タイトル:【LP】避難村を守れ!マスター:いずみ風花

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/11 18:34

●オープニング本文


「そういうわけで、私もご一緒致しますの」
 まともな戦闘など、果物キメラを寄ってたかって退治した事ぐらいしかないUPC軍総務課ティム・キャレイ(gz0068)が、電卓代わりに短弓を手に現れた。
「‥‥そろそろ、配置換えとか、そんな気がひしひしとしますの」
 軽く眉間に皺を寄せている。
「【AAid】(アジア人道支援)の延長といえば、延長ですがっ!」
 瀋陽へと向かう道筋には、多くの避難民が居た。
 その多くは『祭門』に率いられて、人類圏を目指している。
 大規模な戦いが収まるまで、戦いの中心から避難するのだ。
 全てが瀋陽に入れるわけもなく、瀋陽近くの村はいっぱいになり、付近にはテント村のような集落も現れていた。
「いままでは、北京環状包囲網の中に居る人は、地域の差こそあれ、キメラに襲われる事はあまりありませんでしたの」
 キメラが人を襲えば、バグアは人の敵となる。そうなれば、大陸の人々はこぞってUPC側についただろう。
 支配の差こそあれ、北京環状包囲網というドーナツの部分は内側の北京市とは違い、そんな地域だった。
 その、支配が崩れたようであると、ティムは続ける。
「河川沿いに設置されたテント村へと、人魚型のキメラが向かっているとの事ですの。これは、壱岐でも見かけたキメラですの」
 ぬばたまの髪。白い肌。深い緑の鱗持ち、耳には緑のヒレのような突起が伸びる。一重瞼の切れ長な目を眠たげに空へ向けるそのキメラの攻撃は突進と、その声。
 耳栓をすれば、かろうじて塞ぐ事が可能だが、青紫に染まる唇から紡がれるのは呪歌。ただの旋律であったが、その旋律は、近くに寄った人の意識を朦朧と混乱させる。
 その隙に、川に引きずり込んで溺死させるのだ。
「ですが、どうやら、何かタガが外れたのか、荒れ狂っているようですの」
 潜伏し、引き込むというタイプのはずなのだが、けたたましく笑いながら、川面に身を躍らせてやってくるのだとか。だからこそ、早期に退治の連絡が入り、避難民は避難した場所から、再避難が出来た。
「ええと。このポイントで狙い撃ちが出来そうですの」
 川幅が狭くなっている場所をティムは指した。
 人魚が向かう方向は、岩場から平地になった場所。そこに、テント村があった。

●参加者一覧

リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
イェーオリ・ヘッグ(gc6338
12歳・♂・ST

●リプレイ本文


 緊張を背負って、イェーオリ・ヘッグ(gc6338)は、ぺこりと依頼同行の仲間達へと頭を下げる。
 バグア襲来から、一定の年齢に達すると、エミタの適性検査を受ける。結果、適合すれば、傭兵として、LH(ラストホープ)へと移住する事になる。その家族も一緒に行ける事が多いが、イェーオリは、一人見送られて傭兵となった。
 傭兵ともなれば、バグアと戦う事になる。危険な任務も少なくない。
 どうして、自分を危険な場所へと送るのに、皆笑顔で手を振ったのか。
 それが、イェーオリには信じられなくて、でも、ここでしか生きられないならば、きちんとしようと。
 ふと目にとまった、この依頼へと参加したのだ。
 そこで難しい顔をしているUPCの人の言葉に小首を傾げる。
「はいぞく、がえ?」
「はいですの。事務方は、移動が常ですの。前任者から色画用紙のお面を受け取って早三年ですの。そろそろ来るかと思いましたの」
 何だか、前向きに燃えている。
 よくわからない言葉が多くて、イェーオリは、また、小首を傾げる。
(「ティムお姉さんは、今まで、あまり戦闘には参加しなかったって聞いた、けど。嫌、じゃないのかな? 戦わなくていいなら、それがいい、よね?」)
「やれる事は全力でですのっ」
「そう‥‥なの?」
「はいですの」
 また、少し、首を傾げたイェーオリは、力いっぱいの頷きに、戸惑いつつ、頷き返す。
 リン=アスターナ(ga4615)は、少しばっかり、しげしげと、ティムを見る。
「‥‥そう言えば、貴女能力者だったわね。電卓叩いてる姿が印象的すぎて今の今までそのこと忘れてたわ」
「はう!」
 がーん。そんな縦線を背負ったティムに、くすりと笑う。
「ティム嬢、編みぐるみのとき以来だな? またお会いできてうれしいよ」
 にこりと笑みを浮かべたエイミー・H・メイヤー(gb5994)が、慣れた仕草で、ティムの手をとり、そのまま甲にキスを落とす。それを受けたティムも、相手が女性だと言うだけで、その行為自体には慣れているようで、あらあらあらあらと目を見開く

