タイトル:chase a rabbit foxマスター:いずみ風花

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 24 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/26 16:47

●オープニング本文


 デラードを見張り、探れ。
 依頼のコンソールパネルに、そんなミッションが立ち上がったのは、とある彼の非番の日を睨んだ、チーム、スカイフォックスの面々からだった。
 非番の日には何かと問題行動を起こしやすい。
 最近、幾分か大人しかったので、そろそろ、また何かやらかすんではないだろうかと、心配なのだ。
 スカイフォックス初期からの隊員達は、一癖も二癖もある。
「これ以上出入り禁止の店が増えるのは困る」
 みっちりと筋肉の付いた壮年の男、サジが太い眉を寄せて首を横に降る。
「綺麗な姉さん全てに粉かけられるのも困る」
 赤毛をオールバックに撫で付けた小柄な青年、ウィローが、俺が声かける前に軍曹に持ってかれるのはしゃくだと唸る。
「器物破損の請求書は要らん」
 銀縁眼鏡の痩身の男。アーサーが、深い溜息を吐く。
「今度何かやらかしたら始末書と格納庫磨きじゃ済まなさそうなんで、回避したい」
 中肉中背の実直そうな顔した智久が身を乗り出す。
 それで、具体的なご用件はと聞かれると。

 ターゲットを確認、追跡、万が一の事が起こる前に身柄確保。
 ターゲットは尾行に慣れており、身体能力も高い。現場にも精通しており、迂闊に近寄れば、目的を看破される。
 かつて、多くの君達の先輩諸氏が、ターゲットを追跡しようと試みた。
 だが、上手くいったという記録は残されていない。
 ターゲットの移動範囲は広い。
 じき、帰還する格納庫から、本部へ報告に向かった後は、様々な店に立ち寄るだろう。
 カフェテラス『しろうさぎ』。これは、夕方から日が落ちるまで時間繋ぎに居る事が多い。
 夜の店『+NO』もしくは、同じ夜の店『サヴァン』。
 『+NO』は、舞台のある踊り子の多い店である。『サヴァン』は、絨毯の厚みのある高級クラブ。ナイトドレスに身を固めた女性達が接客してくれる。どちらも、入店には身分証明書が必要であり、未成年は足を踏み入れる事が出来ない。
 夜を無事くぐり抜けられれば、兵舎内に戻っているだろう。
 昼近くまで動く事が無い場合と、朝も早くから出歩く場合がある。
 私服で移動する場所は、公園か図書館脇の街路樹の道だ。そこで昼を取った後は、行方を掴んだものは居ない。
 夜にはひょっこり兵舎に戻ってきて、私服のままバー『ラスト・ムーン』へと向かう。
 我々が合流するのは、この、バー『ラスト・ムーン』だ。アルコールさえ飲まなければ、未成年者も立ち入りは可能な店だ。
 この店では騒ぎを起こす事は無い。諸君らの探査はここで終了となる。

「デラードの見張りと探査。万が一の事があれば、事前に確保。‥‥ミッションだと思えば気合も入るだろう?」
 薄くアーサーが微笑むと、背後の面々が茶目っ気たっぷりに、楽し気に笑った。

●参加者一覧

/ 大泰司 慈海(ga0173) / 柚井 ソラ(ga0187) / ロジー・ビィ(ga1031) / 国谷 真彼(ga2331) / 叢雲(ga2494) / 曽谷 弓束(ga3390) / UNKNOWN(ga4276) / レーゲン・シュナイダー(ga4458) / オリガ(ga4562) / 神森 静(ga5165) / 空閑 ハバキ(ga5172) / 鐘依 透(ga6282) / アンドレアス・ラーセン(ga6523) / 九条院つばめ(ga6530) / 暁・N・リトヴァク(ga6931) / 不知火真琴(ga7201) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 桜塚杜 菊花(ga8970) / 神無月 るな(ga9580) / 辻村 仁(ga9676) / 鬼非鬼 つー(gb0847) / ジングルス・メル(gb1062) / 葬儀屋(gb1766) / 美環 響(gb2863

●リプレイ本文

●格納庫1日目
 ユーリは、ナイトフォーゲル──KVをモップを使い、ざっと流し、洗剤で泡立てたスポンジで、機首からゆっくりと丁寧に汚れを落としてた。
 本日、格納庫前で磨いているのは、ユーリとレーゲンだけである。
 R−01改のユーリと、S−01改のレーゲン。
「ヴィルフリート、綺麗きれいしましょうね〜♪」
「KVを磨こう、っていう企画じゃないの?」
「あは」
 デラード追い掛け隊。
 そんな言葉を聴き、見かけたら連絡すれば良いなら、協力しようかと素直に頷く。
「最新鋭のコ達は格好良いし、見ていてきゅんとするけれど。私はやっぱり自分のS−01が一番可愛いです。我が子のような愛しさすら感じますv」
「わかるわかる。機体能力の面等で、ディアブロに乗り替えたらどうかと時々言われるけど。ここまで手を入れてあると、愛着がね。それに‥‥この丸っこいコロンとしたシルエットが、結構気に入ってるんだよね」
 ですよねーっ! だよなー。
 そんな言葉が響き合い。KVを語りだしたら止まらない二人は、愛機を磨き上げつつ、延々と楽しくKV談義を繰り広げる事となる。

