●リプレイ本文
●
戦いの音があちこちで響き渡っている。
原田隊の合図と共に、福岡空港北から、傭兵等が踊り込む。
爆音が響く。
大地が揺らぎ、空を裂くミサイルの音。
空を揺るがす耳障りな音に、囮部隊は気が付いていた。
幾つか建物のドアを開け、さも確認をしている素振りは続けている。
ドラゴンフライ。蜻蛉を思わすその姿。
「化け物相手ってのは、どんだけキツくても気楽ね‥‥」
2進数列が映る左目を眇め、狐月 銀子(
gb2552)が、ずっしりとした重みを手にする。軽く担ぐように構えたエネルギーキャノンが唸りを上げて、キメラへと飛ぶ。ビシビシと音を立て、蜻蛉が四散する。
襲いかかってくるのは、どうやら通常見かけるキメラのようだと、銀子は安堵の息を吐く。
大型のドラゴンフライは、かつてはKVで落とすのがやっとだった。だが、今はこうして互角以上の戦いをすることが出来る。
ばさばさと、次から次へとキメラが突進してくる。
「さァ、やってやろうじゃないか」
穏やかな雰囲気を脱ぎ捨てたレーゲン・シュナイダー(
ga4458)がキツイ眦で蜻蛉を睨み据えながら、仲間達へと、錬成強化をかけて行く。九州には世話になった人もいる。この戦いが安寧の一歩になるのならば。
銀子を後ろに、エイミー・H・メイヤー(
gb5994)が走り込んで行く。長いツインテールが尾を引く。淡く光る蛍火を振り抜く。
淡々とした口調。冷徹に蜻蛉を見据える目は金に光る。
「大概で叩き出さんといかんめ?」
方言を口にする。
後方の斜線を塞がないようにと気を配り、エイミーの横を走るのは神楽 菖蒲(
gb8448)。金属の光沢を放つ左腕。赤い髪がキメラの翅の風圧に巻きあがり、銀メッシュが僅かに光った。
何はともあれ、地元だ。菖蒲は、思わず出た方言に口元を笑みの形に歪めると、黒光りするラグエルを握り込み、射線を定め、撃ち込んだ。
「とりあえずは、蜻蛉落とすわよ!」
菖蒲の声が仲間内に響く。
「では、私はこちら側を担当しよう。任せてくれ」
菖蒲の声に、シクル・ハーツ(
gc1986)が身を翻す。ふわりと長い髪が巻き上がる。青い残光を残す目が迫る蜻蛉を睨み据え、和弓・雷上動を引き絞る。放たれる矢が、キメラの翅を撃ち抜いた。
「蟲は堕ちなさい」
揺らぐキメラへと、エイミーの一撃が入る。
キメラの喧騒が戦闘音と重なり、耳障りだ。
「‥‥さっさと片付けましょう。どれこもれも数がいると鬱陶しいわ」
白銀のジャッジメント、雷鳴のような轟音を響かせる紫のバラキエル。鷹代 由稀(
ga1601)は、巨大蜻蛉の翅で巻き上がる細かな埃に目を眇めながら、銃弾を無造作に叩き込んでいた。
紋章と共に、ホロスクリーンが、金色の右目の前に展開している。軽く眇める銀の左目。
翅を撃ち抜かれた蜻蛉が胴体をくねらせ落ちて来る。とがった牙、無数の鋭い脚。
「後ろには通しませんよ??」
ふわりと笑った風のエクリプス・アルフ(
gc2636)が水の精霊の名を持つヴォジャノーイを片手に、キメラへとむかい前に出る。銃弾で落ちてくる蜻蛉へと、刀身を振り抜けば、甲高い絶叫が響き渡る。
日本は、傭兵になったきっかけの地だ。
「数が居ればいいというものではありませんわ」
着物の裾を蹴立てて、加賀 弓(
ga8749)が、小銃・スノードロップを構え、撃つ。
ふわりと棚引く袖。舞う黒髪。
翅音が乾いた音を立てる。
眉間を撃ち抜かれた蜻蛉が脚をひくつかせている横を抜けて走る。
「さて、本隊の為にきっちりと囮の役を果たしましょう。‥‥もう大詰めですしね」
舞いを思い起こさせる、滑らかな動きで、天小路桜子(
