●リプレイ本文
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爆音が響く。上空では、多数のHWが撃ち落され、CWがキラキラと輝きを放ち、砕け、雨のようにその残骸が降り注ぐ。
戦いの音がKVの機体を通して伝わってくるかのようだ。
両脇を小さな建物が並ぶ。その合間の道から、大きな扉が見える。
先頭を行くディアブロ、飯島 修司(
ga7951)が、その工場を目にして、目を眇める。
「何か‥‥出てきましたね」
大扉が、鈍い金属音を響かせて開いて行く。
その開いた場所から現れたのは、漆黒のゴーレム。
そして、その背後には、ずらりと並ぶ、鉄の塊。ゴーレムが整然と並んでいた。
「‥‥北九州でもワーム100機と遭遇しましたが、こちらではゴーレム100機と来ましたか。あれを全部地道に、1体1体壊すのは骨が折れますな」
修司機に、ライフル弾とレーザー砲が襲い掛かっていたが、問題なくかわし、被弾するも、それは、機盾ウルが弾き飛ばし、かすり傷ひとつ負わせられない。ブーストをかけた修司機は、さして苦労も無く、思った位置へと辿りつく。だが、同じく、ブーストをかけた槍ゴーレムが目前に迫る。
「って事は、あの中全部ゴーレム? 壊す‥‥って、広いなぁ」
ウーフー2『ココペリ』M2(
ga8024)が、修司機に続きコンクリートの広場を乾いた音を立てて、ブーストで走り込む。乱れ飛ぶレーザー砲と弾丸。
「遮蔽物が、まったく無いってのも‥‥っ!」
先を行く修司機の影に入るつもりは無い。
(「仲間を遮蔽物にしちゃまずいだろ、色々っ!」)
展開途中の接近を想定していたM2は、スラスターライフルを撃ち放ち、一旦、間を空ける。
ブースト接近した槍持ちゴーレムが目の前だった。
「迎撃部隊を倒したら、誰が工場のゴーレムを一番数多く倒せるか、競争しませんか? なんてね」
緊張を緩める為に、あえて軽口を叩いては見る。一緒の班の修司とM2に挨拶をしたのは、どれくらいの時間の前だったか。鈍い青に塗装されたサイファー、レブ・アギュセラでラナ・ヴェクサー(
gc1748)が出てくるが、ブースト接近をする槍持ちのゴーレムが、バルカンの雨を降らせる。
「このっ!」
被弾するが、動かせないほどでは無い。スラスターライフルで応戦をしつつ、機体を逃し、仲間達の後を追うように移動しようとするが、ゴーレムの槍が、したたかに打ちつけた。
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「どうやら当たり引いたみたいだね」
早々と、混戦となった広場を見て、シュテルン・G、赤崎羽矢子(
gb2140)が、軽く渋面を作る。ハチドリのエンブレムのみが、羽矢子機だと知らせる。変哲の無いシュテルンだが、その攻撃力は高い。
「これ、倒しちゃって良いんだよね?」
「ああ、頼む。包囲網のゴーレムならば、十分データは取れてる。そっちこそフラグも無いのにヘマすんなよ?」
「はいはいっ」
降下前に、夜の撃墜王返上とかいう、どこぞのパインサラダ的なフラグを作ったデラードを軽くからかったのは良いが、こちらもそれ相応の戦いになりそうであった。
何しろ、KV1体しか、道から出る事は出来ない。
その鼻先を押さえられれば、抑えられた時に前に居たKVが矢面に立つ事になる。
ブースト接近で、剣ゴーレム2機、ライフルゴーレムが2機迫っていた。
「PRM−A&H−Lモード、行くよっ!」
C−0200ミサイルポッドが、唸りを上げて撃ち出される。至近距離で撃たれた、ミサイルの雨に、接近していたゴーレムが激しい爆発音を上げ、大穴を肩と腹に空けて吹っ飛ぶ。手にした剣がくるくると宙を舞い、背後へと飛んだ。それを、大鉈で薙ぎ払ったゴーレムが混戦の最中に走り込んで行く。1機のみ、漆黒に金縁。装備も違う。
