●リプレイ本文
点呼の時間には帰って来て下さいねと、ティム・キャレィが、総勢66人に声を掛ける。大型バス2台に分かれた大所帯となった長崎慰安旅行は、賑やかでデンジャラスであった。
素敵な記念をと使い捨てカメラと何故か、専用防水ケースが配られる。そうして、旅の記念品にと温泉まんじゅうやらが帰りに配られる予定でもある。
覚醒禁止。公共道徳に反する行為は禁止‥‥つまり、未成年の飲酒は断固阻止。未成年の男女相部屋もたとえ何も無くても残念ながら阻止。いろんなどきどきは大人になってから。<旅のしおり>を握り締めたUPC職員’Sが手分けして予定を確認していた。
ホテルのあちこちには紫陽花が。
青、ピンク、紫、白、品種改良してあり、花弁が幾重にも開く豪奢な紫陽花まで、大きな鉢が置かれてあり、来るものの目を楽しませていた。
●異邦人となって街へと繰り出す
生活圏の中に、突如現れる建造物。石畳。木々に埋もれるようにある碑。そこは今もって不思議な歴史を刻んでいるかのようだ。
浦上天主堂。
遥か頭上に、色鮮やかな光りを集めたステンドグラスが、参拝者を見下ろす。集められた光は、硝子を通せば、ほんのりと優しい。
その空間は祈りに満ちる。ふと気がつけば、マリア像がすぐ横にあった。
「聖マリア様‥‥お導きに感謝を‥‥」
シスター姿のハンナ・ルーベンス(
ga5138)は、ずっとここで祈りを捧げていたかに見える。バグア侵攻によって、観光地の約束も、道程も、僅かに変わる長崎ではあるが、心に刻む事柄は変わらないのかもしれない。
「はぁ‥‥‥素敵ですわね‥‥」
言葉も無いくらいだ。圧倒され、ジュリエット・リーゲン(
ga8384)は、高く広い空間を見渡して溜息を吐く。両親の言葉を思い返して、全てを記憶しようと頷いた。
大勢で歩くのも、楽しいものだ。神無月 紫翠(
ga0243)は、大人数にくすりと笑い、久し振りに会う身内に声を掛け、互いの息災を確認しつつ。遠い日の記憶を掘り起こす。
「お久し振りです‥‥静姉さん‥‥で姉さんは‥‥まだ恋人無し‥‥ですか‥‥」
「ええ、まだ独り身よ? 何年立っても忘れないわ‥‥」
過去は過去に過ぎない。神森 静(
ga5165)は、記憶の中のその人を、まだ鮮やかに覚えている。此処で会うのも何かの縁。荷物持ちを任せようと、艶然と笑い返す。
グラバー園の長いエスカレータが終わり、進んでいけば、石畳が迎えてくれる。大和・美月姫(
ga8994)は、趣のある建築物を楽しげに見る。馥郁たる香りの紅茶を口にすれば、思いは遥かな歴史を辿る。
「長崎、か‥‥懐かしい、な‥‥シスター、お元気、かな‥‥」
馴染みのある空気を吸い込み、吐き出す。会いたい人は居る。けれども、迷惑になるかもしれないと、行きたい気持ちをぐっと堪え、緑(
gb0086)は楽しい温泉と宴会へと思いを馳せる。仲良しと一緒に過ごす夜は楽しいものだろうと。
最後尾について、落ち着かない風にしている女堂万梨(
gb0287)だったが、路面電車の車窓を流れる、落ち着いた風景に目を細めて微笑んだ。誰に声を掛ける事は無かったが、こうして仲間と共に居るだけでも心は安らぐものである。
日本文化が大好きな、ナナヤ・オスター(
ga8771)は神社仏閣を見て回る。東明山興福寺を覗けば、真っ青な紫陽花が、鞠の様な花を咲かせてナナヤを迎える。
「なんとも不思議ですねぇ。荘厳な寺院なのに、少し行けば近代建築が立ち並んでいる‥‥」
