●リプレイ本文
砂嵐の中に、クウトはある。
細かい砂塵は、クウトを目指して進むKVへと纏わりつき、流れて行く。
「随分、視界が悪いですね‥‥?」
「ああ、予想以上に悪い。気をつけろよ?」
「えぇ‥‥鹿島様こそ、あの言葉、忘れないで下さい、ね?」
「勿論だ。忘れてないよ」
ディアブロ、モーニング・スパローを、仲間達の前に出しながら、鹿島 綾(
gb4549)が横を進むシラヌイS2型、グースヴィネ。灯華(
gc1067)をちらりと見る。
戻りつつある自我。灯華は、小さく息を吐き出し、微かな笑みを浮かべ、綾機を見る。
共に。交わした約束があった。
漸 王零(
ga2930)は、軽く舌打ちをする。連戦による疲弊が付いて回る。
アフリカでの大規模な戦いの最中だ。
「‥‥やっかいきわまりないな‥‥だが、やり様がないわけではない」
王零は、雷電、アンラ・マンユを仲間達の僅か後方へと位置を取る。
「アラビア半島の戦いも終盤‥‥ここを抜けて本丸を叩けば終わる」
シラヌイS2型、Hresvelgrを進ませるのは黒羽 拓海(
gc7335)。
クウトを攻略すれば、ここ、中東に、ひとつの道筋が出来る。拓海は軽く目を眇める。
灯華が言う。
「ある意味これが‥‥好機なのでしょうか。現状把握の難しい戦場は、少数に有利だ‥‥と教官も仰ってましたし‥‥」
この状況を有利と見るか不利と見るか。
(──有利と考える方が妥当だろうな)
綾は、口元を軽く笑みの形に引き結んだ。
「巧く行ったら御喝采だな‥‥」
ゲシュペンスト(
ga5579)が、スカイセイバー、ゲシュペンスト参式を進ませる。
「今回はお前の出番だ、よろしく頼むぜ参式!」
「砂嵐の戦場、ですか。ちょっと厄介ではありますけど‥‥砂嵐程度では屈しませんよ!」
「砂嵐で肉眼では分かりにくいですが‥‥反応を見る限りかなりの数がいますね」
シュテルン・G、Edainを進めながら、リゼット・ランドルフ(
ga5171)が軽く頷きつつ、上空へと僅かに視線を向ける。空戦が間もなく始まりそうだ。リゼットに返すのはセツナ・オオトリ(
gb9539)。グローム、シュヴァルツェア・オージェでリゼットから離れないようにと進みながら、思い出したと言う顔を上げた。
「この作戦が終わったらデラード軍曹にアイスを貰わないとね♪」
「そうね、せっちゃん。あ、アイスは、冷蔵庫に入れておいてくださいましたか?」
「戻ったら凍える程食べてくれ。追加も可能だ。懐が凍える程届けてやるぜ」
出撃前の山の様なアイスを思い出して、セツナへとリゼットは笑いかけ、つと空を向けば、デラードの笑い声が届いた。
【ガーデン】。陸戦を主とする、歴戦の小隊から、四名がこの砂漠の戦場へと出向いていた。セツナは、心強さをも感じつつ、頑張らないとと気を引き締める。
「砂煙の奥に浮かぶ城とそれを囲む圧倒的多数の敵‥‥何とも壮観な眺めですね」
セラ・インフィールド(
ga1889)が言う。
「凄い砂嵐ですね〜。レーダーがないと遭難しそうですよ〜」
ウーフー2、ホワイトシャーベットのレーダーを確認しつつ八尾師 命(
gb9785)は、何処かふわんとした雰囲気のまま小首を傾げる。
「早速支援しますよ〜。中和装置起動開始〜」
まばらに見える、敵機影。
視認出来る範囲ではあるが、くっきりと敵を表す点が命機のレーダーに現れる。
「レーダー上では敵がよく見えますよ〜」
各機へと、その情報を転送。壁の様に横に広がり、奥行きのある敵布陣。
「シンディのダンスの相手には事欠くことはなさそうです」
アッシェンプッツェル、シンディ。セラが幾度も共に戦いを潜り抜けた機体だ。
