●オープニング本文
前回のリプレイを見る 近海の海は豊かで、無理をして厳しい海域で漁をしなくても十分な生活の糧を得られるからだ。
観光するにも遠く。結果として、振り返られなかった海域だった。
海軍ファラン・サムット少尉は、UPCタイ事務官ティム・キャレイ(gz0068)に依頼を頼んでいた。
「‥‥こちらが迂闊だった。改めて、傭兵に依頼を頼みたい」
「了解しましたの」
「事務官殿」
「はい?」
「傭兵達と仲が良いのは好ましい事だと思う」
「はいですの。皆様、良い方ばかりですの」
「ん、それは承知している。力量も十分な、好ましい傭兵達だと思う‥‥が」
「?」
「事務官殿が能力者だというのは、知っているし、万が一の場合は、事務官殿の手を借りねばならないのも十分承知している。だが、先の戦いで、空戦に事務官殿を引き込む理由を聞かされていない。私の所見であるが、事務官殿は万が一の為に艦の甲板にて待機されるに留めるべきではなかったか」
「! 軽々に出撃しましたのは、私に非がありますの。傭兵の方々は悪くありませんの」
「ん、すまんな。思った事は伝えておきたくてな。以後、考慮してくれると助かる」
「はいですの」
苦笑するファラン少尉は、そちらからも、何かあれば忌憚なく話してくれるようにとティムの肩を叩いて、海軍ドックへと歩いて行った。
「そんな訳で、私の不手際で申し訳ありませんでしたの。それ以上も以下も含みは無い事、ファラン少尉から伺っていますので、よろしくお願い致しますのっ!」
本部モニターで、ティムがぺこりとお辞儀をする。
「海域は、五つの小島のある場所で、小島は、サイコロの五を表すように点在しますの。その間隔は狭く、小舟がやっと通り抜け出来るかどうかですの」
海図が提示される。
島というか、岩のような、小さな島が五つ、海に浮かんでいた。
「タイKVが二機ロストしたのはこの島近辺。一機が粉々になって漂流しているのを発見しましたの。ですが、パイロットはコクピットの中には居ませんでしたの。それらしき血痕もありませんでしたの」
つまりは、一機は捕獲され、その小島近辺にあるかもしれず。
パイロット二名は捕虜となっている可能性が高いという事だった。
「非常にジャミングが強く、何か施設があるかもしれませんの」
とりあえずは、偵察が任務だという事だった。
「あー、あれや。保存食とかはぎょうさんあるさかい、適当に食べてや」
タイ軍パイロット二名は、一部屋ずつ、離れた場所に監禁されていた。
薄暗い廊下の端と、比較的明るい場所の二か所だ。
トイレはあり、何故か保存食が棚に詰まっていた。
トカゲ のようなバグアが、やれやれといった風に、首を横に振る。
頭から背中を通ってヒレがあり、尾が伸びている。
バグアの仲間の集まる一角へと、捕虜に食事などの説明をしていたものが戻ると、五体が顔を突き合わせる。
パッと見、トカゲのヒレ付きのような姿だが、みっちりと青緑の鱗で覆われ、白銀の腹は固そうな皮膚。ぽっこり出ている奴やぱっくり腹筋の割れている奴やら太め細めと様々に居る。
全てに共通するのは口調と、その丸い大きな魚のような目だ。
身長は高低差はあれど、おおよそ130cm程だろうか。尾は足よりもわずかに長いぐらいだ。
「難儀やなあ」
「まああれや。人質とったさかい、いきなりミサイルで攻撃してくる事は無いやろけど、激烈に戦い上手やな、あいつ等、バグアもびっくりや」
「まああれや。所詮地球人や。海中では行動が制限されるはずやからな。十分時間をもろたら、反撃やな」
「せやな。この場所さえ無事やったら、かなりな痛手を与えられるさかい」
この場所。
岩の様な島の海底の、とある場所に、キメラプラントが設置されていた。
彼等が何時も使うキメラはここで量産されていたようだ。
牡羊座が手を出したタイを見張るという名目で、復興するタイを横目に、バグアも一つの基地を作り上げていたのだった。
●リプレイ本文