マイペースに時間を過ごし、お土産屋を冷やかして、ホテルへ帰れば、温泉とBBQが待っている。
●温泉。それは死闘もありて
夕暮れ時から、ホテルの中では、自堕落な大人‥‥もとい。ゆっくり骨休みを目的とした面々が、思い思いに寛いでいた。その中でも、何か雰囲気の違う一団が居た。
「はいはい。始めますよー」
黒頭巾を被ったアルヴァイム(
ga5051)の声に、一部の能力者に軽い緊張が走る。温泉といえば卓球。地下の遊技場には当然、卓球台が幾つかおいてある。普通に勝負している人も居るが、アルヴァイムが始めると言った卓球は少し違っていた。仲間内のデス・卓球。一番ビリは、旅行中の豪華大量の食事を全て負担。様々な時間帯を考慮して、一番空いて人様に迷惑がかからないようにと配慮された時刻。卓球勝負の事はちゃんとフロントへ届け出る、アルヴァイム。気配りの人である。
そんな黒頭巾に先導されて、まず対峙したのは、第一試合、因幡・眠兎(
ga4800)VSカルマ・シュタット(
ga6302)。
「勝てば天国、負ければ地獄のデスマッチ!」
年齢はこの際関係ないのかもしれない。能力者としていっぱしの眠兎は、可愛らしく小柄な姿とは裏腹に、非常に人の悪い笑顔を仲間達に向けた。
「‥‥負けるつもりはありませんよ」
勝って長崎ちゃんぽんを奢ってもらうのだ。そう、カルマは手にするラケットを軽く振ってみる。白球が飛び交えば。
白熱の第二試合は、みづほ(
ga6115)VSレティ・クリムゾン(
ga8679)。
「‥‥何という事だ。もう好きにしてくれ」
抜かりは無かった。レティは乱れた浴衣を直しつつ、入念に手入れしたラケットを台の上に置く。シード如月・由梨(
ga1805)はみづほと戦う。そのプレイスタイルは様々であるが、振りなれたラケットと、鋭角に相手コートを襲う白球。
アルヴァイムの手が上がり。勝者と敗者がコールされる。
「勝者、みづほ〜っ! 敗者、因幡〜っ眠〜兎〜っ!」
「何と言う結果っ!」
「直接対決は出来ませんでしたが、恨みは幾分か晴れました」
がくりと膝をつく眠兎。何かの神が舞い降りたかのような結果となり、旅行中の食事代は、眠兎がきっちり払ったのだった。
温泉入って来ようと、死闘を終えた彼等は、思い思いに湯船に浸り。
●プライベートビーチとBBQと花火
「どうかな‥‥?」
「とても、似合ってます、よ」
新しい水着は、やっぱり大好きな人に見てもらいたい月森 花(
ga0053)は、はにかみながら、似合うかどうかを聞く。とても似合っていると、宗太郎=シルエイト(
ga4261)は、花のピンクのスカート付きのビキニを見て頷いた。こっそり花に見えない場所でガッツポーズ。
飛沫を蹴立てて、海へと飛び込んだ。
ホテルに指示した牛一頭は、流石に無理だった。もし時期が合い、競り落とせたら、桁は通常の焼肉の範囲を逸脱する。上質の肉を沢山用意してありますからと、ホテルのフロントからの返事が帰る。BBQは夕食の選択の一つで、食材その他はホテルで用意されていた。
スイカが欲しいと言えば、台車にスイカ乗せたものが用意され。アイスは売店から、クーラーボックスに詰めて届けられた。
「俺も、やる。これ、好き」
スイカ割りが始まると、スイカをセッティングするのを手伝っていたエステル(
ga8754)は、嬉しそうに参加する。
「海の馬鹿やろ〜なのです〜」
