●リプレイ本文
何時もの様に、傭兵達は綺麗な軌跡を描き、蒼い空と海の狭間へと飛び出した。
目の前は、これまた何時もの様に、見慣れた敵機。
だが、見慣れた敵機といえども、油断する事は無い。
敵機の群れの中へと、傭兵達は踊り込む。
「‥‥わぁ‥‥たくさん居る‥‥あれ全部相手するんですよね‥‥? 僕で大丈夫かな‥‥」
ハミル・ジャウザール(
gb4773)がS−01H、15−20160≪ナイトリィ≫のコクピットで呟く。
この数の多さでは、すぐに混戦となるだろう。囲まれないようにしなければとも思う。何よりも、CWが多い。KVの数値が様々に規制が入り、非常に不味い状態である事が見て取れる。
フェニックスA3、雷轟丸。犬彦・ハルトゼーカー(
gc3817)が、ハミルの背後の死角をフォローしながら飛ぶ。
「後ろは任せてや。‥‥一つずつ確実に落とそか」
「‥‥ですね」
犬彦の言葉にハミルが頷く。
カラキアス(
gc7175)の空機明日とルティシア(
gc7178)のルーテシアが共に飛ぶ。
共にスカイセイバーだ。
「背後は任せますわよ」
上品な言い回しだが、有無を言わせない口調に、カラキアスは溜息を吐く。
朝起きたら、人手が足らないので支援に来いという張り紙があった。気が付かない自分もアレではあるが、ソレな鬼隊長の何時もの行動に嫌とは言えず。
「何?」
「何でもないです。背後はお任せて思いっきり暴れて下さい」
ふるふると首を横に振るカラキアス。
「さあ皆さん。スカイフォックス隊に負けないようがんばりましょう」
にこりとルティシアが笑う。
「ここを抜かせるわけにはいきませんね‥‥」
立花 零次(
gc6227)だ。シュテルン・G、夜桜が、ユーリー・ミリオン(
gc6691)のグリフォンと共に飛ぶ。
「了解。微妙な情勢で有るが故に、やるべき事を行って却って絆を深める様にしたいですね」
(ちゃんと団結式が行われる様、必ずや退けますね)
扮装の絶えない地域、インド亜大陸。対バグアという共通目的を掲げた団結式が、バグアに狙われるのは自明の理か。ユーリーは本部に上がった各所でのスクランブルを思う。
「そうですね。CWの数が多い‥‥先ずはそちらから」
零次は、ユーリーに頷く。
シュテルン・G、空飛ぶ剣山号を駆るエリアノーラ・カーゾン(
ga9802)通称ネルは、目の前に広がる敵機を見て軽く肩を竦めた。喧嘩にしろ恋愛にしろ、様々なもつれは、当事者以外の余計な介入は事態をより混迷に落とし込むだけである。
(ホント、デラードの言う通り、『無粋なお客さん』よね)
けれども。
当事者の一方が助力を願い出たのならば。
(‥‥だとしたら、不愉快ね。無粋っていうより、下衆よ、下衆)
ラサ・ジェネシス(
gc2273)は、フェイルノートII、Queen of Nightから仲間達が僚機と共に飛んでいるのを確認してひとつ頷く。
「行くでありますよ。皆、出来る限り無事で」
敵の布陣はこちらとの戦力差を埋め、戦況を有利に運ぶものだ。墜落の危機も視野に入れて、ラサ機はネル機と共に戦線へと踊り込む。
淡紅色した光の筋が、一斉に飛び込んだKVへと叩き込まれる。
その長い射程の攻撃は見慣れたものだが、全機、まともに受けた。
CWの怪音波が重複する。少しでも落とさなければ、KVの機能は命中率だけでなく、回避も落ちる。
傭兵達の機体がぶれる。
未だ、落ちるまでにはいかないが、大小の差はあれど、多くのKVがプロトン砲の洗礼を受ける。
「一機も通すわけにはいかんな」
遥か彼方には、団結式の行われる地がある。その地へと向かうのは、目の前の敵だけでは無い。ソルダード、暴姫『アクヒメ』天空橋 雅(
