●オープニング本文
前回のリプレイを見る「ああ、そうだ。厄介な相手だ」
区長イ・ドンギュは、椅子にもたれて、煙草をふかしながら、忌々しげに言い放つ。
『だからと言って、ここまで考えが及ぶとは思えないがな』
電話口の向こうからは、酷く冷静な声が返る。壮年の男のようだ。その声が勘に触ったのか、イ・ドンギュは渋面を作りつつ、声色は穏やかなまま、語り続ける。
「もちろんだ。我々は、このまま静かに時を待つ。それが役目だと理解している」
『しかし‥‥面倒を起こしてくれたものだ。目星はつかないのか』
「簡単に見つかるようなら、ここまで大事になっては居ない」
『ふむ。正しくな』
この区域で、まさかキメラが暴れる事になるとは思わなかった。
それだけなら、簡単にケリがつく。能力者に頼んでも、退治してもらえれば、すぐに事は終るからだ。
それが、後を引くような事件に発展するなどとは、ありえない事だ。
この、イ・ドンギュの統治する区域で。おかげで、話さなくても良い相手に連絡をとらなくてはならない。
イ・ドンギュは酷く不愉快だった。
「出来るだけ身辺には気をつけてくれ」
『それを言うなら、お前もだ。このような連絡はこれっきりにしてもらおう』
静かにモノを言う相手が気に入らなかった。
自分とは違うと言いたいのでは無いかと、最初から気に入らないのだ。自分の方がこの地域に来たのは先なのにだ。
「‥‥現状を認識してもらう為だったが、ラッキーバードとは迎えてもらえなかったようだな。残念だよ」
『嫌、貴殿の配慮はありがたく思う』
「‥‥まあ、良いだろう。こちらでなるべく早くお帰りになってもらうとする」
『手腕に期待するよ』
携帯電話の連絡が途切れる。電子音が耳に残る。淡々と連絡を切った相手を睨みつけるように、イ・ドンギュは携帯を握り締め、睨む。
「どちらが上か、見ていると良い」
大学の事務室で、キム・ホンス教授は、今期の聴講生の一覧を受け取っていた。
穏やかに笑みを浮かべる、物腰の柔らかなキム教授は、何所でも愛想良く対応してもらっている。聴講生は頻繁に増減する。だが、一応期間は決まっていた。
ぱらぱらとめくり、その中に、気になる聴講生の顔写真は無かった。
「能力者‥‥ね」
この区では、事件が起こっている。キメラがらみの連続殺人事件だ。
能力者がやってくるのは至極当然であろう。
──こんな派手な事件が無ければ、ここはまだ静かな区域だったはずなのに。
キム教授は苦笑すると、聴講生一覧を事務所に戻した。
紅い毛並みの獣が現れたという報が流れた。
その獣は、少し大きめの猫のような姿をしているという。
長い尻尾は二又に分かれ、緑の目が爛々と闇夜に浮かんだと。
目撃情報が入ったのは、住所不定者がたむろする、公園の一角。
寝泊りする数人を襲うと、そのまま、近くの家へと飛び込んだという。
その家は、三階建てのビルのようになっている、個人宅である。
付近住民の避難は済んでいる。
後は、能力者の到着を待つだけとなった。
「へ‥‥ぇ。紅い毛並みだって‥‥」
くすりと少年のような顔立ちの男が笑い、長い前髪をかきあげる。
背後で、がしゃりと、金網に突進する音がする。
「気に入らないよね、お前も」
青年は音のする方を振り返る。
「腐ってるのさ、ここは‥‥ね?」
くすりと、酷薄な笑みを浮かべるのは、カン・ドヨン。リモコンでTVのスイッチを切ると、ソファに寝そべった。豪華な革張りのソファには、幾筋も爪跡が、裂傷を作っている。そのひとつを撫ぜて。
「カラカッテやろうぜ? 紅老猿‥‥」
含み笑いが、マンションの一室に響いた。
●リプレイ本文
●錯綜
