タイトル:【Pr】鳥栖分屯地制圧マスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/07 20:58

●オープニング本文


 目達原駐屯地を制圧出来たのは大きかった。バグアにとってみれば、その場所はさして戦略上重要な拠点では無かったようだが、こちら側にとってみれば、貴重な足がかりの場所である。
 壱岐島空港周辺にバグアやキメラが残っていないのも確認がとれている。壱岐島空港もナイトフォーゲル──KVを配置出来る。
 幸い、岩龍もある。
 進入が容易だったのは、大規模作戦の為に、こちらへの警戒が薄かったせいでもある。意に介していなかったとも言う。標的は名古屋。UPC東アジア軍本部。その他の余計な小競り合いは最小限に留めたいとでも言うように。
 目達原駐屯地では、白い物がまじりはじめた、男性が深い笑顔でUPC軍を迎えた。
 よろしくと手を出したズウィーク・デラード軍曹の手を握り返す。三山宗治と名乗る、小柄で何所か憎めない笑顔が印象的な53歳の初老の男だ。
「鳥栖分屯地からキメラがわらわら出よって、親バグアの親子が取り残されている‥すまんが、手伝ってはもらえんか」
 親バグア。バグアの支配を受け入れ、支援する人々の事である。バグアに乗っ取られたわけでもないが、その人々は、利益を求め、生き延びる為、あえてバグアの側についた人の事である。
「見捨てれない‥と」
「まあのぅ。血の気の多い子等は、放っておけと言うとったが、見捨てれば、あいつ等と同じ事をしとるような気になるだろう?」

 バグアの置き土産。
 大型の蜘蛛のようなキメラが、鳥栖分屯地内を蠢いていた。その数10体。
 鳥栖分屯地内に張り巡らされているのは尻から吐き出される白く粘つく糸である。
「そこも補給に確保したいんで、手伝ってもらいましょう」
 デラード軍曹は宗治に負けない、つかみ所のない笑顔で返した。

「これも‥報いか」
 男は、腕の中で眠る小さな娘をかき抱いた。
 バグアにおもねる奴と反バグアの人々から、陰口を叩かれていたのは知っている。思い切りの無い奴だと親バグアの仲間からも言われてもいた。けれども。2歳になる娘とふたり、生きて行くには楽な方を選びたかった。どちらにも深く入れ込めない宙ぶらりんの判断が、UPC軍‥能力者が来たという時点でも身動きをとらせてはくれなかった。
「ごめんな」
 やがて朝日が昇る。
 どうやってここを脱出しようか、それとも‥。
 男は娘の温もりに僅かに涙ぐんだ。

●参加者一覧

桜崎・正人(ga0100
28歳・♂・JG
九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
ヴァルター・ネヴァン(ga2634
20歳・♂・FT
伊河 凛(ga3175
24歳・♂・FT
相田 志朗(ga3692
20歳・♂・SN
ノビル・ラグ(ga3704
18歳・♂・JG
嶋田 啓吾(ga4282
37歳・♂・ST

