●リプレイ本文
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「これが新造艦か〜、この艦が希望の船になるように‥‥。よし、早速準備開始!」
まだ、誰も来ていない早い時間、椎野 のぞみ(
ga8736)は、新造艦の調理室を陣取った。前日から仕込みを始めていた百地・悠季(
ga8270)が可愛いパンジーのついたエプロンをしめて、材料の点検をする。
「色々人材が集まる見たいだし、大尉‥‥じゃなくて少佐の指揮も楽しみよね」
悠季は、大きなボウルに、ムール貝を放り込み、白ワインをかけまわしながら、艦の建造の手回しが早過ぎるかもしれないかなと、心中で呟きつつ軽く肩を竦める。
作るものは中華が中心。BBQ、パエリア、麻婆豆腐、酢豚、回鍋肉、餃子、冬瓜の中華スープ、溶き卵と若布の中華スープ、青椒肉絲、エビのチリソース、杏仁豆腐。
(「まあ、成功を見越してたのなら、あたし達への信頼が有っての事だろうし。その辺は気にしても仕方がないわね」)
「人数も居るから、それなりの量も作らないと」
「だね! 宴会が始まる前に、沢山作っておかなくっちゃね」
【OR】SES包丁・調理道具セットをざっと広げると、手際良く調理を始め、配膳のために行ったりきたりする人達に、笑いかける。
フライドポテト、ローストビーフ、ローストチキン、骨付きフライドチキン、サンドイッチ、お握り、ライスボール、唐揚げ、サラダ各種。何しろ、外での食事だ。手軽につまめて、零れないもの。野外のピクニック感覚で行けば良いかとのぞみは大皿に幾つもの料理を並べて行く。
「あ、もうしばらくでしたら、リクエスト受け付けますよーっ。和洋中華、何でもOKっ!」
(「これもいちおう一芸なのかな?」)
のぞみは小首を傾げながら、早速入ったお浸しというリクエストに、ほうれん草を手に取った。
(「‥‥段々この手の段取りが上手くなってきた気がするけど)」
「どんどん持っていって並べてね。あたしは外でBBQにかかりっきりになるから」
どーんと作られた料理の大皿を背にして、悠季はにぎわい始めた甲板へと向かう。良い具合に熾った火で、大きな肉と野菜がついた串を、じっくりと焼き上げて行く。目の前で焼かれる肉の香りに誘われて、悠季のBBQの前には、列が出来たりする。にこやかに各種ソースを差し出しながら対応する悠季が休めるのは、もう少し後になりそうだ。
「こんな楽しそうでめったに無さそうなイベントに参加しない手はないんじゃないカナ? それにファン層拡大のチャンスでもありそうだしねー」
にひひ。そんな笑いと、ほんの少しばっかり、猫のような顔で含み笑うと、葵 コハル(
ga3897)は、アイドルとして軽く売り込みというか、布教活動というかをする楽しい機会だとにこっと笑い、大荷物を横に置き、着物に着替えて現れる。
しゃかしゃかと茶筅を動かせば、細かな泡が立って行く。
「ささ、日本茶、グリーンティーはいかがですか? 爽やかな苦味とコクを気に入って貰えると良いんだけど」
緑色のお茶は、すっきりと美味しく立っており、概ね好評だった。苦そうな顔をした人には、ささ、どうぞと、牛乳を注いで混ぜれば、カフェラテへと早変わり。お茶の合間にどうぞと差し出した、お饅頭や大福の甘さが、非常に好評でもある。お煎餅のパリッと感が、ビールに良く合うようで、つまみとして回っているのを見て、にっこりと笑い。
「綺麗ね」
「あ、着てみますっ?」
女性兵に簡単に着物を着付けてあげれば、そのたっぷりとした袖の布の肌触りと美しさがとても喜ばれた。
そんでもって、その野点コーナーでは、こっそりとコハルのCDが海兵隊へと手渡されたりもしたりした。可愛らしいコハルの手から渡されるものだから、そこそこそれなりに好感触のようだった。ナイス。
盛大な宴会場と化した、マウル艦長のヴァルキリー級量産型飛行空母の一番艦甲板では、いい香りが漂い、笑い声がひっきりなしに湧き上がる。
