タイトル:晩秋の海辺でマスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/26 15:51

●オープニング本文


 紅葉を見に、山を歩き、分け入るのもそれはそれで美しい。
 しかし、その海岸線に至る細い川には、黄、紅葉の鮮やかな葉がまるで反物のように流れてくるのだという。
 そして、僅かに暗い、冬の色を付けた海へと、秋の名残りの色が落ちて行く。
 その、海岸線は、乗馬の為の馬場があった。とある乗馬クラブの練習場だ。
 海風を受け、砂浜を蹴立てて走れば、脚力が付く。
「そこに、出たそうですわ」
 出たと言えば。
「キメラです」
 ふう。と、ふわふわの髪を左右に揺らし、溜息を吐く総務課ティム・キャレイ。
「以前、大規模作戦でお世話になった映画チームのひとつが所有しているらしですの」
 それで、どうかひとつ。格安で。と、拝み倒されたらしい。
「‥‥お世話になっていますもの。また、いつか、思い切りお世話になる時、助けて差し上げたという事実があれば、より、助けて頂けるというものですわ」
 ツテとコネが大好きなティムは、満面の笑顔を能力者達に向けた。
 依頼の並ぶスクリーンには、十数頭の馬が浜辺を走る様が映し出され。別のショットには、砂色したぶよんぶよんの物体が映っていた。スライム系のようだ。走ってくる馬へと、酸を放出している。射程はどうも遠距離武器と同程度のようだ。
「擬態しているようで、近寄らないとわからないようですの」
 砂浜に入る要所要所には、KEEP OUTと書かれた黄色のテープが張られ、一般人の侵入は阻止されている。
 馬は数頭犠牲になったようだ。
 広さは幅100m。長さ1kmの海岸線の砂浜。右端に紅葉の川。左端は、岩などで、自然と狭まって海へと消えている。
「馬場なので、海産物とかはありませんが、その撮影チームの責任者のミナケン様‥‥南謙一様が、お礼として、馬に乗せてくれるそうですの。海岸線をぶっちぎりで駆けるのは、わくわくする事ですの。何より、馬を傷つけたキメラ、許しちゃぁおけねえで‥‥。いえ。許せませんの」
 乗馬講習は、しっかりお手伝いさせていただきます。と、何やら訛りを押し隠し、ティムが誤魔化し笑いを浮かべ、そうそう、衣装もメイクもトラックで運んで下さるようですので、好きなコスプレが出来ますのと、付け加えた。

●参加者一覧

ゴールドラッシュ(ga3170
27歳・♀・AA
オリガ(ga4562
22歳・♀・SN
アヤカ(ga4624
17歳・♀・BM
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
夜坂桜(ga7674
25歳・♂・GP
榊 紫苑(ga8258
28歳・♂・DF
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
辻村 仁(ga9676
20歳・♂・AA
鳳(gb3210
19歳・♂・HD

