タイトル:光輪〜挟撃の海域マスター:いずみ風花

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/02 20:22

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


「では、よろしく頼む」
「はいですの。護衛はばっちりですの」
 海軍ファラン・サムット少尉へと敬礼を返すのは、UPCタイ事務官ティム・キャレイ(gz0068)。
 つい先日、小型HWを二機、ほとんど無傷のままサルベージに成功した。
 その解体が済み、北の大作戦もひと段落した。
 慣性制御装置を空母へと搭載し、スリランカ近海へと移動中の三番艦轟竜號へと輸送する任務だ。
 陸路を通り、アンダマン海に停泊している軍艦へと移送が終了している。
 後は、そのまま海上を突っ切るだけだ。
「先日の事もある。空海と妨害は予想されるだろうな」
 ファラン少尉は、小さく溜め息を吐いた。

 何時もの様に、海洋迷彩の水中仕様HW五体とぷかりと海上に浮かんでいるのはトカゲもどきのバグア。
 水棲種族をヨリシロにした彼等は、水の中の方が居心地が良さそうだ。
「妨害、言われたら、妨害せにゃあかんやろけど」
「キメラ出して船底に穴開けたったらええやろ」
「せやなあ。あいつら来るんやろうな」
「ヨリシロにしたら良さげな奴等ばっかりやったなあ」
「せやな。一機づつばらけさせたらええんやけど、わしらの倍は居るし」
「空から攻撃させよ。何機か使うてもええ言う話やったやんか」
「せや、せや。キメラとHWとCWで行こか」
「多少無理しても、傷ひとつぐらいは負わさんと、報告も出来んさかいな」
 下っ端バグアなりに、懸命に考えた作戦であったが、厚い布陣であった。

「ベンガル海を行く空母に乗艦し、護衛をお願い致しますの」
 本部モニターに、ティムの顔が映った。
 タイからの依頼だ。小型HWの慣性制御装置を三番艦轟竜號へと運び込む、空母護衛を頼まれた。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
辻村 仁(ga9676
20歳・♂・AA
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
住吉(gc6879
15歳・♀・ER

●リプレイ本文


 敵機接近。
 警戒態勢に入った空母から、護衛にと同乗していた能力者達が、次々と持ち場へと散って行く。
「母艦を傷付けさせる訳にもいかなねえしな。全力で任務に当たらせて貰う事にするぜ」
 威龍(ga3859)が、にやりと笑い、海中へと、自らの名前を冠したリヴァイアサンを海中踊り込ませる。
「ん〜、上は大火事、下は洪水‥‥そんな感じですか、面倒ですね〜」
 空と海からの強いジャミングと聞いて、住吉(gc6879)は首を横に振った。
 シュテルン・Gが、鮮やかな軌跡を描いて空へと発進する。
「さて目をつけられたかね、くっくっくっ‥‥」
 先日のバグアを思い出して軽く肩を竦めると、錦織・長郎(ga8268)は、オロチ、ケツァルコアトルで青い海の中を進む。コミカルな姿をしていたが、バグアはバグアである。戦うのは吝かではないと。
「しゃらくさい」
 眉根を軽く寄せた鯨井昼寝(ga0488)は、そう言い放つと、リヴァイアサン、モービー・ディックを海原に泳がせる。
 昨日、ふざけたバグアを見た。彼等の仕業だと昼寝は思う。それは良い。
 昼寝が問題としているのは、こちらの実力を測った戦いを仕掛けた事があるくせに、この程度の戦力で再戦を仕掛けた事である。空母を完膚無きまでに撃沈するのならば、この程度では無理だとわかるはずだ。再びの様子見の戦いに、昼寝は酷く怒っていた。
「以前の任務でこちらを窺っていたHWが居ましたし、気を引き締めて任務に望むことに致しましょう」
 サルベージを思い出し、リュティア・アマリリス(gc0778)が穏やかに笑う。アルバトロス改、ラグが、仲間達の後方から海中を進む。
 空へと飛び立つディアブロ、シヴァ。如月・由梨(ga1805)は、目を細めて笑みを浮かべる。
「前回のサルベージの時と違って、今回はもっと派手にちょっかいを掛けてくると思いますが‥‥」
 戦いの気配に心が躍る。
 何事も無い航海が良いのだろうけれども、それはつまらないと心の奥で呟く自分も確かにいるようだと。