「マウル大‥‥じゃなかった、少佐。昇進と艦長就任おめでとうございます。軍属だったら、話聞いて真っ先に転属願い出すところでしたよー」
綺麗な金の髪をなびかせ、アリステア・ラムゼイ(
gb6304)が挨拶をする。
「これがヴァルキリー級の一番艦ですか。中々に大きいですね。マウル少佐、昇任及び艦長就任おめでとうございます。同じ戦場に立つことがあればよろしくお願いします」
見知った顔へと、挨拶をしていたクラーク・エアハルト(
ga4961)は、艦の大きさに目を細めてひとつ頷く。
「ありがとう。頑張るつもりよ。また、戦いの折には、傭兵の皆にも手を借りる事になるから、よろしくね」
何処か生真面目にマウルが頷き、その先から来る人々へと、同じように挨拶を交わしていた。
着々と対バグアの為に手を講じているUPC軍。悠季はマウルに疑問を投げかける。
「少佐が一番艦艦長なら、二番艦以降も有る訳で。誰がそれぞれの艦長に付くか聞いてる?」
「悪いわね。それは、私の知る所じゃ無いの。でも、二番艦はありえる事だと思うわ」
少し考えてマウルは答える。その答えに、聞いてみただけだからと悠季は笑みを浮かべ。
「そう言えばこの艦での海兵隊の役割は具体的にどのように? 敵に直接取り付かれても海兵隊が居れば艦内の防衛は任せられると思うが‥‥」
この空母が強襲揚陸艦の類なら、敵陣に突入して海兵隊を突入させるケースも有り得るだろう。だが実際の所はどうなのだろうと、爽やかな笑みを浮かべてマウルへと尋ねる白鐘剣一郎(
ga0184)の質問に、マウルは、一瞬、うっ。となる。
「そうよ。まったくもって、その通りと言っていいわ。‥‥まあ、少しモノを考える人ならば、きっと辿り着く答えに違い無いのでしょうけどね」
感心したように頷いた後、バツが悪かったのだろうか。く、悔しくなんか無いんだからっ。そんなニュアンスで剣一郎へと答えが帰ったので、剣一郎は笑みを拳で隠して礼を言い。
「リチャード中佐は現場で率先して動くのが好みだと聞いているから、『海兵隊がこの艦の護りの要である』と認識して貰い、吶喊しないよう留意を促すのが良いのかもしれないな‥‥もし見当違いの意見であったなら申し訳ないが」
「‥‥まったくもって、その通りよっ。言い出すタイミングをどうしようか考えてるだけなんだからっ」
「ああ、それは申し訳ない」
「わかれば良いのよ」
ずばり、当てましょう。
そんなフレーズがマウルの頭を過ぎったのは絶賛秘密。に、しなくても、その顔色から剣一郎は読み取ったかもしれない。やっぱり笑みをマウルに見せないように拳で隠し、すかさず、また後でと踵を返し、マウルの楽しい反応を本人に気付かれないように笑み崩れるのであった。
「うぅ〜ん、やっぱり新型艦のこの独特な樹脂臭や金属臭って良いですよねぇ〜。いや、初めて嗅いだんですけどね☆」
甲板の上で伸びをすると、須磨井 礼二(
gb2034)は大きく深呼吸。この艦の成り立ちからして、頻繁に世話になりそうだと頷く。フットワークは軽そうだと目を細め。新造艦のにおいを確かめにと、くすりと笑う。
「‥‥ほんと楽しみですね‥‥」
出掛けに靴紐が切れた。そんでもって、道を歩いていると、大量の鴉が頭上に黒雲のように群れた。そんでもって、そんでもって、目の前を黒猫の親子が走り抜けていった。そんな、道程を辿ってきたソウマ(
gc0505)は、きっと大丈夫と頷きつつ、宴会の輪の中に入って行く。
「どのぐらいお取りしますか? はい、了解です♪」
のぞみは、とびっきりのアイドルスマイルで宴会場のあちこちで、給仕をせっせとこなしていた。可愛らしい現役アイドルとくれば、引く手はあまたで、スマイルを欠かさない。
「こういう時こそ、他者の弱みを握れるというものだ」
ふ。なんて、悪い笑いを軽く浮かべながら、グロウランス(
gb6145)は、結構大きな荷物を運び込んでいた。総務課に申請すれば、一発で借り受けられた。そうか。良いのか。そんな笑みも含み。
