●リプレイ本文
●うさぎさん、きりんさん、らいおんさんチーム
「これ本当に被らないといけないのか‥? ‥被るって! そんな哀願するような目で見るなよ‥」
体力強化の受付で、職員達が、登録メンバーに参加ゼッケン代わりのお面を配っていた。うさぎさんチームに決まったゼラス(
ga2924)は、可愛らしく口元がバッテンになっている淡いピンクの色画用紙で作られたお面としばし見詰め合う。それを職員から、別の意味で見つめられて、言葉につまると、お面を被った。
「頑張っていきましょー♪」
ぱたぱたと、尻尾があれば振っていそうに元気な御山・映(
ga0052)が、おー。とばかりに、手を上げる。うさぎさんチームで一番小さい映は、ぴょこぴょこと跳ねて、やる気満々だ。ピンクのお面が良く似合う。
「ところでこのお面、ただの紙っぺらに見えますが実はすごい機能が搭載されているんです。なんと、かぶると語尾が変になってしまうウサ!! ぶっちゃけウソですけど、そんなの関係ないウサ!! それじゃあウサギさんチーム、がんばるウサー!!」
こういうノリは嫌いでは無い。平坂 桃香(
ga1831)はきっぱり、しっかり開き直った。どうして体力強化が小学校の運動会のようなのかとかは、深く追求しない。気にしたら負けだ。
「やるからには‥‥勝ちに行くぜ」
うさぎさんのお面を被ったゼラスが、気合の入った笑みをこぼす。こんなお面とか、漂うのは運動会ムード満載なのだけれど、その内容は、確かに、しっかりとした訓練なのは間違いようが無い。
「全部が訓練って事ぁ‥最低限の余力は残せって事なんだろうなぁ。陸上競技と訓練は別もんだからな。ゴールするまでに全力を使わず‥かつ優勝を目指す、か。‥面白ぇじゃねぇか。その方がやる気が出るってもんだ」
負けねぇ。
それは、どのチームも思う事だった。きりんさんチームでも、同じような会話が黄色い色画用紙のきりんさんのお面の下、行われている。がんばるぞと、体操服にブルマ姿で準備体操に余念が無いのは、水理 和奏(
ga1500)である。
「きりんさんのお面、かわいいねv」
「ふぃ〜、真面目なんだか遊びなんだか判断に困る訓練だよねー。楽しそうだからいーけどー」
なんだなんだ? 私がきりんさんチーム最年長かと、ヴィス・Y・エーン(
ga0087)は赤い瞳の目を細めると、明るく笑う。
「学校に行ってた頃の運動会を思い出すよね‥頭に付けてる飾りは、劇とかお遊戯とかそんな感じだけど。和奏さん、ヴィスさんよろしく」
ドーナツを分けて貰ったら、近所の子にあげようと考えていた流 星之丞(
ga1928)は、どうやら配給があると誤情報を仕入れていたようである。来て見てびっくりだったが、こうして来たからには頑張るつもりである。体操服にシューズを借り受け、黄色のマフラーを首に巻く。どうしても外せない、彼のこだわりである。いろんな事に加速がつくのかもしれない。
「あの時、浚われなければ、僕はまだ、普通に学校へ行ってたのかな」
交通事故に会い、搬送中に謎の組織にさらわれ、望まずしてエミタを埋め込まれたという、少しせつない思い出を胸に、星之丞は、優しい笑顔をきりんさんチームの仲間に向けた。過去はどうあれ、今は頑張るのみである。
拳を握り込みそうな勢いでいるのは、らいおんさんチームのメディウス・ボレアリス(
ga0564)だ。彼女は明確な目的があった。
「現状ではロケットパンチを使いこなせない! 故に! 折角だから受けに来てやったぞ! 光栄に思うが良い! そうそう。我は運動不足のこの上なく良い見本だからな!! ちゃんとゴールインするまで待っておれよ?」
