タイトル:☆図書館と昼寝マスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/13 19:49

●オープニング本文


「疲れてる方が多いみたいですね」
 ラスト・ホープ内のとあるカフェ・テラス。『しろうさぎ』の老婦人。日系のマスターが、お使いみたいなお願いなのだけれどと、デラードに声をかけた。丁度、その日は、図書館で本の整理が行われているからと。
「サンドイッチ? いいねぇ。ひとつ貰って良いかな?」
「報酬に?」
「ん」
 口の端だけで微笑むマスターに、こくりと頷くと、チーズとハムのロールサンドと、卵と照り焼きチキンのロールサンド。果物トマトとフレッシュ野菜のロールサンド。ラッピングしてある。大きくて、ひとつでもかなり食べ応えがあった。
 他にも、能力者の皆の自慢のサンドイッチを作って欲しいのだと、マスターが言う。くるりと巻いて、ラッピングして、金色のモールで括る。巻く食材は、高価なものは無理だけれど、ある程度は揃っているからと。
「図書館前は、昼寝に丁度良いんだよな」
 そういや、最初にリーフ・ハイエラ嬢と会ったのもそこだったかと、ふと思う。ざあっと、通り雨が来て、びっくり目が覚めれば、丁度外に出てきていたリーフ嬢に、ハンドタオルを借りたのだった。もとい。貰ったのだった。
 通り雨の後は、僅かに虹がかかり、小道はとても綺麗だった。
 沢山ベンチが並んでおり、日向ぼっこするのに丁度良い。
 そこは、図書館に調べ物をする能力者や、図書館勤務の職員が良く、ランチを食べに出て来るのだと言う。大規模作戦も始まる近頃、慌しく食事を取る者も多い。
「ちゃんと‥食べて、頑張って欲しいです」
 老婦人の微笑みに、デラードは頷いた。
 
 人の気配を感じつつ、ボーっとしながらランチを食べる。そうすれば、混乱した思考回路も、すっきりと纏まってくる。行かなくてはならない、あの場所の事、決断しなくてはならない、気持ち。
 戦いは、まだ終わらないのだから。




*このシナリオ参加者が加藤しょこらMSのシナリオで描写される事はありません。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
アヤカ(ga4624
17歳・♀・BM
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
劉・黒風(ga5247
10歳・♂・SN
呉葉(ga5503
10歳・♀・EL
矢場菫(ga5562
20歳・♀・HA
絢文 桜子(ga6137
18歳・♀・ST
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
ラピス・ヴェーラ(ga8928
17歳・♀・ST
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
プルナ(ga8961
17歳・♂・GP

