●リプレイ本文
わざとらしく置かれたHWの残骸。それ等を挟んで、岸とは反対側へと、次々と着陸していた。
「さて、んじゃあ久しぶりに楯のお仕事するとしますか!」
降下した雷電、爆雷牙が、機盾破軍を打ち立てるかのように構える。砕牙 九郎(
ga7366)だ。
未だ降下してきていない仲間達が万が一攻撃にさらされないようにと周囲に気を配る。眼下に見える敵布陣を確認しながら降下したのは、フローラ・シュトリエ(
gb6204)ディアマントシュタオプ、Schnee。
吹き上がる飛沫が、寄せる波が、波紋を描く。
鋼の砲台が狙っている。
タートルワーム、通称『亀』。
「これ見よがしに放置されてる残骸にこっちをしっかり狙ってる亀さんかぁ」
明神坂 アリス(
gc6119)が、ウーフー2、虎斑木菟を降下させる。
「あからさますぎてアレだけどまた嫌らしい位置に残骸置いてくれちゃって、もう」
仲間達が次々と飛沫を上げる中、後方へと自機の位置を取る。
「ぱぱっと処理してばばっと敵も片付けちゃわないとっ!」
手際よく発動させるのはアリス機の強化型ジャミング中和装置。
「射程が長い亀相手‥‥ですか‥‥一方的に撃たれるというのは‥‥気に入りませんね‥‥」
BEATRICE(
gc6758)だ。ロングボウII、ミサイルキャリアが降下した後、仲間達の後方へと。
「これで負けたら、言い訳の仕様がない面々よね」
口の端に笑みを浮かべるのは雪野 氷冥(
ga0216)。シコン、オサキ。
ゴーレム、通称『巨人』が着陸するKVへと向かい、移動を開始しているのを視野に入れつつ、右へと回り込む。
新型の慣らしにはちょうど良い任務だろうかと、ラウラ・ブレイク(
gb1395)がスレイヤー、Cimeriesを着陸させる。ふと出撃前のデラードを思い出して、くすりと笑い、右へと向かう。
(軍曹はいつも自由奔放よね)
亀からの砲撃は馴染みのある攻撃だ。その付き合いも随分と長い。
設えられた厄介な戦場に、軽く眉根を寄せるが、すぐに懸念は振り切れる。
「これを抜けないと先は見えないか」
シュテルン・G、ウシンディを動かしながら、カルマ・シュタット(
ga6302)が僅かに目を細めた。
「退くことの叶わぬとは、まさに背水の陣だな」
にやりと笑うのは榊 兵衛(
ga0388)。雷電、忠勝。
「良いだろう。正面切っての戦いも嫌いじゃない。将棋の槍も突進が持ち味だしな。『槍の兵衛』の戦いっぷりをとくとお目に掛けようか」
「よーっし、準備は良いか!」
九郎がスモーク・ディスチャージャーで煙を巻き上げる。
「煙幕展開、続いて集束装置ポチっとな!」
アリスだ。
「隙あらば進んで! 砲さえ潰せばあとは自由よ!」
ラウラ機が撃ち込むのは、煙幕銃。
もうもうと上がる煙が、仲間達を敵の目から包み隠す。
「むー‥‥上陸作戦ですが‥‥戦艦による艦砲射撃が無いのが不満ですね‥‥」
せっかく三番艦轟竜號から出撃である、その威力を見せて欲しかったのだけれどと、軽くふくれっ面なのは住吉(
gc6879)。
「出来れば盛大にぶちまけて欲しかったのですがー‥‥」
フェンリル、オオカミさんがスモーク・ディスチャージャーで煙を巻き上げる
「行くぞ」
厳つい異様を誇るノーヴィ・ロジーナbis【字】を操り、アルヴァイム(
ga5051)が、亀の近くへと、煙幕銃を撃ち込むと、海水を蹴立ててフローラ機と共に右へと動く。敵初期配置は確認済だ。
立て続けに撃ち出された、煙幕。
重なり合うその煙の壁が、一瞬の間を作る。
その一瞬の間さえあれば、十分だった。
歴戦の傭兵達は迷う事無く行動を開始する。
一番右手のHWへと、射程の長いブリューナクを叩き込むアルヴァイム機。派手な爆発が生じた。
爆風が、KVを揺らすが、距離がある為、吹き飛ぶまでにはいかない。破片が礫となって飛ぶ。
だが、傭兵達には届かない。
爆風を受けるのと同時に伸びるのは、プロトン砲の淡紅色の光。
