タイトル:【収穫祭】かくれんぼ?マスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/11 13:05

●オープニング本文


 カプロイア本社、会議室。個性豊かな外見の重役達の見守る中、カプロイア伯爵が今年度上期を概括していた。
「名古屋、北米での拮抗した戦況から、欧州ではバグアを撃退までしたのだから‥‥」
 社としては、ファームライドを奪われるなどの汚点もあったとはいえ、今までに限れば、人類にとって今年は良い年だった、と伯爵は言う。それはつまり、同社にとっても良い事だ、と。
「‥‥そうだ。そろそろ収穫祭を祝う季節だね」
 伯爵の何気ない一言に、会議室の一同の目が集まった。
「この素晴らしい年を祝うのに、普段通りのこじんまりとした祝宴では‥‥いささか、寂しい気もするな」
 窓際をゆっくりと2度往復してから、彼はポン、と手を打つ。
「そうだ、今年を勝利の端緒としてくれた傭兵諸君を招かないでどうする。とすると会場はラストホープを抑えねば。食材は無論、各地の最上級の物を揃えてくれたまえ。それから‥‥」
 何かのタガが外れたように、伯爵は矢継ぎ早に指示を出し始めた。会議室の面々は、慣れた様子でそれを受けて行く。
「カプロイアの名にかけて、素晴らしい祝宴としようではないか」
 最後にかけられた伯爵の声に、重役たちは真昼間からグラスを掲げて賛意を示した。

+ + + + + +

「香り米を収穫してきていただきたいのですわ」
 ほう。と、溜息を吐くのはUPC軍総務課所属ティム・キャレイ。クリップボードに挟み込んだ、レトロな書類をめくりつつ、嬉しげに微笑む。
 ツテもコネも大いに活用する事が大好きな彼女は、それが強化される事が何より喜ばしいのだろう。
「魚心あれば水心ですわね」
 何。
 頷く彼女の真意を測りかねて、思わず突っ込みを入れたくなるが、傭兵達はぐっと堪えた。どうやら、依頼のようなのだ。
「特別な土地があるようですわ」
 香り米として世界各国にその名を知られているタイ米。この時期は一年に何度も収穫するタイ米の丁度稲穂が実る直前のようだ。通常の畑のタイ米はあと数ヶ月待たなくてはならないが、個別に作られているブランド中のブランドである、その香り米は、一年に一度しか収穫をしない。土地を休ませてまた作るという、贅沢な作りをしている。それ故に、只でさえ美味しい香り米が、信じられないほど美味しい香り米になっているのだという。
「伯爵には何かとお世話になっております。そのお手伝いとして、私共からも、ひとつ収穫をお渡ししたいと考えましたの」
 ツテもコネも、強固にするのは楽しい事ですもの。そう、にこりと言い切ったティムは、電卓を叩いている。
「オレンジ頭‥‥といえば、もう説明はいりませんでしょうか」
 そのキメラが確認されてから、じき、1年が経つ。オレンジ・ジャック。ふざけた人形の小さなキメラ。身長60cm。黒いマントと黒いタイツを履いている。その、頭は南瓜。目と鼻、口の位置がくり抜かれたジャック・オ・ランタンに似たキメラである。
 何しろ行動が多く、下手に逃走されれば、グラップラーの能力でなければ、まず追いつけない。一直線に逃げるのならば、遠距離武器が有効でもある。
「かくれんぼをしているようですわ」
 相変わらずふざけている。
 3体のオレンジ・ジャックは、1体が鬼になり、2体が香り米の土地に潜む。
 手にした石をぽんぽんと金色の稲穂へと投げつけると、近い場所に居るオレンジ・ジャックは腹を立てて、飛び上がり、鬼とおぼしきオレンジ・ジャックへと向かって走ってくる。そこで、3体が取っ組み合いの喧嘩になり、勝ったとおぼしきオレンジ・ジャックが鬼になり、稲穂に背を向け座り込む。その隙に残る2体は、また稲穂の中へと飛び込んでじっとしているのだ。
 夜は夜で、稲穂の中に入り込んで寝ているらしい。
「それ、かくれんぼじゃないような‥‥」
 ぽつりと誰かが呟いたが、ティムは知らん顔をしている。
「キメラ退治した後は、稲刈り体験が出来ますわ」
 プロの方が、退治後は香り米を収穫してくれる。その黄金の米俵‥‥もとい。香り米の米袋を運んできて欲しい。
 その総量1t。大型のトラックが配送には借りられるという。
 収穫後は、冷たい炭酸水か、お茶が配られる。
 収穫の終った土地を眺めながら、トラックの荷台で風に身を任せて、喉を潤しつつ、のんびり昼寝するのも良いかもしれない。
「乾いた稲穂の香りは、良いものですわ」
 ティムが電卓で出た結果を見て、にこりと笑った。