gc0864)は、僅かに目を細める。陸上でも傭兵の仲間が団結式を護る為に、それぞれの場所で戦っている。
「勝機は必ず来る、焦らずに耐える」
ここを──通すわけにはいかない。ぐらりと揺れる機体を立て直し、敵機の動きの解析を始める。
「それなりな規模ですね‥‥この後は式典の護衛依頼もありますし‥‥面倒くさいですね〜 」
やれやれとばかりに、住吉(
gc6879)が溜息を吐く。シュテルン・Gの回避は上がっているが、初撃が当たっている。機体の損傷を確かめると、防衛ラインを突破しようとする敵機がいればすぐに対応できるようにと気を配る。
「さあ、有象無象共。我等が蹂躙してくれよう」
スピリットゴースト、フレスベルグ。シリウス・ガーランド(
ga5113)が動じる事無く言う。
「先ず邪魔者から片付けるとしよう」
定石通り、最初に狙うのはCWだ。
今回は嫌に多く、バグアもただ、手数が多いだけの戦いに投じるだけでは無いのだろう。
「了解!」
ドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)のスカイセイバー、ウォード・スパーダが、独特のシルエットを大空に描き出す。
戦線は狭くは無い。
先に飛んだ時の、様々な思いが過る。ドゥは、ぐっと操縦桿を握り込む。
「この先は交通不能区域です、ってね‥‥!」
傭兵達の攻撃が始まる。
●
チラチラと光るCWへと砲火を集める。
だが、その合間にCWよりも足の速いHWが迫り、傭兵達の包囲網を抜けて行こうとする。
上に。下に。右に、左に。
「回避パターン予測更新、住吉機に転送」
雅だ。
フェザー砲、紫の光が住吉機を襲う。
次々に撃ち放たれるミサイルが、HWを襲うが、ダメージが通り難い。
「持久戦になりそうですね」
住吉が、顔色を変えずに呟く。
「‥‥入り乱れていますね‥‥」
攻撃の合間をぬって飛ぶハミル機。回避は苦手だが、防御が薄いのをカバーするにはかわすしかない。
交わしている合間に攻撃が仕掛けられる。集中砲火は避けているが、どうしても攻撃が入る。
「‥‥っ容赦なしですか‥‥まあ、こちらも‥‥ですが」
ハミル機の後方から犬彦機の攻撃がHWへと撃ち込まれる。ハミル機からライフルがHWを穿つ。一瞬、HWが揺らぐ。だが、深刻なダメージは負っていない。
犬彦機からもライフルが同じHWへと撃ち込まれるが、落ちるまでにはいかない。
「まだ、あかんか。しゃあない。もう少しがんばろか。あれ、落としてまおう」
「了解です」
ハミルが頷いた。
HWを相手取る仲間達の合間を抜けて行くのは、CWを狙いと定める数機。
「ひぇ〜CW多過ぎるからロックオン出来ない〜」
「さあ、ロックオン機能が回復するまで一気に行きますわよ」
カラキアスの悲鳴に、ルティシアの言葉がピシリと重なる。カラキアス機からライフルがCWを穿つ。その合間に、敵機へと迫るルティシア機からのアテナイが雨あられとなってCWへと降り注ぎ、重機関砲が追撃する。
ネル機がHWを引きつける。無数の細かいダメージが入ってはいるが、操縦不能には至っていない。
「ま、盾役はダメージヘイトもある程度稼げなきゃ生きていけないし」
紫の光線を受け流し、PCB−01、十式を撃ち放つ。弾丸の雨がHWの視界を奪う。ラサ機から、スラライの攻撃が飛ぶ。狙うのは駆動部と見られる部位だが、思うように当たらない。
「それならば、こうデス。必ず当てるデスヨ」
巧みに機体を揺らし、照準を再度合わせ、撃ち放った弾丸は、狙い通りHWの駆動部とみられる部位を穿つ。
各機傷だらけになりながらも、徐々にCWの数が減ってきていた。
それにより、HWへの一撃が重いものへと変わって行く。
