タイトル:【ODNK】惑う声再びマスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/12 18:57

●オープニング本文


「何だ‥‥あれ‥‥」
 かつて、バグアに占領された地域で、『玄界灘一本釣りクラブ』という名の、釣り仲間を装った反バグア組織を纏めていた、三山宗治が、ULTへと依頼を持ち込んだのは、12月も終わりにさしかかろうかという時期。
 きな臭い話は意外とすぐに流れるものである。バグアが密かに奪還された地域を再奪還すべく動いているという噂話は、ある程度の確信を持って話される話になっている。
 解放区となった壱岐、対馬。
 その間の海域では、今も『玄界灘一本釣りクラブ』が哨戒を兼ねた釣り船を出している。
「う‥‥わっ!」
 耳障りな音。
 それは、歌のようであり、そうで無いようでもあり。
 飛沫を上げて浮かび上がるのは、伝説の人魚。
 ──人魚の姿のキメラ。
 ぬばたまの髪。白い肌。深い緑の鱗持ち、耳には緑のヒレのような突起が伸びる。
 次々に顔を出す、そのキメラにより動きが鈍った男は、無線をONにする。
「人魚‥‥キメラ‥‥がっ‥‥うわあああっっ!!」
 その先の声は、無線から聞こえてくる事は無かった。
 
「1日で3艘沈んだ。出てた船全滅じゃ‥‥戻らなかったのは6人。皆、それなりの覚悟を持った仲間じゃった」
 三山は、深い溜息を吐く。
「船は出す。能力者さんなら動かすに不都合は無いはずじゃ‥‥」
 くれぐれも、索敵は怠らないで欲しいと、三山は続けた。船を出せなくなって数日が経っている。
 レーダーのあまり利かないこの地域では目視が一番信頼出来る。
「開放されたっちゅうても、目の前にはまだバグア軍が居るんじゃからな」
 やれやれと言った風に、三山は首を横に振った。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
オリガ(ga4562
22歳・♀・SN
榊 紫苑(ga8258
28歳・♂・DF
辻村 仁(ga9676
20歳・♂・AA
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
吾妻・コウ(gb4331
19歳・♂・FC

●リプレイ本文

●惑う海
 何処となくざわついている港から、船を2艘借り受けて、能力者達は、静かなはずの海へと乗り出した。
 囮を勤める先行する釣り船『うみねこ』の操舵を受け持つホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は、僅かに目を眇める。海図に記されたのは、連絡を絶った船の位置。すなわち、沈んだと見られる位置である。
 淡々と告げる三山に、ホアキンも特に何を言うでもなく、ひとつづ頷いていく。
(「再び現れた理由‥‥」)
 人魚キメラは、以前にも壱岐海域に出現している。その時は、HWと共に現れたのだが。それ以来、人魚キメラ‥‥海域にキメラの影はめったに見るものでは無くなっていたようだ。
 冷たい海風が、『うみねこ』に吹きつける。
「‥‥再侵攻の前触れかな?」
 漁船のレーダーは、目視の範囲しかその役目を果たさないし、海中には効果が無い。海中ソナーがあれば、海中からの接近もわからないわけでは無いが、そこまでの装備は無かった。頼みの綱は魚群探知機だが、そもそも、一匹二匹の魚を確認するものでは無い。
 解放されたといっても、福岡バグアは、先の戦いから守りを強固にしている。ジャミングは日常のもののようであり、双眼鏡を手にする。
「海を綺麗にお掃除しましょうか♪」
『玄界灘一本釣りクラブ』に、夏に面識の在る大泰司 慈海(ga0173)は、暗い話しを吹き払うかのように笑顔で三山に話しかけていた。帰ってきたら、刺身と地酒で一杯やりましょうと約束をとりつけていた。
 キメラだけど。そう思いつつ、慈海は人魚キメラを思い浮かべる。
「‥‥人魚って、いろっぽいのかなぁ〜?」 
「人魚ですか? 見た目のわりに、やっかいのような気が、します」
 その呟きに返すとも返さないとも言えぬ口振りで、榊 紫苑(ga8258)がひとり頷く。
 水中から上がってくる事は無いと思いますがと、小首を傾げるが、出会ってみなければわからない。
「そろそろ、海域ですか?」
 紫苑が呟き、耳栓をつけ、ひとり心中で呟く。
(「無いより、まし程度の可能性です」)
 人魚キメラの能力がどれほどのものかと考えるのだ。
(「来た」)
 ホアキンの手が上がる。その手には、磔刑の釘痕のような痣が赤く光り、滲んで見える。覚醒だ。
 簡単なハンドサインと、後続の船へ連絡するための手旗信号は、打ち合わせてある。万が一のシグナルミラーの合図もきちんと打ち合わせが出来ていた。
 魚群探知機が反応を示す。確実ではないが、何か大きな影が近付いてきているのが、赤い幅となって画面に現れる。キメラと聞かされていなければ、ただの魚と思うような影だ。そして、その影は、近い。
(「潜りましょうか」)
(「よろしく」)
 ダイビング装備に身を包んだ、辻村 仁(ga9676)が、吾妻・コウ(gb4331)と頷き合い、海中へと飛び込む為、船の縁へと移動する。
「気をつけてね〜☆」
 ほんのりと酔ったように肌が赤みを帯びる慈海は、飛び込む2人に、練成超強化をかける。耳栓で聞こえては居ないが、その配慮に仁とコウは飛び込み様に小さく頷いていった。
(「浮かんで来ないね‥‥」)
 波は、仁とコウが飛び込んだ揺れを、すぐに消し去り、何事も無いような水面を作っている。海中には、キメラが確認されているというのにだ。
 慈海は慎重に波の変化を読み取ろうと海面を見ている。
 ホアキンも僅かに眉を顰めつつ、魚群探知機と双眼鏡とで、周辺の警戒を怠らない。
(「役立たずになっていたら、申し訳ないですね」)
 周辺を索敵するホアキンと慈海の間を陣取り、2人の動向に注意する紫苑は、船上に万が一キメラが上がって来る事を想定して、日本刀天照の柄を握り込む。
 