●至る『しろうさぎ』
「やぁ、デラード。ご帰還かい?」
 つーは、本部で依頼を探すフリをして、虎視眈々と獲物を待っていた。
 目的の相手、デラードが何時もの笑みを浮かべて歩いているのを呼び止める。
 積年の‥‥。恨みと言うか、何というか。一泡も二泡も吹かせてやりたい相手だ。
 数多くの依頼がモニタに映し出されている。それを横目に、自分の行きたい依頼を告げると、そりゃあまた物騒な依頼を選ぶものだと、苦笑される。
「たまには私の兵舎にも来な。酒ならいくらでも出すぞ」
「いいねぇ。時間があれば、寄らせてもらうよ」
 酒と聞き、相好を崩すデラードに、何だったら今から来て飲まないかと誘うが、これから報告書を提出し、その後は野暮用だからまたと、言われ。
(「まあ、上手くいくとは思わなかったが‥‥本番はこれからだな」)
 物騒な笑みを浮かべて、つーは体力温存の為、仮眠を取りに一端帰還する。
 手にスーパーの袋を下げて、叢雲は本部からのとある道を張り込んでいた。出来るだけさり気なく。デラードの予定は大よそ聞いている。ならば、通る道は推測出来る。ふらりと歩くデラードを視認すると、通りすがりを演じて近寄る。顔見知りの叢雲を見つけたデラードが軽く手を上げるのに挨拶を返し。
「これからどこに?」
「『しろうさぎ』で腹ごしらえ。その後は夜のネオンが俺を呼んでいるからな。行くか?」
「それは魅力的ですが、コレがありますし、またの機会に」
 スーパー袋を掲げて見せて、デラードと別れ、彼の姿が見えなくなると同時に、携帯を取り出した。
「──真琴?」
 標的は予定通り。
 そう情報を流すと、くすりと笑い、明日に備えて本部兵舎へと叢雲は帰還する。

 本部近くにあるカフェテラス『しろうさぎ』。その広いオープンテラスは、今日も多くの傭兵でにぎわっている。季節のスィーツが自慢の店だ。
 るなと響は、示し合わせて店内でデラードの動向を見張っていた。
「楽しいゲームのはじまりです」
 ミステリアスな雰囲気を漂わせて微笑む響は、ぱっと見、識別不能なダイナマイトな胸を作り上げていた。服装が清楚なだけに、とても目立つ。倣い覚えたコインマジックをテーブルで披露して、時間を潰す。
 響が頼んだのはチョコレートケーキにココアだ。甘い香りが立ち上る。
「ここで問題行動はしなさそうな気がするわね」
 穏やかな雰囲気漂う店内は、美味しいものを沢山食べて幸せになっている人が多い。るなは、まあ、万が一があるしと、こくりと頷く。
 縁にグリーンで細い帯が回り、その上に金彩模様がついている大皿の中心には、鶏肉の中に、生姜と葱が細かく刻んで、僅かに甘辛く味をつけた、もち米が詰められて表面がかりかりに焼き上げられた一品が3cmの厚みにスライスされて乗っている。新鮮なマッシュルームはバター醤油でソテーされて、ソースのように広がって。琥珀色のオニオンスープが暖かい。
「あ。来たみたい」
 るながさり気なく視線の端にデラードを確認した。

「ふぉおおおお‥‥」
 ジングルスは、柿のタルトと、みかんのプチゼリー、さつまいもの羊かん。さっぱりとしたバニラクリームが添えられた一皿を目の前にしていた。、
頂きますと、両手を合わせて金色のスプーンを差し入れて、幸せな甘さに相好を崩していたが、来店したデラードを発見し、ぶんぶんと手を振れば、軽く手を上げ返されて。
 別の席では、一通り食事を終え、透明なソーダの中に生の葡萄が落とされ、ほんのり葡萄味のジュースを飲み、やはりデザートの皿を前に嬉しげにしていたソラがいた。一緒にお茶の時間をとデラードに声をかければ、クラブサンドとデザートを頼んだデラードがソラのテーブルの一角を陣取る。
「ようお姫様」
「もう誕生日が来ちゃったんですよ」
 子供は女装もどんと来いと言っていたのを思い出して、ソラが首を傾げると、そりゃおめでとうと、祝わったデラードが意味深に笑う。
「何時までも‥‥子ども扱いされたいわけじゃないだろう?」
 男として。
 責任の一端を担う事の出来る、人として。ふと目線を落として、また顔を上げて、ソラはにこりと笑みを浮かべる。からりと、ソーダ水のグラスの氷が音を立て、葡萄がゆらりと揺れ。
「いつか‥‥一緒にお酒を飲みたいですね」
「なあに、すぐだ」
 そんな言葉に、ソラはまた笑みを深くした。

 静はゆっくりと鳥を切り分ける。もち米の食感と鳥皮のパリパリ感にひとつ頷き。
 顔見知りの人々の行動を穏やかな目線で追う。
「まあ、問題起こす前に捕まえられたら、良いんですが」
 捕獲ですかと、今回の依頼を思い返し、一筋縄では行かない気がしますと、くすりと呟く。
 連絡をしようかと思ったのだが、連絡をする当の本人が目の前を過ぎるので、まあ、良いかと、食後に薫り高い飲み口の爽やかな紅茶と、楕円の小さなクッキーをつまみ、ほろりと口の中でほどけたクッキーの口当たりに、穏やかな溜息を吐いた。
 昼は公園で済ませたユーリは、夕飯を取ろうと『しろうさぎ』を訪れる。
 KV磨き依頼かと思った依頼に集まっていた面々の一部が居るのを見て、なるほどと頷いて、メニューを眺め、お勧めの鳥料理を注文し。