「近いうちにこの艦を母艦として戦うこともあるかもしれませんわね。その日が一日でも遠いことを祈らずには居られませんけれど」
艦内を見てきたクラリッサ・メディスン(
ga0853)は、甲板へと出ると、感慨深げな笑みを浮かべた。海風が金色の柔らかな髪をなびかせる。さあ、次は余興かしらとドレスに着替える為に、また引っ込む。
「ふむ、新しい『船』か。これもまぁ、使い方次第だな」
「ぴゃっ!」
一通り、艦を散策して来たUNKNOWN(
ga4276)は、ボード片手に難しい顔しているティムを見つけて、背後から冷たいジュース缶を首筋に当て、髪に口付ける。
「ティムも楽しんでみてはどうだね?」
くすりと笑うが、お仕事ですっと、じりじりと後退するティムの姿に、もう一度くすりと笑うと、宴会を楽しみ、余興に参加すべく踵を返し、手を挙げた。
「一休みしたい人は言ってくださいね。お茶、淹れますから」
酒ばかりでは、疲れてしまうだろうと、アリステアは休息の場所をしつらえる。暖かい紅茶が何時でも出せるようにと微笑みながら。
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食事も一通り回り、飲みもかなり入った所で、ぴょこんと飛び出したのは、小さな2人。
「「本日の宴会の司会を承った美空・美空なのでありますよ」」
とくに進行は決まっていなかった。水色の髪に、アホ毛がぴょこんと飛び出る美空(
gb1906)と桃色の髪に、やはり(以下略)の美空・桃2(
gb9509)は、にっこり笑顔。いい仕事しまっせと言ったかどうかは定かでないが、とにかく、司会やっても良いよというお墨付きをマウルからもぎ取って来ていた。
「美空スネイクカモン」
「はいっ!」
どっかで見た。そんな蛇笛を、桃2がピーヒョロロ〜と吹き鳴らせば、美空のアホ毛が、コブラよろしくくねくねと動き出した。
おおー。と、笑い、どよめく海兵隊。
「はいっ!」
鎌首をもたげていたアホ毛は、ぴょこんと跳ねると、可愛らしくハートの形に変化する。さらに笛が鳴り響けば、ハートマークは、元のアホ毛に。手品には種も仕掛けもあるのだが、それは見ないのがお約束。あまり間近で見られると、ちょっとばっかりネタ割れしそうではあったのだが、そこはそれ、にこやかに乗り切った。
「「お粗末様でしたーっ」」
再び、はいっ! とばかりにポーズを取った美空・美空へと、盛大な拍手が沸き起こる。
「「トップバッターは、綿貫 衛司(
ga0056)さんですっ!」」
「レンジャー綿貫、目隠しして64式小銃の分解結合やらせていただきます!」
衛司は、背筋良く、きびきびと前に出る。
「マウル少佐、測定をお願いしても?」
「良いわよ」
「では。組み上がらなければ、逆立ちで甲板一周でもしましょう」
ごとり。前に出された銃を、カチャカチャと子気味良い音を立てて、分解して行く。その部品の多さときたら。海兵隊の面々は、こくりと息を呑む。全部ばらした所で、衛司は、ふっ。と、息を吐き出すと、そこからまた流れるような動作で組み上げて行く。
ぱっと手を離した所で、マウルを見れば。
「9分52秒‥‥やるわね」
「お粗末様でした」
「「はいっ。綿貫さんの稀なる一芸でしたーっ。次は、これまた硬派な一発芸の持ち主。白鐘さんでーすっ」」
美空×美空が、二娘一の可愛い姿で場を繋ぐ。
「やはり、宴会用という訳では無いのだが」
剣一郎は、一畳分の畳おもてを巻きつけた巻き藁を、4本用意し、これを正面に放射状に配置。抜刀術四連撃にて一瞬で全てを両断。
かちりと鯉口を切ったと思えば、一閃した刃は再び鞘の中へと鍔鳴りの音を立てて収められた。鈍い重い音が甲板に響く。転がった巻き藁の中には鉄芯。通常は鉄芯など使わない。能力者の力量たるやいかに。軽いざわめきが海兵隊の中に漂う。
「‥‥天都神影流・鍔鳴閃。お目汚し、失礼」