●参加者一覧

叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
オリガ(ga4562
22歳・♀・SN
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
鴉(gb0616
22歳・♂・PN
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD

●リプレイ本文

●乾いた大地に風が吹く
 見渡す限り、刈入れの終った土地である。渡る空気がとても気持ちが良い。
 吹く風に、黒髪を遊ばせて、ランニングにライダースジャケットを羽織った鴉(gb0616)が、のんびりとしたその風景に心を動かす。トラックが揺れると、十字架のチョーカーが首元で小さく揺れた。
(「まだ、戦禍に呑まれてない場所があるのは‥‥救いで‥‥」)
 戦火に飲み込まれ、人の住む場所は押しやられたが、取り戻したい場所がある。そんな、気持ちがふっと、湧き上がった。
 目を閉じて胸いっぱいに深呼吸する。子牛を乗せて行く、何所と無く切ないサビのフレーズを、明るく歌ったクラウディア・マリウス(ga6559)は、トラックの荷台で運ばれる自分達と重ねたのだが、何か違う事に気が付いて、大きな青い瞳を忙しげに動かし、あれ? と、呟く。
 トラックで運ばれているが、売られていくわけでは無い。
 香り米の収穫地にトラックで乗りつけた、能力者達の目的は、オレンジの大きな頭を揺らした、ハロウィンのお化け南瓜そのもののキメラ達である。
 僅かに、笑みを浮かべ、目を細めて収穫後の土地を眺めるのは不知火真琴(ga7201)。小学生の自分を懐かしく思い出す。
 懐かしいのは、もう戻らない時間だからだろうかと、ふと見れば、青い空を横切る友の姿が目に入る。
「忙しい時期ですけどね?」
 薄く笑みを掃くのは、叢雲(ga2494)だ。大規模作戦が展開されている。それにかかりきりになる者も多い。しかし、最前線以外でも、キメラなどの被害はいつもラスト・ホープへと持ち込まれ、尽きる事が無い。
 がんばりましょうかと、頷く叢雲は、米には思い入れがあるようだ。執事服に羽織ったレザージャケットが気持ち汗ばむくらい、今日は良い天気。刈入れ時であった。
「‥‥ピクニックに最適な日和です」
 長さ737mm。長い銃身のスナイパーライフルで無造作に抱え、カウボーイハットのツバを押し上げる。シューティンググラスに覆われた青い瞳が眇められた。作戦が上手くいけば、援護射撃は必要ない。そうなったら、オリガ(ga4562)にとってこの依頼はピクニックに他ならない。スーツにサバイバルベスト。足元はしっかりとジャングルブーツ。
「香り米をもらいに来たら、オレンジ・ジャックですか? 確か、子供っぽくて素早いので、逃げられないように、しないと」
 依頼の冒頭に説明のあった事と、作戦の要の部分を神森 静(ga5165)はひとり復唱する。しゃらりとチャイナドレスの衣擦れの音がする。ひらりと舞う裾からはメラーブーツが覗く。
 土煙を僅かに上げ、風をはらんでトラックの後を走行して来た、二輪のタイヤが軋んで止まる。夏目 リョウ(gb2267)だ。鮮やかな赤い髪が、背でゆるく三編みに揺れる。
 のどかな風景を全身で受けて走るのも、良いものだと思うが、そののどかな中に倒すべきキメラが居る。DN−01リンドヴルムが、リョウの声と共に、その形態を変える。
「行くぜ烈火‥‥武装変!」
 真紅のDN−01は、見る間にリョウの身体を覆って行く。
「マグロ、チーズ、栗‥‥そして最後は米だ!」
 カプロイア伯爵からの依頼を多く引き受けていたリョウが、軽く装着したDN−01の具合を確かめるように肩を回せば、リン=アスターナ(ga4615)が、火のついていない煙草を口に咥えたまま、私は、この前はハムだったわね。と、小さく笑みを浮かべて、荷台から降りる。男性用スーツの上に軽いBDUジャケットを着込んでいる。なじんだ革靴で藁の粉が飛ぶ地面に着地する。
「伯爵ご所望の食材調達‥‥今回もしっかりお使いをこなすとしましょうか」
 私は花かごに次いでかなと、クラウディアも笑う。
「パーティを楽しみにしている全ての人々の為に、今日も正義の武装変だ!」
 参加出来るだけ沢山、食べ物の収穫祭を成功させたいのだと、リョウが頷いた。

