タイトル:【AAid】体力強化番外2マスター:いずみ風花
シナリオ形態: イベント |
難易度: 易しい |
参加人数: 23 人 |
サポート人数: 0 人 |
リプレイ完成日時: 2009/05/17 13:04 |
●オープニング本文
体力強化のお知らせ。
そんな依頼がUPC軍総務課から出された。
「アサリが無性に恋しくなる季節だと思いませんか?」
満面の笑みを浮かべた総務課ティム・キャレイ(gz0068)の手には、ラミネート加工してある、色画用紙のお面。らいおんさん、きりんさん、うさぎさん。
「体力強化を致しませんか?」
UPCのとある部署から繰り出される、傭兵の体力を強化しようという、依頼は、そもそも最初は切実なものだった。戦い慣れない能力者達に、少しでも慣れてもらおうという主旨があった。
しかし。担当者がティムに変わったあたりから、その方向性が微妙にずれていったような気がするが、気にしてはいけない。内容は何時ものようにハードである事に変わりは無いのだ。
モニターに映し出される、今回の体力強化のスケジュールは。
(1)アサリのある遠浅の泥濘の海岸を海からダッシュ。
およそ3Kmの泥濘の海岸です。船に分乗し船底が泥濘についた時点で、下船。
泥濘の海岸までひたすら走ってもらいます。
個人戦ですが、得点はチーム事に加算されます。
1位>10点
2位>8点
3位>5点
4〜10位>3点
11位〜>1点
最下位>0点
(2)1時間でアサリ収穫。以下を選択して下さい。
収穫する衣装をお考え下さい。美術点の採点と致します。
衣装は馴染みの衣装班が揃えてくれますので、余程でなければご用意出来ます。
A 海に近い地点
B 海と浜との中間地点
C 浜近く
1 海岸右
2 海岸中心
3 海岸左
・【広く】浅く掘る
・【深め】自分の周りを中心に掘る
例)A・2・【深め】
チーム戦
1位>10点
2位>8点
3位>5点
美術点>3点
総合MVP点>2点
何時ものように、その場所は安全上能力者達に知らされる事は無い。
以上。
「終了後は、近くの民家を貸切りましたの」
日本家屋の古民家の庭先からは、海が一望出来る。今年は少し開花が早い。淡いクリーム色したハマボウの花が咲き乱れ、強い海風を僅かに和らげる。
黒光りする廊下や、柱。天井の梁。
16畳もある床張りの居間から、縁側へと続く。
広い庭には竈があり、湧き水が竹の筒から置石に落ちるように溜まり、流れて行く。
「沢山取っていただいたアサリは、アジア支援として横流し致しますの」
頑張って下さいませと、いい笑顔でティムは電卓を弾いていた。
●リプレイ本文
●泥濘の疾走
遠浅の浜辺が眼下に広がる。
沖から、幾つかの船に分乗し、大勢の能力者達が、決戦の場にやって来た。
うさぎさん、きりんさん、らいおんさんチームは何時ものとおり。そして新たに作られた、ねこさん、はちどりさんチーム。班分けで、班が記載されていないメンバーもおり、多少ばたばたはしたが、記載漏れは僅かに減点となり、何とか納まった。
人数が均等にならないチームには職員’Sがわらわらと参加する。全て男性である。
「うーみぃ──!」
船の舳先に仁王立ちしているのは羽矢子だ。
「ところで、1位になったチームに得点とかあるの?」
「粗品がっ!」
すっきりと叫んだついでに、素朴な疑問を聞いてみると、拳を握り締めて電卓を叩いているティムの即答が帰る。財政上渋いものなのかもしれない事が伺えて、ああそう。と、つい乾いた笑いを返してしまう羽矢子であった。
「♪」
わくわくと顔に書いてるのはヒノコ。テンションが上がって行っているようだ。
「‥‥女性の多いこと、多いこと‥‥胃が、痛い‥‥」