「「はいっ! 傭兵の鏡な白鐘さんでしたーっ。次は、鯨井昼寝(
ga0488)さんの命がけのコントです。どうぞーっ」」
(「どうせまたまうるんあたりは、小洒落た料理を食べて、うふふおほほとどうでもいい会話をしてー。そしてちょっぴり楽しい交流会が出来れば良いと思っているのだろう。甘い。これは勝負なのだ。海兵隊の連中に言う事を聞かせるためには、この歓迎会こそが勝負。圧倒的な芸を見せて、コイツには敵わないと思わせてこその指揮官だろう」)
ふっ。
ひとつ笑うと、何時もは三つ編みにしている髪をほどき、女性用の軍服をきっちりと着込んだ昼寝が前に出る。その髪留めは、どこかで見たような髪留め。マウルが思わず自分の髪留めを触ったのを見て、にやりと笑う。そう、昼寝はマウルに似せた格好をしてきたのだ。
「鯨井昼寝。ネタいきますっ! 上官のありがたい話を、熱心に聞いているようで、実は冷めている軍人」
すちゃっと出したのは、一部のファンに今も絶大な人気を誇る『ヴェレッタ・オリムのフィギュア』。
「いいか少佐、そもそも戦争というものはだな‥‥(うんぬんかんぬん)」
「なるほどっ」
「それでだな、少佐。用兵の基礎はだな‥‥(うんぬんかんぬん)」
「わかりますっ」
一人二役。オリム中将がうんぬんかんぬん言っている姿では、声を低くし、フィギュアを前に、合いの手を入れる時には、一見、身を乗り出して聞いている、真剣な某誰かの姿。そして、合いの手の後、チラッと真剣な顔が抜け、素の顔で腕時計を見て、『長いよ』というジェスチャーを織り交ぜて。
「どうもーっ。鯨井昼寝でしたーっ‥‥ぁ。まうるん」
「聞いても良いかしら。それは、誰の真似なのかしらっ?」
盛大な拍手と共に引っ込んだ昼寝は、待ち構えていた仁王立ちのマウルを見ると、あははと乾いた笑いを浮かべて、くるりと踵を返した。当然ダッシュ逃走。
某オリム中将と某マウル少佐が常日頃そんな会話をしているかどうかは、鉄の化粧‥‥もとい。鉄のカーテンの向こうである。
「「では、しばし、クラリッサさんの素敵な曲から続けて、音楽をお楽しみ下さいっ」」
ぱたぱたと美空×美空が場所を開ければ、そこにはピアノが出現していた。
クラリッサが、しなやかにその腕を鍵盤に躍らせる。緋色のドレスは大胆に背中が開いたタイプである。軽い口笛には、艶然と笑みを返し。色の白い背中が、鍵盤から音を出す度に、艶やかに動く。最初は、馴染みの深いヒットナンバーで耳を寄せさせ、次第にクラシカルな曲や、ジャズめいた艶のある曲も織り交ぜる。
ジプシーバイオリンを時折り弾き混じるのはUNKNOWN。
「歌っちゃいますよー」
可愛らしい歌を披露するのはコハル。伸びやかな歌声が響く。アイドルとしての本領発揮である。思わず先ほど配られたCDを改めて見返す人が何人か居るようで、よっし。と、コハルは軽く可愛くガッツポーズをして、手を振ってその場を後にする。
「まだまだこれからだよ! さあ、皆盛り上がろうよ♪」
ビスのついた、革ジャン。革のミニスカート。ビスのついた漆黒のブーツ。ざっくりと襟ぐりを切っただけのタンクトップには、ペンキをぶちまけたかの様な模様。ごつい髑髏の指輪。着替えて来たのぞみがマイクを握ると、そのソプラノは、ハードロックを唸り始める。さっきまで、可愛く料理を配膳していた娘さんの変貌に、口をあんぐりと開ける人が何人か。そちらへ向けて、のぞみは指差し、軽くウィンク。
「混ざらないと駄目だろ、これは」
ベースを引っつかんで、ヤナギ・エリューナク(
gb5107)が、音を走らせ、のぞみの歌をフォローする。巧みな音が響き渡った。
昼寝を追いかけていたマウルは、須磨井 礼二(
gb2034)に声をかけられる。
「あ、マウル少佐。手伝ってくれませんか? やはり共同で何かしたほうが親睦が深まりますよね。ぜひ僕の演し物にご協力を!」
「‥‥そうね。良いわよ」