「任務が終わったら、参加者全員で飲みに行くのもいいな」
ディアブロを進ませるのは、魔神・瑛(
ga8407)。疎いう言うと、瑛は、にやりと笑った。
「但し! お酒は大人だけだ。未成年には一滴だりとも飲まさせねぇぞ」
酒! と、スカイフォックス隊から笑うようなどよめきが上がる。
そのどよめきのまま、空戦が始まったのを瑛は視界の端に入れると目の前の敵を睨み据えた。
●
スカイフォックス隊を初めとする軍が、押し寄せる敵空軍を押しとどめ、地表を行く仲間達への攻撃を封じている。
砂塵が強くなる。
プロトン砲が砂塵の合間から、淡紅色の光線を一斉に放った。
その光を、ある機体は受け流し、ある機体は潜り抜け、着弾し光の拡散を見ながら、傭兵達は尚も前にと進んで行く。
「これで少しでも楽になればいいんだが‥‥戦いの狼煙を上げさせてもらう!!」
「射線に気を付けようか」
M−181大型榴弾砲を、撃ち出すのは王零機。拓海が声を出す。
榴弾砲が、唸りを上げて飛び、着弾すると派手な爆発を起こす。
吹き飛ぶキメラ。破壊されたHWの破片が砂塵に混じって礫となって吹き荒れる。
「派手な花火が上がったな」
拓海だ。
傭兵達は、三方向へと散会すると、敵と砂嵐の中へと踊り込んでいた。中央を突破するのだ。
離れ過ぎず、一丸となって進む。
拓海機がホールディングミサイルを撃ち込む。
着弾したHWが、爆炎を上げて傾ぐ。
「さっきの大玉に比べればささやかだが、プレゼントだ。全弾持っていけ!」
足を生かし、拓海機が牽制にバルカンを撃ち出しながら前に出た。
「凄まじい数だな。パーティー前に満腹になりそうだ」
負傷している王零に敵を向かわせないようにと、拓海機は自身へと注意を向けるつもりだ。
「フォローは任せます!」
「ああ、任せておけ」
ふわりと浮き上がるそぶりを見せるHWへと、王零機から95mm対空砲エニセイが唸りを上げて飛んで行く。
HWは、その着弾低空で爆炎を上げ、砂嵐に錐もみ状態になり吹き飛ぶ。桁違いの破壊力だ。
ぐっと前に出て受け流す綾機、灯華機。
綾機は、ホールディングミサイルを撃ち込み、左右に揺れつつHWへと迫る。
「長引かせると不味いからな。確実に仕留める!」
綾だ。
「行きますよ‥‥グースヴィネッ!」
灯華機がブーストをかけ、突撃をする。灯華機が起こす砂煙が嵐へと巻き込まれるように吹き上がる。
回り込んだ灯華機から、プラライの光が放たれる。
同敵へと、綾機は、スラライから、スキルを乗せた銃弾が飛ぶ。軽い振動。
HWは木端微塵に砕ける。
綾機は、リロードをすると、再び攻撃。更に、二発叩き込んだ。
猛攻。
凄まじい破壊力を維持した攻撃が、灯華機を襲おうとする敵に有無を言わせないまま吹き飛ばす。
次々と落ちるHW。爆発が、砂煙を巻き上げ、爆発に、キメラが巻き込まれ咆哮を上げる。
さらに、綾機から、雨の様な弾丸が飛んでいた。アテナイだ。手数が多い上にさらに撃ち出される攻撃が弾幕となって敵を寄せ付けない。細かく穿つ音、爆音が砂嵐に吸い込まれて余韻を残す。
「あの辺りが固まっていますね。せつなちゃん、ゲシュペンストさん。行きましょうか」
リゼットだ。
細かく計器をリゼットは確認しつつ、僚機へと確認した情報を流しつつ、重機関砲を撃ち放つ。
無数の唸りを上げた攻撃が、敵へと襲いかかる。
「多勢に無勢か‥‥だが、こういう勝負は初めてじゃない!!」
ゲシュペンスト機が、前に出る。
「三段構えだ、かかれよ‥‥」
同班の二機に低空に上がった敵を攻撃しやすいようにと、他班の攻撃から漏れ出て来るキメラへと向かい、ツングースカ、R−P1マシンガンと、立て続けに撃ち放つ。無数の弾丸が、キメラの足を止め、穿ち、吹き飛ばす。