そんなヒノコを横目で見つつ、仁王立ちするチームリーダーを眺めて、小さく溜息を吐くのはドッグ。幾分顔色が悪い。女性恐怖症という、夏も近付く海岸線に走り込むには、もったいない病にかかっている。
「まぁ、心を無にして作業しましょう‥‥可愛い貝やフナムシにあえることですし」
貝はともかく、フナムシにはあまり会いたくないのが一般の共通認識ではあるが、ふふふと、思い出し笑いを浮かべるドッグは有機生命体全般にこよなく愛を向けているらしい。
「潮干狩りで体力強化なんか聞いたことないぞ!」
「良いじゃない! 潮干狩り、最高っ!」
渋面を作るクロスフィールドは、満面の笑みを浮かべ、楽しむ気満々である妹のクロスエリアに半ば引きずられるようにやって来ていた。それでもしっかりと、チームの方針には従うつもりである。競技内容には目を通し。
「紅月・焔! この黄金の輝きと‥‥パッションと煩悩が揃った‥‥パーフェクトな紅月・焔! ‥‥紅月・焔! 参! 上!」
ハイテンション。
ガスマスクを被り、全身ゴールドに塗られた焔は、燃え上がる気合を周囲に撒き散らしていた。全身ゴールドは危険である。しかし、やろうという男の心意気には、撮影班衣装部が涙した。全身ゴールドのタイムリミットになれば、屍は拾われる事だろう。ステキな行動値マイナスと共に。チャレンジは華である。合掌。
はちどりさんチームに共通する衣装はバンダナ。
「変に凝った衣装よりも、シンプルな装いのほうが美しいですよね」
ドッグが仲間達を見回す。
腕にはバンダナ。結び方が綺麗に重なり、はちどりをイメージしているようだ。そして、はちどりの羽を思い出させるようにと、赤や青などの色の羽が、各人好きな色が付けられている。
「泥濘かよ、コケて泥だらけになるのは嫌だしなぁ‥‥」
「ぶつぶつ言わないっ!」
アサリの育つ泥濘の海岸が近付くと、クロスフィールドは渋面を作った。その顔を見て、クロスエリアは、ひとつ息を吐くと、えいとばかりに、腕を取る。付き合ってくれているのだから、そこそこやる気はあるのだろうと、にこりと笑い。
「兵舎ハミングバードと有志による、はちどりさんチームの実力を見せてあげようじゃない?」
良い笑顔で羽矢子が仲間達を鼓舞し。スタートの声がかかると同時に飛び出して行く。
6名の最大チームである。
「わぁい海☆ ティムちゃん可愛い☆ にゃおーん♪」
「おじさまもぷりてぃーっ!」
何かピンクの小花を散らした会話をしているのは慈海。ねこさんチームのお面に針金で髭をトッピング。
「日本海? 太平洋?」
「それは重要機密ですのっ!」
「まーいいかあっ! 沖縄の海で癒されたいけど、ここも海だからーっ☆」
沖縄海人である慈海にとって波の音があればそれでオールオッケーなのだろう。
にぎやかな姿を眺め、くすりと笑い、叢雲が軽く肩を回す。
「体力強化に参加するのも久し振りですね」
「今回の体力強化も、強敵揃いのようで負けない様に頑張るのですよー!」
「真琴が居ればそれで万事OK。何も問題は無い」
ふくふくと笑う真琴に、もちろん競技は大事だがと付け加え、オリガが嬉しげに微笑む。
「男の子の三毛猫は縁起が良いんだよな」
ユーリがこくりと頷いた。
新チームである、ねこさんチーム5名は、猫耳フードのついたポンチョである。パーカーかと思っていた叢雲だったが、ユーリがちゃんと申請を修正していた。衣装を用意する撮影班衣装部は、事前に申請されたメモと照らし合わせ、パーカーからポンチョには変更したが、色は本人の希望でと頷き合っていた。
そして、首には鈴付きのチョーカー。足元は猫足長靴やらビーチサンダルやら。一目で同チームとわかる衣装であった。
参加人数5名。プラスされる職員1名。
「けけけけけー!」