 当然の事と、快諾された空母の攻撃。
(近寄らせませんから)
 ビーストソウル改で、海中で迎え撃つ仲間達の前衛を進みながら、櫻小路・なでしこ(ga3607)は艦でのやりとりを思い返し、頷く。
 慣性制御装置を積んだ空母の護衛。運ぶ物は違うけれど。大泰司 慈海(ga0173)は、過った記憶に首を横に振る。護送すべきだった人は、もうこの世にはいないであろうことを漠然と感じている。その当時、共に戦った仲間も数名、また、同じくこの地で同じ任務についている。様々に流転した運命。
 ふっと息を吐き出すと、何時もの笑顔で顔を上げた。
「懇親会には関西弁の変な偵察がいたから、何かくるとは警戒しておかないと‥‥ねっ」
「はいですの?」
 何時も会うのは電卓を握りしめたティムが誘う援助系の依頼。けれども、今回同じくKVにて出撃をする。その様を見て、慈海は笑う。外見年齢は若いのだけれど、果たしていくつなのだろうかと。
「何でもないよー。がんばろうね」
「本来なら俺達だけで対応しなければいけない所を‥‥無理を言ってすまない」
「あ、ぜんぜんですのっ」
 煉条トヲイ(ga0236)が、ティムへと謝意を示す。
 足を引っ張らないように頑張りますと、ティムが自機ロビン、青の駒鳥へと向かう様を、ファラン少尉は苦笑で見送っていた。
「事務官殿を艦の守りに置くでもなく、空戦に駆り出すというか‥‥仲が良いのは良い事だが」
 こういうやり方は嫌いでは無いが、戦いの手段は択ばないという訳か。
 そう呟くファラン少尉の目は笑ってはいなかった。
 雷電、閃影で空へと飛びだした辻村 仁(ga9676)は、含みのあるファラン少尉の言葉を思い返していた。
 空母はそれなりの迎撃力は持つが、能力者の操るKV兵器ほどの威力は無い。
 現行のタイ軍のKVは調整中だ。傭兵達が確実に敵を迎撃すると信じていても、唯一の橋渡しである事務官までが空へと向かうとなれば良い気はしないのかもしれない。
 もちろん、彼等なりに戦いへ向かう覚悟は決めているのだが。
 仁は空から小さくなる空母を僅かに振り返った。


