●リプレイ本文
●雪合戦
雲間から僅かに差し込む陽の光りが、雪原を輝かせる。
うさぎさん、きりんさん、らいおんさんのお面が参加者に手渡される。実に幼稚園か小学校1、2年生テイスト満載なのだが、その内容はハードだ。
雪原に三角形を描くように作られた陣地の中では、戦いの笛が鳴るのをいまや遅しと待ち受ける能力者達が居た。
「雪合戦に、雪だるま」
ふふふと笑い、うさぎさんのお面を頭に載せた絢文 桜子(
ga6137)は、童心に返って一日楽しく過ごすつもりだった。が、モニタのある文字を読み落としたのだ。思わず小首を傾げる。
「え、体力強化‥‥ですの?」
「うさぎさんのためにも、がんばりましょう‥‥」
そんな桜子に、深く頷くと、朧 幸乃(
ga3078)はうさぎさんのお面をしっかりと被る。兎好きとしては、何をさておいても、うさぎさんチームに優勝を導かなくてはならないと。表情や動作は淡々とストイックな幸乃だったが、思い切りやる気マックスである。
「初めての依頼だから、緊張します‥」
大き目の伊達眼鏡をなおすと、赤村菜桜(
ga5494)はこくりと頷く。体力作りは、おまけなのだが、やるからにはがんばらなくてはと、幸乃に頷く。
その背後では、佐伯 (
ga5657)が、横に育った体躯を屈めて、うさぎさんチームの面と睨めっこしつつ、何やら作成中だ。会話に入れず、ちょっと寂しい。
「っし」
頬を両手で叩くと、気合を入れた。この体力強化で、何かが変わるかもしれない。
不敵な笑いを浮かべているのはリュイン・カミーユ(
ga3871)だ。過酷なトレーニングだが、お祭りのようで。
「危険な草食動物の力を思い知れ!!」
「電波増幅〜☆」
大泰司 慈海(
ga0173)が嬉々として練力を使う。身長的にはきりんさんで間違いが無いでしょうと、にこにこと笑っている。
「雪上の死闘‥でいいのですよね」
周りの雰囲気は何と言うか、ただならない。通常の訓練と微妙に違う、実戦かと勘違いするかのような殺気もある。辰巳 空(
ga4698)は、覚悟を決めた。
「──これも運命だ」
ふう。と、紫煙を吐き出し、ついに傭兵同士が戦うのかと、一人、何所の街角だろうかと思う異空間を展開するUNKNOWN(
ga4276)の懐が僅かに膨らんでいる。何かを職員に交渉していたのが成功したようだ。
「‥私は初めてだよ。雪で遊ぶなどという行為は、な」
「アンノンさんとナナシンと、俺にどーんと任せておいてね、姫」
にこにこと、空閑 ハバキ(
ga5172)が和奏に親指を立ててみせる。
「姫、怪我すんな?」
「はいっ」
思いもかけない扱いに、水理 和奏(
ga1500)は、えへへと笑う。
NAMELESS(
ga3204)が特徴的な笑い声を上げて、和奏を覗き込む。そう、らいおんさんチーム紅一点の和奏の呼び名は『姫』。妙に結束力と斜め上45度にかっ飛んだチームであった。
雪合戦は、通常の雪合戦ならば、知力体力を尽くして、攻防が‥あるはずだった。
んが。
「らいおんさん、はりけぇぇぇええん!!」
──和奏が空を飛んだ。
もとい。NAMELESSとハバキの協力により、ぶん。と、きりんさんチームめがけて放り投げられたのだ。手には持てるだけの雪玉を持っている。そうして、放り投げられた瞬間に覚醒をした和奏の銃弾‥もとい。雪球が上空から投げつけられてはたまらない。
「うっそーっ!!」
きりんさんチームは、初手から大ピンチ。慈海がその攻撃をいち早く知り、反撃に出ようとするが、きりんさんは他の2チームから狙われていた。何よりらいおんさんチームの、そんなのあり? な作戦が人目を引いた。当たらないまでも、霍乱には十分だった。
「ふざけんなっ! 消えん魔球110号、喰らえー!!」
リュインが唸れば、同じくフォワードとして陣地近くで敵を待ち受けていた空が、軽く溜息を吐きつつ雪玉を投げる。
「只者じゃない人の集まりの中で、らいおんさんチームは群を抜いてますから」
「雪の上で動けるのは、きりんさんでもらいおんさんでもない‥‥うさぎさんです‥‥しかし、それは‥想定外でした」
雪玉をかいくぐり、幸乃がきりんさんチームに肉薄する。
「勝つためには‥」
これぐらいの犠牲はしゃあないと、コートを脱ぎ捨て、身体を揺すり、準備運動万端の佐伯も幸乃と呼吸を合わせてきりんさんチームへと向かう。
どんな奇策を投入されようが、旗を先にとったが勝ちなのだが。きりんさんチームは、数が少なく、それが不利に拍車をかけ。