●リプレイ本文

●砂浜と波の音とキメラ
 意外と広い砂浜を、ゴールドラッシュ(ga3170)は双眼鏡を手にして眺める。
 砂浜から道へと続くなだらかな坂には、防風林が植えられて、所々に浜から駐車場と、馬場へと伸びる細い道がある。その他にも幾つかアスファルトの道路へと続く小道があるようだが、皆、KEEP OUTと書かれた黄色のテープで通行止めにしてある。
 個人ビーチであるからか、山と道路しかまわりには無い。一番近い民家にも車で10分はかかる。町か村へと辿り着くのは軽く1時間はあるようで。
 誰も居ない海。
 少し肌寒くなった海風が波を寄せる。
 取り立てて、不審な場所は無い。豊かに波打つ金髪を、豪快にかきあげると、ゴールドラッシュは満面の笑みを浮かべた。楽しげな青い双眸が黄金に輝き、淡い黄金色した輝きを全身に纏わせて、レイシールドを前に、イアリスを油断無く構える。
「さあ、ちゃっちゃと片付けて、楽しませてもらうわよ今日は!」
 その名の示すように、彼女は高額報酬依頼をこよなく愛す。しかし、本部でこの依頼に目を留めたのは、高額依頼と同等の価値を見出したからだった。
 乗馬。
 趣味は乗馬とギャンブルと公言している彼女に賭け事の女神は降りてこないようだが、事、乗馬に関しては自他共に認める腕前である。
「移動してないとえぇんやけどなあ」
 小飛虎と名付けたDN−01リンドヴルムに身を固めた鳳(gb3210)が呟く。
 依頼時点で見たモニタに映るスライム系キメラの位置を確認して来ていた。
 全部が映っているわけでは無いが、近場のキメラの位置は覚えている。まったく砂と見分けがつかないが、大体あそこと、あそこ。そう、仲間達に指し示す。
 依頼開始時点では、何所と無く儚げだった柊 理(ga8731)の頬が上気する。
「紛れてたって‥‥僕が見つけてみせる‥‥!」
 待ち伏せ、罠。そんなモノに対して発動するのは理の探査の眼。双眼鏡で除き見れば、鳳の指し示した場所と変わらない場所に違和感を感じる。
 ぴょこりと、猫耳と尻尾が出て、軽快に揺れる。猫の昼の目がキラリと光る。アヤカ(ga4624)の手には莫邪宝剣。レーザーブレードだ。光りが剣のように丸い筒のような柄から伸びる。
「よおし、行くにゃ〜っ☆」
 キメラが居ると思われる方向へと、無造作に浜へと踏み込んで行けば、酸の攻撃がアヤカへと向かう。
「それは受けないのにゃ〜っ☆」
 速度を上げて、一瞬にしてキメラの前まで走り込むが、僅かに揺れるツインテールのはじから嫌な臭いが立ち上る。むうと、鼻に小さく皺を寄せて、最大の威力を莫邪宝剣へと乗せると、ぐにゃりと動いた砂色のキメラへと叩き込む。
「なあ、酸吐く時、少し動きよるでっ!」
 何か癖は無いものかと考えていた鳳は、アヤカに襲い掛かった酸の攻撃をする前に、キメラが僅かに持ち上がったのを見たのだ。それは、ほんの僅かであったが、注意して見れば判別は可能でありそうだ。そのまま、一気にキメラまで駆け抜ける。砂が、駆け抜けるリンドヴルムの両脇に吹き上がり。鳳は、朱雀と名付けた三節棍を両手に構えて振り抜いた。
「慎重に行かせてもらいますっ!」
 人でも動物でも、キメラによって脅かされるならば。不知火真琴(ga7201)は手足に幻視の焔を纏う。空色の双眸、真っ白な髪にその炎が映るかのように赤みが差し。エアストバックラーを構え、薄い琥珀色した抜き身の夏落を握り込み、砂から僅かに浮かび上がったキメラへと向かう。飛んでくる酸は、幸い盾を一撃で溶かすほど強力では無さそうで、砂を踏みしめる足取りも速くなる。