そして、その機体から、嵐のような弾丸が、槍ゴーレムを屠った修司機を襲っていた。
開いた間に、羽矢子機が広場へと走り出し、剣ゴーレムに対峙し、その動きを止める。
「三班体制で速やかに、三方向の確保とは、いきませんでしたねえ。先に確保すべきは、我々の進入路でしたか」
やれやれと言わんばかりに、吹き飛んだゴーレムで一旦足が止まったライフルゴーレムの攻撃を受けつつ、シュテルン・G、煌星須磨井 礼二(
gb2034)が前に出て、一旦、壁になる。
「スマイル、スマイラー、スマイレージ♪ 上級クラスの力、とくとご覧あれ〜☆」
ライフルの弾をファランクスが迎撃し、機盾ウルが跳ね除ける。機槍グングニルを構えて、仲間達が戦場に辿りつけるようにと礼二機は、その場を守る。
「敵情報と、戦闘場所の読みが大事というわけですのね?」
竜牙、ぎゃおー! 食べちゃうぞー! の、背には太陽と月の重なる皆既日食のエンブレムが、静かに凶暴性を誇示している。ミリハナク(
gc4008)は、状況を自分達の有利に運ぶ事は、敵の行動を読みきった上での事になるのだと知る。ミリハナク機は羽矢子機を追うように、右へと向かう。
迫る槍ゴーレムへと、M2機とラナ機が向かう。後方に位置するライフルゴーレムと、それを壁にするかのように動く、大鉈を持つゴーレム。
修司機が、ライフルゴーレムを抑えようと、仲間達に気を配りながら迫れば、不意に横合いから大鉈が空を裂き、交わして体勢を整える合間に、ライフルゴーレムのバルカンがあびせかけられ、再び体勢を崩す。
「落ちろっ!」
双機槍センチネルが唸り、ラナ機は槍ゴーレムを打ちつける。
「ここまで来たら、外さないっ」
笑みを浮かべると、M2は、レーザーガン、オメガレイを発射した。眩い光が至近距離で受け止めたゴーレムから拡散し、空に消えた。
ぽろりと、ゴーレムの手から槍が落ち、崩れるように膝を突く。
「もう一度っ!」
ラナ機の槍が深々と刺されば、ゴーレムに穴が穿たれる。ゴーレムが倒れ込むと、コンクリートの地面が砕けた。
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最後に残った、C班の先頭がようやく混戦の戦場に姿を現す事が出来た。
「さて、基地制圧といった割には、そう苦労もなく進めましたね。ですけど、こういう時は大抵‥‥」
ディアブロ、シヴァを進めながら、如月・由梨(
ga1805)が落ち着いた風に呟く。
思った通りのお出迎えに、首を横に振る。
「いつも通りですね。行きましょう」
何の変哲も無いディアブロではあるが、ブースターが4機も背にあるのが特徴である。その手にある巨大剣シヴァを振るう為のブースターだ。彼女の機体は、それを振るう事が出来るほど、戦場を駆け抜けていた。
由梨機がブーストをかけて戦場へと雪崩れ込む。
礼二機が、右へと移動しながら、右B班の仲間に声をかける。
「後は、逃がさないようにするだけですが‥‥」
「ブーストでちょこまかとっ!」
羽矢子が剣ゴーレムと何度目か打ち合っていた。
「すんなりとやらせませんわっ」
その背後からは、ライフルゴーレムが狙うが、それは、ミリハナク機がアハト・アハトで牽制し、抑えている。しかし、ミリハナク機の攻撃力はともかく、防御がこの敵ゴーレムに対して弱かった。幾つも穴が穿たれている。だが、機体操縦不能とまでは行かない。
「厄介な敵は―――アレですか!」
由梨は、目立つ装飾の、大鉈を持つ敵ゴーレムを視界に捉える。
巨大剣が大きく空気を切り裂き、唸りを上げて狙う。
「何とね。神話のような剣が武器として使えるんだねえ」
感心したような声が響く。