 キメラ出現の知らせは、遠くに待機する、追撃船『はまゆう』へと送られるが、追撃船の魚群探知機にはまだ陰も形も無い。
「‥‥接近します‥‥耳栓の準備が必要ですね‥‥」
 操舵を勤める、終夜・無月(ga3084)が、船を動かしはじめる。エンジン音が、海上へと響いて行く。
 耳栓の上にヘッドフォンをつけるのはアンジェラ・ディック(gb3967)。因果関係がはっきりせず、申請もされなかった為、ヘッドフォンは持参したアンジェラのみがつける事になる。
 表情を変えずに、アンジェラはアサルトライフルを片手に、前方の囮船を眺めて、貫通弾を装備する。金属の音が軽く響いた。
「コールサイン『Dame Angel』、ミッション開始」
 冷たい風が、船上の女性2人に吹き付けた。オリガ(ga4562)は、思った通り、風が強いなと、揺れる船の上でスナイパーライフルを抱え込む。
「浮かんできた所を狙い撃ち‥‥出来たら良いですね。一度の攻撃でそれなりのダメージを与えないと、面倒な事になりそうですし」
「そうね」
 狙撃手の女性達は頷き合い、油断無く前方を眺める。
「皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥‥」
 無月がつぶやく。

 人魚キメラの速度を、魚群探知機で確認しつつ、ホアキンはぎりぎりの速度で、船を動かす。
 『うみねこ』の後ろから、コウと、仁は、離れないように海中を泳ぐ。
 しかし、中々追いつけない『うみねこ』に、人魚キメラは、必死で追ってくるようだが、水面に顔を出す事は無かった。
(「簡単に誘い出てはくれないという事か‥‥ならば」)
 ホアキンが、『うみねこ』を停船させた。
(「‥‥出て来ないと‥‥いう事ですね‥‥」)
 無月が、それを見て、『はまゆう』を停船させ、手にする武器で応戦仕様かどうか、しばし考える。
 月光のような金色の瞳が、冷静に状況を確認する。
(「魔創の弓で‥‥攻撃に参加する間も無い‥‥?」)
 ホアキンの動かす『うみねこ』は微細な動きを要求する。何時また動き出すかわからないのならば、操舵に専念するのが良いだろう。
「嫌な‥‥感じですね‥‥」
 釣っているのは、こちらだというのに、釣られているかのような嫌な感じも背に這い登る。
 魚群探知機を、ホアキンが静かに見据える。
(「これなら、どうかな?」)
 海中で迫る人魚キメラは、コウの試作型水中用拳銃『SPP−1P』の水弾に散開する。
 慣れない武器と、たゆたう上下の感覚の無い海中で、コウは出来る事を全力で行うつもりだった。ざあっと別れ際に、もう一度水弾を撃つが、当たらない。
(「高い壁を乗り越えていかなければ、追いつけませんからね」)
 目指す目標は遥か彼方。その場所を思い出し、僅かに、手に力が入る。しかし。
 海底、4方向に別れて動く人魚のどれに最初に的を絞ったら良いのか。
 海中の仁とコウは一瞬動きが止まる。
 船に近寄らないのならば、無理に追いかける事はしないようにと、ハンドサインで仁とコウは伝え合う。
 その間に、4方向に別れた人魚は、コウと仁が居ない方角から、漁船に迫り、船に取り付いた。
 一方向から船を狙うわけでは無い。
 ざばっと顔を上げる人魚は、ぬばたまの黒髪、白磁の表。切れ長の大きな目。あらわになった胸元は、何所までも白く。
 その白い胸に、紅い花が咲く。銃弾が打ち込まれたのだ。
 銃声が何発も響く。
 狙い違わず打ち込まれて入るが、その弾丸の衝撃で、人魚キメラがとりついた船体がぐらりと揺れる。
