タイトル:【魂鎮】日々水道爆撃マスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/25 10:24

●オープニング本文


 北九州を再奪取され、春日司令官にダム・ダル(gz0119)以外何者でもない姿が現れてからというもの、市民レベルまで、バグアとの攻防が毎日のように繰り広げられている。
 それは、小競り合いのような戦闘であったり、住民避難でもあった。
 決め手に欠けていたのは否めない。
「このまま手をこまねいていても、負担が増すばかりだ」
 幸い、足がかりが出来ている。この期を逃せば、また競合地域へと変わってしまうだろう。
 そして、じわじわと、版図が塗り替えられる。
 そんな事はさせない。

 + + + + +

 日々水道上空に敵影発見。
 地元の水域を警戒している、漁船から、連絡が上がる。
 釣りという、姿を隠れ蓑にし、一部玄界灘近辺で、人々の支援にあたっている。
 その中には、様々な職種、年齢の者が居る。
 三山宗治という元空軍佐官が、まとめ役だ。その名を『玄界灘一本釣りクラブ』と言う。
「やれやれ勤勉な事だ」
 三山がラスト・ホープへと連絡を入れたあと、溜息を吐き、肩をほぐす。
 バグアは、まるで人をなぶるかのように、少しづつ自軍を強化していっている。
 一気に殲滅戦に出られたら、人類はひとたまりもないだろう。
 そうしたくない何かがあるのだろうという推測は、ある程度戦いをこなした者ならば、肌で感じている事だ。
 まったく何も動きの無い日々が続くと思えば、ここ数日のように、波状攻撃のように、じわじわと襲って来る事もある。
「決定打を落とさないのは何故かのう」
 憶測と推測は、いかようにも立つ。
 けれども、それだけでは生き延びれない。特に、このような混戦地域では。
 真っ青な空。
 けれども、この空は未だ朱に染まっている。

「低空で進入しています。佐世保からの哨戒にも写らなかった模様です」
 近くに、空母があった。
 その空母は、佐世保から出ている、哨戒中の艦隊に連絡が入り、すでに戦いを始めているようだ。敵空母はさほど大きな空母では無く、佐世保からの増援により、そちらの戦いは有利に運んでいる。
「予測進入ルート、表示します」
 オペレータの丁寧で機械的な声が響く。
 モニターに現れたのは、九州北部。
 日々水道。
 鷹島と、僅かにせり出した形の備前町との間を通る、短くも細い海域だ。
「先に報告が上がった、EQと合流するのではないかという、予測が立っています」
 備前町先端から進入したとみられる、アースクエイクは、内陸へと入り込んでいる。その発見が早かった為、迎撃依頼が出されている。
「動きから、無人のHWと推測されます。上空からの爆撃が可能です」
 6機のHWとみられる光点が、地図上に写り、移動予測経路が示される。
 能力者達が辿り着くのはちょうど日々水道を抜けた牛島と飛島を眼下に望む空域だ。
 縦に一列になり、海面近くを飛行するHW。
「迎撃をお願いします」
 スクランブル。
 赤い点滅がモニターを縁取った。

●参加者一覧

伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
香倶夜(ga5126
18歳・♀・EL
アリオノーラ・天野(ga5128
17歳・♀・EL
三枝 雄二(ga9107
25歳・♂・JG
辻村 仁(ga9676
20歳・♂・AA
黒桐白夜(gb1936
26歳・♂・ST
アリステア・ラムゼイ(gb6304
19歳・♂・ER