●現れ出でるはオレンジ頭
 その未収穫地へと近付くまでには、何の障害物も無い。
 だだっ広い農耕地。
 その一角のみ、黄金色した稲穂が揺れているのだ。
 鬼役のオレンジ・ジャックは、広い未収穫の稲穂の周りを回りながら、小石をぽーんぽーんと、揺れる穂の中に投げ込んでいる。何度目かの遠投で、なにやら甲高い声が上がる。飛び上がったのは、オレンジ・ジャック。稲穂を揺らして、石を投げるオレンジ・ジャックに突進する。その途中で、また別のオレンジ・ジャックが飛び上がる。3体がそろった所で、顔を突き合わせ、一瞬の間を置いた後に、殴り合いの取っ組み合いが始まる。
「ほんとにやってる、やってる。隠れんぼかはともかくとして、ちっさい頃のケンカを思いだして、ある意味微笑ましいな」
 身長60cmのキメラが、真剣な殴り合いをしている様を見て、リョウは、くすりと笑う。彼の居る場所は、まだ稲穂から遠い。
「星よ、力を‥‥」
 クラウディアも覚醒する。きらりと光って現れるのは左手首に星を繋いだブレスレット。
「ちゃっちゃっと引き寄せましょう」
 真琴が取っ組み合っているオレンジ・ジャックへと足を向ける。ふんわりとした白い髪と、真っ青な双眸にほんのりと赤い色が浮かび上がるかのように見える。覚醒だ。
「そうね。稲に傷をつけないように、退治してしまいましょう」
 淡い銀のオーラがリンを包む。漆黒の瞳も、銀に変わり。鴉の紫の瞳は紅蓮の赤へとその色を変え。僅かに見える首元へと伸びる紋様は、ジャケットに隠れて見えないが両腕から伸びている。
「誘い‥‥乗ってくれると良いですね‥‥収穫と、ゆっくりする時間が‥‥なくなっちゃいますからね」
 ふわりと吹いた風が、乾いた藁の匂いを巻き上げる。
「「「ぎゃぎゃ?!」」」
 オレンジ・ジャック達は、接近する能力者──敵を発見した。
 黒い短い手足を振り回し、黒い小さなマントを翻し、3人へと向かって走って来る。額に青筋マーク、ぷんすか! という擬音がついてくるかのようだ。
 どん。
 そんなダッシュの音がしたかのように見えたのは、オレンジ・ジャックの足の速さだ。真琴が息を呑む。足の速さは十分知っていた。それが、オレンジ・ジャック自らが逃走するために使われるものだと思っていたのだが、その足は、敵を急襲する為にも使われる。
「っ!」
 おびき寄せて、引きつける。
 その役目は果たせたが、ぐんぐんと近付くオレンジ・ジャック。翻弄するはずだが、その余裕が無い。
「早いっ!」
 間近に迫るオレンジ・ジャックに、鴉が小さく呻く。手にする蛍火を構えなおす。
「悪いが隠れんぼはもう終わりだ」
 リョウが竜の翼を使う。見る間にオレンジ・ジャックと稲穂の間へと走り込む事に成功する。
 叢雲、静、クラウディアも同じように稲穂とオレンジ・ジャックの間へと走り込もうとするが、その姿は遮蔽物の無い収穫地では丸見えで。
「「「! ! !」」」