 チラチラと光るのはCW。その光を反射して迫るHW。
「残念だけど、お帰りいただくよっ」
 慈海機はスキルを発動し、ウーフー2によるジャミング中和を開始する。
 HWからの一斉砲火。
 淡い紅色の光線が、青空に何本もの長い軌跡を描く。
 敵機へと向かって行く傭兵等に、そのプロトン砲を避ける者は誰一人として居ない。
 激しい衝撃が、KVを揺るがす。
 トヲイ機は、幾つもの砲火をその機体に受けてもビクともしないが、着実にダメージは蓄積されて行く。
 数機の攻撃では無く、HWが突進してきつつの、立て続けの総攻撃。
 住吉機、仁機は、幾分かダメージが大きそうだが、飛行不能までは未だ間がある。
「HWの攻撃が空母に届く前に、ケリを着ける。――行くぞ‥‥!!」
 トヲイ機が、当たるを幸いと空を飛ぶ。
「相変わらずプロトン砲の射程は長い‥‥という事ですね」
 仁が溜息を吐きつつ、K−02小型ホーミングミサイルでターゲットを固定する。五つの光点が絞られ、撃ち放つ。そして、続け様に、47mm対空機関砲、ツングースカ、試作型スラスターライフルを撃ち込めば、数個のCWが破片をまき散らす。HWへの攻撃は通り難い。だが、ダメージは入っている。
「レーザー系兵器は使用タイミングに要注意だ。ジャミングが強い間は当てにはするな」
 ブーストをかけて迫ってくるHWへと、やはりブーストをかけて迫るトヲイ機。スキルを上乗せした攻撃がスラライから放たれる。狙うのはHWだ。重い攻撃がHWを穿つ。HWから、フェザー砲が放たれる。紫の光線がトヲイ機を襲うが、気にせずにそのままぶち当たる。剣翼がHWへと派手な音を立ててめり込んだ。
 由梨機がブーストをかけて敵真正面に踊り込んだ。奥に残るCWを狙う為だ。HWからの光線が由梨機を襲うが、その光は鋼の機体に弾けて消える。ダメージは入ってはいるが、軽い。
「‥‥この程度では落ちませんよ」
 薄く笑う由梨。K−02が、立て続けに撃ち込まれる。
「あら、こっちに有人機はいないのですか‥‥面白くないですね」
 つまらなそうに、由梨が言う。
「インド洋でのバカンスを邪魔する輩は鱶の餌にしてやっちゃいますよ〜」
 住吉だ。CWは、ほぼ撃ち落されている。
 127mm2連装ロケット弾ランチャー、84mm8連装ロケット弾ランチャー、十式高性能長距離バルカンが一体のHWを狙い撃ちにする。後方から、SライフルD−02が飛ぶ。ティム機だ。慈海機から、ホーミングミサイルD−01、UK−10AAMが飛ぶ。
 唸るような弾丸の嵐が、空で迎撃をするKVから、敵機を襲った。
 瞬く間に、CWは破壊され、半数のHWが空へと爆炎の花を咲かせる。
 ふらつきながらも、飛行するHWが二体、その角度を変え、低空へと向かおうとするが。
「ふふふ、やはり無誘導兵器(ロケット弾)というのはロマンがあります、しかも大口径ですとロマンも威力も二倍な気がしますね〜」
 機首を返した住吉機から、ミサイルが発射される。仁機がK−02で追い打ちをかける。
 HWは、傭兵達の攻撃をものともせずに、手傷を負いながらも、目指しているのはやはり空母。
「まったく、自爆兵器だなんて! 心臓に悪過ぎますよ!」
 笑みを浮かべつつ、楽しげにHWをロックオンする由梨。
 ブーストで追い縋るトヲイ機から試作型リニア砲が発射される。
 空での迎撃は圧勝だった。
「昼寝達――海戦班は大丈夫だろうか?」
 トヲイが遥か後方の海中を透かし見るかのように視線を投げかけた。
 

 海中でも、空戦が始まると同時刻、戦いが開始されていた。
 押し寄せるキメラ。
 そして。
 寸前までキメラに紛れて、確認が上手くいかなかった敵機が二手に分かれた。
 中央を突破しようとするキメラ群。
 そして、その中央のキメラ群を囮に、左右に分かれて行く海洋迷彩を施したHW。
 まるで真正面から当たるのを避けるかのように。
 その情報は、空母管制から、海中の傭兵達へと伝わる。
熱源感知型ホーミングミサイルを撃ち放った昼寝は、その情報を受け取ると不愉快そうに眉を顰めた。
「ふざけた真似を‥‥」
「一応は、考えているという事でしょうか、どう‥‥追いましょうか」
 なでしこ機からは、M−042小型魚雷ポッドが発射され、派手な爆発をキメラに起こしている。
 以前同じ状況下では、手数の多い仲間が迎撃をしていた。
 だが、今回前衛に出たなでしこ機と昼寝機は手数が秀でているとは言えない。
 昼寝機、なでしこ機が、抜けてくるキメラを水中用ガウスガンで、狙い撃つが、どうしても抜けて行く。
「かなり数が居るようですね、気を引き締めて掛かりませんと」
 後方に位置するリュティア機が、抜けて来たキメラをM−25水中用アサルトライフルで狙い撃つ。
「キメラは‥‥これで全部かっ?!」
 抜けて来たキメラへと、M−042小型魚雷ポッドを撃ち放った威龍が目を眇める。
 狙いをつけて、ガウスガンを撃ち込む。
 後方に位置している長郎が仲間達へと、二手に分かれた敵機情報を流す。
「ジャミングの強いのは、艦右上方向へ向かった機体だね。艦の左下方へと向かった敵の方が手薄であるようだよ」
 なでしこ機と昼寝機がキメラと遭遇した瞬間、強いジャミングがキメラの群れから離れた。
「僕はジャミングが強い方向へと向かおう」
 威龍機がリュティア機と合流し、機首を返して戻る昼寝機となでしこ機が長郎機へと合流しようと動く。