だけだったが、エイミーだと確認すると、立ち上がったエイミーの手をぐっと取った。
 編みぐるみの時に、何か通じていたのだ。多分、可愛いものは正義的な意味で。
 爽やかだか何だかよくわからない笑みが、二人の間に流れた。
「人魚、見ておきたいのですっ」
 ぐっと、拳を握るのは、ヨグ=ニグラス(gb1949)。
「んと、そのうちでっかい人魚型ゴーレムとか出てくるかもしれないので、アクアリウムの一員としては情報収集は欠かせないのですっ」
 海洋にどーんと流れる巨大人魚型ゴーレム。ありうる。
 そう、ヨグはこくりと頷く。
「それに」
 ちらりと視線を向ける先には、見知ったプードル髪。
「配置換えって、今までと逆にアジアが狙われるのかな?」
 そういう事もあるのかなと、夢守 ルキア(gb9436)は、腰に手を当て、首をかくりと傾げる。
「単に、そんな時期なのですわ。事務方の下っ端は、そういうモノですの」
「ふうん。だったら良いけど。そうだ! これとこれで、こんな感じ」
「はいですの。了解しましたの」
「よろしくねっ!」
 作戦の概要をルキアはティムと打ち合わせ。
(「ティムさんが外勤にっ!?」)
 ヨグは、これはひとつ、お手伝いせねばと、大きくまた頷いた。

「人魚‥‥?」
 コンソールパネルを操作すると、過去の人魚キメラの映像が映る。依神 隼瀬(gb2747)は、つーっと伝わる一筋の汗なんかを感じて、苦笑する。
 御伽話の綺麗な人魚とは、似ても似つかない、いかにも敵という、ぬばあっとした姿。
「人魚って‥‥何かこう‥‥もうちょっと綺麗なイメージが‥‥と、とにかく村の人たちの為にも倒さないとねッ!」
 リンは、人魚キメラは少々戦った事がある。あれは、九州壱岐。玄界灘を見る辺り。
 まさか大陸から、その人魚と見られるキメラ退治の依頼が出るとは思わなかった。
(「壱岐といえば、三山のおじさまは元気かしら‥‥」)
 壱岐での退治依頼で顔を会わせた人物をふと思い出すが、首を横に振る。
「──あの歌は、確かに厄介な代物だし‥‥村に被害が出る前に、さっさと片付けないと」
 キメラにもそれなりの生があったのだろうかと、ティーダ(ga7172)は依頼に目を通す。
「自我を失うとは哀れですね。‥‥それとも、初めから無かったのでしょうか」
 バグアにより生成された、命を生む種としての確率のなされない、使い捨ての駒のような生き物だけれど。
「どちらにせよ、私たちが解放してあげましょう」
 静かに、ティーダは目を伏せる。
 そして、仲間達と人魚の歌をブロックする為に耳栓を使用するので、戦場で簡単なジェスチャーで通じるかどうかを確認する。
 軍用ネットは、確実にそれが必要かどうかと照らし合わされ、許可は下りない。
 ロープと網をホームセンターで手に入れ、ティムが自腹を切った。
 ジレンマを抱える大陸。宵藍(gb4961)は、バグアの支配下から、ようやくUPC軍、つまりは人類側へと戻ってきた同朋を思い、決意を新たにしていた。
「確り護ってやるさ」
 北京環状包囲網の中とは違い、キメラが襲撃するという現実から。


