●リプレイ本文
●化物に怯える町
まだ日が昇りきっていない時間帯、傭兵達は件の町を訪れた。連日の化物による殺人事件によって、町の空気はどんよりと重い雰囲気が漂っている。
「町を荒らすキメラを放置する訳には参りません、早々に御掃除してしまわなくては」
事前に用意した町の地図を眺めながら、リュティア・アマリリス(
gc0778)は町の住民を心配する。
「敵の正確な数と種類がわからないので少し不安だけど、戦いとは無縁の人達が困ってるのなら頑張らないとね」
ティム・ウェンライト(
gb4274)は不安そうな様子であったが、町の人達を心配して何とか気持ちを昂ぶらせる。
「さて、どんな化け物が出てくるか‥‥。面白そうだ!」
ティムとは対照的に、Kody(
gc3498)は最初からやる気満々であった。
「できることなら犠牲者が出る前になんとかしたかったですが‥‥無理なこと、ですかね。せめて、一刻も早くキメラを排除して住民の皆さんに安心してもらわないと‥‥!」
蓮角(
ga9810)は住民を心配しながら、これからの作戦を提案する。昼は情報収集と住民の避難を行い、夜にキメラを退治するというものである。
特に反対が無かった為、その作戦で進むことになった。
先ず、蓮角が地元の警察に協力を要請する。住民の避難は傭兵達だけでは手に余る仕事であった。警察の歓迎を受けながら、蓮角は住民の避難を頼む。警察はその頼みを快く引き受け、避難場所を教えてくれた。どうやら、教育機関の講堂を利用するようである。
「俺達に任せてください。必ず、バケモノを排除して見せます」
胸を張る蓮角に、その場にいた警察たちは期待の眼差しを向けた。
化物の情報を得るために、辰巳 空(
ga4698)は医療機関へ赴き、入院患者から話を聴く事にした。被害に遭った人物は大抵即死だった為、入院患者は一人いるだけであった。
「すみません、貴方にお話があるのですけど‥‥」
ベッドに横たわったままの被害者にキメラの特徴を慎重に訊ねる。だが、患者の言う事はやはり要領を得ない。
「そうだな‥‥サルだったような気がするんだが、タヌキだったかも‥‥? いや、トラの爪でやられたんだが‥‥」
結論から言うと、患者はどうもその時の記憶がはっきりとしないらしい。死亡した被害者についても調べたが、雷に打たれたか、爪で引き裂かれたかのどちらかである事は判明した。
「吹雪が居て、良かった。歩かなくて済む」
フェンリス・ウールヴ(
gc4838)は友人である吹雪 蒼牙(
gc0781)を捕まえて、そう声をかける。そんなフェンリスに対して蒼牙は苦笑いを浮かべた。
「フェンが居るとは思わなかったなぁ‥‥足代わりに使う気でしょ? ちゃんと掴まってね」
蒼牙はAU−KV「パイドロス」をバイク形態へと変形させる。シートに腰を下ろしたフェンリスが掴まった事を確認すると、アクセルを吹かして発進した。
二人は『住民を避難させる講堂』『事件が有った場所』『目撃が有った場所』を重点的に見て回った。講堂には既に住民が避難を始めており、結構な人数が集まっていた。
ここでは、相澤 真夜(
gb8203)が避難した人をチェックしている。数が多いのでじっくりと調べる事は出来ずとも、不審な人物がいないかどうかは判断が付いた。
「もしかして‥‥人型のキメラもいるかもしれませんからね!」
チェックだけではなく、はぐれた人の誘導も行っている。
「吹雪、ありがとう。僕はここで避難の手伝いをする」
フェンリスはパイドロスから降りると、不安そうにキョロキョロする少女へと向かっていく。そして、持っていた板チョコを手渡した。
「母親とはぐれたのか? 一緒に探してやろう」
フェンリスは少女の手を引き、人の波へと消えて行った。その様子を見届けてから、蒼牙はその場を立ち去った。
ティムとリュティアは手分けをして家屋を回り、情報取集と避難の進言を行っていた。避難はそれなりに順調に進んだが、情報は一向に集まらない。
「ヌエじゃ! ヌエの仕業じゃぁ!」
避難誘導していたリュティアに老人が食って掛かる。少し困りながらも、老人の話し相手をしていると、老人は保護者に手を引かれ、その場から連れ去られていった。
「この周辺の避難は終わったみたいだよ」
「それでは、次の場所に参りましょう」
二人は場所を移動して、避難を呼びかけていく。
蒼牙が事件現場と目撃場所を見て回っていると、Kodyと出会う。彼も事件現場と目撃場所を重点的に調査しているようであった。
「Kodyさん、何か分かりましたか?」
「有力な手掛かりは無いな。行動にパターンも見えてこない。唯一の共通点は野外で襲われている事くらいだ」
その後、情報収集を続けたが結局有力な手掛かりは得られなかった。
そして、日が落ちる頃、トラツグミの不気味な鳴き声が聞こえて来る。
●闇夜の探索