紺色のスクール水着を着込み、麦藁帽子を被ってハルトマン(
ga6603)は叫ぶ。寄せる波に向かい、浮き輪を装備して飛び込んで、砂浜を歩けば、淡い桜色の貝殻を見つけて、笑みが零れる。
夜坂桜(
ga7674)は、色々準備万端でやってきて、かいがいしく世話をする。花火を振り回し、勢い余って海に飛び込む番 朝(
ga7743)へ、額に青筋モードで、部屋に戻り、着替えをするようにと促す。
朝は、昼間の海で拾ったきらきらの貝殻がポケットにある事を確かめて、明るい海の楽しさを思い返して楽しくなる。
昼の海を食材探しで満喫していたのは陽ノ森龍(
gb0131)だ。透明度の高い海。何か獲物をとがんばる。
じゅうじゅうと焼ける肉や魚にわらわらと群れる仲間達。
ラーメンの食べ歩きをして、点呼に間に合うように帰ってきた要(
ga8365)は、龍が取ってきた魚介類を並べる。
「海老っ!」
流石に、人数分の食材をひとりで獲るのは無理だ。山盛りてんこ盛りのホテルからの食材が、豪快に焼かれ、要も嬉しそうに焼き始める。動きやすいようにとワンピースから甚平に着替えている。寝る前には、ゆっくり温泉に入りたいなと、くすりと笑う。
「に〜く、に〜く、お待ちかねの肉なのです」
山盛りのお肉にハルトマンはじめ、見かけに寄らず大食漢な面々は大喜びだ。
因幡・眠兎は、セシリア・ディールス(
ga0475)を見つけると、すかさず近寄り、焼いている肉を奪い取る。何時もはあまり表情の変化を見せないセシリアなのだが、どうやら天敵というものは存在するようであり、表情はあまり変わらないが、言葉にとても思い切り、毒を乗せる。
「‥‥兎肉‥‥焼かないのですか‥‥?」
向かう視線の先には、眠兎が居る。ばちばちと、見えない火花が散ったのを、見た人が居たとか居ないとか。
「‥‥ん。その肉も貰う」
ほぼ、終了間際まで、箸を動かしていた最上 憐(
gb0002)は、肉と肉と、肉と肉。を食べて、ようやくご馳走様でしたと、お辞儀をする。肉以外も、その可愛らしい姿からは想像も付かないほど食べに食べた一日である。
「‥‥ん。久し振りに満腹。朝ごはんまで、もう何もいらない」
満足気な表情で、夜のビーチを照らす花火を見る。そろそろ眠気もやってきそうだ。
「花さん綺麗ですよ」
宗太郎の言葉に、線香花火がどちらが長く点いているかの競争をしようとしていた花は、目を見張る。
「‥‥花火が、ね」
言葉とは裏腹な、照れたような笑顔に、しょうがないなぁと花は嬉しそうに笑う。
「おお、風流だね‥‥実にきれいだ‥‥」
各種タレを取り揃え、豪快に食べる仲間達に笑顔で世話を焼いていたサルファ(
ga9419)は、花火の光りに目を細める。ばちぱちとはぜる火の花。鼻に付く火薬の香りは、花火独特の郷愁を呼び起こし。良い思い出になったと、静かに思う。後は、のんびりと湯船に浸り、酒をあおれば、身体も心もほぐれるだろう。
火の花が咲いては散る。そろそろBBQもお開きだ。かいがいしく働いていた大泰司 慈海(
ga0173)は、ずっとこのプライベートビーチで寛いでいた。海の好きな慈海にとって、ビーチは何よりも心休まる場所なのだろう。潮風が心地良い。ふと見ると、何処かへと向かうデラードの姿を見つけて声を掛ける。
夜も深まる時刻。
ホテルのバーで趣向を変えて飲まないかと誘えば、朝までは付き合えないがと、にやりと笑い、色良い二つ返事が返ってきた。
