●リプレイ本文
「橋渡し。橋渡し、ねぇ」
本部のモニターに映る依頼を見て、叢雲(
ga2494)は小さく口にする。
あまり知らない土地ではあるが、まあこういうのも良いだろうと参加を決めた。
次々と登録を済ませた傭兵達が集まってくる。
その中に見知った顔を見つけて、小首を傾げる。叢雲的に、現在只今、絶賛微妙な馴染みだ。
満面の笑みを浮かべた不知火真琴(
ga7201)は、久し振りに顔を見た叢雲へと、ぶんぶんと手を振った。
「おひさしーっ」
てらいの無い明るい顔を見て、叢雲は表情に僅かにも感じさせずに内心で軽くイラっとした。
顔を見るのは嬉しい。だが、こちらの気持ちを微塵も汲み取っていないその笑顔。
つと両手を伸ばす。
両頬をぐっと摘まんで、何時もの様に涼やかに笑みを浮かべた。
「こんにちは。あひるさん」
「! ふぁにふぉーっ!」
何故摘ままれたのかわからない真琴は軽く涙目だ。
叢雲は真琴に見えない角度で、青筋マークが浮かんでいたかもしれない。
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小柄ながらもメリハリの利いた姿。
タンクトップにショートデニムジャケットをはおり、デニムホットパンツ。パステルナーク(
gc7549)はキュッとくびれた腰に手を当て、快活に笑う。
「自分も皆も楽しくっていうのが、ボクが目指すものだから。村の人たちの笑顔、見られるように頑張るよ!」
問題のざりがに退治の小川付近には、あちらからもこちらからも、人々が遠巻きに傭兵達を見守っていた。
「ザリガニはハサミに味覚器官があるのでおいしい物を挟むと放さないのですよねぇ」
豊かすぎる程豊かな胸元に挟まった釣竿をスルメを取り出すと、宇加美 煉(
gc6845)はAUKVを装着すると、橋へと向かう。
川面を渡る風が、暑い夏の中、涼を届けている。
十人の傭兵達は、それぞれがそれなりに場数を踏んだ者達だ。唯一、シャルロット(
gc6678)が初依頼。
「エクルビスのキメラですか‥‥フランスでは高級食材なんですけどね」
超機械スズランを使った方が距離をとって戦える。けれども、シャルロットは横笛である超機械を使うのを躊躇い、刀、乙女桜をすらりと構える。バイブレーションセンサーを発動させたが、川底からは未だ動きは無い。
杠葉 凛生(
gb6638)の探査の目は、申し出られた通りの場所にざりがにが潜んでいるのを確認した。
「食べるんなら、多少手加減も必要か‥‥」
凛生は、指揮棒状の超機械ザフィエルを無造作に持ち、岸部から双眼鏡で川面を警戒し、目を眇める。
橋にさしかかると、レーゲン・シュナイダー(
ga4458)は豹変した。
「橋へのダメージを最小限に抑えたいところだねェ‥‥」
後方からの援護をとエネガンを構える。
「お仕事はきっちりしっかりと、だね」
パステルナークが伏せた。スキルを乗せたのだ。手にするのはエネガン。狙うのは、脚やハサミなどの節目だ。
「‥‥傷ハ、ツケサセ、マセン‥‥」
橋へと向かうムーグ・リード(
gc0402)は、拳銃ケルベロスを構える。
出てきたところに、スキルを乗せた攻撃を叩き込もうと思う。
朧 幸乃(
ga3078)は前に行く仲間達の後方へと向かう。
馴染んだ土地の空気に僅かに目を細める。
(彼女が過ごして、守った土地だから、ね‥‥)
思い出すのはキツイ眦の少女。
一般人に被害が出てはいけないだろうと、後方に気を配る。
他にキメラが居ないかと警戒しつつ、後方へを守るのは叢雲。
「ほら、私ってばひ弱な後衛職ですし?」
真琴がそれを聞いて、微妙な顔をしつつ走って行く。
「いつでもどこでも呼ばれれば即参上! なのですよっ」
見据える瞳も焔を反射するかのように僅かに赤い色を纏う。
智久 百合歌(
ga4980)の手には、赤く光る刀身の鬼蛍。淡い琥珀色の小太刀夏落が握られている。
