●リプレイ本文
●整備班と一緒に
格納庫前には、整頓された機器が沢山おいてある。
そこからは、出て行くナイトフォーゲル──KV、帰ってくるKVが間近で見られ、軽い機動音があちこちから耳に入り、その振動が身体に伝わる。
各国の機体も近くの滑走路へと着陸する。
「わはは、可愛いヤツめ」
整備士志願の風巻 美澄(
ga0932)は、KVを磨く事が楽しくて仕方が無い。戦いが終わった後の、別の戦いが自らが望む場所なのだ。排気ノズル。バーニヤ周り。接合部は意外と汚れは溜まらない。とか、楽しげにKVを撫ぜ磨く。簡単なメンテナンスをと思うが、ばらしかけると整備班が飛んで来て、横で一緒にやろうとチェックボードを貸してくれた。ひとりでいじるのは有事でもなければ止めた方が良いようだ。
煙草を取り出すと、整備班が、滑走路は火気厳禁。と教えてくれる。多くのKVが外に出ているのだ。万が一があってはならない。
あ、そうかと、明るく笑うと、美澄は、さらに手間をかけて磨いて‥いつの間にやら寝てしまった。何だかんだと言っても、大戦の疲れが出たのだろう。整備班は、がんばれよとそっと声をかけて寝ている美澄の顔についた油を微笑ましく見て離れた。
「滑走路で愛機と戯れる会に参加させて頂きますー」
右を向いても左を向いても、空を見上げても、戦闘機。レーゲン・シュナイダー(
ga4458)は幸せだった。特に、周りに居る子──KV達は、皆とても大事にされて、そういう子達は、もう顔が違って。そんな子を沢山見れて萌え。もとい。科学者としてはとても嬉しい。そんな空気の中、ヴィルフリートと名付けた愛機をお日様の下で磨くのは素敵だ。カスタムされた子、様々に色分けされた子。どの子も素敵。レーゲンは一日中幸せだった。持参した実家ドイツの黒ビールも幸せを増幅させて。可愛い子と酒に引き寄せられたデラードは、どうぞと言われれば、どうもと、愛想良くいただいて。
馴染むのに時間のかかったR−01を、麓みゆり(
ga2049)は、丁寧に磨く。外装から、コクピットまで、その手入れの方法に整備班は感心して唸った。駆動系の構造や、みゆりに馴染んだ為に出たであろう、愛機の癖などがあるのならばと、整備班を捕まえて聞いてみる。素直に聞いて、自分のものにしようとする姿勢に整備班は大喜びで細かく教えるが、大半は専門用語と知識で、今ひとつわからない。それでも、大まかな流れをみゆりは復唱して覚え込みを始めた。発着するKVやその他の輸送機や飛行機、戦闘機や高速移動艇などが飛び交う空を嬉しげに見た。
伊河 凛(
ga3175)も整備班に色々話を聞いていた。油圧系統、エンジンや足回り等のチェックを、チェックボードを借りて、一緒に見る。計器や動作の確認を終えると、KVを磨き始める。従来の戦闘機らしくないその機体を変わった形だと思う。だが、大事な自分の機体だ。ついでにと、何セットか体力トレーニングをこなす合間に、仲間達の姿が目に映る。
「まさか、こんな大家族の一員になるとはな」
思い思いに機体を磨く仲間達を見て、何となく笑みが浮かんでくるのに気がついた。哀しい過去が次第に薄らぐのはこいう時かもしれないと。
大規模作戦で頑張ってくれたねと、樹エル(
ga4839)は愛機磨き、メンテナンスをしようとするが、メンテナンスは流石に手に余る。整備班が飛んで来て、手伝ってくれた。
元気良く顔を出し、整備班に肉まんを差し入れた葵 コハル(
ga3897)は、自分の機体を撫ぜながら、感謝の言葉を告げると、腕まくりをしつつ、隅々まで磨き抜く。よっし! と満面の笑みを浮かべてコクピットに乗り込むと、これからもよろしくと、相棒たるKVに話しかける。
「操縦ヘタクソかもしれないけど、つきあってくれると嬉しいな」
どんなパーソナルマークをつけようかと、あれこれ考えているうちに、何がなんだかわからなくなり、唸りつつ頭を抱えて沈み込むと、日頃の疲れが出たのか、そのまま健やかな寝息をたて始め。
