●リプレイ本文
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HWとCWが混在した空戦域が目の前に広がる。
軽く上下前後、奥行きのある、良く大規模作戦などで見るような布陣だ。
「これはまた大量ねー。迂闊に突っ込んだりしないようにしないと」
遠目から、敵部隊の展開を確認するのはフローラ・シュトリエ(
gb6204)。ディアマントシュタオプ、Schneeの操縦桿を握り込む。
HWが、KV目がけて突っ込んでくる。
頭痛も襲ってきた。HWが置き去りにするかのように後方にCWが光る。
「燃やし尽くすぜ、平和の為にッ!」
力を入れた声を上げたアレックス(
gb3735)は、言い放った後、軽く頬をかく。
「‥‥砂漠の暑さに、熱さで対抗しようとしたんだが、駄目か」
熱血は柄では無いようで、すっと目線が目の前の敵に絞られる。
(まぁ、いつも通りにやるだけさ)
シラヌイS2型、カストルが、ぐっと前に出る。
飛行を合わせるのは、同機種であるシラヌイS2型。【G.B.H】小隊の仲間だ。
シリウスを駆る御鑑 藍(
gc1485)は、隊長の呟きに口元に笑みを浮かべる。
「敵は多いけど、ここで頑張らないと‥‥いけませんね」
同じ機体を動かす隊長を横目に、藍は軽く息を吸い込む。
(アレックスさんに後れを取らない様に頑張りたい‥‥と思っています)
戦い慣れた二機は、鮮やかにロッテを組んで突っ込んで行く。
淡紅色の光線が、傭兵等へと向かって撃ち放たれる。
プロトン砲だ。
アレックスが藍へと、声をかけながら、機体スキルを駆使し、プロトン砲を避ける。
避けきれた機体は少ない。
プロトン砲の射程は長く、ほぼ、先手を取られる。
敵攻撃を予測し、回避行動をとらなければ、もろに食らう。CWが落ちて居なければなおさらだ。
一撃程度では、落ちるKVは無いが、ダメージは溜まる。
頭痛が治まらない。怪音波が能力者達を苛む。
「個々の質は大したことないが、量が問題か‥‥」
ガンスリンガー、スカーレット・ノヴァを操るのは、タルト・ローズレッド(
gb1537)。ガトリングで牽制をかけながら、HWの向こうのCWを狙う。敵の薄い場所をと考えて回り込もうと動く。HWを攻撃する仲間に合わせてだが、タルトに随伴する機体が無い。
「‥‥単機で行動、はきっついかな」
タルトが呟く。
攻撃がもろに入る。
フェザー砲が襲いかかる。
同時に、タルト機から、アテナイが、横殴りの雨の様にHWを襲う。だが、落ちるまでにはいかない。
HWに穿たれた細かい傷を横目に、タルトは、CWを視界に入れる。
「ここは通行止めです。退路もありませんよ。ここで墜ちなさい」
CWを狙うエイミー・H・メイヤー(
gb5994)が、タルトの援護にツングースカでHWを牽制しつつ、ディアブロ、Rosen Ritterを滑り込ませる。
「最初から全開でいきますの。――Absoluter Nullpunkt」
衝撃を受けたディアマントシュタオプ、アブソールテ・フォレンドゥングを立て直しつつ、日下アオカ(
gc7294)は、ふうっと息を吐き出す。緊張しているのがわかる。けれども。
(氷のように冷静に‥‥歴戦の方々に比べ、まだアオは雛鳥に過ぎませんの)
「いきますわよ? ――Hohe Bewegung Form」
アオカ機がラバグルートの光線をCWに叩き込むべく、HWの合間を抜けようと動く。
「さて、厄介な奴からさっさと落とさせてもらおうか」
リンクス、エスプローラトーレ・ケットシーの初陣に選んだ戦場だ。ドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)は、仲間達と共にCWに対応すべく、スキルを乗せたライフルによる攻撃を撃ち込んで行く。
各地で激戦が繰り広げられている。どの戦いも、試し気分で行く作戦では無いとドゥは思っていた。けれども、新しい機体は必ず何処かで初陣を経験する。それが、たまたまこの作戦だったというだけで。
「気を引き締めていくよ僕のトゥオマジア!」
使い魔とドゥは愛機を呼んだ。
「CWだけ狙わせてはくれへんねぇ」
先に狙うのはCW。藤堂 媛(
gc7261)は、CW狙いの仲間達の後から、S−01Hを操り続く。
(思わず入ってはみたけど、敵がようけおるんやねぇ。邪魔せんように頑張らなね!)