警察で目的の書類を発見し、平坂 桃香(
ga1831)はチェックを入れ始めるが、大通りを移動する車は多い。当然、不審車両は無いか、当たられていたが、住居が多く、友人知人などが頻繁に出入りする。車の特定には至らないようである。
キメラが、どういう手段で移動するのかもわからない。
住居特定は何かの前提が無ければ難しいかもしれなかった。
前回の報告書を思い出し、終夜・無月(
ga3084)は思考を深くする。
先の依頼で受けた傷跡が生々しいが、極力目立たないようにと気を配っていた。
どうしても動きが緩慢になるのはしかたがない。
溜息をひとつ吐くと、問題の根本を探る思いに、また落ちて行くが、上手く纏まらない。
名前の挙がった人物全てが疑わしいと思う。
しかし、推測と憶測だけでは、これといった人物は特定出来ない。
その為の物証が何も無いからである。
(「実行犯と‥‥キメラを区に入れた者は‥‥別でしょうか‥‥」)
全てが曖昧である。
紅いキメラが何所に繋がっているのか、もし繋がっているのなら、その相手はいったい誰か。
それを、つまびらかにするのがこの依頼の本質でもある。
膨大な情報を前に、無月は嘆息する。
過去の街での、多岐にわたる事件を探そうとすれば、膨大な量になる。
公園近辺の、住人に関する事件を検索しようとするが、公園の何所までの範囲かにより、その事件の数は桁違いになった。
そして、何をどう探すのかが見えてこない検索では、すぐに限界が来てしまい‥‥。
●紅いキメラ
太陽は真上に昇っている。何時、突入と決めていなかったが、ラスト・ホープから来る流れで、自然と昼になる。
「紅い毛並みの獣‥‥か。一連の連続殺人と関係があるのか、それとも‥‥」
軽く眉を寄せ、煉条トヲイ(
ga0236)は、仲間達を背後に庇いつつ、両手爪のシュナイザーを装備し、慎重に家に侵入を開始する。見取り図は依頼書からプリントアウト出来た。それを思い起こして、古い木の門に手をかけた。軽い蝶番の音が響き、寂れたコンクリの住居が目に飛び込む。
「今度は、猫キメラですか? よくよく、事件が起きる街ですねえ」
小さく呟くのは榊 紫苑(
ga8258)。天照という刀を構え、トヲイと共に、前に出る。紅いキメラという共通項はあるが、その共通項に対してあまり思考を巡らせてはいないようだ。ただ、事実だけを淡々と心内に刻む。
「気をつけないとね〜」
大泰司 慈海(
ga0173)が、超機械ζを使い、前を進むトヲイとロジー・ビィ(
ga1031)へと練成超強化をかけようとするが、ロジーが後衛に回るのを見て、前衛の紫苑へと指定を変え。
「生き物っぽい気配‥‥は、ありますわね」
日本刀花鳥風月を油断無く構え、最後尾を進むロジー。
「!」
カーテンレールの上から飛び降りてきた紅い猫キメラに、トヲイはとっさにその鋭い爪を振るう。
吹き飛ばされる猫キメラが、レースのカーテンに紅い跡をつけて、ずるりと布に巻き取られるように落ちれば、立ち上がる間も与えずに、襲い掛かる。
「やはり、すばやいか? 逃がすと厄介だ。速攻で片づけてやる」
2階のフロアだったのが幸いした。階段や廊下で襲われれば、どうなったか。だが、天井の照明を僅かに壊し、天照が猫キメラに入る。
慈海やロジーがその次の行動をするまでもなく、紅い猫キメラは動かなくなってしまった。
「――脆い。余りに脆すぎるな‥‥これは、違う」
トヲイがそのキメラを見下ろして、呟く。
漠然とした違和感を能力者達は感じていた。
その時、外で銃声が響いた。
鐘依 透(
ga6282)は、紅い毛の猿型のキメラに襲われていた。
