●リプレイ本文
「我ながら‥‥うかつですね‥‥」
BEATRICE(
gc6758)が、ロングボウ2、ミサイルキャリアのコクピットで小さくため息を吐く。
万全の状態では無いのが悔やまれる。
「大丈夫、大丈夫。だが、敢えて言わせてもらおう! 死ぬナヨ」
明るい声がかえる。ラサ・ジェネシス(
gc2273)だ。
「申し訳ないです‥‥ご迷惑をおかけするかと思いますが‥‥」
「頑張りましょ。でも、無理はしないで」
ラウラ・ブレイク(
gb1395)が、BEATRICEへとかえす。
敵を殲滅し、全員で戻る。
それは、言葉にせずにも、誰しもが思う気持ちであったろう。
●
敵航空部隊が目視出来る距離へと入る。
無数のキメラが、低空へと蠢き始め、抜け出るように高空に姿を現したのは、HW。
「‥‥これ、どう考えても向こうも一斉射してくるわよね」
敵布陣を見て、シュテルン・G、空飛ぶ剣山号、エリアノーラ・カーゾン(
ga9802)が呟く。
その中に、特徴的な長い手足の細身のシルエットが浮かび上がっていた。タロスだ。
マヘル・ハシバス(
gb3207)は目を僅かに細める。
あまり、見た事の無い陣容。
「こんな戦い方をするということは、単純な空戦能力は通常のものより低いのかもしれません」
睨みあいは、ほんの一瞬。
互いの武器の射程距離に入ったからだ。
飛んでくるのは全てのHWからのプロトン砲の淡紅色の光線。
そして。
「ギリギリまで引き付けて‥‥3、2、1、今!」
スレイヤー、Cimeries。ラウラだ。
遥かに多い手数に余裕を持たせ、K−02を全弾撃ち尽くす。
傭兵等の攻撃は、あまりにも激しい攻撃だった。
K−02小型ホーミングミサイル。
それは、一度の攻撃で射程内の敵複数機を同時攻撃可能なミサイルである。
弾丸は250もの雨となって空を激しく打ちつける。
その威力は戦い方をある意味変えていた。
「バグアを確認、駆逐スル‥‥」
フェイルノート2、Queen of Night。ラサ機。
「括目させてもらおう、鎧袖一触‥‥スターダストパニッシャー!」
ちょっと必殺技っぽく言えたと、心中でラサが拳を握ったかもしれない。
ツインブースト・アタッケ、同クー・ドロア。スキル二つを乗せたままブーストをかけて突っ込み、数機をその射程に捉え、礫の暴風K−02を二門続け様に撃ち込んだ。
「んーぅ。獲物ぶら下げたタロスがHWからKV、KVからHWへ次々に跳んでく、って。何か似たような光景を日本の軍記物で読んだ気がするんだけど。何てタイトルだったかしら」
会敵した瞬間、タロスが後方のHWへと移動していく様を見て、エリアノーラは首を傾げる。
けれども、その標準はしっかりと敵機を複数捉えていた。桁違いの命中率を誇るエリアノーラ機から、遠慮会釈の無いK−02が、常ならぬ破壊力を持って、次々と全弾襲いかかる。
空がミサイルで一瞬に覆われる。
ミサイルの雨。スカイセイバー、隼鷹。榊 刑部(
ga7524)機だ。
「敵は多いですが、けしてこちらが対処できないほどではありません」
機体に積んだK−02は二門とも、同一目標をロックオン。
シグナルがゴーサインを示す。
「堅実に、そして大胆に戦う事としましょう」
続けざまに打ち放たれるミサイル群は、耳をつんざくかのように、空を裂いて行く。
「大した性能じゃないけど‥‥他の人たちのミサイルパーティーの前座くらいにはなるでしょ!」
イビルアイズ、BELL。リン=アスターナ(
ga4615)が、淡々と言う。
狙い撃つのはK−02。
留まる事の無い暴風はまだ続く。
「役に立てるのは‥‥ここだけかもしれませんしね‥‥」
