●リプレイ本文
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戦力が分散された。
それは、本作戦の囮部隊の活躍による。
北九州の北端にある芦屋基地。
そこから西にある博多湾から春日基地は程近い。
博多湾を抑えれば、春日基地は目と鼻の先だ。
博多湾西を構成する糸島という小さく張り出した地域がある。
小さく、さして軍事基地も大きな空港も無い場所であり、手薄であった。
そこへと数隻の船が能力者、軍人を乗せて各漁港から上陸、進軍を開始した。
攻め込まれ、艦隊が移動するかのような動きにバグア軍は惑った。
「いよいよ、北九州の戦いも大詰めね」
この空域の制空権を確保出来れば、芦屋基地へと上陸作戦を敢行している友軍が楽になる。
「ここは踏ん張りどころね」
小鳥遊神楽(
ga3319)乱戦となった空域へと、KVを踊り込ませる。
「極東の戦線もあとわずか‥‥」
出来る一手で良い。
確実に成せば、戦況は変わる。人類はそうやってバグアと戦ってきた。これまでも。そして、これからも。
ラウラ・ブレイク(
gb1395)が戦場をしっかりと見据える。
「下‥‥気を付けた方が良いですね」
ミサイル系を使おうものならば、進軍している仲間達の妨げになり、今後の基地使用にも支障が残るだろう。
「やっと活躍の場を与えてやれそうです」
操縦桿を僅かに傾けると、新居・やすかず(
ga1891)は飛行を僚機に合わせる。
基地から湧き上がるHW、CW、タロス。そして、地表に蠢くのはTWにRC。
光線が飛び交い、対空ミサイルが唸りを上げて襲い来る。
軍KVが多数飛来し、それらと交戦を開始する。
その中に混じり、ひときわ目立つのは、多種多様の色彩とKVを操る傭兵部隊。
そこへと、本星型ワームが、複雑な起伏に陽光を反射しつつ迫ってきていた。
「アーム付きか、掴まるのは論外だな」
異様な姿ではあるが、見慣れてきた敵でもある。時任 絃也(
ga0983)は本星型を見て呟く。
頷くのはフローラ・シュトリエ(
gb6204)。
「捕獲されるのは避けたいわねー」
「本星型が2機ですか‥‥厄介ですがコチラの戦力で落とせない敵ではない筈です」
ヨハン・クルーゲ(
gc3635)が目を細める。ラサ・ジェネシス(
gc2273)が唸る。
「うーん‥‥本星型か‥‥可愛くないから多分正義ではないんだろうナ」
「敵は本星型HWね。ふふっ、強い敵は喰らいたいですわ」
ふふっと笑うのはミリハナク(
gc4008)。
僚機を確認したロゼア・ヴァラナウト(
gb1055)は、本星型の動きを見極めようと飛ぶ。
並列に飛んで来る本星型はどうやら無人機のようだ。
その動きに特別なものは無さそうだ。
しかし。
「1対6なら本星型でも流石に何とかなると思いたいけど‥‥」
二機同時に相手には出来ない。ならば、どうしても戦いは二手に分かれるだろう。
新条 拓那(
ga1294)は、僅かに目を眇める。
「ちょっと死ぬ気でやった方がいいかな。行くよ!」
目の端に、ヘイル(
gc4085)は僚機を捉える。
「所属コールα−1。α−2はリヒャルトか」
ケイ・リヒャルト(
ga0598)は、ヘイルの声に顔を僅かに向けると、了解の片手を軽く上げる。
「行くわよ‥‥トロイメライ‥‥」
迫る本星型の圧迫感。
連携が非常に重要となる戦いとなるだろうとケイは操縦桿を軽く握りしめた。
「α1より各機。高度を取り、足並みを揃えろ。まずは全員でご挨拶といこうか」
同空域。高度を取るのも知れている。
高度を取ろうとすれば、接近する本星型も同じように高度を上げる。
会戦に時間はかからなかった。
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地上からは対空砲が、次々に打ち上がっている。
そこへと突撃する友軍のKVが目に入る。
さらに広がって見えるのは、戦車群だ。
陸戦の兵器が嫌に多い。
「敵の射程に入るのが先だけど距離がある、落ち着いてかわせば大丈夫よ」
ラウラから声が飛ぶ。と、同時に本星型ワームから、淡紅色の光線が伸びる。
プロトン砲の射程は長い。
気にしていなかった者も、プロトン砲へと意識が向いて、かろうじてかわす。
正面からぶつかるという事に危惧を抱いていたミリハナク機は、仲間達と合わせつつ、ブーストをかけ迂回。