何時もの雄叫びが響き渡る。NAMELESSだ。
「戦いはいつも無情だ私はただ、平和と平穏を愛し静かな時間を好むのだが――青き海と空が、悲しんでいる、な。おっと、外してはいけない、な」
「あ! ごめんなさいですっ!」
お面を被る被らないは、体力強化では実に重要ポイントのひとつである。何故お面。深く追求してはいけない。そういうものなのだ。ヨグは、漆黒のボルサリーノの上にお面をつけているUNKNOWNに、すぽっと被される。セーフ。
「えと、えと、同じチームにアンノウンさんとかナナシさんとか猛者?がいらっしゃるのでなんとかなるですっ!」
こくこくと頷くヨグ。
着ぐるみの野獣と、美女のセットを用意しようと思っていたが、それはあるからと止められる。人数分を持ち、移動するのは、おもいっきり無理がある。
「僕としては、詩貴さんに美女をやって欲しいんですー。ティムさんもきっとそう思うですっ!」
何処の情報か、確信めいた言葉にこくりと頷くヨグだった。
「ゴスロリちっくな黒いドレスを頼んであるが」
微妙に意見がずれているのは気のせいだろうか。何時ものらいおんさんチームの特徴であるかもしれない。
参加人数4名。プラスされる職員2名。男性である。
同じく参加人数4名。プラス職員2名なのは、きりんさんチームだ。
「さあ、思いっきり体力強化という事でチーム戦で潮干狩りよね。頑張りましょうね」
アジア・エイドの寄付を兼ねている。これは頑張りがいがあると腕をぶんぶんと回すのは悠季だ。そうして、ちらりと見やる視線の先には、UNKNOWN。
(「何時もの様に、出し抜けなんか喰らわないんだからね」)
ついふんぞり返ってしまったのを、UNKNOWNもちらりと見てくすりと笑い。
フィルトはやれやれと苦笑する。絶対に何かやってくる。それは予想とか想像の域を超えて、確信である。ジャッジマンであるティムや職員’Sに、是非参加者の撮影をと頼んでおいた。
「UNKNOWNさんへ日頃の恨みを晴らすべく勝負を仕掛けないとね」
「同じチームの方だろうか? 今日はどうぞ宜しく頼みます」
「あ、よろしくお願いします」
さてと、泥濘の海岸を眺めている仁へと、流叶が声をかける。きりんさんチームは仲良くキリン柄の水着だ。中にはキリンの尻尾付きの水着もあり、これまた遠目から良く見える。
「‥‥日は苦手なのだがな、‥‥まぁ、言っても仕方が無い、か。走るのは得意だが‥‥泥濘の上とはな。‥‥駆け抜けれるか?」
流叶が呟く。
そう、目の前には3Kmの泥濘が広がっているのだ。
「‥‥馬に蹴られたくはありませんけどね‥‥」
うさぎさんチームは最小の3名の参加となった。3人の職員’Sがプラスされる。それが吉と出るか、凶と出るか。それよりも、まず、あの桃色空間に慣れなければならないだろう。
くすりと笑う響は、微笑ましい事ではありますがと、口の中で呟いて。
その問題の桃色空間は。薙と暁である。
「暁さん‥‥楽しい思い出‥‥作って、帰りましょう、ね」
海は苦手だ。しかし、浅瀬でもある事だし、何より、暁が一緒ならば平気だ。すすすと近寄り、ほわんとした桃色空間を展開させる薙。
潮干狩りも楽しみだが、何よりも薙と一緒に出かけられるという事がとても嬉しい。暁は可愛い彼女に、負けず劣らず、ほわんとなった。上目使いの薙に、もうふにゃふにゃである。
「似合いますか?」
「もちろんさ薙さん!」
「暁さん‥‥」
「‥‥行きましょうか?」
その性格が幸いした。響は表情に出さずに、優雅に職員’S含む世界を展開している桃色二人にも微笑んだ。
うさぎさんの衣装は黒うさぎ。上は半袖、タートルネック。下はショートパンツに尻尾付、黒モコうさぎグローブにブーツ。首には赤いチョーカー。極めつけは亀の形の籠である。