飛び交う雪球、避け合う能力者達。NAMELESSが叫ぶ。
「野生なめんなー!」
「っ! 届かないかっ!」
ハバキが着地する和奏の援護に回るが、自身も攻防に巻き込まれている為、援護の雪玉は届かない。
着地した和奏は、着地行動の最中に雪玉を食らい、撃沈したが、二方向から攻められたきりんさんチームに数の上で真っ先に屍累々になった。
そうしている間に、うさぎさんチームの陣地に攻め寄る男が居た。UNKNOWNだ。
「悪いなお嬢さん方‥遊びの時間は終りだ」
幸乃がUNKNOWNの移動に気が付き、旗を守りに移動するが、今一歩遅かった。きりんさんチームの旗は、うさぎさんチームが奪い。うさぎさんチームの旗はらいおんさんが奪った。
<雪合戦結果>
うさぎさんチーム 5点
きりんさんチーム 3点
らいおんさんチーム 10点
●雪だるま
壁。
そんな言葉が胸に去来する。
切り立ったような雪の坂道を、能力者達は体力練力の限りを尽くして登らなくてはならない。
その造形の美しさにこだわったのはうさぎさんチームだ。
幸乃が、ダンボールで切り立った崖のような坂を滑り降りる。時間短縮は十分に果たされる。大きさよりも、綺麗な球体を。大きさはこれくらいでかまわないかしらと、桜子が球体をチェックする。
年配の佐伯は、大きな身体を丸めて、うん。と、頷きながら、南天の実と、葉を用意し、大きな雪だるまの横に、拳大の雪ウサギをせっせと作っている。菜桜が、その細工を覗き込んで呟く。
「かっ‥かわいい」
「こういうん得意なんや」
雪合戦前に形作った氷のうさぎの顔を雪だるまに乗せれば、全体にファンシーちっくなうさぎ雪だるまの世界が広がった。
転んでも泣くな。雪まみれになっても立ち上がれ。そんな気合と共に、リュインは坂を転がって行く。せっかくなんだから、楽しまなくっちゃと、慈海は怪我したら錬成治療があるよと笑いつつ。転がっては壊し。壊しては作り。確かに早く大きな球になるのだけれど、壊れる確率も高かった。
「大きなのが良いよね〜っ♪」
「当然だ。どーんとな!」
「‥無茶もほどほどに」
そうれぃとばかりに巨大な雪玉を作り続けるリュインと慈海を、サポートしながら、タイムを計る空は常識人だった。
「綺麗?」
「綺麗、綺麗」
「‥従いますとは言いましたが‥」
三段雪だるまは、有無を言わさずリュインがばっちりとメイクをしたきりんさんチームの顔拓をとった三段トーテムポール風になった。綺麗に化粧された慈海は嬉しそうだが、釈然としない空だった。しかし。従ったのだから、それは顔拓をとらねばならないだろう。アイシャドーと睫毛。口紅がくっきりと三段トーテムポールを飾った。
「やはりヒゲ!」
リュインは雪だるまの髭にこだわった。
二段雪だるまは‥‥ミハイル・ツァイコフ中佐の顔。髭がきっちりついている。上手に削った雪の顔。木の枝の右手は前で、手袋は上向き。何となく偉そうなのがポイントかもしれない。
「この傾斜‥前回の傾斜を思い出すよ」
前かがみに重心を落として登る。コツを思い出しつつ、和奏は着実に雪球を作って行く。
坂の重要性を認識していたのは和奏だけだった。どうにかこうにか、雪玉を押し上げると、他のチームはもう仕上げにかかっている。
「大事なのは『物語』2匹の雪らいおんだるまの間の空気、関係性が勝負っ」
三段雪だるまは雄ライオン。小さな丸い雪玉を作り、顔の部分に鬣よろしく、つけていく。これはまるで某ドーナツ。僅かに情けなさげに八の字眉毛。雌ライオンは二段雪だるまできりりとカッコイイ。カカア殿下のライオンの番のようだ。
その雪だるまの後ろで、NAMELESSがご機嫌でこっそりと箒の尾を重ねる。表は、なんとなくとほほのライオンだが、見えない場所では仲良しなのを上手く表していた。UNKNOWNのかわいらしい妨害工作の木々が近くに無かった。
数名の職員がひそひそと語り合った挙句に出した点数は以下の通り。うさぎさんチームの時間の短縮と美しさ、繊細さが群を抜いていた。が、らいおんさんの密かなドラマに心揺らいだらしい。ミハイル・ツァイコフ中佐の顔は見て見ぬ振りをしたようだ。
<雪だるま結果>
うさぎさんチーム 10点
きりんさんチーム 3点
らいおんさんチーム 5点+5点
●かまくら
最後の勝負どころである。佐伯が台車を結ぶと声をかけた。
「安定性は変わりませんが、一度に運ぶ量は段違いです。頑張ろうっ!」
「よし‥‥行こうか‥‥」