ライフルで、HWを牽制する。
「まだ、全然よわよわやし」
一撃では落ちないのを媛は気にする風も無く、次に狙いを定め、自機の射線に気を配る。仲間達の行動や攻撃を妨げないようにと。
方向転換した半数のHWがタルト、エイミー、アオカ、ドゥ、媛機の後方を狙い、フェザー砲を浴びせかける。CWを最初に狙うと決めた機が多く、HWに対応しきれない。
HWへと、攻撃が穿たれる。
瑞浪 時雨(
ga5130)のアンジェリカ、エレクトラが、タルト機を狙うHWへと迫る。
「私とエレクトラにできるのは、ただ駆逐するだけ‥‥。墜ちなさい‥‥!」
スキルを乗せて、再び、ライフルを撃ち込む。CWを狙う仲間の援護の一つとなればと。
「出し惜しみなんてしてられない‥‥。一気に決める‥‥、巻き込まれないで‥‥」
藍の機体の光線が、何割か削られているとしても、凄まじい力でHWを穿った。
仲間達の攻撃から漏れた敵へと、ユーリー・ミリオン(
gc6691)のグリフォン、ストラディヴァリから、ライフルが撃ち込まれて行く。
「突発セッションの鬩ぎ合いがどうなるか判りませんが、結果的に勝ち鬨を上げられるハーモニーにしたいですね」
ヴァイオリニスト志望のユーリーは、フルート奏者であるアオカへと、機体に乗り込む前に丁寧な挨拶を告げている。
CWは二体残り、HWは半数が残っていた。
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敵機が現れた方角から、無数の機影。
HWが群れを成して現れていた。
「今回は突出しない、とか言ってられねェな!」
くっと、機首を返すアレックス機。
綺麗な軌跡を描き、藍機が続く。
「敵、増援へと向かい、煙幕を張りますわ」
アオカだ。
「煙の中の敵機は後、外のHWからお願いしますの」
増援の敵へと向かい、煙幕を張ろうとするが、HWの射程の方が長い。
プロトン砲が、増援HWへと向かうアオカ機を狙い撃ちにする。
アレックス機と藍機が、阿吽の呼吸でHWを撃ち落す。
アオカは仲間達のフォローで辛うじて集中砲火を逃れる。
だが、数が多い。
撃ち漏らしのHWが、新手のHWと囲い込むように攻撃を仕掛け、迫ってきているのだから。
「‥‥CW、殲滅完了っ?!」
ドゥだ。
「不協和音は去りましたが、主旋律は酷く難しいですね」
ユーリーが眉を顰める。
どちらに機体を逃がしても、HWが居るのだ。
被弾は多くの機体に着々と積み重なっている。
アオカ機からの煙幕が放たれる。アオカは、そのまま回避スキルを発動し、方向転換を試みる。
「また煙幕から出てきたタイミングで敵を狙う事ができたら不意打ちにもなるかな?」
藍だ。
「どうかな」
アレックスは攻撃をしかけつつ、僅かに目を眇めた。
縦横無尽に戦場を駆けれているのは、この二機だけだった。
その煙幕に捕まったHWは三体。前後左右上下に広がるHWは、煙幕を見ると、それを迂回するかのような進路を取る。だが、数が多い。狙い撃ちに出来る程進路を狭められるものでは無かった。
煙幕を張るという事で、巻き込まれないようにと味方の出足も鈍ったのも大きい。
「煙幕で孤立分断‥‥とはいかなかったようですね」
ユーリーがミサイルを撃ち込み、ガトリングを撃ち放つ。攻撃を集中された時には、機体スキルを使い、逃れようとするが、どうしても敵の数が多く、何度か紫の光線に撃ち抜かれている。だが、未だ飛べる。
「クラッシックの響きを奏でたいものですが」
ぐっと操縦桿を握り込むと、ユーリーは鋼の翼を傾がせる。味方の射線を確保するのだ。