●リプレイ本文

 8機が、綺麗な飛行形を保ちながら、日々水道へと向かう。
 F−201Aフェニックス2機がロッテを組んで、先行している。
 日々水道を海面すれすれに飛んでいる、HWを確認すると、2機はぐっと高度を下げる。
「ドラゴン1、先行する、2ついてこい」
「ドラゴン2了解、先輩、なれない機体だからって、海面とFOX4なんてやめてくださいよ」
 伊藤 毅(ga2610)の抑えた声に反比例するように、三枝 雄二(ga9107)の賑やかしい声が返る。
 海面とランデブー。接触して落下はごめんこうむると、毅は雄二の軽口に口の端を上げるだけで答える
「お前こそ、ふらついてるじゃないか、そんなんで大丈夫か?」
 止して下さいよと、軽い口調で雄二は返し。計器を確かめ、その手順を脳裏に描く。
 群青の海面を感じて高度を保つ。計器類から、その高度は図れるが、それだけでは取れないタイミングもある。飛沫が機体に跳ね上がるかのような錯覚さえも覚える。
「よ〜し! 頑張るよ!」
 丸い眦がつり上がり、金色になった髪がそのまま黄金色に光を纏う。CD−016シュテルン搭乗の香倶夜(ga5126)だ。
 初撃に打ち出されたのは、127mm2連装ロケット弾ランチャー。長い軌跡を描き、2つの弾頭が頭のHWへと向かうが、当たらない。掠めるように海中へ落ちると、高い水飛沫を上げる。
「混戦になるまでは、ロケットなどは止めた方が良いと思いますよ」
「あ、そうか」
 飛沫が、低空飛行のKVの視界を紗が入ったように遮る。
 光の消えた淡い朱の瞳が、モニターを睨む。香倶夜に声をかけるのは、辻村 仁(ga9676)。XF−08D雷電が、ロケット弾を打ち込んだ香倶夜機に離れ過ぎないよう先行する。
 HWが、飛沫を浴びて僅かに浮上する。しかし、それは頭から2機だけだ。僅かに高度をずらし、まるで蛇が鎌首を上げるかのような飛行形態を取る。
 同線上に並べば、HWからの攻撃が来る。
「相対距離400、G放電装置投下!」
 軌跡を描いて、射出された試作型G放電装置が、細かな光を不規則に放ち、蛇のように長い列を作るHW編隊の鎌首へとヒットする。
 それと同時に、淡紅色の光線が、鎌首を上げた2機のHWから、高度を下げていた3機を襲うが、機体を傾け、その攻撃を避ける。
「相対距離300‥‥200‥‥100、NEMO、FOX3」
 フェニックス2機は、その機体を入れ替えると、毅機がR−P1マシンガンを撃ち放つ。細かな弾が、HWの装甲を穿つ。ある程度強化はされているようだが、ひとたまりも無い。
 HWから紫の光線が浴びせられ、毅機の翼を掠める。軽い衝撃が伝わるが、操縦が鈍るほどのものでは無い。
 すれ違い様に、鈍い音が響き、黒煙を上げて、HWが海面へと落下を始める。
「‥‥っ!」
 仁機もヘビーガトリング砲で最初の1機を狙おうとするが、鎌首の下のHWが目の前だ。そちらへと、攻撃を転換する。
 紫の光が仁機を襲う。KVの腹をこすって、その光は霧散する。飛行には問題は無さそうだ。
 派手な音を立てて、ガトリングの弾丸が、HWへとばら撒かれ。その、すぐ後を追うように、香倶夜のヘビーガトリング砲が立て続けに打ち込まれる。弾痕だらけになったHWが、ぐらりと傾ぐ。傾いだ瞬間に撃たれた紫の光線が、目標を失って、あらぬ方向へとその光を撃ち放ち、くるくると回転しながら海面へと沈んで行く。海中が僅かに膨れ上がり、大きな飛沫が上がる。
「上に、回避しましょう」
 仁が香倶夜に声をかける。
 左右は陸と島があり、どのみち回避には上空に上がらなくてはならず、正面に進めば、次々と浮かび上がるであろうHWの餌食になる。時間差を置いて上空へと上がって来るという事は、次々と攻撃をされるという事だ。
 HWは慣性無視の動きをする。そこから先の行動が予測不能なのだ。
 油断は出来ない。招かれざる客人はまだ存在する。
「反転上昇、ターゲット、敵後方集団」
 毅機の合図に、了解の意思を示すと、雄二機も共に、機首を上げる。上昇して後続の仲間に攻撃の射線を空けなくてはならない。
 ただ、射線を空けるだけでは無く、反転し、蛇の尻尾に食いつくべく、2機は空を駆る。