完全に日が落ちて、町は暗闇に覆われる。
ヒョー‥‥ ヒョー‥‥ ヒョー‥‥ ヒョー‥‥
何処からともなく聞こえて来る、トラツグミの不気味な声だけが響き渡っていた。
「大丈夫‥‥かな?」
真夜は友人である蓮角が不自由していないか心配で、チラチラと視線を向ける。蓮角は特に問題なく戦闘準備していたので少し安心できた。
傭兵達は班を分け、手分けしてキメラの討伐を行う事を決めた。
一班は、空、蒼牙、フェンリス。
二班は、ティム、Kody、蓮角。
別働班として、真夜、リュティアが、町で最も高い雑居ビルの屋上から索敵を行う事となった。
情報収集の甲斐もむなしく、これといった情報は得られなかった。出現パターンも特になく、人を見つけては襲っているようにしか感じない。
一班は町の北部、二班は町の南部を探索する事になった。各々が所持している無線機で連絡を取り合いながら、夜の町を探索する。
それぞれの班はまず、目撃場所と事件現場を巡る事にした。
雑居ビルの屋上、真夜とリュティアは索敵を続けていた。
「この鳴き声、もしかしたら‥‥警告をしてくれているのかも?」
真夜の言葉でキメラについての考察が始まった。
「今回のキメラは合体と分離が出来るようなタイプ‥‥流石に考えすぎですね、コレは」
リュティアは双眼鏡を覗きながら、苦笑いを浮かべる。その時、視界の端で黒い影が動いたような気がした。
その影がいた場所から比較的近い一班へ連絡を入れる。
一班は空がGooDLuckを使用しながら通路を探し、蒼牙は屋根の上でキメラを探していた。フェンリスは空と行動を共にして、避難の遅れた住民がいないか目を光らせている。
「一班の皆さん、聞こえますか? そこから100mほど離れた民家の屋根の上で動く影を発見いたしました」
無線機からリュティアの声が聞こえてくる。その指示に従いながら影がいたという民家へとやって来た。すると、無線機のノイズが酷くなり、ろくに声が聞き取れなくなる。とりあえず周囲を確認することにした。
「あの屋根の上に何かいるようですね」
蒼牙は民家の屋根の上で黒い影を発見する。その影は確かにトラツグミのような鳴き声を上げていた。
「件のキメラに間違いない」
フェンリスもキメラの姿を認め、戦闘状態へと移行する。
「こちらにももう一体。どうやら、おびき寄せられたみたいですね」
蒼牙とフェンリスが見ている屋根の上とは、正反対の屋根にも黒い影が見える。先ほどからノイズを発する無線機は、この事を伝えようとしていたのだろうか。
その頃、二班は少年と少女を発見し保護していた。
「二人はどうしてこんな場所にいるのかな?」
ティムは出来るだけ優しく微笑みながら、二人の子供に訊ねる。少女はオドオドしており、どうやら少年に連れてこられただけのようであった。
「化物を見ようと思って」
そんな無茶な事を言う少年をティムが諭している間に、蓮角が無線機で連絡を取る。
「こちら、二班。子供を二人保護しました」
だが、無線機から応答はない。蓮角が首を傾げるとKodyも無線機を取り出すと、連絡を取ろうと試みる。
「こっちは二班だ。応答を頼む!」
沈黙を保っていた無線機からノイズが聞こえてきた。先程、影を発見したという連絡があった後、交戦したという連絡は来ていない。一体何が起こっているというのだろうか。
「お、おねぇさん! あ、アレ!」
少年が恐怖の表情でティムの背後を指さす。そこには、こちらに襲い掛かる黒い影があった。
二班が子供を発見する少し前、向かいの屋根にもう一匹のキメラがいる事を伝えようと、真夜が無線機に向かって叫んでいた。だが、無線機はノイズを放つだけで連絡が取れない。
「いました! 発見ですー!!」
「おかしいですね。先ほどまで、こんなノイズは聞こえませんでしたのに‥‥」
無線機に集中する二人の背後に忍び寄る黒い影があった。
●正体不明のキメラ
キメラの影に挟まれた一班のメンバー達。蒼牙は先制攻撃とばかりに、【OR】苦無を投げ付ける。
「そこだ!」
苦無がキメラに命中したのか、サルのような気味の悪い悲鳴が聞こえてきた。
空は屋根に飛び乗り、反対側のキメラへと迫る。近づくとその姿がはっきりと見えてきた。サルの顔にタヌキの体、トラの手足にヘビの尾。複数の動物が合成されたキメラであった。その姿は、妖怪のヌエによく似ている。
「本当に正体不明とは!」
抜身のラジエルを正体不明のキメラへ向かって振るう。その素早い斬撃は一瞬にしてキメラをバラバラに斬り裂いた。バラバラになったキメラは、何の死体なのかまるで分からない。
残りのキメラは傭兵達に近づくと、蒼牙に向けて口から雷の息を吐き出す。
「そういえば、雷に打たれた被害者がいたんだったな!」
雷に耐えながら、蒼牙はそう呟く。
「吹雪、大丈夫か」
フェンリスは蒼牙に錬成治療を行い、傷を癒す。その効果は雷で受けたダメージを完全に治療してしまった。