「あの辺りだな? こんな軟体野郎に手間取ってられねぇからな‥‥」
 ブレイズ・S・イーグル(ga7498)が、両手剣コンユンクシオを握り込み、当たりをつけた場所へと、走り込む。黄色に変化した瞳。身体から吹き上げるかのような黒いオーラ。覚醒状態を引き上げて。その一撃に渾身の力を乗せる。
「さっさと潰す‥‥エアトリガァ!」
 音を立てて、飛ぶ酸の攻撃が、ブレイズの左を掠め、アーマージャケットを僅かに溶かす音が耳に届くが、構わずに走り込み。
「ファフナー‥‥ブレイクッ!」
 ゆるゆると動くスライムキメラにエアストバックラーが叩きつけられる。ぷるりとした弾力が一瞬手に伝わり、そのまま、さっくりと砂まで切り裂く。
「この攻撃は、厄介だが、姿が見えれば、こちらが有利だな? 速攻で始末してやる」
 この季節に海岸でスライム退治とは寒いですねと呟いていた榊 紫苑(ga8258)だが、次々と強酸を吐き、その擬態を僅かに変動かすキメラを見れば、瞬時に冷酷なハンターへと変わる。柔らかい茶の髪が漆黒に。紫の瞳は冷たい青い光りを湛え。淡く刀身を光らせた蛍火を抜き放ち砂浜を走る。
 瞳から光りが消え、変わりに薄い朱がかかる。辻村 仁(ga9676)は、雪駄を砂に埋めつつ、着物の裾を蹴立てて、真デヴァステイターの銃口を向ける。動きのあるキメラへとペイント弾を打ち込めば、ぷるぷると動くキメラは、砂色に鮮やかな色をつけて。
「当たって弾けろ!」
 理は、弾丸の威力を上昇させる強弾撃を発動し、ロングボウに、弾頭矢を番えて放つ。着弾すると、派手に砂を舞い上がらせた。爆風で、ばらばらと落ちる砂。その衝撃でむくりと僅かに起き上がるスライムに、仲間達はまた襲いかかる。
 飛んでくる酸をレイシールドで受け流し、イアリスを叩き込めば、その軌跡に沿って豪奢な金の髪が踊る。手ごたえにゴールドラッシュは笑みを浮かべつつ、慎重に周りを見渡す。
「囲まれる‥‥なんて事も無さそうね!」
「何と言うか。アグレッシブです」
 スキルに任せて、一瞬に敵との距離を縮める前衛陣を眺め、じりじりと進む真琴とゴールドラッシュの後ろから、オリガ(ga4562)は次々と屠られるスライムを見て溜息を吐く。とろりとした水銀を湛えた右目を中心に、楔文字が、鎖が絡みつくかのように浮かび上がっている。撃ち込もうかと思っていたペイント弾は装備するのを忘れてしまった。溜息を吐き、真デヴァステイターと、シエルクラインの深い青の混ざった銀の銃身で狙いをつけて、撃ち放てば、スライムに鈍い音と共に幾つもの穴が穿たれて。
「怪我してる人は居ませんか?」
 僅かに淡い色合いになった髪と瞳の夜坂桜(ga7674)は、キメラを袋叩きならぬ、もぐら叩き状態にしている仲間達を眺めつつ、スパークマシンαを構えて後方を歩く。何かあれば、率先して走り込み、盾になるつもりであったが、どうやらその必要は無さそうで、酸を受けるのも、ものともしない仲間達の走りっぷり、叩きっぷりを応援する。
 そして、あっという間に走破された海岸を見渡せる場所で、桜は亡くなった馬と退治したキメラへの追悼の祈りを手向け。
 鳳が撃ち漏らしが無いのを確認する頃には、何所からか見ていたのか、撮影班の大型トラックとキャンピングカー数台が、砂浜からの小道の脇へと横付けされていた。