リゼット機から、重機関砲が、無数の唸りを上げて敵へと襲いかかる。
「砂嵐がちょっと邪魔だけど‥‥」
低空へと浮き上がるHWへ、セツナは、ぐっと機体を傾げ、ツングースカの標準を合わせる。
「オージェの瞳からは逃げられないよ!」
砂嵐を裂いて飛ぶその攻撃がHWを傾がせる。
「HWを中心に狙いますよ」
セラが声を上げる。
「HWさえ潰してしまえば、敵の戦力は激減するはずです」
命機を庇うかのような位置取りをしつつ、セラ機が攻撃を開始。
パンプチャリオッツを発動させていた。
構えるのは機盾槍ヴィヴィアン。セラ機の足元の砂が巻き上がる。
嵐を割り、一直線に進む鋼の塊。
並々ならぬ機体だ。歴戦のセラ機が激しい音と共に、HWにぶち当たる。
歪んだHWはバチバチと内部で破壊音を響かせ、爆炎を上げる。
前に出るのは瑛機。
「きやがれ! 有象無象共がぁ!!」
瑛機は、先ほどのプロトン砲もいくらか受けているが、動けない程のダメージではない。
ショルダーキャノンの連続音が砂嵐を押し込むような音を響かせる。
セラ機を狙っていたHWがぐらりと傾ぎ、動きを止める。
「七面鳥撃ちとは行きませんね〜‥‥」
瑛機の攻撃の合間から顔を出すHWへと、命機から対空砲が唸りを上げて着弾。
だが、その爆炎を蹴散らすように、新手が顔を出す。
「かなりの数ですね〜。囲まれる前に倒せるといいのですが〜」
命が呟いた。
●
突撃して行く傭兵達を囲むように、HWが散会するのが見て取れた。
地を蹴り、キメラが移動を開始している。
紫のフェザー砲が、KVへと襲いかかってきていた。
HWとの距離が随分と近い。
「これは流石にまずそうですよ〜。急いで散開を〜」
命が敵位置情報を流しながら、レーザーバルカンを発射する。
キメラが次々と吹き飛ぶ。
「てめぇらにはコレで十分だぜ!」
瑛機のショルダーキャノンがキメラを撃ち払う。
弾き飛ばされれ、砂嵐に呑みこまれるキメラの数々。
未だ、囲まれるに至っては居ない。
セラ機のプラズマライフルが、HWを狙い撃てば、穴が穿たれ、動かなくなる。
「他班は無事ですね」
セラだ。
敵を押し込むかのような攻撃が続いていた。
「悪いが当たらん」
命機からの情報を受けながら、拓海機が敵攻撃を受け流す。
「逃がすつもりは毛頭無い」
マシンガンの練者の音、レーザーの高音が響き、HWは砂嵐に呑まれ爆炎を上げた。
拓海と命は共に【ミヤマガラス隊】の仲間だ。歴戦を潜り抜けた小隊。
この場に集ったのは、多くがバグアとの戦いの履歴の長い歴戦の猛者だ。
【特務部隊:零小隊】、【S−GUNNERS】。【天衝本隊】、【空戦機動研究班ベンヌ】に至っては小隊長が参戦している。
大規模な戦いで見ない事の無い名ばかりだ。
見ない事が無いという事は、それだけ戦いを踏まえているという証でもある。
「殲滅あるのみだね」
近付くキメラへ、【OR】強襲用追加ユニット「荒狂嵐」を叩き込む王零機は、拓海機の攻撃の横合いから出てくるHWへと向かい、エニセイを発射する。狙いたがわず着弾したそれは、激しい爆発を起こし、HWは粉みじんとなって砂嵐に舞い上がる。
「長引かせると不味いからな。確実に仕留める!」
「これなら―如何ですかッ!?」
綾機と灯華機がHWに迫る。
くっと位置が変わり。砂塵が舞い上がった。
「邪魔は、させません‥‥!」
灯華だ。
スキルを乗せ続ける灯華機から、プラライが撃ち込まれる。
綾機からスラライが放たれ、二方向からの攻撃にHWは爆炎を上げて機動を停止する。
その攻撃の合間から現れたHWとキメラ。
狙われているのは灯華機。フェザー砲が叩き込まれる。
「くっ!」
綾機は、砂地へと銃を撃ち込む。