 デラード追い掛け隊。この依頼内にひとつ組み上がっている部隊。その纏めを一手に引き受けている真琴は、叢雲からの連絡を受けて、何所と無く落ち着かな気に待っていた。
 食事を終えたデラードが出てくる所で声をかける。
「もし良ければ、うちも飲みにご一緒したいなー、なんて。軍曹さんが普段行ってるお店にも興味がありますし‥‥ダメ、でしょうか?」
「あー。今日は、お姉さんが横にはべってくれる店の気分なんだわ。真琴の誘いも捨てがたいが、明日なら、そこの奥の『ラスト・ムーン』に顔出してるから、都合が良かったら飲もうぜ?」
「了解です!」
 お姉さんが横にはべる店といえば。デラードを見送り、真琴はこくりとひとつ頷いて、猫が笑ったかのような笑みを浮かべた。

●夜の店そぞろ歩き
 ちょっとばかり。すこし、思い切り。テンションが上がっていたのは弓束だ。
 スカイフォックスの面々とデラードの話を聞いて、遊び心のある大人って素敵だと、何かスイッチが入った。
 夜の店で待ち伏せ。それはすんなりと決まった。追われ慣れているという人を追うのは無理だと判断したのだ。予定をざっと確認して導き出した行動である。
「一番危険なのは夜のお店やと思うし‥‥ええんです。何か漏れ聞こえるかもしれへんし、姿見えるだけでうちは嬉しいみたい、なんやし!」
 どの店で見張るのか、どの道筋で見張るのか。弓束はすっかりと失念していたが、夜の街をふらふらと歩いているジングルスに偶然と出くわした。志を同じくする(?)2人は、顔を見合わせるだけで何やら通じるものがあるようだ。
 追い掛け隊大隊長としては、部隊員の面倒を見るのは当然であろう。
 数の暴力という言葉が、脳裏を過ぎるが、どんな問題行動を起こすのかと、首をかしげる。
「‥‥ん?」
「どうしたんどす?」
「んー‥‥気のせいだったら良いんだけどさ」
 弓束は、ジングルスが誰かを見つけて渋面を作るのを見て、おやと思った。
 ジングルスの視線の先には。

 UNKNOWNは、早々にデラードを捕まえていた。飲みに行くなら共に行こうと言えば、ふたつ返事で頷かれ、肩を並べて夜のネオンの街へと繰り出す事となったのだ。女の子を連れて行くわけには行かないが、野郎は別という事である。
「――しかしデラード、もてているな? 色々な者が付いてきている」
「スカイフォックスの奴等だろ? 何時もの事だからな」
「それとは別に、だね」
「UNKNOWN?」
「酒の肴に‥‥」
 咥え煙草もそのままに。UNKNOWNがボルサリーノを片手で被り直し、漆黒のフロックコートから、もう片手で取り出したのは。
 小型自動小銃スコーピオン。
「やべ! 逃げるぞ」
「え? 軍曹はんが‥‥」
 早くと、ジングルスは、弓束を引っ掴み、走り出す。
 何、ペイント弾だと、止めようとするデラードに含み笑うと、無造作に発砲する。
 スカイフォックスの面々が慌てて飛び出せば、ひとつ、ふたつと軽く数えつつ、華やかな色合いのペイント弾が、花を咲かせ。
「ふっ‥‥いつまでも、そちらが狩る側と思わぬ方がいい」
 追っ手を巻いた路上で、UNKNOWNは満足気に笑みを浮かべた。
「大概、俺も無茶やるけどねえ」
 デラードが笑いつつ、肩を竦めるのに、たまには、な。と、UNKNOWNは笑い、ふと、僅かに真面目な顔になる。
 色々あるが、親バグアも、反バグアも、助けれたら良いと思う、よ。と。
 親も反も、全てバグアが居るからこそ生まれた垣根であり、バグアさえ居なければ反目する必要の無い人々だから。刻まれた諍いの歴史は残るが、本質を間違えてはいけないだろうと。思うのだ。
 まあな。との頷きを見て、何所か賑やかな場所で飲まないかと誘えば、行きたい場所があるからと肩を竦められる。ならば、まただと、黒革の手袋をした手を軽く上げて、白い絹地のマフラーを揺らし、UNKNOWNは別れを告げた。
 後日、この騒ぎは、しっかりと本部に報告され、UNKNOWNとデラード。そして、スカイフォックスの面々がみっちり説教の後、始末書と罰金を科せられる。UNKNOWNは初犯だった為、僅かに軽かったが、次はこうは行かないようである。それもまた楽しいのかもしれないが。
 
●『+NO』
「もしもし、マコ?」
 ジングルスは、店の前で溜息を紫煙と共に吐き出した。
 酷い目に遭いかけた事とデラードを見失った事を報告する。
 重低音が店内に響き渡る。ショッキングピンクやブルーの照明が細く長いショーダンス用の舞台を照らし出す。きらきらとミラーボールが大小様々に、まるで銀河を模したかのように高い天井からぶら下がり、細かく、色んな角度に反射を入れる。
 眩い舞台と天井に比べ、ホール内は薄暗い。
 各テーブルには小さな丸い、ピンクのキャンドルが、僅かに手元を照らす。水割りに、ロングカクテル。簡単なつまみが円形のテーブルに並んでいる。
「おねーさんと会話する店って疲れんのよなぁ」
 アンドレアスが、煙草を片手に琥珀色のグラスを揺らしつつ、はじけるような肢体の美女達が、切れ上がったハイレグのスパンコールがふんだんに付いた衣装を申し訳程度につけて、羽根の長いストールを揺らしつつハイヒールを鳴らしてやってくる様に目を奪われる。くるりと小さく丸めたチップを、すでに沢山挟まれている、屈んだ胸元や、編タイツの隙間へと差し入れて。申し訳程度にデラードを探す。
「それはそれで、ありですが、これはこれで、眼福という奴です」
 オリガは思わず目を細めて、どっかりと椅子に座って飲んでいる。踊り子さんと張るぐらいの美人ではあるが、その飲み様は、男性と変わらない。目が回りそうですと、ぱやぱやとした雰囲気で、何時の間にか杯を重ねているレーゲン。
 和みまくりの娘さんを中心に、アンドレアスとオリガは楽しげに酒を注ぎ合う。
「っといけね。そっちどうよ? デラード居る?」
 そのまま、踊りと酒に溺れそうになったアンドレアスが、もう一軒の店、『サヴァン』で張り込みをしているロジーへと携帯を繋げに、席を立った。音と光りが追いかけて。