「目の前の敵を何とかしないと」
ドゥは、ブーストをかけてHWの合間を抜け攻撃を仕掛ける。
傾いだHWが管制制御を僅かに失って落下して行くがまだ生きているのを、ちらりと目の端に入れると、目の前にフェザー砲。
ミサイルを撃ち放つのはアオカ機。無数のミサイルがHWへと向かうが、HWは傾いだだけだ。
「‥‥わかってますわ」
突き放すように。誰に言うでもなく。
アオカはHWからの攻撃を回避する為に操縦桿を倒す。
「この数‥‥、いちいち確認してる余裕はない‥‥。目の前の敵を殲滅するだけ‥‥」
プロトン砲とフェザー砲の飛び交う中を潜り抜け、時雨の重い攻撃が次々にHWを破壊して行く。
軽い衝撃。尾翼に攻撃がヒットしている。小さく舌打ちする時雨は機首を返す。
「足を止めたら落とされる‥‥。なら、突き進むだけ‥‥!」
攻撃を叩き込み、時雨は開いた空間へと愛機を滑り込ませる。
「ええい、数が多い! 鬱陶しい! さっさと落ちろッ!」
後方を気にしつつ、タルトはスキルを乗せた重機関砲をHWへと叩き込む。アテナイがついでとばかりに襲いかかっている。爆炎を上げたHWが、機動を停止し、落下して行くのをタルトは目の端に入れながら、次の目標へと機首を返す。後方に気を配っていたが、どうしても敵の数が多い。フェザー砲の衝撃が機体を揺らす。その攻撃を受け流し、悪態をつくと、タルトは再び攻撃を叩き込む。
仲間達と離れ過ぎないように。
「速攻で減らしていくわよー」
フローラ機から、凄まじい威力のレーザーガン、プラズマライフルが、HWを襲い、穴を穿つ。HWから、フェザー砲が飛ぶが、フローラ機にとっては掠り傷だ。
「避けきるのにも限界はあるけど、そうそう捉えさせはしないわよ」
口の端に笑みを浮かべ、フローラは操縦桿を傾けた。
エイミーはHWへと攻撃を叩き込む。鈍い音が響いてくる。
「‥‥簡単には落ちませんが‥‥っ」
ツングースカが唸りを上げる。プロトン砲には注意をしていたが、無数のHWのフェザー砲をどれほど食らったろうか。
機動を停止したHWがくるくると木の葉の様に落ちて行く。
「なるべく、ひとりぼっちにならんようにしとるんやけど‥‥」
媛だ。動きの止まったHWへと、とどめとばかりに攻撃を撃ち込んだ。
僚機を決めていない仲間達は、互いが互いをフォローしようと動き、結果、二機を除いた全てが一塊となっていた。
残るHWは十ニ体。
そこに、さらに敵の増援が見えた。
そのキメラの群れに守られるかのようにHW。数はおよそ十体。
混戦の中、再々度の敵襲だった。
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未だ、先に現れたHWを殲滅しては居ない。
攻撃をかわしながらの新手の攻撃に身構える傭兵達。
「任意に動けば最高なんだけど」
タルトは、接近していたHWへとアテナイの攻撃が叩き込まれるのを見て、首を横に振る。
キメラへと向かって欲しいと思っていたが、アテナイはタルト機へと接近した敵へと生真面目に攻撃を仕掛けたのだ。これでまたしばらくは大人しい。
しょうがないかと、重機関砲とガトリングを駆使し、HWを屠る。
「撃ち漏らしとか言っていられない状況ってことかな」
ドゥはミサイルを撃ち放つ。2発が軌跡を描いてHWへと着弾し、爆炎を上げるがHWはその爆炎を後方になびかせてドゥを捉え、フェザー砲を撃ち込む。媛機が滑り込み、十式を叩き込む。
「落としても落としてもや」
エイミー機が空域から離脱しようとするHWを見咎める。