海を眺めながらの温泉は最高だった。焼きまくられたお肉! も、とても美味しかった。ビーチの後片付けを、している蓮沼朱莉(
ga8328)に、起き抜けらしく、目をしょぼしょぼさせつつティムが台車を持って近寄った。大雑把に片付けておけば、後はホテルの人がやってくれるから、大丈夫だと。また会えて嬉しいと告げれば、私も嬉しいと、ふわふわの茶の髪が上下する。
「また旅行に行きたいです」
「ふふ。私もです」
女の子同志、目的が重なった時の結束力は非常に高いポテンシャルと強い絆が生まれるものである。
冬頃には、忘年会か新年会を兼ねた旅行が企画される事になるのは後の話。
●宴会とは、混沌に飛び込む事である
野郎共は、子供と一緒だ。
男湯は別の意味で阿鼻叫喚溢れる場所だった。女装とか。
そして、怒涛の宴会が始まる。
付け出し、とれたての刺身、椀物、小さな海鮮鍋に、地鶏と和牛と黒豚の石焼と、煮魚。根菜類の炊き合わせとフルーツ。茶碗蒸しに海老の味噌汁とごはん。船盛りは、別に幾つか発注してあり、刺身はそれこそ食べ放題。
「‥‥たまには骨休めも悪くない‥‥ゆっくりさせて貰うとしようか‥‥」
刺身を楽しみにしていた八神零(
ga7992)は、ウーロン茶を持って、乾杯に参加する。のんびりと温泉に入り、美味しい物を食べれば、十分な骨休めになるだろう。
乾杯の合図と共に、デラードがとある一団に引きずられて行く。
アッシュ・リーゲン(
ga3804)は、大規模作戦でのサメ退治の温泉を思い出していた。北の温泉もなかなかだったが、ここは何も考えず寛げて、穏やかな波の海をのんびりと泳いだ。そして、美味しい食事、と思っていたら、なにやら始まったようで。
「OK手伝うぜ」
着々とデラード潰し隊が増えて行く。
「7つの海を飲み尽くせ、という爺様の教えでなー」
何所まで本当かわからない事を言いつつ、アンドレアス・ラーセン(
ga6523)は杯をあおり、叢雲(
ga2494)に、当然のように勝負を挑んだりする。雲丹振りのデラードに手を振れば、振り返されるが、デラードは早々に人の波に埋まっていく。それをご愁傷様と笑いながら見送り。
「いいでしょう。受けましょう?」
アンドレアスの申し出に、やはり、叢雲も当然のように受けて立つつもりである。何しろ、強敵と書いて友と読むのだ。そんな2人は、飲み比べを楽しんだ後、普通に卓球勝負と、浴衣を腕まくり、宴会場を後にする。
「あれ、どちらへ?」
叢雲の幼馴染である、不知火真琴(
ga7201)は、飲み比べの真っ最中。静かに火花散らす2人に声をかければ、アンドレアスは真っ赤になって下を向き、先に行くぞと出て行ってしまった。卓球のポーズをして、くすりと笑い、アンドレアスの後を追う叢雲に手を振ると、真琴は目下、絶賛ビール漬けの数人の輪の中に戻る。何しろ、真琴のメイン目的はデラードとの飲み比べである。
ざわざわと仲間達の笑い声や楽しげな気配が心地良い。
「ティムさん、皆さん飲んでますか?」
デラードと同じく、真琴に輪の中に引き入れられたティムとUPC職員’Sも、ジョッキ片手に飲み比べに参加中だ。
「なつきさん、不知火さんも。一緒に歌いましょう? アンドレアスさんも‥‥ご一緒してくれると嬉しいな♪」
飲み比べが終わったらで良いからと、仲良しの女の子に声をかけ、退出するアンドレアスにも、笑顔を向けたのは阿木 慧斗(
