●リプレイ本文
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雪原を、ソリが村へと走って来る。
その道すがらには、村人達が観戦し、手を振りながら、能力者達を応援中だ。
「ヘイヘイホー。がおーがおー!」
「らいおんさんは木〜を〜切る〜がおがお〜がおがお〜」
らいおんさんチームのソリが走る。わはわはと、楽しげに木を切り出したヨグ=ニグラス(
gb1949)と、準備運動をしっかりしたはずなのにと、当たる風に僅かに身体を強張らせるエレナ・クルック(
ga4247)が手綱をとる。トナカイと触れあったエレナは子らいおんとしてがんばりますと心に誓い。
トナカイの名前を聞き込んで応援しながらは、きりんさんチーム。坂道、急カーブなどの落とし所を心得る大泰司 慈海(
ga0173)と、体力強化を楽しみにしていたレーゲン・シュナイダー(
ga4458)が微笑む。きりんさんは、ソリ上の防寒がどのチームよりも際立ってしっかりとされている。
「‥‥ほーほーほー♪ といってみたくなるね」
ソリに弾かれて雪が舞う。暁・N・リトヴァク(
ga6931)も、手綱を操り、急カーブと坂道には十分に注意を払って。時折かさこそと包み紙が開かれるのは、チョコとキャンディ。甘い香りと色鮮やかな包み紙が白く冷たい時間を柔らかくする。そっと全員に手渡して。
「落とさないように‥‥気をつけないと、ね‥‥」
最近KVに乗ることの多かったラシード・アル・ラハル(
ga6190)は体力強化と記された通り、身体を動かしにやって来たのだが、常とは違うメニューに、こういうのも楽しいかもと、僅かに笑みを浮かべる。
最初はほぼ同着。共に70cmのもみの木が並ぶ。ここからが各チームの見せ所だった。その差は僅か。
うみょんとのこぎりを曲げて叩いて、休息中に演奏をする空閑 ハバキ(
ga5172)は、低いもみの木を切り出して固まった腰をさすりつつ笑みを浮かべ。
きらんというほど研ぎ上げられた斧でがんばる、なつき(
ga5710)は、真白き世界にほくりと微笑む。
「甘いお茶飲みましょうっ!」
クリスマスソングを始終楽しく歌いながらもみの木を切り出していたクラウディア・マリウス(
ga6559)が、満面の笑顔でがんばる仲間達に手を振って。
レース後は、エレナがよしよしとトナカイに餌を与えて、その労を労った。
らいおんさんチームは超快調だった。
開始前に現場までの雪を踏み固めるという、地道で体力のいる作業をこなした叢雲(
ga2494)が、騒然として来た仲間達を眺めて、くすりと笑う。
(「‥‥相変わらずですね」)
「ん‥‥斧、重たい‥‥です」
ミニスカサンタ姿の五十嵐 薙(
ga0322)が、小さく溜息を吐く。黒タイツで足は見えないのだが、ミニは気になる。暁に恥ずかしげに似合うかと聞いた事を思い出す。
「体力作りの仕事とはいえ、はあはあはあ、こ、これはきついわ‥‥せめて覚醒できれば‥
初参戦の天羽・夕貴(
gb4285)は、依頼を見た時に、楽しげなイベントだと思った。しかし。
体力強化は地味に身体を酷使する。うさぎさんのお面をかぶり、サンタ服を着込んだまでは、とても。非常に。楽しかったのだ。いや、今も楽しいのだが。
うさぎさんチーム。僅かに及ばず。
大量のウォッカ等を、愛しげに持参しつつオリガ(
ga4562)は、口の端を上げ、一夫多妻制ですと、僅かに斜に構えた笑みを浮かべる。
「クリスマスの恋人? はっ、私の恋人はお酒です」
汗対策までしっかりと組み込んだ不知火真琴(
ga7201)は、祭りの雰囲気に、にこにこ顔だ。村人の楽しそうな表情に、自分まで楽しくなってきている。
「暖かい飲み物で休憩しませんか」