親睦のため。その言葉にぴくりと反応し、こくりと頷くのを見て、グロウランスが、にこにこと寄って来る。手にしているのは、大量の衣装である。
「これも、親睦を深める為に、必要な事だと思うぞ」
「わかったわ。着るわ」
「そうこなくちゃな」
ラメ入りのバニー姿となったマウルが現れるのに、そう時間はかからなかった。礼二は熊の着ぐるみを用意していたのだが、それでは勿体無いと、グロウランスが首を横に振ったのだ。ナース服とか、セーラー服とか、チャイナドレスとか、たーくさんあったのだが、マジックのアシスタントとなれば、やっぱりラメラメのバニーである。きっと。
「「ではでは、これからマジックを始めたいと思います。まずは、ヨグ=ニグラス(
gb1949)さん&サンディ(
gb4343)さんでーっす!」」
「テラテテー♪」
ちゃららら〜っ♪ ちゃらららら〜らら〜♪
マジックには欠かせない音楽が流れると音楽に乗って、手を繋いでヨグとサンディが現れる。軽快なステップで、くるくると仲良く回る2人は、お揃いのタキシードが良く似合う。
(「や、伯爵さんからもらったステージ衣装は脱ぐです。‥‥アレ着てたら失敗するかもですしっ」)
心の中で、ぐっと拳を握り締めたヨグは、サンディと目で合図をすると綺麗で色鮮やかなBOXをくるくると回す。中には種も仕掛けもありません。そんなパフォーマンスをすると、ヨグが箱の中に入る。
「この剣をぷすっとして‥‥」
箱の中から小さく声が漏れるが、気にしてはいけない。サンディは用意した剣を打ち、金属の音を出すと、ぷすっと箱に刺す。何本もの剣がぷすぷすと刺さると、小さな箱の中の何処にも逃げ場は無いような感じである。
くるくるっとサンディが箱を回し、剣を引き抜いて行く。
そして、ぱかっと開いた箱の中からは。燦然と光り輝くナイト・ゴールドマスクをつけたヨグが飛び出して。
再び、仲良く手を繋ぎ、くるりと回り、ぺこりとお辞儀をした2人が楽しそうに引いて行く。
「「はいっ! ヨグさん、サンディさん可愛かったですねっ。次は、微笑みの魔術師・須磨井礼二さん&バニー・マウル少佐ですっ」」
「スマイル、スマイラー、スマイレージ♪ さあ、皆さんに大脱出をお目にかけます。どうぞ、海兵隊の皆さん、10名様ほどお手伝い願えますか?」
大きなカラフルなBOXが現れ、マウルはそこに入る。そして、首だけを出し。用意したカトラス10本を箱のスリットに次々と刺していってもらう。
「はい、どんどん刺して下さいね」
にこにこと笑みを振りまきながら、礼二は最後の海兵隊がおっかなびっくり、でも楽しそうに剣を差し込んだのを確認すると、鮮やかなピンクサテンの布をふわりと箱に被せた。
「では、ジョーダン中佐、このスイッチを押して下さいませんか?」
「おお」
「はい、皆さん、少々音が出ますのでお気をつけ下さい」
音? と、心の準備をする間もなく、ぽちっとな。とばかりに、ジョーダン中佐がボタンを押した。その瞬間、マウル少佐の入った箱が、小さく爆発した。散り散りに吹き飛ぶピンクサテンの布。どよめく宴会場。と、スポットライトが艦橋の一点に集まった。
「何っ? どうしたんですっ?!」
「こっちが聞きたいわよっ!!」
マウルの下敷きになっているのはソウマ。知らぬ間にマジックの巻き添えになってしまったようだった。颯爽と現れるはずだったマウルが、ちょっと、とほほな格好で宴会場へと手を振った。
そんな、マウルのアレなシーンやコレなシーンを沢山スナップに収めたグロウランスは、ひとり含み笑う。
「きっと喜ぶやつらがいると思う。一部限定で。そうだな、価格は良心設定で。売り上げは孤児院にでも送るさ‥‥うおっ?!」
「最後の詰めが、甘いわね。宴会のスナップならいざ知らず‥‥没収させていただくわ」
バニー姿で仁王立ちのマウルが、額にやれやれといった汗を浮かべて、グロウランスから携帯を取り上げた。データを抜くと、携帯は返し。グロウランスの密かな楽しみは潰えたのであった。残念っ!