仲間達が戦いをしているはずの民家へと向かおうとするが、その素早い攻撃に、連絡をする手が空かない。
ここは、路地が多い。透は、仲間達がキメラ退治をする間に、周辺を探索するつもりだった。前回調査に来ていて、ある程度の土地勘があるからだ。
(「違い過ぎるから‥‥」)
不用意に目撃されたキメラと、今までの連続殺人に絡むキメラとでは手口が違う。
だから、同一のキメラでは無い。そう理論立てて考え、周辺を探る。
しかし。
この場所は、家屋も多く、小さなキメラが身を潜めるには十分だった。
家々という、障壁は、森と変わらず、接近に気がつかなかった。
ふいに現れた猿キメラに、飛びかかられる。
フォルトゥナ・マヨールーが、絡みつく紅い猿へと向けられるが照準が合わせ難い。
「やっぱり、紅は紅でも‥‥キメラ違いかっ!」
真赤な口が開き、透の喉を狙う。
猫の目のような瞳孔が紅い猿の金色の瞳を睨みつけ、引き剥がそうと動く為、猿は喉には喰らいつけない。肩口に鈍い痛みが走った。
その一撃に満足したのか、猿キメラは、一端飛び退る。
透の銃が紅い猿を狙い撃つが、僅かに掠めただけで、その逃走を許してしまった。追わなくては。そう、キメラの走る方向へと向かうが、塀や、屋根の隙間へと入られては追いつけない。
しかし。猿キメラが逃走した方角で、車両が走り去っていくのを見た。
ここは今、紅い猫型のキメラが潜んでおり、住民の避難は済んでいるはずだ。
能力者が退治に来るという話が漏れていたのか、ただ単に野次馬だったのか。それはわからないが。比較的高価そうなセダン。
鈍くメタルに光る、暗い色したその車は、町中に溶け込むように走りこんで行く。運転している者の姿は良く見えない。
受けた傷は深くは無かったが、治療が必要だった。
●街の権力
「政敵は沢山居るぞ。何しろワンマンだからな」
「あ、そんな感じ〜」
警察へと、DNA鑑定を頼みに行きがてら、慈海は区長イ・ドンギュに関する話を警察内部から聞けないかと思っていた。前回感じた違和感が何か、その正体を見極めたいと思ったからだ。
一概に、口の軽そうな人物を見分けるのは難しい。
あちこちに水を向けるしか無く、かなり時間がかかった。だが、持ち前の人当りの良さと、その年齢。能力者という事もあり、休憩している男と一服をする事になった。
「ここって、裕福層が多いって自慢されたけど、その反面、公園で寝泊りする人も居るよね」
「それはまあ、何所でもそうだと思うよ、ここは特に、戦線から逃げてきた人達には住みにくい区画だわな。一応保護施設もあるが、何所もいっぱいだろ?」
何時の間にか出来上がった場所が、あの公園近辺なのだとか。
不法というわけではなく、自然と寄り集まり、一角を形成していったらしい。
「バグア侵攻と区長交代と時期は同じくらいだったから、区長のせいか、バグアのせいか、わからんね」
「そっか〜」
そうそうと、男は立ち上がった慈海に何を言うでもない風で呟いた。
「在住UPC軍の偉いさんがこの区に住んでるぜ。治安維持に努めろって、よく上から言われるのは、そのせいもあるみたいだ」
普通の事件だけで手一杯なのに、やってられないねという、呟きだった。
良く見ていないと、わからないほど僅かに眉を顰めて、区長は、報告に来た慈海と紫苑を眺める。
慈海は、DNA鑑定の結果を聞くためにも、またと区長に報告し、再びやって来れる為の区長の言質を取った。
●昼の街
(「いよいよ、きな臭くなってきたな‥‥」)
ヴァン・ソード(
gb2542)は、キメラ退治に向かう仲間達とは別れ、前回と同じピザ屋に顔を出した。
「なあ、俺覚えてる?」