「自己満足かもしれないが‥‥」
煉条トヲイ(
ga0236)の謝罪を受けたファラン少尉は、やれやれといった風に首を横に振った。
「それこそ、必要無いと言わせて頂こう。これからの貴君らの活躍に期待をしている。報酬分きっちりと」
そう言うと、からりと笑われ、トヲイは困ったように頷いた。
ひとつの戒めを胸に、仲間達の元へと踵を返し。
●
空と海に分かれた傭兵達は、問題の島へと到達していた。
穏やかな表情を僅かに曇らせ、リュティア・アマリリス(
gc0778)は手早くソナーブイを投下する位置をはじき出す。五つの島を三角形を描くように三基、投下する為だ。投下したソナーは後にタイ軍から補充されることとなる。タイ軍のデータベースから、目標海域の水深などは調査済だ。
(ロストした機体に搭乗していた方々の安否が気に掛かります、御無事であればよいのですが‥‥)
ジャミングが強い。
過去の体験から、こういう場所では奇襲を受けやすいものだと、リュティアは周囲の確認を怠らない。
(一機は捕獲されている可能性がありますわね‥‥)
偵察に向かった二機のKVのうち、残骸が発見されたのが一機。ならば、可能性は高い。
ディスタン、エオールからブイが海へと吸い込まれるように落ちて行く。
僅かに眉根を寄せているのはウーフー2を操る大泰司 慈海(
ga0173)。
(ティムちゃんのウキウキ☆タイライフを応援しようって思ってたのに‥‥)
深い溜息を零す。
(俺ってホントに反省ばっかりだなぁ)
落ち込む気持ちを振り払うように、操縦桿を傾ける。
依頼に取り組むことにより、返そうと心に誓う。
見つかったKVには、血痕などは見つかっていない。粉々ではあったのだけれど。
ならば、パイロットの生存はあり得るだろう。
慈海は遭遇した魚人系のバグアを思い浮かべていた。
遭遇する事が出来たならば、それなりに言葉で誘導が出来るだろうと。
確かに、遭遇すれば、何らかの言葉の誘導は可能だったが。
上空を飛ぶ慈海は首を横に振った。
「この偵察結果によっては軍が動くのでしょうか‥‥」
雷電、閃影の翼が、鮮やかな軌跡を描く。
ロストしたパイロットのデータを入手した辻村 仁(
ga9676)は、今は未だ穏やかな場所を見渡す。
「変わった形の島だよねー。何か秘密があるかも。トレジャーハンターとしてはわっくてかが止まらないよねん」
仲間達が機首を下げないのに首を傾げながら、ティルコット(
gc3105)は、ぐっと高度を落とした。
「足跡やら、Sosの合図、煙なんか無いかな。人がいたりすればきっと出すからねーん」
良い痕跡が見つかればとは思うが、ティルコットは、マイナスの痕跡も頭に入れている。
最悪な状況を想定するのは、トレジャーハンターとして諸国を回るうちに身についたものだろうか。
島が目の前に迫る。
「おいらは一陣の風になる。なーんちってー」
R−01COPの動きを確かめながら、何処まで負荷がかかるかを細かくチェックしつティルコットは視認出来る程になった島に視線を回す。
木々はざっくりと生え、タイ近郊の島々と同じような顔を晒している。
けれども。
何か引っかかる個所が見つかった。
上陸すれば、それが何かはっきりとしたのだろうが、何かカムフラージュされているようだ。
「全ての島に一か所ずつって感じかなー」
ティルコットが呟く。
「不自然に木々が揃っているようですね」
仁が頷いた。
島の内部に何か施設が無いかどうか、空洞などは無いかと目を凝らす。上陸すればある程度は判明したろうが、上空からでは解り難い。
「ジャミングは‥‥中心が強いようですが‥‥」
ジャミングが強く、熱源が特に強いのは中心の島。
「海中に振動がありますわ」
ソナーを配置したリュティアが、声を上げた。
●
リヴァイアサン、モービー・ディックを泳がせながら鯨井昼寝(
ga0488)は、先の戦いを思い返していた。