「刀を振るうこの力は、人々の為‥‥」
スキルを乗せた攻撃を叩き込むべく、橋へと。
ざばんと現れたざりがにキメラは巨大なキメラだった。
しかし。
あ。っという間に、ざりがにキメラはその生涯を終え、やんやの喝采が周囲から上がった。
強力な攻撃は、キメラを木端微塵にする事もある。幾人かが懸念した、その予感は的中した。
「‥‥抱エテ、運搬ヲト思ッテ‥‥居マシタガ」
ムーグは粉々に砕け散らばったざりがにの身を拾って歩く。
銃弾や尖ったキメラのカラなど、黙々と拾い、清掃をするのは凛生。
他に潜伏するキメラは居ないかも確認して回る。子供達が気持ちよく遊べるようにと。
「‥‥点検、しましょう‥‥ご一緒に‥‥」
幸乃は、簡素ながらもしっかりと組み上げてある橋へと、興奮する村人達を誘う。
何処から湧いたというぐらい出てきた村人達や、子供達の笑顔に、傭兵達は笑みを浮かべた。
●
「ふむ。問題なさそうじゃの」
煉は、わらわらと遊ぶ子供達を見て、ひとつ頷く。
ほええと、口をあんぐりあけて煉の胸を見上げている子等と目が合った。
「ふっふっふ」
「きゃーっ」
楽し気な歓声と共に、煉と子等は川へと雪崩込む。主に小さな子たちが群がっている。
無造作にぱんぱんと胸を触られ。
岸近くで、素足のままばしゃばしゃと遊んでいるのは百合歌。
「お姉ちゃん綺麗ね」
「触っても良ーい?」
「あら、どうぞ」
女の子達が水色のサマーワンピースと雰囲気に誘われるかのように集まってきて、百合歌に懐く。
同年代の男の子と水掛け合いをしているのはシャルロット。すっかり、子供の顔に戻って水浸しだ。
白レースの水着に着替えた真琴の手には水鉄砲とビーチボールが抱えられ。
遊ぶ気満々の真琴は子等と全力で遊び始める。
「とうっ」
マリンブルーのビキニのレーゲンは鼻をつまむと、橋の上から子等とダイブ。
次々と大きな水飛沫が上がり、子等の笑い声が響く。
子供と変わらない状態の仲間達を見て、叢雲は苦笑すると、料理の準備をしようかと動き出す。
それを見て、水浸しのレーゲンが、はいはいとばかりに、遊びを切り上げて走って行く。真琴が期待していると元気に手を振り、その隙に、子等の襲撃に合い川の中へと一旦沈んだ。
橋の補強をしていた幸乃がその様を見てくすりと笑い。
同小隊【Noise】の凛生とふと目が合い、何となく笑みを交わし合う。
川の上流と下流に鳴子を仕掛ける手はずを整えて水遊びに参加したムーグが、大丈夫ですかと、沈んだ真琴に手を貸せば、真琴はついムーグを見上げて、じーっと見てしまう。
「‥‥?ドウ、シマシタ?」
何だろうと小首を傾げるムーグに、ぶら下がっても良いだろうかと真剣に聞く真琴。一瞬の間が開くが、快諾するムーグへと、きゃーとばかりにぶら下がる真琴と子供達。大きい人大人気状態である。
「これはずっと使ってきた椅子なんだ? じゃあこれからもずっと使っていけるように直さなきゃね」
よいしょとばかりに、パステルナークは家庭用工具セットと、高性能多目的ツールを抱えて村の中を歩く。
てきぱき、からり。
そんな雰囲気のパステルナークは、にこにこと村人達と会話しながら、器用に家財道具を直して行く。
「薪にするにはもったいなくて」
「だよねえ、これは薪にしちゃったら駄目!」
簡素な家具が多いが、時々どんな年代物? というものもあり、パステルナークの手際は大人達にとても喜ばれていた。
いろんな家があり、いろんな人が居る。パステルナークは、あちらこちらに新しい歴史をひとつ刻んでいた。
きっとこの時間は事あるごとに、語り継がれて行くはずだ。傭兵達への好意を持って。
共に笑い合える時間。それが生まれた。
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「せっかくですし‥‥橋の周りに集まって、一緒にやりません?」