辻村 仁(
ga9676)は、切り出しの合間に作ったホットドリンクを、仲間達に手渡していく。ゆらりと立ち上る白い湯気。硬くなった身体もゆるりとほぐれ。
きりんさんも追い上げるが。
<切り出しレース結果>
うさぎさん 5点
きりんさん 8点
らいおんさん 10点
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ツリーにぐるりと螺旋状の光りが灯る。
皆に楽しんでもらえると良いと思いつつ、薙は脚立の上で一生懸命頂上付近に白い雲をつけ、頂点には星をつけ。
最下部のオレンジ色の暖色系は、街の明かり。バランスを見ている暁は薙に飾りを手渡す。同じく叢雲は、仲間達の行動に食い違いが無いか気を配る。
小さな身体に重りは非常に堪える。ラシードは上手く重さを受け流しつつ、可愛らしい半ズボンサンタと化していた。長いブーツで何とかしのぐが隙間から入る寒さに身震いする。
夕貴は、下の飾りつけが狭くならないか気を配りつつ、重さに僅かに渋面を作る。
「クリスマスが終わる頃には、きっとムキムキになってるに違いないわね‥‥」
トナカイとソリを引くサンタがツリーの最下部から、最上部へと回って登って行く。
下から順番に光るイルミネーションは、贈り物を配り終わったのだろうか。
うさぎさんは、街から空に戻るサンタのツリーが完成する。
たっぷりとした白髭サンタの慈海は、正統派サンタ姿。僅かにスローな動きがまたらしい。重さ対策もしっかりと。
バームクーヘンのようにデコレーとした木の切り株。ブッシュドノエルのような木の切り株。座って楽しめるようにと、切り落とした木などを村から貰ってきている。
キュロットサンタさん。の可愛らしい女性陣が動く。ニーソでは出た部分が凍傷になるかもと言われ、肌色の厚手タイツを借り受けた。ツリー小物を作りつつ、レーゲンは重さでへたりそうになる内心を押し隠し、皆に笑顔を向ける。
「ちょっと待っててね」
近くに寄ってくる子供達に、仁はひとりひとり丁寧に相手をして、返しつつ、仲間の細かい手伝いをする。何しろ、楽しい音楽がここからは流れていた。
木の根元から流れるのはクリスマスソング。それに合わせて下から白、蒼、緑、黄、橙、赤の電飾が点灯する。沢山のオーナメントに、手作りのジンジャークッキー。正統派のツリーだ。
ちょっぴり違うのは、オリガが含み笑いつつ星の首飾りをぶら下げた。防水対策万全の、きりんさんの顔したペーパークラフトを頂上のお星様の上に被せ、そのきりんさんの目は電球でピカリと光ったりする。
きりんさんが出迎える正統派ツリーが完成した。
重さに、軽く溜息を吐くなつきは、ふと何となく、ヤドリギの腕輪をツリーに括りつけた。
エレナは脚立の上で、わたわたとツリーや脚立にしがみつく。何しろ重さが半端ない。
下のほうを手伝っていたクラウディアが上を見て、大丈夫? と声をかける。
状況を確認しに来るティムに気がつき、ふんふん♪ と楽しげな鼻歌を歌っていたヨグが、押し戻す。
「あやや!? ティムさんまだ見ちゃ駄目ですよ? 飾りつけは総務課の皆様には秘密ですからねっ!」
ティムが頷く。ほぼ完成のツリーは、なんと以前の南瓜キメラが組み込まれたお話。きりんさん、うさぎさんの小さな人形も飾られ、競技でありつつ、仲間を意識した作りになっていた。
えへん。と、小さく咳払いすると、ヨグが流暢に説明を始めた。
「昔々ある所に平和な村があってカボチャの化物に襲われました。ティムさん達が頼み込んでヒーローがわんさかやってきました。ヒーロー達はカボチャの化物をフルボッコしました ヒーローは勝つですっ! カボチャは平謝りしながら森の奥に逃げていきました。めでたしめでたし。‥‥でも森の奥にはカボチャがいるです」