迂回する孤立した機を逃すまいと、本星型は一機が正面の部隊へと。
もう一機がミリハナク機につられるように後方へ下がり、ミリハナク機を正面に捉えた。
一機のプロトン砲が真正面からぶつかった。衝撃で、機体が揺れる。
だが、深手では無い。
「どこまでも強くなりたいですわ。貴方達は私とぎゃおちゃんのエサになってくれるのかしら?」
スキルを乗せたミリハナク機の表面が僅かに光る。
二機の本星型の周囲に圧力といった風に空気が揺れたかのように見えた。
傭兵等の機体を見て、FFが発動されたようだった。
一斉攻撃。しかし。
側面に回り込もうとしたミリハナク機竜牙、ぎゃおちゃんだけは、別の一機を相手取らなくてはいけなかった。
荷電粒子砲九頭竜を撃ち込み、8.8cm高分子レーザーライフルで狙い撃ちながら、回避行動を取る。
だが、少なくないダメージを受ける。しかし、重傷には至らない。
「まずは一斉射撃から‥‥ね」
スナイパーライフルD−02を撃ち込むのはケイ機フェニックスA3型、トロイメライ。
そして、ラサ機フェイルノートII、Queen of Night。神楽機ガンスリンガー、カサドール。
ディアブロ、ヘイルストーム。ヘイル機からスナイパーライフルSG−01が狙い撃たれる。
「敵機補足、ファイエル!」
スピリットゴースト、Weiβe。ヨハン機の200mm4連キャノン砲が唸りを上げる。
ヨハン機と速度を合わせ、飛んでいたラウラ機、フェニックスA3型、Merizim。
D−02が飛び、続け様にGPSh−30mm重機関砲が、雨の様な礫で飛んで行く。
ブーストをかけ、攻撃力を上乗せした絃也機R−1改から放たれるのは強化型ショルダーキャノン。
絃也機に合わせるように飛んでいた拓那機ペインブラッド、WindroschenからG放電が放たれる。
スキル発動で移動距離を伸ばしたやすかず機ガンスリンガーが、敵機へとR−703短距離リニア砲を叩き込む。
仲間達との連携を重視し、その行動に合わせるように飛ぶロゼア機。ロビン、鴻鵠【狼火】。
射程を測るが、こちらの攻撃を当てるには、どうしても接近せねばならない。
ロゼアの思う距離は、空戦においてロゼア機装備武器では取れない。
僅かに目を眇めると、機体を踊り込ませ、レーザーガン、フィロソフィーを撃ち込む。
六本の軌跡を描く光線。
フローラ機アンジェリカ、Hagelからも、フィロソフィーの光線が飛ぶ。
「ちょっとだけ、持ちこたえてて!」
ミリハナクを僚機としているフローラが、一斉射撃を終えた後に追う。
「持久戦になるけど、集中は途切れさせないように、ね」
本星型の表面はさして変化は無い。
FFを展開した本星型には一定以上の力を持った攻撃しか通らないのだ。
だが、確実に通った攻撃もあり。
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フェザー砲の紫の光線が傭兵達へと襲いかかり、その合間に本星型がさらに接近をする。
各機が、二機の本星型へと分かれて飛ぶ。
本星型の一機は、ミリハナク機を追い、ミリハナク機と挟撃する形へと変わっている。
フローラ機から、光線が本星型を襲う。ミリハナク機から、G放電が放たれる。
本星型が震える。
軽く迂回したフローラ機が、ミリハナク機と合流し、フィロソフィーを叩き込む。
「可能な限り、後ろを取るようにしたいと思っていた所です」
単機を追う本星型の背後から迫り、やすかずが呟く。
KA−01試作型エネルギー集積砲が光を発し、叩き込まれる。
「腕に気を取られ過ぎないで、砲撃にも注意して」
ラウラ機の声で、フェザー砲の攻撃を、僚機、仲間は回避する。
D−02、30mm、と続け様に叩き込む。ラウラ機の攻撃力はFFを大きく揺らす。
「‥‥これ見よがしに格闘戦用の武器を持った敵機に0距離戦闘を挑むつもりはないわね」
神楽は、本星型のアームを見て、目を細めると、D−02を叩き込む。
僅かに攻撃が通ったのか、表面が震える。
「適正な距離を取って戦うのがKV戦闘の基本みたいなものだから」
次いで、レーザーライフルWR−01Cの光線が伸びるが、FFが弾くような光が拡散する。
攻撃力を上乗せし、D−02を放つヨハン機。
「相変わらずの鉄壁ですか、嫌になりますね‥‥」
大ダメージとはいかないが、確実に僅かずつでもダメージは蓄積されているはずだ。