率先して戦う事をしないスタイルらしき魚人バグア達は、仲間達の布陣を抜けるに最適な方法で守るべき艦へと向かっていた。してやられたという思いが強い。
「どーんと行って攻撃しまくるのが良いんだけど‥‥」
「昼寝」
「わかーってるわよ」
物騒な気配と言葉に、トヲイが思わず声をかける。
もちろん、昼寝は気持ちはあるが行動に移す気は無い。
タイ軍パイロットが捕虜にされている可能性があるからだ。
熱い塊を押し殺すように、ジャミングの強い場所を睨みつける。
「生産工場の様な施設があっても可笑しくは無いな‥‥」
過去の戦いを思い返し、トヲイは島の下部へと借り受けたライトを当てる。
ロストしたパイロットの安否確認が第一だ。
「‥‥バグア側に機体が鹵獲された可能性があって、パイロットも捕虜になって居るかもしれないか」
厄介だな。
そう呟くのは威龍(
ga3859)。リヴァイアサン、玄龍が海中を滑らかに進む。
五つの島がサイコロの五の目を表す姿をして存在する座標は間近だ。
「うんうん‥‥怪しいところはめぼしついてるなら、かんたーん♪」
リヴァイアサン、レプンカムイで海中を進むオルカ・スパイホップ(
gc1882)は、軽く笑う。
少しだけ残念なのは、戦いはまだ先だという事。
「‥‥残念、トカゲ? さんと遊びたかったなぁ〜」
小さく呟く。
何をどう探すのか、見当もつかない。
ただ、傭兵達は発見されていない一機を探索する事が肝要であるという結論に達している。
ビーストソウル改、蒼騎士を泳がせる櫻小路・なでしこ(
ga3607)は、ティムへと空と海との仲間達の情報管制を頼んでいた。快諾したティム機は、傭兵達の邪魔にならない空域を飛んでいる。
(ミサイルによる被弾。そして、コクピット付近は引きちぎられたかのような破壊)
発見地点は、パタヤビーチ付近。いかにも見つけて下さいと言わんばかりの海域。その破壊状況をなでしこは反芻する。意図的に漂着させたと考えるに難は無い状況だ。
「‥‥まさか、島が稼働するとか言う落ちはありません‥‥よね?」
目の前に迫るのは、島影。
隆起する大地。
万が一稼働するのならば、迂闊に近寄るのは危険だ。
その兆しは無いかと、なでしこは目を凝らす。
「自然は凄いね。すごい島っ‥‥それともバグアが作ったのでしょうかね?」
まずは、その異様に感歎すると、オロチ、キューツーを泳がせるヨグ=ニグラス(
gb1949)は、声のトーンを僅かに変える。単独行動は控えた方がよさそうだと思う。タイ軍人がロストした海域。
「前に海底基地とか作ってたもんね」
戦いの記憶を思い返し、ヨグはこくりと頷く。
「今回もきっと何かあるはずですっ。まま、うまくカモフラージュしてるでしょうけど」
そう、見ただけでは、何がどうとははっきりとはわからない。
ただの奇景にしかみえない。
深さは、深海という程では無く、浅瀬というには深い。
小舟が通るだけの幅。つまりは、KV一機が通り抜けられるだけの幅が、五つの島‥‥海底では、五つの柱のようになっている海域であった。
「んと、ちょと、海底をこすってみますっ」
「OK、こっちは任せて」
ヨグは、仲間達に声をかけると、昼寝が答える。ヨグは愛機を海底にこすり付けるが、島外周にはなにも無さそうだ。島の間を通れば、何か違和感を感じる。自然の造形ではあるのだが、手が加えられているかのような。
それは、岩などで覆われているのを、ヨグが発見し、仲間達に合図を送る。
どうやら、中心の島から四つの外周の島へと向かう自然物では無い、何かがある。
「施設が存在するのなら、出入り口が何処かにある筈だ‥‥」
ぐるりと周囲を回るのはトヲイ機。事前に申請してあったカメラで周囲を映して回る。
「生身での潜入‥‥出来そうね」
昼寝が海流などを見ながら呟く。
「熱源らしき熱源は、中心の島?」
オルカが首を傾げた。
「あるな‥‥」
威龍が目を細めた。
島中心の海上寄りに、島下部を海の底からドーナツ状に囲うかのように、建造物がある。