「こんな状況だ。使えるものは使わないとな?」
舞い上がった砂を盾に、綾機がブーストをかけて突進する。
「守りは任せておけ」
爆炎の中から現れたHWへと、綾機は綾機の拳が撃ち抜いた。
鈍い金属音が響き渡り、HWが一瞬止まる。
その一撃だけで、通常のHWは動く事叶わず。
「まだ―‥‥まだやれますッ!」
「うん。行こうか」
綾と灯華は頷き合うと、現れた新手へと向かう。
「兄さん直伝のKV操術甘く見ないで!」
セツナ機は、盾でキメラをはじくと、HWへとガトリングを撃ち込んだ。
未だ残弾はある。機体に幾つかダメージは受けてはいたが、動ける。
ぐっと操縦桿を倒しセツナはブーストをかけ敵へと迫る。
砂塵が舞い上がる。
「流石に普段通りとは行かんか‥‥だが、その分機体が軽い、これならいつもより機敏に動ける!」
三番艦轟竜號からの出撃だ。愛機リッジウェイは今回は置いてきている。
機敏な分、装甲はリッジウェイに比べれば装甲は薄い。
リゼット機、セツナ機、の動向に細心の注意を払い、仲間達の位置を確認しつつ動く。
「とっておきだ威力は受けて確かめろ!」
柔らかに動く砂漠の足元。ゲシュペンストは砂塵を踏み抜くと攻撃を仕掛ける。
「喰い付け! そして撃ち砕け!!」
機杭白龍を叩き込むゲシュペンスト機は、そのままレッグドリルを振り抜いた。
「究極! ゲシュペンストキィィィィック!!!!」
セツナ機が止めたHWは、ゲシュペンスト機の攻撃に爆炎を上げる。
その攻撃の合間に上昇しようとしていたHWをリゼット機が狙う。
「させませんよ」
ピアッシングキャノンが、HWの腹を穿つ。
「せっちゃんは大丈夫ね?」
「もちろんです!」
セツナ機の被弾状況を見て、僅かに眉を寄せるリゼット。
彼は大事な預かり物である。だが、訓練中でもある。甘やかし過ぎは禁物だ。
未だ大丈夫と踏んだリゼットは、笑みを浮かべて双機槍へと持ち替える。
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HWは、傭兵達の攻撃で、次々とその機動を停止し爆炎を上げていた。
砂嵐は未だ収まらない。
砂嵐発生装置の解除に時間がかかっているのだろう。
だが、猛攻と言える攻撃が、主戦力をあらかた平らげていた。
引く事を知らないキメラを、傭兵達が次々と屠って行く。
どれ程の時間が経過したろう。
上空の戦闘が止んでいた。
「敵勢力確認できませんよ〜。作戦終了ですね〜」
命のふわりとした声が、空陸へと響く。
「ボクはみんなの役に立てたのかな?」
砂塵の中、周囲を見渡し、セツナがぽつりと言葉を零した。
リゼットが笑みを浮かべる。
戦いを終えた仲間達を見渡し、ゲシュペンストがカウボーイハットを被り直す。
常に有利に戦いを押し進め、敵を押し込み、圧勝と言っていい戦いだった。
「約束は守ったぞ」
「はい」
灯華は、綾の言葉にひとつ頷く。
この手に残るのは真実の誓い。
「次は万全で来よう」
王零が流れる砂塵を見て、仲間達に告げる。
やってくるUPC軍へと走り出すのは拓海。
補給を受け、すぐに次の戦場へと駆けつけなければならない。
戦いの終わった戦場を眺めて、セラは細い目をさらに細く細めた。
「一時はどうなるかと思いましたが、無事に帰ってこれましたよ〜」
はい、と手を出す命へと、デラードが、やっぱり、はい、と大きな袋を手渡した。
中には色とりどりのアイスキャンディー。
飲む奴はこっちと、瑛とデラードが手を振った。
三番艦轟竜號にはアイスを売る店舗もあるが、飲める場所もあるようだ。
砂の城クウトが落ちたという報告は、時をおかずにUPCへともたらされる事になる。