煙を貫くかのように飛び込んでくるその光線が、ブーストをかけて前に出た兵衛機にぶち当たると、その光線が淡い紅色の拡散を煙の中に拡散して消えて行く。
爆破の余波は、後方にまで及ぶ。
「後方は全員無事だな? 範囲がはじき出せたかな」
盾として構えていた九郎が言う。
「やっぱり、HWに仕込んであったね、爆発範囲を割り出したから、受け取って」
爆破するHWに気を付けていたアリス機から、爆破範囲が仲間達へと転送される。
「‥‥ぎりぎり‥‥でしたね」
水没範囲に気を配っていたBEATRICE機も爆風でよろけはしたが無事だ。
左右のHWに寄る距離が算出される。
あまり近過ぎると、再び、ミサイルの様な破片が襲いかかるだろう。
一度ならともかく、二度三度と重なれば、被害は少なくない。
「んじゃ行きますか」
九郎が笑う。
●
KVが固まっている右側へと、巨人が移動を開始している。
前に出れば、別の亀からの攻撃が襲いかかるだろう。
中央のHWへと、次々に攻撃が飛べば、飛沫と共に爆発する。ぎりぎりの爆発距離に、軽く機体が揺れる。
「‥‥集まってきたな」
兵衛がにやりと笑う。
スキルを乗せた、兵衛機は、通常のバグア機ではかすり傷を負わすのも至難の機体となる。
対空砲ギアツィント、スラライが次々に撃ち込まれる。その手数も伊達では無い。
一、二、三。
巨人が兵衛機の攻撃に吹き飛ばされるように浅瀬に倒れ込む。
スキルを乗せ、ブースト突進をしていたカルマ機から、アテナイが巨人へと降り注ぐ。
「こちらの方が早いかな?」
そして、かつては振るう事まかりならぬと思われた巨大剣シヴァを無造作に振り抜くと、一閃。
その合間に、攻撃を仕掛けようと接近する機体へと、住吉の攻撃が入る。
軽いフットワークで、プロトン砲を避け、敵機と愛機との間合いを測っていた住吉機から、フィロソフィーが、六つの軌跡を描いて飛びこむ。巨人の腕が吹き飛んだ。
「ちっ‥‥倒れないか‥‥」
さらにCA−04Sチェーンガンが、追い打ちをかけるように雨あられと弾丸が撃ち出される。
「良し」
派手な水しぶきを上げて、背中から吹き飛ぶように倒れ込む巨人を見て、住吉が頷く。
「終わりだ!」
凄まじい破壊力を生み出すその巨大剣が、巨人を薙げば、真っ二つに切り裂かれた巨人が小さな爆炎を二つ上げる。
「そこらのワームに遅れを取るようじゃ、名折れだからね!」
それは、この依頼のメンバー大半に言える事だろうかと、ラウラが笑みを浮かべると、ブーストをかけて前に出る。
「最大出力で種子島を‥‥使う間も与えてくれないのね」
圧倒的な破壊力で巨人を叩き伏せた中央の三機を見て、氷冥は軽い溜息を吐く。
「残りの後片付け、やっちゃいましょう」
「後々残しておいても、邪魔になるだけだしね。あ、砲撃支援こっちに多めに回して」
「はいよ、んじゃあまあ、そっち回るかね」
九郎だ。
「幾らかでも体勢が崩れれば‥‥」
BEATRICEが続く。
「後は亀ばっかりだね。えーと、左側の亀二体が未だ一発もプロトン砲を撃っていないよ」
アリスだ。
「盾は任せろ」
九郎が笑う。
左HWへと五機が迫れば、砲台の亀がゆらりと動く。
淡紅色の光線が、飛び込む。
それを、九郎が受ける。
その合間に、ラウラが、氷冥が接近し、氷冥機からフィロソフィーが、ぐっと前に出たラウラ機から、重機関砲が撃ち込まれた。爆発するHW。飛び退るラウラ機。
「これで憂いは無くなったって訳ね」
氷冥が薄く笑みを浮かべる。
「行きましょうか」
「よし、援護は任せろ」
九郎だ。
HWへと、迫っていた傭兵等を捉えるべく、亀が接近してきていたのだった。
「ちょっと近いかもっ」
アリスだ。
亀というだけあって、その進みは遅い。
遅かろうが早かろうが、叩き伏せに行くのだから、問題は無いだろう。
分かれた二組は、すでに亀に到達していた。
●
アルヴァイムが、飛んでくるプロトン砲を避けながら、HWへと迫る。
「砲撃に対応しながらとなると厳しいのは確かだけど、やってみせるわ」
フローラだ。