「敵捕捉。補助に、徹する」
キメラに向き直ったフェンリスは錬成弱体によって、キメラの能力を低下させる。
その間に空は屋根から屋根へと飛び移り、キメラに接近する。そして、ラジエルで斬りつけた。キメラは爪と雷で反撃を試みるが、空にあっさりと避けられてしまう。そして、蒼牙にも雷を吐くが今度は避けられてしまった。
蒼牙も屋根の上に飛び上がると、二刀へと持ち替えそのまま刀を振るう。
「これで終わりだな」
止めを刺されたキメラはピクリとも動かなくなる。それと同時に、無線機から仲間の声が聞こえるようになった。
「キメラの雷が無線を妨害していたようだ」
ノイズの正体はキメラが発する電磁波のようであった。
そして、無線機に向けて無事であることを伝える。
子供を保護した二班は背後からキメラに襲われる形になってしまった。ティムはとっさに覚醒しボディーガードを使用。身を挺して子供を守る。
「大丈夫ですよ。わたしが守りますから!」
キメラの爪を受けて、多少ダメージを貰ったもののたいしたことは無い。盾と武器、体を大きく使って敵の進路と視界を塞いだ。
キメラは暴れまわり、周囲に雷の息を吐き出す。
「やってくれるぜ」
「不覚っ! もう、あんな思いは御免だ!」
キメラの近くにいたKodyと蓮角は雷の攻撃を受けてしまった。
Kodyは砕天でキメラを殴りつけるが、思った以上に生命力があるようであった。
「アウゲイアスでぶった切った方がいいようだな!」
アウゲイアスへと持ち替えたKodyは巨大な剣を振り下ろし、大ダメージを与える。
「行くぞ‥‥!」
蓮角は抜刀するとキメラを幾度も斬り付け、止めに豪破斬撃を使用する。
「止めだ!」
赤く輝く風火輪をキメラに叩き込む。強烈な一撃はキメラの頭部を潰した。
子供たちは激しい戦闘を目の当たりにして、かなり怯えている様子だった。少女に至っては、既に涙目である。
「キメラは倒したから、もう安心だよ。それと、俺はお兄さんですから」
覚醒を解いたティムは若干苦笑いを浮かべて、子供たちに語りかける。その変化に子供たちは訳が分からず、茫然としていた。
子供を保護した旨を伝える為、無線機を操作すると今度は仲間の声が聞こえてきた。
繋がらない通信機に気を取られる別働班。その背後からキメラが接近するのをいち早く察知した真夜は、距離を取るとベルゼブブに矢を番える。
「リュティアさん! 後ろに敵ですよっ!!」
真夜はリュティアに注意を促すと、すぐにキメラへ向けて矢を放つ。矢が命中すると、キメラは悲鳴を上げて少し怯んだ。
だが、すぐに態勢を整えると、近くにいるリュティアへ爪で攻撃を仕掛け、雷を吐きだしてきた。
「雷の攻撃は予測済みです」
炎の属性を纏ったメイド服のお蔭で、雷の攻撃を防ぐことができた。
リュティアは一時距離を取ると、雷遁でダメージを与える。弱ってきたキメラに対して呼吸を整え、武器を持ち替えた。
「参ります‥‥死の舞踏(ダンスマカブル)!」
迅雷でキメラの背後へと回ると、円閃を乗せた二連撃をキメラに打ち込む。それは本当に踊っているかのような優雅ささえ感じさせた。そして、リュティアの舞踏が終わる頃にはキメラは絶命していた。
「うーん、他にもいるかも?」
真夜は他にもキメラがいないか、きょろきょろとしながら周囲を見渡す。だが、あのキメラは何処にも見当たらない。
「ノイズが消えましたわ」
リュティアは仲間の安否を確認する為、無線機に呼びかけた。
傭兵達がそれぞれの状況を確認し終える頃には、町全体に響いていたトラツグミの声は消えていた。
●化物のいなくなった町で
傭兵達はキメラとの戦いを終えたが、まだ別のキメラがいるかもしれないと探索の手を休める事は無かった。
ティムは子供達を避難所である講堂へと送り届けると、再び探索に加わった。
日が昇るまで探索を続けたが、キメラを発見する事は無かった。あの不気味な鳴き声も消えたので、恐らく全てのキメラを退治したのであろう。
傭兵達は講堂へ赴き、依頼主である町の代表者にその旨を伝えた。
「まさか、そんなキメラがいるとは‥‥。この度は本当にありがとうございました!」
代表者の言葉に呼応するように、講堂中から歓声が上がる。正体不明のキメラはよほど町の人々に不安と恐怖を与えていたようだった。
傭兵達は感謝の言葉を受けながら、後片付けを手伝う。大きな荷物を運ぶ人達もいて、人手が必要だった。
「俺には、このぐらいしかできませんから‥‥」
蓮角はキメラが暴れた事によって壊れた屋根の修理を引き受けていた。
「後片付けは、私にお任せ下さい」
一夜とはいえ、随分と大勢の人間が集まった講堂は、随分と散らかっていた。リュティアはその掃除を喜んで引き受けていた。
傭兵達の活躍によって、町には以前と同じ平穏が戻ってきたのであった。