸を合わせるかのように音を吐き出した。
何しろ、キメラの数が多い。
合間に攻撃された淡紅色の光線が、ブロントの横を掠めた。鈍い衝撃が入る。
滑空砲、レーザー砲をタロスめがけて撃ち込んだブロントがにやりと笑う。
「まだまだ! 貴様の相手は俺だ、余所見をして貰っては困るな」
パニッシュメント・フォースを起動させると、邪断刀を構えて迫る。槍を突き出すタロスの攻撃をはじく。
光輝機が、バルカンで牽制しつつ接近。手刀を繰り出すが、槍で薙ぎ払われる。その合間に、ブロントの刀が深々と突き刺さる。薙ぎ払った矛先を変えて、タロスはブロント機へと槍を突き刺そうとする。そのタロスへと、腕を十字に組んで、光輝が飛び込むが、さしてダメージは及ばない。だが、タロスの体を傾がせた。
深く突っ込んだ刀をブロントはねじって引き抜く。
「剣筋が甘い‥‥貰ったぞ!!」
明衣は、ガトリングで、目に付くキメラを掃射すし、マシンガンに持ち変えると、接近するもう1体のタロスを牽制に動く。
「赤鬼がチェーンソーを使うと悪夢そのものだな。そのまま、永遠に悪夢を見続けろ!」
笑みを浮かべる明衣は、圧練装甲にツインブーストを起動し、唸るチェーンでタロスへと切り付ける。激しい打ち合いの音が響き、火花を散らしてタロスの槍が真っ二つに折れた。
合間から、ブロントがレーザー砲で、光輝がバルカンで牽制する。出来た隙に、明衣が再びチェーンソーを叩き込めば、金属が削れる音が、響き渡る。
だが、まだ倒れない。
「大丈夫ですか!」
天宮機は機鎌を何時でも振り抜けるようにしながら、先に廃墟に踏み込んだ班の後方から、レーザーを撃つ。
周囲に纏わりつかせるのは黒い粒子。
「破壊音だらけだな」
ガトリングを撃ちながら、京は機槍を引き寄せる。タロスと接近戦をする班の攻撃から近い。静かな戦場と違い、目視可能、そして飛び交う戦いの音に肩を軽く竦める。
「タロス、優先だな」
奏歌が仲間達を促す。第3のタロスが、前を行く仲間達のすぐ後ろに迫っている。
レーザーキャノンを続け様に狙い撃てば、仲間達の合間を縫うように、プロトン砲の淡紅色が迫るが、マイクロブースターを使い、かわす。
フェザー砲が仲間達を襲う。
直線から、横合いに扇が広がるかのように伸びるタロスは、斜めからその姿を現した。
「激突‥‥か」
京がマニューバを起動させて、斜め横合いから現れた新手のタロスに迫る。
奏歌はドラゴンスタッフを持ち、タロスへと打ちかかる。攻撃をかわし、横手から仲間達の攻撃を遮るキメラを、天宮が薙いだ。
●
左右に広がった戦いは、傭兵達の力を分散させたが、タロスを分断させる事に成功した。
それにより、タロスとの交戦は比較的楽だったともいえる。
互いに、進むも引くも、簡単には行かなかったからだ。
相応の痛手は被ったが、起動不可能に陥る機体は1機も無く、僅かに時間はかかったが、快勝といえる勝利を勝ち取った。
クリアになった一本道に、ブリュンヒルデから輸送車が唸りを上げて走り行く。
容はその道をぼんやりと眺める。
「‥‥俺はまだ弱いな」
機体損傷と、自身の衝撃の度合いを測り、より、高みを目指すブロントは小さく溜息を吐く。
「収容所への道を確保」
上空のスカイフォックスからも、制空権確保の報が伝わって、紫電は軽く笑みを浮かべると、輸送車の道行きの安全を確保する為に、帰還途中も索敵は怠らない。
「これで‥‥おわりか‥‥? 良かった‥‥」
ブリュンヒルデに帰艦すれば、次々と戻ってくる輸送車を見て、シルクは安堵の笑みを浮かべる。
「‥‥この作戦の成功が‥‥ロベル少佐の励みになれば‥‥良いですね」
奏歌の言葉に、三番艦へと帰艦する前に寄ったデラードが、そうだといいなと軽く笑みを浮かべた。
「アフリカの広大な台地を見ながら呑む酒も、また格別なものだ」
「まーな」
明衣はデラードに杯を差し出すと、飲み干した。
いろいろな思いはある。けれども、この先も戦いは続くのだから。
「英霊達の魂が健やかである事を祈ります」
モニターに写るアフリカの空の色を忘れない。絵馬はそう思った。
灼熱の大地での戦い。北アフリカ進攻作戦は収束に向かっていた。