一方向に巨人が固まるのならば、なんとか行ける。ひとつ頷くと、アルヴァイムの後方から亀を狙う。
小山の様なその姿は、背に無数のブレードを生やしている。ぐっと動けば、接近した際には逆に押し切られる事もある亀だが、守る巨人が居なければ、この依頼に入った仲間達にとっては、格好の的になっていた。
迫るアルヴァイム機が、亀を捉える。ブリューナクが、唸りを上げて、亀を襲う。
光線が飛沫を巻き込むかのように伸びる。桁違いの攻撃だ。亀はひとたまりもない。
横合いから、もう一体の亀がこちらへ向かって進んできている。
後方から援護に回っているフローラ機が、ぐっと前に出る。
「行くねっ」
フィロソフィーで狙いをつけると、撃ち込む。六つの軌跡が亀を襲う。重い一撃だ。
拡散した光が亀の動きを止めた。
中央へと進む亀は一体。
「‥‥射撃でなら分があったかもしれないが、俺に槍を使わせた時点で負けは確定していたな」
武者鎧を思わせる細かな塗装が、飛沫を上げる。兵衛機が、機槍千鳥十文字を振り上げると、叩き込む。
「オオカミさんは可愛らしい赤頭巾ちゃんをモグモグ、ですね〜」
四足が、海水を蹴立てて、飛びかかる。住吉機だ。
機牙グレイプニルが、がっつりと亀を食らうように叩き込まれる。
振り回す亀のディフェンダーが当たり、住吉機も傷を負うが、瀕死の亀の振るう刃は、住吉機に僅かな傷しか与えない。
「確実に屠るか」
別方向からは、カルマ機が、再び振り上げたシヴァを叩きつける。
巨大な亀が、ぱっくりと二つに割れた。帯電するかのような切り口から、細かな爆発が起こり、亀はただの鋼の塊へと変じる。
亀を囲んだ歴戦のツワモノの一撃が三方向からだ。余程の敵機でも持たない。
砲撃を撃ち尽くした亀ならなおの事だった。
「この射程なら‥‥」
があっと威嚇する亀へと、BEATRICEが仕掛ける。
「兵貴神速‥‥進攻作戦ならなおさらでしょう‥‥」
真スラスターライフルが、三十もの弾丸を撃ち出す。
亀のディフェンダーなどに当たり、細かい金属音が響き渡る。
「豆鉄砲でも当たれば援護になるっしょ? 狙い撃つぜーってね!」
アリスが、スナイパーライフルで、亀の気を引く。
穿たれた亀へと、迫るのは九郎。
破軍を構え、練剣七星を振り下ろす。
かあっと方向を変えようとする亀の頭へと、ざっくりと振り抜いた。
もう一方の亀へと襲いかかっていたのは、ラウラと氷冥。
混戦となっている。
氷冥は、機槍ロンゴミニアトを構えた。ラウラの手にするのはハイ・ディフェンダー。通常のKV武器ではあるが、その威力は鍛えた業モノと言って良い。
があっと口を開く亀の頭を狙い、ラウラが走り込む。
横合いから、氷冥が攻撃を叩き込む。
「これでっ!」
機槍が、亀のディフェンダーを抜けて突き刺さる。
「タッチダウン、ゲームオーバーよ」
頭を浅瀬に縫い付けたラウラは、振り下ろしたディフェンダーを持ち上げた。
上空で繰り広げられていた戦闘音も、静かになっている。
「皆無事か」
アルヴァイムだ。
「上手く行ったかな」
フローラがその横を歩く。
激しい戦闘の水飛沫が上がっていた浅瀬には、金属の塊と化した巨人と亀が墓標のように波に洗われている。
「終わったな」
九郎が笑う。
「敵は全滅。戦闘区域にはもう戦う相手は居ないよ」
アリスだ。
「‥‥やれやれ‥‥」
戦いはあっという間だ。自分に出来る事が出来ただろうかとBEATRICEが目を細める。
「帰りましょうか」
歴戦の面子が敵を屠る時間は、あっという間だ。氷冥が軽く肩を竦める。
「今度はどーんと」
派手な戦いが良い。派手な。そう、住吉が軽く笑う。
「適時、任務完了だな」
カルマが巨大剣を収める。
「一先ず引き上げか」
兵衛が頷く。
「これで砂漠の月は昇るかしら?」
ラウラが空を見上げた。
紅海、ヤンブー制圧。
しかし。
大規模作戦の余波で新手が押し寄せてきていると知るのに、時間はかからなかった。
バグアとUPC軍。どちらも、ここが踏ん張り所であるようだった。