 HWは、蛇のように長い隊列を崩さない。拡散すれば、そのまま、乱戦にと持ち込めるのだが。
 そのまま高度を上げずに、海面すれすれで飛行している。
「任せときなさい、スクランブル出撃は軍にいた時から慣れっこなんだから」
 銀色を纏わせ、銀の瞳が先行する4機が一撃離脱するのを確認する。R−01Eイビルアイズの金色の装甲が陽をはじく。リン=アスターナ(ga4615)は、笑みを浮かべる。つい先程、この先の上倉ダムより帰還したばかりだ。退治したEQは、まだ撤去されず、長い姿を晒している。
「こんな千客万来は、願い下げなんだけどね‥‥黒桐君。行きましょう」
 リンは軽く火のついていない咥えタバコを噛み締めた。そして、一向に浮かんでこないHWへとUK−10AAMを投下する。
「いつまでも低高度に張り付かれてたんじゃ攻撃もしにくいし‥‥水しぶきで視界が遮られてしまってはつまらないものね」
「了解。‥‥ホント、浮いて来ないな。このまま海面を飛行して突破するつもりなのか?」
 九州は初めて空を飛ぶ。名が示す祖国である日本は、やはり守りたい。左の首筋に白い月と黒い犬の紋様が浮かび上がっている。黒桐白夜(gb1936)の駆るES−008ウーフーから、リン機に僅かに遅れて、84mm8連装ロケット弾ランチャーを投下。
 ミサイルを追うように、8つの弾頭が雨のようにHWへと降り注げば、1機が被弾する。幾つもの水飛沫が上がり、その合間に爆炎が上がる。だが、飛行は可能のようだ。速度を落とした頭のHWを追い抜いて、無傷のHWが前に出る。その移動も、必要最低限の上昇で行われ、高度を上げる事はしなかった。破損したHWは、中心へと回り込み、飛行を続ける。
「降下するしかないかな?」
「そうね、高度、下げるわよ」
 機首を下げると、2機はぐっと高度を下げる。射線が並ぶ。
 そうなれば、HWから淡紅色の光線が、2機を襲う。軽くかわすのはリン機。
「っ‥‥!」
 白夜機の左翼を掠めるが、酷い損傷では無い。すぐに僅かな揺れを立て直す。
「黒桐君行けそう?」
「大丈ー夫!どうにか浮かないもんか‥‥なっ!」
 距離を縮めた2機へと、紫の光線が飛ぶ。
 リン機は翼を傾け、それを避けると、すれ違い様にR−P1マシンガンを叩き込む。そのすぐ後を追い、白夜機が20mm高性能バルカンを叩き込む。HWの装甲へ、転々と黒く穿たれた被弾痕。
 すぐ、次のHWが、2機を捕らえ、紫の光線を放つ。だが、離脱は上空へと。機首を上げた2機は、かろうじて2機目のHWの攻撃をかわし、戦線を一時離脱する。

 第一波の4機、第二波の2機が、HWへと攻撃を仕掛けている間、アリオノーラ・天野(ga5128)のH−114改岩龍と、彼女の機体を守るかのように前を飛ぶアリステア・ラムゼイ(gb6304)のHA−118改翔幻が、高度をとりつつ、戦場の情報を収集していた。
「この規模のKV戦は久しぶりですわね」
 アリオノーラが呟く。朱金の瞳が、HWの動きと、仲間達の攻撃を、冷静に分析する。
「水中の次は空戦‥‥ま、いいか。どうせなら全部できる方がいいし」
 アリステアは、金の前髪をかき上げると、モニターを凝視する。KV初戦は水中戦だったせいか、そんな言葉が口をつく。
「こっちに食い付いてくるのがいたら幻霧を使います。効果自体は短時間ですけど、それを盾にしてください」
 バグアも通り一遍の戦い方はしない。戦場が変われば、戦い方も変わる。その中で、高確率で行われる戦法は、ジャミングを中和するKV機の撃破を優先する事。他に何か目的があれば、それは変わっていくのだが、もしそうであっても、岩龍やウーフーなどの機体を単機で戦わせるのは酷く危険だ。混戦になれば狙い撃ちされる。
「HWは、どうやら、目的地へ辿り着く事を優先しており、戦闘を率先して行う事は避けているようですわね」
 高度を下げ、海面すれすれで戦う事により、僅かに高度を上昇させるが、そのまま上にと上がる様子は皆無。上空からミサイルなどで爆撃すれば、時間はかかるが、全て撃ち落せるだろう。
 海面近くでHWに相対すれば、その攻撃は真正面に捉えられ、こちらも何処まで回避が可能かどうか。
 アリオノーラは、そんな所感を交えて、仲間達へ伝達する。
 そうこうしているうちに、長い蛇のようだったHWは、3機撃墜。1機が被弾したまま真ん中へ。3機になった姿は、蛇というよりも芋虫と言って良いかも知れない。
「フェニックス2機。どちらへ向かわれますの? 作戦と違います」
 アリオノーラは、打ち合わせと違う行動をとる2機を確認すると、声を届ける。どうやら、2機は、反転して、頭に戻るのでは無く、HWの列の後方へと回り込み、挟撃を狙っているようだ。仲間に何の相談も無い動きに、首を傾げるが、強制は出来ない。
 仕方が無いと、アリオノーラは他の仲間たちへと指示を出す。
「敵後方より、フェニックス2機が挟撃を行う模様です。攻撃機は、各機、攻撃、離脱方向に注意」