整備班に整備のやり方を教えてもらいながら、ファルロス(
ga3559)はきゅっきゅとKVを磨く。ぴかぴかになったと頷くと、穏やかな喧騒の中、滑走路に並んだ沢山のKVを眺めて、ふらりと歩き出す。
ぽかぽかとしたお日様を浴び、怪しげな鼻歌を歌いながら、MIDNIGHT(
ga0105)は、黙々と機体を磨く。バルカンの照準を整備班を捕まえてチェックボードに書き込んでもらうと、満足気に磨かれた機体の羽の上へと乗り込んだ。鋼鉄の翼は程好くぬくまっている。持参してきた麦入りおにぎりを黙々と食べ、『地道』と書かれた湯のみに、2Lポットに入れてきた熱い玄米茶を注ぎ、合の手を入れながら黙々と食べ続ける。無表情な彼女だったが、その心のうちは、とても美味しく、満足で幸せのようだった。一升ものおにぎりを綺麗に食べ終わると「ご馳走様でした」と、手を合わせ。
●戦友と日差しの下で
「シャークノーズなんて古典的過ぎやしないか」
「‥古典的、ではなく、せめて古式ゆかしいと言って欲しいものですね、井筒さん。こういう物は気分の問題ですよ。実用性も重要ですが、ね。全身を森林迷彩にしようとしなかっただけマシだと思って欲しいものです」
井筒 珠美(
ga0090)は綿貫らしいなと笑うと、空を見る。不意に思い出すのは自分より腕が上だった奴が先に逝ってしまった過去。その空は、逝ってしまった仲間達と繋がっているのだろうか。僅かに眉を寄せた珠美を見ると、綿貫 衛司(
ga0056)は、ランニングでもしましょうと、笑いかけた。考えている事はわかっている。下手な慰めは不要だろうとも。どんな作戦でもこなせるように、体を鍛えましょうと。まだ、戦わなくてはならないのだから。
「‥‥次の戦闘も頼りにしていますよ。その時は、またその力を存分に発揮してくださいね」
8246小隊のペイントを感慨深げに落とし、綺麗に磨き上げると、リディス(
ga0022)はKVの上に座り、感慨深げに呟いて空を見る。一服吸いたい所だが、格納庫前の滑走路は火気厳禁。と、最初に言い渡されてはそうもいかない。傷だらけだった、この子が居なければ、激戦を潜り抜けられなかったと、傷を思い出し撫ぜる。僅かに目を細めて微笑むと、語り合う事も煙草を吹かし合う事も出来ないが、彼女と相棒の間には確かに繋がる心があった。水上・未早(
ga0049)はキャノピーを空けて、座席に風を入れる。コクピットには聖盾従軍賞を掲げて、愛機に例を言う。同じ小隊の仲間と生き延びたという事が胸に迫る。また、同じ時間を過ごせるかどうかはわからない。その刹那の一瞬を共にした戦友達と共に戦えて良かったと思う。また、同じメンバーで集まれたら良い。‥その時まで、誰一人かける事無くと。その横では、ベールクト(
ga0040)が火をつけない咥え煙草で機体を磨いている。無茶な突撃をした小言は散々聞かされたが、気の合う仲間だからこその情のある小言だった。
「クッ‥‥わぁ〜った! 詫びにKVをピッカピカに磨いてやらぁ!」
そう、自棄で言い放てば、ならば俺のも頼むと桜崎・正人(
ga0100)が声をかけた。そう言ってはみたが、自分の機体だ。正人は全部を磨かせるつもりは無い。急な戦いに、急いでペイントした小隊のエムブレムを、様々な思いを乗せると、ゆっくりとおとし始めた。
「赤くペイントして、これで機体も『緋色の閃光』だな♪」
霧島 亜夜(
ga3511)は、ペイントを手伝ってくれるというエレナ・クルック(
ga4247)とキョーコ・クルック(
ga4770)に赤い塗料を掲げて見せた。
「ほぇ‥真っ赤にするんですか〜?」
「機体を赤一色に染めるとは男だね〜」
目を瞬かせるナース姿のエレナと、やっぱりナース姿の呆れ顔のキョーコは、わざわざ目立ってどうするといわんばかりの視線を向けた。
「そちらの方はお姉ちゃんの彼氏さんですか?」
「え、俺がキョーコの彼氏かって!? どうなんだろうな、キョーコ」