●『サヴァン』
「綺麗なお姉さんに素敵な雰囲気‥‥言うこと無しですわ〜」
「うんうん。美味しい依‥‥っと、美味しいねえ」
 背の高いシャンパングラスがかちりと合わさる。靴が2cmも沈み込むんじゃないかと思うぐらいの絨毯を歩き、腰が沈み込んで立ち上がれないんじゃないかと思うようなソファに腰掛けたロジーと慈海は、共犯めいた笑みを浮かべつつ、乾杯をする。
 シャンパンゴールドのドレスの女性が、細かい泡を立ち上らせるシャンパンを優美に注ぎ、2人に微笑みかければ、それだけで、目的は達成したかのような錯覚に陥る。スカイフォックスが経費を持つという美味しい依頼に、顔が緩む。
 それにしてもと、慈海は喉を通る炭酸の旨みに目を細めつつ、デラードの器物破損という行動を思い返し、何度目かのクエスチョンを浮かべる。綺麗なお姉さんに声をかけるのは、男の礼儀ときっぱり思うし、酒乱と言うわけでも無さそうだ。
「‥‥喧嘩売られて買っちゃうとか?」
「あら、どちらの軍曹さんのお話し?」
 思わずもらした呟きに、横に座った美女が艶然と慈海に微笑んだ。
「やっぱりか〜乱闘、楽しんでそうだよねぇー」
「喧嘩強そうですわねえ」
 ロジーが頷くと、美女たちが口元に手を当てて、くすくすと笑い出す。どうやら大当たりのようだ。
 乱闘かあと、また慈海は考える。
 何の憂さを晴らすために乱闘するのかなと。
(「何もかも忘れて暴れても‥‥心の中の虚しさは消えないんじゃないかなっ」)
 昇進と降格を繰り返していたというデラードの一端を想像して首を捻れば、ロジーが、慌ててポケットから携帯を取り出した。
 ロジーは着信を見て、含み笑うと、席を立つ。
「此方ロジーですわ。『+NO』の首尾は如何でして? あら。どうやら、目標はこちらに来たようですわ」
 アンドレアスの携帯を受け取ったロジーは、入り口で嬌声が上がるのを耳にした。振り返れば、奴‥‥もとい。デラードが僅かに緩んだ顔でナイトドレスの女性達の歓待を受けていた。
 怪しまれないように携帯をしまうと、ロジーはころころと笑いつつ、美女に囲まれたデラードに声をかける。
「あら。こんな所にお噂の軍曹さん♪ ご一緒しても宜しくて?」
「奇遇だね!」
 ズウィーク君と、ソファから身を乗り出して、慈海も手を振れば、ロジーがトドメにころころと笑う。
「此処の綺麗なお姉さん達には敵いませんけれど、お話相手にお付き合い下されば幸いですわv」
 綺麗なお姉さんと言われて、いたく満足したらしい美女達が、どうぞどうぞとロジーと慈海の居る一角へとデラードを誘導してくる。
「なーに企んでやがる?」
「何って、何も〜。今日は飲みに来たんだも〜ん」
「そうですわ。綺麗なお姉さん達に囲まれて、美味しいお酒ですのよー」
 UNKNOWNによる襲撃騒動を知らない2人の、満面の笑顔に、ま、良いかとデラードはお姉さん達も交えて乾杯をして。馴染みの女性が居るようで、両脇にはべったプラチナブロンドの美人と、長いドレッドヘアの美人が微妙な駆け引きをしているのを笑みを浮かべて飲んでいる。
 その様を、慈海は、ふうんと思い見学に回る。ロジーも目の端にデラードを入れながら、慈海と話つつ、お姉さんとも話しつつ。夜は次第に更けて行き。
 意外と人数が少ないようですわと、心中で呟く静が、そんな一角を眺めつつ、奥まった重厚なカウンターで黒のドレスを捌きながら、ドライマティーニを口にする。ひとりカウンターに居る静が、何人に声をかけられたのかは彼女だけが知る事だった。
「先ほど、対象は『サヴァン』を出ましたわッ! 慈海付きでッ!」
 夜が深くなり、店を出たデラードを確認するロジーは、笑いながら真琴に現状を報告する。