●リプレイ本文

●気持ちを込めて
 カフェ・テラス『しろうさぎ』の厨房は、能力者達でごったがえしていた。広いベランダもあり、店内もそこそこ、席数のある『しろうさぎ』の厨房だからこそ入れるぎりぎりの人数だった。
「ちょっと厚めのハムを衣をつけてあげてソースをつけて挟む‥‥それだけですけどね‥‥でも、意外と美味しいですよ〜」
 揚げ物の良い香りが漂う。矢場菫(ga5562)は、1cmもの分厚いハムカツを揚げていた。細かいパン粉が、狐色に揚がる。日中はどれほど気温が上がるのかと、少し考え、ハムカツのみを挟んで見た。料理は得意の方だ。ソースが、ハムカツの旨みと絶妙である。
 春キャベツを、千切りにしているのは鈍名 レイジ(ga8428)だ。甘みと柔らかさのある今頃のキャベツは、からりと揚げられた豚ロースのカツに良く合う。山盛りのキャベツに、分厚いカツをたっぷりとソースに浸し、マスタードで合えたマヨネーズが塗られたパンに挟んで、くるりとラップで巻く。真っ白なランチボックスにシールで止めて、何となく、物足りなくて、その白い箱に『勝』の一文字。決して達筆では無いが、カツと勝つをかけて、気合の入った文字は傭兵らしくて良い。
 さて、サンドイッチとは、どう作るものだったかと、遠い記憶を呼び起こしているのは石動 小夜子(ga0121)だ。白魚のような手が、考えつつ、トマトやキュウリの入った野菜サンドを作っていく。並べられた仲間達の材料の多彩さに、笑みがこぼれる。和食一辺倒の小夜子だったが、料理の経験がある。コツを覚えたら、後は早い。僅かに挙動不審になるのは、自分用にと、パンを大きく敷き詰めて、サラダとカツを一緒に巻く。悪いことをしているかのように心臓の鼓動は高鳴る。
 きゅっと絞ったラップにくるくると巻くリボン。可愛らしい絵の描かれたシール。チェックや花柄、キャラクター模様のある透明ラップの包み紙が、いつの間にやら用意されていて。
「千影特製、豆サラダサンドだぜっ!」
 蓮沼千影(ga4090)は、オーナーの老婦人に丁寧に挨拶をすると、自信でも好きで十八番の豆サラダサンドを器用に形にして行く。サンドイッチは、作るのも食べるのも好きなのだ。最近のお気に入りは、ひよこ豆、枝豆、白いんげん、コーンをマヨネーズで和えたものを挟むサンド。いつものように作ると、くるりと巻いて、ラッピングのリボンは鮮やかな紫をきゅっと結ぶ。
 千影同様、老婦人にぺこりと挨拶をしたレーゲン・シュナイダー(ga4458)の手元からは、甘い香りが立ち上っていた。
 ホイップクリームが、真っ白な角を作るまで泡立てられる。その白いクリームに乗るのは苺ジャム。もうひとつは、マーマレード。そうして、とっておきは、バニラの香り高いカスタードクリームにカラメルソースをほたりと落とせば、プリン風の味になる。どのクリームもはみ出ないようにと、やさしく巻いて、淡く緑に色のついたラップで巻くと、最初に見つけていた可愛いひよこシールでぺたりと止めた。
 手際よくラップに包まれていく、サンドイッチの数々に、赤霧・連(ga0668)は、幸せになる。ビバ☆SunnyDay!! そんな言葉が出る。と、同時に、お腹の声も聞こえてきた。
 おそろいのエプロンとか、考えていた連だったが、残念ながら、日数が無さ過ぎ、軽く今回の依頼報酬は吹っ飛ぶ所だった。
 美味しそうな食材の山に、ついつい手が出る。その横から、大きな手が伸びてきて、連は顔を上げた。ズウィーク・デラードが、ハムのはじっこをぱくりと食べていた。
「それは、俺の係り」
「ほむ、負けませんよ!」
 狙っていた、はじっこを取られて、連は、思わず拳を握る。
「んなあ、軍曹。軍曹とは、一度白黒はっきりと決着つけたい!」
 キャラ被ってる。須佐 武流(ga1461)は、ナンパの酒飲みの、ギャンブラーの、軽い男の称号を掲げて、つまみ食いに勤しむデラードに、水を向けるが、何で勝負するつもりだ? と、にやりと返された。
 楽しげな厨房の中、神森 静(ga5165)も笑みを浮かべつつ、ラッピングの手伝いをする。売り子でがんばりましょうかと、沢山のサンドイッチを詰めて行く。
 一方、ラピス・ヴェーラ(ga8928)は、楽しく美味しく作りましょうね♪ と、劉・黒風(ga5247)と、プルナ(ga8961)を手伝いながら、果物を挟んだサンドイッチの作成にかかっていた。
 苺・バナナ・キウィ・パイナップルを、レモンの香り立つサワークリームで和えたフルーツサンド。レモン果汁を混ぜ込んだバターを薄く塗ってあり、僅かなコクと風味が増している。もうひとつは、赤いハイビスカスジャムを作り、バターに混ぜ込む。その、花の香りが立ち、甘酸っぱい味のするバターを塗ったパンにブルーベリー、ストロベリー、ラズベリーを包む。ビターチョコレートをかけると別なものになってしまうかしらと老婦人は微笑み。
 おぼつかない手つきで、パンを触る黒風は、ふわふわの感触に、僅かに表情を緩ませる。あまり、表情に変化は無いが、とても嬉しいのだ。初めてのサンドイッチ。というか、料理。媽媽に作ってあげたいと思ったのだ。こころ踊る気持ちのまま、手先は真剣に。料理は愛情だと、良く聞くが、アイジョウとはどう込めるのだろうかと、ふと思い、小首を傾げた。踊る気持ちと、食べてもらう人に幸せになって欲しいと思う気持ちが沢山詰まった黒風は、知らないうちに愛情を沢山込めている事に気がつかない。黒風の作ったサンドイッチを食べた相手は幸せになるだろう。
「ラッピングだったらまかせてください〜♪」
 プルナが持参したレースのリボンや花柄のフィルムが、フルーツサンドをさらに甘く飾り付ける。
 ラピスが、プルナを褒めると、黒風が、よく見ると僅かに真剣な顔つきで、最後のひとつを巻く。
「‥‥媽媽に、今度‥‥作って‥‥あげた、いな‥‥媽媽、喜ぶ‥‥か、な?」
 期待と戸惑いが、無表情な黒風に浮かぶのを、ラピスもプルナも見逃さない。仲良く作っていれば、自然と黒風が浮かべる意外と多彩な表情は読み取れる。
 冷たく冷やした紅茶と珈琲を作るラピスに、ならば、これかしらと、老婦人は紙コップに蓋とストローのついた簡易容器を手渡した。
 皆と仲良くなれたら良いと、プルナは思う。今までは、控えめに居たけれど、仲良くなるには自分から手を伸ばさなくてはと。そんなプルナの気持ちは、十分に伝わって。
「色鉛筆で絵を描くのなんて、随分久し振りかもしれないです」
 呉葉(ga5503)はホワイトシールに可愛い花や、蝶の絵を描き続ける。そうして、誰かの言葉の端から、それは、貰ったら嬉しいかもと、メッセージを書き始める。共に戦う仲間達の集う、このラスト・ホープで伝えたいのは。『いつもありがとう』『どうか無理はしないで、ご自愛してね』そうして、少し考えて、くすっと笑うと『大吉』と、太々と書いた。添えられるメッセージと、シールやラップ。食べて美味しい、見て美味しい。そんなサンドイッチが沢山作られていく。
「あら、素敵ですわ」
 アボカドとチキンのサラダ巻きをもうすぐ作り終えるという絢文 桜子(ga6137)は、楽しそうに書いている呉葉へ声を返す。桜子の作るチキンはひと手間多い。にんにくと醤油で下味をつけたものを少し多目の油でカリっとなるまで焼き、食べやすい大きさに切り分け、サイの目にしたアボカドとマヨネーズ3:ケチャップ1:みりん1:タバスコ少々の特製ソースで軽く和える。夏になると美味しさの増すレタスを敷いたパンにたっぷり載った食べ応えのあるサンドイッチだ。
 着物に割烹着という、姿の桜子は、白シャツに黒いスラックスのオーナーの手先をじっと見る。
 優しげな、この老婦人の側に居ると、一緒に居る時間の少なかった祖母を思い出す。穏やかな空気を作るこの『しろうさぎ』は、何所か懐かしく、何となく、老婦人の側から離れがたかった。そんな桜子には、老婦人は何時でもいらして下さいという、微笑に、子供のような笑顔を返した。

