●リプレイ本文
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それは、レーダーでも反応を確認出来たが、遠目からも良く見えた。
黒い点。
接近するにしたがい、その黒点はもやもやとした姿に変わる。
その動く黒雲を形作っているのはキメラだった。
黒雲が、うわんと、唸りを上げたかのように見える。
こちらが黒雲を把握したのと同時に、向こうもこちらを把握したのだ。
ウーフー2の重厚な機影が空をよぎる。段取りを篠崎 公司(
ga2413)は確認していたが、今ひとつはっきりとしないキメラとBF対応として、班が分かれるのは了解したが、挟撃に持っていくまでの形が解り難かった。
今回の任務には、妻である、篠崎美影(
ga2512)が斉天大聖で共に飛んでいた。
とりあえずは、BFへと着弾させる為に、向かってくるキメラの数を減らさなくてはならない。
「BF予測位置を遮る群れを狙います」
UK−10AAEMの狙いをつける。
「直撃と爆風でどれだけどかせられるかしら?」
BFの位置はすぐに知れる。美影は、ペアを組む公司機を伺いながら、84mm8連装ロケット弾ランチャーの発射準備を行う。班分けではキメラ対応と納得はしているが、キメラを誘き出す為の挟撃をするのならば、ペアとして飛ぶのは無理だ。
考えた末に、公司機と共に飛び、後方から公司機に群がるキメラを退治する選択をする。
仲間達が低空へと降下して行くのを見送って、犬彦・ハルトゼーカー(
gc3817)は高度を維持して、そのままBF近くまで飛行する。仲間達の攻撃射線から外れる位置から、BFを狙い、突撃するつもりだ。
「いくよ雷轟丸、お仕事の時間だ」
ぐっとフェニックスA3型、雷轟丸の機首を下げる。
まだまだ、KV依頼に慣れてはいない。機体をどう扱うのかという調整もまだまだ手探りの最中。
(「少しでも経験を積まないとね」)
黒雲に隠れているという、BFを透かし見るかのように、目を凝らす。
「お魚さんはどこいった〜」
接近したキメラ班へとキメラの群れが移動する。その後方から、BF班は虎視眈々と道が開けるのを待っていた。
「正義の仕置人真帆たん参上! 卑怯なBFを退治する為、キメラを始末します」
むん!
そんな雰囲気を醸し出し、雷電、風雲真帆城で迫るのは熊谷真帆(
ga3826)。
あまりにも多いキメラの数。
スナイパーライフルD−02をキメラの黒雲へと向ける。
撃てば確実に当たりそうな密集具合だ。
「これは、包囲されたら負けると思って良いですね!」
視界が遮られれば、どうしてもタイミングが外れるだろう。
唇を引き結び、ひとつ頷くと、真帆は仲間達と攻撃のタイミングを合わせる。
破曉、アスタリスクで依頼を受けたのは、今回が初めてだ。獅月 きら(
gc1055)は、動きの硬い手をほぐしながら、何度も深呼吸。
(「‥‥一緒にがんばろうね」)
「小さなお星様、皆さんご加護を‥‥」
目線の先には黒雲。
蠢いているそれは、全てキメラだという。
仲間達の、目標物接近、攻撃の声が聞こえる。
きらは、距離を測りながら、仲間達と共にキメラの雲へと機首を巡らせる。
漆黒に銀で魔法陣や逆十字の装飾が施され、死を思えというラテン語Memento mori.の警句が描かれた骸龍は不吉な運命に打ち勝ち、前に進めという意味を込めた機体である。夢守 ルキア(
gb9436)のイクシオンは、仲間達の最後尾から、黒雲の上に出れるようにと気をつけながら、飛行していた。
「キメラの数が多くて中々見れないけど。BFにキメラが群がっておりまーす」
んー。そんな風にルキアは黒雲を眺める。
黒雲の大きさは、大きいけれども、BFがふたつも入れるほどでは無い。中心を狙えば、間違い無く何処かにあたる。
範囲は狭い。ジャミングの強さを確認しようにも、その場所全てが同じような強さを示す。
接近すれば、BFの姿がくっきりとキメラの合間から見えるだろう。
S−01H、ヒメルヴェルツを駆るのはレーゲン・シュナイダー(
