●リプレイ本文
8機が、綺麗な飛行形を保ちながら、日々水道へと向かう。
F−201Aフェニックス2機がロッテを組んで、先行している。
日々水道を海面すれすれに飛んでいる、HWを確認すると、2機はぐっと高度を下げる。
「ドラゴン1、先行する、2ついてこい」
「ドラゴン2了解、先輩、なれない機体だからって、海面とFOX4なんてやめてくださいよ」
伊藤 毅(
ga2610)の抑えた声に反比例するように、三枝 雄二(
ga9107)の賑やかしい声が返る。
海面とランデブー。接触して落下はごめんこうむると、毅は雄二の軽口に口の端を上げるだけで答える
「お前こそ、ふらついてるじゃないか、そんなんで大丈夫か?」
止して下さいよと、軽い口調で雄二は返し。計器を確かめ、その手順を脳裏に描く。
群青の海面を感じて高度を保つ。計器類から、その高度は図れるが、それだけでは取れないタイミングもある。飛沫が機体に跳ね上がるかのような錯覚さえも覚える。
「よ〜し! 頑張るよ!」
丸い眦がつり上がり、金色になった髪がそのまま黄金色に光を纏う。CD−016シュテルン搭乗の香倶夜(
ga5126)だ。
初撃に打ち出されたのは、127mm2連装ロケット弾ランチャー。長い軌跡を描き、2つの弾頭が頭のHWへと向かうが、当たらない。掠めるように海中へ落ちると、高い水飛沫を上げる。
「混戦になるまでは、ロケットなどは止めた方が良いと思いますよ」
「あ、そうか」
飛沫が、低空飛行のKVの視界を紗が入ったように遮る。
光の消えた淡い朱の瞳が、モニターを睨む。香倶夜に声をかけるのは、辻村 仁(
ga9676)。XF−08D雷電が、ロケット弾を打ち込んだ香倶夜機に離れ過ぎないよう先行する。
HWが、飛沫を浴びて僅かに浮上する。しかし、それは頭から2機だけだ。僅かに高度をずらし、まるで蛇が鎌首を上げるかのような飛行形態を取る。
同線上に並べば、HWからの攻撃が来る。
「相対距離400、G放電装置投下!」
軌跡を描いて、射出された試作型G放電装置が、細かな光を不規則に放ち、蛇のように長い列を作るHW編隊の鎌首へとヒットする。
それと同時に、淡紅色の光線が、鎌首を上げた2機のHWから、高度を下げていた3機を襲うが、機体を傾け、その攻撃を避ける。
「相対距離300‥‥200‥‥100、NEMO、FOX3」
フェニックス2機は、その機体を入れ替えると、毅機がR−P1マシンガンを撃ち放つ。細かな弾が、HWの装甲を穿つ。ある程度強化はされているようだが、ひとたまりも無い。
HWから紫の光線が浴びせられ、毅機の翼を掠める。軽い衝撃が伝わるが、操縦が鈍るほどのものでは無い。
すれ違い様に、鈍い音が響き、黒煙を上げて、HWが海面へと落下を始める。
「‥‥っ!」
仁機もヘビーガトリング砲で最初の1機を狙おうとするが、鎌首の下のHWが目の前だ。そちらへと、攻撃を転換する。
紫の光が仁機を襲う。KVの腹をこすって、その光は霧散する。飛行には問題は無さそうだ。
派手な音を立てて、ガトリングの弾丸が、HWへとばら撒かれ。その、すぐ後を追うように、香倶夜のヘビーガトリング砲が立て続けに打ち込まれる。弾痕だらけになったHWが、ぐらりと傾ぐ。傾いだ瞬間に撃たれた紫の光線が、目標を失って、あらぬ方向へとその光を撃ち放ち、くるくると回転しながら海面へと沈んで行く。海中が僅かに膨れ上がり、大きな飛沫が上がる。
「上に、回避しましょう」
仁が香倶夜に声をかける。
左右は陸と島があり、どのみち回避には上空に上がらなくてはならず、正面に進めば、次々と浮かび上がるであろうHWの餌食になる。時間差を置いて上空へと上がって来るという事は、次々と攻撃をされるという事だ。
HWは慣性無視の動きをする。そこから先の行動が予測不能なのだ。
油断は出来ない。招かれざる客人はまだ存在する。
「反転上昇、ターゲット、敵後方集団」
毅機の合図に、了解の意思を示すと、雄二機も共に、機首を上げる。上昇して後続の仲間に攻撃の射線を空けなくてはならない。
ただ、射線を空けるだけでは無く、反転し、蛇の尻尾に食いつくべく、2機は空を駆る。
HWは、蛇のように長い隊列を崩さない。拡散すれば、そのまま、乱戦にと持ち込めるのだが。
そのまま高度を上げずに、海面すれすれで飛行している。