空に、空間が大きくなる。
その合間をHWが抜け出ようとする。
「行かせるわけにはいきません!」
手傷を負い、低空へと逃れようとするHWへと、零次機がブーストをかけて追いすがり、ミサイルを続け様に撃ち込む。
ユーリー機も、合わせてブーストをかけて追う。二機の軌跡が空を割く。
「着実に‥‥」
ユーリー機からミサイルが撃ち放たれる。
「ここからは、我らも加わらせてもらうぞ」
酷い頭痛も幾分かは和らいでいる。長距離バルカンでCWを撃ち落していたシリウスが、ドゥに声をかける。
「ドゥよ、そろそろ標的を切り替えるぞ」
「了解! ご退場願うよ!」
ドゥはシリウス機と共に機首を返すと、目前に迫ったHWへとライフル弾を撃ち込み、キャノンを撃ち放つ。スキルを乗せた200mmを叩き込むのはシリウス。
HWに幾つもの穴が穿たれた。慣性制御が崩れ、瞬く間に失速し落下して行く。派手な爆発が眼下で起こる。
「減ってきたな」
犬彦が呟く。
「‥‥K−02‥‥発射します」
状況を良く見ていたハミルが声を上げる。
仲間達は、その射線を妨害しないようにと位置をずらす。
「こちらもいきますわよ。1、2、3、4、5ロック完了」
ルティシアが笑みを浮かべる。いけいけーと、カラキアスの応援が入る。
「ファイヤー」
二か所からHWを含むCW数体へとミサイルが飛んで行く。
何体かのHWはそれを避けるが、数体のHWとCWへ着弾。無数の爆炎が上がるが、HWは一撃は落ちない。CWは、何体かが爆炎を上げて金属片と化したが、数体が攻撃を耐えた。
「はいはい、行くわよーっ。頭痛もいい加減慣れたりしてるしーっ」
ネル機が突進し、傷を負ったHWへと、スキルを乗せたK−02を叩き込む。重い攻撃。先の攻撃で手傷を負っていたHWが、次々と爆炎を上げる。
頭痛になれてはいるけれど、クセになったりはしないんだからねとコクピットでネルが呟く。
「抜ける奴が、居るヨ」
ネル機の後方から攻撃を仕掛けていたラサが声をかける。
「嫌ね、相手にしてくれないってわけ?」
僅かに渋面を作るネル。
「回頭して、追いかけるヨ」
「了解」
ラサ機とネル機が、爆風を背に抜けて行くHWをターゲットに絞った。
空域は広い。
先に抜けようとしていたHWは、零次とユーリーが落としていたが、逆方向から抜けようとするHWが居た。
「いかな高機動とて、空間跳躍とは違う。住吉君、加速だ!」
「1番機の舞台を整えるのが、2番機の勤めですね‥‥邪魔する奴は海に叩き落として鱶の餌ですね〜♪」
「そういうのではないが、逃がすな」
「了解しました」
ブーストをかけた二機が抜け出ようとするHWを追い縋る。雅の的確な指示と行動が住吉をひっぱり、HWを追撃し、大きな爆炎を咲かせる。
HWは四方八方へと散った。
それを各機が、二機一組で追う。
CWは殆どが迎撃され、青い海と空の合間に散っている。
「さあ、みみっちいのはお片付しましたわ。そちらへ行きますわよ」
ルティシアが笑う。
「今回は負けません」
カラキアスがその後を続くが、二機はHWに追い付けない。
零次機とユーリー機が鮮やかな連携を見せて、ブーストをかけ、HWを追う。
HWが、くるりと向きを変え、フェザー砲を撃ち込む。
「っ!」
零次機が僅かに傾ぐが、操縦は可能だ。
「一機も抜かせないようにしましょう」
ユーリーが言う。
「もちろんだ」
零次が頷くと、二機は迫るHWへとミサイルを撃ち込んだ。
派手にヒットし、爆炎が上がる。飛行不能となったHWが、細かな爆発を続けながら、海へと落下していった。
「大丈夫ですか?」
「まだ‥‥いけるな」
「では」
「おう」
ユーリー機と零次機が次の目標を定めて、空を駆ける。
