●リプレイ本文
●障害物デッドヒート
青空に、開始の音が高らかに軽く響いた。
横一線に並んだ能力者達は、まずは1Km、トラックを走る事になる。
飛び出したのは、NAMELESS(
ga3204)。
「けけけけけー!」
高らかな笑い声が抜き去る相手の居ない空間へと響く。
その後を追うように、エレナ・クルック(
ga4247)、不知火真琴(
ga7201)、オリガ(
ga4562)、柚井 ソラ(
ga0187)、五十嵐 薙(
ga0322)、叢雲(
ga2494)と続く。鼻の差だ。
「ふふふ〜♪」
エレナは、同じチームになったUNKNOWNを見ては、可愛らしい笑い声を上げる。お揃いの、お面を気にして、また笑みがこぼれ。
運動会みたいで懐かしい。そう、真琴は思う。腰に下げたきりんさんのお面が揺れる。
さらに後ろからは、水理 和奏(
ga1500)、辻村 仁(
ga9676)、レーゲン・シュナイダー(
ga4458)。
ペースを崩さないようにと気を配るのは仁。
(「1Km走‥‥」)
焦点の定まらない遠い目をしたレーゲンの、ふたつに縛った淡い栗色の髪が肩で揺れる。体力も運動神経も自信が無い。正々堂々と、楽しくゴー。意気込みは十分であったのだが、早くも気持ちがくじけるかも?
ぐっと遅れてUNKNOWN(
ga4276)と暁・N・リトヴァク(
ga6931)が続く。
「ふふ‥‥軍の用意した過酷な戦場で、また傭兵同士の戦いが始まるのだね‥‥」
スーツにお面をしっかり被ったUNKNOWNは、思わず目頭を押さえて下を向いた素振りの中から、UPC軍総務課ティム・キャレイを思い出す。人数が均等で、足らないのはひとりづつだ。このまま競技を致しますと、開催を宣言した彼女は果たしてそれに気が付いているかどうか。ティムとUNKNOWNを見比べて、駄目ですからねと、本当の親子では無いが、娘のレーゲンから軽く突っ込みが入っていた。だが、気にする彼では無いだろう。
最初に1Kmを突破したのはエレナと辻村である。
その抜き去った背中を見て、薙が呟く。
「自分のペース‥‥焦っちゃダメ‥‥」
中盤の走りの伸びを見せたのはレーゲン、薙、真琴。少し足が鈍ったNAMELESSと叢雲がその後を追い、同着で駆け抜ける。もたついた和奏は、終盤に良い足の伸びを見せ、UNKNOWN、暁、ソラが続く。6位以内の位置をキープしたかったオリガだったが、中盤、終盤と上手くレースを制する事が出来ず、最終ランナーとして1Kmを走破する。
玉入れの玉の大きさ、重さを今一度確認して欲しかった。
その大きさは夏みかん大。ずっしりと入った小豆が、そこそこの重さを手に伝える。
「らいおんさん、はりけ〜ん!」
言ってみたかった。エレナは投げ入れると、にこりと笑う。必殺技を叫ぶ効果は絶大のようだ。
いち抜けするのはエレナ、仁、薙。真琴が後を追う。
「狙い‥‥うつぜ〜♪」
リトヴァクが玉をばらまきつつ狙う。
最終近くに飛び込んだオリガも玉入れをクリアし、お面をスリング代わりにしようとするNAMELESSだったが、お面は色画用紙である。ホチキスとテープで止めてあるそのお面に、この玉を乗せて飛ばすには難しい。叢雲が続いて入れると、非常に入れるのに時間のかかったレーゲンが続き、和奏、UNKNOWN、そして、やはり非常に入れるのに時間のかかったソラが最後の玉を入れ。
