●リプレイ本文
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「ゆーぴーしーの兵隊を助けるのじゃな? うむ、わらわに任せておくのじゃ♪」
依頼を見て、正木・らいむ(
gb6252)が、頷いた。
目標地点は、極寒の原野だった。
凍てつく外気は、冷たいというよりも、痛い。
(通信から考えればこの付近のはずですが‥‥くそ、間に合って下さいよ‥‥!)
秦本 新(
gc3832)だ。
キンと凍った大地をジープとAU−KVが走る。
寒冷地での戦いは、幾度目になるだろうかと、國盛(
gc4513)は思う。
救出に向かうのは一般兵だという。國盛は、小さく息を吐く。
自分達傭兵がどう見られているのかが気にかかるが、まずは戦いに集中しなくてはと武器を握り込む。
凍った原野の先に、光る物体が小さく見えた。CWだ。
アクセルをふかすと、エルト・エレン(
gc6496)はCWが急接近するのを見て眉を顰める。頭痛が襲って来たのだ。
(大怪我したりしないといいな。あと、怪我する人も)
ふわりと、燐光がエルトの身体から零れ落ちる。
『早いとこ助けましょうね』
燐光が光の文字となってエルトの頭上に浮かんだ。
四角い光が雪原を反射して迫る。
「――邪魔だ。退け‥‥ッ!」
ジープから飛び降りると、煉条トヲイ(
ga0236)はCW目がけて走る。
手にする爪、シュナイザーのSES排気音が僅かに甲高く排出される。右目が金色に輝き、右半身に淡く光る真紅の紋様が浮かび上がるトヲイの身体が僅かに発光する。スキルを上乗せした歴戦の力が爪に乗って目の前のCWへと叩き込まれる。
朧 幸乃(
ga3078)が、トヲイへと魂の共有を発動させる。
唸りを上げて後輪が軽く横に流れ変形をする。
「‥‥」
國盛の攻撃がスキルを乗せて叩き込まれる。
脚甲インカローズの朱色が僅かに雪に色を乗せ、CWへと吸い込まれる。
「邪魔を‥‥! どけっ!!」
新は、AU−KVを装着すると、和槍鬼火を構え、攻撃を叩き込む。スキルが上乗せされた一撃に、死者の声とも呼ばれる快音が、振るった槍の軌跡を追うかのように響き渡る。
「救出班、救出にいけるなら先に行ってくれ。此方は受け持つ」
AU−KVを装着した月城 紗夜(
gb6417)の手にするのは蛍火。対ワーム用に開発された白刃が光る。
スキルを上乗せした攻撃。
空を裂く刃が、縦に、斜めに。星を描くかのように切り込まれる。
「補給部隊のピンチに颯爽と僕、参上! ‥‥っ!! まずはこいつらなんとかしないとね!」
明神坂 アリス(
gc6119)の背に、妖精を思わせる4枚の光の羽がふわりと揺れた。
「そっちが狼なら、こっちは龍だっ! 行くよ、ジャバウォック!」
AU−KVバハムートをアリスは装着完了した。
『‥‥そういえばCW生で始めて見た気がする』
エルトの頭上に光が文字で舞う。
「‥‥突っ切るわ‥‥救助に回る人は‥‥乗って‥‥」
CWの光が消える。
軽い足音。
四角い障害物として動きを止めたCWを乗り越えるかのように、CWの上から、狼キメラの姿が現れた。
ジープを操る幸乃が、CWを迂回するようにハンドルを切る。
CWに一撃を入れたトヲイが走り込み、ジープへと飛び乗る。
『落ち着いて‥‥援軍よ‥‥合流します』
幸乃が無線でUPC兵士へとこちらの合流を伝えるが、すでに激しい戦闘となっている。
返答の間は無さそうだったが、こちらの意思は伝わった。
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抜けて行く仲間達と同時に、狼キメラとの戦闘が始まっていた。