gb1928)がエネルギーガンで接近するキメラを撃ち抜いた。光線が空に残像を描く。長く絹糸のような黒髪がさらりと踊る。
「こちらを走った方がより、効果的でしょうか」
地図は頭に叩き込んだ。建物配置からすると、少し回り込んでも構わないかもしれない。
五人を組みとし、傭兵達は動いている。
あまり離れ過ぎないように、だが、的確に人質を探していると言うフリをするのは良いはずだ。
「‥‥? とにかく、あのおじさんが喜ぶなら‥‥頑張ります」
赤紫色の瞳を蜻蛉に向けているトゥリム(
gc6022)は、光沢の無い灰色の髪と肌、石の小さな像のような姿である。探査の眼、GooDLuckを発動している。戦闘が長引けば何度でも発動するつもりだ。ライオットシールドを構え、着実にクルメタルP−56で蜻蛉を撃ち抜く。弾けた蜻蛉の翅が空を舞う。
九州指令の言葉をトゥリムは思い出していた。
──長かった。
その言葉の本当の意味は解らない。
けれども、がんばらなくてはという気持ちがトゥリムをこの地に連れてきていた。
横長になる左眼の瞳孔。金色を帯びる虹彩。時枝・悠(
ga8810)は、大太刀・紅炎を軽く振るった。紅炎の属性である雷が左半身へと浮かび、翡翠色の光へと変わる。
「どうにかしようか、いつも通りに」
翅音へと向かい一閃。
悠にとっては、これもまた数多の依頼の一つ。付随するしがらみに縛られる事は無い。
傭兵に課せられたのは、ただ目前の仕事を求められる通に着実にこなす事。
一閃した太刀の軌跡に蜻蛉が割れた。
「派手にいくぜ!」
金色のオーラが須佐 武流(
ga1461)の素早い動きについて僅かな残光を残す。突進するキメラを軽やかにかわし、大地を蹴る。雷槍・ターミガンの雷の刀身が、振り抜かれれば、翅を震わせて襲いかかったキメラを切り裂くように吹き飛ばす。
「The End!」
ぴくりとも動かない蜻蛉を踏み台にして、次のターゲットを絞った武流は、走り出す。
「九州に来るのは久しぶりッスね。俺も何度か戦ったもんだ」
太刀・獅子牡丹を握り直す。その手の甲には、黒い翼と日本刀を模した紋章が浮かんでいる。六堂源治(
ga8154)は、その紅眼を僅かに眇める。
「気合入れて行くッスよ」
白髪に変わった源治の髪が巻き上げ、その巨躯がたわんだ風に見えた。
飄々とした風に九州戦を口にした源治ではあるが、その戦いの長さを知っている。
奪還は目の前。ならば、全力を持ってこの作戦を遂行するのみ。
前衛の攻撃の間を埋めるかのように、後方から矢が飛んでくる。
「では行くとしましょう」
まるで瞳が消えたかのように、双眸を真っ青に染めた篠崎 公司(
ga2413)が和弓・夜雀を再び引き絞る。濡羽色の弓から、静かに放たれ、前を行く者の攻撃が通り易くなる間を生み出す。
清冽な空気が、戦いの空間に現れていた。依神 隼瀬(
gb2747)だ。
「できるだけ倒しとかないとね!」
後方から、超機械・クロッカスを駆使し、隼瀬は前衛の仲間達に迫る蜻蛉の動きを止めるべく、攻撃を放つ。
それにしても、同班の仲間達の強さ。
(俺は回復と‥‥支援に徹するかな)
隼瀬は軽く頷く。
建物が林立している。
その、建物の合間へと、急降下するような巨大蜻蛉ばかりに気を取られないようにと気を配る。
少しでも蜻蛉の数を減らせば、本隊の行動が楽になるに違いないから。
僅かに、戦闘の合間に息をつく間が出来た。
その合間に、傭兵達は、建物のドアを開け、中を確認して回る。
「どこで見られてるかわからない‥‥開けるだけじゃなくて確認するフリ、忘れないで」
由稀だ。
ドア目がけて蹴りを入れる。
かび臭い臭いが僅かに漂う。