「一気に、突き放せますね」
幸乃が桜子にミネラルウォータを手渡す。雪を固めるツナギのひとつになるかもしれない。
「お気をつけて」
まるで重戦車のようだ。雪原を行くスピードは僅かに落ちるが、その積載量は他のチームを突き放す。かまくらを作る場所に雪を集めると、桜子がその雪を固める。雪を運ぶ場所に戻れば、佐伯がその道30年のスコップ捌きを繰り出して、事前に積み上げた雪を手際よく台車に載せる。
とても、早い‥が。
まずは、ブロックに固める所からはじめたのはきりんさんチームだ。
「ブロック3t分作ったら、かまくら形成に回るねー♪」
慈海が、木枠にがんがん雪を詰めて、圧縮する。流石に図面は無理そうで、大体の形を考えて作る事にする。
「内側のブロックは少し柔らかめの方が良いですよね」
「まかせろ。運んで運んで、運び倒す」
負けないからなーっ!と叫びつつ、リュインが台車に雪を積んで走る。力強さは変わらないが、ひとりで運ぶのはどうしても時間がかかった。
「けけけけけけけけけー!」
NAMELESSの声が雪原に響き渡る。その体力の極限まで使い、台車を猛スピードで走らせる。何時までも終わらないのではないかと計算をした和奏は呟く。
「覚醒中に一気に運んじゃうのが理想的だね」
運ぶ道を、台車が通りやすいように踏み固めるのはUNKNOWNだ。平らになった場所は走りやすい。ハバキは、へろへろになりつつあった。台車の方向がぐらぐらと揺れる。
「最後は精神力っっ」
らいおんさんチームも、ブロック状に雪を固めるのだが、木枠を使ったきりんさんチームに僅かに及ばない。だがしかし。きりんさんチームは人数が少なかった。
かまくらに灯が灯る。暖かい火も入る。暗くなってきた雪原に、はらり、はらりと雪が舞う。
ちゃんこ鍋の良い香りがかまくらの中に漂う。慈海の用意した日本酒がコップに注がれ、これまた良い香りが漂う。純米のそれは僅かに梨の香りが立つ。太い葱も、焼き豆腐もあつあつで、リュインは嬉しそうにお代わりをする。とろとろになった葱や甘い白菜を頬張れば、体中が癒されて行くようだ。にこにこと空も火にあたりながら、鍋をつつく。
甘い香りが立ち上る。ミルクベースの韓国風ピリ辛鍋を仕上げたのはUNKNOWN。しっかり食べなさいと、まるでお母さんのように笑う。白濁したスープに仄かに浮かぶ唐辛子の赤。韮や白菜、豚肉にぷりぷりの海老が入った水餃子が食べても食べても止まらない味を引き出して。
沢山よそってもらい、えへへと笑うのは和奏だ。成長期の彼女はどれだけ食べても足らないだろう。
「姫を守るナイトさんたち、ありがとう」
美味しいと、満面の笑顔の和奏に、満足そうにUNKNOWNは微笑む。パイシチューはオーブンがいる。パイは断念し、鶏肉や、ジャガイモ、人参、玉葱が大きく切られ、ごろごろ入ったホワイトシチューをNAMELESSは手伝って沢山作ったが、沢山食べる。土鍋で煮込めば、大きな具材も早く煮え、コクのある煮物になる。
お疲れ様でしたと、お皿を差し出すハバキにも沢山の具が盛られ、すげー。と、歓声が上がる。
「ありがとうございました」
初めての依頼は勝手がわからなかった菜桜だったが、来て良かったと、お汁粉を口にする。ほっこりと小豆が甘い。
「出来たで。かーっ。上手いな」
佐伯は、日本酒をなみなみと注いで、喉に流し込んで、鍋を取り分ける。鍋の蓋を取ると、ふんわりと良い香りが立ち上り、白く湯気が立つ。鮭がぶつ切りに入り、イカのつみれがころりと顔を出す。今日の疲れが半分は飛んで行くだろう。樽の香がうつった日本酒が鼻に抜ける。
「よい一日でしたわね」
桜子が、はい、どうぞと、たくさんのおはぎを詰めた重箱を出す。暖かい緑茶が飲めない者に配られる。緑茶の香りが優しく香る。
「明日は‥‥筋肉痛かな‥‥」
幸乃が張った腕と足をさすって呟いた。体力も練力も根こそぎ使った体力強化。疲労回復には食べて休む。これが一番である。かまくらでゆっくり食べて、帰る前に施設で十分な休養をとって‥‥翌日からはまた、彼等は戦いが待っている。
雪が静かにかまくらに積もっていった。
<かまくら結果>
うさぎさんチーム 5点
きりんさんチーム 3点
らいおんさんチーム 10点
<総合得点>
うさぎさんチーム 20点
きりんさんチーム 9点
らいおんさんチーム 32点(MVP点含む)
優勝チームにはアフロを職員から贈呈‥‥。
次は水辺なんて良いですねと、ぼそぼそ言う声が聞こえてきた。