そして、怒涛の泥濘の疾走が始まった。
飛び出したのはクロスフィールドと羽矢子、UNKNOWN。それを追うように、暁が。僅かに遅れて、ヒノコ、詩貴が続き、後は混戦。出遅れたのは響とドッグ。ずぶずぶと埋まる足。
当然その順位は入れ替わる。すたたたと、薙とクロスエリアが躍り出る。悠季がその後を必死で追う。スタートで頭抜けた者達も混戦に加わった。
泥濘に足をとられつつ、実にお茶目に、うさぎ跳び風につま先立って進もうとする響。水筒に入れた水でこまめに補給する、悠季は、堅実な足取りだ。くすりと微笑んだフィルトは、総務課職員’Sの目を欺こうなど十万年早い事を後で知る。ごきげんな笑顔を浮かべ走っているのは慈海。足が海辺を懐かしむ。泥はねや混戦を避けるように、人の後ろは走らない。オリガが淡々と歩を進め。
はちどりさんチームの仲間を妨害する者はいないかと、ドッグは視線を走らせる。敵の多そうなUNKNOWNは、自身もそれを知っているのか、油断無く見渡すが、皆必死で先へと進み、あえてこの場で戦いが始まる事はなさそうだった。ひらひらとマントがはためく。
ずるりとコケた暁に、薙が瞬間足を返す。後ろが見えたような気きっと愛の力。
「暁さん! 大丈夫ですか? 怪我‥‥してませんか?」
顔が汚れていると、いそいそとハンカチを取り出したりして。おーい。競技の最中ですー。という声はきっと耳に入らない。しかし、そんなイチャラブを繰り広げたにしても、薙は早かった。
「‥‥ふむ」
参加者が怒涛のように走っていく様を、レンズに収めていたのはアルヴァイム。
防水カバーをしっかりとかけ、様々な場面をこれから収めるつもりである。静かな観察者の目が、ほんのわずか緩むのは、大事な人をレンズに収めたほんの一瞬。
そうして。
<第一競技結果発表>
1位>10点 赤崎羽矢子
2位>8点 紅月・焔
3位>5点 神無 詩貴
4〜10位>3点
百地・悠季 五十嵐 薙 ヨグ=ニグラス ユーリ・ヴェルトライゼン
クロスフィールド 皇 流叶 不知火真琴
11〜21位>1点
大泰司 慈海 オリガ 暁・N・リトヴァク クロスエリア UNKNOWN
NAMELESS 美環 響 叢雲 フィルト・リンク ヒノコ 辻村 仁
最下位>0点 ドッグ・ラブラード
●友よ、その手に握るのは
アジア・エイドにもかかる、重要な潮干狩りが始まった。
詩貴は、網を配布するついでに、こっそり貝を入れる網の袋の底に切れ込みを入れようとしていたが、職員’Sに阻止される。一応これはアジア支援だ。その目を逃れる事は出来ない。堂々たる妨害の末の戦いならばきっと見てみぬフリされたであろう。裏工作は阻止される事が非常に多い。しかし、やってしまうのはきっとそこに浪漫があるから。
詩貴はそれならばと、七輪を借りて、取れたばかりのバカガイなどを焼き始める。
「ティムさんどうぞ」
「?! 競技中ですのっ!」
心は揺れまくりだったが、一応職員の身。誘惑には涎を拭きつつ乗らないのがお約束。
い〜い香りが漂って、参加者の腹の虫を突付く。
自身の身長より大きな鍬を持ち、耕しているのはヨグだ。荒縄を腰に巻きつけている。美女は回るものだと思っている。
これは何時か見たらいおん。
そのらいおんさんの仮装は何処かで見た。そう頷き合う職員’S。
まるで何処かのドーナツ屋のような髭をつけたライオンさんチーム。ひとり、UNKNOWNだけが作り物の被り物をしている。豪奢なライオンである。
「けけけけー。それ入れてなっ!」
NAMELESSは細かく、補充メンバーへの心配りも忘れない。感動に打ち震える職員’S。でも引くのはソリで、乗ってるのはUNKNOWNだったりする。微妙に食い違い、ヨグがくるくると、あーれーと回ってたりするのは、お祭りの山車のような光景だった。