●夜更けの兵舎
 肩を借りつつ、千鳥足の慈海は、しょうがないなあと言うデラードの声を夢現で聞いている。ラスト・ホープへ来て、それなりに長い付き合いの慈海だから出来る行動でもあった。部屋で雑魚寝とか楽しいかもと、思っていたのだ。
 そして、デラードの部屋を狙う影はもう1人。
 ハバキが待っていた。
「あ、おかえりー♪‥‥今晩、泊めて? あ。慈海く〜ん」
「繋がっているんだね〜ハバきゅん〜」
 いくらラスト・ホープと言えども、夜、酔っ払いを放っておくのも、馴染みの顔を叩き出すのも、デラードは出来そうに無いようである。初対面か、あまり馴染みの無い相手にで同じ行動をされたら、きっと叩き出すに迷いは無かっただろうが、いかんせん。この2人との付き合いは意外と長い。
「‥‥何の厄日だ、今日は」
 何やら諦めた感いっぱいのデラードは、部屋のドアを開けた。
「わーい。ありがとー。こんな時間に帰って、良く寝てる愛し彼女を起こしちゃ悪いから、さ」
「言ってろ。って‥‥ここ、誰に聞いた。って言うのもな。この流れで行くと、あの野郎共だろ」
「‥‥っえー。何の事ー?」
 でろんでろんの慈海は早々にソファに転がして、毛布をかければ、すやすやと寝息を立て始め。部屋の位置は、当然、スカイフォックスの面子に聞き込んできていたハバキは、駄目元だった行動が成功して、ほんにゃりと笑う。
 簡素な部屋だった。
 飛び込んだ者のマナーとして、あまりきょろきょろしなかったので、他は何がどうなっているのか不明だが、あんまり生活臭の無い部屋だなあとハバキは思った。
「俺、雑魚寝で良いから」
「床に転がるんだったら、入れてないからな」
 いそいそと慈海の寝るソファの床に座り込んで、床を叩くハバキに、デラードは苦笑しつつ手を出す。そういえば、靴は履いたままである。
 軍隊は何所でも寝るもんだが、と再び笑い、野郎二人で寝るのもぞっとしないが、まあ、貸してやると奥の戸を開けてベッドを指差す。
「きゃー」
 叫んだハバキに、がつんと拳が襲う。デラードがトイレに行っている隙に、ハバキは慌てて真琴にメールを送る。きゃー。とか付けて。
 翌日の陽は、かなり登っていた。

●至る。図書館通り
 公園と図書館脇の街路樹をチェックするのはつーだ。隠れやすい場所。怪しい場所を記憶する。
 兵舎を出たところから尾行開始だと、入り口近くに陣取る。
 同じく、兵舎近くで、張り込みをしに来ていた真琴は、目深に被った帽子、めがね。コートを着込んで、気分はすっかり刑事のようで。温かい缶コーヒーを握り締めて、朝帰りのハバキと慈海を何とも居えない気分で見送った。
 ふらりと現れたデラードは、チェックのシャツにスカジャン。古びたジーンズ。掃き潰したスニーカー姿の軽い足取りで図書館脇の道を通る。
 るなは、図書館通りで本を読んでいた。通りすがるデラードを発見して、声をかける。
「あのっ。もし何所か行く予定があれば、ご一緒して良いですか?」
「初めまして、可愛いお嬢さん。でも、デートするには向かない場所だから、また今度」
 あっさり交わされ、そういえば、自分の名前も名乗っていなかった事に気が付いた。
 響も一緒に行動しないかと声をかけたが、やはりこちらもさらりとかわされ。
 双眼鏡で探る真琴に、影から影へと伝うつー。
「‥‥何か俺、恋する乙女みたいよな‥‥」
 木々を伝っていたジングルスは、中空に達した太陽で、ふと、何も口にしていないのに気が付き、どさりと落ちる。
 真琴の救助プリンを食べながら、とりあえず離脱するジングルス。
 から揚げ入りおにぎりと、お茶を手にしたデラードが、公園ベンチで鳥を見ながら朝昼兼用の食事を取っている、少し離れた場所では、仁が持参のおにぎりを頬張りつつ、デラードの行方をそっと伺い、携帯を動かして。
 何やら、かさこそと動いている仲間達を視界に入れつつ、のんびりとユーリは、2日目も公園で暖かい日差しを受けて、ホットドッグをぱくついた。

●格納庫2日目
 慈海は、格納庫に居るというデラードが頭の上がらないと言う整備士を探して、格納庫の床を思わず眺めつつ。探索を始めていたが、どうやら本日は居ないのかもしれなかった。

 格納庫に漂うのは金属の匂いと、油の匂い。

「有難う、君がいるから俺は頑張れるんだね」
 自分の機体と向き合う事なんて無かったなあと、ソラは愛機W−01テンタクルスのテンタくんを磨く。丁寧に。ゆっくりと。そして、見渡せば、大事な人の厳しい横顔が目に入り、唇を噛締める。
 真彼はES−008ウーフーとS−01を並べ、ウーフーの微調整を整備班と共に行っていた。
 何時も柔らかな表情の真彼だが、その横顔は酷く厳しいものだった。傭兵は戦いに赴く。中には、寸前で守れなかった命もあり、上手くいかない出来事も少なくは無い。やり直しの効かない出来事ばかりだ。手から零れたそれは、もう二度と戻る事が無い。
(「どうすれば良かったと思う‥‥?」)
 答えの無い問いを鋼の機体を眺めて呟く。声を上げて泣けるのは幸いだ。それすらも出来ず、ただ胸に残るのは寂寥感。これは悲しみなのかと。自分に向けてのものなのか、それとも、もう戻らない命を惜しんでか。
 過去が胸に迫る。
 目の前で大事な人を失った事より自信の命が惜しかった。
 それなのに、今更悲しいと。そう思うのかと。
 痛みも悲しみも過ぎてしまえば、受けたその衝撃を正しく思い出す事は出来ないのでは無いかと思う。
 けれども。
 真彼は僅かに目を閉じた。
 抱いた気持ちを決して忘れる事は無い自分を見つけ、ゆっくりと目を開ける。
 ソラは、声をかけるのを一瞬躊躇ったが。
「国谷さん‥‥ご一緒しても、いいですか?」
「もちろんだよ。‥‥出撃が近いからね。調整中だよ」
 声をかけられて、真彼は、はっと我に返る。
 何時もの笑顔でソラに向かえば、ソラもにこりと笑い、後でお弁当食べましょうと、美味しそうなサンドイッチが入ったバスケットを掲げてみせる。
 本当は、笑顔なんて浮かべる余裕は無い。
 ソラは真彼から見えない場所で、真彼のウーフーに、小さくありがとうと呟いた。下を向いた睫毛が僅かに震える。自身が重体になるよりも、怖い事があるのを知った。生きていると知って、尚怖くなった。
 傭兵は戦うのが仕事だ。
 そして、KVで出撃すれば、墜落、その先の事も無くは無い。大丈夫だと言い聞かせても、大丈夫だと言われても、芯から来る恐怖は拭えない。けれども。
(「‥‥これからも国谷さんがちゃんと戻って来られるようにお願いします」)
 その願いは祈りにも似て。
 僅かに足の止まったソラを見て、真彼は全てを理解する。
 誰よりも強く、幸せだった日常への帰還を願う。
 護りたかったのは、一人ひとりが抱いていた日常へのささやかな夢だ。
 どこにでもある小さな夢。死んだ彼らがもう望めない未来。
「楽しみだなあ、サンドイッチ。早く終らせなきゃね」
「はい」
 だから、出来るだけこの一時を大事にしようと真彼は思う。それは、ソラも同じ気持ちで。きゅっと、拭き上がる機体は青空を映し。