 耳栓をしっかりと装着し、岩場の上に陣取る傭兵達。
 歌うというか、笑うというか。
 ざばざばと川面を蹴立てて人魚キメラがやって来る。
 噛み振り乱して大口を開けた姿は、怖いというか何というか。
(「きたよきたよっ」)
「たくさん、うねうね、やってきた」
 その姿にヨグは軽くジェスチャーを織り交ぜる。
 横に居るティムが噴き出すのを見て、緊張はほぐれたかなと、にぱっと笑う。
 リンは、やって来るキメラを見て、軽く肩を竦めながら、スコーピオンを構える。
 銀色に包まれ、その目も銀に染まる。
「私が今まで倒してきた人魚キメラは、もう少し品があったけれど‥‥何とも見苦しい姿になったものね」
「人魚がモチーフなのにいまいち神秘的とは言い難い光景だな‥‥」
 エイミーが軽くため息を吐く。
 のぼってこれないのを確認すると、イェーオリは、内心でほっとする。
(「怖いのは、覚醒するまで。だから、大丈夫。だい じょうぶ」)
 そうして、仲間達へと、錬成強化をかけはじめる。
 瞳が紫色に輝き、動く度に、光の細片がチラチラと舞う。
「がん、ばっ、てっ」
 そんなキメラでも、僅かばかりの特殊能力が発動したようで。
「もうちょっと、寝るー」
 ルキアが、ふぁああと、あくびをする。睡眠時間が足らなかったのか、起きて間が無いのがいけなかったのか。
「寝るなー、寝たら死ぬぞー」
 耳栓装備済みである。エイミーは、かくかく揺さぶり、すぱーんと平手がルキアの頭を叩いた。
「‥‥‥‥ふへっ?!」
 その光景を見て、イェーオリが目を丸くして、吹き出すのを堪える。
 くっ。とばかりに、ルキアは正気付く。
「人魚退治だっけ、美人の‥‥」
 出来ればもっと幸せを感じる、キラキラしたレディが良いなあとは思うのだけれど、相手はキメラだ。
「んー、美人だケド期待はずれ。私の睡眠時間返せっ!」
 黒蛇の模様が巻きつくように肌に浮かび上がる。
 イェーオリが近くに居れるようにと場所を配慮しつつ、ルキアはえいさとばかりに、網を投げる。だが、以前壱岐の海上での報告にもあるが、通常の網は、紙を裂くよりも簡単に引き裂かれ、足止めにはならない。
 リンの銃撃が良く狙いすまされ、撃ち込まれ、三体のキメラを屠る。
「ショタっ子の、ルキア王子だーいっ!」
 制圧射撃を発動させたルキアは、拳銃バラキエルを無造作に撃ち込む。派手な銃声が轟いた。
 人が居ると認識した人魚キメラが、水に滴る白い腕を岩場へと突出す。
 登れはしないのだが、掴みかかるように手を伸ばす。
「‥‥‥‥シュール、だねぇ‥‥あ、こけた。‥‥落ち、た」
 ずるっ。ぼちゃん。ずるっ。
 そんなキメラを覗き見てイェーオリが呟く。
「狙撃はあまり得意じゃないんだがなぁ、ま、これも勉強か」
 エイミーの小銃S−01から、立て続けに撃ち込まれ、二体のキメラが水中へ沈む。
 真デヴァステイターの射程を延ばし、ヨグが次々と弾丸を撃ち込んで行く。川面へと落下したキメラは四体。その横で、ティムが強化し、射程を延ばした攻撃を短弓で撃ち込む。
 次々と撃ち落されながらも、なおも岩に手をかける人魚キメラへと、ルキアは二度目の制圧射撃を付与した攻撃を撃ち込んだ。
「‥‥‥‥おやすみ。人魚さん」
 圧倒的な攻撃を見て、イェーオリは何となくキメラが可愛そうになってぽつりと呟く。
「狙撃班だよ」
 ルキアが、待ち伏せをしている班へと、無線を繋ぐ。
 岩場で屠られたキメラは、全部で十二体。
 半数は、岩場へと向かわず、川をそのまま流れて行き、射程外へと抜けて行く。
 すかさず銃をおさめて、リンとヨグが待ち伏せしている場所へと向かう。
 そこへイェーオリが先行く二人へと強化をかけ直し。
 エイミーがスカートを翻し、ルキアがホルスターへと銃を落とし込むと超機械を手に、猛ダッシュで駆けて行き。