「本命登場か。行くぞ、リストレイン。愉しい舞台の始まりだぁ」
死神のようなペインブラッド、リストレインが滑り込むように動く。レインウォーカー(
gc2524)機だ。左肩のエンブレム、鎖に繋がれながら、道化が歪んだ笑みを浮かべている。
間近に迫るライフルゴーレムに、口の端を上げて哂う。
(「敵を侮るな、恐れるな。敵の一挙一動を見逃すな、二手三手先を読め。死にたくないなら考えろ、敵を殺す方法を。そして、狂ったように嗤って見せろ。できるだろ、道化」)
レインウォーカーは、ブラックハーツを発動させると、KVビームサイズを振るう。淡く光を纏ったそれは、接近するゴーレムへと向かった。
「与えられた役割は、ちゃんと果して見せるさぁ」
攻撃をした合間に、敵機からのレーザーが飛び、鈍い振動がレインウォーカー機を揺るがした。
ブーストをかけていた由梨機だったが、敵機と由梨機の間に、別のゴーレムが割って入った。
「邪魔です!」
真っ二つというか、粉砕されたゴーレムの後方で、拍手が沸く。
「すごいすごい」
「逃がすかっ!」
ラナ機から、機剣白虹が投げつけられるが、届かない。
「PRM−H、残り練力全部。逃がさないよっ!」
羽矢子機から8.8cm高分子レーザーライフルが発射される。
それは、大鉈を持つ腕に当たるが、起動停止するまでには至らない。
「低空飛行で逃げると踏んでいましたが‥‥」
修司は目の前のゴーレムが後退する先を見て溜息を吐く。
由梨がブーストをかけて追う。
そのゴーレムが向かった先は、出てきた工場内だった。
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「起動させちゃ‥‥いけないよね‥‥」
(「破壊する‥‥。脅威になる前に」)
翼、脚、頭等、猛禽類に近い形。手は指一本一本が爪状にカスタムされている銀色のフェニックスA3型、NO−NAMEが、躍り出る。所々に黒い線が引かれている。ぎらりと光るかのような目の辺りからは、このフェニックスが魔物のようにも見える。沁(
gc1071)だ。
入念な機体チェックの末に、戦いに挑んでいる。
ブースト接近して、盾でぶちかまし、ハイ・ディフェンダーが、ゴーレムを吹き飛ばす。レーザーがいまわの際に打ち込まれるが、修司機は盾で軽くそれを受け流した。余裕ある戦いでゴーレムを屠った修司は、敵の逃走経路をまた眺める。
「あぁ、如月さん。無理でなければ、その巨大剣でこう、工場ごと一気に『ぺちっ』と潰してみませんか?」
「やれない事は無いと思いますが、アレを取り逃がすかもしれません」
由梨が工場内へ消えて行く。
ジェットエッジを構え、ブーストをかけながら、沁機がそれに続く。
「いっくぜぇ! 突撃だぁ!」
ディアブロ、拳豪、空言 凛(
gc4106)が飛び出す。
「もうほとんど残ってないじゃんか! まあ、良いか。そいつ、やる!」
その場は、もうすでに敵機はライフルゴーレム2機が残っているだけだった。その2機は、じりじりと工場の入り口へと後退していた。先に逃げ込んだゴーレムを追うつもりなのだ。
そのうち1機へと、凛はジェットエッジを振りかざし、迫る。右方面を相手取っていたライフルゴーレムが、凛へと向きを変える。
「そうこなくっちゃな!」
ライフルが凛機の腹をぶち抜く。
「っ! やるじゃんっ!」
護衛ゴーレムとはいえ、この戦場のゴーレムは強化を施されたゴーレムばかりだった。凛機では、攻撃を防ぎきれない。
「そういう戦い、嫌いじゃないですわ」
ミリハナクの援護射撃がゴーレムの動きを一瞬止める。
「サンキューっ! っし! 当てづらい技はこうやって当てんだよ!」
パニッシュメント・フォースを発動させた凛機は、爪でゴーレムを捕まえる。機杭エグツ・タルディが突き刺さる。それとほぼ同時に、ゴーレムのレーザーが凛機を貫いた。
