タイトル:【Gr】リスボン空戦マスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/05 21:33

●オープニング本文


「グラナダ飛ぶぞ」
 ズウィーク・デラード軍曹が、指し示すのは、グラナダ要塞。スペイン南部の山脈、シェラ・ネバダの北側一帯に位置する、その要塞の側面を突く。
 巨大要塞は、正確な規模は不明だが、数度に渡る偵察の結果、南北20km、東西100km程の広い地域に地下設備が点在し、それらをやはり地下の通路で結んでいると想定されている。
 その要塞を支援する為に、アフリカからの増援も着々と準備が進んでいるとの情報が入る。
「正面突破‥‥ってのも良いが、それは、外に任せて、俺達はひとつ、敵さんを驚かせてみようじゃないの」
 マドリードから大隊がグラナダを攻める。
 その、側面、リスボンから空域を確保する。
「わんさと飛んでくるわけよ」
 機械化キメラ、光学迷彩ワーム、キューブワーム。
 2機編成で飛んでくるという、ちらちらと見辛い光学迷彩ワームは、キューブワームとセットになってやってくる。キューブワームの陰に隠れて、不意に現れる。遠距離からでは確認しづらい。
 機械化キメラは装甲を付属したり、特殊改造がなされている。数こそは少ないが、種類は多岐に渡る。
「な〜んか、怪しい砲を作ってるみたいだしねえ」
 ムラセン山頂に設置された巨大砲は、未完成のようである。だが、放っておけば、さらなる脅威の上乗せになるだけだ。
 叩くなら、今。そう、上層部は決断したのだろう。
「俺達の仕事は、数減らす事。だ〜っと飛んで、打ち落とせるだけ打ち落として帰る。簡単だろ?」
 そうデラードは言い笑う。
 空域を嫌な影で埋め尽くすバグア。
 その数を減らす事が任務だと言う。デラードが言うと、簡単そうに聞こえるが、群がる敵機の中に向かうのだ。それなりに準備は必要である。
「少しは見通し良くしとかないとな。頼んだぜ?」
 デラード率いるスカイフォックスも同空域を飛ぶという。
「じゃ、行こうか?」
 ひらひらと片手を上げて、挨拶をしつつ、デラード軍曹は踵を返した。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
オリガ(ga4562
22歳・♀・SN
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
佐倉夜宵(ga6646
18歳・♀・ST
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
ジングルス・メル(gb1062
31歳・♂・GP
ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522
23歳・♂・SN

●リプレイ本文

 青い空に無数の黒点。
 それが全て敵である。
 広がる様は、帯のようで。
 反射で光るのは、キューブワーム──CWか、それとも、光化学迷彩を施したヘルメットワーム──HWか。
 高度があまりとれていないのは、機械化キメラ。
 不確定な動きが読み辛い。
 多い。
 それは、最初にデラード軍曹が告げた通りである。
 雲霞のような敵のさらに向こうには、アフリカ大陸がある。

 塗装弾。ペイント弾。呼び名は色々ある。
 それは、敵機に鮮やかな色をぶちまける事が出来る。
 一言告げてくれさえすれば、容易に準備可能な弾頭であったが、その申請をした者以外は、手に入れる事が出来なかった。
 用意周到な仲間は、ペイント弾を自前で仕込んでもいた。
『こちら、NIGHT−CHERRY−MARCH。じき、戦闘空域に入りまーす。リーダーなんて柄じゃありませんけどー、頑張りまーす』
 明るい声が響く。
 今回先に突入する6機編隊をを統括するのは佐倉夜宵(ga6646)。操る機体は、ES−008ウーフー。CWが多数飛び交う空域には、無くてはならない機体のひとつだ。
(いつまでも守られてばかりじゃいられない。私だって戦えるようにならなくちゃ。お姉やお兄、みんなを守れるくらいに)
 夜宵は、情報網小隊所属の電子戦機乗りである。彼女の元に広範囲の戦場の情報が集まり、彼女から、仲間達へと情報を発信する。要の場所だ。その為、前線を飛んでも、必ず彼女を護る護衛機の存在があった。
 けれども。今回は‥‥。戦いの熱を内に秘めて。
『よーし、行くよーっ』
『味方の為に少しでも敵の数を減らすのが、今回の作戦目的ですから、可能な限り暴れる事にしません?』
 EF−006ワイバーンを駆る、大泰司 慈海(ga0173)と、クラリッサ・メディスン(ga0853)が、真っ先に敵と遭遇する。青い機体が爆音を尾を引くように残して飛ぶ。
 慈海機から、G放電装置が放たれ、次いでUK−10AAMホーミングミサイルが。クラリッサ機からは、127mm2連装ロケット弾ランチャーが飛んで行き、爆発の火炎を咲かせる。
 破壊され、黒煙を上げて落ちて行くCWの影に、ちらりと光化学迷彩のHWの機影が浮かび上がる。
 クラリッサの言葉に、慈海が軽快に頷く。
『もちろんだよ☆』
『いえ‥‥そうでは無くて‥‥』
 彼女には一抹の懸念があった。
 今回の作戦の目的は、目の前に広がる、敵機の数を減らす事。その一事であったのだが。