その後方では、何やら大技が計画されている。ティムさんだけ飛ばさないです。ハバキさんも飛ぶです。とヨグは笑顔を向けるその時。
「らいおんさーんハリケーンっっ」
小さな六花の飾りをツリーへと、フライングハバキとなって振りまく予定だったのだが、ばすん。という音と共に、雪の中に埋没する。
重りは競技最後までしっかりとついている。それで飛ぶのは無謀であった。ハバキの手からは、はらはらと。倒れる軌跡を描いて六花が空に舞い。その挑戦魂に、やんやの歓声が上がった。失敗も結果オーライである。
違った意味で人気も出た、らいおんさんであった。
音響効果抜群のきりんさんが高得点を叩き出し。美術点は僅差でうさぎさんへと。
<ツリー装飾結果>
うさぎさん 8点
きりんさん 10点
らいおんさん 5点
美術点 うさぎさん 3点
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2つの競技が終了すると、熱気は、穏やかなざわめきへと変わって行く。
夕闇は、七色の裾を引き。
瞬く間にやってきた夜には、雪雲が覆いはじめ。
はらり。
はらりと。
空から白い贈り物が降って来る。
「‥‥あっ」
色鮮やかな電飾に飾られた大きなツリー。
そして、村の入り口にある、仲間達とがんばった3本のツリーを見ていた仁は、手にしたクロカンブッシュをぱくりと食べる。とろりとしたカスタードクリームの中から、かちりと当たるものがあった。
何の変哲も無いシルバーリング。でも、雪降る中で見るそれは特別のような気もする。
同じく歓声を上げたのは、クラウディア。笑う慈海もどうやら当たったようだ。
美味しいと、なつきが僅かに目を見張れば、ラシードが甘さに頷きつつ、紅茶を入れる。
チョコレートのかかったシュー生地はさくりと程好い硬さ。リングが入っていたら、気になるあの人と、もっと仲良くなりたいと祈る気持ちだったが、エレナには、甘く優しい香りが残る。
大丈夫。きっと聖夜には祈りは届くからと、残念そうな顔をしているエレナに口々に村人達が優しい言葉をかける。灯の中で寄せられる言葉は優しい気持ちが沢山入っていて。
ひとつ頷き食べると、叢雲は、作った女性達から詳細なレシピを貰い、この日一番の嬉しそうな顔をする。
オリガは、ふたつめに手を伸ばそうとするが、おまじないは1個だけと。
姐さん。と、連呼するのは、総務課’Sである。妙な絆が出来上がっているようだ。
そこに現れた可愛い友人に目を細めて微笑む。
「じゃーん!」
「真琴、レグ‥‥ありがとうございます」
真琴が後ろ手に持ってきたのはブッシュドノエルの誕生日ケーキ。オリガの誕生日が近いからと、レーゲンと2人で作ったのだ。レーゲンが手を合わせて、満面の笑みを浮かべる。それは、瞬く間にオリガの胃袋へと美味しく収納されていく。
「オリガさんに喜んで貰えると嬉しいですv」
「皆さんにはプチ・ガトショが沢山ありますから、ぜひどうぞです」
レーゲンが沢山作った小さなチョコレートケーキが、仲間達に回る。オリガは、それも食べるのが当然とばかりに手を出し、レーゲンは嬉しそうに頷いて。
「こちらもどうぞ」
叢雲の重厚なブッシュドノエルも姿を現す。チョコの配分がきっと違う。
サンタ姿のまま、お菓子配りをしていた慈海が、これ美味しいよと、オリガに地酒を注ぎ、レーゲンや真琴のお菓子を幸せそうにつまむと、仲良しの子にそっとプレゼントを手渡した。真琴にリボン、レーゲンにエッグ、オリガにぬいぐるみ、ティムに羽飾り。思わぬプレゼントにそれぞれの感謝の声が上がり。
ハバキもティムへ、クリスマスの挨拶とぬいぐるみを手渡し、くしゃりと頭を撫ぜれば、満面の笑みと謝辞が返る。