「空母には近付かせません、御掃除致します」
 リュティアだ。多連装魚雷エキドナが、次々と海中に射出される。威龍機から、M−042が発射される。
「射線を気をつけなければいかんな」
「ええ。‥‥にしても、反撃してきませんね」
「こちらの防衛線を抜ければ、空母が丸裸で待っているという事だ」
 威龍機と、敵機はほぼ同じ足の長さだ。スキルを乗せる威龍機。
 攻撃を仕掛ける間に、距離を離されるのは業腹だ。
 向こうも、キメラを盾に僅かに迂回をしている。かろうじて艦とHWの間に割って入る事が出来た。
 プロトン砲が威龍機へと叩き込まれる。
 リュティア機が、横合いから、再び魚雷を撃ち込む。
 威龍機からのミサイルが、HWを襲う。激しくHWが傾いだ。爆炎が上がる。
 HWから、魚雷が海流を巻き込み威龍機へと発射される。
 下方向から向かうHWへと、艦からミサイルが発射される。
 HWはそれをかわす。
 かわしたHWへと、威龍機が攻撃を仕掛ける。
 その前に、フェザー砲が威龍機を直撃する。手数が多い。だが、威龍機はさしたるダメージは受けない。
「っ。逃げるか‥‥」
「追いますか?」
「‥‥空母の守りが任務だからな」
 リュティア機と。威龍機は、空母下方を辛うじて守り切った。

 ニ筋のプロトン砲が、海中を突き抜ける。
「‥‥中々小癪な手を使うね‥‥トカゲ君達」
 どのHWも同じような色合いだ。どれがジャミング強化型か。長郎は見極めようと動く。
 そのHWの後方から、海流をかき分けるかのように、急ぎ戻る昼寝機となでしこ機。
 ミサイルが発射される。
 長郎機は、M−042を発射する。
 合わせて、後方からの攻撃がHWへと叩き込まれる。
 一体が、爆発を起こす。
 その間を抜けたのが二体のHW。足の速さは、昼寝機がHWよりも僅かに長い。追いつける筈だ。
 追う長郎機からガトリングが撃ち込まれる。
 抜けたHWは、さらに二手に分かれた。
「‥‥あいつらっ!」
 より、空母側のHWを射程に捉える。なでしこ機が、もう一体へと追い縋るが、距離が足らない。
「敵機接近。防衛範囲を抜けました」
 なでしこ機が、空母へと示し合わせたコールを送る。
 空母から、ミサイルが発射される。
 昼寝機が攻撃を仕掛ける。
 HWから、プロトン砲が空母へと延びる。
「っ!」
 ミサイルが爆発した。
 その爆炎がしばし海域を揺らす。
「艦を抜け、ニ機が、タイ方面へと逃走‥‥だね」
「離れて行く分は、今回は見送っても構いませんでしょう。それよりも‥‥脱出ポットがあったようですが」
 探すには難ですねと、小さくなでしこが息を吐き出す。
 些細な状況も見逃すまいとしていたなでしこは、爆発した迷彩HWから脱出ポットが射出されたのを確認していた。この分だと、反対側で落ちたHWからも脱出されているだろうとなでしこは思う。
「次は‥‥無い」
 昼寝がギリと、奥歯を噛みしめた。
 
 三番艦轟竜號が見える。
 巨大な姿だ。
 そのひとつの甲板へと、慣性制御装置が運び込まれた。
 それは、そのまま、三番艦轟竜號の強化へと繋がるだろう。
 その様を見送りながら、ファラン少尉は安堵の溜息を吐いていた。
 タイがようやく、UPC軍の役に立つ日が来たのだという、最初の任務だったからだ。
 空母甲板には、大小の差はあれど、戦い終わったKVがずらりと並んでいる。
 空母には被害と言えるほどの被害は無かったが、一度ドックへと入らなくてはならない。
 三番艦轟竜號からフィードバックされた情報などを元に、艦強化をしなくてはならず、調整の終わったタイKV部隊とも合流しなくてはならなかったからだ。
 傭兵達と事務官が歓談する様を見て、ファラン少尉は、軽く首を横に振った。
 その顔には穏やかな笑みが見て取れた。
 
 海洋迷彩HWが逃走した方角を調査した部隊が全滅をしたという情報が、やがてもたらされる事となる。