「かっ‥‥彼氏のわけないじゃないか! 霧島は戦友だよ戦友!」
初めましてのエレナの問いには、否定とも肯定ともとれる返事が双方からかえり、小首を傾げる。
エレナの機体はピンクの流れ星。キョーコの機体には二本交わった刀とカチューシャ。そんなエムブレムが描かれているが、流石に真っ赤一色にしようとは思わない。目だって敵を引きつけて、味方を助ければ良いと亜夜は言う。
三人の提案は火気厳禁。落ち葉も無い。そんな滑走路では残念ながら実現はしなかった。亜夜が持参した暖かいコーヒーが3人にほっとした一時をもたらす。こんな日がずっと続くと良いとキョーコは立ち上る珈琲の香りに小さく息を吐いた。
小隊【S.G】がKVを洗う一角は、水遊び場と化していた。個々にKVへの感謝の念も、戦いにおいては真剣な心情もあるが、それは空へと祈っておこう。
「やあ、桜君に愛華君じゃないか。君達もKVを洗いに来たのかい?」
そもそも、イスク・メーベルナッハ(
ga4826)が最初に水浸しになっていたのが、良かったのか悪かったのか。彼女の服はすけすけ寸前である。だがしかし。本人はいっこうに気にする様子も無い。
ふっ。そんな笑いが零れそうなイクスは、良かったら今夜はおいでと、自室へと可愛らしい2人を誘うが‥‥2人とも聞いていない。
小さな綾嶺・桜(
ga3143)は、一生懸命自分の機体を磨く。脚立を使えば届くのだが、それに気がついていないようで、はっと我に帰ったりもした。うーと唸る、その手からうっかり水が響 愛華(
ga4681)へと飛ぶ。
「‥む、少し手が滑ってしまったのじゃ。別に悪気はまったくないから許しておくのじゃ」
「わぅ♪ ‥‥‥‥はっ!?」
わたわたと大慌てをする響 愛華(
ga4681)は、何故かサイズの合わないぴちぴちの作業着を着込んで胸の辺りが苦しそうである。鉢巻で一つに結んだ髪が揺れる。水かかかっただけなのだが、愛華のパニくり用は、見ていて気の毒になるほどだった。ふるふると水を切る彼女から、飛沫が辺りに飛び散った。
仲は非常に良さそうだったが、微妙にかみ合っていない。いや。そんな所がかみ合っているのか? 彼女達は、きゃあきゃあと華やかにKVを磨いていた。
兵舎【成層圏アクアリウム】の面々を眺めながら鏑木 硯(
ga0280)は、ポニーテールに結んだ髪を揺らしつつ、KVを磨く。仕上げに満足すると、仲間達の下へと軽い足取りで寄って行く。仲間達は、思い思いに過ごしているようで‥。
「くーじーらーいー。暇ならちょっと組み手でもどう?」
「そうだな」
鯨井昼寝(
ga0488)は、KVを磨く手を休め、しばし、硯の相手をする。硯は、その力強さに押されて、降参する。ふと、目立つ人の姿が居ないなと見回せば、寝息を立てているゴールドラッシュ(
ga3170)を見つけて、目を丸くする。何しろ何時もは、何かしら稼ぐ事を探しているというイメージがあるようだ。
そんな、ゴールドラッシュは、一応KVを磨くつもりで来たものの、穏やかな日差しに誘われて、大きくあくびをすると、コクピットで転寝を始めていた。仲間達の声や、優しい喧騒が耳に心地良い。カウボーイハットで日差しを避ければ、本格的に幸せなまどろみに引き込まれ。
戦友達の間で過ごす、この時間とKVに感謝を込めてと、格納庫の前で待っていたのは遠石 一千風(
ga3970)だ。一番光らせてやろうと思ってと、照れくさそうに笑う彼は、格納庫からKVを滑走路に出すのを手伝った。鋼の機体が陽を浴びて鈍く光る。自分だけの力では無い。仲間達がいたからこその戦果だったのだと、頼りになる仲間達の横で、少しでも力になれるようにがんばろうと一千風はKVを磨く。
一子相伝なのだからねと、鯨井起太(
ga0984)は非常に神経を使い、KVを磨いていた。きらりと言う擬音が何度も入りそうなその磨き方は、スポンジやクロスのチェックから始まる。異物がついたら、KVに傷がつくというのだ。天候まで薀蓄があるらしい。KVの愛で方は人それぞれだ。