 XN−01ナイチンゲールを丹精込めて、磨き上げた菊花は、鏡面のようになった機体に移り込む自分を見つけて、くすりと笑う。
「今までありがとう、これからもよろしくね」
 人がデラードの周辺に行き交うのを見て、中々面白い人のようで。と、薄く笑うのは葬儀屋だ。
「まぁこれからがんばってもらいたいという事で」
 最近手に入れたLM−04リッジウェイ。黒に近い青色に塗られたその機体を満足そうに眺めて、機体を磨こうと動き出す。白銀の髪をかきあげれば、顔半分が隠されたつるりとした仮面が現れる。目立ちますかねと、追跡はそこそこに引き上げた。
 昨夜の逃走を思い返し、弓束は、何とも言えない溜息を吐く。皆は無事だろうかと。
 とりあえず、格納庫に次々に現れる仲間達の姿に、胸を撫で下ろす。
 朝から格納庫でS−01を磨いていた。ぴっかぴかである。手慰みに、折り紙でS−01を作ったりする。
 出撃回数は少ないが、ずっと共に居るせいか、他の機体は考えられない。色んな機体が並んで行く様は壮観ではあるが、相棒はきっと最後までS−01なのだろうと。
「軍曹はん! あの、機体見せてもらえまへんやろかっ?!」
 何時もより人数の多い格納庫に、軽く首を横に振りつつ入ってきたデラードは、弓束に、頷く。
 R−01。前線を飛ぶ時は、もうこの機体じゃないけどなと笑う。作業ズボンに長靴履いて、モップを持ったデラードに、手伝うと言えば、これは、俺のだからと、俺がやりたいんでごめんなと言われる。
「せやったら、後でBJ勝負とか付き合うてもらえます?」
「遊技場でならな」
 コクピットを磨きつつ、手を振るデラードに、妙にテンションの上がっている自覚のある弓束は、後からこっそりKVを模した折り紙をコクピットに忍ばせた。

 大量の弁当を持参してきたのは、叢雲である。
 艶のある漆黒の機体。F−108ディアブロ、PM−J8アンジェリカを前に、叢雲は僅かに見上げて、苦笑する。ラスト・ホープにやって来て、1年経った事に気が付いたのだ。
 さて、やりますかと、腕をまくり。整備用具や脚立を出して磨きにかかる。
 連戦に次ぐ連戦。
 大規模な作戦を幾つもくぐり抜け。
「沢山の『相棒』‥‥ですかね」
 それぞれが、命を預ける機体を持ち、大切にしている。当たり前の事が、胸に染みた。
「どうですか? ご一緒に」
 デラードの姿を見つけ、集まってきていた仲間達へと向けて、叢雲は何時もの笑顔で声をかけた。

 ずらりと並ぶ機体に、レーゲンは、ほうと小さく溜息を吐く。初めてデラードに会ったのは、KV磨きの時だった。あれは、大規模作戦の終った後で。
 手作りのケーキや温かいカフェオレを持参したレーゲンがお茶しませんかと誘えば、泡まみれのデラードが後で寄ると手を上げて。
 ハバキは、ぱやぱやとしているレーゲンを見て、うんと頷く。
「うし、じゃぁいっちょピッカピカにしてやりますかっ♪」
 K−111改。耶昊と名がついた相棒である。このままずっと一緒に戦う。そう決めている。
「おお‥‥これが噂の耶昊かッ」
「そ〜う。可愛いでしょ」
「負けねーっ!」
 ハバキの機体を見に来たアンドレアスは、愛機ギャラルホン。F−108ディアブロに顔を向けて、軽く笑い、それぞれが自機を磨きにかかる。後で手伝いっこするのもありかなと、仲の良い仲間達は思う。
 髪をかきあげると、アンドレアスはぽつりと呟く。
「そろそろまた働いて貰わにゃならねぇなー」
 楽しげにしている親友、ハバキを目の端にとらえ。僅かに寄った眉間の皺を擦りつつ、ギャラルホンを磨く。
「‥‥気の入り過ぎは‥‥駄目だな」
 ギターピック型のエンブレムを磨きにかかって、ふと息を吐く。
 戦いが迫る。
 気が付けば、どっぷりと浸かっていた。
 因縁という言葉がある。
 自分にも、ハバキにも、自分が特別と思う、とある人物にとっても。
 ──カッシング。
 グラナダの戦いは目の前だから。せり上がる塊りを飲み込み、首を横に振り、何時もの顔に戻ると機体を磨きに戻る。