 第二波2機が離脱するタイミングで、上昇反転をしてきた、第一波4機が戻って来ていた。
 毅が雄二へと合図を送る。
「レーダーロック、NEMO、FOX2」 
「了解、でっかい座薬、プレゼントするっすよ! そーら、捕捉した! pastor、FOX2!」
 毅機から、ホーミングミサイルG−01。雄二機から、短距離高速型AAMが、HWの最高尾を襲う。仲間達がきちんと前を押さえているから、岩龍とウーフーがそのジャミングを和らげているからこそだ。
 予測と違うことは、最後尾のHWが、反転をしていた。
 完成無視というその特性で、方向はいかようにも変わる。最後尾が、最前列に変わる事など茶飯事だ。
 そのうちのミサイルがひとつぶち当たる。だが、HWの端を掠めただけだ。他はかわされ、海中へと沈んで行く。
 
「上から攻撃しちゃえば良いんだよね?」
 香倶夜が、仁の動線に注意しつつ、命中率を高めたロケット弾を再び投下する。
 被弾していたHWは、そのひとつをまともに受けて、大破する。真っ赤な炎と黒煙が上がる。アリオノーラの情報を聞き取った仁は、やはりと頷く。
「近くに町もあり、敵は合流を目的としているんでしょうね」
 そういう事ならと、仁機もフェザーミサイルをばら撒いた。その、小型ミサイルが羽毛というより、礫となって、ばらばらと落ちる。その中を、香倶夜のロケットが、HWへと着弾する。激しい音が響き、爆炎が上がるとHWは、青い海へと沈んで行く。
 残った2機のうち、1機のHWを、リン機と白夜機が捕らえ、ロケット弾とミサイルが襲えばなすすべも無かった。
 最後の1機が、ふわりと浮き上がる。
 接近しすぎないようにしていても、戦線は移動し、アリステア機とアリオノーラ機がかなり近くへ来ていたのだ。
 他の6機は、攻撃を終えて、反転に入っている。
 アリステア機は幻霧を発生させる。後方のアリオノーラを含めて、自機の周囲に幻霧が漂う。そして、アリステアは、前に出る。
 アリオノーラは、モニターを確認して、第一波の2機が戻れるのを算出する。
「敵HW攻撃範囲に入る前に、戻る機体があるはずですわ」
「了解。それまで持たせる‥‥お前の相手は俺だ‥‥食い付いてこい‥‥動きをよく見ろ、慣性制御でも隙はある‥‥」
 接近したHWは、破損した奴だった。紫の光線が、アリステア機を襲う。アリステア機から、ほぼ同時にスナイパーライフルRの弾がHWへと空を裂いた音を立てて飛ぶ。金属音が響いた。HWが先に被弾していたのが幸いした。急に失速したHWは、きりもみ状に回転しながら、海へと落下していき、途中、派手な爆音と共に粉々に飛び散った。

 日々水道を通過しようとしていたHWの蛇は、全て、海中へと沈んで行った。
 互いに確認を取り会うと、毅と雄二は新たに手に入れたKVの乗り心地に満足気に頷きあう。
「いい機体だな、悪くない、これから頼むよ、相棒」 
「まったくいい機体っす、ファントムじゃあ、こうはいかないっすからね!」
「帰還しましょう」
 アリオノーラから、声が届く。
 白夜が笑みを浮かべる。モニターに映った依頼の片隅に記載されていた、三山宗治という人物に会えればと思ったが、どうやらその時間は無いようである。だったらと、笑みを深くする。
「次は普通に美味い物でも食べに来れると良いんだけど」
 瞬く間に、HWを殲滅出来たのは、きちんとした作戦が下地にあったからである。
 青い空と群青の海を後に、能力者達は帰還するのだった。
 その頃、玄界灘外海で佐世保の哨戒艦と、バグア側の空母との戦いが、佐世保側の勝利で幕を閉じていた。
 このHWは、先に上陸したEQと連動し、東松浦半島を完全攻略する為に動いていたのではないかという、推測が上がる。
 そして、バグア側空母より放たれたのは、それだけでは無く、加部島にキメラの上陸が確認されていた。