サイエンティスト達は、その魅力的な機械の前で多くが悩んでいる。メディウスもそのひとりであるようで、自信満々なんだか、そうでないのかわからない宣言をする。
「今回は体力強化に来てるんです、決してこのイベントを楽しみに来たんではありませんよ」
茶色の色画用紙で作られたらいおんさんのお面を、嬉しそうに被る蒼羅 玲(
ga1092)も、言葉と行動が微妙に違う。スパッツに体操服を着込み、やる気は満々だ。
「よおぅっし! 最初から飛ばして、逃げ切るぜっ?!」
けけけけけー! と、NAMELESS(
ga3204)の明るく元気の良い笑い声が響く。
「ふむ。百獣の王にしてグウタラ生活に耽る肉食獣! 我に相応しいアニマルといえよう!」
チームの勝利は、蒼羅とNAMELESSに任せて、マイペースで行く事をらいおんさんのお面に誓う。グウタラ生活を満喫するのは、雄ライオンじゃないかなという突っ込みが何所からかこっそり入るが、当然彼女の耳には入らない。
開始時間です。との声で、3チームはそれぞれのお面を被り直し、集まるのだった。
●1)5mの川を竿で飛び越える
「けけけけー! 行くぜー!」
元気良く竿を手にするのはNAMELESSである。軽々と跳び越える川越えは、良いお手本のように見事だった。和奏は青いポニーテールを揺らし、油断せずに、充分助走をつけながら、器用に川を跳ぶ。川底の状態を竿を刺し、確認をとってからヴィスは石場を見極めて川を越える。当たって砕けろおーいえー。と、気合を入れて跳んだのは桃香だったが、その竿はきちんと立たず、つるりと滑ってお約束のように水飛沫をあげた。「やっちゃった!」予測済みだったのか、職員に誘導されて着替えて来る。透けたか透けないかはその場に居合わせた者にしかわからないっ。桃香が盛大に落ちたのを目の当たりにして、ゼラスが一歩前に出る。軽々と跳び越える姿に、軽く眉間に皺を寄せるのはメディウスだ。落ちて服が濡れるのは気分が悪い。この競技には水着で望みたいと、職員に掛け合えば、用意されたのはスクール水着だった。適当で良いとは、確かに言ったが、何所までもその路線かと、豊かな胸を濃紺のワンピースに包み、竿の端付近を握り、全力で助走をつけたメディウスは、綺麗な軌跡を描いて川を跳び越した。
「わきゅ───っ♪」
楽しげな声を上げ、川の真ん中よりもやや対岸側に棒がつくようにして、思い切りジャンプしたのは映だ。川底の石の真上を避けて、飛ぶその跳び方はほぼ完璧に近かった。全員が飛び越せば、その跳び方やらを細かくチェックしていた職員が上位三名を読み上げられる。
【1位10点】うさぎさんチーム 御山・映
【2位5点】きりんさんチーム ヴィス・Y・エーン
【3位3点】らいおんさんチーム メディウス・ボレアリス
●2)命綱をつけて、10mほどの低い崖を上る
「体重軽くて助かったですけど‥きゅーっ!」
映は、体重をかけても大丈夫そうな突起を探しつつ、崖を上る。途中、魔が差して、つい下を見れば、目がぐるぐるしてしまいそうである。とても怖いが、見ちゃ駄目。見ちゃ駄目。と、口の中で唱えつつ、崖を登り切る。
「岩踏み外して落下‥‥なんてお約束。出来れば御免被るぜ!」
「10mでも落ちたら結構痛いですよねー」
同じように昇るゼラスと桃香は、何とも不吉な事を言い合う。素手は危なそうだと、手袋と気合を連れて桃香は登る。
「ああっ?!」
ずるずると落ちそうな玲は、手当たり次第に昇ろうとして何とか、あと少しで頂上であった。落ちそうな玲を励ましつつ、星之丞も結構際どい場所にいる。
「ほら、頑張って、もう少しだか‥とっ、僕もしっかりしなくちゃ行けないね」