「ボ、ボクの美しいナイトフォーゲルにききききききき傷がっ!」
僅かな砂埃で悲鳴を上げる起太に、やっぱり、可笑しな事をやっていると、硯が覗いて笑った。
同じ兵舎の仲間達の近くで、ノビル・ラグ(
ga3704)も愛機に空の雲が映り込むほど磨きまくる。
「外は快晴! 許可も下りた事だし、KV磨くにゃ絶好の日だぜ」
よし、絶世の美女になったと、満足気に頷くと、隅っこでのんびりとKVを磨いているデラードに気がつく。何所か故郷の兄の姿が被り、離れている兄が元気にしていると良いと思う。そんな懐かしさからか、気がつけば弁当をすすめていた。米派なのだと、ノビルに謝意が告げられ、バスケットの中からおにぎりがひとつ抜かれ。ノビルが仲間の下に走っていくその合間に、昼寝の赤い派手な色彩に彩られたKVがあった。赤い鯨をモチーフとしたのだ。何か言いたげなデラードの視線に気がつき、昼寝はぐっと親指を立てて、視線への返答とする。狙い撃ち上等。敵機が自分に向かってこれば良いと。鼻歌を歌いながら磨き抜き、良い天気だと伸びをする。昼寝は、その強気のジェスチャーにデラードの表情がほんの僅か、曇ったのを見逃した。
今日はゆっくりする事にしましょうと、名古屋防衛線で修繕された相棒を、綺麗に磨き、全体的に白っぽい塗装を終えたリヒト・グラオベン(
ga2826)は、KV磨きに手馴れているのではとデラードへと磨き方を聞きに行き、煙草を勧めるが、葉巻は吸わないから、好意だけ貰っとくよと笑顔が返る。
北柴 航三郎(
ga4410)は、リヒトを見つけると声をかけた。
「第一次の地上戦の時は有難う。君が庇ってくれなかったら、今頃こうやって飲んだり食べたり出来ませんよ」
「いえ、このように貴方とも笑い合って話せる――そのためなら安いものです」
思い思いにKVを磨く仲間を見て、リヒトは微笑んだ。
激しい地上戦だった。大島 菱義(
ga4322)は戦いを振り返る。新米の自分をしっかりと守ってくれた、偉い奴に、感謝を込めてと、愛機を磨く。許可された機械以外は持ち込み禁止。そう『KV磨くんジャー1号&2号』を止められた航三郎が、自分の手でも磨くつもりだったから良いと、その横できゅっきゅと磨きはじめ。
●想い乗せた空の下
「我がKVよ、汝はこれからも花火師ミックと共に助け合い、励ましあい、最前線で死をも恐れず弾幕を張り続けることを誓いますか?」
花火師ミック(
ga4551)は、ぴかぴかに磨いた真っ赤なKVと、思わず結婚式ごっこをしていた。真っ赤な機体は意外と多い。けれども、これは俺の専用なんだからと、満面の笑顔でKVを見た。
配属されたばかりのあゆ(
ga5074)は、主翼の付け根の平らな部分に黒い縁取りで白い羽をペイントし、コクピットで転寝をしていたが、寝過ぎたかと、がばっと起き上がる。そんなあゆに、ミックは笑いながら声をかける。
「あと1年たったら一緒に酒盛りしよーなー、それまではオレンジちゃんで我慢や我慢」
差し出されたオレンジジュースを元気な笑顔で受け取って。
今日ぐらいは息抜きをしても良いよねと、そっとバグアの手にかかった妻と娘を胸に思う。左手の薬指の指輪が鈍く光ったのは結城 朋也(
ga0170)だ。彼の目に飛び込むのは、アイロン・ブラッドリィ(
ga1067)の超然とした佇まい。これは恋では無い。けれども、不思議と惹かれるその姿に声をかけた。非能力者だが、空軍所属だった亡夫も、同じように機体を磨いていただろうかと、思いを馳せていたアイロンは、朋哉に気がつき、綺麗な笑みを返した。互いの境遇は察している。
「あ、はい。これが終われば一段落しますので、もう少々お待ちいただけます?」
欠かさない、髪の手入れのようにじっくりと磨いたKVの足元で、穏やかな日差しの下、甘いココアの香りが立ち上る。
引き際を誤った。如月・由梨(
ga1805)は、コクピットの中で撃墜された事を繰り返し思い出していた。味方の命を守ると思っていたのにと、悔恨の念は尽きない。負けず嫌いの魂が失敗が悔しくてならないだけだとしても。