『皆で華麗に空を舞うと致しましょう♪』
 ロジー・ビィ(ga1031)の明るい声がする。僚機である、不知火真琴(ga7201)は、ロジーの声に、しっかりと頷く。共に空を駆ける機体はXN−01改ナイチンゲールだ。
『敵数は膨大、ですが。ここでうちらが減らした分だけ、味方が楽になります。同じ戦域には軍曹さん達もいて下さいますし、頑張りましょう』
 戦闘の光りの飛び交う、空域へと2機のナイチンゲールから、真琴のスナイパーライフルRから銃弾が飛び、ロジーの3.2cm高分子レーザー砲が撃てるまで、CWに接近すれば、2機からガトリングが、けたたましい連続音と共に撃ち放たれる。
 それは、光化学迷彩のHWを、1機、また1機と青空に暴き出す。
「雷電君は私の夫。今日は暴れます」
 XF−08D雷電を駆る熊谷真帆(ga3826)は、2度に渡り、深刻なダメージを与えたが、復帰時に残るのは心に刻まれた傷。共に戦場を駆ける雷電を心の拠り所とし。
 ぐっと、機首を上げて、敵機の上を取ろうとする真帆だが、ロッテ──2機編隊の相方でもあり、全体の指示役でもある夜宵が、真帆へと声をかける。
『あまり、離れ過ぎないで下さいっ!』
『了解。でもね、基本戦術はすり鉢上の空域を大きな旋回と上下動の反復で、敵との高度差を拡大して、足元へ追い込む。ハイ・ヨーヨー戦法が私のスタイルよ』
 全機体で行うか、打ち合わせをしっかりとしていれば、それもまた、有効な戦術である事には違いなかったが。
 何の連携も無く、単機で別行動を取れば、それは集中砲火のターゲットになる。
 いくら雷電といえども、無数の敵にかかられては、たまらない。思ったような行動も取れない。
『熊谷さんっ! ‥‥っ!』
『!!』
 飛び交う敵機からの桜色の光り。そして、紫色の光りが戦闘空域に入った全機を襲う。
 早々に、真帆が被弾する。飛び続けられないほどの状態では無いのが救いか。
 僚機のフォローが得難い夜宵機も、防御は固めていたが、僅かに被弾する。
 鈍い振動がコクピットの夜宵を襲う。