500m網くぐりで、上位順位が入れ替わる。
薙、真琴と続き、仁が僅かに鈍る。かいくぐるのはNAMELESS。
網にとられたか、エレナががくりと順位を下げる。
従軍経験を思い出し、網をくぐるが、混戦である。リトヴァクが僅かに抜かされ、叢雲がじりじりと追い上げる。そしてUNKNOWNが順位を上げ、再び落ち込むのはオリガ。
らいおんさんが、何をしでかすかわからないというイメージはしっかりと定着しているようだ。前回のらいおんさんを思い返し、必要以上に近寄るまいとオリガは思う。
レグ、和奏。ソラは中々先へと進めない。
(「あわあわなっちゃうと実力出せなくなっちゃいますし」)
最後尾でも、落ち着いて。そう、ソラは心に思う。体力のみならず、心も鍛えようと思う、その様が、本人が意識していないようだが、すでに強い心の現われでもある。
顔を真っ白にするのはお約束である。飴探しの白い粉が吹き上がる。
ぶっちぎりのトップは薙だ。悠々と飴を探し出し、駆けて行く。
NAMELESSが二番手に躍り出る。そのすぐ後を、僅かに順位の入れ替わった真琴、仁、リトヴァク、エレナが追う。横一線に並んだのは叢雲、UNKNOWN、オリガだ。
エレナが粉にむせるが飴はGET。
「せこい? だからどうしました?」
ふ。
叢雲は飴をGETすると、こんもりと白粉を追加する。追従する3名に、爽やかな笑いを白い粉をつけた顔に浮かべて、颯爽と走っていく。ポニテの髪が揺れる背中が僅かに憎いかもしれない。
和奏、レーゲンが追いかけ、ソラが追う。
「らいおんさんの嗅覚で探し当てるっ!」
こんもりした粉に、う〜っ。と和奏が叫ぶ。嗅覚が良いのは犬系‥‥という突っ込みは無し。伝統だと思う体操服とブルマに運動靴を借り受ける。
平均台でも僅かに順位が入れ替わる。落ちてしまった数人が順位を下げ。
障害物競走の花と言えば、パン食い競争。
ゆれるパンを、いかに1回で咥えるかが、勝負の分かれ目となる。不運だったのはエレナだ。どうして捕まらないのか。がっくりと順位を下げてしまったが。
もちもちの蒸しパンを、駆け抜けてきた薙は嬉しそうにぱくりと咥え。
仄かに甘いざらめのかりかりと中身ふわふわのメロンパンを加えて走るのは真琴。
NAMELESSは、勢い良く黒糖パンを紐ごと奪い、タイムロスを狙う。高らかな笑いが響き渡る。
パンの指定の無かった叢雲は、ツーんとする山葵に顔を顰める。らいおんさん工作の山葵入りアンパンだ。だが、僅かに眉を寄せただけで、そ知らぬ顔で走り去り。
工作、わが命。そんな感じのUNKNOWNは、アンパン細工の結果を見て微笑む。
カリッとした食感と、スティック状の形が特徴的なイタリアのパン、グリッシーニを狙うのは仁だ。まずは顔に当てて、固定してからしっかりと咥えちぎる。
「!」
ダイビングしてアンパンを口にしたリトヴァクは、とんでもない顔をする。やはり、パンを指定していなかった為、山葵入りあんぱんをGETしてしまったのだ。報復は後ほど?