機体はかろうじて動き、飛行形態にはなれそうである。重傷では無いが、凛機は深手を負った。
「ゴーレムの生産工場か。戦ってはみてぇが、あんま数が多くなると厄介だしな」
全てのゴーレムが起動したらと思うと、純粋に戦ってみたいという気持ちが湧き上る。だが、今はそうも言ってはいられない。凛機は、仲間達の後を追った。
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旋回すると、沁機は、由梨機と敵機を気にしつつも、並んだゴーレムの破壊に向かう。
「一つ残らず‥‥、壊す」
万が一起動してしまったらと、レーダーと目視を怠らりなく、ジェットエッジを叩き込む。起動していないゴーレムだ。簡単に傷を負い、転がる。
ブーストをかけ、由梨機は巨大剣を掲げながら敵機を追っていた。
敵機は、100ほどもあろうか、ゴーレムの合間を縫うように逃げ、立ち止まる。
その度に、由梨は巨大剣を振るうが、餌食となるのは、工場内のゴーレムだ。
「私の名前はね、ロウって言うんだ。君の名前は? 凄いよねえ。それ」
「当たらないなら」
振り下ろし様、巨大剣を床に落とすと、由梨機は機刀建御雷を手にした。
が。その間に、ロウは、天井をぶち破っていた。
「!」
「怖い怖い。でもそういうの、好きだよ。またね〜」
ゴーレムは飛ぶ。
この工場内からでは、追うに追えない。由梨は、抜き放った機刀を手近なゴーレムへと打ち込んだ。後一歩だったのに。
真っ二つになったゴーレムが転がった。
「起動する無人機が増えるかとも思いましたが、大丈夫そうですね」
ロウと由梨の戦いで、倒れたり壊れたりしているゴーレムを見て、礼二がにこりと笑みを浮かべる。
「おぉー! なんかすげぇ光景だな! なんか、勿体ねぇな。1機ぐらい動いてくんねぇかな? タイマンしてみたいぜ」
凛機が、残る力で片端からゴーレムを殴り、蹴り倒して行く。
「ここからが、本番になりますかね‥‥」
ラナが、起動室は何処かと探れば、同じように向かう羽矢子機を見つけて、双機槍で邪魔なゴーレムを破壊しつつ、一緒にそちらへと向かう。
「万が一起動しちゃったら、改めて応戦だね。あ、ちょっと空けてね」
起動しないほうが良いけどとM2機が、G−44グレネードランチャーを工場内へと撃ち込んだ。派手な爆音が響き、一角で、爆発が誘発して行く。もうもうと煙が上がり、工場の開いた穴と、入り口へと吹き抜けて行く。
「最大威力で喰らわせる。範囲内に入るなよぉ」
ブラックハーツを起動し、フォトニック・クラスターを発動させるが、もう少し必要のようで、もう一度、同じように攻撃をしかけると、軽く爆発音が響き、何体かが崩れるように壊れた。
「すべてが止まったままのはずがないと思いましたのに。起動準備が遅かったのか、それとも罠にしろ、警戒を怠るほど甘くはありませんわ。でも‥‥」
全体を見渡せる位置にミリハナク機は位置していたが、どうも動き出す気配が無い。
「あらら」
「何か、やな感じですよ」
羽矢子とラナが、奥にあった小部屋を破壊する。その小部屋には、科学者とも、整備員ともつかない、筋骨隆々の中年の男が引き裂かれ、息絶えていた。
起動しない原因はここにあったようだ。
全てを破壊しつくし、外に出てみれば、戦闘の匂いは収まっていた。
「ふぅ、なかなか派手で楽しかったぜ!」
初めてのKV戦ではあったが、何とかなったかと凛は思う。
「あー‥‥上空は無事ですか?」
「大丈夫、大丈夫。そっちも帰還してくれ。作戦は成功だ」
「何よりです」
デラードへと連絡を取ったラナは、小さく頷いた。
阜新空軍基地の制圧が終了し、北京への一歩がまた刻まれたのだった。