●完売
 緩い巻き髪にスリットの深いチャイナドレス。静は、溢れる厨房の人数と、そのサンドイッチの量に、売り子に回る事にしていた。サンドイッチが完成間近という事は、お昼が間近という事で。それでは、私達の出番ですねと、同じく売り子に徹する仲間に声をかけ、先に図書館前の小道に来ていた。
「お一ついかが?」
 穏やかな微笑みに引き寄せられて、サンドイッチは売れて行く。
 きらきらきらきらきらっ。そんな効果音が聞こえてくるかのようだ。アヤカ(ga4624)は、自分で用意した猫耳&尻尾をつけた、可愛らしいメイドさんスタイルになっていた。短く膨らんだスカートで、現れる。ローラースケートは残念ながら、用意できなかったが、十分に可愛い。
「みんなに元気を分け与えるために、颯爽と現れた美少女販売員! お陽様アイドル、アヤカちゃん参上ニャ〜!!!」
 くるくるっと回ると、ふわりとスカートが浮かび上がる。すわ。乙女のピンチ。とおもいきや、ちゃんと中にはスパッツを履いていた。
 武流が惜しいと笑う。
「見せパンとかって言うのも考えたニャが、こっちの方が動きやすいニャ〜☆」
 ふわふわと踊るスカートの後ろで、長い猫尻尾が、ゆらゆらと道行く人を誘い込む。
 皆ががんばって作ってくれたサンドイッチ。首から提げた販売用の箱いっぱいに詰めて、売る気は十分。
 サンドイッチどうですかニャ〜☆ という、良く通る、可愛い声が図書館近くの小道に響いて行く。
 『しろうさぎ』の奥から、様々な衣装が出現していた。深く追求してはいけないのかもしれない。
 沢山の衣装の中にどうしてかサイズの合うチャイナドレスを発見し、菫は首を傾げる。合うのならば、着るしかないではないか。いや、別に着なくてもかまわないのだが。でも、合うしと。恥ずかしそうに、売り子を始めた。
 パフスリーブの半そでブラウスに、紺のワンピースを着た小夜子。は、めったに着ない服に、少しどきどき。
「どーだい、作戦前に腹ごしらえ、大規模作戦勝つサンドっ!」
 レイジの狙いは腹ヘリ具合の大きな男連中。わらわらと、図書館の方面から出てくる人の波を見て、図書館も大変そうだと目を丸くする。カツサンドは人気だ。綺麗に売り切る頃にはもうランチも終りの時間。
 着物に白い割烹着をつけたラピスの声が響く。
「研究のおともにゴハンの後に、美味しいフルーツサンドはいかがですか。甘さ控えめ、男性にもオススメですわよ〜」
 同じく、着物エプロンのプルナが、及び腰ながらも、ラピスと黒風の間を行ったり来たりしつつ、がんばる。
 似たような格好なのだが、何所か違う。三角巾が決めてだったか、呉葉の割烹着姿は日本の懐かしい給食当番スタイルになっていた。まあいいかと、楽しみにしていた箱を首から下げる。
 まいどです!と。元気はつらつ。飛ぶように売れて行く。
 料理は苦手だからと、売り子を主体としようと思っていた御巫 雫(ga8942)は、皆の作るレシピや、見た目などを良く頭に叩き込んでいた。
「さぁ、お立会い、である!」
 時代がかかった物言いの、雫だが、ちっさな身体と同じくらいではないだろうかという、売り子の箱を下げて回る姿は非常に人目を引いた。
「‥『食』という字は、人を良くすると、書く。食は人の活力、そして人として理念、文化を高めるものである。私達は能力者だが、それ以前に『人間』であることを忘れてはならない」
 なんとなく語尾が寂しそうではあったが、あっという間に空になった箱を見て、雫はまた、ぽつりと呟いた。
「まぁ、難しいことを考えなくてもな。旨いものを食べて、不機嫌になるものはおらん。旨い食事は人々を笑顔にする。料理が作れるのは、正直羨ましく思う。どうにも、私は料理を作るのに不向きなようでな‥‥」
 一緒に売りに来ていたオーナーの老婦人が、雫の前に屈んで、目線を合わせて、首を横に振る。上手に作らなくても、料理は良いのだけれど、食べれるものになると良いわねと手渡されるのは、こっそり作った、これは食べてはまずいだろう味のサンドイッチであった。今度は一緒に作りましょうと、微笑まれて、雫はううむと唸った。
 爽やかに、超手馴れた話術と丁寧な対応で、客足を伸ばしているのは千影だ。
「豆って意外と腹もちするし、体にも良いんですよ。食感も楽しいですし、ぜひ」
 つなぎにエプロン姿の長身の男性は、かわいらしい子が多い売り子の中で嫌に目立った。レイジが男連中ターゲットだったのに比べ、全年齢層対応だからかもしれない。千影の横には、レーゲンが、白いワンピに橙のエプロン。三角巾に三つ編みを揺らし、日溜りのような笑顔を向けていた。
 次々に売れて行くサンドイッチに、2人がこっそりウィンクを交わしているのを、武流が見ていて、冷やかしの口笛が飛ぶ。
 全部味見したデラードは、食べながら作るのを手伝うと、次の任務へと駆け出していっていた。連との勝負は果たして?
 怒涛のセールストークを繰り広げる連は、カーボーイスタイルに、エプロンをつけて。にへらと笑い、隠し味はと‥‥。
「ソレは幸せの魔法かもしれませんネ?」