 第1波の夜宵、朔夜、慈海、クラリッサ、ロジー、真琴の6機が雲霞の様な敵の中に突入したそのすぐ後に、次の6機が追い討ちをかけ、先に飛び込んだ6機のフォローも兼ねるように、波状攻撃を仕掛ける。
「‥‥1機でも多くの敵‥‥打ち落として、巨大砲‥‥破壊」
 防御力を際立たせたS−01を駆るセシリア・ディールス(ga0475)は、戦闘の光りを掻い潜りつつ、ぽつりと呟く。目の前に現れた敵が、目標だ。幸い、敵は数が多い。
 ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522)が、セシリアと共に機体を飛ばす。
 鋼の翼が陽の光りを受けて僅かに光を反射する。
(「巨大砲‥‥か」)
 仲間達は、行く気である。少しでも、後顧の憂いをなくす為。万が一を考えて、ハインは撤退ルートを割り出す。混戦になれば、撤退ルートは様々に変化する。その全てを算出することは難しいが、大よその道筋が見えればと思う。スナイパーライフルRの銃弾を近付くCWや機械化キメラへと打ち込む。
 ぐっと、接近すれば、セシリアの出番だ。
 ガトリングと3.2cm高分子レーザー砲が、不用意に目の前に現れた機械化キメラを吹き飛ばす。
 粉々になった破片が僅かにコクピットを叩いて後方へと落ちて行く。
 ぐっと敵機に迫れば、四方八方から、攻撃が飛ぶ。
『敵集団の中に突っ込んで蹴散らすだけ蹴散らして引き上げる‥‥デラード軍曹は軽く言ってくれたけど、なかなかハードね、これ』
 KA−01試作型エネルギー集積砲と、UK−10AAMで、遠距離の敵を威嚇攻撃し、R−01改で巧みに攻撃を避けて、敵機の中に突っ込んだリン=アスターナ(ga4615)は、群がる敵に苦笑する。どの戦場も楽な場所などは無いだろう。だが、確認出来るほど近くにデラード隊スカイフォックスが飛ぶとなれば、幾分か、楽なのかもしれないと思う。
『あちらさんも、必死という事でしょう』
 オリガ(ga4562)のXF−08D雷電から、リンの遠距離攻撃の合間をついて、スナイパーライフルRで確実に撃ち漏らしを屠る。仲間達が突っ切る為の空路が、一瞬、開く。
『マリアナならぬリスボンの七面鳥撃ち‥‥ってね。数が多くて鬱陶しいけど、よく狙わなくてもいいのは助かるわね‥‥!』
『まったくです』
 2機の通った後は、右に、左に、爆煙が上がる。
(「‥‥グラナダ要塞‥‥ね」)
 眼下に広がる山脈のほとんど全てが要塞化されつつあるという。リンは、幾多の任務を思い起こすが、飛び交う攻撃に顔を引き締める。
(「‥‥任務でKVに乗って空を飛ぶのは久しぶり。足手まといにならないようにしなくてはね」)
 無数の敵機光点。
 そして、光点以上に、視認出来る、青い空に染みのようについた敵機影に、ケイ・リヒャルト(ga0598)は微笑む。
「‥‥お掃除といきましょうか」
 84mm8連装ロケット弾ランチャーのロケット弾が、8本の軌跡を描いて、群がる敵へと吸い込まれ、幾つかの爆発を起こす。
「敵の位置情報とか、そんなレベルじゃねーな‥‥」
 離陸する前に、顔見知りとなったスカイフォックスの面々と挨拶を交わしたジングルス・メル(gb1062)が唸る。
 先に飛ぶ編隊の、後から飛ぶ6機編隊のリーダーとなった機体はH−114岩龍。
 レーダーを埋め尽くす光点。
 その中へと飛び込むのだから。
 敵機は、集中的に、岩龍とウーフーを狙う。その2機が戦いの要であると知れているのだ。
 真下から寄るCWや、機械化キメラをかわすと、思わず叫ぶ。
「だー!! 多すぎるっ!」
 目の前を、紫色の光りが過ぎる。
『ジグ。大丈夫?』
『おー。何とか、辿り着きたいよな!』
『そうね。少しは空くかしら』
 ジングルスは、巨大砲の位置を確認していた。
 仲間達の多くは、やはり、巨大砲の位置を気にして、その場所の特定をしては居た。
(「せめて一撃、くれてやりたいよなぁ‥‥」)
 もしも、向かう事になったならばと、思うのだが。

 次々と空域から落ちて行くCWにキメラ。
 迷彩HWも、ペイント弾で化粧されれば、難なく攻撃の的となる。
 しかし、それこそ、次から次へと空いた空域に飛び込んでくる、敵機影に、そろそろ疲労の色が見え始める。
 目前に迫るHWをかわし、慈海機とクラリッサ機は交互に軌跡を描き、ワイバーンを駆け抜けさせる。
『捕まらないよ〜』
 3.2cm高分子レーザー砲がちらちらと光るHWへと命中する。
 擦れ違い様に、ガトリング砲を打ち込んで。
『意外と、かくれんぼは下手でしたわね?』
 クラリッサが迷彩ワームを視界の端に入れながら、やはり、同じくレーザー砲を打ち込む。
 ワイバーン同士、機体を操る腕も同じ。
『囲まれそうだよ。ちょっと引き離すよ〜っ』
『了解』
 CWは、固まっている所を打ち落とされると、ジャミング効果を増す為なのか、わらわらと数の少ないほうへと寄って行き、新たな集団を形成する。それが、難でもあるが、逆にターゲットにはなり易い。
 寄って来る敵機の包囲を青い機体が、笑うかのように飛び去って行く。
『さあ、潰していきますわよッ!‥‥真琴、あの当たりじゃないかしら?』
 ロジーがころころと笑い、迷彩ワームの潜んでいそうな場所に当たりをつけて、レーザーを打ち込む。
『確かに。了解、了解ですよーっ!』
 真琴機からは、G放電が放たれ。ライフルの銃弾が飛んで行く。
『CW減ってきました』
 夜宵が声を上げつつ、真帆機へと近付こうとするが、機体操縦の腕が高い真帆は、アクロバティックな動きで移動していくのだ。
 何度目かの注意を真帆機に送る。
『孤立しちゃってまーす』
 夜宵のウーフーを中心に戦闘をする事を、仲間達が考えて居なかったら、真帆は間違いなく孤立する所だ。
「命中率と抵抗を格段に向上し、念願の高分子レーザー&ヘビーガドリング&スナイパーライフル劫火3点セットを実現!」
 僚機を置いて、多少の被弾はものともせずに、真帆はミサイル、レーザー、ライフル、ガトリング。もてる兵装全てを使い、楽しげに敵機の中を飛ぶが、それが出来るのは、仲間達が連携して、CWを撃ち落とし、敵の数を減らしたからこそである。