●リプレイ本文

「何だぁ〜? あの白い粘々はっっ! ‥‥何かホラー映画でこーゆーの観た事あるぞ〜」
 敷地内にきらきらと光る白い糸が見える。
 その糸は、巨大な蜘蛛──ビッグスパイダーによって吐き出された糸だという。キメラは、元の生き物の行動をなぞる事が多い。静かなその場所に一歩でも踏み込めば、糸に伝わる振動によって、ビッグスパイダーが得物を狙いに現れるのだろう。
 ノビル・ラグ(ga3704)は、特撮やFSXを使った怪獣映画やスーパーヒーロー映画を思い出していた。しかし、バグアの侵攻が始まってから特撮のような風景は日常化している。
(「兎も角。逃げ損なった親子2人の救出とキメラ退治を何とかせにゃー」)
 唇を引き結び、普段は快晴の空のようなノビルの双眸が金と銀のヘテロクロミアに輝く。
 変形したコクピットの中で新雪のような髪を揺らし、伊河 凛(ga3175)は、機器をチェックしながら、コイツにも少しは慣れてきたなと思う。覚醒しなければ動かせないナイトフォーゲル──KVは着実に能力者達の手足となってきている。
「親バグア派‥」
 鳥栖分屯地の中に残された親子を思う。たまたま、生きる術を選ぶ時の考え方が違っただけだ。いくら親バグアと言っても、人である事に違いは無いのだから。
 そう、凛は思う。いつも脳裏にフラッシュバックする記憶は、この荒れた地と良く似ている。もう‥誰も死なせたくない。誓いを胸に呼び起こし、機体を操る。
「厄介だがやるしかない」
 バグアとの戦いを続けるにあたり、補給を確保したいというのは解る。キメラ退治ならば、能力者の出番だという事も。ただ退治すれば良いわけでは無く、補給の為の火薬庫とも言える場所を守り、逃げ遅れた人を助けるという制限つきの戦いだ。九条・命(ga0148)は、小さく息を吐く。逃げ遅れた男は、覚悟を決めかねていたという。そんな人を見捨てるのは、自身の精神衛生上、余り宜しくは無いと、吐息混じりに呟いた。
 軽い音を立てて、命のR−01から、排気が抜ける。
「ふむ、あれは蜘蛛の巣でしょうかねえ‥‥何ともね‥」
 無精髭のある顎を軽く撫ぜると、嶋田 啓吾(ga4282)は僅かに目を細めた。様々な角度から人を侵食するバグア。こうして大規模な戦いもあれば、そうでない、人の心に忍び寄るかのような謀略もあるかもしれない。危機感だけが、増してくる。なのに、手にする情報はほんの僅かで。手に入れたと思った情報すら、翌朝には意味の無い物に変わりそうな怖さがある。
「行こうか、啓吾」
「ああ、よろしく」
 合図をすると、中に居るという親バグアの親子を助け出す救出班の桜崎・正人(ga0100)が、同じく、救出班の啓吾に声をかけた。出来るだけ迅速に。救出してこの場を離れ、仲間達を手助けするために、また戻ってこなくてはならない。ビッグスパイダーが何体いるかはわからないのだから。真紅の瞳が油断無く鳥栖分屯地内を探る。
 コクピットで、手を何度も握りなおしているのは如月・由梨(ga1805)である。普段は黒い瞳が赤く輝き、きつく釣り上がった眦は、人とバグアについて、静かに推考する。
 親バグアの人は‥‥助けたい。
 そうは思う。それは、親バグアという振り分けをしただけの、人であると思うからだ。バグアに寄生された人間は、もはや人では無い。寄生された段階で、その命を明け渡している。人を操り、人に敵対するバグア。そのバグアに同調し、同胞に刃を向ける親バグア。
 どちらも人類に敵意を向ける‥‥。
「如月、そろそろ行くぞ」
 同じ護衛班の相田 志朗(ga3692)の声に、由梨は我に帰る。考える事はいくらでもある。しかし、ここでは不要だろうと、首を横に降り。たとえ彼等が親バグアだとしても、救出するのは、自らの正義によってなのだから。
「はい」
 ぐっと、関節がたわみ、彼女のR−01の足が地面にめり込んだ。
「地元なんだよな」
 荒れ果てた土地を眺め、志朗は溜息を吐く。バグアに侵攻される前は、良い土地であったと聞かされている。寂れたと言い換えた方が良いかもしれない。バグアにおさえつけられ、自由を無くしたこの地は、つい先日まで息も絶え絶えの、どんよりとした空気に覆われていた。
 それを払拭する。
「囮か」
 ひとつ頷くと、ヴァルター・ネヴァン(ga2634)もその足を踏み出した。R−01の機体が軽い音を立てる。

 地形に詳しい志朗が仲間達に声をかける。
「陽動は、朝日山側の登山路にあるトラック搬入路が適切だろう」
「ふむ。位置は解ります‥」
 啓吾は、三山と無線を繋ぐ。しかし、親子が隠れられそうな場所は、いくらでもある。バグアは、その場所を放棄しているのだから、自由に何所にでも入れるだろうとの事だった。無意識に手にした煙草を、火気厳禁だったと苦笑して胸にしまう。
 蜘蛛の巣。
 そう、啓吾は思ったのではなかったか。地上にも、建物と建物間の空中にも張り巡らされた白い糸に触らずに基地内に進入する事は、まず無理と言って良かった。