ga7542)だ。みんなの生歌を聞けるのは中々無い。ファン心を抱いているアンドレアスの声も聞きたいなぁと、こっそり思い、卓球の見学へとぱたぱたと着いて行く。
がんがん飲み進めていく参加者を見て、佐伽羅 黎紀(
ga8601)は、小さく溜息を吐く。飲み比べの手伝いの最中、こっそり入れようかと思っていた品は、当然手に入らない。
「レーゲンさんがんばですっ」
全てが敵状態のデラードが苦笑する。ジョッキはどんどん重ねられるが、あまり変化はなさそうで、デラード潰し隊の皆さんは、気合を入れなおす。
「俺の味方は居ないのかっ」
「デラちゃんがんばれー」
デラードの呟きに、オリガ(
ga4562)の声援が。デラードは軽く手を上げて答える、まだ援護は要らなさそうだとオリガは頷く。潰れる姿も見てみたいが、ああいう人が潰されるのも何となく、悔しいような気もするのだ。鮮やかな箸さばきで、もくもくと料理を平らげ、手当たり次第に飲んで行くオリガが、実は影のチャンピオン。沢山食べて、飲んだ後は温泉も気持ち良いはずだ。何より酒を愛してる。きっと、湯船にも酒を浮かばせて。姉さんついていきますと、UPC職員’Sが、きらきらと光る眼差しで見ていたのは、ついこの間南の島で親睦を深めたからだけでは無さそうだ。
「皆さん呑みますね〜! でも、私も負けませんよ〜!」
ひょっとこのお面をつけたテミス(
ga9179)が、ぐいとジョッキをあおる。昼間見た、資料館の辛い気持ちに、能力者としての決意を胸に。でも、今はひょっとこのお面で。気分良く、思わずどじょう掬いの踊りになっていく。
「へへへー、彼氏できちゃった」
ハートマークを語尾につけた葵 宙華(
ga4067)が、デラードにちょっとだけお酒を注ぎに行った事を思い出してくすりと笑う。未来の約束は儚く散ったのねと、デラードは良かったなと、ぐりぐりと宙華を撫ぜた。
激しい宴会は、まだ収まる気配は無い。可愛らしい恋人達は、その様を眺めながら、料理を美味しく頂いた。ふるふるの茶碗蒸しが絶品。雑賀 幸輔(
ga6073)は、仲間達にお酌をして回ってきた。可愛らしい浴衣を着ている事への宙華からの突っ込みは今の所無い。旅行から帰ったら、きっと突っ込まれるんだろうなと思いつつ。2人でぶらりと歩いた長崎の街並みを思い出して、頬が緩む。これから沢山思い出を作っていけば良い。
半分酔っ払って、紫翠をお姉さん扱いしたティムに、いつもの事じゃないと楽しげに静はころころと笑い、一緒に笑って、そのままぱたりと寝てしまったティムを膝枕にする。
かなり、飲んだ。にもかかわらず、お疲れさんと手をひらひらさせるデラードが憎い。張り合える人は多くいたが、何しろ大宴会場のお開き時間が迫っていたのだ。とりあえず、勝負はつかず、酒に弱い者の屍が累々と横たわり。目が据わっちゃってる人も居る。
「‥‥しょーっぶ☆」
「ちょ、待てっ、レグ」
デラードの背後からハグ突撃をかましたレーゲン・シュナイダー(
ga4458)を蓮沼千影(
ga4090)が涙目になりつつ止める。ビールの国の人だもの。潰れはしなかったが、キス&ハグ魔と化す最愛の人を、止めに千影は走る。長崎の町は綺麗だった。ビロードの色合いもとても可愛くて。と、まったりぱやぱやな思い出を‥‥こんな形で終わらせてなるものかと。がんばる千影だったが、そんな形で終わりそうである。
翌日レーゲンは覚えているかどうか。
●もうひとつの大人の死闘?