ga4458)。大規模作戦以外、KV戦の経験は浅い。実戦経験を積もうと、この作戦に参加した。「頑張りましょうね、ヒメルヴェルツ」そう、不慣れながら精一杯頑張りますと微笑んだ柔らかな姿はもうコクピットには無い。
KVで攻撃するには覚醒は必須である。
「それ以上寄って来るンじゃないよ‥‥!」
据わった目が雲霞のように押し寄せてきたキメラを睨んだ姿は、姐さんと呼ばれるような存在感を示す。
射程に入ってくると見るや否や、射程の長いR−P1の弾丸の礫を叩き込もうと獰猛に笑った。
「いくら何でも多すぎないか‥‥?」
ネオ・グランデ(
gc2626)が呟く。大規模な戦いの最中でも、これほどまでのキメラの群れが出現する事はめったに無い。
(「とりあえず、バレルロール、インメルマンターンなんかのマニューバは出来そうだな」)
空戦経験は少ない。アクロバティックな動きとなると、また難易度は上がるのだろうが、通常の様々な方向転換は可能のようだと、KVの機動力を確かめ、シラヌイ蒼獅子ブラウ・ローヴェの中で一息つく。
多少不安はある。けれども、戦いの数をこなせば、その不安も払拭できるだろうかと、そんな思いも脳裏を掠める。
黒雲を見て、ヤナギ・エリューナク(
gb5107)は軽く目を細める。
(「黒雲‥‥いや、アレはキメラ、か。‥‥の中に鯨ねェ。何とかして撃墜しねェといけねーな。よっしゃ、一つ暴れてみっか」)
「行くゼ、スティングレイ‥‥っ!」
ディアブロ、スティングレイを駆り、キメラの群れの向こう、BFを狙う為に飛ぶ。
通常、BFには武装は無い。けれども、どんな武装を秘めているかしれない。
縦横無尽に動き、万が一向こうから攻撃されたら被害は最小限に留めようと思う。
ブリュンヒルデの情報によれば、あちこちに散らばった、キメラ製造プラントを持つBF。
「‥‥厄介ですね」
シラヌイS型、御鑑 藍(
gc1485)が呟く。
そう、キメラ製造プラントが止まらない限り、キメラは増殖し続け、何処かの市街地に降下でもすれば無残な殺戮が始まるだろう。能力者が、一閃で薙ぎ払えるキメラだとしても、一般市民はそうはいかないのだから。
KV依頼は初めてだ。だが、頑張らなくてはと藍は思う。
「武装的には、一番接近しなくてはいけないかな?」
キメラを突破し、BFへと攻撃をしかけるには。
藍は小さく息を吐いた。
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無数の羽音を響かせて、BFから引き離されるキメラ群。
上空から見れば、BFの姿は丸見えだ。
高度を落とした犬彦機が、横合いから突っ込んで来る。
接近した犬彦機へとBFが向きを変える。
淡紅色した光線が、離脱を開始した犬彦機へと襲い掛かる。
「!!」
尾翼を掠める。
直撃は免れたが、至近距離だ。危ない所だった。
一番近い敵へと攻撃を仕掛けるのが常なのかもしれないと、再度接近をしようとする度に向きを変えるBFを忌々しげに眺める事となる。
犬彦機がBFの方向を逸らした為に、キメラ突入が楽になっていた。
「さァ、顔をお見せデカブツ」
レーゲン機から、ミサイルとマシンガン攻撃が、これでもかというように前面のキメラへと降り注ぐ。
そのキメラをも巻き込むかのように、キメラの後方から、二筋の淡紅色の光線が延びた。プロトン砲だ。
「ふざけた真似してくれるじゃないか!」
レーゲンが呻く。
後衛を庇うかのような位置取りを心がけていたレーゲン機が被弾するが、さして酷い破損では無い。十分戦える。
「キメラを盾にするとは!」
真帆機が、軽く被弾する。スナイパーライフルD−02で、プロトン砲によって空いた空間から、BFへ向けて銃弾を打ち込む。
だが、その細い道は、すぐにキメラに塞がれる。
「視認、理解、そして撃つ‥‥っ!」
D−013ロングレンジライフルの長い射程を生かし、後方からキメラを撃ちまくっているルキアであったが、すぐに目の前にキメラの群れが押し寄せてくる。