「‥‥2mの女性ってそうそう見れませんよね」
アリステアはその姿を見て、小さく呟いた。
「‥‥な、何故こんな事に?」
その姿。真っ赤なドレス。フリルがふんだんについている、フラメンコのドレスは、裾がひらひらと翻る。砕牙 九郎(
ga7366)は、がっくりと肩を落として、半泣き状態である。
「‥‥また‥‥ドレス‥‥」
それは、軽い約束だった。結城悠璃(
gb6689)は、オレンジのドレスに深いため息を吐く。一緒に何処か行こうかという、そんな話だったはずだ。普通に。そのつもりだったのだが、ドレスに身を包んでしまうハメになるのは、何度目だろうかと、ふと思う。
「今更駄々をこねても遅いよ。覚悟決めて、さあ、いくよっ」
小柄な芹佳(
gc0928)は、フラメンコの男装をしていた。とてもカッコいい。手にするのは、フラメンコギター。
「‥‥はい」
(「全身改造とどっちがいい? なんてイイ笑顔で言われたら、着るしかないよね」)
九郎は、とほほの顔のまま、こくりと頷く。
「い、いや! やるからには、精一杯頑張らないとっ!!」
自分のとほほな気持ちを振り払うかのように首を横にぶんぶんと振って、まるで女の子のような悠璃が、かつかつと歩いて行く。
芹佳は、皆にに、綺麗に化粧も施した。とても上手くいったと満足の出来である。次々に披露された一芸は、どれもとても楽しかった。やっぱり来て良かったなと思いながら、この面白い場を、もっと面白く楽しいものにしようと力が入る。そのギターの腕は、半端では無い。
「似合ってる、似合ってる」
にやりと笑い、煙草を揉み消すのはヤナギ。当然のように女装済み。インディーズバンド時代に顔を作っていた事もあり、実に手馴れたもので、付け睫毛も自然な仕上がり。程良く色の入った顔は、美女と呼んでも過言が無い。鮮やかなブルーのフラメンコドレスを着こなし、ベースを片手に歩けば、どこか中性的な美形のいっちょ上がりである。
「折角の酒宴、盛り上げて楽しまなきゃね♪ 芹ちゃん、くろーさん、悠ちゃん、ヤナギさん、頑張ろーねっ♪」
長い髪をアップで纏め、白いシャツに黒いパンツを着こなした冴城 アスカ(
gb4188)が、仲間達の出来栄えを嬉しそうに眺めて、微笑めば、どうやら時間となったようだ。
「「マジック楽しかったですねっ!! 次は芹佳さん、砕牙九郎さん、ヤナギ・エリューナクさん、結城悠璃さん、冴城アスカさんによるフラメンコをお楽しみ下さい〜っ」」
男女逆転したフラメンコが始まる。
リズムを踏んで、中央に踊り出るのはアスカ。
その横から悠璃がひらひらとドレスの裾をさばいて手を上げる。こうなりゃヤケだ。そんな感じ満載の九郎の姿には、やんやの喝采が浴びせられる。かき鳴らすのはテンポの良いフラメンコ。カスタネットの音が小気味良く響く。巧みに響く芹佳のギターを追うように、ヤナギのハープが奏でられ、あっという間に宴会場はフラメンコの空気に埋め尽くされる。軽い手拍子が、宴会場の中からぽつぽつと音を上げ、何時しか全体が手を打ち鳴らしていた。
圧倒されるその空間。踊りの最中、にやりと笑うアスカは、必死です。そんな九郎のドレスの裾を軽やかにめくり上げる。いやーっ。何すんですかっとの表情がまた喝采を受ける。
と、音楽が変化する。ヤナギがベースをかき鳴らしたのだ。アップテンポになれば、ステップも激しくなる。オレンジの裾が翻り、真っ赤なドレスの裾が舞い上がり、黒いシューズが甲板を打ち鳴らす。
ちらりと、芹佳が視線を向ける。
ヤナギが頷き、音を合わせる。必死だった九郎へとアスカがひとつ頷き、悠璃も芹佳へと頷く。
音を合わせた最後の打ち鳴らし。
踏み慣らす音が、カスタネットの音が、ギターとベースの音が、一斉に揃ってぴたりと止まった。
フィナーレだった。
盛大な拍手が送られて、にこやかに挨拶をする芹佳とアスカ。悠然と笑みを浮かべて去るヤナギに、や、どうも。そんな感じで我に返った悠璃と、小走りで走り去る九郎。少しばっかり、隅っこの方で、大きな身体を丸めて、ドレスのまんま、しばし、切なくて、しくしくと泣いていた九郎を見かけた人が何人も居た模様だった。
「「フラメンコ、すっごく、すっごくカッコ良かったですね。それでは、どうぞ、ごゆっくりして下さい〜っ!! 余興をされた方々に、出来ましたら盛大な拍手をお願いしますっ!!」」
割れんばかりの拍手が沸き起こる。宴会場は大いに盛り上がったのだった。