互いに連絡を取り合い、密な行動をとっているのはうさぎさんチーム。
見つからないです、そうだね。そんな薙と暁の桃色空間に、徐々に耐性がついてきている響は邪魔になら無い様にと気を配り、大目に見つかりそうならば、声をかけ。全員が同じ場所同じポイント同じ掘り方で進むうさぎさんは、全てそこそこアサリの多い場所を見つけられ、かなりの収穫である。
シャッター音が各場所で響く。邪魔になら無い様にと、アルヴァイムがカメラを持って移動する。
「ん、あったあった‥‥。後、は‥‥と」
ごろごろと出てくるアサリを収穫しつつ、流叶は黙々とアサリ狩りに精を出す。浅く寄せては返す海を眺め、水の流れに気をつけてと、仲間達へと声をかける。
収穫したばかりの貝をさっと海水へくぐらせて、バケツや網にざくざくと仁は入れていく。きりんさんチームの収穫量もまずまずである。
「ふぅ‥‥、さて、残りものには福があるかな?」
5分ほど一服をしたクロスフィールドは、軽くシューティンググラスを上げると僅かに背を屈め、どっこいしょとばかりに皆から外れた場所を掘り進む。クロスエリアは、フットワーク軽く掘りまくっている。
悠季は、妨害が来るなら来いとばかりに、警戒をしていた。合金軍手は伊達じゃない。熊手に勝るとも劣らない活躍だ。
キリン模様のセパレート水着。頭には強い日差しを避ける為のココナツハット。
「来たら蹴り倒す」
足元はがっちりとジャングルブーツを履き、僅かに眉を顰めて、索敵も怠らない。が、遠くに派手なライオンさんの出し物を発見して、思わず手を止め、しばし凝視するが、首を横にフリフリ、アサリを堀まくりに戻るのだった。
「勝負‥‥つきますかね」
フィルトも、らいおんさん劇場を眺めて苦笑すると、アサリ掘りに戻る。
グラウンドをならす、巨大トンボを持ち込んだ焔だったが、それを引いて回る重さに半ば力尽きそうである。皮膚呼吸の限界時点で、撮影班の皆さんに金箔は落としてもらっていたが、微妙にダメージが蓄積されている。
「くくく‥‥貝とこの組み合わせ‥‥まさに故事【漁夫の利】‥‥勝機は我らにあり!」
それ違う。そんな突込みが何処かから聞こえてきそうだが、気にしてはいない。高らかに笑いながら、疲れた身体に鞭うって、トンボを引く。
「覚悟しやがれ、この貝やろうっ!」
とても気合は入っている。そのガスマスク取った方がきっと呼吸は楽。見ている人の半数はきっとそう思ってる。本人が楽しそうだから、無問題なのだろう。
「沢山いそうだね〜」
羽矢子は海水で取ったアサリを洗い、確認しつつ、どんどんと進んで行く。
「ホント、可愛いですよね〜」
うふふふという笑いが聞こえてきそうなドッグは、深くマテ貝やカガミ貝を狙って掘り進む。お目当ての貝を見つけると、実に幸せそうな顔をしている。マテ貝の顔出しの為に、塩持参。幸せに格闘する姿が競技終了まで見られる事となる。
「貝確保。これより援護に入ります」
大きいのは何処だろう。そう、ヒノコは大きい貝を探して回る。見つけると、ざくざくと掘り。しかし、大振りのが無ければ移動する。
「ホタテ〜♪ ホタテ〜♪ カニ〜♪ ウニ〜♪」
うん。海の仲間だね。でも、きっとそれは居ない。
望みは大きく、大物を探し回るヒノコであった。
マニアックに探し過ぎたのか。今ひとつ、収穫量は伸びなかったはちどりさんチームだった。
「量が多ければ重さも増えるさ!」
慈海がきらりんとばかりに掘り進む。貝を壊さないようにと注意しつつ、的確な場所を掘れば、大判小判がざっくざく。もとい。アサリがざっくざく出てくる。虎猫ポンチョが揺れる。
同じく、的確な場所を掘るのは叢雲だ。