「いっかいこっきりやからな」
外さない。
犬彦がHWへとブーストをかけて迫る。変形スキルを併用し、さらにオーバーブースト改Aを乗せる。軽い金属音が響くと、HWの頭上で人型へと変わる。機槍、千鳥十文字を思い切り振りおろし突き刺せば、HWの動きがかくりとしたものとなる。温存してあったブーストで追い縋るハミルが、犬彦機の離脱の瞬間を狙ってミサイルを撃ち込んだ。
爆炎が上がる。
「うおっ?!」
「‥‥ハルトゼーカーさん‥‥! 大丈夫ですかっ‥‥?!」
爆風のあおりを食って、犬彦機が傾ぐ。が、ハミル機がフォローに回る。
「助かった。ありがとな」
「‥‥いえ‥‥そろそろ、練力が厳しい‥‥ですね‥‥」
「そやな、そやけど、そろそろ敵さんも、しまいとちゃうか」
一息つくハミルへと犬彦が謝意を示し、からりと笑った。
「抜けて行くのが目的って訳よね」
ネルが呟き、攻撃を
HWが向かうのは、ムンバイである。
ここでの戦闘では無く、かの地へと辿り着ければいいのだ。
CWが多いのは戦闘がバグアに有利に運ぶ為。
そして、戦いの合間に、HWが上下左右、開いた空間から、ムンバイへと一機でも多く抜ける為。
「そうは問屋が卸さないのデス」
ラサ機がスキルを乗せて伸びた射程で、機体の微調整をしつつ攻撃を叩き込んだ。
駆動部へ。
よっしゃとばかりに、ネルが飛び込み、ミサイルを発射する。
HWが爆炎を上げた。
「ふふふふ、インベーダー(バグア)が相手なら必殺の名古屋撃ちですよ〜♪」
年は幾つだという突っ込みは必要だろうか。住吉機から、スキルを乗せた攻撃がHWへと吸い込まれる。
その攻撃の合間に、HWへと接近するのは雅。
「この距離でMMG‥‥もらったぞ!」
M−MG60が、瞬く間にHWを蜂の巣にする。
すれ違い様、HWが爆発をする。それを後方に、次のHWへと、狙いを定める。
シリウスがHWへを照準を合わせた。薄く笑う。
「我が翼が運び行く風、受け切れるか?」
スキルを乗せた何度目かの攻撃がHWを襲う。鈍い金属音が響き、HWに穴が穿たれる。
ひゅっと息を吸い込みながら、スキルを乗せた攻撃を畳み掛けるように行うのはドゥ。
軽く手に汗がにじんでいる。
搭載武器にかかる思いに、深呼吸する。
続けざまの攻撃がHWの起動を止めた。ただの金属の塊となったHWは海へと吸い込まれるように落ち、派手な爆発を起こした。水柱が吹き上がる。
人類の希望を紡ぐための戦いはまだ続く。きっと。でもいつかは必ず終わりが来るはずだ。
それまで。
「‥‥それでいいだろ?」
ドゥは武器に乗せた思いの彼方へと、呟いた。
「ふぃ〜今回もハードな任務でした他も大変でしょうねぇ」
「ここでやれることはやりましたわ。後は他の担当の方々のがんばりに期待しましょう」
カラキアスに、ルティシアが頷く。
どのKVも、傷だらけだ。
機体操縦不能寸前のものも居る。
だが、二機一組でフォローしあい、危機的な状況に陥る仲間が居ないようにと互いに気を配った結果、堪えた。
お疲れさん。撤収だとのデラードの声がかかった。
空を覆う敵は全てが海に呑みこまれていた。
そろそろ、戦いも終わる。シリウスがドゥへと声をかける。
「付き合ってもらって助かった」
「あ‥‥いえ‥‥」
ドゥは首を横に振る。戦いに身を投じる理由はちゃんとあったから。
シリウスが何を言うでもなく笑みを口の端に乗せて頷く。
零次が、かの地を透かし見るかのように頷いた。
「なんとかなりましたか‥‥後は向こうの成功を祈りましょう」
団結式会場へは、辛くも敵機を通す事は無かった。
静かな空と海。
そして、インド亜大陸の団結式会場では。
ひとつの結末を迎えていた。