ぐっと、本星型が迫る。そのワームが僅かに揺らぐ。
接近して捕獲しようという構えだ。
一斉攻撃を仕掛けた本星型へと迫っているのも六機。
「リヒャルト、先手は任せる。フォローは俺に任せてくれ。深追いはするなよ」
「了解よ」
ケイ機とヘイル機が続け様に攻撃を仕掛ける。
フェザー砲が、ケイ機を襲うが、さして問題にならない。
狙い済ましたD−02が叩き込まれる。僅かにFFが揺らぐ。
その後を追ってヘイル機のSG−01が撃ち込まれる。
ぐっと前に出るのはラサ機。
仲間達とは僅かに突撃角度を変えて、攻撃を仕掛けに向かう。
D−02、キャノンが叩き込まれる。瞬時に、機種を返す。その合間にリロードを忘れない。
ラサの後方、ロゼア機から、フィロソフィーが狙い撃たれ。
FFが揺らぐ。
「どれぐらいで消えるものか‥‥」
FFが消失するまで、攻撃はほとんど通らない。
絃也は仲間達の動きを良く見、アームを警戒しつつ接近する。
スラライ、ショルダーキャノンが立て続けに撃ち込まれる。
初期機体の名残を残すフォルムの絃也機だが、その攻撃は新鋭機に比するものである。
FFが揺らぐ。
続け様に、拓那機の攻撃。
僅かに下から、上へと抜けるような攻撃を仕掛けるのは、攻撃の余波を出来る限り少なくする為。
「元々簡単な相手ではないんだし。10回攻撃してダメなら、百回攻撃してみれば良いだけさ」
オメガレイの光線が六筋の残像を残し、FFを揺るがした。
だが、未だ足らない。それは予想の範囲内だ。拓那が軽く笑みを浮かべる。
「さ、もう一撃当てようか!」
傭兵達は綺麗な軌跡を描き、攻撃を当てると、そのまま機首返す。
一撃離脱。
HWが、CWが、次々と周囲で落ち、空中で爆発する。
UPC軍のKVが入り混じり、光線が行き交う。
時折、ゆらりとしたタロスの姿が視界に入る。
スカイフォックス隊と見られる部隊がブーストをかけて迫って行くのを目の端に入れる。
危なげない攻撃が続く。
幾度か攻撃を繰り返すと、ふっと、プレッシャーが減じる瞬間があった。
FFが消滅したのだ。
「チャンスだ! 各機、包囲状に展開、敵を逃がすな! 貰ったぞ、蟹モドキ! ―――堕ちろ!」
ヘイル機は、スキルを乗せた攻撃を叩き込む。
「逃がしはしない‥‥わ」
ケイは本星型の逃走を危惧しつつ、攻撃を仕掛ける。
「掴まらなければ、どうという事は無い」
絃也機から攻撃が叩き込まれる。
「遠慮はいらねぇ、存分に食らえぇ!」
空を裂く白い翼。赤のラインに随所に青いワンポイントが掠めて見える。
力の乗った攻撃が、拓那機から放たれる。
僚機、仲間の行動を良く見ていたラサ。
(皆の足を引っ張らないようにきっちり仕事をこなせたかナ)
ラサをはじめ、十分に警戒、不意の対応は考えられており、危機に陥る者はほとんど居なかった。
「行きマス」
「合わせるわ」
ラサ機、ロゼア機から次々と攻撃が飛んだ。
「お終い!」
RA.2.7in.プラズマライフルがフローラ機から叩き込まれる。
「ぎゃおちゃん、行くわよ」
傷ついてはいたが、仲間達のおかげで、十分余力を持たせる事の出来た攻撃がミリハナク機から放たれる。
くっと、軽く角度を変えた攻撃を仕掛けているのは神楽機。
死角からの攻撃を狙い済まし、叩き込む。
スキルを乗せた4連キャノンを撃ち放つのはヨハン機。
「こうなれば、後は落ちてもらうだけですね」
「逃走などはさせませんよ‥‥」
やすかず機からありったけの攻撃が撃ち出される。
「楽な相手ではないけれど、ね」
連携がとれ、十分に相手の攻撃を知り、仲間達の攻撃が重なれば、落ちない敵では無い。
ラウラ機の攻撃が貫き。
本星型が、色を失ったかのように一瞬見える。
ぐらりと傾いだ本星型は、派手な爆発を上げた。
空が広く感じられた。
一空域を圧迫していたその機体が消えれば、芦屋基地空域確保はもう目の前だった。
残る敵は、HWとタロス。
CWは殆ど撃ち落されている。
指揮機とみられる機体は、序盤戦に友軍によって狙い撃ちにされていた。
その合間をぬって、傭兵達の機体が掃討戦に加わった。
二機一組でロッテを組み、戦場に慣れた傭兵等の戦いは、次々と敵機を撃ち落す。
芦屋基地は制圧された。
その何割かは、部隊を纏めて撤退をしたようだった。
主に、陸戦部隊だという事が判明した。
北九州の戦線は、人類側に有利に展開する事となる。