●海風を受けて走るのは‥‥
「ハァ!」
 栗色の馬にまたがって、洋弓ミストラルを構えているのは仁だ。
 着物の上に着込んだ和装コートがひらりと幾重にもひらひらと風に揺れる。
 踏みしだく砂の感触が馬上にも伝わる。
 海へと向かい、矢を放てば、寄せては返す波間へと、矢は長い軌跡を描いて吸い込まれていった。
「黒王号よ、今が駆け抜ける時‥‥!」
 漆黒の馬を選んだブレイズは、思い描くコートを発見する。気分は黒衣の騎士ってかと、ばさりとしたコートを着込んだ。馬上に有れば、海風がコートを重厚に翻し。
「フッ、たまに風を感じるのも悪くはねぇな‥‥」
 ただ走り抜けるだけだが、伝わる馬の躍動感と、海風の爽快感に、笑みを深くする。ひとつに結わえた紅い後ろ髪が、ざあ。と、風に引かれる様に流れて。
「最近は戦いっぱなしだったからな‥‥こういうのも悪くはねぇ‥‥」
 風を切り駆け抜けた漆黒の人馬。
 コートの裾を翻して降りれば、ブレイズは、真赤な髪を無造作にかきあげた。
「ニャハハハハ☆ 正義の味方、アヤカニャン参上ニャ〜!」
 ツインテールが跳ね、八重歯が陽射しにきらりと光る。
 馬は人を見る。慎重に、でも元気良く、よろしくニャと、小首を傾げ、人参をあげれば、馬もアヤカが気に入ったようである。ゆっくりと歩く常歩から、少し早めの速歩を混ぜて、乗馬を心ゆくまで楽しむ。軽快に砂を蹴立てて、砂浜を走れば、気分爽快、すっきりだった。
「この風を切る感覚っ、これだけはナイトフォーゲルじゃ味わえないのよね♪」
 シスター服の裾がはためき、ロザリオが揺れて、背中へと回るが、気にならない。もっと走りたい。もう少し。
 ゴールドラッシュは、巧みな手綱捌きで、相性の合った馬を気持ち良く走らせていた。僅かに浅く腰掛けた鞍の上、海風が無造作に彼女の髪を靡かせる。心の底から笑みが込み上げて来るのがわかった。
 馬と心を通じ合わせ、その一足が、自分の出す足のように。砂浜の感触まで伝わってくるかのようで、馬首を軽く叩けば、僅かに上下する馬の頭に、また笑みを浮かべ。
「ほな行こか? ロッシ!」
 チョッ! と掛け声をかけ、持って来ていた旗袍を着込んだ鳳は華やかな刺繍の旗袍の裾を靡かせて走る。ズボンは着込んでいるので足が寒いという事も無い。両脇にスリットの入っているチャイナドレスは元々、騎馬民族の衣装から変化したものである。乗馬するにはもってこいなのだろう。常歩で馴れた後は、一気に海岸線を走り抜けたのだった。波打ち際で僅かに飛沫が上がる。鳳の高く結わえた白銀の髪が海風に靡いて。
「よう頑張ったな」
 荒い息を吐くロッシを優しく撫ぜると、鳳は嬉しそうな笑みを浮かべ、手綱を引いて、この場所の責任者へもお礼を言いに歩き出す。
「お勧めは何でしょう?」
「三つ揃えにコートも素敵だと思いますの」
 桜は、ティムに衣装のお勧めを聞いてみた。ぴったりとした乗馬服に着替えていたティムは、靴だけ乗馬用のブーツに履き変える事を進めた。それならば良いかと、スーツにコート姿で、少し上等のブーツを履いて、桜は浜を駆け抜けると、内ポケットから取り出したメモ帳に、様々な覚書を書き記し。
「乗馬は、あまりやった事ないんですが、上手くいくでしょうか? 皆さん、上手ですね」
 駆け抜けて行く仲間達を眺めて、紫苑は、ほう。と溜息を吐く。
 しばらく練習すると、柔らかな茶の髪を高くひとつに結わえ、羽織袴に草履という姿。どの路線で行きましょうかと、撮影スタッフが首を傾げて悩んだ挙句、縮緬の鳩羽色の着物に羽織。桔梗鼠に濃鼠の小さな絣紋様が入った袴。藤紫の鼻緒の草履を合わせれば、洒落者の侍の出来上がりである。
 海岸線を走り抜ければ、僅かに肩を落とした紫苑は、ぽつりと誰に言うでも無く呟いて。
「疲れました。ただ暗くなってくると、海岸は、きついですね? 寒くて」
「まずは馬に乗る事から始まるのですが‥‥大丈夫かな」
 ゴールドラッシュは講師に混じって簡単な手ほどきをする。人に教えるほど彼女の技術は卓抜していた。
「大丈夫、大丈夫。怖がらないで」
「ラストホープに来て最初に貰ったカウボーイハットが日の目を見る日が来ました」
「ふうん、良いじゃない」
 可愛らしい小柄な馬を柊に会わせる。ジャンバーを借りて、おっかなびっくり馬に乗る柊は、まずは歩くことから始めていた。
「どうどう! ハイヨーハイヨー! わあっ!」
 ゆっくりと、歩き出す馬に、嬉し気な声を上げ。しばらく慣れれば、ゆっくりと海岸線を走る事になる。
「ティムさん教えて下さいませんか?」
 出来れば最初の挨拶から。
 そう、神妙な顔をしているのは、オリガ。私もですっ! と、にこにこと顔を出すのは真琴だ。
 特にコレといった挨拶はありませんのと、ティムは言い、あまり怖がらす、でも、侮らず、静かに声をかけつつ、優しく触ってあげてください。と。
「お揃いですわ」
「‥‥実は、この後、慣れてきたら武士っぽい格好にチャレンジしたいのですよ」
「‥‥上様ですわね?」
「お名前は出せませんけど‥‥そうです。白馬に乗った、将軍様です」
 乗馬服を着込んだ真琴は、ティムと何やら通じたようで、顔を見合わせてくすくすと笑い合う。
「二人乗りは危険だそうで、残念ですが、ひとり、思い切り走らせて頂きます」
「はい、ご存分に‥‥とてもお似合いですわ」
 とりあえず、二人乗りをするならば、誰かに手綱を引いてもらい、歩く程度ならばと言われ。
 しばらく練習した後の真琴とオリガは人目を引きまくる衣装に着替えて少しだけ二人乗りをすると、本格的に走る事にした。
 テンガロンハットに、フリンジがぞろりとついた、革のジャケット。ターコイズや赤、白のビーズが所々に止められて。びっしりと縫い目で模様のついたウェスタンブーツに、撮影用の馬鹿デカイ白銀の銃。を腰にぶら下げたオリガは、満足そうに頷き、海岸線へと馬首を返して走り出す。
 その後を、濃紺の地に金箔が亀甲模様で描き出された袴に、真っ白で分厚い絹地に紋様が織り込まれて光りの加減でちらちらと浮き上がる派手な着物に羽織を着込んだ真琴へ、真っ白な馬につけられた、赤と白の手綱が渡される。房も余分についている。止め具は金。
 真琴と仲良く話をしていた撮影チームのスタッフの皆さんが嬉々として設えたのだ。何だったら、カツラもあると言ったが、カツラかつけ髪かで揉めて、そのまま走る事になったのは良かったのか悪かったのか。カツラ。要ったのかどうかが後々まで彼らの争点となった。
 こうして愉快な撮影班の居る撮影用馬場から、無事砂スライムキメラは退治されたのだった。