「思った通り、ここは管理されていた浜のようですね」
ふっ。と笑うと、手際良くアサリを収穫して行く。軽くかき混ぜるように泥濘を掘れば、アサリらしき物体の山に当たる。波を待ち、アサリが浮かんだところを手早く回収。労力も少ない。
黒猫さんポンチョの後姿が微妙に可愛いのは伝えたほうが良いだろうか。
さらに同じく、真琴も大量に貝を発見していた。網も良いが、貝保護の為にバケツを利用し、傷の少ないようにと気を配る。白猫ポンチョがぱたぱたと移動する。ポンチョの中は、Tシャツとハーフパンツだ。猫の手に見立てた熊手が前後すると、まるで猫が、かしかしとかいているかのようで可愛い。
波が来たら、浅く掘った場所から浮かぶアサリを網目の袋で山のように収穫。
青灰色の猫ポンチョを身に着けているオリガは黙々とアサリを取る。
「綺麗な貝殻を見つけて意中の人に渡してキャッキャウフフなんてことよりとにかく今夜の晩飯です」
ふ。そんな笑みを浮かべて、ざくざくとアサリをとる。
「あさり‥‥酒蒸しが美味しいよな。いっぱい獲ろう、うん」
ユーリも手堅くアサリを掘って行く。やはり、ポイントはきちんと抑えている。三毛猫尻尾が、海水に浸されて、ゆらゆらと揺れている。
「これだとアサリ傷つかないよな‥‥どんだけ獲れるかなっと♪」
手にする熊手は竹製である。
ねこさんチーム大収穫。ちなみに、参加メンバー21人中1位は叢雲だった。
美術点は、揃いの衣装の割りに個性が出たねこさんチームへ。MVPは、細かな采配など、追加メンバーにまで配慮を忘れなかったNAMELESSへと送られる。
<第二競技結果発表>
1位>10点 ねこさんチーム 128Kg
2位>8点 うさぎさんチーム 124Kg
3位>5点 きりんさんチーム 117Kg
らいおんさんチーム 103Kg
はちどりさんチーム 99Kg
美術点>3点 ねこさんチーム
総合MVP点>2点 NAMELESS
●戦い済んで日が暮れて
別の戦いもあった。
こっそり勝負をかけていたフィルト、UNKNOWN、焔だ。アサリの収穫量勝負。
結果は、フィルトの勝ち。次点焔。最下位UNKNOWNである。
満面の笑顔でフィルトがにこにこと笑っている。激しく情熱的に掘りまくったが次点だった焔。勝つ事しか念頭に無かったUNKNOWN。個人勝負はそうだったが。
結果を見て羽矢子が笑っていた。
「勝敗は『所属チームの合計点が多い方』。UNKNOWNさんは一週間の禁煙。焔さんはマスク外し、メイド女装で宴会の給仕」
マスクはきっと命に関わるんだよ。焔がどうなったのかは神のみぞ知る。UNKNOWNが守ったかどうかも、UNKNOWNのみ知る事となる。
さあ、終れば後は楽しい宴会である。
ひんやりとした木肌の縁側。
海風が吹き込み、ハマボウの淡い黄色の花弁を揺らす。
次第に暮れていく夕日を見つつ、慈海は未だ帰れない沖縄を思うのか、しばし佇んで。
「はい」
白いハトが何羽も空へと解き放たれた。
響は、宴会準備が整うまで、手の開いた参加者へと手品を披露する。
うさぎさんチームで優勝することが目的だったのですがと、レインボーローズ片手に、ふっと笑い。
アサリはとても美味しかった。大きなアサリで、柔らかく、口に入れると沢山の海の香りが広がって。
「バター焼き、酒蒸し美味しいですね」
仁が嬉しそうに、ぱかっと口のあいたアサリをつつく。どきどきとしながら、日本酒を口にする。腰の強い深い味の酒に、目を丸くする。色々な貝は、網焼きだ。炭火が熾され、好き勝手に焼いて食べれるようになっている。
「どんどん作りますよ」
叢雲が、ここでも手際よく、次から次へとアサリを料理して行く。