酒粕が薫り高い。桜の塩漬けがアクセントな、アンパンをオリガは軽々と咥えて走る。
思い出深い、大好きなカレーパンを和奏はぱくりと口にして。
チョコがはみ出る。レーゲンは甘いチョココロネを、むう。とばかりに口にする。
エレナはクロワッサンの端を咥えて、まけないでふ〜ともがもがと叫び。
ソラも上手に抹茶無視パンを口にするが、その差は最後まで埋まらなかった。
そして、おひとり様、武器携帯のペナルティ。点数没収となる。7着だったのだが。残念。
<障害物競走結果>
1位 五十嵐 薙 10点
2位 不知火真琴 8点
3位 NAMELESS 5点
以下 2点
4位 叢雲
5位 UNKNOWN
6位 辻村 仁
7位 オリガ
8位 水理 和奏
9位 レーゲン・シュナイダー
以下 1点
10位 エレナ・クルック
11位 柚井 ソラ
以下 0点
12位 暁・N・リトヴァク
●虚しくなんか無いさ応援合戦
うさぎさんの応援が始まる。
「学ラン‥‥かっこいい‥‥です」
「薙さんも」
ほわんとした、らぶらぶ桃色空気をず〜〜っとかもし出しまくっている薙とリトヴァクは、学ランに白の長い鉢巻を締めている。
薙は、少し大きかったのだろうか、袖を僅かに折り曲げて。
太鼓が、でん。と、中心にある。
見詰め合う目と目。じゃなくて、リトヴァクと薙は、この太鼓を叩く為のアイコンタクトをとる。
腹に響く音が、吹きぬける風に乗って響き渡る。
ウサ尻尾を羽織袴にくっつけた、叢雲とソラは、踊り用の大きな扇子を手にしている。頷きあって、そのまま簡単な踊りに入る。
重なり合った太鼓の音が、次第に追いかけ合う音に変わり、互い違いにバチが舞い、羽織袴組みがそれを追う。
「うさぎさんの勝利を祈ってー」
叢雲の声が朗々と青空に向かい、三本締めが、高らかに響いた。
颯爽と現れたのは、きりんさんだ。
チアリーディングの衣装を着込んでいる。基本は、身体を動かす踊りなど。
3人のチアガール達に混じり、仁は同色のスポーツウェアで統一感を出す。
華やかなポンポンが揺れる。ひらひらとしたミニスカートが踊る。
本気で恥ずかしいのですが、がんばりましょう。と、心中で呟いているのはオリガだ。ミニスコート姿は、次は何時拝めるのだろうかというぐらい、貴重なものである。低くは無い女性陣の中、ひときわ目を引く。
そして、素人には難しい技も入る。
「7」
カウントが始まる。真琴とオリガ、レーゲンと仁が、笑顔を崩さず組になる。エレベータと呼ばれる、高さのあるチアリーディングの技だ。
「8」
真琴をオリガが支え、レーゲンを仁が支える。
「12」
掛け声を合わせ、なるべくゆっくりと、確実に呼吸を合わせ。
「DOWN」
レーゲンと真琴が、ふわりと、空中に持ち上がる。
「UP!」
時間にすれば短い時間であり、完璧とは言いがたかったが、具体的に実にがんばった。降り様に、レーゲンが多少ふらついたのはご愛嬌である。
音感も運動神経も自身の無かったレーゲンが、思わず心の中でガッツポーズを作る。
成功を笑顔とアイコンタクトで喜び合うと、真琴が、ぽんぽんを揺らして、うさぎさんチームを差す。
「Let’s Go Rabbit Go Fight Win」
続いて同じように、仁が、らいおんさんチームを差す。
ライバルチームを称えた後は、きりんさんチームの勝利を願い。皆の声が重なって。
きらきらと華やかなきりんさんの応援が終了した。
そして、何時も身体を張るのはらいおんさんと決まっている。
何だか、とても、美味しそう。
そんな扮装である。山吹色っぽい茶系の全身スーツが3人。UNKNOWNとNAMELESS。そして、エレナだ。それを応援するかのように、和奏は体操服にブルマ姿だ。
茶系の全身スーツを恥ずかしげも無く、もっこり‥‥何所だかは不明‥‥させてUNKNOWNが、何時ものように(?)不敵な笑みを浮かべている。ママ役らしく、鬣が無い。変わりに、アフロが全身スーツの上に載っている。
美味しそうなのは、NAMELESSだ。同色で顔と同じぐらいの大きさに布を丸めたものを8つ、顔の周りに鬣よろしく括りつけてある。
しかし、残念な事に、扮装以外の応援は決まっていなかった。