「由梨‥少し散歩でもしないか? ‥‥」
黒、銀、赤を望む配色にペイントし、人型の肩の辺りに金色の十字刀が銀色の弧月のエムブレムを描ききると、終夜・無月(
ga3084)は由梨を誘う。案の定、落ち込んで出て行きたくないと言う彼女の手を優しくとった。
「少し歩くだけ、ですよ‥‥?」
優しい恋人の手の温もりに由梨は、顔を上げた。
漆黒にペイントを済ませていた漸 王零(
ga2930)は、王 憐華(
ga4039)の誘いに手を止めた。可愛い恋人の横でも考える事は尽きないようで、手には先の戦いの要点を纏めたレポートがあった。のんびり歩く先に、同じように歩いてくる由梨と無月を見つけた。無月に手にしたレポートを差し出し、感想を求めれば、良く来ていると頷かれ。ダブルデートのように歩く中、由梨は無月に何があっても守るからと囁かれ、胸が熱くなる。友達と、最愛の恋人と。一緒に居れば、悩みは前向きなものへと変わって行き。
●悼む空の下‥
青い空が目に染みるようだ。ゼロ・マクスウェル(
ga5118)は、R−01を磨く。このKVは、ある傭兵からのお下がりだった。綺麗に整備されてから受け渡されたはずなのに、コクピットに一枚の写真を見つける。多分、この機体の持ち主だろう。整備員は前の持ち主の噂話などしないが、その表情でなんとなく推測は出来る。ただ、黙々と癖のある機体の清掃を続けるのだった。
曽谷 弓束(
ga3390)は、そっと格納庫に顔を出した。表に出ているKVを見て、ほう。と、溜息を吐く。青空の下、皆と機体を磨くのは、今の彼女には辛い事だった。そっと撫ぜると、ぎゅっと頬すりをする。これからずっと一緒の子だ。きっと無茶をさせる。でも、今後ともよろしゅうにと、KVに挨拶を済ませ。賑やかな場所を透かし見る。デラードを見れば、向うもこちらに気がついたようで、会釈をすると、軽く手を上げられた。挨拶は、済みましたなあと、折り紙を折って、コクピットへとお守り代わりにそっと置き。
工場破壊失敗、自機撃墜。フォーカス・レミントン(
ga2414)は、気晴らしにとやってきたが、やはり頭からは、先の戦が離れない。
「俺としては、名古屋での防衛は痛み分けだと思っている」
あの後、市街地での戦いはどうなっているのか、軍の現状はどうなっていると詰め寄れば、デラードは、さあてと首を捻り。
「俺達兵隊は、飛べと言われた場所に飛ぶだけだからな」
戦局は刻一刻と変わる。それを下は知る事はめったに無いのさ。それは、あんたも良く知ってるだろと意味深に笑われて。
「我々傭兵は全員無事だったが‥この戦いで何人の市民や兵士が命を落したのか」
嶋田 啓吾(
ga4282)はビールを飲みながら、一人静かに黙祷する。
バーベキューは悪いが許可できないと、デラードは申し訳無さそうに告げる。ここは、火気厳禁なのだそうだ。考えてみれば、稼動中の滑走路の片隅だ。格納庫前とはいえ、今も尚、ひっきりなしにKVは行き来するし、各国の飛行機、戦闘機が出入りする。高速艇も各地へと能力者を運んで行くのが見える。
そういうことならと、啓吾は、肩をすくめた。
仲間達に声をかけ、集合写真を撮る為に、声をかけに立ち上がる。
『鋼の棺桶』と、UNKNOWN(
ga4276)はKVを呼ぶ。ブラックウィドウ(未亡人)と愛機に名をつけ、さして愛しむわけでも無いが、能力者の手足たる事は十分に認めている。整備記録を確認すると、そのままふらりと歩き出し、ズウィークと、デラードの名を呼ぶと、小さな小瓶を放った。ラムコーラのようだ。
「夜に、また。だな」
「おう」
中々、誘いに出れなくて悪いなと言うデラードの返事を後を向いたまま聞くと、軽く手を挙げ返事に変える。風に手渡されたビールに口をつけ、ひとりサックスフォンを響かせる。響くのはブルース。何所か物悲しいその響は、彼の心かそうで無いのか。