一体毎の攻撃は微々たるものなのだが、それが重なると、ルキア機にとっては、致命傷にもなりかねない。その足は速くても、群れに囲まれてしまえば同じ事なのだから。
「ワイルド・カード、二人なら勝てる」
愛機に語りかけるようにつぶやくと、笑みを浮かべた。
この状況も、ルキアにとっては楽しいものに他ならない。
ピアッシングキャノンを叩き込む。
きら機からは、派手に攻撃が仕掛けられていた。KA−01試作型エネルギー集積砲がキメラを巻き込んで飛び、爆炎を上げる。
「さ、ミサイルさん。お魚さんの元まで私達を導いて下さいませねっ」
機体にぶち当たるキメラを見て、肩を僅かに竦めるが、攻撃手は緩めない。
にこりと笑みを浮かべる。
「焼き尽くし、ぶち破ります」
KA−01試作型エネルギー集積砲が、キメラを燃やす。
ミサイルが飛び、銃弾の雨がキメラを襲う。
BF班へも、前で戦うキメラ班を抜けたキメラが向かい、それを撃ち落していた。
「まさに、暗闇の荒野に進むべき道を切り開く、ってところだな‥‥だが、それも終わりか!」
H−044短距離用AAMをキメラに撃ち込んでいたネオ機が、M−122煙幕装置をBFを使おうとするが、プロトン砲はこちらを向いていない。仲間を巻き込む恐れのあるそれは、今は控えた方が良いだろうとその手を止める。
後方でキメラ撃ちの手伝いをしながら、チャンスを伺っていたBF班がキメラ班を追い越して、BFへと襲い掛かる。
「ミサイルの雨でも食らってな‥‥っ」
敵上空を取る事に気を配っていたヤナギ機が、艦橋部をめがけてI−01パンテオンを撃ち込む。全弾100発が、鋭い雨となってBFへと襲いかかれば、幾つもの穴が穿たれる。
「私達の進路を塞がないで下さい!」
公司機へと向かうキメラへと、プラズマリボルバーを撃ち放つのは美影機だ。
「ターゲット、インレンジ。ロックオン‥‥シュート!」
妻の援護を受けながら、公司はBFへとライフルを打ち込む。
丁度、BFは腹をこちらに向けていた。
UK−11AAEMミサイルを撃ち込みに、BFへと肉薄するのは藍機。
ミサイルを発射すると、真スラスターライフルを撃ち込んだ。
その巨大な目標に、幾つもの穴が穿たれる。
「フェニックス、フルブースト!」
方向を、接近した藍機へと向けるBFへと、犬彦機が襲い掛かる。機体性能をフルに生かし、K−02小型ホーミングミサイルを続け様に打ち込んだ。BFの砲台と思しきものが破壊され、キメラは粉々になって吹っ飛んだ。
「ビッグフィッシュ沈黙、次の目標に移行します」
砲台が静かになれば、後はその巨躯を沈めるだけだった。
その背後では、群れるキメラをキメラ班が撃ち落していた。
「地獄へ落ちなさい」
弾丸が、キメラを引きちぎるかのように飛んで行く。
D02で、真帆機は群れるキメラへと容赦なく攻撃を仕掛ける。
「イクシオン。戦況を理解し、整えるのが私達だよ」
ルキアは減ってきたキメラから距離を出来るだけ取るようにして、攻撃の手を休めない。BFを
ショルダー・レーザーキャノンが震える。弾を吐き出す先のキメラが、ばたばたと落ちて行く。
「ダメなのです。攻撃の邪魔はさせませんよー」
きら機は攻撃を使い分けながら、的確にキメラを落としていた。
「邪魔だって言ってるだろぅ?!」
軽く巻き舌になっているレーゲンが、当たるを幸い、キメラを撃ち落している。
「!」
藍は、攻撃の後、目の前のBFが身震いをするかのような感覚を感じた。
ひときわ大きな音が響くと、BFは黒煙を上げ、ぐらりと傾いだ。
「なんとか墜とせたか」
一息つくのは、ネオ。
不意に、地上へと引かれるかのように、その巨体は急速に色を無くしたかのように落下して行く。
BF破壊に成功したのだ。
キメラはほぼ全て、迎撃を完了した。
何匹か密林へと逃げ込んだかもしれないと、サンプルを回収したブリュンヒルデから回された研究所の結論として、数が桁違いだったのと引き換えに、その命も桁違いに短いものである事が判明する。
一般人には脅威だが、その攻撃力も、通常のキメラよりも、かなり低いものであり。
地域への影響はさして無いようで、安堵する事となった。