 新たに稲穂に近付く敵発見。そんな感じで、グラップラーに近付くオレンジ・ジャックの足が一瞬止まる。
「そっちじゃないでしょ、おちびさん達」
 くすりと、リンが笑う。
 挑発などは万国共通に意味が通じてしまうものだ。キメラにも通じるかどうかはさておき、オレンジ・ジャックには通じたようだ。なんだかムカついたというポーズをとっている。
 だが、より稲穂に近付く相手を先に排除しようとするのは、その場所に執着している彼等の行動原理でもある。
 おびき寄せようとする相手よりは、稲穂へと向かう相手に突進するのは自然な流れだ。
「っ! 待ちなさいっ!」
 真琴が叫ぶ。
「‥‥違った意味で混戦になりましたか」
 少し離れた場所で、オリガが貫通弾を詰め込み、油断無くオレンジ・ジャックを狙っている。照準を合わせるのは、とろりとした銀色の右目。そこから楔形に浮き上がる紋様。
 囮と挟み打ちの班が逆ならば、すんなりと思った形に持っていけた。
 しかし、現実は稲穂側に居るのはリョウのみである。
「必殺、カボチャ割りだっ!」
 リョウが手にする長さ2.8m程の槍斧インサージェントを振り上げる。紅の斧刃が光り、迫るオレンジ・ジャックへと駆けて振りぬけば、それはひょいとばかりにかわされ。
 リョウを抜ければ、目の前は稲穂の海だ。
 銃声が響き渡る。
 オリガの貫通弾が一番稲穂に接近していたオレンジ・ジャックを打ち抜いた。
「狙ってくれといわんばかりのその頭が悪いのです」
 軽く息を吐くオリガ。砕け散る南瓜。
 クラウディアが。ふわりとワンピースの裾を揺らす。ジャングルブーツを履いた足は一生懸命走るが、オレンジ・ジャックはこちらに、こちらは稲穂へ向かえば、接触は嫌でも早まる。
 配置についたら練成強化。そう思っていたクラウディアだったが、間に合わない。
「おや、何処に行こうというのですか? ‥‥速けりゃいいってものじゃありませんよ」
 挟み込む事が出来ないならば、その足を止めるまで。
 執事様姿の叢雲のスコーピオンが、オレンジ・ジャックの足元を狙い、立て続けの銃弾が足を止める。
「星の加護を!」
 その間に、クラウディアは仲間達に練成強化をかける。
「もう充分遊んだな? それじゃ、年貢の納め時だ。速攻で、どいてもらうぞ?」
 静の口調が変わる。やわらかな雰囲気は消えうせ、酷薄な眦に、浮かぶ瞳と髪は白銀へと。手にする蛍火がぎらりと光る。
 どうやら自分達の立場が悪い事に気が付いた残り2体のオレンジ・ジャックの顔に、やばい。そんな表情が浮かぶ。
 しかし、気が付くのは遅かった。
「はいはい、逃がさないですよ〜」
「‥‥てこずりましたね」
 空を切るのは、真琴とリンの足技だ。刹那の爪が、オレンジ・ジャックの黒い胴体へ入いれば、きらん。そんな放物線を描いてオレンジ・ジャックは飛んで行く。
「止めかな?」
 鴉が落ち様のオレンジ・ジャックを、蛍火で切り伏せれば、止めは大事ですねと、叢雲が笑顔でS−01で正確に打ちぬいた。銃声が重なって響いた。