「おっと。ドクター。下手に機器類を持ち込んだら整備班長にどやされる」
「こんな機会はめったに無いのだがね〜」
開発中の機器を持ち込もうとしたドクター・ウェスト(
ga0241)は、デラードに止められた。ドクターには思いがあった。一刻も早く、能力者ばかりに頼らず、バグアを倒さずにいてどうするのかと。それは、本当に人類の勝利になるのかと。だが、許可の無い機械を動かされては流石にまずい。でもそういうドクターは嫌いじゃないとと、デラードは笑った。サイエンティストはそんなものだ。研究に向かってまっしぐら。今日は勘弁してくれなと、自分の腕を出した。その反応が正しいかどうかはまた別の話だが、ドクターは持参の機器をデラードに当てると、ひとつ頷いた。
ドクターと来ていた国谷 真彼(
ga2331)は、見覚えのある男を見つけた。戦場カメラマンである彼の写真を見た事があるのだ。そう告げると、坂崎正悟(
ga4498)は、酷く生真面目な顔になり、あんたはそれを見てどう思ったと問われる。幾度と無く繰り返されたであろうその問いに、写真は見るものによって左右される事を十分承知の上で答えた。思い思いに過ごす能力者たち。
「資料屋には難しい質問ですね。写真が伝えた事実を知るのみです」
「事実、か‥」
事実は、事実でしか無い。何時の間にか、人の評価を気にするようになっていたのかもしれないと、正悟は思う。名古屋防衛線で戦いに赴く能力者達も、ここでのんびりと笑いあう能力者達も、全て。フィルムに収めなければならないと。声をかけられる度にシャッターを切る。命の躍動そのままに。風(
ga4739)の強い要望に頷くと、この先も被写体になって欲しいと持ちかければ、二つ返事で頷かれ。
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は、故郷アンデスの葦笛をコクピットで静かに奏でていた。しかし、元気の良い声に誘われて下りる。風から、ビールを手渡されると、ホアキンの年内にやりたい事のひとつ、お姫様抱っこをしてみたい。の、お姫様だっこ希望と聞いて、願ったり叶ったりと早速軽々と抱きかかえ、風の髪に顔を埋めると、彼女にだけ聞こえるように囁いた。
「風‥あなたに本気になったら、ご迷惑だろうか?」
「め、迷惑なんかじゃ! ‥あああの、その、嬉しい、です‥」
どうして良いかわからない風は、その手をホアキンの背に回す。真っ赤になった彼女の顔を見て、ホアキンは嬉しそうに笑った。流転の果てに掴むものは。
柔らかい優しさを、もう少し深く抱き込めば‥‥。
●戦士の休息
大戦を戦い抜いた愛機を丁寧に磨くと、鋼 蒼志(
ga0165)は、笑みを浮かべながらペイントを始める。バイコーン。不純を司るという二角獣だ。曲がった二本の角は、正邪を併せ持つとも言う。
「バイコーンのドリルが‥‥世界の異物を穿ち貫く」
人型の肩の辺りに二本角をドリルに変えて描くのは、やはりドリルが浪漫だからなのだった。武器開発とかを上に進言する機会などは訪れないものかとデラードに問えば、時折本部でそんな依頼があるし、何時でも提案は受け付けてるはずだ。と、のんきな答えが返ってくる。
高らかな笑い声が響く一角には、七瀬 帝(
ga0719)が居た。苛烈な戦いを共にした愛機を、あぁ。とか、おぉ。とか、華やかな手振りで磨きまくる姿は、遠目からも良く見えた。何所から見ても、視線に気がつかれてしまい、しっかりと視線を合わせられて、どっきりした人も多く居た。流石スナイパー? 特にシャッター音に敏感に反応し、優雅な笑みを振りまいていた。
棒つきキャンディーを咥えながら、葵 宙華(
ga4067)は秋桜と名付けた愛機に謝る。置いて行ってごめんねと。たった一度のことだったが、ずっと心に残っていた。兎の横顔に青いコスモスのパーソナルマークは物言わないが、きっと宙華の心は知っている。
「お酒付き合える年になったらデートしてね」
「おう。待ってるからな」