らいおんさん夫婦+子供+応援。
非常に迫力はあったのだが。
<応援合戦結果>
うさぎさん 8点
きりんさん 10点
らいおんさん 5点
●青春の力の限り引く綱
綱引き。
確かに、50mも引きずり倒すのは、かなりな力技だ。
しかし、この綱引きには、それ以外にもデンジャラスなルールが付随していたのを、能力者達は見落としていた。
確かに、何の問題も無ければ、この競技はすんなりと終了するはずだった。総当り戦でさえなければ。各チームの力が拮抗しなければ。
「ん〜‥‥負けたく、無い‥‥です」
薙が、空を仰いでぽつりと呟く。
太い綱を握り締めて、引きまくる事、6回目。すでに、4回戦に突入していた。何所か1チームが脱落、もしくは勝ち抜ければ、最短2回戦で勝敗は決していただろう。
最初に、そろって1勝1敗になった時点では、まだ余裕はあった。
2回目の総当り戦では、各チーム接戦が繰り広げられた。特に、うさぎさんVSらいおんさんの第2回戦は壮絶だった。中心線からほんの僅かづつ、互いの陣地に引き寄せては戻り、戻っては引かれ。何時まで続くのかと思われた戦いは、うさぎさんチームの怒涛の引きで一気に勝負が決まる直前まで、どちらが勝つとも言えなかった。
けれども、2回戦では戦いは決まらなかったのだ。続く3回戦は、最初の引きをとったチームがそれぞれ勝ち進み、気がつけば、3勝3敗。
全ての戦いが終った時点で勝ち残るチームが居なければ終らないのだ。
「「らいおんさ──んウォー──クラ──イ!!」」
らいおんさんチームは、ぐっと引き込む瞬間に必殺技の名を叫ぶ。和奏とNAMELESSの叫び声が青空に吸い込まれ、ついでに、NAMELESSも青空に吸い込まれるように、飛び上がる。確かに、意表をついてはいるが。
そうして、エレナと和奏を大地に落とさないようにするのは、褌をきりりと締めた、鼻眼鏡姿のUNKNOWNである。
「うにゃ〜‥‥」
何度となく、すぐ後ろのUNKNOWNに倒れ込んだが、何度倒れ込んでも非常に恥ずかしい。エレナは終始、赤面のままだ。
「らいおんさんを舐めてはいかん、な?」
そんなエレナに、笑いかけるUNKNOWN。確かに、接近する距離は格段に縮まっているようだが、どうなのだろう。和奏は、わざと押し込むように倒れて。こそりと2人を応援する。
何時まで続くのかと思われた、4回戦目のトータル12戦目に、ようやく均衡は崩れた。すでに全員足腰、腕がへろへろである。
きりんさんVSうさぎさん。
「お〜えす!」
空に届けとばかりに、仁を先頭にしたきりんさんは、正面を見ず、青空をその双眸に映して戦う。視線を空へ。この基本を忠実に守っていたのは、きりんさんとうさぎさんチームだ。全員の掛け声も揃っている。
「おう、えす! おう、えーす」
リトヴァクの声に力が入る。力と技とのガチ勝負は、うさぎさんへと微笑んだ。じりじりときりんさんに引き込まれ、また、勝敗が決まらないかと思ったその瞬間。ぐぐっと、うさぎさんへと綱が流れた。そして、そのままの勢いで、引っ張れば、勝利の旗は、うさぎさんを指し示し。ホイッスルが、勝者の耳に気持ち良く響いた。
そして、2位3位決定戦では、基本を押さえた引きによって、きりんさんがぐいと引き寄せれば、負けじとばかりに、らいおんさんがずるずると自分の陣地に引き込み、あと僅かでらいおんさん勝利かと思ったその瞬間、怒涛の巻き返しで勝敗を決する。じわり、じわりと手繰り寄せたきりんさんへと、勝利の女神は微笑んだのだった。
「勝ち負けに関わらず、らいおんさんチームで再会できたのが嬉しいな‥‥」
えへへ。と、和奏が笑う。楽しい記憶は沢山心に残った。
<綱引き結果>
うさぎさん 10点
きりんさん 8点
らいおんさん 5点
参加賞としてツナギを手渡され。
手作り金紙メダルが赤いリボンにつけてかけられ、緑のリボンの銀紙MVPバッチが真琴につけられた。全ての競技等において積極的な取り組みが高評価をもたらしたとか。
<総合結果>
うさぎさん 31点
きりんさん 35点(MVP3点込み)
らいおんさん 20点
今度はお楽しみ会込みの、クリスマス?