 それと同時刻に陽動班が動き出す。
「陸自の鳥栖分屯地は燃料と弾薬がタップリ詰まってる‥‥らしいな」
 命は、相田の言葉を思い出し、KVの両腕に取り付けたツインドリルを派手に動かし、大きな音をさせる。
「そ〜れっ」
 近くに落ちていた瓦礫の破片を、ノビルが拾って投げると、白い糸に絡みついて落ちた。小さな振動が、響く。ざわりと、空気が動いたような気配がする。
 凛がその巨大な蜘蛛の巣に、一歩足を踏み出した。あまり待っていては、救出する者達が動きにくい。
「こちらは火気厳禁、だが奴等は御構い無しだ。救出を急ごう」
 ねっとりとした白い蜘蛛糸が、凛のR−01の足をとる。心配していたほど、頑丈ではなさそうだ。しかし、立体に張り巡らされたその糸は、KVに纏わりつき、その動きと視界を遮る。ヴァルターは、糸を確かめると、蜘蛛の捕食方法を思い出す。
「もがいてみせた方が、出てきやすいかもしれないでおざります」
 確かに、ひっかかるだけでは、ゴミだと思われかねない。餌と勘違いさせて、誘き寄せるのならば、獲物よろしく、もがくのが良い。自分よりも大きな獲物だとしても、糸に絡まった獲物にならば、易々と顔を出すだろう。糸を切らないようにと、ヴァルターはR−01を動かす。
「っ!」
 早い。飛び出してきたビッグスパイダーの攻撃をかわし、鋼の刃で切り裂いた。白い蜘蛛の糸がディフェンダーに纏わりついて、尾を引くように空を掻く。
「R−01の性能、存分に見せてやる」
 ヴァルターに攻撃が集中しないようにと、凛が動く。建物に気を配りながら、横並びにと展開する。しかし、攻撃は前から来るとは限らない。すぐ隣の建物の上部から、凶悪な複眼がぬっと顔を出す。
「くっ!」
 糸に乗り、滑るように体当たりをしかけてくるビッグスパイダーを間一髪でかわすと、巨大な腹部へと、ディフェンダーを叩き込む。鈍い機械音が脚部に響き、鋼の腕が軽快な作動音と共にディフェンダーを操る。
 わさわさと出てきたビッグスパイダーを切り裂くと、普段は持ち慣れない剣の動きにノビルが唸る。
「ぐがーっっ! 何でスナイパーの俺がっ! ディフェンダーなんつーモンで戦わにゃーならんのだっ!?」
「離れ過ぎるなよ?」
 命が1体を地に落としつつ、ノビルに声をかける。囲まれては、いくら機体の性能が良くても危険だ。
「わーってるよ! ‥っ使い辛ェっっっ!! やっぱ剣は性に合わねぇ!」
 白い糸が飛ぶ。
 拘束へとビッグスパイダーの攻撃が変化したが、もちろん、それも予想の範囲のうちだ。
「粘着性の糸か‥厄介だが、俺達を止めるには力不足だな」
 飛ばされた糸を避けたヴァルターの影から凛がディフェンダーを突き出した。白い糸はディフェンダーとKVの手を絡め取り、視界を僅かに白く煙らす。間髪入れずに、ぐっと引き寄せれば、僅かにビッグスパイダーの動きが止まる。糸を吐き出すという行動をしかける時点で、その動きは止まっているのだから、間合いに入るのには充分なタイミングだ。
「撃ち貫く! 止められると思うな!!」
 体当たりをかまして来たビッグスパイダーへと、命のツインドリルが、深々と突き刺さる。ビッグスパイダーの複眼が嫌な色をして命を睨んだかのようだったが、さらに深く、鋼鉄の刃はビッグスパイダーに入っていく。
「銀の円錐、旋る螺旋、浪漫の具現たる必殺の刃金! 何物をも貫き、総てを取り込み、抉り、捻じ斬れ!!」
 音を立てて、ビッグスパイダーが地に落ちた。嫌な体液が機体にかかるが、それだけのダメージは入った。