複合式ミサイル誘導システム2で射程距離などを伸ばすと、誘導弾用新型照準投射装置を宣言する。
仲間達の後方から伸びるK−02。その数、三門。
BEATRICEのロングボウ2、ミサイルキャリアから、唸りを上げる攻撃が伸び、暴威を振るう。
練力を大きく減らす。今の自分の状況では、混戦に混ざるのは難しいと、機体を逃す。
多機能型カメラが、仲間達の戦いと、敵の状況を映し出す。
「‥‥油断しなければ、何事も無さそうですね‥‥」
次々と、爆炎を上げるHW。
叩きつけるかのような攻撃を受け、HWは傾ぐ間も無く、爆発をする。
細かな破片が四散する。
青空に、火炎と煙の花が咲き誇る。
猛威を振るうのはK−02だけでは無い。
ひゅうっとマヘルの意識が一点に集約される。
心中で思う言葉が、次々と言葉になって零れ出す。
「まず、初手は味方と同時に敵に向かってGP−02Sを2対象に。接敵した後は、HWを優先的に狙っていきます。武器は2種のAMMをメインに確実に当てること意識して行きましょう。敵の数を減らすことを重視して、ダメージの入っている機体を優先して狙って行きましょう」
サイファーE、マヘル機からはGP−02Sミサイルポッドが撃ち出された。
50もの、帯電するかのような光。小型Gプラズマミサイル系統になる。
帯電するかのような光を放つ、小型ミサイル。それはGP−02Sだけでは無い。150もの軌跡が描き出される。
「さて、まずは派手に行きましょうか」
澄野・絣(
gb3855)ディアマントシュタオプ、冰輪媛 ―hirin bime―が撃ち出すのはGP−7ミサイルポッド。
それは一度では無い。続け様に空に細かな光らせる。
「全力で行くわよ。加減してあげる余裕は無いからね」
青空に花火の様に舞い散る絣機のGP−7は、全弾が絣機から叩き込まれた。
ロゼア・ヴァラナウト(
gb1055)のロビン、鴻鵠【狼火】からは、UK−10AAEMが、HWにぶち当たり、エネルギー爆発の光を撒き散らす。
アリスシステムを稼働させたまま、ソーニャ(
gb5824)ロビン、エルシアンは、GP−7で捉えれるだけの敵を捕らえ、攪乱に撃ち出すとGP−02Sを叩き込む。
辛うじて後方に逃れて行くのは、タロスを乗せたHWだ。
タロス二体の内、一体は、足場のHWをも被弾。
慣性制御を失ったHWが降下して行くのを蹴り飛ばし、タロス自身の飛行能力で空へとゆらりと飛び出していた。
「‥‥HW、ちょっと多くもらっていいかな」
攻撃を仕掛けると、手数の多いソーニャ機は、仲間達から突出し、そのまま機体を踊るように飛びこませる。HWのフェザー砲が紫の光を浴びせかけ、残していたのだろう、タロスのプロトン砲が、ソーニャ機へとのびるが、かすりもしない。くるりくるりと、舞うようにかわすと、プラズマリボルバーを撃ち込む。
初撃の被弾を逃れたタロス機が踊り込む。
足場となっていたHWが、ソーニャ機の攻撃で爆炎を上げたが。
「!」
軽い振動がソーニャ機を襲った。
HWは初撃の一斉攻撃で半数以上が叩き伏せられていた。
バグアとの幾度もの戦いが、KVを、武器を、傭兵達を強くしている。
今回集まった傭兵達と正面から遣り合うのは得策では無かったと気が付いた時には、遅かった。
一手しのげば、バグアも得意の戦術に持ち込む事が出来たはずなのだが。
結果として中東に取り残されたバグアの旧兵器達はその力を振るう前に戦力を大きく減らしていた。
●
残るはタロス二体とHW五体。
タロスは、その動きからして、有人機だ。
一体のタロスが、突進するソーニャ機機へと向かい襲いかかり、もう一体のタロスは、やはりブーストをかけた攻撃で僅かに前に出ていたラサ機を襲っていた。