怪訝そうな顔をする店員に、テンガロンハットを取り出して見せると、ああと、頷かれる。
「ピザ10枚の人」
「あ、この前と同じメニューな‥‥服装? 今日は仕事なんだよ。何か新しくて変わった噂ってないか?」
「別に、あれからは何も起こってませんよ。能力者さんが街に出入りしてますから、じき、解決すると思いますよ」
服装は普通になってはいるが、事件の事を聞きたがるのは、あまり良い顔をしてもらえない。能力者と知らせず、顧客情報を聞き出そうとしたのだから、怪しい人と思われているのは仕方ない。
「俺ライターでさ。都市伝説のアンケート調査をしてる。亡くなった彼の配達区に何か面白そうな話が転がってないかって思うんだが」
「‥‥何所の出版社の方です? 申し訳ありませんが、帰ってもらえますか?」
お代は要りませんからと、取り付く島も無い。
都市伝説のライターを装うなら、昼に大学を聞き込めば良かっただろう。
普通に商売をしている店は、出来る限り自分の店を悪い噂から護ろうとする。
しょうがないかとヴァンは溜息を吐き、夜に大学を調査する為に、そちらへと向かう。
それからかなり時間が経った後、ピザ屋にひょっこりと顔を出したのは慈海だ。
事件の調査をしているのだけれど、悪いけど顧客リストをコピーしてもらえないかなと聞けば、能力者さんならばと、愛想良くソ・ジョンフの配達区の顧客リストを入手する事が出来た。
車を持ち込んではいけないかなと思っていた桃香だったが、特に使用制限は無く、持ち込もうと思えば持ち込めれたようだった。だが、今回は足で稼ぐ事になる。
大学で、能力者としてキム・ホンス教授に話を聞く手はずをつけた。
「ドヨンとヨンスについて‥‥ですか」
穏やかな笑顔でキム教授に進められたソファに座る。
「はい。呼び出して貰いたいなって」
その前に、2人に対して、教授はどういう感想を持っているかと問えば。
ドヨンは、良くも悪くも人を惹き付ける子だと。頭の回転が速く、成績も上位。ただ、人を寄せ付けず、行動も身勝手な事が多い。
「イケメンというのですかね、それがまた、良いとかで、女性には人気があるようです。ヨンスは良い子ですよ。面倒見が良くて、人当りの良い。成績も良い」
キム・ヨンス。カン・ドヨン。
そう、名を告げられた2人が桃香の前に座ったのは、それから数分後。
長い前髪をかき上げる癖があるのが、カン・ドヨン。確かに秀麗な顔をしている。何所か子供っぽいがと、桃香は思う。
落ち着いた感じのキム・ヨンスは、目の下に隈がある。あまり良く寝れていないのか。
「亡くなったハン・ウンスさんに関して聞かせて下さい」
「‥‥運が悪かったんじゃないの? 深夜に出歩くからだよ」
「よせよ。ウンスだけじゃないだろ? みんな、普通に夜遊びに行く。行ってた。今までは」
「お前は誘ってもガッコに籠るだけだったけどな」
「ドヨン。‥‥すみません。ウンスは良いヤツでした。誰とでも気さくに話して、面倒見が良い」
「ああ、良いヤツだった。良いヤツ過ぎるからいけないんだ」
それ以上の話を聞くつもりはなかった桃香は、謝辞を述べて、大学を後にする。
聴講生については、特にこれといった話は聞けず。
2人の学生の印象を纏めながら、桃香は大学を後にする。
透も、キム教授に能力者として面会を申し出ていた。
時間を合わせていなかった為、桃香と透は、すれ違いになる。
「ウンスさんの葬儀の席での事です。‥‥変わった事、気が付いた事がありませんか?」
「葬儀だからといって、誰も彼もが悲しい顔をしている訳ではありません。悲しみに暮れながらも、ふとした会話で笑みが浮かぶ事など、良くある事です」