「‥‥ステキな時間‥‥をありがとう、ございます」
ほんわりと和んでいる薙はティムを見つけて謝意を告げれば、こちらこそステキな時間をありがとうございますと笑顔が返されて。
撮影班を見つけ、お菓子を持って話しかけに走るのは真琴。誰もがステキな時間であるようにと気を配る。
小さな歓声が、村の一角で上がっている。
「次はあっちの黒いお兄さんが遊んでくれるって!」
ハバキが子供達を回し投げしているのだ。国籍関係無く、ぶんぶんまわされ放り投げられるのは、子供に取っては最高の遊びのひとつだ。指差す方向には叢雲が居る。歓声がそちらへと向かい走って行くのを、少し悪い笑みを浮かべて見送り。
「メリークリスマスっ」
ぱふんとハバキにタックルをするクラウディア。共に雪に転がれば、かまくらを作っているラシードが目を丸くする。先ほどは、子供達と雪合戦でもみくちゃになったばかりだ。雪球の痛さも初めて知った。
「‥‥それも、楽しそう‥‥」
えい。とばかりに、転がるのに混ざる。
冷たいけれど、とても楽しいのだと。冷たくて暖かい場所。
沢山遊べば、子供は寝る時間。
深夜近くまで、こっくりしつつ、綺麗なイルミネーションを見ていたクラウディアだったが、そろそろ瞼が重くなる。
「‥‥ブォン‥‥ナターレ。むにゃ‥‥」
テーブルに突っ伏した彼女は、ハバキに暖かなベッドに運ばれて。
「‥‥真っ白な世界‥‥いろんな色の光‥‥すごく、綺麗‥‥」
色々な場所を見れるのは傭兵の特権かもと考えつつラシードも毛布に包まれる。しかし、色々な景色を見るのには、戦いがつきものだという事へは思い至らないのか、それが常になっているのか。
静かな眠りへと誘うように雪が音も無く降り積もる。
「他のチームのツリーもすごいですね‥‥」
「うん。本当にねっ!」
当然のように、真琴は叢雲を連れてツリーを眺めて回る。白い世界に暖かな灯が灯るのは、何だかとても楽しい。
「ティムちゃんと銀世界を楽しむために参加したと言っても過言ではない!」
スノーマンのキャンドルホルダーに灯を灯す慈海に、おじさまは足長おじさまみたいですのと笑うティムと、切り株の椅子に仲良く座り。
暗い夜空から降ってくる白い雪。
(「全部‥‥隠してくれるような気がするから」)
あまり感情をあらわにしないなつきが、笑みを浮かべている事に、ハバキは自分も嬉しくなる。
「Merry Christmas」
ハバキはなつきにキャメル色したストールを羽織らせる。
「‥‥あ」
暖かな一枚は、暖かな心のようだ。
プレゼントまで気が回らなかったなつきは、嬉しさに、惑い。ツリーの下で背伸びをした。自らの内に閉じこもりがちな自分の傍に、ずっと居てくれると言ってくれた、その時の言い尽くせない気持ちを乗せて。
その、やわいプレゼントにハバキはしばし硬直する。
ふたりの頭上には、先に飾られていたヤドリギの腕輪がちかりと光り。その意味。
「こうすれば、さむくないでしょ?」
うー。寒いねと、暁は薙の後ろから耳元へ囁きながら、そっと抱しめる。手の中の温もりが確かに伝わって嬉しくなる。
「いつも、暁さん‥‥がそばに‥‥居るみたいで‥‥嬉しいんです」
薙は、暁から貰った指輪を何時も身につけていると感謝を告げて、するりと腕から抜け出すと、ほんのり色をつけた頬のまま暁を覗き込むが、つい下を向く。名前を呼ばれれば、少し決意して、顔を上げ。
「目を‥‥閉じて‥‥下さい」
背を伸ばして届くのは‥‥。
<総合得点>
・装備、お面未着ペナルティうさぎさん−3 きりんさん0 らいおんさん−1
・ツリー装備+点 うさぎさん2 きりんさん4 らいおんさん3
・MVP らいおんさん 空閑ハバキ
うさぎさん 15点
きりんさん 22点
らいおんさん 19点
次は節分辺りと声がして。