その建造物は、島に半ば埋まっており、島と半一体となっていた。
●
ハッチらしきものが開いた。
傭兵達の合間に緊張が走る。
「上空、聞こえるか? 基地らしき建造物発見。そこから‥‥タイ軍のKVが出てきた」
威龍の声に、空を飛ぶ仲間達に緊張が走る。
なでしこがティムへと連絡を入れる。
「はろ〜はろ〜? 聞こえますか〜? 何で動けるのに通信してこなかったの〜??」
オルカだ。
事前にタイ軍に聞いていた符丁に返答は無い。威龍は、首を横に振る。
「撤退してもらおやないか」
何処かで聞いたことのあるような声に、オルカは笑みを浮かべつつ、声で演技をする。
「あの時のとかげさん?」
「せや‥‥あんな‥‥」
「くっ! それに乗ってるって事はパイロットの人はもうっ‥‥!」
「まてまてまてまてっ!! 聞けやっ!! パイロットは二名。生きとるさかいっ!」
その機体、嫌やなあとか、ぶつぶつ言う声が聞こえる。どうも、オルカの機体と声に反応して、焦っているようだ。戦闘したいとかで出てきたのではなさそうだった。
「で? 人質を取って、どうしたいわけ?」
昼寝だ。
「どうもこうもあらへん。人質おるさかい、むやみに攻撃したらあかんでー?」
「‥‥ヨリシロにするの? それとも、何か要求が?」
畳み掛ける昼寝。
「‥‥あんさん、仲間無視したお人やな?」
盛大な溜息が聞こえて、昼寝は軽く眉を上げる。
「で? どうなの。酷い扱いをしてたらただじゃあおかない」
バグア無視するなんて、えらい非道なとか、ぶつぶつ聞こえる声にさらに畳み掛けた昼寝。
「やめてんかっ! 地球人の捕虜の扱い程度にはきちんとしとるでっ!」
「どんな場所に、どのようにおかれていますか?」
なでしこだ。
「ま、あれや。一緒の部屋には置けんさかい、離れた部屋で」
それ以上は具体的に質問をしなければ、答えは返りそうもない。
「捕虜としたのなら、人類側に対して何らかの要求があるのだろう?」
トヲイが問いかけるが、鼻で笑う気配。
「‥‥攻撃をするな。それだけ?」
昼寝は怒りを胸に抑えて、勤めて平静に聞けば、そうだという返事が返る。
何の為に。
「でも、いつの間に作ったの、凄いねぇ‥‥何ができるの、ここっ? どれくらい収容できる広さなのかなー。敵が来ても余裕な感じ?」
空から会話に入るのは慈海。
きぐるみとバグアの区別もつかんどあほうかと、再び鼻で笑う気配がした。
「ええやろ。キメラばんばん製造出来るねん。ほぼ、生活空間は無いんやけど、わしらは海がありゃ、それでええさかい、問題ないねん‥‥ちゅうか、来られたら嫌やから、人質取ったんもわからんのか、どあほう」
盛大なぽろり。
慈海はくすりと笑い、すごいねえと続ければ、すごいやろという返事で、慈海は笑いだすのを堪える。
パイロットの生存は確認出来た。
「‥‥追撃は‥‥無さそうだな」
帰還する傭兵達の背後から撃つ気配は無い。
威龍は、何時でも攻撃に移れる様に気を配りながら、仲間達の後を追う。
「助けられるかどうかは二の次。嫌な言い方だけどパフォーマンスが重要‥‥ってほどでもなかったわね」
あまりにもあっさりと。
昼寝は魚人バグアのめでたさ加減に、溜息を吐く。
あれにやられたのかと思うと。
カメラを申請していたトヲイだけが、海中の写真を持ち帰る。
会話をしていた内容やデータをヨグは纏める。
「自分達で助けたいとか思ってるかもしれないですしっ」
報告はタイへともたらされ、ひとまずの決着を見た。
基地の概要は、中心の島の海中に島を囲むような施設。
そして、中心の島から、海底を通り四つの島へと何かがあるという事。
上空から確認出来たのは、不自然な箇所がどの島にもあるという事。
人質の扱いは良さそうであり、別々の部屋に拘束されているという事。
魚人バグアの秘密基地であった海域の概要は知れる事となったのだった。
しかし、細部まではどうしてもわからない、どう突入するか。
さらなる偵察が必要になるのは必至だった。