その方が賑やかで楽しいのではないかとの幸乃の提案で、橋の両端で橋を含めて、賑やかな宴の準備が始まった。
持ち込んだお菓子を配るのは、叢雲とレーゲン。
叢雲は、僅かな材料で作れるレシピを書いて、手渡す。
川遊びがひと段落した子供達の中には、ただ見ているだけの子もいた。
ムーグはその子の近くに屈み込むと、微笑む。
この国の言葉を教えて貰おうと、その子名を聞き、名を呼んだ。
呼ばれた子もムーグの名を呼んで笑った。
謝意を告げる大人達に、ムーグは笑みを返し、軽く首を横に振る。
「‥‥私ノ方コソ、復興ヘノ活力ヲ頂キマシタ」
鮮やかな色合いのムーグの故郷の民族衣装が、はたりと風を受けて靡いた。
煉は、狐老の元を訪ねていた。
「子供は元気なのですねぇ」
「ああ」
満足そうに笑む狐老に、煉が、そういえばと首を傾げる。
「一般の人でもキメラって倒せるのですねぇ」
「弱いキメラであれば、時間がかかるが、やり様で倒せない事は無い。数が出たりすれば、難しいが」
そうですかと、煉は頷き、再び問う。
「でも何でわざわざ依頼にだしたのでしょうかぁ?」
「依頼をする時に、理由は告げた。それ以上でも以下でもない。今は」
表情を変えず笑む狐老に煉は頷いた。
「すまんがちょっと外す‥‥弧老と話したいことがあってな」
「ワカリ、マシタ‥‥」
凛生は、狐老を訪ねる為に一人薪の中から外れた。
その背を見送り、ムーグは不可思議な気持ちになった。
自分に話せなくて、祭門の彼には話せる事とは何だろうかと。
立ち去る直前、凛生の危うい表情が気にかかった。
ムーグは、ちり。と、胸中の何かがざわめくのを不思議に思った。
凛生は、狐老へと他国の窮状を語りった。
何か、役に立つのではと思っていたから。
狐老は全て聞き終わると、語る事は何も無いと凛生に告げた。
そも、成立ちが違う話を比べても答えは出ないだろうと。
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レーゲンは、ばらばらになってもけっこうな塊のざりがにの身を塩茹ですると、持ってきたチリソースでエビチリをざっくりと作り始める。少々味見をして、ふふっと笑う。
「‥‥お酒が欲しくなっちゃいますね」
キメラは、モノによっては酷く旨い。何でも食べる大陸の人達に嫌は無さそうで、レーゲンは破顔する。
「おつまみ系はごはんとも良く合いますから、子供達も喜びますね」
百合歌がレーゲンに頷きながら、手際良く料理を増やす。
「ですです。沢山食べてもらいましょう」
頷くレーゲン。
瞬く間に、美味しい香りが辺り一面に広がった。
「こんばんわーっ。お料理とお酒もって来ましたっ」
「あら、ありがとう」
「沢山あるから、足らなかったら持ってきますよ」
あちこちの家に顔を出し、家具や建具を直していたパステルナークは、小さな子の世話をしている女性達や、不自由のあるお年寄りの場所へと顔を出し、料理と酒を差し入れる。
その気遣いに、宴に出れない村人達は、とても喜び、浮かぶ笑顔に、パステルナークも嬉しくなった。
「今という瞬間は二度と訪れないんだから、一瞬一瞬を大事にしないとね」
そう微笑むと、シャルロットは、フルートを奏で始める。
ふわりと光るのは覚醒をしているからだ。
(信頼という木は大きくなるのが遅いかもしれないけれど、少なくとも僕たちは今ここに種をまき交流という水を撒いている。この想いが、いつか、この地に根付き、葉を広げ、大樹になり、損得なんか関係なく信じあえることを願って)
周りの人が元気になりますように。
真摯な音色は何処までも澄んで。
その音の余韻に、百合歌は耳を傾ける。
大陸は他国と違い、特殊な地域である。
依頼の中で狐老から語られた兆しは、大陸にはついて回る。危うい場所なのだ。
(だからよね?)