しんとした、雰囲気が建物の中から感じられる。
「虱潰しに見ないといけませんね」
周囲に気を配り、弓がドアを開ける。」
ちりっとした痛みに頭を押さえる桜子。
軽く笑みを浮かべつつ、エクリプスがドアを慎重に開け、武器を構えるが、静かなその空間に小首を傾げる。
「罠‥‥とか、感じないから‥‥建物の中は、大丈夫」
こくりと頷くのは小さなトゥリム。
建物の中を確認すると、隼瀬は急ぎ、外へと戻る。源治が、ドアを開け、中を確認。仲間達を背に、悠は前方を警戒しつつ、進む。
「‥‥あと2分‥‥CWが居ますね」
遠目に敵が迫るのが見える。公司は後方から良く周囲を見ながら、襲ってくる頭痛の気配を感じた。
仲間達に聞こえるようにと声を上げる。
「よし。次はどいつだ」
無造作に前に進むのは武流。
何はともあれ、敵を派手に叩くのが自らの役割だと心に決めている。
S−01を構えながら、レーゲンがドアを開ける。仲間達が確認している合間を守るかのように銀子とシルクが前に出て警戒。エイミーは、良く知る間柄の多い事に、安心感を持ちつつ、襲撃の波が収まったこの瞬間を逃さないようにと建物のドアを開けて回る。
「誰も怪我していないわね?」
菖蒲は、同班の仲間達を気遣いながら、建物を確認して行く。
すぐに、蜻蛉が襲いかかってきた。
建物の上部から、曲がり角から、不意に現れるのはビッグスパイダー。
第二波がやって来たのだ。
それを遠くから見ていた影が‥‥動いた。
●
光を反射する物体が建物の合間に見える。
激しい頭痛が襲って来る。
飛来するCWを見て、遠距離攻撃を持つ仲間達は、武器を手に、前衛の仲間達はその動きを止めるべく、頭痛を感じながらも走り出す。蜻蛉が低空から迫り、建物の合間から、蜘蛛の巨大な姿が、ちらほらと見られる。
「あ、キューブ発見、落としておきます」
トゥリムだ。
「‥‥じき、射程距離」
拳銃を構えた弓。
「CWだけじゃないわ。気を付けて」
桜子が、合間を抜けてくるキメラを迎え撃つために移動する。エクリプスは、攻撃の属性を考えて、やはりキメラへと回るように動く。
「っとにイラッとさせるわね‥‥目障りなのよ」
スキルを乗せた攻撃をCWへと叩き込むのは由稀。
無難な攻防が続く。
「邪魔者は排除するだけです」
公司がスキルを乗せた弾頭矢を撃ち込む。CWへと着弾した攻撃が爆発を起こす。
「ったく‥‥」
最優先にCWを狙わなくては、キメラへの攻撃力が落ちる。悠は、CW目がけて走るが、合間から蜘蛛の糸が飛び、蜻蛉が翅音の唸りを上げて降下してくる。
「行くぜっ!」
武流が右に左に、蹴りを織り交ぜた攻撃でキメラを叩く。
「それにしたって‥‥数が‥‥多いね」
仲間達と離れ過ぎないように、けれども適度な距離を保ち、隼瀬が超機械で敵の動きを止めるべく攻撃を補助する。CWの距離を測ると、長弓・フレイヤを隼瀬は引き絞り、放つ。
「片っ端から叩き斬ってやるッスよ」
太刀を振り抜く源治。
彼等はその能力の限りにキメラを屠る。
「蜘蛛! 粘糸の射程に気を付けて!」
銀子だ。
「私の後輩に、触るんじゃない」
菖蒲がエイミーを狙う蜘蛛へと攻撃を仕掛ける。
がさごそと出てきた蜘蛛は、CWを背に建物の上から、物陰から粘糸を掃出している。
移動が困難な状況が、時折起こる。
上空からは蜻蛉。
「くっ‥‥この程度‥‥」
道を切り開く為に、エイミーがリアトリスで切り裂く。
「あまり無茶はして欲しくないねェ‥‥」
レーゲンが、後方から、上空の蜻蛉目がけてエネガンを向ける。光線が蜻蛉を撃ち抜く。
彼女等の班も、無難な戦い振りだ。
そんな中。
CWの頭上から落ちるように現れたのは、バグア。