 ホアキンは、人魚の位置を確認しようと、魚群探知機を見るが、船体近くに寄られ過ぎ、はっきりとは確認出来ない。軽く舌打ちをすると、何所からとも無く、音が聞こえてくる。
 耳栓だけでは、打ち消せないが、直接響くタイプでは無いようである。
(「くそっ!」)
 首を強く振り、その束縛から逃れると、もう音は無い。
 船体にとりついていた人魚達の2体は、ぷかりと浮かんでおり、残り1体は、深手を負い、逃走を開始していたが、あの傷では何処まで持つか。慈海の虚実空間が展開されていた。

(「スキあらば‥‥」)
 コウは、銃と別に持っている試作型水中剣アロンダイトを確認する。
 その少し前、船体にとりついた人魚を追おうと、仁とコウは一番近い人魚へと向かっていた。散開しても、船を沈めるのならば、寄ってくるのだから、待てばいいのだ。
 青く暗い水中を泳ぐ。
(「ふぅ‥‥」)
 途中、潜りすぎてはいないか、ダイバーウオッチで、仁は時間を確認する。酸素ボンベはまだ十分にある。試作型水陸両用槍蛟を構える。その背後から、コウのSPP−1Pが、3発目の水弾を人魚キメラへと撃ち込めば、それは僅かにうねる人魚の尾に当たり。水中へ潜って逃げようとする人魚に向かい、仁の槍が突き刺さる。
(「くっ!」)
 気泡がふたりの周りから海面へと伝って行く。
 ざばりと水飛沫を上げて船上へと上がった人魚1体を、紫苑が天照で屠っていた。
「まずいな? 避けやがる。これは、やりづらいな」
 紫苑はあと1体、人魚が顔を引っ込めた海面を睨む。丁度居る場所に顔を出してもらわなくては、船の上を移動しなくてはならず、全体を眺めて居ない為、どうしても後手に回る。穏やかな微笑みは既に無く、酷薄な青い瞳が、漆黒の髪に縁取られて、冷たい言葉を言い放つ。
 追撃船のアンジェラとオリガの銃弾は、狙い違わず、人魚キメラを屠っていた。
「あと何匹かしら」
「待ってもいられませんし」
 耳栓をしたまま、2人は呟き、頷きあう。 
 追撃船に、ターゲットが変わった場合、引き合い、その中心に人魚キメラを誘い込む打ち合わせは万全だった。
 だが、人魚キメラが本格的に逃走した場合は?
「援護するよ〜っ!」
 やはり、声を振り払うように頭を振った慈海が、超機械ζで電磁波を発生させる。だが、それは海中何所まで届いただろうか。
(「私も海中へと潜ったほうが良いでしょうか」)
 オリガは銃を抱えて、海中へと飛び込もうかと考える。とろりとした水銀のような右目を中心に、楔形の文字が絡みつくように肌に浮き上がっている。
 だが。と、少し首を傾げる。また、顔を出す可能性もある。
(「こっちへ来ている風でも無い?」)
 アンジェラと視線を合わせた無月が、首を横に振り、人魚が逃げた方向を指差す。
 ホアキンは、巧みに船を動かして、人魚が寄って来易いようにと動くが、人魚キメラが寄ってくる気配が無い。オリガの推測通り、一度に全ての人魚に深手を負わせなければならなかったのだ。
 一般人の攻撃で、キメラは余程の事が無ければ、傷つかない。その、ロストを確認する手はずのある相手が、背後にいるのならば、釣り船に居るのは能力者だと簡単に推測出来るはずである。
 こちらが索敵哨戒をしているのと同じように、バグア軍も索敵哨戒の為に人魚キメラを出しているとしたら。
「‥‥何‥‥これはっ!」
 無月が思わず声を上げる。
(「何っ!」)
 同時に、魚群探知機に視線を戻していた、ホアキンは息を呑む。
 その危険を想像する余地はあった。