「行かせない」
「じゃあまあ、行こうかー」
くっと機首を並べるのはフローラ機。その横にはタルト機が並ぶ。
「させるかっ!」
抜けようとするHWを三機が捉える。横っ腹にキメラが群がるが、構いはしない。
引きはがすかのようにブーストをかけて、HWへと追いつくと、HWは相も変らぬ慣性無視の動きで、くるりとタルト機へと向き直り、フェザー砲が迎え撃った。
タルト機は、幾つかフェザー砲を受け、あるいは受け流し、ガトリングを撃ち込んだ。20もの弾丸が、HWへと細かな穴を穿つ。
盛大なミサイル。パンテオンが、100もの軌跡を描き、HWへと叩き込まれる。続け様の爆発がHWを破壊する。後方から三機を狙い撃つHWが居る。
「後方から敵接近」
フローラが声を上げる。
落ちるHWを尻目に、三機は機首を返す。
フェザー砲が撃ち込まれる。フローラ機からプラズマライフルの光が飛ぶ。その凄まじい威力に、HWがぐらりと傾ぎ、落下する。その途中で、HWは爆炎を上げ落ちて行く。
「ありがとうございます、あちら‥‥間に合いませんか」
エイミーだ。
「こっちこそねー。でも、人が足りないっていうか、何ていうか」
フローラが頷く。
「‥‥衝撃が半端無いか‥‥」
フローラ機は然程でもないが、タルトは自分を含めて多くの仲間達の機体の損傷に軽く息を吐く。
「ソードウィング、アクティブ! 行っけえぇぇぇッ!!」
「数が減ったような気がしないのは、キメラのせいでしょうか」
キメラの合間から突然顔を出したかのようなHWへと、アレックス機が突進をかける。藍機が、牽制にバルカンを叩き込み、その合間に、アレックス機の剣翼がぶち当たる。みしりと金属の歪む音が響き、火花が散った。凄まじい攻撃力がHWを一撃で破壊する。返す翼で、目の前に迫るもう一体へと突撃をかける。フェザー砲が浴びせられるが、バルカンを撃ち放ちかわす。藍機から、の攻撃でHWが一瞬間を開ける。その間に、アレックス機が飛び込む。
「伊達や酔狂で『竜王殺し』を名乗ってるワケじゃねェぞっ!」
すれ違い様の剣翼は、HWに爆炎を上げさせた。
「空間が開いてきましたね‥‥」
スキルを乗せたミサイルポッドを撃ち尽くした時雨は、ようやく一息つきながらも、UK−10AAEMを、接近するHWへと撃ち込んだ。エネルギー爆発がHWを包む。その凄まじさは、周囲のキメラを何体か巻き込み、塵と化す。
突出するのを抑え、周囲に気を配りつつ、堅実に、着実に敵を屠っていたユーリーが、ドゥに声をかければ、ドゥが答える。混戦を脱するのは目前のようだった。ユーリーは笑みを浮かべて頷く。
「けど‥‥倒しきれなかった」
機体性能、作戦、相談、全てが噛み合ってこそ満足の行く戦いの結果が生まれる。
ドゥは首を横に振る。自らの未熟さを反省し、振り返るように。
混戦の果て、傭兵達は、総じて、辛くも、戦いきった。
キメラはかなりの数が別空域へと向かい、HWも五体、抜けて行ったのを確認している。
お疲れさんと、デラードから帰還して欲しいとの通信が入る。
眼下に広がる砂漠を見て、タルトがコクピットで僅かにふんぞり返る。
「しかしあっついな‥‥アイス食いたいぞアイス」
「戻ったら山の様に届けるから安心してくれ」
デラードの、からりと笑いを交えた声が届いた。
タルトは嬉しそうに、尊大に頷いた。
砂漠のバグア拠点アルカルジは、UPC軍が徐々に制圧。
様々な戦いの決着が砂漠の果てにつこうとしていた。
敵本拠地はクウト。
UPC軍は、時をおかずに攻撃を開始する事となる。