バター焼き、酒蒸し、味噌汁、ボンゴレビアンコ。一通り参加者に行き渡る量を作ると、馴染みの顔がたまっている場所へと自分の皿を持って顔を出す。
「今日はお疲れ様でした。ご一緒しても良いですか?」
「もちろんです」
オリガが片手を上げて、席を空ける。
「お邪魔のようなら退散しますが?」
「とんでもありません。大歓迎です」
真琴の側で、にこにことしているオリガに叢雲も笑みを作る。
女の子同士は何時もにぎやかだ。
「ティムさんちょっと振りなのですーv」
「はいーv ちょっと振りですのーv」
「幸せー☆」
撮影班衣装部に挨拶をしてきた真琴は、オリガとティムとにこにことお酒を酌み交わしている。その合間に挟まって、慈海が幸せの一時を満喫している。姐さん。姐さん。と、わらわらっとオリガの背後霊のように総務課’Sがたかっているのも何時もの風景で。
「満足、満足」
ユーリは酒蒸しに舌鼓を打った後、材料を確かめるとスコーンを作り始める。
宴会後には飛ぶように売れる事だろう。
「ま、なんだかんだあったが、うまい酒が飲めるだけ参加したかいがあったな」
アサリで一杯やりつつ、クロスフィールドは騒然とした一日を振り返り、これもまた良しとばかりに日本酒をあおり。
「バター焼き! バター焼きっ!」
ほくほくとバター焼きを口にして、羽矢子は一息をつく。アサリのバター焼きはどうしてこう後を引くのだろう。ほんの数滴垂らした醤油がまた香ばしさを引き立てて。
「ご飯炊けましたっ!」
ドッグは飯ごうで美味しいオコゲのご飯を炊いている。その合間に、こまごまと皿の配布や洗いものなど、せわしなく立ち働いて。
「海老も、イカも、サザエもある、よ」
UNKNOWNが差し入れられた海鮮をバーベキューにして次々焼いている。
「どうだ?」
「ふむ、いただこう」
詩貴は、UNKNOWNを驚かせようとスピリタスを手渡すが、ビリリと辛いぐらいで、さして驚く姿も無く。内心がどうであったかは、聞かなくてはわからないが。
「んと、ティムさん何か作ってくれるのかな?」
皿を持ってきょろきょろとするヨグだったが、仲間達の作った食べ物でそろそろおなかも一杯かもしれない。
「けーけけけけけー!」
とにかく、飲む。食べる。そして叫ぶ。NAMELESSは楽しげに仲間達の合間を周り。
宴会もたけなわ。そっと場を外す者も居る。
仲間達の喧騒を聞きながら、オリガはぶらりと浜へと足を伸ばす。懐く総務課’Sは全て潰れている。
良い夜風だった。
「楽しかった‥‥です‥‥暁さんと、一緒だったから‥‥」
「うん、薙さん」
そっと手を出す薙を暁が抱き寄せて。海から上がり、さっぱりとした二人を撫ぜて行く。
「楽しかった」
「良かった」
アサリの味噌汁で一息つきつつ、悠季はアルヴァイムにもたれて笑う。アルヴァイムはもたれてくるままに、なにくれと無く悠季の世話を焼く。
一日中、シャッターを切っていた。表彰台のねこさんチームや、惜しくも破れたチームの面々、細かなスナップは数限り無い。丁寧に揃えられた資料として、総務課は謝意と共に譲り受ける事となる。好プレー、珍プレーの数々が、楽しい思い出として記録された。
<総合結果()内、武器装備、覚醒、チーム未表記、お面付け忘れペナルティ>
1位>23点 ねこさんチーム(△0)
2位>17点 はちどりさんチーム(△6)
3位>14点 きりんさんチーム (△1)
4位>13点 うさぎさんチーム(△3)
5位>12点 らいおんさんチーム(△2)
新チームながら、体力強化に慣れた面々の集まったねこさんチームの勝利となった。
粗品ですがと、ロッタ特製花火が手渡され。
参加者全員に、麦藁帽子とアジア・エイドの青いリボンが配られた。
大量のアサリを売りさばいた資金は、そのままアジア支援に回されたのだった。