「任せときなさい、スクランブル出撃は軍にいた時から慣れっこなんだから」
銀色を纏わせ、銀の瞳が先行する4機が一撃離脱するのを確認する。R−01Eイビルアイズの金色の装甲が陽をはじく。リン=アスターナ(
ga4615)は、笑みを浮かべる。つい先程、この先の上倉ダムより帰還したばかりだ。退治したEQは、まだ撤去されず、長い姿を晒している。
「こんな千客万来は、願い下げなんだけどね‥‥黒桐君。行きましょう」
リンは軽く火のついていない咥えタバコを噛み締めた。そして、一向に浮かんでこないHWへとUK−10AAMを投下する。
「いつまでも低高度に張り付かれてたんじゃ攻撃もしにくいし‥‥水しぶきで視界が遮られてしまってはつまらないものね」
「了解。‥‥ホント、浮いて来ないな。このまま海面を飛行して突破するつもりなのか?」
九州は初めて空を飛ぶ。名が示す祖国である日本は、やはり守りたい。左の首筋に白い月と黒い犬の紋様が浮かび上がっている。黒桐白夜(
gb1936)の駆るES−008ウーフーから、リン機に僅かに遅れて、84mm8連装ロケット弾ランチャーを投下。
ミサイルを追うように、8つの弾頭が雨のようにHWへと降り注げば、1機が被弾する。幾つもの水飛沫が上がり、その合間に爆炎が上がる。だが、飛行は可能のようだ。速度を落とした頭のHWを追い抜いて、無傷のHWが前に出る。その移動も、必要最低限の上昇で行われ、高度を上げる事はしなかった。破損したHWは、中心へと回り込み、飛行を続ける。
「降下するしかないかな?」
「そうね、高度、下げるわよ」
機首を下げると、2機はぐっと高度を下げる。射線が並ぶ。
そうなれば、HWから淡紅色の光線が、2機を襲う。軽くかわすのはリン機。
「っ‥‥!」
白夜機の左翼を掠めるが、酷い損傷では無い。すぐに僅かな揺れを立て直す。
「黒桐君行けそう?」
「大丈ー夫!どうにか浮かないもんか‥‥なっ!」
距離を縮めた2機へと、紫の光線が飛ぶ。
リン機は翼を傾け、それを避けると、すれ違い様にR−P1マシンガンを叩き込む。そのすぐ後を追い、白夜機が20mm高性能バルカンを叩き込む。HWの装甲へ、転々と黒く穿たれた被弾痕。
すぐ、次のHWが、2機を捕らえ、紫の光線を放つ。だが、離脱は上空へと。機首を上げた2機は、かろうじて2機目のHWの攻撃をかわし、戦線を一時離脱する。
第一波の4機、第二波の2機が、HWへと攻撃を仕掛けている間、アリオノーラ・天野(
ga5128)のH−114改岩龍と、彼女の機体を守るかのように前を飛ぶアリステア・ラムゼイ(
gb6304)のHA−118改翔幻が、高度をとりつつ、戦場の情報を収集していた。
「この規模のKV戦は久しぶりですわね」
アリオノーラが呟く。朱金の瞳が、HWの動きと、仲間達の攻撃を、冷静に分析する。
「水中の次は空戦‥‥ま、いいか。どうせなら全部できる方がいいし」
アリステアは、金の前髪をかき上げると、モニターを凝視する。KV初戦は水中戦だったせいか、そんな言葉が口をつく。
「こっちに食い付いてくるのがいたら幻霧を使います。効果自体は短時間ですけど、それを盾にしてください」
バグアも通り一遍の戦い方はしない。戦場が変われば、戦い方も変わる。その中で、高確率で行われる戦法は、ジャミングを中和するKV機の撃破を優先する事。他に何か目的があれば、それは変わっていくのだが、もしそうであっても、岩龍やウーフーなどの機体を単機で戦わせるのは酷く危険だ。混戦になれば狙い撃ちされる。
「HWは、どうやら、目的地へ辿り着く事を優先しており、戦闘を率先して行う事は避けているようですわね」
高度を下げ、海面すれすれで戦う事により、僅かに高度を上昇させるが、そのまま上にと上がる様子は皆無。上空からミサイルなどで爆撃すれば、時間はかかるが、全て撃ち落せるだろう。
海面近くでHWに相対すれば、その攻撃は真正面に捉えられ、こちらも何処まで回避が可能かどうか。
アリオノーラは、そんな所感を交えて、仲間達へ伝達する。
そうこうしているうちに、長い蛇のようだったHWは、3機撃墜。1機が被弾したまま真ん中へ。3機になった姿は、蛇というよりも芋虫と言って良いかも知れない。