 透は、愛機XF−08Aミカガミを精一杯の愛情と気合を込めて磨く。
「‥‥次は、何を見に行こうか」
 穏やかな漆黒の瞳が、空色の機体に映り込む。
 陸戦が多い透だったが、そろそろ空を飛んでみても良いかと、何となく思う。
 こなした戦いの日々を思い出す。この鋼の翼は何を守り、これからも、何を見るのだろうかと。磨く手に力がこもり。
 その横では、作業着姿のつばめも、せっせと鋼の機体を磨いている。連戦をこなし、戦いには慣れてきたが、ゆっくりと機体と向き合う時間が取れなかった。FG−106ディスタン、S−01。
 防御力の高さを生かし、どちらの機体も、小隊や任務では、味方の盾として機動した。幾つもついた傷は、その都度綺麗に直してもらっているが、つばめは忘れていない。
 ここと。そこ。向こうにも。
(「──いつも痛い思いばかりさせてごめんね、『swallow』これからも迷惑かけると思うけど‥‥私の大切な人たちを守るために、力を貸して」)
 愛機に付けた名前を呟き、鋼の機体へ手を広げる。抱きかかえるように。
 あ! と。つばめは、デラードを見かけて、小さく声を上げ、駆けて行く。
「あの、触ってもいいですか‥‥!?」
「R−01でよけりゃ、どうぞだ」
 つい、きらきらっとした眼差しで機体を見てしまう。快諾されたつばめは、少し怪しげな笑みをうかべて、機体に触り。満足気に戻ってくれば、透が一生懸命、つばめの機体を磨き上げて。
 つばめも、透に声をかけて、透の機体を磨きにかかり。

 KVを磨くデラードを見ながら、リトヴァクは異常無しと、真琴に連絡を入れる。
 今回で2回目の追い掛け隊参加である。前回討ち死にした者が多かったせいか、今回は妙に気合が入っている。
 お祭りは、踊ったもの勝ちなのだ。
「ま、とりあえず、ワンコ磨くかな」
 何時も頑張ってくれているEF−006ワイバーンを見上げて、くすりと笑う。機体のコクピット下にアホウドリのマークと左翼に三本のオレンジの線が鮮やかだ。S−01も初期機体として愛着がある。これもゆっくり磨けたら良いなと並べて見る。
 話す内容を決めていれば、難無く会話が出来たのだが、どうするか、悩んでしまっていた。そんなリトヴァクをデラードは横目で眺めて、くすりと笑ったのが見えて、少し慌てて、手を振った。

 そろそろ陽も落ちてくる頃。ユーリは綺麗になった愛機を満足そうに眺める。
「よし、さっぱり」
 今日はコクピット内を強力ハンディ掃除機で隅々まで塵拾いをし、内側全体を拭き上げたのだ。
 機体表面には、ワックスを塗り込んで、ぴかぴかに仕上げた。

 宵闇の中、格納庫奥から、何時もの軍服に着替えたデラードが姿を現すと、レーゲンはぱたぱたと寄って行き、その袖をとった。軽く引けば、何事かと振り返られる。
「一緒に行ってもいいですか?」
「もちろん。どうせ知った顔がごっそり居るぞ? だろ?」
「あは」
 バレバレなのが見て取れて。もちろん行きますとレーゲンは力強く頷くと、こっそりと何やら伝えれば。フリーになったら何時でもおいでと笑われる。だが、もちろん、ぷるぷると、思い切り、首は横に振る。
 出会った時から、KV仲間。それは互いに良く知っている。

●再び『しろうさぎ』
 ぽう。と、灯りが灯る、テラスでは、透とつばめがKV磨きの後の一時を共に過ごしていた。
 一緒に行こうかと誘ったのは透だ。つばめが嬉しそうに『しろうさぎ』の話をするから、行きたいんだろうなあと思ったからだ。それは、余計な気を回しただけだろうか。そう、つばめを伺うが、穏やかな空間に表情を緩ませるつばめを見て、良かったんだと、ほっとする。
 もちろん、自分も来てみたかったという事もあり。
 柿のタルトを口に入れれば、馴染んだ甘さと、バターの風味がふんわりと口の中に広がって。仄かに洋酒の香りが残る。
「和と洋の『こらぼれーしょん』?」
「でしょ?」
 つばめは、目を丸くする透を見て、気持ちがほぐれた。誰かと来るのは初めてで。ちょっぴり緊張していたのだ。
「不思議な味‥‥」
 笑みを浮かべるつばめを見て、透も自然と顔が綻ぶ。甘いデザートが心を柔らかくしただけでは無く。顔を見合わせて笑い会える人が居るだけで、同じ場所。同じような時間もほんの少しだけ景色を変える。
 自分と正反対の健全な強さを持つつばめが僅かに眩しいなと、透は穏やかにまた微笑んだ。