「夜は長いのです! 麻雀大会と洒落込む方は挙手ですのーっ!」
ロジー・ビィ(
ga1031)は、浴びるような飲み会の果て、一室を借りて麻雀大会を繰り広げる。仲良しを沢山発見して、もふり放題、笑い放題。そうして、じゃらじゃらと牌の混ざる音が響き渡る。
そんな中を潜り抜け、鈍名 レイジ(
ga8428)は麻雀挙手して、とっとと混ざる。
「ぐぁ‥‥は、ハコった‥‥」
大役を当てようと手を作って動かない彼は、早上がりでどんどんリーチ掛けて行く相手に当たれば、無残、花と散る。
「安い手でも、上がらせなければ十分勝てるから、ね」
ふっふっふ。そんな笑いが見えそうな水流 薫(
ga8626)は、多分一番勝っている。
同じく、手堅い打ち方をするのはラウル・カミーユ(
ga7242)火の無い煙草を咥えながら、慣れた手つきで牌を切る。たたたっと鳴いて、小三元を作り上げる。お土産も買った。デラードにも、正体無くしかかっていたUPC職員’Sにもお酌して回って、楽しく過ごせた。そして止めは麻雀が良い。今日は何となくついている。
「あ、それロン♪」
「‥‥その手があったとはッ!」
捨て牌で役満を匂わせるロジーだったが、さっくり刺されれば終りである。
ロジーと2人、きゃあきゃあきゃらきゃらしていた時間とは裏腹に、怪しげなお土産を物色し、BBQでお腹を満たしたセシリアも、後から参戦する薄く笑みを浮かべる彼女は、淡々と打ち、結構良い勝負を続けている。
「‥‥上がりです‥‥」
「フム、いい役だ」
やはり、飲み比べの波をかいくぐり、炎帝 光隆(
ga7450)も収まった場所は雀卓である。表情の読めないのは参加メンバー随一かもしれない。淡々と作られる役は、手堅かったり、大役だったり。安い役でも変わらない姿が結構、雀卓の中心と化していたりした。
勝敗は、朝まで混沌。屍になった人物は言うまでも無い。
そうして、べろんべろんのUPC職員’Sから、飲みすぎ注意報として僅かばかり経費として微集された人も居たりした。心当たりのある人は、その恨みはまたどこかで晴らして欲しい。
笑っている顔を沢山写せたと櫛名 タケル(
ga7642)はカメラを撫ぜて、嬉しそうに頷く。幸せそうなカップルを沢山見れて、幸せだった。此処から先は、邪魔するつもりは無くて、満足そうに部屋へと戻る途中に、黒い影を見て首を傾げる。
黒い影を見た人は幸いである。仲間達の喧騒を薄い笑みを浮かべてUNKNOWN(
ga4276)も写真を撮っていた事は後から知ることになる。丁寧に番号を振ってある写真が彼の兵舎の廊下に張り出されるのはこの旅行が終わってからの事になる。
●静かな夜。長崎の夜空と地上の星
大規模作戦も終り、ゆっくりと骨休めをと考えていた御影・朔夜(
ga0240)は、元気の塊りのようなイリアス・ニーベルング(
ga6358)を同行する事になり、何とも複雑な思いを抱えていた。普段の冷徹な雰囲気は何所へやら。妹とも思うイリアスにかかっては形無しのようだ。長崎観光に足を伸ばし、温泉、宴会と怒涛のように時間は流れ。散歩に出れば夜空に星が。夜風が涼しく、心地良い。
「朔夜さん、今日はとても楽しかったです。本当にありがとうございます♪」
敷かれた布団に飛び込めば、一日の疲れが出たのか、イリアスは、すやすやと寝息を立てて。そんな様を見て、朔夜は大きな荷物が眠ったかと呟くが、それでも優しげな笑みを浮かべて。
「流石に疲れたか‥‥こうして見ればまだ子供、か」
誰かの世話を焼くのは久し振りだと思う。それは、意外と楽しい思い出に変わって行き。
花火の音が耳に残る。
温泉で疲れをほぐし、浴衣で寛げば、穏やかな空気は同じだけれど、何時もよりほんの少しだけ、別の時間が流れているかのようだ。
「国谷さんと一緒に一日過ごすことができて、本当に幸せです」
長崎の街を、2人して見て回るのはとても楽しい。柚井 ソラ(