「そこです!」
公司の矢が飛ぶが、当たらない。
青龍刀が、前進していた悠へとめがけ振り下ろされる。
がっちりと悠は受けて、弾く。
「良い戦いぶり。俺の名は、禍弦。ドレアドル様が下、この地で会いまみえて光栄!」
笑うバグアに、悠は軽く舌打ちする。
「ああ糞、潰したらボーナスのひとつも出るんだろうな」
その弾いた間に、源治が入る。
太刀が撃ち込まれれば、青龍刀ががっちりと受けて弾く。その隙に源治の足技が禍弦の腹に入る。
「お前‥‥本当に人か?」
かわした禍弦へと、武流が構える。攻撃が来るのならば受け流し、隙を狙う算段だ。
「ただの邪魔虫だから相手したくはねぇが‥‥どうしてもってんなら仕方ねぇ」
武流を一瞥した禍弦んは、源治と悠を睨み据えていた。
源治と悠のスキルの乗った重い一撃が交差するかのように二方向から禍弦へと。
空を裂くかのような攻撃だ。
重なって入る攻撃。頭上で青龍刀で受け止めた禍弦が、弾き返す。
間断なく源治が蹴りを入れれば、禍弦の片腹から鮮血が溢れた。
その間が生まれるかどうかの瞬間、禍弦の周囲へと、圧力が襲った。激しい衝撃波。
悠と源治、武流が僅かに吹き飛ぶ。
吹き飛んだ間に、CWを背にしていた禍弦が、するりと抜け出て立ち位置を確保。
悠が渋面を作る。
「こいつ、かなり手強いッスね‥‥!」
衝撃波は、源治と悠に、かなり深いダメージを与えた。しかし。
源治は言葉とは裏腹に太刀を握り直すと、禍弦を逃すまじと、走り込む。
「ああ、面倒だ」
悠が首を軽く横に振り、源治と共に、禍弦へと向かう。
(俺達の役目は時間稼ぎだぞ)
禍弦の攻撃を半ば受け流していた武流は小さく心中で呟く。
武流もダメージは負っていたが動けない程では無い。
飽きて引いてくれれば、それはそれで構わないのだから。だが、仲間達が追うのならばと。
上空からは、間断なく、蜻蛉が突進。
蜘蛛が横合いから、稼働が停止したCWの上部からと、姿を現す。
公司が、そのキメラを攻撃する。隼瀬が、出来る範囲で回復をと。
禍弦が現れたのは、他班も目視していたが、距離が離れている。
スライムが現れ、溶解液を噴出する。援護に届かない。
源治、悠の攻撃を受けた禍弦が、口から血を吐いた。
「これが数多の名のあるバグアを地に落とした人類の力か?」
禍弦が、ギラギラとした視線を、悠と源治へと向けた。
禍弦は限界突破を発動させた。
咆哮を上げた禍弦は、もはや思考は吹き飛んでいるようだった。
手にする青龍刀を目にも止まらない程の速さで、源治と悠へと叩き込み、見境なく、走り続ける。
後方を守っていた公司、隼瀬へと、青龍刀を叩き込む。
軽くかわそうとしていた武流へも、比べ物にならない程の攻撃が入る。
「‥‥逃がさないッス!」
どん。
重い衝撃が手に伝わる。
先の攻撃で、かなりな深手を負っていたからこそ、追いつけた。
それなりの力のあるバグアに、限界突破を起こさせるほどの重い攻撃だった。
追いついた源治は禍弦へ袈裟懸けに太刀を叩き込んでいた。
がっと、源治を禍弦が掴んだ。ミシリと骨の砕ける音を源治は聞く。
「お終いにしよう」
悠が、源治を掴んだ禍弦の手ごと、首へと向かい大太刀を叩き込む。
「これが‥‥人類の力か‥‥良かろう‥‥義兄弟達よ! 後は頼んだ!! ドレアドル様をっ‥‥!!」
人としての形態を保てなくなりつつある禍弦が絞り出すように叫ぶのを、傭兵達は聞いた。
禍弦討つ。
仲間達の手厚い攻撃はあったが禍弦との戦いの合間、僅かながらキメラは逃走。
しかし、本隊に影響するほどの数では無く、囮戦は十分な結果をもたらしていた。
北九州。長い戦いの果てに、ひとつの結果がここに生まれていた。