●リプレイ本文
凍てつく空へと、能力者達の探索隊が飛んで行く。
広大な凍った大地が眼下に広がる。
所々、戦いの傷跡が、黒く焼け焦げた染みのように小さく見える。
高度を上げれば、前線の焦土が見えるだろう。
しかし、今は高度を下げ、示されたポイントへと急行するのみである。
『FRの有無だけでも出来るだけ早めに確認したいところね』
僅かに低い声でエリアノーラ・カーゾン(
ga9802)は懸念を口にする。の駆るCD−016シュテルンの深い鋼の機体がぐっと速度を上げる。12枚の可変翼が空気を裂く。
時間との勝負。
勝利を収めたとはいえ、まだ戦いは完全に終ったわけでは無い。ゾディアック天秤座の迎撃報告。その機体は、広大な大地の何所かに落ちたと言うわけだ。
それを確認、回収したいのは、UPC軍ばかりでは無い。
「日々その面積を減少させて行っているという噂も聞く北の針葉樹林帯‥‥」
F−108ディアブロのコクピットから変化した左の瞳と共に眼下の針葉樹林を眺め、九条・陸(
ga8254)は呟く。
火災が発生すれば洒落にならない範囲だとも呟いた。凍てつく森を焦がすのは、よほどの熱量が必要だ。果たして、そこまでの熱量を発生する戦いがあるのだろうか。推測する懸念を払うかのように仲間達の後を追う。
『降下、開始するわ。3時の方角が何か不自然ね』
稜線に添って飛ぶ事に、気を配る藤田あやこ(
ga0204)の機体はPT−054Kロジーナ。垂直離着陸能力を生かし、先行で目的のHWの残骸のある峠へとアプローチする。
離着陸出来る範囲は僅かだ。
3機は降りれるほどの、割合に広い場所があるのは、HWが落下し、木々を薙ぎ倒した跡でもあった。依頼を受けた8機全てが一度に降下するには無理がある。
だが、垂直離着陸能力のある機体ならば、そのスペースは有効活用が出来る。
けれども、仲間達は念には念を入れる。
『‥‥ええ。気をつけましょう』
XF−08D雷電辻村 仁(
ga9676)があやこへ声をかける。手にしているのは記録用ビデオ。何時でも回せるようにと薄く朱に染まった瞳が機器をチェックする。
落下地点の木々には、積雪は少なかったが、一回り外れた場所は、まだ雪化粧を残している。
凍った大地がえぐられた場所に、次々と機体が下りて行く。
排気音が辺りに響き、着陸地点の大地が僅かに揺れる。
次々に、人型に変形するKV。滑らかに変形する金属の僅かな音が静かな森へと響く。
『移動しましょうか』
運を上げるスキルを発動し、エリアノーラはさらに探査の眼を発動する。コクピットを開ければ、大陸の凍てつく寒気が吹き込んでくる。軍用外套のおかげで凍える事は無いが、冷たさは痛さにも通じるかもしれないと、溜息を吐く息は、白く空気に溶け。
探査の眼は、罠や待ち伏せなどを比較的発見しやすくなるからだ。
敵が待ち受けているのならば、そのスキルは有効だったろう。
『三角測量‥‥出来るかしら』
あやこは、エリアノーラ機の前を庇うように、刃渡り1.3mのKV用チェンソー、金曜日の悪夢を構えて立ち塞がる。
敵が接近する前に、確認が出来ればと、定規を買ってきていた。だが、目的地は決まっている。
人型に変形した機体は、上空で待機する残りの4機の為に、速やかに目的の谷へと下っていかなくてはならないのだ。その隊列の各機の幅が何Kmも離れている訳でも無い。
地殻変化計測器を持ってきているのは、仁だ。怪しい方角が上空から見て取れ、ほぼあたりをつけれていた。そして、計測器を使用すれば、何かが迫ってくる方角は確定される。
『上空から確認した方角で、あってると思います』
仁の言葉が仲間達へと届けられる頃、次の降下が始まっていた。
デラードへ、ちょっと宝探しに行ってくると、豪快な笑い声を向けた孫六 兼元(
gb5331)は、女神の加護をと、軽い笑いを返されたのを思い出す。XF−08Bミカガミのコクピットの中、借り受けたビデオカメラを、やはり何時でも動かせるようにと確認し。
確認場所は2箇所。降下地点よりも遠い場所へと移動する谷班の4機が無事降下し、谷へと下っていくのを確認する。
降下の為、低空飛行になれば、注意しているからだが、自然と怪しい方向が目に付く。先の仲間達が言っていた通りの方角だ。
『あちらさんは気がついたかどうかだな?』
『こっちが大よそのアタリをつけてるから、敵さんも見つけてるかな?』
シュテルンの近伊 蒔(
ga3161)が、その可変翼を動かしつつ、バーニアで調節をしながら、垂直に降下する。多くのKVが降下しているのだ。見つからないはずも無い。目的が同じならば、きっとかち合う。
同依頼に、見知った顔を見つけたのは五十嵐 薙(
ga0322)。安堵の言葉を微笑みと共に向ければ、嬉しそうな蒔が、歓声を上げて抱きついてくれた。だから、不得手のKV戦。しかも陸戦になりそうなこの依頼も、乗り切れる。R−01Eイビルアイズの厚みのあるシルエットが針葉樹林へと降下していく。