ga0187)は、尊敬して止まない国谷 真彼(
ga2331)と過ごせた時間を噛締める。真彼は、ソラの屈託の無い真っ直ぐな気持ちにいつも微笑みと頷きを返す。凝った心がほどけて行く。一緒に居れて幸せなのは、どちらかといえば自分の方だと。話疲れて寝てしまったソラの布団を掛け直し。誰も見た事の無いような甘い笑顔を浮かべた。
「僕は、誰よりも君の幸せを願う」
そっと大切に耳もとで囁く言葉は、夢の中のソラに届くだろうか。
人を好きになるという事は、何もかも今までと違った風に見えるという事だ。とても──良い風に。夜風に吹かれながら、旭(
ga6764)と兎々(
ga7859)は並んで歩く。浮き立つ気持ちが胸を打つ。青いリボンを兎々の髪に結び、自分の左手にも巻いてみる。そうして、伝えたい事はひとつ。
「前に、いつか言うと約束しましたね‥‥兎々さん。僕は‥‥あなたが好きです」
「ウチも旭さんのことがだーい好きです」
真剣な顔をした旭に、兎々は瀟洒な笑顔を向ける。ふわふわとするのは、まだお酒が残こっているからかどうか。これからも一緒に居て欲しいという言葉の答えは、果たして。
「殿方に贈り物をする機会なんて、今まであまりなかったから‥‥気に入ってくれると、嬉しいのだけど」
お互いの気持ちを確かめ合ってから、穏やかな時間を過ごすのは初めての事。長崎の落ち着いた風景をリン=アスターナ(
ga4615)は思い出す。電車の窓から外を見ているだけでも楽しいのは、隣に大事な人が居たからかもしれない。夜風に吹かれながら、渡しそびれていた誕生日プレゼントを手渡した。
初めてのデートはどこか気恥ずかしい。レールズ(
ga5293)は何も急ぐつもりは無かった。一歩づつ共に、大切に歩いていければ言いと思うのだ。レールズは、それに驚き、謝意を告げると、風の音に混ぜるかのように、そっと呟いた。
「神様は信じないんですが‥‥こんな時間をくれたことに感謝します」
昼、大浦天主堂で両親を思いラピス・ヴェーラ(
ga8928)は一筋涙した。守れなかったという負い目がラピスの心に抜けない氷の棘となって今もある。けれども、こうしてこの地に、大切な人と来れて良かったと、すぐに笑顔を向けた。その先には、ルフト・サンドマン(
ga7712)の大柄な姿があった。ルフトはラピスの痛みを知っている。笑顔には笑顔を返し。
ゆっくりと湯につかり、食事を取った後は、稲佐山展望台で地上の星を見る。長崎の夜景は色とりどりの星のようだ。わずかに夜風が冷える。何時か、2人だけで再訪しようと、ルフトはそっとラピスを抱き寄せた。
「町全体が光輝いて、とても綺麗じゃな‥‥ラピス殿と、ここに来られて良かった」
「‥‥一緒に居られて幸せですわ」
これからも、ずっと一緒にと、吐息が零れ。
楽しい観光も、賑やかな宴会も。とても心が柔らかくなる。けれども、一番心踊り、安らぐのは大事な人の側で静かな時間を過ごす事だろうか。眼下に広がる宝石のような景色に目を細める。昼間見たハウステンボスの色鮮やかで、賑やかな風景とは一変する。終夜・無月(
ga3084)は、小柄な恋人にそっと寄り添う。
宴会はとても楽しいものだった。奢りを賭けた卓球は心拍数が上がりっぱなしで、楽しい思い出を作れた。
しかし、それよりも尚、思い返すのは頻繁に起こる大規模作戦での戦いの行方だ。由梨は、ほぅと小さな吐息を漏らす。横を見れば、愛しい人の変わらぬ姿が目に入る。幾度も共に死線を潜り抜けた。それは、決して忘れる事は無い。 瞳が不安に揺れる恋人の頬に手をあてて。ほんの僅か、視線が絡み‥‥。
夜風はまだ冷える。無月は上着を由梨へと掛けた。
「大丈夫‥‥由梨も皆も俺が守るから‥‥」
どんな事があっても。僅かに下を向き、ぎこちない恋人達は夜の優しい闇に抱かれる。