ソーニャ機はひらりと機体を返すと、マイクロブースターをかけると、タロスを振り切る。
数を減らしたHWは、二:三に分かれてそれぞれのタロスについて、フェザー砲の攻撃をラサ機、ソーニャ機へと浴びせかける。
ソーニャ機へと飛び乗ろうとしたタロス機が、足場を失い、一瞬空に留まる。
そこへと、後方に控えていたHWが、前進し、タロスの足場となる。
「空を飛べない訳ではなさそうです‥‥」
後方から観察を続けていたBEATRICEが、仲間達へと伝達する。
「‥‥まるで壇ノ浦の義経の八艘飛びね‥‥。おかしな戦術を確立されても困るし、足場のHWごと撃ち落してやりましょ」
リンが、苦笑しつつ、残しておいたK−02を撃ち放ち、敵を翻弄する。
タロスがどのように戦闘するか。
何らかのパターンがあれば、それを見極めようとリンは考えていたが、どうやら敵に余裕は無さそうだと見て取る。
「ああ、そう、それよ」
リンの言葉を耳にしたエリアノーラが、にこりと笑う。
「ウチの子は硬いのと当ててくのはそこそこだし、行くわねーっ」
エリアノーラ機がぐっと前に出る。割と所か、桁違いの防御力を誇る。PCB−01ガトリング砲が、ラサ機を狙っていたHWを牽制。一瞬の間を作ると、レーザーガン、フィロソフィーの光線が飛ぶ。狙いたがわず貫かれたHWへと、止めの剣翼をぶち当てようと迫るが、それには及ばない。
吹き上がる炎と爆炎が、エリアノーラ機へと、細かな破片となったHWが最後の攻撃とばかりに飛んでくる。
機体に当たって後方へと落下して行く破片を見て、エリアノーラは何時もと変わらぬ笑みを浮かべる。
フェザー砲がいくつか入ったが、操縦不能には遠い。
試作型スラスターライフルを接近するタロスと足場となっているHWへと撒くように撃ち放つと、ラサ機が回避行動へと移る。
「フフフ、心眼は鍛えてイル」
機体を逃すラサ機をタロス等が追わず、そのまま高度を上げる。
「太陽を背にするつもりですか‥‥やらせませんよ‥‥」
マヘル機から、UK−10AAM、短距離高速型AAMが次々と発射される。
尾を引きながら空を裂くミサイルがm狙いたがわず、タロスの足場となろうと動くHWへと着弾、爆炎を上げ。
「このタイミングなら」
続けざまにGP−02Sが発射される。帯電したかのような細かな線が空に引かれ、HWとタロスを捉えた。
HWの動きが鈍ったとみるや、単機ブーストをかけて迫るタロス。
その合間に人型へと変形し、踊り込むのは刑部機。エアロダンサー、アグレッシブトルネード、アサルトフォーミュラAを瞬時に機動させる。
「槍相手の戦いなら、子供の頃から嫌と言うほど叩き込まれてますからね」
銀の双眸がしっかりとタロスを捉えていた。
「ただ振り回すだけの槍など私にとっては脅威にはなり得ません」
その手には真ツインブレイドが握られている。
「疾く墜ちて頂く!」
タロスが繰り出す槍。そして、フェザー砲を浴びて、一瞬機体が揺らぐが、機動を損なう程では無い。握り込んだツインブレイドを縦に下から振り上げれば、タロスの胴にざっくりと縦の傷が入る。じわりと回復を見せるが、そうはならない。間髪入れずにそのまま袈裟懸けに切り込めば、タロスの胴の傷はさらに深くなる。帯電するかのような爆発がタロスの腹から起こる。くるりと刃を返したツインブレイドが真一文字に胴を薙いだ。
慣性制御を失ったかのように、ぐらりと揺れるタロス機がゆっくりと降下、爆炎を上げた。
「私達の空でもう好きにはさせない」