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司会が終わって気が抜けたのか、ぼーっとしている美空へと、桃2は、はい。と、取り分けてあった料理を目の前に出した。
「これ?」
「うん、一緒に食べよう。おなかぺこぺこ」
「うん」
一生懸命司会を務めた2人は、美味しい料理を嬉しそうにぱくりと食べて、長時間の司会の疲れを癒すのだった。
「あ、どもども」
フラメンコの赤い美人と持て囃されつつ、九郎は美味しい食事に舌鼓を打っていた。当然、普通の服に着替えてはいたが、しばらくはフラメンコ美人と呼ばれるのは仕方の無いことなのかもしれない。神様。俺の運命は何処に向かうのでしょうか。そんな物悲しさを、ほんのちょっとだけ引きずりながら、でも、しっかりと食べるのであった。
「美味しいですね」
「無性にプリンが食べたくなったぜ!」
「プリンも良いけど、このエビチリ美味しいですよ‥‥!!! ヨグっ?!」
「ふっふっふ。驚きましたかっ? 大成功ですっ」
マジックショーで頑張ったサンディとヨグは、楽しそうに宴会に混じる。その中で、サンディはヨグに頬ちゅーをされて、目を丸くする。
「前に紅葉見に行った時は、ほっぺに『ぶにっ』とされたので、今度は僕が『いひゃぁ!?』と驚かせる番なのですっ」
ふっふっふと、満足そうなヨグに、サンディはしょうがないなあと、笑う。ヨグが楽しいのが一番なのだから。
「この艦が、戦場に赴く人達の希望になれればいいね‥‥」
【OR】フラウト・トラヴェルソの綺麗な音がかすかに甲板に響いて行く。
宴もたけなわ。悠璃は、この艦の前途が、人類の未来を切り開くべく、良いものであるようにとの祈りを込めて、フルートに息を吹き込み、音にする。静かで、優しい曲であった。
「ちょっとぉ、なーにしかめっ面して酒飲んでるのよ〜? こういう時ぐらい肩の力抜いて楽しまないと便秘になるわよぉ?」
酔っ払いがここに。
「幸い、お通じは快調よ」
「いや〜っ! そう、そうじゃなくてっ!」
バニーから何時もの姿に戻ったマウルの姿を見つけてアスカは酒瓶を抱えてきゅっと抱きつく。良い具合にほろ酔いである。
実に生真面目な返事に、おなかを抱えて笑うと、少しだけ真面目な顔でマウルへと囁く。
「あのねぇ、船の乗員ってのはねぇ家族みたいなもんよ? 今日みたいな場で腹割って話さないといつ仲良くなんのよ〜?」
「う‥‥そのくらいは、わかっているつもりよ」
かるくむくれたマウルに、本当? と聞きながら、ぐりぐりと抱き抱えるのを深くして、けらけらと笑うアスカは、ジョーダン中佐を見つけて、マウルから離れて、またねと、手を振って行く。
「お嬢さん、可愛い顔が台無しだゼ? ほら、笑ってみな」
アスカの言葉に、そんな事わかってるんだからとばかりに、難しい顔になってしまっていたマウルへと、ヤナギが、よっ。とばかりに顔を出す。
多分、アスカの言う事は、マウルにはわかっているのだろう、でも、わかっている事と、行動に移すという事は、また、別の事で。ヤナギは、つい、マウルの頭に手を置いて、撫ぜてしまう。
「子供じゃないのよっ!」
「あ、悪ぃ、悪ぃ」
「ま、まあ、良いわ。もうやらないでよね?」
ぷっと膨れたようなマウルへと、はいはいと答えてヤナギは笑う。
「こんばんわの初めまして、ですね♪ ‥‥楽しんで、頂けましたか?」
悠璃が、笑顔で顔を出す。着替えても、小柄で女顔の彼は、どうしたって女性に見られがちだ。
「よ、美人。良い踊りだった」
ほろ酔い加減のジョーダン中佐が酒を勧めれば、悠璃は小首を傾げて苦笑する。
「あはは‥‥でも私、実は男の子なんですよ?」
「何ぃ? 世の中間違っとるな。というか、傭兵、間違っとる。美人な男が多すぎるってのは問題だろうがっ! 迂闊にちゅーも出来ん」
「‥‥あ、それは許してくださいっ」
軽いハグ魔、キス魔となっているジョーダン中佐を抱え込むのは、周囲に居る部下達。どもすみませんと謝り慣れているのが、ちょっと怖いかも。
「クラリッサ・メディスン・榊ですわ。宜しくお願いしますわね、中佐」
「おーっ。本物の美人さんだなっ?!」
「あら、ごめんなさい。私、主人がおりますの」
ぐっと肩を抱こうとしかかるのを、するりと抜け出ると、笑みを浮かべる。
どもども、すみませんと部下達が間に入る。