「けけけー、体力ならそうやすやすと負ける訳にはいかねーぜー!」
NAMELESSが笑うが、崖登りは体力だけでは上手くいかない。足場と登頂ルートの選択がその速さを決めるのだ。無理をせず、確実に足場を確保して、着実に登って行くのはヴィスだ。「ロッククライミングって感じだよね」見上げちゃう高さだものと、しばらく崖を見ていた和奏は大きなでっぱりを探す。無理をせずに、登れそうな足場を選び、頂上をを目指す。王道に則って、三箇所で身体をささえ、一箇所を伸ばして次の岩を掴む。判断早く、自分の身体を支えるのは辛いが、どんどん先に登って行くのはメディウスだった。登り方が違えば、早さも違う。
頂上と地上から能力者達をチェックしていた職員から以下略。
【1位10点】らいおんさんチーム メディウス・ボレアリス
【2位5点】きりんさんちーむ ヴィス・Y・エーン
【3位3点】うさぎさんチーム 御山・映
●3)網で覆われた砂埃多い更地に張られた500m網の下を、ほふく前進でくぐり抜ける
「我に地を這いずり回れというか‥良いだろう乗ってやろう」砂埃を見て、メディウスは言い放つ。とにかくゴール目指して進むしかないと、目を開けるのも大変だ。ゼラスは赤いマフラーで口を押さえる。砂で咽ているのはNAMELESSだ。胸をもてあましつつも、姿勢を低く保って進むヴィス。運動会の障害物競走みたいだなと和奏は思う。体操服でよかったと、つぶやいて。
かなり過酷な網潜りではあるが、どことなく楽しい。桃香はバンダナとゴーグルを借りて、砂埃対策は完璧だった。目をやられなければ、進むのにそう困難は無い。「帰ったらシャンプーしないと‥」ほこりまみれなのは、まあ、しょうがない。何しろ、抜けるまで休む事が出来ない。映は網をくぐり抜けると、盛大にため息を吐いた。
【1位10点】うさぎさんチーム 平坂 桃香
【2位5点】きりんさんチーム ヴィス・Y・エーン
【3位3点】うさぎさんチーム ゼラス
●4)傾斜60度の岩場を10kgのリュックを背負って1Km走る
「うわ、過酷だね‥‥」
和奏が、転んだら下まで落ちてしまうんじゃないかと心配そうに上を見上げた。
まさに、体力勝負。対策無しかと思われたが、意外にコツが要ったようである。身体をやや前に倒し気味で、脚と肩を同一に前に出す。一歩一歩が遅くとも、確実に前に進むのはメディウスである。同じように、小刻みな歩幅を崩さないのはヴィスだ。その脚は、着実に前に進めて。
その傾斜に、しばらく呆然としていたのは桃香だ。崖?と目を疑うばかりの坂道の、威圧感に押されてしまう。口の中に残る砂を吐き出して、NAMELESSは進む。まだ、先がある。体力にはそこそこ自身があった。だが、疲労は溜まっていく。ゼラスは、持久力勝負になってきたなと呟いた。
精一杯がんばろうと、映は無言で脚を動かす。遅れないように、一生懸命だ。映だけでは無い。参加メンバー全てが、黙々とゴールを目指し、脚を動かしていた。
【1位10点】うさぎさんチーム ゼラス
【2位5点】きりんさんチーム 水理 和奏
【3位3点】きりんさんチーム 流 星之丞
●5)160Cmの位置に吊るしてあるドーナツを手を使わずに口で銜えて砂場50mを走って、ゴールのテープを切る
コッペパン。を「わふ♪」と咥えて映が走る。縦に吊るしてある分、届きやすい。舌先三寸は使いようである。きちんと縦に吊るされてあるコッペパンは、映の口に収まった。