 ビッグスパイダーは、別働班も見逃してはくれなかった。志朗は、現れたビッグスパイダーの目の前に、自身のS−01を滑り込ませる。ねっとりとした蜘蛛糸が、僅かに行動を阻害する。しかし、振りきれないほどでは無い。
「ったく、こんな乗り物造ったヤツはどうかしている。俺はそう思う」
 慣れないKVの人型が重厚な金属音を立てて唸るように動く。もう少し丁寧に動かせと言わんばかりに、排気音が僅かに大きく噴出した。
「先に倒さないと、探索もさせてはくれないって事か」
 正人は飛び込んできたビッグスパイダーへと、鋼の一撃を入れる。
「引き離さないと‥」
 たおやかな由梨の手が機体を操る。ビッグスパイダーの気を引く為に移動しようとするが、彼女のR−01の足に蜘蛛糸が巻き付き、その間に別のビッグスパイダーが体当たりをしかけ、彼女の機体は蜘蛛の白い糸を引いて、倒れる。しかし、その次の攻撃はさせない。
「地元のKV乗りをナメンなよッ! 喧嘩上等ッ!!」
 志朗は、次々と現れるビッグスパイダーに、思わず拳を入れ、白い糸まみれになっていた軽自動車を蹴り飛ばす。糸を引き、軽自動車は下がろうとしていたビッグスパイダーに命中し。
 僅かな動揺はあったが、囮として盛大に暴れている仲間達が、すぐに合流し、ビッグスパイダーの攻撃は一端止んだ。
『館内の民間人の方へ。あなた方を助けに来ました。今から館内を回ります。ゆっくりと出てきてください。娘さんのことも心配です。どうか出てきてください』
 基地内の施設は充分に生きていた。ビッグスパイダーは、その大きさ故に、建物の内部までは入れなかったようなのだ。啓吾の呼びかけが、静かな基地に響く。
 怪しげな場所を確認しつつ、基地内をゆっくりとKVが歩く。どうやら殲滅出来たようだ。
 だが、呼びかけに、中に居るはずの男は出て来ない。
「大丈夫だから、出てくると良い‥親バグアだからって、その命取る様なマネはしない。‥この地域は、開放されるんだ。もうどっちにつくかで悩まなくても良い」
 倉庫など、身を隠せるような物が多いところを覗いていた正人は、人の気配を見つけた。隠れるようにうずくまる男の背は、僅かに震えている。男の立場からすれば、呼びかけられても、すぐに出て行くような事は出来ないだろうと思ってもいた。出てくるには、かなり勇気がいるだろう。追い詰める言葉は必要ないと。
 男と少女は、完全に姿を消すほど隠れられるかといえば、そうでも無く、正人が思ったように、曖昧な気持ちが隠れる姿にも表れていた。
 酷く憔悴した男は、コクピットから手を差し伸べる正人の姿を見て、号泣した。

 二人とも、怪我などはしていないようで、能力者達はほっとする。
 ココアのを少女に手渡し、啓吾は男を自分のKVに乗せる。話をしてみたかったのだ。
「今回のことでお解りでしょう。バグアはあなた方を救ってはくれません」
「ええ、それは解っています。けれども、支配下では、組する側で無ければ、その生活は酷いものです‥何よりも、食べる物が少ない。その状態で生まれた娘の為に、家族の為に、バグアに膝をつくしか無い‥ここは、そんな地域だったんです」
 そうして、最初は嫌々膝を折った者達も、享受する特権に酔い、やがては同胞を見下すようになる。最初から同胞を見下す下種も居るには居るが、大半は普通の人である。この戦況が、全てを作ったと言っても良い。
 簡単に打ち捨てるほどの場所と、人。貴方方の為になるような情報があれば、いくらでも取引をして、この場所に留まり残る事などなかったでしょうねと、重い吐息がこぼれた。娘に、甘いものをありがとうございます。そう、男は頭を下げて暫くは顔が上げられなかった。
 震える肩を見て、啓吾は眉間に皺を寄せる。バグア。何所までも人の心を荒ませる‥と。

「三山のおっちゃん。助けたからにはちゃんと責任持って、最後迄2人の面倒見ろよ?」
 大規模作戦の為に飛びまわっているデラードはもうその場に居なかったが、基地に残っていた三山を捕まえると、開口一番、ノビルが僅かに膨れっ面をする。
「最後までは無理だ」
「無理っ!?」
「若いもんに面倒見てもらうのは、わしの方じゃろ」
「おっちゃん‥」
 穏やかな顔の中に厳しい目があった。
 囲い、庇う事が全てでは無い。ノビルもそれは解った。まあ、それなら良いかとも。
 生き延びる為には死力を尽くせ。生き残る為の地力をつけろと。そういう事なのだろう。
 この地へと移送任務をこなした時、初めて反バグアと親バグアの存在を知ったノビルは、釈然としていなかった。同じ人同士が何故争わなくてはならないのかと。理由は、きっと色々在る。それぐらいは解る。その答えは、戦いの果てに彼自身が見つけるのだろう。
 由梨は、瞳をゆるゆると瞬かせた。そのうち皆が笑って暮らせる日が来る、その為に今を生きて欲しいと、小さな少女と父親を見て思う。
「生き方は人其々、何の為に誰の為に生きるのか? それだけは確かに、な」
 誰もが真っ直ぐに生きられるわけでは無い。けれども、己が信念の元行動すれば、人は後悔が少なくて済む。その基準は人それぞれだ。きっと、助け出した男は娘の為に生きるのだろう。
 人の心の復興も、始まったばかりだった。