豪快に笑いながら、飲み続けているジョーダン中佐に、アスカが酌をし。
「マウル大尉、急に決断する立場になって不安でしょうね ま、経験豊富な中佐が居るし、いざというときは彼女をリードしてあげてね?」
「そんな事は知らん」
「知らんって‥‥」
「リードされるような艦長は必要無い。そもそも、リードなんかされるかよ、あの小娘、意外とどうして肝っ玉は据わってる。それに、傭兵達に信頼もされているようだ」
この宴会がそれを物語っているだろうと、がははと笑うジョーダン中佐に、アスカは意外なモノを見たような顔になる。所で、姉ちゃん、色っぽいなと抱え込まれそうになって、酒癖が悪いなあと笑いつつ、すり抜ける。
(「そういえば知り合いのスナイパーが中佐を『裏切り者!』と言っていたが」)
UNKNOWNは特に寄るでもなく、呟くと、再び皆の中に紛れ込んで行く。
「なんか凄いのいた!」
「おお、金色仮面!」
ヨグは、まるで何処かの映画の中に出てくるかのような出で立ちのジョーダン中佐を見てつい声を上げれば、何だか妙な名前で呼ばれてしまう。確かに、マジックでマスクはつけていたが。ヨグは、つい、隣のサンディに視線を移す。剣士っ娘である彼女が、豪快さを真似してしまうのは、何だかとてもいけないような気がしたから。
「リチャード中佐、戦場で共に戦う事があればよろしくお願いします。自分は米軍の元空挺ですからね。海兵隊には負けませんよ?」
「ああん? 若造、言うじゃないか」
「勝負、しましょうか?」
「よーし、誰かこいつと勝負だ。必ず勝て」
わらわらっと取り囲まれたクラークは、宴会が果てるまで、海兵隊と飲み比べ勝負を続けるのだった。その勝敗の行くえは、大量の酒瓶に埋もれて、つかなかったようであった。
「中佐、宜しければ一献どうですか?」
「おお、貰おう」
「俺たち傭兵は、任務毎に顔ぶれも入れ替わりになる事が殆どですが、肩を並べて戦う時には宜しくお願いします」
「こっちこそな。どうしたって手を借りなきゃならん事がある。その時はよろしく頼む」
剣一郎とジョーダン中佐は、カチリと杯を合わせる。剣一郎は、自腹で酒を10本ほど用意していたが、この宴会は上限知らずの宴会である。後でしっかり補填されていて、苦笑する事となる。それはさておき。
嬉しそうに飲むジョーダン中佐へと、杯を合わせる衛司が、世間話でもするように、語りかける。
「自分から見てひょっ子でも、自分の預かり知らない分野では立派な猛禽だったりするかも、ですよ? 格下と思ってると痛い目を見るかも知れませんよ?」
「まあ、あれだ。小娘には違いないが、補って余りあるもんがあるって事は見させてもらったからな。お前さんの心配は杞憂ってもんだ」
宴会は、あくまでも宴会である。
けれども、この宴会に集まる傭兵達を見ていれば、見えてくるものがあると。そう言う事なのだろう。
曲のリクエストをいくつか受けていた芹佳は、ひと段落つくと、人のいない場所へと足を向けていた。波の音が聞こえる。LHは、常に海上を移動している。留まる事の無い流転は、何時まで続くのだろうか。手にしたハーモニカを口に当てると、何処か切ないメロディーが零れて落ちた。
アリステアは、マウルを見つけると、お茶を差し出した。そろそろ、お開きの時間のようで、あちこちで、酔っ払った屍が累々である。
「疲れちゃいました? お茶どうぞ。少し甘めにしてるんで、冷めても大丈夫ですよ」
「ありがとう、頂くわ」
「俺たちの力が必要なときは、言ってくださいね。俺、すぐにでもすっ飛んできますから。艦長職、頑張ってくださいね。俺達も期待に応えられるように頑張りますから。瀋陽の時みたいな事は、もうゴメンですよ?」
「‥‥そうね、頑張るわ。肝に銘じて、ね」
お茶ご馳走様と、マウルはにこりと笑った。
「ヴァルキリーを冠した艦、お前が俺達を運ぶのは、英霊として死せる為か、それとも‥‥全ての明日を運ぶ為か。‥‥フロイライン・マウルに祝福を」
甲板の片隅で、宴の名残を楽しみながら、グロウランスはブランデーを垂らした珈琲を口にする。
ヴァルキリー級量産型飛行空母一番艦。
その名には、様々な説と名が寄せられた。
指揮する金髪の小娘マウル・ロベルの白い乗艦となれば『ブリュンヒルデ』が相応しいだろうかと、ブラット准将は集まった候補名の中から、その名を選び取った。
艦長、マウル・ロベル少佐乗艦『ブリュンヒルデ』が正式なお披露目となるのだった。