●ランチ
 これは依頼なので。武流は、全部見ていたオーナーに、報酬はお渡し出来ませんと申し訳無さそうに告げられる。
 デザート系のサンドを食べて幸せに浸るのは、プルナ。小柄ながら、沢山食べる黒風の横で、やっぱり美味しそうに沢山食べる。ラピスは、飲み物を、仲間達に手渡して回る。穏やかな寝息を立てる黒風に、膝枕をかして微笑んだ。デザート系は人気で、呉葉の幸せな叫び声も聞こえて。ねぎらいつつ静も飲み物を手渡して回る。
 特大サンドを食べきれず、美味しい溜息を吐いた小夜子は、その大きさに、また自分で笑いながら、お土産と、残りをしまう。
 仲間達の声を聞きながら、アヤカはうーんと伸びをする。実は成人なので、赤ワインは駄目かと問えば、ランチ用にオーナーが一本差し入れてくれていた。三種のチーズ入りサンドイッチを食べながら、穏やかな空気を一杯に吸込めば、至福の時間。
 分け合いつつ賑やかな輪が出来ていた。菫は食べ比べて頷き、桜子はこの穏やかな時間が何よりの報酬だとそっと胸に思う。
 満足気に後片付けをしつつ、レイジは、倒すべき敵、護るべきモノに思いを馳せた。
 幸せな夢をまどろむのは千影だ。レーゲンの膝枕に沈みながら、この幸せな時間が戦い無く日常にあるようにと願う。大事な人の寝顔を見ながら、レーゲンはこの幸せな時間を護り、未来へと繋げたいと切に願う。
 十分に休んだら、戦いが待っているから。