夜風を受け、海の音を聞きながら、酒を飲もうと窓を開け、漸 王零(
ga2930)は、王 憐華(
ga4039)とのんびり部屋でくつろいでいた。星明りが僅かに影を落とす。紫陽花の大きな花が、部屋から漏れる明かりと星明りに照らされて、酷く綺麗だった。静かに更け行く夜も良いもので。しかし、憐華はせっかく2人で居るのだから、もう少し構って欲しかった。僅かに入った酒のせいもあるかもしれない。どんどん注ぐ酒に、王零が苦笑すれば、潤んだ瞳が睨みつける。
「私の方も〜〜〜しっかり〜〜〜見てくれなきゃ〜〜〜や〜〜〜」
「ふぅ。今さら我の口から言えというのか‥‥」
どんなに心奪われる景色や時間があったとしても憐華には叶わないのだと告げて、膝に招く。優しい手に憐華は戸惑うが、深い笑みを浮かべて伸び上がる。星影に2つの影は1つに重なり。
男湯と女湯に別れているけれど、それはそれで楽しいものだった。見えない相手に思いを馳せるのも僅かに胸騒ぐ。 レイアーティ(
ga7618)と御崎緋音(
ga8646)は、夜空に掻き消える湯気を見ながら、垣根越しに今日の楽しい思い出を語り合った。心の形をした石畳は、ジンクスのまま、幸運を呼び込むのか否か。共に歩いた友達2人はどうしているか。湯船に互いの声だけが楽しく響いた。
花火を終えて、部屋に戻れば、じき、点呼の時間となる。点呼といっても名ばかりではあるのだけれど。午前零時。日付の変わるその時刻に、申し訳程度に廊下を歩く音がする。
「まるで修学旅行みたいだね♪」
緋音は、くすりと笑う。
「‥‥傭兵になってから嬉しい事とか悲しい事も色々ありましたけど‥‥。緋音君と会えたのが一番嬉しいことだったというのは‥‥本当ですよ」
並べて敷かれた布団は心のようにぴったりとくっついて。
うつつの気持ちで、レイアーティの布団に潜り込んだ緋音は幸せそうに寝息を立てて。何もしないと誓った己に自問自答しつつ、やわらかで甘い香りに笑みを浮かべ、さて眠れるかどうかとレイアーティは夜に溜息を吐く。
婚約をしているとはいえ、同じ部屋に寝るという事は酷く心乱す出来事である。
2人だけの時間は、ゆっくりと、けれどもあっという間に過ぎて行く。共に居たいという気持ちは、少しでも近く、一緒に居たいという気持ちに他ならない。
キョーコ・クルック(
ga4770)は、2組敷かれた布団の隙間が気になって、霧島 亜夜(
ga3511)が席を外した途端に、こそりと布団を近付けるが、席を外したといっても、すぐに戻る亜夜にみつかり、真っ赤な顔して、ぱたぱたと誤魔化しにかかるが、亜夜もそんな気持ちは良く解る。知らない振りをして布団に潜り込めば消灯の時間も程近い。
「亜夜‥‥その‥‥手繋いで寝ちゃ‥‥だめ?」
僅かに布団から顔を出したキョーコの手を、何も言わずに握り込めば、軽い緊張の後、健やかな寝息が聞こえて来る。
「全く‥‥幸せそうな顔しやがって」
穏やかな幸せ。
幸せな笑顔をずっと守りたい。そう、思いながら、ゆらり夢の中へと落ちて行く。
カーテンの隙間から零れる朝日に、もみくちゃにされた昨夜の疲れも見せず目を開けた空閑 ハバキ(
ga5172)は、愛しい温もりが隣に居る事に、自然と笑みが零れる。さらりと零れる黒髪をすくい、口付けを落とせば、気配に気がつき、なつき(
ga5710)が目を開ける。
「おはよう」
「‥‥みてました?」
目の前にある笑顔に目を見張る。朝の陽の光りがきらきらと縁取る、愛しい人の姿に、心の奥まで暖められたかのように、じんわりと暖かくなる。
洗い髪の香りに僅かにお互いの香りが溶け合い。何となくくすぐったい。
不安はある。
それは、いつも自分の心の内へと帰り、果ての無い迷路へと嵌り込む。けれども、何時も必ず、穏やかに差し込む、目の前にあるこの光りが、自分をそこから連れ出すのだ。
多分、これからも。
長崎の朝が、静かに訪れた。