ラウラ機が、一瞬の合間に変形する。ソーニャ機が転進した間だ。スルトシステム・オーバーブーストがかかり、機体が空を勢いよく駆る。ソーニャ機へと攻撃をしていたタロスは、ラウラ機の接近に気が付くが、攻撃に間に合わない。ラウラ機は、宙空人型機動制御システム、エアロサーカスを発動。
「武器の再生まではできないでしょう?」
死角へと移動すると、槍を持つタロスの腕をハイ・ディフェンダーと練剣雪村の二刀で切りつける。使いこなされた二刀の鍛え方は尋常では無い。くるくると、タロスの槍を持つ手が空中に踊った。
「ここは譲らない」
ラウラが言い放つ。
体を崩すタロス機。
「何時までも足場があるとは思わないで」
ロゼアが淡々と言う。
ラウラ機を狙うHWへとロゼア機が側面から軽量小型G放電装置を叩き込む。放電する様が広がる。
HWが、ぐらりと傾いだ。
「ボクたち相手にはちょっと足場が少なかったかもね」
一旦引いたソーニャ機が、シアンにコバルトのラインを空に引くように再びくるりと向きを返ると、HWへとGP−7を叩き込む。
足場にならなくてはならないHWは、そう遠くには居ない。
HWが落とされたタロス機は、そのまま、高度を僅かにあげる、戦場の優位を取ろうとしているのだろう。
だが、それは許さない。弓矢桜紋が陽光を反射する。白い機体に桜色の縁取り。絣機が踊り込んでいた。
ショルダー・レーザーキャノンの光が伸びる。タロスの脇を抉った。
「そう簡単に逃がさないわよ!」
HBフォルムを発動させていた絣機はぐっと迫るとRA.2.7in.プラズマライフルを叩き込んだ。五発の光が、死角からタロスを襲う。
一瞬、タロスの動きが止まった。
糸の切れた操り人形の様に、タロスの姿が変じた途端、四方八方に爆発の光が伸び、爆炎が上がった。
●
空の見通しが良くなる。
敵機、キメラの姿は殆ど無い。
「キメラは片付いたみたいね」
ラウラが笑みを浮かべれば、デラードの軽い声が響いた。
「誰が飛んでると思ってる」
「あら、ごめんなさい?」
「だが、美人に助けられるのはいつでも歓迎だ」
「了解」
ラウラが微笑んだ。
スカイフォックス隊とは久しぶりに会うとソーニャは思い、口にする。
「ボクのこと覚えてる?」
「何時の事を言えばいいか? 駒鳥は何処でも必ず視界に入っているが」
「大勢の中の一人だったけど」
「今はそうじゃない。だろ?」
「そうかな」
その尋常ならざる機体と飛行を見忘れはしないと。
一人鍋の事かなとも、親しげな笑いがデラード達から起こった。
それを言うかと、ソーニャはくすりと笑みを浮かべる。
「よう、シスターユリドー。相変わらず良い腕だ」
「む! 何処でその名ヲ! 迷惑千万ダヨ」
笑うデラードに、ラサがぷっと真面目に膨れてみせる。が、目は笑っている。
リンが、火のついていない煙草を銜えて、目を細めて空を見る。
「ロゼア、また、大規模でもよろしくね」
「こちらこそ」
ロゼアがリンに頷く。
歴戦の小隊【アークバード】。次の戦場ははたして。
「シートを‥‥掃除しないといけませんね‥‥」
息を吐くのは、BEATRICE。思うように動かない自分の手を僅かに見た。
「あ‥‥」
ふと、珈琲の香りが思い出されて、マヘルは戻ったらどう豆をひこうかと思う。
「そういえば‥‥」
エリアノーラは所持品を思い出し小首を傾げた。それは、問題なく受理されるはだ。
ほぅ。と、息を吐くのは絣。
何時も思う。この戦いは誰かの為になっているのだろうかと。その為に戦うのだから。
地上へと向かう敵は皆無に等しい。戦いは勝利し、無事制空権を奪取する事が出来ていた。
ジェッダは落ちた。
そして、ジェッダ制圧により、同じ紅海上の拠点、アデンへと戦場が移って行くのだった。