 テント村を背に、待ち伏せ班は川と村の間を陣取り、ロープと網を張るが、なにしろ、距離が長い。全て網羅するには足らないので、おおよそ当たりをつけて仕掛ける。
 再避難が完了している為、村は無人だ。
 隼瀬は、金杭を手ごろな石で打ちつける。
 ティーダと隼瀬がロープを張っている間に、宵藍は川を警戒する。
「さて‥‥ここから先は通さないからな」
 川面が不思議な波紋を放つ。
 遠くに、だが目視出来る位置に人魚キメラの姿。
 無線が届く。キメラの半数がこちらへと向かっていると。
 バイク音が響く。
 ヨグだ。
 酷く早い影が見える。銀色の。リンだった。
ざばあと、水飛沫を上げながら、人魚キメラがその腕を使い、魚の尾をくねらせて、陸へと上がる。
「ここから先は、遠慮していただきます」
 ティーダの瞳が猫のように動向が縦長に細くなる。
 ドローム製SMGを構えると、掃射する。
 弾丸が最初の一体を吹き飛ばす。
 誰よりも近い場所で待ち構えていた宵藍は、エネルギーガンで狙い撃つ。
「なかなかすばしっこいが、向かってくるのが分かってるなら狙える!」
 初撃の合間に、隼瀬は拡張練成強化をその場の仲間へと付与して回っていた。
 清冽な雰囲気が隼瀬を包んでいる。
「さて。いきますか」
 長弓フレイヤに持ち替えると、きりきりと引き絞る。
 咆哮のような叫びがティーダから上がる。
 その声に、ぬらりとした髪を振り乱し、蜘蛛のような動きの腕で陸へと這いずり上がる人魚キメラの動きが僅かに止まる。そこへと、隼瀬の打った矢が突き刺さる。ティーダが走り込み、リンが迫る。
「テントは壊させないよっ」
 AU−KVを装着したヨグが、イアリスを構えて、テント村の前で油断無く戦線を見渡す。
 迫って来たキメラを見て、ヨグとリンを見て隼瀬はにやりと笑った。
 放つのは拡張錬成強化。
「一気に畳んじゃえ!」
「人魚は大人しく水中に沈んでろ。この先へは行かせないと言ってる。下手は歌はお断りだ!」
 力を乗せた攻撃を月詠に乗せた宵藍は、その月の光を集めたかのような刃を叩き込んだ。
「‥‥行かせませんよ?」
 力を乗せて走り込んだティーダが、笑みを浮かべて、天拳アリエルを叩き込む。
 ローズクォーツがきらりと光り、激しい知覚攻撃が人魚キメラを襲った。
 圧勝だった。

 人魚キメラが退治されたという知らせを受けて、避難民が続々と集まってくる。
 宵藍が、二胡の音を響かせる。
 怖い思いが少しでも癒されるようにと。 
 覚醒をといたイェーオリは、戦いを思い出し、顔面蒼白になっていた。
 ティムが声をかけると、イェーオリは大丈夫と言ってみる。
 でも。
(「テント村。僕達が守った‥‥うぅん。僕である必要は、どこにも無かった、よ 」)
 戦う意味にイェーオリは惑う。
「配置換えが杞憂に終わることを祈っているわ。やっぱり貴女は電卓持ってた方が似合うもの、ね?」
「はうっ!」
 再び、縦線を背負ったティムへと、リンはくすりと笑う。
「できたら次はもっと平和的なところで可愛いものについて語り合いたいな」
「もちろんですの。朝まで生語りですの」
「よし」
 見合わせてふふふと、笑う女子二人は、やっぱり爽やかなんだか良くわからない空間を形作っていた。
 人の集まりつつあるテント村に宵藍の柔らかな二胡の音が静かに響いていた。
 
 北京奪還まであと僅か。
 大陸の人々の心も、少しずつ、変化して行くのかもしれなかった。