「それが誰だと、教えてはもらえませんか?」
「私の前置きを聞いた上で、お聞きになるのですから、生徒への配慮をお願い致しますよ?」
「もちろんです」
カン・ドヨンの名を透は聞いた。この街の事を聞けば、良い街ですよと穏やかに返されて。早く事件が解決するのを願っていますと告げられた。
校内でドヨンとヨンスを見つけた透は、優しげな笑みを浮かべて、近寄っていく。その腰にあるもので、透が能力者だと知れる。
渋面を作ったのはドヨン。
ウンスが夜出歩く先を。夜出歩く時には、何か変わった事が無かったかどうかを問う。
「ダチの全てを知ってる‥‥なんて思わないほうが良いゼ?」
軽く笑うドヨンを制するヨンスの申し訳なさそうな顔。透は、こちらこそ、不躾ですみませんと謝り、僅かに首を傾げて、これはただの疑問ですけどと、微笑んで。
「‥‥死んだ方が良い人間っていると思いますか?」
透の問いに、口笛を吹くドヨン。それを睨みつけて、ヨンスが透の目を真っ直ぐに見つめ返す。
「貴方はそう思われるのですか?」
「依頼を続けていると‥‥そんな風に思うことも少なくないので」
「模範解答は、死んでいい人間なんて何所にも居ない。になる?」
謝辞を告げ、透は仲間達の下へと戻る。全てが嘘のようで、全てが真実のような、嫌な感触を得た。
再び、学生のフリをして、ロジーはキャンパスを歩く。
同じように学生の輪に混ざり、話を聞くが、同じような内容の話を、同じような人物達から聞くのでは、あまり変化の無い答えしか返って来なかった。
「お嬢さん、少し事務局まで、ご足労願えますか?」
入れ替わり立ち代り、能力者達を見送っていたキム教授が、部屋からロジーが移動しているのを見かけたと、警備室まで連絡を入れたのだ。身元はすぐに割れるので、逆に恐縮しつつ送り出される。
思ったような成果が上がらなかったロジーは、しょうがありませんわねと、気持ちを切り替えて、夜の張り込みへと向かう。
それを、キム教授は深い溜息と共に、自室の窓から眺めていた。
●街の夜
猫のキメラは退治したが、時間一杯まではと、ランドクラウンに乗り込んでいる慈海とロジーは、何も変化は無いかと、公園近辺を張り込む。
しかし、この夜は何も起こりそうには無く、警察署で仲間の報告を待つ紫苑に剣呑な報告が来る事も無かった。
無月とヴァンは、夜の大学に来ていた。
大学の中へとは入らず、周辺を歩く。何か見つかるだろうかと。
大学は広い。外周の道路を、表門から、裏門へと外周を歩くだけで、たっぷりと30分はかかった。
キメラ騒ぎで、潮が引けるように人は大学から帰っていき、警備員の見回りも強化されている。
金色の瞳が獣のように光る。
覚醒を果たした無月ではあるが、その身体は何時もの状態ではない。
警察で情報を収集する中に、今の大学の警備体制の書類もあった。それをきちんと記憶してきている。
無月は人影を見つけて、しばし、身を潜める。
その人物は、キム・ヨンス。
薄く笑みを履いた彼は、校舎の中へと消えていった。
「遅くまでご苦労様です」
慎重に足を進めていたのだが、不意に声をかけられた。
曲がり角から、ヨンスが姿を現す。手には、本を持っている。
「君は?」
「忘れ物‥‥しちゃって」
覚醒状態の無月を見ても、あまり驚いた風も無い。
覚醒しているから、能力者だとわかったからかもしれない。
じゃあと、お辞儀をして、来た道を戻って行くヨンスの後姿を、無月はじっと見送った。
連絡を受けたヴァンが、ヨンスが出てくるはずの方角の出入り口で待っていたが、そこからは、ヨンスは出てこなかった。
そして、無月が同じ夜に再びヨンスと顔を合わす事も無く。