「敵が多いうちは敵を包囲しろ、牽制は傭兵側に集めるように。殲滅する!」
紗夜が、飛び込んできた狼へと、地を掠めるかのように刃を上空へと振り抜き様に、蹴り上げる。
何時でも牽制に超機械を出せるようにと、迫る狼へと刀を構え。
「わらわは、雪狼班じゃな。皆のもの、よろしくたも♪」
らいむがハミングバードの細い刃を軽く振りつつ、キメラを見上げると、にこりと笑い。
「さて、わらわが来たからには、チイカというもの。敵をやっつけるのじゃ!」
千人力。読み方をちょっと変えるとチイカ? らいむは千人力ときっと言いたいはずである。
「蝶のように舞い蝶のように刺すのじゃ!」
語彙は豊富のようだが、微妙に違っているのはらいむは気が付いていないが、きっとそれでOKである。
スキルの乗った攻撃が、飛び込んできた狼キメラへとざっくりと入る。
素早い動き。國盛は、その足を生かし、狼キメラを翻弄する。
唸る足技が、飛び込むキメラへカウンター気味に入り、キメラが吹き飛んで行く。
「狼キメラとなれば‥‥連携してこないとも限らんな」
目を細め、周囲を見回す。
小銃S−01で狼キメラを牽制していたアリスは、飛び込んでくるキメラに湾曲した黒い刀、蛇剋を振り抜く。
「何か、向こうにちょっと違った奴いるねっ!」
全てが紅い目をしたキメラかと思えば、UPC兵士を襲っている中に、金色の目の狼を認めて、アリスが叫び、そのスキルを乗せた動きで、瞬く間にUPC兵士達を助けに向かった仲間達へと合流を果たす。
「よし」
「だな」
紗夜と、國盛が、仲間達を援護すべく超機械をUPC兵士達を囲おうと動く狼キメラへと向ける。
「‥‥金色の眼の雪狼が一体。あれが『頭』か?」
トヲイがアリスの声で、一体だけ変わった瞳の狼キメラを認める。
「――ならば。奴を潰せば、群れの統率を崩す事が出来るかも知れない」
トヲイは、ジープからすぐに飛び降りれるようにと、腰を据えた。
バルカンが掃射され、銃弾の音が響いていた。
トラックが急発進をして、狼キメラを惑わすように動いている。
その奥には、CWがもう一体。
狼キメラを切り抜けUPC兵士達へと辿り着く。
新は、スキルを連続で発動させ、真っ先に兵士達と合流していた。
敵と味方の位置関係を把握すると、後方へと回り込もうとする狼キメラへと向かう。
(誤射‥‥気を付けないといけませんね)
飛び込んでくる狼キメラ。また、嫌な頭痛が襲うのに軽く眉を寄せ。小銃フォーリングスターで狙い撃つ。
エルトは、一体、光るCWへと向かい走り込むと拳銃ヘリオドールを撃ち込む。
虚実空間を展開するのは幸乃。
だが、数が多い。手近な狼キメラへと向けるが、効果はあまりないようだ。
カチカチと、空撃ちの音が聞こえる。
気を張っていた新が、その音の方角へと向き直り、狼キメラを狙おうとするが、軍人達と混戦になっている。
「‥‥」
得物を刀に変えると、走り込む。
金色瞳の狼を相手取っているのはトヲイだ。
幸乃の援護を受けて、飛び込んでくるその狼を渾身の力を込めて叩き伏せ。
CWが浮かび上がれば、その移動距離は生身では追いつくのが難しい。
エルトがダメージを与えていたが、足らない。
走り込んできたアリスが銃弾を撃ち込む。
手の空いた新が、それに続く。
エルトが何度目かの攻撃を叩き込めば、浮かび上がりかけたCWが、ようやくその機動を止め、ただの塊と化した。その頃、狼達の全てが、雪原を赤く染めて居た。
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『お疲れ様です。災難でしたね』
そう、文字がエルトの頭上に浮かぶのを見て、補給部隊の兵士達は顔を見合わせた。