『‥‥後ろから食いつかれる可能性を失念してた‥‥。こちらの降下タイミング、少し遅らせます‥‥』
接近する敵の影と方角を確かめたセフィリア・アッシュ(
gb2541)は、降下地点、そしてHWの残骸のある地点で、どう戦いに入りそうなのかをはじき出しつつ、最後に降下する。多少手順の打ち合わせは狂ったが、まだ敵は見えていない。混戦の最中の打ち合わせの誤差は、その一手で被弾率が上がるが、今回は大丈夫そうだ。
太く厚い姿のロジーナの人型が立ち上がる。
『木々がつまってるから、遠距離からの不意打ちは無さそうですが、顔見たら即戦闘になりそうです‥‥』
『先に戦闘になりそうだぞ』
木を薙ぎ倒す嫌な音と、地表から伝わる振動。
そして、上空からの方角の確認に、先に降りた仁からの地殻変化計測器による確実性も重なり、敵機がやってくる方向は確定していた。
僅かに散開しているようだが、目指すはHWが落ちたこの峠のクレーターに違いない。
全長8m程の槍リッターシュピースを持ったシュテルン。蒔がじりじりと敵の接近する方向へと向かい、動き出す。降下するだけの空間だ。槍は問題無い。その方角を睨み据える。
『木々が目隠しになってるけど、目隠しを踏み潰してたら、居場所は丸わかりだねっ!』
『見えたぞ!』
『‥‥邪魔‥‥排除開始‥‥』
兼元の声が上がる。
セフィリア機が試作型機槍黒竜を構えて突進する。軽く唸るロジーナから、黒竜へとその威力を高めるチャージが行われる。
HWは2機。
木々を薙ぎ倒し、光線が襲うが、能力者達のKVの反応が僅かに勝った。
『あたしだって、みんなの力になりたいんだ!』
敵が見えないという事は、怖い事だ。手に汗を握り締めていた薙だったが、やって来る方角がわかれば。戦いの力は弱くても、心は決して負けない。そう、強く思うから、いつも一歩を踏み出すのだ。
スナイパーライフルの銃弾が、仲間達の軌跡に被らない斜め後方からHWに打ち込まれる。
『ワシの邪魔をするな!』
光線に打ち抜かれた木々と共に、迫るHWへと、兼元は3.2cm高分子レーザー砲を撃ち放つ。光線がHWの足を止め、僅かにHWの機体を弾き、穴を穿つ。
吹き上がり、舞い上がる凍った木々と氷のような雪の欠片。
ミカガミの排気音が落とされる。その機体能力を僅かに上げて、ウェイフアクスを手に迫る。
『このっ!』
蒔がHWの鼻先にストライクシールドごとぶち当たる。
重い金属音が静かだった針葉樹林へと響き渡った。
十二分な連携と戦いの末、峠に押し寄せた敵HWの第一波は、難なく撃退する事になる。
一方、谷のクレーターへと下った能力者達も敵と邂逅していた。
『盾も‥‥立派な武器よね‥‥』
エリアノーラは、木々の合間から飛んでくる光線を、円形の機盾アイギスで、受け流す。
『いくわよ。ロシアのきこりも真っ青! 金曜日の悪夢』
回り込むのと、前衛で盾になる行動は一致しない。
あやこは前衛にと思いつつも、木々を薙ぎ倒し、足場を作りつつ迂回し、迫るHWの側面をつくべく動いていた。
その行動を増やし、一撃離脱を試みる。チェーンソーは唸りを上げてHWへと一撃を加え、離脱する。その動きは素早い。
がら空きになった前方からは、別のHWが襲い来る。
『しまっ‥‥!』
牽制をかけつつ移動する仁。
『っ!』
まともに敵攻撃を受けたのは陸。光線により被弾した機体が大きく傾ぎ、膝を突く。
谷の上から広く展開されてやって来られたら、被害はもっと甚大だったが、幸い、ほぼ同線上からの攻撃だった。
『受けてみなさいキック』
あやこがHW1機を屠る。
『それ以上は‥‥させないわ』
エリアノーラ機がその速度を上げ、盾を全面に押し出して突進をかける。
被害は出たが、機体大破とまではいかず、何とか逃げ延び。
クレーター周辺を移動しているのは蒔。敵HWの初戦は乗り切ったが、次の攻撃も警戒しておかなくてはならない。時折立ち止まると、蒔は良く周囲を見て索敵に余念が無い。
『1‥‥2‥‥3‥‥。全部HWみたい』
薙が首を傾げる。申請したカメラで、その状況を写し取りながら、残骸となったHWの影なども確認する。
重なったHWの機体をずらしたり、はがしたりしていた兼元が、やれやれと言った風に声を上げる。
『此方はハズレだな!』
『そうね、外れみたいね』
セフィリアが小さく溜息を吐き。
もう一箇所の谷のクレーターでは、エリアノーラがKV用ヴァイナーシャベルで墜落が重なった地面を掘り起こしていた。破片なりとも見つけられればと。
色の変色した場所など、よく見ていたが、どうやら禍々しい赤い機体の姿は無いようだ。
『撤収しましょうか』
仁がビデオに現場状況を収めながら、声をかける。
『そうね、次の攻撃が無いとも限らないわ。それにしても‥‥何処に落ちたのかしら‥‥ね』
エリアノーラが呟く。
ごくろうさん。マップ潰すのに手間かけた。助かったと、デラードからの返信が入る。
女神への供物はここには存在していなかったようだ。
その赤い機体は‥‥。