傭兵が人々を護る姿を見せて欲しいと言うのは、そういう事だろうと。
信頼に報いる為の働きは出来ただろうかと百合歌は思う。
(私達の力は護る為にあるのだと、私も示したいから)
息を静かに吐き出すと、【OR】ヴァイオリン「Janus」を、構えて、にこりと笑った。
弦の重なり合う響きが軽やかに響き渡る。
流行歌、民謡が、次々に紡がれる。
集まった子等や、大人達が、そのリズムに足を鳴らし、手を鳴らして踊り出す。
爆竹の音が、派手に響き渡り、音にアクセントをつけ。
小さな太鼓から、軽快な音が鳴り響き。
賑やかに夜は更けて行く。
賑やかに飲んだり食べたり、太鼓を叩いたりした真琴と叢雲は、篝火の見える場所に腰を下ろした。
「大陸では色々あったけど」
何処か遠くを見て、真琴がぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
起きた全てを忘れない事、忘れない事を示す事が自分なりのケジメのつもりだと。
篝火に橋が浮かび上がっている。
その橋を見て、真琴は一昨年の夏を思い出した。
「そういや、叢雲とは長い付き合いだけど、本当に友達になれたと思ったのはあの時だったんだよね」
相手を理解したいと思うのならば、知る事から始めなければと。
「それって、きっと大陸の人達との関係も同じの筈だから、これからも忘れずに、頑張ろうと思うんだ」
あまりにもらしい言葉に、叢雲はクスリと笑みを漏らすと、篝火に照らされた白い頭をクシャリと撫ぜた。
「真琴さんらしくていいと思います。応援しますよ」
ちょっと照れたように笑う真琴。
(‥‥に、しても友達。友達ですか)
真琴がどう思っているかは、長い付き合い上、手に取るようにわかる叢雲だ。
(自覚した分、こう、クルものがありますねぇ)
何時彼女は気が付くだろう。抱いていた気持ちは変わらずとも、その気持ちにつく名が変わった事を。
満足そうな真琴を見て、叢雲は心中で苦笑するしかなかった。
遠目に、篝火を見て、凛生は目を細めた。
バグア侵攻時まで、豊かな国に生まれ、不自由なく育った。
(‥‥身勝手‥‥という奴だな)
ずっと考えていたのはムーグの気持ち。
自分が彼にどう思われているのかを畏れるが故の、思考であり行動だったと気が付いて凛生は苦笑した。
ムーグは篝火の近く、笑い合う人々や子等を見て目を細める。
(アフリカの復興が、人生の目標です)
子供等の声が響くこの地が羨ましいと正直思った。
けれども、この風景が取り戻したいと願う風景なのだとも。
【OR】三味線がびぃんと夜を鳴らす。
煉は、笑いながら、大人達と語らい、ざりがにキメラを味わいながら、ゆっくりとした時間を過ごす。
(争いの中、信じるモノをかえ、住む土地をかえる‥‥それは大きなこと)
幸乃は、火種を寄せ、火の番をする。
走って行く子供達が転ばないかと目を配り。
(未来のため、子どものため‥‥一番大事なのは、安全。子どもたちの笑顔‥‥)
大人達が、そろそろ寝なさいと子等に声をかけている。大人達の願いはきっとと、幸乃は思う。
「切れるときはあっさりと切れてしまうのに、切れそうで‥‥案外、切れずに、繋がっているもの‥‥」
人と人の縁と村にかかる橋を重ねて幸乃は微笑んだ。
縁あるモノが全て、幸せに繋がっていれば良いと。
この地で行った傭兵達の話が、好意を持って周辺に伝わるのに時間はかからず。
この地域の人々は、人類を信じる橋を再びゆっくりと渡り始めるのだった。