ぱらぱらと、デラードの手にキャンディを落とすと、遠くない未来の約束をとりつける。その頃には、色々おっきくなっているんだからと、にまりと笑い。
ラスト・ホープに来たばかりの伊達遥(
ga5090)は、大作戦の名残りをあちこちで見る。ぴかぴかのKVを眺めると、何もかもわからないから、とりあえず聞いてみようと、デラードを捕まえた。やっとの事で挨拶をすれば、軍と傭兵は同じ場所で戦うけど、軍人じゃないから、俺の部下じゃないんだよ、と笑いかけられ、すでに何がなんだかわからなくなっていた遥は、くるりと踵を返す。結局何も聞くことは出来なかったようだ。
「‥お疲れ‥相棒‥」
白虎カラーにペイントしたKVに、島 百白(
ga2123)は呟く。機体の整備が終わると、コクピット内で本を読みつつ、穏やかな転寝に引き込まれた。つかの間の休息は彼女に何の夢を見せたのだろう。
コクピットの中で、崎森 玲於奈(
ga2010)は己の生き様を思い返す。抜刀術を極める先に、生きる意味が見つかると信じたが、手に入れたのは、戦いの中で、渇望する思いを抱えねば生きられない事実。それを後悔はしない。生き抜く先が、たまたまそう形作られただけである。すっぽりと収まるコクピット。これは空舞う剣と鎧。再び手にしたのがまた同じ戦いに赴く手段なら、それ事、自らの手で面倒を見るしかないだろうと、コクピット越しに空を見た。
「大規模作戦は、一つ区切りがついたが‥‥束の間の休息は、いつまで続くのだろうかな‥‥?」
「戦い済んで、日が暮れて、そして日はまた昇る、か‥‥」
愛機の主兵装であるユニコーンズホーンにワックスをかけつつ、ブルース・ガロン(
ga4749)が呟いた。愛機に何か、塗装をしてみようかと、両手で枠を作り、機体を眺めて後ろに下がれば、さっきまで磨いていた、水の入ったバケツに足を取られて盛大にこける。どうやら、何か不運がついていたのか、何度も足を取られてこけていた。
暗闇に光雷のようなペイントをほどこされているKVは醐醍 与一(
ga2916)の愛機だ。雷電と名前をつけられたその機体へ、労いの言葉をかける。雷電の頭部近くで座り込み、2人分の徳利に酒を入れ、杯を交わす。片方は雷電の杯だ。
「これからもよろしく頼むぜ相棒」
物言わぬKVだが、そこには確かに気持ちが通じる瞬間があった。
程よく酔いが回れば、日差しと風を感じながら、ごろりと横になった。たまにはこんな日があって良い。
「このままの日がずっと続けられる‥‥そんな日がきっと来ますよね?」
そう、磨いたKVのコクピットで呟くのは大島 菱義(
ga4322)だ。青い空を行く雲は何も語らない。
作業姿でも、黄色いマフラーをなびかせつつ流 星之丞(
ga1928)は、車磨きを手伝わされたっけと、小さな頃の穏やかな記憶を呼び起こしていた、KVを磨く。戦いには何時も横にあった。その機体に感謝を込めて。鏡面のように顔が映り込む真紅の機体を眺めて、人当たりの良い顔で微笑んだ。暖かな日差しをコクピットでいっぱいに受けていると、その心地良さに、寝息を立て始め。
眩しい日差しに手をかざし、キーラン・ジェラルディ(
ga0477)は愛機に言葉をかけつつ、丁寧に磨く。
「ガリーニンの護衛からずっと、働き詰めでしたね」
深い傷はきちんと修理されているが、ここについていたはずだと、記憶を辿り、そっと撫ぜる。思い起こすのは、あの頃。こんな天気の良い日に、同じようにKVを磨く隣には必ず親友が居た。戻らないその日を惜しむかのように、僅かに目を閉じるが、キーランはいつものような穏やかな笑みを浮かべる。戻らないあの日々と約束を忘れる事など無い。戦い続ける事をその証として。
格納庫前の滑走路の片隅で、ずらりと並んだKV。
それを磨く能力者達が、何を思い、何を信じ、何を目指して戦うのか。沢山の理由は在る。
全てが叶うのは、まだ先になりそうだ。
青空と穏やかな日差しは、変わら無くあるのだろうけれど‥‥。