『‥‥ハインさん、大丈夫ですか‥‥?』
『地味に損傷が蓄積されて来てるみたいだが、まだ、大丈夫のはずだ』
『‥‥では‥‥行きます‥‥』
『ああ』
 ガトリングを撃ち込んで、敵機に迫るセシリア機。ハイン機を庇うように全面に出て、その隙に、ハイン機からライフル弾が飛び、暴かれた、迷彩HWには、ここぞとばかりに8式螺旋弾頭ミサイルが撃ち込まれる。
 綺麗な連携だ。
 しかし、じき、練力が尽きる。
『済まない。先に離脱する』
『‥‥そうね。私も』
 ハインが仲間達に連絡を入れる。
 セシリアが、ハインを庇うように飛び、牽制攻撃をしつつ、戦線を離脱する。
『リンさんには、向かわせませんよ』
 オリガの雷電が、目前のHWとリン機の間に割り入り、ガトリングを撃ち放てば、迷彩に色が付着する。
 その、オリガ機の背後から、滑る様に現れたリン機が、やはり、ガトリングをHWに撃ち込む。
 あまりにも数が多い。
『うわーっ。ごめん、俺もそろそろ、離脱する』
 ジングルスが、遠くに見える山腹を眺めて、舌打ちする。
 届かなかった。
 けれども、十分過ぎるほどの機械化キメラ、CW、迷彩HWを撃ち落とした。
『くさらないのよ、ジグ。戦場はここだけじゃないわ』
『んーっ。わかってるけど、一撃入れたかったなあ』
 機首を返し、ブーストをかけて、足早に離脱するジングルスに合わせて、ケイも戦線を離脱する。方向転換をした2機に飛んでくる機械化キメラを、邪魔ねとくすりと笑い、打ち落とし。
『ぶっ壊すのは、他の皆さんにお任せですねー』
 夜宵が笑う。
 あくまでも、巨大砲はおまけだ。
 敵機の光点が随分と消えている。最初は埋め尽くさんばかりだったのに。真琴が歓声を上げる。
『片っ端から落としましたから!』
『ホントね。随分綺麗』
 ロジーが見通しの良くなった空を見て笑う。
『大物に落とせなかったのが残念ですが』
 敵陣へと投下したフレア弾の爆発を見て、オリガは苦笑する。
 ほんの僅かの差で、仲間達は、次々に己が掲げる撤退ラインを割ることになる。ブーストをかけて、撤退するKVに、追いつける敵は少ない。
 随分と、見通しが良くなっている。
 スカイフォックスも、傭兵達と時を同じくし、次々に撤退を開始している。
「ズウィーク君達にお世話になることが無く、頑張れたね」
 慈海がにこにこと笑い。
「終るの‥‥ね」
 グラナダが。
 リンが僅かに目を細めた。
 ここまで撃ち落とせれば、これからの戦闘は楽になる。アフリカからの増援の帰結が気にかかるところだ。
 戦いは有利に進んでいた。

 ムラセン山は怒涛のような味方の攻撃により、やがて沈黙をし。
 プロトン砲を護るかのように現れたステアーもアフリカ方面へと後退をし。
 グラナダ作戦は、快勝する事となった。