生クリームの入ったフレンチクルーラーにこだわりをみせるのは桃香だ。中身はカスタードは邪道だと思う。シュー生地を揚げたドーナツなのだから、カスタードでも良いような気がするのだが、桃香にとってのフレンチクルーラーは生クリームなのだ。しかし、生クリーム入りのフレンチクルーラーは食べにくい。ほろりとちぎれて、ほたりと顔に落ちて、クリームだらけになりつつ、砂場を走る。
フレンチクルーラーを選ぶのは、桃香だけでは無い。ヴィスも、やわらかなこのドーナツを選んだ。吊った状態から確実に落とすなら、柔らかい方が良いという理由である。柔らかいのは確かだが、崩れやすくもあり、やはり、顔に落ちてくるのを堪えて走る。
レーズンパンが好きなゼラスは、悠々と吊るされたパンを咥えた。この高さなら楽勝である。後は、砂で足を取られても、踏みしめて一気に駆け抜けるだけである。目指すは優勝なのだ。
カレーパンを願い出たのは和奏である。ほんの僅か、パンの吊るしてある高さに届かないが、それぐらいならジャンプで間に合った。揚げた香りと、カレーの匂いが和奏を誘う。「はわっ!」見た目はどうだっていいと和奏も思う。色気よりも食い気と思われたって良い。カレーパンは美味しいんだからと、早くゴールして食べようと、砂に足をとられつつ、走り出す。
カレーパンはカレーパンでも、中身が激辛のカレーパンを選択したのはメディウスである。基礎体力が無い彼女は足ががくがくと笑っている。しかし、何としても激辛カレーパンを食べるという執念に燃えていた。非常に大好物のようである。
「小さな頃、誰かが作ってくれた、そんな懐かしい味がする‥あれは、母さんの手作りだったのかな」
シナモンシュガーのたっぷりかかった、手作り風レーズンドーナツをゴールしてから、感慨深げに食べているのは星之丞だ。忘れてしまった遠い昔の記憶の断片でも浮かんだような気がするのだが‥。
「レイ! 俺を踏み台にしろ! そうすりゃ取れる!」
「はいっ!」
「けけけー! ゴールは目前だぜー!」
仲間内の手助けは、推奨である。らいおんさんチーム一小さい玲は、踏み台を申し出てくれたNAMELESSの背を思い切り踏み台にした。長い体力強化のレースだったが、特に酷い消耗もしておらず、さらにNAMELESSの手助けで、悠々と砂場を走り、ゴールする。一番の難関と思われたドーナツ戦のドーナツはオールドファッション。中はふんわり。外はかりっと揚がった、懐かしい味だ。玲を送り出すと、NAMELESSも自分の指定したパンを取る。少し甘い豆パンである。玲が後からごーるしたNAMELESSにぺこりとお辞儀する。
「ありがとうございます。すみませんでした」
水飛沫を浴び、風に吹かれて崖を登り、砂埃にまみれ、汗だくで走破した坂。すっかりぼろぼろになった色画用紙のうさぎさん、きりんさん、らいおんさんも役目を終わる時間がやってきていた。
【1位10点】らいおんさんチーム蒼羅 玲
【2位5点】きりんさんチーム ヴィス・Y・エーン
【3位3点】うさぎさんチーム ゼラス
●戦い済んで陽は暮れて。
職員が体力強化に真剣に取り組んだ能力者を表彰しつつ、嬉し涙に暮れる中、NAMELESSが、うさぎさんチームに、おめでとうコールを大声で浴びせ掛ける。武器さえ持ってきていなければ、彼の活躍は変わったろう。
「お茶でもしませんか?」
ヴィスは健闘を称え会いたく、お茶会を提案する。一応、体力強化のメニューだったが、余分のドーナツは少しある。
「そーね。ゆっくりするのも良いかもね! おつかれさまv」
「お疲れ様でしたー」
良い汗かいたと和奏が笑い。UPC主導の、体力強化は終了したのだった。
総合得点
【1位39点】うさぎさんチーム
【2位28点】きりんさんチーム
【3位23点】らいおんさんチーム