「よくぞ生きておった、褒めてつかわすのじゃ♪」
らいむが、えへんとばかりに、屈託の無い笑顔を向ければ、その小柄な姿に目を見張られる。
「死んじゃうのはヤなことじゃしの、本当に良かったのじゃ。疲れたであろ。飲み物、飲むかえ?」
持参した牛乳などを差し出せば、笑みの中にも、かみ砕けない微妙な表情を見てとる。
「‥‥む。どうしてそなたら、微妙な顔をしておるのじゃ?」
部隊をとりまとめつつ、兵士達は困ったような笑みを浮かべた。
ジープの運転席に陣取り、幸乃は撤収を待っていた。
これは仕事だ。
最近の傭兵に対する一般兵たちの風当たりは承知しているが、取り立てて何をするという事も無いと思っている。
ただ、すべきは言葉では無く、行動のみであると。
同じように、トヲイはジープに乗り込んで、何か話をしようとする仲間達を待っていた。
一度失った信頼は、行動で示すほかは無いと思っている。
戦場で、一般兵にとって傭兵よりも死は遥かに近い。
「俺にとっては、一般人も、一般兵も守るべき存在だ‥‥」
目を細めて溜息を吐くトヲイ。
彼らの分のリスクを少しでも軽くし、その分を自分が背負えるようにと戦っているのだからと。
「‥‥そうでなければ。能力者になった意味が無い‥‥!」
「‥‥そういう‥‥事です‥‥ね‥‥」
文字通り、行動のみで示そうと。
しかし、言葉を欲している場合も確かにある。
孤高の魂を持つ一般兵は多くは無いのだ。
「傭兵を‥‥恨んでいるか‥‥?」
珈琲を差出しながら、國盛が問えば、顔を見合わせられる。
「やはり、信用できませんか。‥‥我々の事」
負傷した者の手当てをしつつ新が言う。
強化人間の扱いを巡り、様々な場所で、様々な議論が起こっている。
そして、この地でも。
「強化人間の扱いは‥‥、正直、私も分かりません」
助けたいと願う者も、そうでない者も。
それは、きっと十人いれば十通りの答えが出る事だから。
「僕はお馬鹿だから難しいことは分かんないけど‥‥ケンカするよりは仲良くしたいよね?」
アリスが、はい、出来たと、救急キットで負傷した兵士の手当てを終えて首を傾げる。
「税は戦わせる為であり、我々は力と命を差し出せと求められる。能力者の個などどうでもいい、都合が良ければもてはやし悪くなれば罵倒する。人権など無いな」
紗夜がふんとばかりに苦笑すると踵を返す。
人類が何を期待し、何を傭兵に求めているか。傭兵となった時点で、それは相身互い。
AU−KVのエンジンをふかす。
「言い訳はない、我の言葉と行動をどうとるかは自由だ」
時間の許す限り、紗夜は目的地まで護衛をするつもりであった。そんな事は口には上らせないけれど。
國盛が軽く首を横に振る。
「今、目の前で起きたことが全て、だ‥‥俺達は俺達に出来ることをする‥‥それだけ、だ」
「信じてくれ、とは言えません。‥‥行動で示しますよ、我々が貴方達の味方であると」
また。そう言外に告げ、新が笑みを浮かべる。
「‥‥ってことで、僕としてはお互いムツカシイ顔したまま、はいさようなら、じゃなくて」
アリスが兵士達に手を差し出した。
「お疲れ様でしたって笑顔で解散したいところなんだけどね?」
「わらわたちは仲間であろ、仲間と一緒だったら笑うものじゃぞ?」
「了解だ」
部隊長がらいむへと破顔し、アリスの手を取った。
途端に、緊張が緩み、兵士達に普通の笑みが広がった。
極北の戦線の一か所では、補給部隊を救出し、心を砕いてくれた傭兵達への信頼度が格段に上がり、士気が上がっていた。傭兵は、自分達の仲間だと、信じていいのだと。
それは前線で戦う兵士達にとって、何よりも心強い温かい補給であった。