●バグア軍迫る
 人魚の逃走した方角の水面がごぼりと泡立ち。
「まずい」
 HWと、無数のキメラ。
 遠目に見えるそれは、逃走するには、ぎりぎりの距離だと解る。
「うっそー。一軍が居るって事なのっ?」
 慈海が叫ぶ。
 衝撃が、バグア軍に僅かに近かった『うみねこ』を襲う。
 とっさに舵を切ったホアキンのおかげで、ミサイルは船尾を掠めて海中へと沈んでいき、爆発する。その爆発は、海中の仁とコウを巻き込み吹き飛ばし、『うみねこ』に乗っているホアキンと慈海、紫苑にもダメージを与える。
「練成治療は任せておいてよ〜っ!」
「船を沈めた敵は、人魚だけではなかったと言う事だな」
 ホアキンは、船首を返し、全速力で、逃走を開始する。人魚キメラ以外の敵遭遇時に、海中の2人はとっさの行動がとれないでいた。
 慈海と紫苑が引っ張り上げて、治療をするが、酷いダメージを受けている。

 海面をバウンドするかのように、舵を切る。無月が船足を上げる。
「こちらは‥‥大丈夫‥‥。逃げ切ります」 
「追い縋るのは、キメラだと思っていたけれど‥‥ね」
 敵増援、追撃の危険をアンジェラも想定していた。届きそうで届かない、キメラ達を牽制する意味で、あらん限りの銃弾を撃ち込み。
「水中の2人、大丈夫でしょうか」
 オリガが『うみねこ』を見れば、慈海から、大きな丸マークが返り、皆無事であると知れて、ひとつ息を吐く。
 バグア軍は、ある程度逃走すれば、それ以上は、踏み込んで来ないようだ。
 一線を越えれば、九州駐在UPC軍が出てくるからである。
 ぐったりとした仁が唇を噛む。
「何が足らなかったかな」
 海中は、四方八方、広いフィールドになる。相手のテリトリーといっても言い。予測のつかない攻撃や、もし重体になった場合、万が一の逃走方法が必要であるのかもしれない。
「でも、バグア軍‥‥確認出来ましたね」
 コウが息を吐いて、首を横に振る。危険の度合いを軽視したつもりは無かったが。目指す高みを思い、次こそはと心に誓う。
「皆さん、お疲れ様でした。さすがに、今回は手こずりましたね?」
 小さく溜息を吐く紫苑は、海で命を落とした人の無念を晴らす一端になれただろうかと、振り返る。願わくば、安らかな眠りが訪れますようとも思うが、どうやら、その願いは少し先になるようだ。
 ふと見れば、港に黒煙が上がっている。
 慈海が渋面を作る。
「三山さん達はっ?!」
 どうやら、もう沈静化しているようだが、ひと揉めあったようだ。
 九州UPC軍の小型哨戒船が近寄ってくる。
『出てきた港に戻るのは、危険です。バグア再侵攻に呼応するように、親バグア派が、活発化してきています。どうぞこちらへ移って下さい』
 2艘の船はまだ動く。しかし、急いでこの海域を離れなくてはいけなくなったようだ。
 九州戦線が再び活発化しはじめたのだった。
 
 ──壱岐対馬間にバグア軍来襲。

 その報は速やかに、九州UPC軍へともたらされた。
 東アジア軍中将。椿・治三郎以下幕僚達は、その報に眉を寄せた。