●『ラスト・ムーン』
 狭い店内はごった返していた。テーブル席を押しやり、スペースを作ると、口ひげの立派な店長は、貸切りの札を下げた。
 デラードの休日の終着点。
「うちの好奇心も同席させとくれやす〜」
 弓束は、柑橘系のロングカクテルを飲みながら、にこにこと店内を眺めていた。スカイフォックスの面子に囲まれて、何やら楽しげに話しているのはレーゲン。逆に、昨夜の黒尽くめの傭兵は知り合いかと聞かれてしまっている。思い当たる人が居るだけにレーゲンは思わずひきつった笑みがこぼれ。同じく、真琴が、スカイフォックスに2日間の報告をすれば、出入り禁止になったほうが良かったかもしれないと、冗談めかして溜息を吐かれ、おまえさん方は、立派な傭兵さんだとぱむぱむと叩かれ。
 菊花は、そろそろ始まりそうねと、思いつつ、叢雲とアンドレアスを目線で追いつつ、ゆっくりと琥珀色した液体が揺れるグラスを傾けた。
 彼女が思った通り、叢雲とアンドレアスは店の一角で何やら対決ムードを漂わせていた。
「こないだやり損ねたからな。今夜は手加減ナシだぜ」
「‥‥受けてたちましょう」
 テーブルに、音を立てて立ち並ぶビールジョッキ。その色合いからして、かなり濃い味のビールである。
 ふふふ。と、含み笑う叢雲が、袖をまくる。酒量は多分同じくらいであろう。だが、見事なまでに表情に出ない叢雲が優位に見えるのは致し方ないのかもしれない。
 その横を、真琴が過ぎる。
「ズウィーク・デラード!」
 妙な抑揚で真琴を迎えたジングルスは、追い掛け隊解散を告げ。真琴もそれの言葉をうやうやしく聴いてみたりして。そして、目当ての仲間を見つけて、手を振った。
「お誕生日おめでとうございます」
「まこちゃ!」
 ロジーと抱き合い、きゃっきゃしていたハバキは、差し出されたケーキに思わず目頭が潤む。
「ちと、遅れたケド、ハッピーバースデーv」
 グラスを合わせに行ったジングルスが、びっくり眼のハバキに軽く笑う。──野良だけど、野良じゃなくなった祝いに。と言われて、沢山のありがとうをハバキは告げる。
「俺も?」
 ほろ酔い気分で楽しげな空間が広がっているのを見ていたソラも、嬉しそうに箱を受け取った。誕生日おめでとう。の、言葉と共に。
 飲めなくても、仲間達のざわめきの中に居るのは心地良い。
「楽しかったですか‥‥?」
「もちろんですわ。楽しくありませんでしたの?」
「いえ‥‥楽しかったです」
「ですわよねっ!」
 ロジーがころころと笑えば、透が目を細めて微笑んで。オリガが何時ものように浴びるほど、知らないうちに消費して。
(「‥‥暁闇、か」)
 僅かに目を細めて仲間達を一緒くたに眺めるアンドレアス。それをさらに後ろから叢雲は眺めて、僅かに眉を上げると、大きな音を立てて、手にしたジョッキをテーブルに置く。
「余所見している余裕があると?」
「っ! 負けねえー」
 何時か、優しい想い出に変わるまで。
 その前に、目の前のジョッキやら酒瓶やらを片付けなくてはならないだろう。不敵に笑う強敵を倒すため。
「なあ、軍曹、何所からバレてたんだ?」
「夜に銃撃戦やった辺りかね」
 リトヴァクは、カウンター近くでデラードを捕まえて、グラスを合わせる。追い掛け隊は成功したのだが、気分的には微妙〜と、笑う。
「俺もデラードぐらいの年には随分やんちゃしたもんだ」
「どっから来たんだ」
 するりとカウンターに混ざったハバキが、訳知り顔で頷くのに、リトヴァクが軽くタックル。そして仲間達の下へとグラスを掲げて混ざり会い。
「デラードさん良く素敵とか言われませんか? わたしあなたに興味を持っちゃったもっと一緒にいたいなぁ」
 響がるなと共に、お色気たっぷりの雰囲気でやってくるが、デラードは溜息を吐く。
「こっちのお姉さんは、昼に見たお姉さん。そんでもって、おまえさんは、お兄さん」
 っえーっ! と、声上がるが、UPC軍内でも、傭兵内でも、美人、可憐、婀娜っぽい。とにかく変化する野郎が多過ぎる。そのたぐいでデラードを篭絡した者は誰も居なかったりする。
 ああ、何時か通った道。
 ジングルスが、ちょっとほろりとしつつ、るなと響に酌をしに。
「るなさんホント楽しいですね」
「パーティと思えばいいかしら」
 わいわいと混ざれば、まあ、しょうがないかとるなも響も乾杯の嵐に巻き込まれ。
 うんうんと、やっぱり何時か通った道の、つーは頷きつつ、2日間、我慢を重ねていた酒を浴びるように補給していた。
 まさに補給。
「とりあえずピッチャー2つ」
 水のように、消えて行き。
「追加でワイン6本」
 これまた、水のように消えて行き。
「日本酒を8升」
 やっぱり、水のように無くなって。
「もういい、酒樽ごともってこい」
 そんな感じで、渇きを存分に癒す事に専念する。
「ちょっと皆、凄いかも‥‥デラードもね」
 ご飯をしようと顔を出したユーリは、落ち着いて食事には向かない事を一瞬で悟る。
 カウンターに寄って行き、何か食べ物を注文すると、ハムソーセージの盛り合わせと、ミートソースのパスタがどんと出た。それを食べつつ、思わず呟く。
 ポテトサラダと、白身魚のフリッター。ペンネのキノコホワイトソースをもぐもぐと食べている仁が、その呟きを耳にして、同意の頷きを返して。


 命を賭けない追いかけっこが、色々な阿鼻叫喚と共に幕を閉じれば、明日からはまた、戦場が待っている。