●藁の香が風に乗り
「稲刈りとか収穫とか、初めてなので楽しみだったんです」
 鴉は、稲刈りを手伝いつつ、稲運びに回ろうかなと、積み上がって行く稲穂の束を見て笑みを浮かべる。
「本当は、機械の方が早いんですよ? まあ、倒れた所は、無理なので手作業になりますけど、慣れてない人は、きついかもしれませんね?」
 妙に手馴れた静が、さくさくと稲穂の束を作る。
 乾いた感触と、揺れる米の穂が耳に優しい音を届ける。
 稲刈りを手作業で行うのは腰に来る。
「面白そうだと思ったけど、これは結構きついな」
 数十分もすれば、使わない筋肉がぎしぎしと悲鳴を上げる。リョウは、うーんと腰を伸ばして、立ち上がって、伸びをする。
 興味深々な真琴も、たは。と腰をさすりつつ、それでも社員さん達に混じってがんばって稲を刈る。
 クラウディアも、オリガもリンも、手伝いに精を出し。
 退治後にトラックで大挙してやって来た、怒涛のような社員さん方の人海戦術もあり、瞬く間に香り米は収穫を終えた。

 お疲れ様でしたと飲み物を配るティムに、リンがお弁当を指して、くすりと笑う。
「青空の下、皆でお弁当をつつく‥‥これも私達とのツテとコネを強固にする手段の一つかもしれなくてよ、ティム?」
「‥‥っう」
 お誘いは何時もとてもありがたい。でも、理由無く、遊びや休憩に混じるのは出来ない。上司への立場もある。仕事一筋のティムには、仕事絡みの半強制が一番効果があるようである。もちろん、リンの言葉の裏にある優しさは承知しているようで。喜んでご相伴に預かりますと、満面の笑みを浮かべて、とことこと付いて来る。まるで子犬のようねと、リンはこそっと思う。
「はい。ティムさんも、お疲れ様でした」
「ありがとうございます。頂きます」
 良かったらと、ゼリーを社員たちに勧めていた真琴が、にこにこと戻ってくる。多めに作って正解と思う。甘いものが大好きそうなティムが、顔雪崩を起こしているのに微笑む。葡萄、梨、林檎のゼリーはほんのりと冷えて甘過ぎなくて、乾いた喉に優しかった。
 どうぞと出されたリンのお弁当。
 リョウが歓声を上げる。
「うわ。すげー」
「ほわっ、おいしいですっ!」
 クラウディアが、満面の笑みを浮かべれば、料理はからきしの鴉が、嬉しそうに、しみじみと呟く。人様に作ってもらった食べ物は、ありがたくて美味しい。
「手料理って良いですね」
 出汁巻き卵の黄色が眩しい。きんぴら。ピーマンとじゃこの炒め物に、ピリ辛風味の唐揚げ。懐かしく、ほっとするようなおかずが並び、おかか、鮭、昆布のおにぎりが、これでもかと、いうぐらい握られていた。
 狭くは無い香り米の収穫をしにきた社員の人数は半端無い。お裾分けにどうかと思ったのだが、果たして全員に手渡るだろうか。そう思っていたら、叢雲も、かなりの量を持って来ている。仲間内全員で食べて問題の無い量というのは、意外と多い。中身はやっぱり鮭が基本。浅漬けにした夏の名残りの野菜の漬物も沢山会った。
「香り米の産地で、米というのも恐れ多いですが」
「あら、でもジャパン米とはまた違うから、かえって喜ばれているみたいよ?」
 リンが、叢雲にくすりと笑えば、きんぴらの隠し味や出汁巻き卵の出汁の割合などのレシピを叢雲はリンに聞けば、ああそれはと、丁寧に答えが返ってくる。
 手渡された炭酸水が、心地良く喉を潤す。吹き渡る風を受けて、リョウが嬉しげに目を細めた。
「こんな風景を護る為にも、もっと頑張らなくちゃいけないな」  
「穏やかですね‥‥。大規模作戦がある事を忘れそうです‥‥」
 叢雲がふと目を遠くにやる。
 聞こえるのは、風の音と、仲間の声ばかり。
 ざ。と、吹き上がるのは、細かな藁の欠片。
 静は仲間達と少し離れ、小さく動揺を歌う。その声は誰にも届かないが、彼女の中でゆっくりと循環する。
 だだっ広い収穫後の土地が見渡せる。
 クラウディアは、オリガは何所だろうかと見渡すが、何所にも姿が見えない。ううむと、小首を傾げるが、まあいいかと、仲間達からあまり離れて居ない、藁の多めにある場所へところんと横になる。
「ほわ、土の匂いと、藁の匂い。あと、何だろ‥‥そうだ、お日様の匂いがする」
 良い気持ち。
 心を解放すれば、穏やかな睡眠が忍び寄り。
 トラックの荷台には、伯爵へと届ける香り米が乗っている。パエリア、チャーハン、バターライス、サフランライス、グラタンなど収穫祭のパーティ会場で様々な料理に化けるのだろう。
 そんな、トラックの荷台で横になって、空を見上げているのはオリガだ。夏の色とは確かに違って。
(「再就職‥‥どうしよう‥‥」)
 いつか、バグアが居なくなったら、この静かで平和な光景が、もっと多くの場所で見られるようになるだろうか。そうなれば、もう傭兵は廃業になるのだろう。
 オリガは密林の連戦を払拭するかのように、大きく深呼吸して、そのまま転寝を始めた。

 いつか。