「フェニックス2機。どちらへ向かわれますの? 作戦と違います」
アリオノーラは、打ち合わせと違う行動をとる2機を確認すると、声を届ける。どうやら、2機は、反転して、頭に戻るのでは無く、HWの列の後方へと回り込み、挟撃を狙っているようだ。仲間に何の相談も無い動きに、首を傾げるが、強制は出来ない。
仕方が無いと、アリオノーラは他の仲間たちへと指示を出す。
「敵後方より、フェニックス2機が挟撃を行う模様です。攻撃機は、各機、攻撃、離脱方向に注意」
第二波2機が離脱するタイミングで、上昇反転をしてきた、第一波4機が戻って来ていた。
毅が雄二へと合図を送る。
「レーダーロック、NEMO、FOX2」
「了解、でっかい座薬、プレゼントするっすよ! そーら、捕捉した! pastor、FOX2!」
毅機から、ホーミングミサイルG−01。雄二機から、短距離高速型AAMが、HWの最高尾を襲う。仲間達がきちんと前を押さえているから、岩龍とウーフーがそのジャミングを和らげているからこそだ。
予測と違うことは、最後尾のHWが、反転をしていた。
完成無視というその特性で、方向はいかようにも変わる。最後尾が、最前列に変わる事など茶飯事だ。
そのうちのミサイルがひとつぶち当たる。だが、HWの端を掠めただけだ。他はかわされ、海中へと沈んで行く。
「上から攻撃しちゃえば良いんだよね?」
香倶夜が、仁の動線に注意しつつ、命中率を高めたロケット弾を再び投下する。
被弾していたHWは、そのひとつをまともに受けて、大破する。真っ赤な炎と黒煙が上がる。アリオノーラの情報を聞き取った仁は、やはりと頷く。
「近くに町もあり、敵は合流を目的としているんでしょうね」
そういう事ならと、仁機もフェザーミサイルをばら撒いた。その、小型ミサイルが羽毛というより、礫となって、ばらばらと落ちる。その中を、香倶夜のロケットが、HWへと着弾する。激しい音が響き、爆炎が上がるとHWは、青い海へと沈んで行く。
残った2機のうち、1機のHWを、リン機と白夜機が捕らえ、ロケット弾とミサイルが襲えばなすすべも無かった。
最後の1機が、ふわりと浮き上がる。
接近しすぎないようにしていても、戦線は移動し、アリステア機とアリオノーラ機がかなり近くへ来ていたのだ。
他の6機は、攻撃を終えて、反転に入っている。
アリステア機は幻霧を発生させる。後方のアリオノーラを含めて、自機の周囲に幻霧が漂う。そして、アリステアは、前に出る。
アリオノーラは、モニターを確認して、第一波の2機が戻れるのを算出する。
「敵HW攻撃範囲に入る前に、戻る機体があるはずですわ」
「了解。それまで持たせる‥‥お前の相手は俺だ‥‥食い付いてこい‥‥動きをよく見ろ、慣性制御でも隙はある‥‥」
接近したHWは、破損した奴だった。紫の光線が、アリステア機を襲う。アリステア機から、ほぼ同時にスナイパーライフルRの弾がHWへと空を裂いた音を立てて飛ぶ。金属音が響いた。HWが先に被弾していたのが幸いした。急に失速したHWは、きりもみ状に回転しながら、海へと落下していき、途中、派手な爆音と共に粉々に飛び散った。
日々水道を通過しようとしていたHWの蛇は、全て、海中へと沈んで行った。
互いに確認を取り会うと、毅と雄二は新たに手に入れたKVの乗り心地に満足気に頷きあう。
「いい機体だな、悪くない、これから頼むよ、相棒」
「まったくいい機体っす、ファントムじゃあ、こうはいかないっすからね!」
「帰還しましょう」
アリオノーラから、声が届く。
白夜が笑みを浮かべる。モニターに映った依頼の片隅に記載されていた、三山宗治という人物に会えればと思ったが、どうやらその時間は無いようである。だったらと、笑みを深くする。
「次は普通に美味い物でも食べに来れると良いんだけど」
瞬く間に、HWを殲滅出来たのは、きちんとした作戦が下地にあったからである。
青い空と群青の海を後に、能力者達は帰還するのだった。
その頃、玄界灘外海で佐世保の哨戒艦と、バグア側の空母との戦いが、佐世保側の勝利で幕を閉じていた。
このHWは、先に上陸したEQと連動し、東松浦半島を完全攻略する為に動いていたのではないかという、推測が上がる。
そして、バグア側空母より放たれたのは、それだけでは無く、加部島にキメラの上陸が確認されていた。